※一部とても痛々しい表現があります。
いや、私がそう思っているだけでそうじゃないかもです。
でも怪我とか自傷行為が苦手な人は見ないでください
そしてあけましておめでとうございます!
新年一発目がこんな注意書きってどうなんでしょう。
もう帰れない、日本の自分の家。
ユリは蹲り、胸の痛みに耐えていたが。ゆっくりとたちあがる。
「……帰んないと……。」
辺りを見渡す。ここが現実でないことはわかっているのだから、どうにか抜け出さないといけない。
そんなユリを引き止めるように、ユリの兄はその手をぎゅっと掴んだ。
「ユリ。」
ユリはひゅっと息を飲む。それは確かに兄の笑顔だった。
「ユリ。」
姉はユリに、優しく手を伸ばした。
家族はいつだって、ユリを心配していた。優しい人達だった。みんなユリの心配をしていた。自分のことよりも末の子であるユリを気遣うような人達だった。大好きだった。
姉は手を伸ばしてくる。兄は微笑む。両親はユリを待っている。ユリは唇を噛む。そっちに、行ってしまいたい。
「どうしたの?悪い夢でも見たの?」
「え……あ……、」
ずっとずっと、思っていた。夢だったらいいのになって。
日本であったこと全部。一人きりの家も、置いていかれる感覚も。劣等感もコンプレックスも。
お母さんとの話し合いも、帰ってこないお兄おにおにいちゃんとお姉ちゃんも、びびび、びびょうい?んんんんんのににおいも、点そばにいてててきのはり置いてかないでりりも、お父ささん とと 助けておかぁ。ぁあ?あさんが泣泣泣?て私を 抱きし?て泣。いていいい、いるる ことも。私の手がただ震。寂しいえ震行かないでえ震えるだり ?けのこと。も。
お姉ちゃんが病院で寝ていることも。
…………全部、ただの悪い夢であったら良かったのに。
……………………。
「…………忘れちゃダメ。」
忘れちゃいけない。
私はもう、帰れない。
ユリは兄の言葉を無視して、辺りを見渡す。感覚も視界もハッキリしている、リアルな空間。
これはアブノーマリティの力なのだろうか。でもそもそもどうやってここに来たんだっけ?思い出す。たしかそう、アブノーマリティの前で、ダニーが倒れたのだ。ダニーさんは収容室内のアブノーマリティを、何かと見間違えたのか慌てて走った。止めようとしたけど間に合わなくて、ダニーさんに駆け寄って、私も収容室の中に入って。ユリは頭を抱える。ええと、ええと。その後、どうなったんだっけ。
「どうして……悪夢を求めるんだ?」
兄の口が動く。
「え、」
「わかんない、わかんない。貴方のその感情、わかんない。好きなのに辛くてでも帰りたいのに帰っても苦しくてなのにやっぱり帰りたくてよくわかんない。」
「そ、それは。」
突然まくし立てられるような言われて、その異様さにユリは恐怖を感じた。思わず数歩後ずさりする。
急に、何を言っているのか。兄の姿をした何かが私のことをじっと見つめる。「好きなんでしょ?」違う。貴方は兄ではない。「好きなんだよね?」貴方も姉ではない。「「でも悲しいの?」」やめて。「もうやめてよ?って?なんで?」「会いたくないの?」「帰っても辛いの?」「帰りたくない?」「好きで」「好きなんだよね?」「大切で」「大切で」「だから悲しくて辛くてそばにいてそばにいてそばにいて一人にしないで置いてかないで私だって家族なのに家族なのに家族なのに家族なのに家族なのに私だって私だって私だって私だって私だって」
「〝縺ソ繧薙↑螟ァ縺」雖後>〟?」
その言葉にユリはカッと体が熱くなるのを感じた。
「人の心を読まないでよ!!」
思わず叫んだ。手を振りかぶる。反射的に叩こうとした。でも、上手くいかなかった。ユリは人なんて叩いたこと無かったから。
「ひっ……ぐ、…………うぇぇぇん……っ、」
色んな感情が喉まで出てきたが、そのどれもが上手く形にできない。言葉よりも先に心が動いて、胸のところが痛くて仕方がない。
涙が溢れてくる。酷い、酷いよ。なんでそんな事言うの?私ちゃんと、ずっと、ちゃんとずっと
ユリは家族の姿をした何かを睨んだが、睨むだけで結局何も言えなかった。そして家族たちに背を向けた。こんな所にいられない。早く、帰らないと。
「貴方を食べるつもりはないのに……」
「え、」
気がつくと、椅子に座っている。
「……え?え??」
え?と、ユリは訳が分からなかった。本当に、一瞬でユリは知らない間に椅子に座っていた。番組がパッとコマーシャルに切り替わるように、時間が切り取られたように。
真っ暗な空間で、いや真っ白で、いや、青空で、やっぱり真っ暗な場所に、ユリは金色の装飾をされた椅子に、木製の椅子に、パイプ椅子に、やっぱり綺麗に装飾された金の椅子に座っている。
椅子はテーブルの前にある。同じように装飾された、いや木の、いやいややっぱりそれは。そしてテーブルにはランチョンマットと、いやそれは直で、いややっぱり。
そしてその上に白い、赤い、黒い、木の、陶器の皿。そして並べられた……ナイフと、フォークと、スプーンと、箸と、トングと、いや、それ銀で、メッキで、木で、それらのカトラリー。
「ぅ…………。」
わからない。認識が出来ない。
ただハッキリしているのは、皿の上に乗っているもの。ユリの皿には何も乗っていないけれど、ユリの向かい側に座るその人の皿にはたくさんの肉が乗っている。
そう、ユリ以外に、人がいる。誰か、よく分からない。男にも女にも、子供にも老人にも見えた。
上品な食卓というのに、その人皿の上は乱雑に肉が積まれているだけ。
その人が口を開く。「コケッ」。ユリは数度瞬きをした。
「あ……。」
「ケッ、ケッ、コケッ。」
人じゃない。
……鶏がいる。
鶏、なのだろうか。
椅子に座ってなお、自分よりも一回り大きいそれを、ユリは鶏と言っていいか分からなかった。ただ、確かにその頭は鶏に見える。赤い立派なトサカと赤く垂れる首皮はニワトリに見える。
しかし胴体は、ニワトリと言うよりもダチョウだ。力強さを感じる長い足に、長く伸びる首。首の部分は薄紫の地肌が見えるのに、胴体の部分は白い羽根でおおわれて服を着ているようにも見える。
「ゴケッ、コケッ」
「………………?」
鶏は自分の皿の肉を、ユリの皿に渡した。
ニワトリの手で、器用にフォークを使って差し出されたそれは生肉に見えるが、ところどころ加工されているようにもみえる。ローストビーフのような料理なのだろうか。それにしては赤身は見えない。
「くれ……るの?」
「クェェッエッ、コケッ」
ユリは肉を見つめる。これを食べろってこと?
促されてユリはフォークを手に取るが、正直怪しすぎて食べる気はしなかった。しかし鶏はユリが食べるのを待ち、じっと視線をこちらにやっている。
これ、何のお肉だろう……?ユリは顔をしかめる。怪しすぎる。あれ?でもよく考えたら、んん?なんか、このお肉知ってるかもしれない。馴染み深い……でも、牛でも豚でもなくて……えっと、今朝もみた気がするんだよな。どこで見たんだっけ?
あ、そうだこれ。
「ひっ、」
ユリは思わずフォークをおとした。
「ダニーさん!?」
ユリは鶏の方を見る。そして青ざめた。よく見たらその皿に乗っているのは、小人サイズの人間たち。エージェントだ。全部エージェントの服を着ている!なのになんで、わかんなかったの私!!
よく見たら鶏の皿の周りには、破り捨てられたエージェント達の服が沢山あった。果物の皮のようにぐちゃぐちゃに剥ぎとられている。そしてその中に薄汚れたの何か。それも今なら認識ができる。それも、全部、人、だ。
「だめっ!!」
ユリは咄嗟に、その皿を奪った。
ドサドサッ。数人がテーブルの上に零れてしまう。
「あっ、」
「コケケケケケケケ!!」
「っ……!」
一瞬それに意識を奪われるも、ユリは直ぐにその皿を抱えて走り出す。テーブルとは反対方向。ただただ続く黒の中を、ユリは必死に足を動かしていく。
「コケッ!ケーッ!!ユリ!!ユリなにしてるの!ケッ!悪い子!止まりなさい!ケッケッ、止まれ!この役たたず!!行くな!行かないでユリ!!馬鹿馬鹿!!お前なんて!行かないで!ユリちゃんやだやだいかないで!こっちおいで!おかえりおかえりおかえりなさい!!」
「っ、誰かっ……!!」
恐怖で足がすくむ。怖い。怖くて仕方がない。でもそれを気にする暇がない。後ろから足音が聞こえる。それは大勢のようで、一人のようで、人ではないようで、もう訳が分からない。でも確かに追いかけられている!!
「たすっ、け、助けてっ、」
上手く息ができない。足が動かない。泥に足を取られる。それは赤くて、青くて、黒くて。あぁ!!
怖い!!助けて!!怖い!!誰かっ、誰か誰かっ!!
「助けっ、ぅ、っ、オーケストラさ、たすっ、助けて!!」
その名前が出たのは、反射的なものもあった。
パッと出てきたその名前をユリは必死に叫ぶ。「オ、オーケ、ごほっ、」けれど走りながらのせいで、上手く大きな声にならない。どうしよう。こんなんじゃ届かないってわかってるのに。叫ぶと呼吸が乱れて、足が遅くなる。でもこのままじゃ捕まっちゃう。捕まったら、捕まったらどうなるの。「助けっ、助け、」もう一度名前を呼ぼうとした。今度こそ、届いてと。
──────大丈夫。十分、きこえましたよ。
「……えっ。」
するり、するり。黒いカーテンを上品に避けるように。霧の中から現れるように。するり、と。静かに目の前に現れたのは。
「オーケストラさん……!?」
現れた、人形の彼。いつも通りの姿。1本足のマネキンに、白と黒の燕尾服を着たその姿にユリは驚いた。そしてその次に来た感情は。
「オーケストラさんっ……!」
深い安堵。ユリはうるっと涙が込み上げた。
静かなオーケストラの体の後ろに、ユリはサッと隠れる。奪ったエージェント達を皿ごと抱きしめて、必死に離さないようにした。手が震えている。足もだ。さっきまで走っていたのが嘘のように震えて使い物にならない。
「コケケケ!ユリちゃん!お母さんよ!ねぇどうしたの!!こっちにおいで!ユリ!」
──────嫌がる女性を追いかけるなど、紳士ではありませんね。
「コケッコケッ!ユリちゃん!コケッ!怖くないから出ておいで、大丈夫よ。ユリ!出てきなさい!いい子だから!役たたずね!出てきて!大丈夫!コケコケっ!」
──────ユリさん。耳を塞いでください。
静かなオーケストラに言われた通りに。ユリはしゃがんでエージェントの皿を膝に抱えながら耳を強く手で塞いだ。それでも微かに何か鳴き声のようなものは聞こえる。うるさく、それはユリをよんでいる。
その声を遮るのは、脳に響く静かなオーケストラの声。
──────お前に聞かせる音楽はない。
ハッキリとした、強い口調で静かなオーケストラは言った。
ぎゃぁぁぁぁぁっ!!突然大きな悲鳴が聞こえる。悲鳴なのだろうか。鳴き声、苦しんでいるような?違う。何も聞こえないような。上手く認識ができない。
何か、本能が警告する。ユリは強く強く目を瞑った。なんだか今この瞬間の状況をハッキリ理解したら。二度と正気に戻れないような気がしたのだ。
悲鳴が聞こえる。ような、気がする。
その声が、ぐるぐると脳を揺さぶり、そしたらなんだか本当に回っているような、そんな感覚が…………
「…………………………。」
そして気が付かないうちにユリは意識を手放す。
深い深い眠りの底。ゆっくりと沈んでいくユリを、誰かの手がそっとすくいあげた。
※※※
値段は普通。でも提供は早い。味は日による。
それがダニーからした、この店の総評である。
雑多に並んだ椅子とテーブル。そのうちの四人席にダニーとスグルは座り、手を挙げてウェイトレスを呼ぶ。
Tシャツにジーンズ。その上にエプロンをつけただけの中年の女性は、慣れたように注文を聞いていく。愛想はなく、笑顔どころか視線をこちらに向けず伝票を書いていくその姿勢はもはや見事で。
普通ならこんな接客では渡さないチップを、今日もダニーとスグルは渡す。暗黙のルールで、チップを渡せば水を一杯サービスしてくれるのである。
「ダニー今日も同じの?つまんねーの。」
「スグルもいっつも本日のオススメだろ?あれただの余った食材で出来た適当なやつってわかってるくせに。」
「美味い時はめちゃくちゃ美味いから、一種の博打。」
「この店でいちばん美味いのは絶対にハンバーガープレートだね。」
「それだってハンバーグ冷凍じゃん。」
店の中と言うのに二人は遠慮もなくそんな話をする。しかしウェイトレスは全く気にする様子はなく、暇そうにあくびをしたあと、自前らしい週刊誌を読み始める。
冴えない飲食店。特別安いわけでも立地がいい訳でもないここはいつも空いていて、二人はここの常連だった。
立地がいい訳では無いと言ったが、それは一般的にであり、ロボトミーコーポレーションには近い為、帰りに寄るのにちょうど良かったのである。
いつも空いているため雑談もしやすいし、店員のやる気のなさから変に気を使うこともない。スグルもダニーも、ここを気に入っていた。
「そういえばさ、見てよこれ。」
「うわ、スグルそれまだ集めてんの……?」
スグルの見せてきたそれは、スタンプカード。ヨレヨレだけれどそれは彼の管理が悪い訳ではなく、渡された時からそうだったのである。
「あと5ポイントで、俺たち30回ここ来てるんだぞ。ヤバくない?」
「俺のポイントもやってるから、正確にはその半分くらいだ。」
「あーそうか。でもさ、すごくない?これ本当にあつめきれそうなの、俺が初めてなんじゃないかな。」
「ちがいない。豪華賞品は新しいスタンプカードじゃねーの?」
「えぇ、なら俺今度は綺麗な紙を希望するわ。」
ケタケタと二人は笑い合う。皮肉の混じった、決していい客とは言えない会話をしても、ウェイトレスは気にしない。それよりもミュージシャンのインタビュー記事が気になるようだ。
「てか、暑くね?スグルよく長袖シャツで我慢できるよな。」
「袖まくってるし。でもここのエアコン、ボロいよなぁ。すみませーん。温度下げてもいいですか?」
「10度で頼むわ。」
「凍死したいのかな?」
ぴ、ぴ。と。スグルはエアコンの温度を上げる。
「そういえばさ、新しいアブノーマリティ、見た?」
「え、知らん。てかオフまで化け物の話したくない。」
「一応仕事終わりなんですけどダニーさん?まぁまぁ、なんか変なの来たんだよ。ツギハギの犬みたいなやつ。」
「へー、でかい?」
「うーん、人間一人分……くらいかな、」
「あぁ……ならまぁ小さい方か。」
「多分ちんちんしたら三人分位になるけど。」
「でっっっっっっか。」
ダニーはうげっ、と嫌そうな顔をする。
「どうか逃げないでくれたのむ……。」
「いや、マジでそれな。あ、これ以上エアコン上がんねぇ。」
「何度?」
「35度。」
スグルはリモコンを元あったように、雑にカウンターに置いた。その時目に映った窓は、結露で白くなっていて。
ダニーもスグルの視線を追いかけて、その景色を見る。
「もう、冬だな。」
ダニーはどうでもいいことのように言った。
実際、本当にどうでもよかったのだ。
「今更すぎないか?とっくに寒波来てるじゃん。」
「は?まだまだこれから寒くなるぞ?」
「アメリカの冬、怖!!」
そんな会話をしていると、ウェイトレスが注文した料理を持ってくる。冷凍肉のハンバーガーと、本日のおすすめ、豆とチキンの塊をトマトソースで似たやつ。それ絶対、クリスマス・ローストチキンの残りじゃんとダニーは笑う。
スグルはフォークでそのチキンを刺してトマトソースから取り出す。チキンの真ん中は何やら線があって、トマトソースを振り払うように震えた。線はくぱっと開き、目玉がぎょろっと出てくる。
「ゴケッ、」
しゃがれた声でチキンが鳴くと、ダニーはうっ、と頭を抑えた。「ダニー?」スグルが心配したように呼ぶ。返事をしなければいけないのに、頭が痛くて声が出ない。
「ゴケッ、ゴケケケッ」
チキンはご機嫌ななめに騒ぎ出す。不機嫌に、八つ当たりのようにブルブルと震えてトマトソースをダニーの服にかけた。
けれどダニーはそれどころでは無い。痛い。頭が痛いのだ。「おい!」ダニーの体をスグルがゆする。「おいダニー!しっかりしろ!!」頭痛を我慢して顔を上げると、スグルは眉間に皺を寄せていた。
「おい、動けるか?つーか動け。死ぬぞ。」
「は……?」
スグルはダニーの体を無理やりに起こす。いつの間にかダニーはロボトミーコーポレーションの廊下で倒れていたようだ。
なにがあったか……よく、思い出せない。
ダニーはやはり頭が痛そうに額に手を当てるが、スグルはそんなことお構い無しにとんでもないことを言った。「いいか、ダニー。」
「静かなオーケストラが逃げ出した。」
「………はぁ!?」
叫ぶダニーの手を無理やりに開かせて、何かを握らせる。見るとその手には長い竹串と麻酔の入ったアンプル瓶。ダニーはそれを見て目を見開き、ひゅっ、と息を飲んだ。
「え、え、えぇ……?マ、マジのやつじゃん……。マジで逃げてんじゃん……。」
「こんな笑えねぇ嘘つかねぇよ。ほら早く。」
ダラッ、とダニーの体に嫌な汗が垂れる。口の中に溜まるドロドロの唾液ごくりと飲んだ後、ダニーは深く息を吸って、はぁぁぁぁぁぁ、とため息ついでに吐いた。
最悪だ。最悪すぎる。パニックになりそうなのを必死に落ち着かせる。今この場でパニックなんかになったら、二度と正気に戻れないとダニーはわかっていた。
「このままだと俺もお前も死ぬ。ほら早くしろって!」
「わかったよ!!」
それなのにスグルはダニーの恐怖を煽るようなことを言うので、ダニーはチッ!!と勢いよく舌打ちをした。
パキッ。ダニーはアンプル瓶の先端を指で弾いて開ける。そしてやけくそにその中身を自分の耳に注いだ。耳の中が籠る感覚。雑な麻酔に鼻までツンとする。痛い。気持ち悪い。一気に来る目眩に負けないように、自分の耳に竹串をいれて。
そして、思いっきり。──────耳の奥に押し込む!
ぶつっ、!
「ーーーっっっっ!!」
…………麻酔が効き切ってないせいで、まだ痛みがあった。
震える手で竹串を引き抜くと、先っぽに血が垂れている。その赤すら視界がぶれてよくわからない。グラグラ、グラグラ。世界が回る。倒れそうになるも、そんな場合ではないとダニーはさっさともう片方の耳にも竹串をぶち込んだ。ぶちんっ、!
「ぅっぐ、うぇぇっ………ぁ……っ……、」
……鼓膜は再生するとはいえ、麻酔が切れた時の痛みは地獄。というか、本当に再生すると信じていいのか。
やり方が悪ければ、二度と音は聞けないかもしれない。それだけじゃなくて、耳の神経がやられたら三半規管もやられるので下手したらまともに歩けなくなる。
でも……鼓膜を破らないと死んでしまう。
自分で鼓膜破るのと、静かなオーケストラの演奏で脳みそが破裂するのとどっちがいい?
そう聞かれて、ダニーは前者を選んだ。
死ぬかもしれないのと死ぬのどっちがいい?
そう聞かれるのと同じ。ただ、それだけの話。
【作者からお願い】
麻酔これだと効かないとか知ってる方いたら教えてください。
調べたら鼓膜に麻酔をチューブで入れるみたいなのあってわんちゃんいけるかと思って書いたんですけど
如何せん私医療全然知らない一般人なので
麻酔に詳しい方いたら教えてください…。麻酔知識浅くて不自然だったらすみません…。