海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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【五】優秀な管理人と、その相棒_1

ダニーさんは再び耳に着いたインカムで誰かと話している。

この隙に帰っちゃ駄目かな、と一瞬考えはしたがスーツケースがないのだからどうしようもない。

私はガックリと肩を落とした。その時の体の重さが疲れを物語っていて。

帰ったら直ぐに寝ようと決意した。もうお風呂は明日入る。ご飯もゼリーかなんかでいいや。

「ユリさん、管理人……この施設の責任者がユリさんとお話したいそうなので、案内します。」

「責任者っ!?」

 

責任者、責任者って、まさかロボトミーコーポレーションのトップってこと!?世界を代表するエネルギー会社だよねここ!?同名の別会社じゃあないよね!?

そこのトップってどれだけの地位がある人なんだ。私の上司じゃないにしても出来ればお会いしたくない!!怖い!!緊張する!!

 

嫌だ!嫌だよ!!嫌だぁっ!!

 

……と、首を振っても無理やり引きずっていくのがこの男、ダニーさんである。

腕を掴まれ引っ張られて。私一応女性なのに全然丁寧に扱ってくれない。酷い。

この数時間関わってわかった。ダニーさん絶対にサドだ。人をいじめて喜ぶタイプの人だ。

というか私。ちゃんと家に帰して貰える?

 

廊下を歩きながら、ふと湧き上がる不安。

鳥といい、人形といい。この数時間でだいぶ知ってはいけないことを知った気が。

いやでも、それならまずこんな所に連れてくるなという話で。そう、私悪くない。悪くないと思う。

嫌な予感にだらりと冷や汗が。どんどんどんどん体が冷たくなっていくのがわかる。

 

わ、悪くないよね……?

鳥拾っちゃったのは私だけど、くっついてきたのはあの子からだし……。

可愛い可愛いって撫でたのは私からだけど……それはあの子が可愛かったせいだし……。

人形の件だって、確かに私に会いたくてあんなことしてたらしいけど。

でも私、何もしてないし!!ただダニーさんについて行ったら、何故かあの人形が私のこと気がついただけだし!!

悪くないよね……?うぅ……。

 

最初、あの鳥がそんな凶暴だなんて思ってなくて。

この会社の鳥だなんてわからなかったし、迎えに来た人達にすぐ返そうとした。だからそこは、許して欲しい。

お人形の事は、私は本当になんでああなったかわからない。

他の人が大変な目にあったこと。確かにそれは気の毒で、私に会うためにあの人形がしていたとなると申し訳ない気持ちはないことは無いけど。

そもそもここに連れてこられなければこんなことになっていない。

 

「着きました。こちらです。」

 

そうこう考えているうちにたどり着いた場所。

重そうな扉。ずっしりと佇むそれは頑丈で、どこか高級感のある。

扉には金のプレートで〝Administrator's room(管理人室)〟と書かれていて。いかにも偉い人の部屋だという雰囲気が私をより不安にさせた。

 

お願い。お願いします。どうか優しい人でありますように!!

怖い人じゃありませんように……っ!!

 

トントン、ダニーさんが扉をノックする。私はゴクリと息を呑んだ。

「ダニーです。お客様をお連れしました。」

「どうぞ、入って。」

 

ついに開く扉。ロボトミーコーポレーショントップとの対面。

ダニーさんがドアノブに手をかける。私は緊張に唇を噛んだ。

 

「失礼します。」

 

開いた先にいたのは─────、

 

「わー!!直接会うの久しぶりだね、ダニー君!」

「えっ、」

「お久しぶりです、管理人。」

「えー、名前で呼んでほしいな。堅苦しいの好きじゃあないし……。」

「……呼びません。絶対に。仕事なので。」

「相変わらずだなぁ。」

 

二十代位の、若い男性が満面の笑みでこちらに駆け寄ってきた。

男性は嬉しそうにダニーさんの顔を覗き込むが、それに対しダニーさんの表情がとても固い。温度差がすごい。

 

な、なんか。思っていたのと違う。

 

まず、もっと歳上の人だと思ってた。こんな大企業の上の人なんだし。

あともっと、怖い人だと思ってた。いや怖い人じゃないように願ってたけど、もっとこう……貫禄ある人というか。

男性はダニーさんの後ろの私に気がついたようで。にっこりと人のいい笑みを向けられる。

顔立ち的に、日本人なのだろうか。少なくともアジアの血は入っていると思う。そんな男性の笑顔は親近感を感じて。

「クロイさんだね。ダニー君から聞いたよ。今回の件、本当にありがとう。」

「え?私、苗字言いましたっけ……?」

「あれ、アンジェラに聞いたんだけど、」

「アンジェラ……?」

 

男性はくるっと振り返って部屋の奥を見る。

そこには大画面のモニターと、複数の小さなモニターが並んでいて。

その横にスーツの女性が立っている。

思わず目が奪われる。あまりに、あまりに綺麗な人だったから。

アリスブルーの、透き通った髪に真っ白な肌。日本人にとって目鼻立ちがくっきりした欧米の顔は魅力的だけれど。

そういうのを抜きにしても、すごく綺麗な人なのだと思う。まるで、人形のように整った顔立ち。

しかし気になるのは、その人の目はぴったりと閉じられていること。もしかして目が見えないのだろうか。

 

「初めまして。ユリ・クロイさんですね。」

 

女性が口を開く。声までとても綺麗。聞き取りやすい滑舌に、よく通る、女性らしい声だ。

「は、はい……。あの、なんで私の名前を?」

「スーツケースの名札に書いてありましたよ。」

「あっ。」

 

成程。それなら納得である。

預けたスーツケースに、確かに名札をつけた。飛行機に乗っている間は預けないといけないので、受け取る時間違えないように名札を付けておいたのだ。

それを見られたのか。

 

あれ?

 

「でも私、日本語で書きました。日本語読めるんですか?」

 

ローマ字で書くと誰にでも読めてしまうから、日本語で書くようにした方がいい。そうネットで読んだので平仮名で書いたのに。

男性はまだしも、女性は確実に日本人ではない。それなのによく分かったものだ。

 

「……私は、AIなので。」

「へ?」

 

AI?AIってあの、人口知能?

「あはは、ジョークですか?」

「いえ。本当にAIです。」

 

いや、そんなわけないだろう。目の前に立っていて何を言っているのか。

けれどその表情にふざけている様子はなく。もしかしたら少し不思議な人なのかもしれない。

 

「ユリさん、あれ本当ですよ。」

「……ダニーさん、私そんな嘘に騙されませんよ。」

 

女性の言葉にダニーさんまで乗っかってくる。なんなんだ二人して。そんなわかりきった嘘に騙されるわけないだろう。

だって目の前にいて、こんなに自然に話していて。それが全て人工的に作られたものなんて……。本当に?

「……ほ、本当に?本当にAIなんですか?嘘ですよね?、ね?」

「この見た目は三次元映像です。立体に表示してるだけの映像ですよ。」

 

私にそれを証明するためか、女性はこちらに向かってくる。一歩一歩確かに歩いているのに、足音が全くしていない。

 

「嘘……。」

「この通りです。」

 

そして私の近くまできて、その手を伸ばして来た。

細い指は私の顔に触れるはずなのに。するりと通り抜けてしまう。

信じられない。私は彼女を凝視する。

こんなに近くても、すごくリアルなのに。本当にこの人、ただの映像なのだ。

「この会社って、何でもありすぎませんか……。」

 

人を襲う凶暴な鳥、話しかけてくる人形。その次は信じられないくらいリアルなAI。

 

今日って、なんなの?なんでこんなてんこ盛りなの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな鳥は、黒い木にとまってじっと扉の方を見つめている。

施設の外まで出たのは今日が初めてだったが、この鳥は非常に脱走しやすく廊下をよく飛び回っていた。

それなのに今日はもう大人しい。まるで置物のようにただとまっているだけ。

 

まるで何かを待っているかのように。

『いい子だから帰ろうね。』

 

鳥は静かに待っている。

いい子にしていたら、また会えるかもしれない。

 

 

 

 

むかしむかし、木々のたくさん生えた温かい森に、3羽の鳥がいました。

鳥たちは森の中で幸せに暮らしていました。

 

 

鳥たちはこのまま森がずっと居心地のよい場所であり続けてほしいと思っていました。

 

けれどある時森に預言者がやって来て、こう言ったのです。

 

『 やがてこの森に悲劇が訪れるだろう。

森は悪行と罪に染まり、争いが絶えぬだろう。

悲劇が終わるときは恐ろしい怪物が森に現れ、すべてを飲み込んだ時だ。

二度と森に太陽と月は昇らぬ。森は決して元の姿になることはないだろう。』

 

この予言を聞いた鳥たちはひどく悩みました。

 

 

ギィ、ギィ、

 

 

三羽の鳥たちは自分たちが森の番人になることにしました。

森を誰よりも愛しているので、森にいる仲間たちを守り、森の平和も守ろうと思ったからです。

 

 

大きな鳥はじっとどこかを見ている。それは四十二以上の目を持っている。

鳥はその目を閉じることが出来ない。護らなければいけないから。見逃さないようにちゃんと監視して。そう、護らなければいけない。

大切なものが傷つかないように、痛い思いをしないように。

 

護らないと。護らないと。護らないと。

 

大きな鳥は、今日誰かを見つけた。

 

ギィ、ギィ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、私はこれで失礼します。」

「えっ、ダニーさん行っちゃうんですか?」

「私はあまりこの場に長居できないもので。」

 

ダニーさんはそう言うと踵を返し、出ていこうとする。

その背中に責任者の男性は「今度ご飯に行こうね!」と声をかけるが、聞こえてないのか無視をしているのかダニーさんはなんの反応もせずに出ていってしまった。

 

「……管理する立場として、エージェントとの交流は最小限にと伝えたはずです。」

「ダニー君は友達だよ!」

「元、でしょう。部署異動する前に交流があったからといってそれがずっと付き合いの続く仲とは限りませんよ。会いたいと思っているのは自分だけという話は、珍しくありません。」

「そういう心を抉るようなこと言うの止めろ!?」

 

明らかにショックを受けている男の人を見て不憫に思ってしまった。私も心に刺さるところがある。

女性の言葉は毒舌かつ正論。それを淡々と言えるあたりがさすがAIということか。

二人のやりとりになんて反応すればいいかわからないまま、置いてぼりの私。立ち尽くしていると女性が話しかけてきた。

 

「騒がしくて申し訳ございません。奥にどうぞ。飲み物は紅茶とコーヒーどちらがよろしいですか?それとも緑茶の方がよろしいでしょうか?」

「お、お構いなく。私なんでも飲めますので……。」

「ではお菓子に合う紅茶にいたしましょうか。ほら、落ち込んでいないでお客様にお茶を用意してください。鬱陶しいですよ。」

「いつも思うけど、アンジェラ俺の扱い酷くない?」

「?、私はいつも貴方のことを思って行動していますが。」

「……もういい。お茶持ってくるわ。クロイさん、ちょっと待っててね。」

 

男性は諦めたようにため息をついて部屋を出ていく。

私は女性に案内され、奥に進んだ。パーテーションで区切られた応接スペース。

大画面モニターがメインの部屋、その隅にとって付けられたようなそこはあまり使われていないのかやけに綺麗で。

革張りのソファが二つに、テーブルひとつ。上座に座るが座りにくい。低反発でしっかり沈むお尻。しかしツルツルすぎて滑る。滑り台みたいだ。意識しないと落ちてしまいそう。居心地の悪い。

対面の下座に女性は座るが、やはり映像。あくまでも座るフリであって、ソファは沈んでいなかった。

 

「お待たせー。クロイさんケーキ食べれる?クッキーとかチョコの方が良かった?」

「ケーキ、」

 

戻ってきた男性の手にはお盆。その上には二つのティーカップ。そしてケーキの乗ったお皿が一つ。

私の前に置かれる紅茶とケーキ。ふわふわのスポンジケーキに、真っ白なクリーム。中にぎゅっと詰まったフルーツに、上にはルビーのような苺。典型的なフルーツショートケーキ。

 

「ケーキ、大好きです。頂いていいんですか?」

「それは良かった。どうぞ、駅前に有名なケーキショップがあってね。そこで人気のケーキだよ。」

 

お腹が減っていた所にこれは嬉しい。甘い物大好きである。

カロリーが高いので頻繁には食べられないけど、出されたのなら遠慮なく頂こう。

フォークを手に取って一口。美味しい。有名になるのがわかる。アメリカのケーキって大味のイメージがあったが、これはすごく上品な甘さだ。

 

「美味しい。とっても美味しいです。」

「あはは、喜んでもらえて何より。さて、自己紹介をしようか。俺は(エックス) 。この施設の管理を任されている、一応は責任者という立場だね。」

「一応ではありませんよ。ユリさん、私は管理人、XのサポートをしておりますAI。アンジェラと申します。」

「Xさんと、アンジェラさん。ですね。もうご存知だと思いますが、私はユリ・クロイです。今日アメリカに来たばかりの日本人です。」

「あら、今日引っ越してきたんですね。ようこそ、アメリカへ。ささやかながら歓迎いたします。」

「あ、ありがとうございま……す!?」

 

ドンッ!と、音がしたかは定かではないが。私の頭には確かにそれくらいの衝撃が走った。

テーブルの上に置かれた、ドル札の束によって。

 

「な、な、な、」

「五万ドルご用意いたしました。」

「クロイさんのおかげで本当に助かったよ。ちゃんとお礼と……説明もしないとね。とりあえず受け取ってもらえるかな。」

ご、五万ドル!?

相場が、大体一ドル百円だとして。……五百万円!?

パクパクと口が動いてしまう。確かに、ロボトミーコーポレーションは大企業だけれど。慰謝料用意するとダニーさんも言っていたけれど。たった数時間で、五百万円!?

 

「ただ、これから話すことは誰にも言わないで欲しいんだ。」

 

続くXさんの言葉に、五万ドルの重さがさらに増す。

そんなんなら聞かなくていい。しかしにこりと笑う目の前の二人には、有無を言わせない圧があるのだった。

口に残るケーキの残りを、驚きのあまり一気に飲み込んでしまう。ごくり。塊のまま喉を通ったそれに、私はむせてしまったのだった。

 

 









※原作を知ってて、あれ、キャラ違くない?と思った方へ。
違います。あなたの知ってる人とここに書いている人は同じではございません。
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