東方闇月城   作:スマート

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とうとう十話を迎えることができました。
これも皆様の応援のたまものです、本当にありがとうございました。
UAも500を超えました。


No.010「祖母の家」

第一印象は大きいだった、田舎の土地は安いとは聞いていたが、流石にあの規模は有り得ないと思った。    

 

父が自信たっぷりに指差した家は、僕の考える家の常識を遙かに越えていたのだ。     

 

侵入者を拒むように立ちはだかる、ここへ来るまでに見てきた屋根瓦よりも大きく、複雑な模様が入った瓦が付いた厳つい門、横へと伸びる白塗りの外壁は家をぐるっと保護するように覆っている。    

 

そして中心に建つ、横に長く一見城のようにも見えなくもない作りの家は、平安貴族が棲むという豪奢な住居を想像させる、とても厳かなものだった。  

 

「父さん、まさかあの家に住むなんて言わないよね」    

 

父の家…祖母の住む家があんな大豪邸だったとは、またまた驚かされてしまった。    

 

びっくりのし過ぎで、腕や首もとに流れる汗の量も、心なしか増えている気がする。  

 

「ね、驚いたでしょう。私も初めて来たときはびっくりして腰が抜けそうになったわ」  

 

「確かにな、なんでカアはこんな家に住んでたんだろうな。  

 

子供時代も疑問に思っていたが、結局聞けずじまいだった」  

 

「カア」とは母さんの略で、父が祖母の事を言うときに使う代名詞だ。

 

父もこの大豪邸の意味は知らないらしい、僕の祖母は一体何者だっ たのか、もしかすると昔のえらい人の子孫だったのだろうか。

 

だとすると、えらい人の血が僕にも流れているという事で、ほんの 少しだが興奮してしまった。

 

「いっ……」

 

ピリッと腕に痛みが走って、僕はその場で立ち止まってしまう。

 

だが、父と母に悟られないように、とっさに僕は反対の手で口を塞ぎ、声が聞こえないようにした。  

 

「ん、どうしたんだ」  

 

「ううん、なんでもないよ」    

 

振り向いた父に笑いかけ、僕は横目で痛みがなおも続いている腕を見た。

 

右手から腕の関節まで、一本のギザギザの線が新しく痣として出来ていた。

 

あの痛みは恐らくこの痣が出来たときに来た痛みなのだろう。    

 

僕の高ぶった感情に反応して、できる痣はとうとう痛みまで感じるようになってしまった。    

 

黄金のひまわり畑や土の道を見て、テンションが上がっていた所為 なのかは分からないが、痣は今までで一番太く、そして熱をもっていた。    

 

痣は幸いにも異常な速さで消えてなくなってしまったが、僕にはそれが何かの始まりに思えてならなかったのだ。    

 

大豪邸へ引っ越した僕達、田舎の自然に囲まれた世界がもたらすことに、僕はまだ気が付いていなかったのだ……

 

仰々しい門をくぐるのかと思っていたら、開閉が面倒だという理由から、裏口から入ることになった。  祖母も力がないので、裏口からの出入りが多いらしい。    

 

もう門が使われることのないただの壁のようで、勿体ない気もする。

 

裏口の扉は簡素な板を取り付けたもので、父はそれの鍵を取り出して開けてくれた。  

 

「カア、今帰ったぞ ! 」    

 

矢張り父は自分の生まれ育った家に帰ってきたことが嬉しかったようで、僕と母の案内をほっぽって勝手にすすんで、家の正面入り口へと歩いていった。  

 

細かな模様が入った木彫りの扉を強引に開け、普段の無口な父からでは想像もできない大声を張り上げると、奥の方から小さな足音が聞こえてきた。

 

「やあやあ、よく来たねえぇ、直人も大きくなって、疲れただろう昼の準備はしているからたぁんとお上がり」

 

数枚の板を貼り付けた床を滑るような足使いで、ひたひたと歩いてきたのは、白い髪を耳が隠れるほど伸ばした祖母だ。    

 

抹茶色の濃い着物に淡い青の帯を巻いている姿は、時代劇に出てきそうな程この家の内装と合っていて、一瞬タイムスリップしてしまったような妙な気分になった。    

 

祭りの日でもなしに、普段から着物を付けるという明治あたりまでの習慣に慣れていなかったからだ。  

 

「帰ったよカアさん」  

 

「ああ、よう来た…お前も立派になったのう」    

 

母とこの再会、二人の間には言葉では言い表せられない深いものが あるのだろう。    

 

母は、父と祖母の邪魔をしないようにそっと僕の側にやってきて、 何か微笑ましいものを見るように眼を細めていた。    

 

身長が低く、人形のような祖母は、顔を綻ばせて僕達を歓迎してくれた。

 

玄関の入り口も、大豪邸の威厳がある立派なもので、靴をしまう棚 や、傘をおいておく木も規格外だった。

 

壁には掛け軸が当然のようにかけられ、通路の至る所に高そうな壺や置物が置かれている。

 

どれもこれも鑑定に出せば何十万とするお宝に見えて、触れることをためらわれた。

 

靴からスリッパに履き替えて、祖母に案内されるまま客間に入れ ば、宴会場のような広さに僕の家としての概念か壊れそうになってしまう。

 

緑色の畳は、ずいぶんと手入れが行き届いているようで、部屋に入った瞬間から植物の良い香りが漂ってくる。

 

それだけでも引っ越しの疲れが癒え、取れていくようだった。




さて、十話という記念すべき巻ですが、まだシリアスも東方要素も出てないじゃないかと思う皆さん…すみませんでした。
直人に関して書きたいことが多すぎて、結局話が膨れ上がってしまい、伏線だらけの話となりました。

これからも応援のほどをよろしくお願いします。
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