東方闇月城   作:スマート

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はい、スマートです。
とうとうUAが500を超え600に迫っております。
これもいつも読んでくださる皆さんのお陰です。本当にありがとうございました。




No.012「風見ゆる意味」

「ふう、今日は此処までにしようかな、今日も日が落ちてきた頃合いだ、昨日も阿求にはいったと思うが、あまり夜更かしをしていると肌が痛む」

 

直人は大きく深呼吸をして、肩を回し腕や手首の疲れを取るように動かすと、こじんまりとした茶色い茶舞台におかれた、もう覚めてしまいぬるくなってしまった湯呑を掴み一気に飲み干した。

 

「え、ええええ!? ちょっ、ちょっと待ってくださいよ直人さん、無駄に直人さんに語りの才能があることにも驚きましたけど、そこで話を区切るのは酷すぎますよ」

 

と、直人の正面に座っていた紫がかったおかっぱ髪の少女が言えば、その隣に正座して、静かにお茶を啜ろうとしていた白く長い髪の女性は、今にも殴りかからん、いや頭突きを繰り出さんとする勢いをだして詰め寄ろうとする。

 

「そ、そうだぞ直人さん。

 

そんな中途半端で話を終えてオチを明日に持ち越されるような切り方をされると私としても、そのことばかり頭に浮かんで、夜眠れなくなってしまうぞ」

 

正座した足をバネのようにして飛び上がった白髪の女性は、あっという間に薄笑いを浮かべる直人の前に急接近し、逃がさないように彼のほんのり筋肉が乗った肩をがっしりとつかむ。

 

直人の着ている服は簡易的なただ羽織るだけの、薄い青色の着物だけだったので白髪の女性の常人離れした握力に握られれば、あとは生地が裂けるのを待つばかりだった。

 

そして半ば衝動的にだろうか、白髪の女性は頭を後ろへと大きく弓のように反らせ、仲間内からも殺人的とも言われるその極悪の衝撃を投下したのだった。

 

おかっぱの少女、稗田阿求がこの後予想しうる無残な未来を思い描いて手を顔の前にあてる。

 

だが、結論から言えば死の直下型爆弾は直人へと直撃しなかった。

 

「うぶ…」

 

阿求の家を少しだけ振動させ、家に住むネズミや近隣の猫や鳥が一斉に逃げるほどの衝撃が伝わった中心点には、直人が今まで居たであろう場所の床へと振りかぶった末に思い切り頭をぶつけ、自分へと帰って来た衝撃に目を回している白髪の女性が横たわっていた。

 

「あはははは、参ったな。

君たちがそんなに僕の話を真剣に聞いてくれるとは思わなかったからうれしいよ。

 

ふむ、この場合は楽しそうに聞いてくれたってことでいいのかな」

 

直人は笑う、だがその眼はまったく笑ってはいなかった。

 

阿求は未だに両手を顔に当てたまま、その眼を直人へと向けようとしない。

 

少女は知っていたのだ、直人へと攻撃、またはそれに準ずる殺傷力のある行為を加えたものが待つ末路というものを。

 

「でもね、その気持ちは嬉しいけど、だからと言って自分の意見が通らないからと他人に暴力を振るおうとするのはいただけないな」

 

いつの間にか、目を回す白髪の女性の背後に回り込んでいた直人は、呆れたようなそれでいて可愛い娘を慈しむかのような笑いを浮かべる。

 

彼は優しい、だがそれゆえに自分には厳しく、他人には甘いというおおよそ根本的に間違っている誤解からなる印象を周囲の人間に与えがちだ。

 

  彼は優しいのではない。

 

直人は直人なりの自分の意思に従って行動している、それが周囲には優しいと捉えられているだけで、実際、自分を責め続け自暴自棄になってしまう彼は優しいのだろうが、一つだけ違う部分がある。

 

「慧音、妹紅にも言ったが、仮にも友人関係で殺し合いに発展しかねない暴力は控えるべきだ。

 

喧嘩ならまだいい、だがさっきのような相手に何もさせない、戦線布告を行わないうちでの不意打ちの攻撃はフェアじゃない。

 

もちろん喧嘩が始まってしまえば不意打ちも大いに構わないが」

 

それがこの彼の言葉だ、この一見正しそうな直人の戦いに対する自分理論を聞いている限り、阿求は直人が実は戦いが好きなのではと考えてやまないのだ。

 

生きてきた中で、沢山の強い者たちをその書に改めてきた阿求の家だったが、どの書を見返したとしてもこの直人ほど正体不明で、実力不明な人物はなかったのだ。

 

優しそうという外見だけの情報でしか本人を見ることはできず、本質というものがどういうものなのかを知ることが出来ない。

 

一度だけ、本格的に直人の調査へと乗りだしたことがあった、しかし付近の直人の友人の家を周りいったい彼が何者なのかと訊ねても帰ってくる答えは人それぞれで、結局まとめる事が出来なかったのだ。

 

唯一、わかることといえば、あの有名な花妖怪と同じ「風見」の名を持っていることと、多種多様な人脈 、妖脈を持っているということぐらいだ。

 

時たま好戦的な性格が見え隠れする直人は、意外にもその闘いにかける自論において、全く逆の性格を持つとも言ってもいい、あの花妖怪と同質の何かを感じさせる。

 

本当に、理解できない存在だった。数々の人妖、神に至るまで調べ付くし脳内に保管してきた阿求にとってこれは、極めて由々しき事態だったのだ。

 

知らないことが何もないとは言わないが、ことそういう知識に関しては誰よりも持っているという自信はあったのだろう。

 

だが、直人の場合その存在の属するカテゴリー、種族でさえも今までの経験、知識から推測することでさえできなかったのだ。

 

恐らく人間ではないのだろうなとは想定することは出来ても、断定できない。

 

妖怪にしては余りに温厚すぎるし、神にしてはどこかに社を持っているという風でもない。

 

わからないことだらけという感想を持ったのは随分久しぶりだと、奇妙な感覚に肩を揺らした。

 

ここであの好奇心旺盛なカラスならば、マナーをわきまえず、ずいずいと前へ出て質問を繰り返すのだろうが、いかんせん阿求はそれほどの非常識な行動を取る人並み外れた勇気を持ったつもりも、友人たちが顔を合わせる場で不躾な質問をするわきまえない人間になったつもりもなかった。

 

それでも好奇心というものは収まらないもので、彼の過去話を中断されたことに対する憤りは慧音ほどではないにしろあったりはした。

 

だが、目の前で起こった惨状を見せつけられてしまっては、彼に暴力に訴えて強引に話を促させるということは出来ないだろうと嘆息する。

 

身体がもともと弱い阿求の身体では不意打ちでしか勝てる要素が見つからないし、それさえも失敗した場合(というかその確率が高い)、容赦の無いカウンターが彼も無意識のうちに返され宙を舞う、という凄惨な光景が目に浮かぶからだ。

 

一瞬間抜けな顔で空を飛ぶ自分の姿を想像してしまい背筋が寒くなった。

 

いや、直人も相手が慧音で殺人的な頭突きを放とうとしたからのこの状態なわけで、阿求が相手なら彼も相応の手加減はしてくれると思うのだが、方や人間、方や人外である。

 

ちょっとした力加減の手違いから、ついうっかりという世にも無残な死体が産まれる事だけは避けたかった。

 

仮にも人間有効度「極低」の人物と名字が同じというのもあり、恐怖は増長する。

 

と、阿求がまだ起こってもいない惨劇に戦々恐々と震えていると、そっと彼女の頭にあたたかい感触が乗せられたのだ。

 

「へっ?」 自分の世界へとのめり込んでしまっていた阿求が顔を上げると、そこには心配そうに眉をしかめる線の細い直人の顔が間近にあり、彼の大きな手が乗せられていた。

 

「どうかしたのか、とても暗い顔をしていたけれど、何か心配事でも…もしかすると熱でもあるのか?」

 

突然異性のそれも若く整った顔立ちの顔が、自分と数センチの距離に迫っていれば誰でも驚き悲鳴をあげるまでも、顔をリンゴのように真っ赤に染めてしまう。

 

それが知人でしかも慕っている男性だったならば、その恥ずかしさもなおさらだろう。 ひゅっと息を飲む声が阿求の口から聞こえ、心臓の鼓動が早鐘のように鳴り響いて彼女のからだを揺らし冷静な思考力を徐々に削り取っていく。

 

「おい、阿求これは本格的に風邪でも引いたのかもしれないな」

 

真っ赤に染まった頬がまさか自分の所為だとは露も知らず、直人はそっと阿求の色白な額に自分の額を合わせてしまう。

 

血の通った肌と肌が合う肉感、これ以上ないというくらい近づけられた顔は、そう今にもキスをしようというくらいに唇が目の前にあり…

 

「う…あっ」

 

限界が来た、無理な運動は控えるようにと医者に言われていた阿求の心臓の鼓動は臨界点を突破し、幾銭もの記憶を押しとどめてきた脳は、今の状況を正確に飲み込むことが出来ずショックを起こしたのだ。

 

「お、おい、阿求!?」

 

ずるりと直人にしな垂れかかる様に倒れた阿求は、意識を完全に失う直前阿求は直人に抱きしめられ一時の幸福に包まれたと後に語るのだった。                   

 

 

 

日が随分と傾き始め、人里の木で作られた江戸時代の母屋を思わせる簡素な家々から、線香花火のような小さく可愛らしい趣のある明かりがぽつぽつとあがり始めた中を、青く薄い着物を着た直人は手に女物の傘を持ちながら歩いていた。

 

気絶した慧音を阿求の家から、同じく人里にある寺子屋近くの家に送り届けてから、直人は昨日と同じく夜道を何の気なしに進んでいく。

 

昨日は屋台を経営する と、懐かしくそして何十年もの歳月を共に過ごした 犯してしまった過ちは取り返すことが出来ない。

 

だがその罪を背負ってただ闇雲に自棄に走る必要はないのだと、取り返すことが出来ないことが起こったのなら、それを一人だけでなく仲間と協力して解決すればいい。

 

過剰な責任に押しつぶされるのではなく、重い荷物を協力して背負うように、直人の抱える重荷も誰かと共に背負い歩んでいこうと…

 

「仲間」そう、直人は心の中で言葉を反芻し、自身の力へ肉体へと刻み込んでいく。

 

握った拳に反応してか、また直人の確固とした意思に答えてなのか、右手に持っていた端にフリルのついた可愛らしい女物の傘が薄桃色に発光する。

 

闇が支配する空間に傘の光は微々たるものでしかなかったが、それでも彼の長身で寂しげな哀愁漂う姿を暗く染まる人里から浮き出させるほどの光量を放っていた。

 

ぼうと提灯のような熱い光ではなく蛍の光ににも似た、それでいて明滅せずしっかりと道筋を照らしていく傘の光を受けて、直人ははじめ驚いたような顔をしたが、やがて懐かしそうに眼を細めそっと傘の柄を手で撫でたのだった。

 

「形を無くしてもなお、貴女は僕を支えてくれるのか」

 

彼以外に誰も居ない闇の中、直人の言葉は果たして誰に告げたものなのかは彼にしかわからなかったが、手に持つ傘が嬉しそうに何度も明滅したということだけは確かなことだった。

 

「さて、そろそろあの子にも会っておかないとな、約束を忘れていたとどやされるのは御免だ」

 

そして、自ら深い森の奥へと向かっていく直人の眼は、光の反射なのか右目だけが赤く輝いているようにも見えたのだった。




さて、「東方闇月城」もやっと本調子になってきたと言うところでしょうか。
今回があのお方の登場だと思っていた皆さん、すいませんでした。
直人の人間味をより引き出すため、性格を固定するために必要だった回だと思っています。
それでは、明日もお楽しみに。

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