東方闇月城   作:スマート

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No.015「避ける、逃げる、特訓」

コントロール方法を教えてくれる、そんな幽香さんの気遣い…なのか別のサディスティックな何かによって、僕のトレーニングが開始された。    

 

なんでも、こういう個人に宿った特別な能力は身体と密接に結びついているらしく、能力を制御するには身体を鍛えることが一番だと言うことだった。    

あの日は、両親に心配をかけてはいけないと思ったので、後日出直すという形になり、僕はひとまず家に帰ったのだった。    

 

僕が出かけていってから、気絶していた所為もあり、かなり夜遅くに帰ることになってしまったので、幽香さんは、僕を家まで送ってきてくれた。

   

両親や祖母にはこっぴどく叱られたが、自然のある田舎が気に入った事を話すと、夕ご飯までに帰ってくることを条件に長時間の外出を許してくれたのだった。    

 

幽香さんが、両親に常に見守っていると言ったのも効いたのだろう。    

 

祖母は暫く幽香さんの顔を訝しげに見ていたが、やがて納得したように両親に賛同してくれた。

 

何かはわからないが彼女達の間で、二、三言、言葉が交わされたようだ。                        

幽香さんの失礼だが、古びた小屋のような家から、広い草原を割くように流れるちょっとした小川を越えて少し歩いた場所にある、見通しのいい開けた場所、目に見えて綺麗な花は咲いていないが、それだけでも都会から来た僕にとって目を引くものは多かった。

 

第一に目を奪われたのは、僕の背丈ほどもある大きなススキにも似た草だ。

 

それほど身長は高くはないが、それでも流石にそこらに生える草に身長を抜かされたのは、驚きと同時にショックを受けた。

 

だが、それ以上にショッキングなことを僕はこの数秒後に突きつけられる・・・

 

桃色の傘を日傘代わりにさしていた幽香さんは、ゆっくりと傘を下へとさげ、柄を手で器用に回転させる。

 

すると開いていた傘はあっというまに閉じて、真っ直ぐな槍のようにも見える姿へと変わったのだ。

 

心なしか薄らと発光しているようにも見えるそれは、これから起こることについて吉兆を知らせているようにも感じる。

 

嫌な予感がした、何故なら目の前の幽香さんが、今までにないような笑顔で笑っていたからだ。

 

優しそうなお姉さんといった風の顔が、こうまで子供も逃げ出すようなものになるのかは分かりたくもないが、彼女が良からぬ理由から喜んでいるという事だけは分かった。

 

正直に言って逃げ出したかったが、両親の手前や祖母の対面上を含めて、恩人の特訓から怖くなったという理由だけで逃走するわけにもいかない。

 

それでは僕が、身体ではなく心も含めて脆弱だという幽香さん言葉を肯定することになってしまう。

 

熱くなりはじめた夏初頭の日差しを受けて、早くも髪を流れる汗を拭いながら、僕は うなだれた。

 

「…そうね、まずはその弱弱しいヘタレた根性を叩きのめしてあげましょうか。

 

1時間よ、1時間の間…私の攻撃を避け続けなさい」  

僕の来ていた夏だというのに厚着のセーターをめくり、ガリガリに 痩せた肌を見た幽香さんは、死刑宣告に近い言葉を言ったのだった。

 

「は?」

 

本当に聞き間違いかと思いたかった、身体が弱いと言っている側にこんな無茶なことを要求するなど、自分の耳を疑ってしまう。

 

だが反射的に聞き返してしまった僕に、何が嬉しいのか幽香さんは、草原の空気を横目に息を吸い込むと傍目に真っ黒な微笑を浮かべつつ、片手に畳んだ桃色の傘をしっかりと掴み、僕に向かって思い切り振りおろしたのだ。

「ひっ!?」

 

まったく反応できなかった、というより彼女の手から一瞬傘の姿がぼやけたように見えた次の瞬間、僕の目の前の地面にあった小さな石が、地面へと大きな穴を 伴って粉々に砕かれていたのだ。

 

いや、砕くというよりも、傘を振るスピードから起こる摩擦熱で石を融解させたと言う方が正しい。

 

桃色の傘の先端の餌食になった憐れな小石は、黒い煙を上げながら赤黒く変色し地面に広がっていったのだった。

「あ、ああ・・・」

 

「次は当てるわ、さあ本気で逃げなさい。

 

大丈夫よ別に命までは取りはしないわ、ただほんの少しだけ度胸をつけて貰う・・・だけ」  

 

小さいときから、禄な運動をしてこなかった僕は、運動音痴も腹を抱えて笑い出すレベルの貧弱さだ。

 

そんな脆弱な身体で無理な運動をすれば、一瞬で過呼吸になって倒れてしまう。

 

しかしだ、そんなことを訴えても今の、赤い眼を爛々と輝かせる何かスイッチが入ってしまったサディスティック全開の彼女には焼け石に水だろう。

 

僕を見据えて傘を振りかぶる彼女には、まだ明確な敵意をもって攻撃しようとしているわけではないことがわかる。本気でこうすることで、僕を鍛えようと思ってるのだ・・・

 

彼女は努力をしない者を、始めから諦める者を嫌っていた、ここで僕がこの理不尽極まりない修行を放棄すれば最悪、殺される。

 

もう「逃げる」しか選択肢はないのだ。

 

最低ラインとして生命は保証されているため、幽香さんも積極的に僕を殺しには来ないだろうが、石を解かしたあの化け物じみた攻撃を見ていると、油断すれば簡単にあの世行きは確実である。

 

それこそ砂場にいる子供に遊ばれるアリのごとく、何の感慨もなく潰されてしまう。

 

「花を操る」という能力を持っているだけでなく、ここまでの凶悪なまでの物理的な力を持っている彼女を最早、人間としても、能力を持つ同士でも同類としてみれなかった。

 

「アハハハハハハッッ!!さあ、足掻きなさい、あと59分よ!」

 

手慣れた動作でたたまれた傘を開くと、幽香さんは吸い込んだ空気を一気に吐き出し、腰に機転を置いて大きく回転する。

 

すると大きく広範囲に強引に振り回された傘が、大量の空気を押し叩き、周囲を一掃するような暴風をまき散らしたのだ。

 

「ぐ・・・ぉおお」

 

まるで巨大な扇風機の前にでも立っている気分だった、草原の草や小石が豪風に乗りあらゆる方向へ飛び散っていく。

 

手を前に押し出し顔を隠すも、小石や木の欠片は無数に飛び交い腕や、足へとぶつかっては僕の肌を傷つけていった。

 

足もしっかりと地面に腰を入れて踏ん張らなければ、あっという間に飛ばされてしまう程、気の遠くなるような凄まじい風圧だった。

 

これで、彼女が使っているのは能力ではなく純粋な筋力のみだと言うのだから、呆れを通り越してもう笑いさえ浮かんでくる。

 

とにかくこのまま風に耐えていても、幽香さんは次なる攻撃を仕掛けてくるだろう。

 

出された課題はただ一つ、制限時間内まで彼女の攻撃を「避けきる」こと。

 

何もあの異常なまでの戦闘スペックを誇る人物を闘えと言われているわけではない、ただ一言・・・逃げるだけで良いのだ。

 

「はい!あと58分!」

 

草木を巻き込む暴風を切り裂いて、僕の目鼻をかすめ細い傘の先端が通過していった。

 

腕力のみで蠢く風に穴を開けたのが鯨飲なのか、僕の頬が浅くだが斜めに切れ、鮮血が散った。

 

「・・・っ」

 

痛みは無かった、あったのは絶望的なまでの状況に対する恐怖のみ。

 

あの傘がもしもほんの少しでも僕の頭を掠めていたらと考えるだけで、全身にジットリとした嫌な汗が流れ、手足が痺れ背筋が凍り鳥肌が立つのだ。

「う、うああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

「57分!」

 

「ぶべっ・・・」

 

殺されるという身近に感じる圧倒的なストレスに耐えきれなくなり、頭を空っぽにして彼女に向かっていこうとするが、そんな僕の心情まで見抜いていたのか、幽香さんは傘の胴を僕の腹に添えるようにして合わせ、地面に押し倒す。

 

肺の空気を押し出しながら地面を転がる僕に幽香さんは、これもまた良い笑顔で微笑んだのだった。

 

「勇気は認めてあげる、でも今の貴方じゃ絶対に私に勝てないわ。

 

実力の差を知りなさい、勝てない相手に挑む事は勇気とは言わない・・・無謀っていうの」

 

なら・・・そんな無謀な特訓をどうしてやるんですか?とは口が裂けても言えなかった。

 

そんなことを聞こうものなら、僕はきっと無惨な肉片に変えられてしまう。

 

窮地に落ちいている状況で、わざわざ墓穴を堀に行くことだけは避けたかった。

 

「ほら、無駄なことを考えていないで、さっさと逃げなさい。

本気で逃げないとうっかり殺してしまうかもしれないわね・・・・?」

 

冗談ではない、彼女から立ち上る小動物なら一目散に逃げ出してしまう気配は、人をからかうようなものではなく、滲みだす本性を必死に抑えつけようとしている、目の前に肉をぶら下げられた空腹の野獣のようだったからだ。

ゴクリと唾を飲み込む、腹に食らってしまった傘による打撃のダメージは、彼女が手加減していたのか予想以上に軽かったが、自分の中の本能が恐怖心が頑なに彼女と対等な場所へ立つことを拒否していた。

 

足がすくんで立てないのだ。

 

押しつぶされそうなプレッシャーに身体が思うように動かない、避け続けなければ本当に死んでしまうという状況下で、僕の身体は生命の危機に全く反応せず、死を望んでいるかのようだった。

 

「良いの?坊や…死ぬわよ」

 

以前に喰らってしまった物凄い意思が込められた気配が再び襲ってきた。

 

息を詰まらせ、かろうじて上を見上げると、腕を組んだ幽香さんが僕を見下し興ざめだと言わんばかりにため息をつき…

 

「そんなに死にたいのなら死になさい、坊やが死んだところで私は何とも思わなないし、坊やの両親もどこかの草むらで無様に野垂れ死んだ坊やの事なんて、すぐ忘れてしまうでしょうね」

「う…あ」

 

誰からも忘れられる、そう告げた幽香さんの眼は、まるで自分が同じような目にあったというえるほど現実的で、その所為か僕の心に強く響いたのだ。

僕が死ねば、それは両親は悲しむだろう。

 

だがそれは親、親戚として言ってしまえば当然のことだ。

 

親しかったものが死んで悲しむというのが、自然の摂理というのならば、その悲しみをいつか忘れて、薄れていってしまうのもまた自然の摂理… 忘れ、られる。

 

死んだことすらもう記憶の片隅に追いやられ、涙の一筋ですら流してもらえず思い出してすらもらえない。

 

存在を無くす…世界に存在した軌跡を跡形もなく消滅させられる、唐突にだがそんな考えに至ったとき、それが死よりも恐ろしい事であると理解できた。

 

「いや…だ」 気が付くと僕は全身の力を振り絞って地面から起き上がり、幽香さんの腕から突き刺さらんとする傘の特攻を紙一重で交わしていた。

 

「へぇ…56分!」

 

地面に胴の半分まで深く突き刺さった傘を、引き抜くではなく土を引き裂いて取り出した幽香さんは、傘についた赤土の泥を刀が血錆を拭うように振り飛ばし、足を小さく曲げて大きく一歩前に踏み出した。

 

今まで彼女がいた立ち位置の土が、足圧で深い穴を穿ち、比例するように幽香さんのスピードが比喩ではなく目にも止まらないものへと変わっていく。

 

彼女の緑色の髪だけが辛うじて眼で追えるだけで、もう避ける事ではなく彼女の進行方向から身体をどかすことのみに集中しなければ、たちまち全身を穴だらけにされて蜂の巣になってしまうだろう。

 

だが、と僕は自分に言い聞かせる。こんなところで死ぬわけにはいかないと。

 

何度も病気と闘い続けて奇跡のように生きてきたこの身体、先日も水におぼれかけた後、助けられたという悪運の強い命。

 

育ててくれた両親が、今まで愛情を与えてくれた母や父に死んで、呆れて、悲しまれ最後に忘れられてしまう訳にはいかない。

 

「僕は、まだ死にたくない」

 

―なら、どうしたらいい?―

 

目の前に、目と鼻の先に傘の鋭くとがった先端が迫る、しっかりと開いた眼で、その攻撃をどうよけようかと捉えた時、今度ははっきりと声が聞こえた。

 

それは、どこか懐かしく昔聞いたような安心感があるものだった。

 

母の声とも父の声とも、また祖母や幽香さんのものとも違う鈴が鳴るような、高い声。

 

その声は僕の身体に染み込むように、何度も繰り返され…視界が急にゆっくりと進むようになったのだ。

 

「これは、どういうこと?」

 

あんなに早い速度で走って来た幽香さんの突撃が、眼で追えていた。否、彼女がまるで動画をスローモーションで見ているかのように動きが鈍くなったのだ。

 

当の本人はそれに気がついてはいないようで、恐ろしい笑みを浮かべたまま傘を突き出している。

 

それだけではなかった、世界が、この世界の僕を含めたすべてがゆっくりと動き始めていたのだ。

 

僕の声もよくわからない、喋っているつもりだが僕の身体は動いてくれず、まるで意識の中で会話しているような…

 

―そうだよ、彼女が止まってるんじゃない、君の力さ―

 

「僕の力?」

 

それこそ有りえないだろう、僕の持っているという力は、「電気を操る程度の能力」でとても世界を遅くするような途轍もないものではなかったはずだ。

 

―その通りだよ、君の力は世界を止めることは出来ない、でもこの現象を作り出しているのは君の力―

 

どういう、意味なのか。僕にはもう一つそういう能力があったという事だろうか。

 

いや、僕なんかにそんな隠された能力があるはずがない、そもそも幽香さんいわくこの能力と霊力の所為で爆発寸前のような僕が、もう一つでも能力を持っていたらそれだけで死んでしまうだろう。

 

なら、と考え僕はこれも「電気を操る程度」なのかと思考する。

 

応えは出ない。

 

だが、回答は掲示された。

 

―正解、これも電気を操る程度の範疇でできるものだよ、実際止まっているのは世界じゃぁない、君の頭が情報を早く処理できているというだけの事さ―

 

情報?処理?それは本当に……僕の力なのか。

 

―あはは、まあそう思うのも仕方がないよね、それはまあいずれわかるとして、随分と楽観しているようだけど、君は刻一刻と死へと迫っているわけだけど―

 

「そんなのこと、分かってるさ。でも…」

 

―何も出来ないと、諦めてしまうのかい?

 

― 何故だろう、この声が紡ぎだす言葉は嫌に心に刺さるのだ。

 

聞きたくない話ならば無視すればいい、否定すればいい。

 

しかし、声の言う言葉を結局静かに聞き受け入れてしまう。

 

それはまるで自問自答にも似ている。

 

「諦めたくない、死にたくないさ、でも……

 

それでももう今回はどうにもならないだろう?

水でおぼれた時とは違うよ、病気と闘っていた時とも違う。

 

幽香さんはしっかりと意思をもって正確に僕に迫ってきている、確実に攻撃を当てようとしている」

 

偶然死にかけるのではなく、恣意的に攻撃され結果死んでしまうのとではかなり危険度、事故の回避率が段違いだ。

 

前者はそれこそ何かの偶然か、その時、その場所、その自分が何かの失敗を犯して至るものだ。

 

後者はそれとは逆に、死というものを第3者に明確な意思、理由をもって与えられる形になる。

 

偶然ではなく、必然、その言葉の違いは生死すらも別つ。

 

死にたくないとは言ったものの、諦めないとは言ったものの、それはむり…

 

―無理じゃない、君が君自身がそれを本気で乗り越えようとするなら、絶対に無理じゃないよそれは私が保障してあげる―

 

でも…

 

―でもも、光も関係ない! 君はやるときは必ずやるやつだって私は知っているよ、大丈夫、自分も一緒に戦ってあげるから、さあ頑張ろう?―

 

「僕はまだ…終われない!」

 

―さあ、立ち上がれ―

 

ずるり。と緩慢に進んでいた時の流れが元の流れに戻り、止まっているようにも見えた傘の先端があっという間に距離を縮めて、僕の額に触れる…

 

その数センチ手前で、僕の身体が半ば強引に身体を背後にそらしブリッジを作るような形で幽香さんの傘からなる刺突攻撃をかわしたのだ。

 

「はぁ…はぁ…なんとか、躱せた」

 

そのまま背中から地面に尻餅を付く形で倒れた僕を幽香さんは、驚いた顔で傘を止めた。

 

「あら、やっぱりそういう事なのね」

 

どういう事なのかはわからないが、きっとよくない事なのだろう。

 

少なくともこれから僕の生命が脅かされることを考えれば……

 

倒れこんだ身体を幽香さんが襲って来ないうちに起こしてしまおうと、足に力を入れた時、いつも以上に身体が軽くなっていることに気が付いた。

 

何というか、今まで背負っていた重荷が外れたような感覚。

 

地面の草が焦げる臭いがする、それと何か関係があるのか、僕は気にせず黒く染まった地面を踏みこみ、攻撃を放とうとする対象を見据えた。

 

―逃げれば良い、なんて甘えた考えは捨てちゃえばいい、避け続けた先にあるものは敗北だけ、逃げる事でしか生きることのできないものを人間は弱者と呼ぶのだろう?

 

…もそれは同じだよ、彼女は君が幽香と呼ぶ化け物は失望していた。

 

逃げるだけしか能のない、哀れな人間が持つ無限にも届く未知の可能性を求めていたからね―

 

だからと、声は続き、ならば期待に応えてあげようと優しく、そして怪しく抱き込むように黒々とささやくのだ。

 

じわじわと、その誰とも知らない声の持ち主の意思が僕の中に溶け込むように、混ざり一つになっていった……

 

「あ、ぐっ…あああああああああああああああああああああああああああ!」

 

体中が軋む、身体の中で膨大な量のエネルギーが蠢いているかのような、形容しがたい痛みに襲われ体が本当に風船のようにはち切れてしまいそうになる。

 

だが…しかし…体の痛みとは裏腹に目は冴え、頭は澄みきっていた。

 

解き放たれた力の量にまるで、本来の自分に戻ったかのような、不思議な安定感を感じつつある。

 

悲鳴を上げる手足に力を込めると、青白い火花が僕の意思に呼応するように飛び散った。

 

何故か片眼が炎に焼かれたかのように熱い。

 

別に涙を流したわけでもないのに、頬に湿っぽい液体が片眼から溢れ出てくる感覚があった。

 

視界が真っ赤に染まる、身体中がもう限界を迎えているのだろう。

 

それを無理矢理能力を引き出して、強引に動かしているからこそ、全身の血管が僕自身の能力を循環仕切れずに断絶を起こし始めているのだ。

 

身体中の中の穴という穴から、赤黒く生臭い匂いを放つ液体がさながら古い機械の潤滑油の如く溢れ、滴り落ちる。

 

鼻からは鉄の匂いのする液体がドロリと口へと流れ込んできた。

 

「う、ああああああああああああああっ!!」

 

「直人、ちょっと・・・・・・大丈夫?」

 

流石に僕の急激な身体の変化に心配そうな幽香さんの声が聞こえるが、僕としてもこの渦巻くエネルギーの勢いを何処かへ発散させずに終わってしまえば、それこそ身体が跡形も残らないほど弾け飛んでしまうだろうと気がついていた。

 

いや、また声が優しい口調で教えてくれたのだ。

 

何百キロも出した汽車を強引に止めるのと同じで、そんな事をすれば出した勢いに機体が絶えられず何倍にも膨れあがった圧力で潰されてしまう。

 

しかも僕の身体は、ただせさえ病弱という医者のお済み付きを貰ったものだ。 今、もう・・・・・・

 

力を押さえるわけにはいかなかった。

 

「うふふふ、そうそう良い眼になったわ、戦いはそうでなくちゃ面白くない!」

 

覚悟を決めて幽香さんに向き直ると、その覚悟が伝わったのか彼女は再びその綺麗な顔を怪しげな戦う者の笑みに変え、嬉しそうに叫んだのだ。

 

幽香さんが傘を中段に構え短い跳躍をする。足を踏み出し身体を斜めに反らせながら傘の先端を突き入れようとする映像が、鮮明に頭で理解しすぐに行動に移すことが出来た。

 

―避けるな、進め―

 

「だあああああああああ!」

 

声に従うままに僕も踏み出し、彼女の傘を迎え撃たんと正面を向く。

 

「……っ!?」

 

自分からわざと接近した僕の無謀とも取れる動きに幽香さんの動きに乱れが生じ、傘を持つ手がわずかだったが一瞬止まったのだ。

 

今までの僕ならば、その一瞬の動きでさえ見えず、もうスピードで突きこんでくるだけにしか見えなかったはずだが、今は違う。

 

勢いが弱まった傘を手を触れ、進路を横に僅かにずらすだけで、恐ろしい威力を叩き出す攻撃はあらぬ方向へと飛んで行ってしまう。

 

「くぅ…あ、あたれぇぇぇぇぇ」

 

今まで歩んできた僕の短い人生の中で、今日ほど僕が自分の力を、決死を覚悟で出し切った日はなかっただろう。

 

そもそもが病弱で自宅療養中だった僕が、本気になれるのかという、本気になって身体を動かせばどうなってしまうのかという話だが。

 

伸ばされた僕の拳は幽香さんのその肩に触れ……たのか、残念ながらそこで僕の全力というものが底をついたのだ、意識が途切れてしまった。                  

 

―よく頑張ったというべきなのかな、まあ別に私は君を労えるほど偉くもないし、今の君とそれ程親しくもないのだけどね―

 

まただ、声が、聞こえる。

 

 君は、いったい誰なんだ? ―やっぱり闇…概念的な存在としての闇なら、私はまだこの世界に、人の心に存在し続けることが出来るんだね。

 

恐怖はまだ人に闇として根強く持っているというわけだ― どうして僕に、こんな僕に話しかけてくれるんだ?

 

―あははは、よそよそしいなぁ、まあ今の君からすればそれも仕方がないのかもしれないね、これは恩返しさ、私が君への……ね―

 

恩返し?僕は君の事も知らないし、君に何かをしてあげたこともない、第一僕は今まで両親以外誰とも喋ったり、会ったりしたことは無いんだ。

 

―今は、ね― 嫌に今を強調するんだね、まるで未来に会うことになるみたいに。

 

―そうだね、別に預言者を気取るつもりはないよ、だけど私は貴方に会って救われた、だからさこれはそれの恩返し…―




とうとうUAが1000となりました!!
さて今回、初の格闘となりましたが、どうでしたか?
感想をお願いしますm(_ _)m
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