東方闇月城   作:スマート

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No.016「特訓の成果」

僕という人間は最近、驚いてばかりで気絶してばかりのハードライフを送っているが、それはまあ物語でいうところの序章にしか過ぎなかったと頭を抱えている。

 

そう、あれほどの危ない目にあってしまった僕の事件とも言い換えることが出来る出来事が、まるで大したことのない日常に思えるほどに。

 

あの日、幽香さんとのそもそも根本的な部分で、教える気が微塵も感じられないただの一方的な、特訓という名の加虐行為の後、僕は幽香さんの本格的な指導を受けることになったのだった。

 

あの逃げるだけだったみじめ極まりない戦闘から、彼女は何かを掴んだのか事あるごとに僕にあれ以上の負荷を強いて特訓をするようになった。

 

意識がもうろうとしていたあの時の事はあまりよく思えていないが、幽香さんが言うには僕は、あの傘の刺突攻撃を着弾間際で避けてしまったのだという。

 

プロ野球選手の剛速球も顔負けというほどの速度を出していた傘の攻撃を、だ。

 

発射時に距離がある段階で避けるのならまだわかるが、ほぼゼロ距離でそれを躱したというのは嘘のような話だった。

 

というか人間には無理だ。確かにたまに出る彼女の話に登場する、白黒の魔法使いならばそれも出来そうだったが、戦闘経験もない僕にそんな高等なことが出来るわけもない。

 

だが、幽香さん、四季のフラワーマスターなどと若干意味不明な肩書きを名乗った彼女は、所見で理解できたが決して「褒めて伸ばす」タイプではないという事だ。

 

彼女の性格上、「褒めて伸ばす」くらいならば「限界まで痛めつけて伸ばす」を選択するだろうという事は目に見えている。

 

そして、他人を元気つけるために暴言や嘲笑を伴う発破をかけるが、絶対に本心から相手を褒めるようなことを、冗談でも言わない人だ。

 

案外僕が危機的状況で作り出してしまった妄想だとも考えられる。

 

そして、あんな無理な特訓を繰り広げれば、次の日からは立ち上がれない程の筋肉痛を始めとした、体の隅々にガタが生じ始めるに決まっている。

 

このままでは身体がいくつあっても足りないと、もう少し抑えて、ゆっくりとトレーニングしていこうと幽香さんを一度は諭そうとしたが…  

 

「あァ ? 」    

 

ドスの効いた、その辺の不良も素足で逃げ出しかねない声色で聞き返されてしまっては、僕にはどうすることもできない。  

 

幽香さんは、綺麗で暖かくて例えるなら、太陽のような人だ。

 

だが彼女をカテゴリーとして分類するならをつけるならばもう一つ付けなければいけないものがあるのだ。  

 

それは 「好戦的」…喧嘩を売られれば必ず買う、強い奴には自ら挑みかかるというものだ。    

 

だが、最近の幽香さんの近くには強い奴もおらず、無謀にも戦いを挑みにくる馬鹿な奴もいなくなってしまったらしい。    

 

ここまで来たらわかると思うが、というか僕はそこで全貌が分かってしまい震えが止まらないのだが。    

 

つまり、幽香さんの考えを要約すると、能力の凄そうな僕を鍛えて、僕をその彼女の言う「強い奴」にしあげ、戦いたいらしい……

 

冷や汗が止まらない、もうこれでは死刑宣告をされているに等しい。

 

トレーニング期間が残された余命だ。    

 

たかが女性の力などしれている、子供では勝てないが大人になれば男がレスリング選手はともかくとして普通は負けることはないと、男尊女卑でなしにも一般的な男性ならそう思うかもしれない。    

 

しかし、それは幽香さんが、ごく一般的な普通の女性だったらの話だ。    

 

彼女のパワーは計り知れない、特訓の時に垣間見せたものではなく、今僕がいる小屋は実は全て幽香さんが何から何まで作ったというのだ。  

 

嘘のような話だが、傘一本の威力で小石を溶かしたり、傘を振り回した風圧で風を巻き起こし、挙句の果てに丸太を拳一発でへし折った(あくまで木を無暗に切り倒すのではなく、必要最低限な伐採を行っていただけ)彼女を見てしまっているので笑えない。   

 

最早、「花を操る能力」がただのオマケのようになっている彼女と戦うと言うのだ、いくら何でも無理があり過ぎる。    

 

組み手でもした日には、全身複雑骨折になって、二度と日の出を拝めなくなってしまっい、有名大学病院の集中治療室で一生を過ごすことになった自分が目に浮かぶ。    

 

健康的な汗と、冷や汗を二重にかきながら、木の板が張り合わされた床の上に敷かれた固めの床布団の上で腹筋をすること30秒、そろそろ僕の筋肉が悲鳴を上げ始める頃合いだ。  

 

「あ、あの幽香さん…」    

 

無言で僕のトレーニングを椅子に腰掛けて、ジムのコーチのような雰囲気を醸し出している彼女は、僕の声を無視して「まだ」とだけ言った。    

 

筋肉痛になって、それを数日の休息によって治し、肉体の超回復を狙って起こし筋肉の増加をはかるのが普通の筋トレなら、幽香さんが行うそれは、ひと味違う。  

 

彼女は休ませてくれないのだ。

 

毎日毎日、昨日の倍のトレーニングスケジュールを僕に課してくる。  

 

初めては1回も出来なかった腹筋も、5日たった今では、10回は かろうじて出来るレベルに成長している。  

 

休ませてくれないのに何故、筋肉トレーニングが続けられるのかと言えば、彼女が毎日飲ませてくれる薬湯茶に秘密があるらしい。  

 

毎日、筋肉痛になるトレーニングをしても次の日には何事もなく、 普通の状態に身体が調えられているのだ。  

 

気のせいか最近は、この小屋まで歩いて来ることがそれほど苦に感じることもなくこなせるようになってきている。    

 

青白かった肌も、毎日小屋に通ううちに日光に焼かれ、小麦色とは 言わないまでも、健康的な色に変わっていた。  

 

両親はこの変化を喜び、来年までこの調子が続くのであれば、近く 学校へ復学する事も考えているらしい 。

 

幽香さんは、その変化を一度解放した能力が身体から霊力を削り取り、爆発しそうな風船の空気を抜いてくれたのと同じ状態なのだという。

 

つまり、張りつめていた身体の負荷が完全とは言わないまでもかなり取れた状態なのだ。

 

ついに僕にも学校へ行き、友達や先生が出来る日が来るのだと思うと心が躍る。  

 

今は、それまで死なないように、トレーニングで潰れて仕舞わないように努力しているという感じだ。  

 

「よし、それまで」    

 

昨日より1回多い腹筋のノルマを終えると、次に待ち受けているのは腕立て伏せ。  

 

僕は幽香さんの言葉に従い、体制を変えて両手を地面についた腕立て伏せ独特の体制にシフトする。  

 

「今日のおもりは、4キロね」    

 

絶対に僕の表情を見て楽しんでいる…    

 

意地悪そうな笑みを浮かべた幽香さんは、僕の背中に大きな植物の種を置いた。    

 

彼女の能力で作り出された、4キロの重さがある異常な種を…    

 

ずっしりとした感触が背中を圧迫し、種から出でた蔓が胴に巻き付いて身体を揺すっても、余計な体力を消費するだけで、まるで落ちる気配がない。  

 

「はい、20回よ頑張りなさい ? 」    

 

場面で区切ったら千人中、千人が振り返る良い笑顔も、時と場合によっては死神のようにも写ると言うことを知った。  

 

「うがああああ」  

 

腹筋をして痺れた腹が、腕立て伏せを一回する度に酷く痛む。  

 

額から流れ落ちる汗が床に落ち、黒いシミを作っていくのを、ぼうっとした頭で見つめながら、僕はただ事務的に腕立て伏せを続けたのだった。   

 

昔読んだ、熱血スポ根野球漫画の筋肉を酷使させられる猛特訓よりも今の僕は凄まじい特 訓をしていると、胸を張っていえる。  

 

何故なら、毎日気絶するまでやらされるので、気が付いたら自分の家の布団で眠っているのだから……                     

 

 

 

 

恐ろしい鬼のような猛特訓は、あれから1ヶ月あまりも続いた。  

 

9月になり、夏が終わって肌寒い季節に移り変わってなお、僕のトレーニング…最早肉体改造と呼べる地獄の特訓は続いていた。  

 

毎日の腹筋回数、200回。腕立て伏せ、10キロ重りを乗せて50回。スクワット250回、4kmラン2本…  

 

もう僕は身体が弱かった時とは比べ物にならないほど鍛え上げられ、腕や足を曲げれば筋肉がほんの少しだけ浮き出るようになっていたのだった。    

 

有り得ない特訓ノルマ、大人でさえ悲鳴をあげかねない特訓を楽にこなせるようになってしまった辺りから、僕の身体が、幽香さんによって普通の身体に成り始めているという事にうっすらと気が付き始めていた。

 

死刑執行日が近い…    

 

細マッチョとでも言うのか、僕も身体は筋肉で引き締まり、家族や近隣の人間にももてはやされる肉体へと変わっていたし…    

 

幽香さん程ではないが、僕も頑張れば細い木を蹴り倒せるようになったし(その後、木は大切にしなさいとコブができるほど殴られたが)手のひらサイズの石なら片手で遠くまで投げる事が出来るようになっていたからだ。    

 

身体を鍛えた結果なのか、それとも幽香さんのくれる薬湯茶のお陰なのか、もうすっかり身体の調子はよくなり、来年の学校の話は現実味を帯びてきている。  

 

「電気を操る程度の能力」は使いこなせてはいないが、少なくとももうしばらくの間は能力の暴走によって身体に負担がかかることはない。

 

と言うより、幽香さんとの特訓時にかかる負荷の方が強いので、暴走の負担など気にかけるまでも無くなっているのだ。  

 

50回目の腕立て伏せを終えて、首に巻いたタオルで汗を拭い、立ち上がると大きく深呼吸を繰り返す。    

 

次のトレーニングの為に柔軟体操をして十分に身体をほぐしてから、僕は固めの床布団(後に学校の体育に使われるモノと似ていると感じる)に仰向けに寝転がり腹筋を始める。

 

しっかりと水分補給を取ることも忘れない、スポーツドリンクは両親に粉からわざわざ作って貰ったのを持ってきていた。  

 

わずか1ヶ月で僕がここまでの変化を遂げたのが両親としても嬉しいらしい。    

 

身体を鍛えるのだと言い出した次の日から、両親はこうして何か身体を鍛えるための補助用品をくれたりと僕の手助けをしてくれている。

 

流石にプロテインをプレゼントされた時は両親の精神を疑いはしたが、それでも僕は愛されているという事だろう。    

 

前からも思っていたが、本当に僕は幸せだ。    

 

両親も祖母も、幽香さんもみんな僕を影で支えてくれてくれる、こんなに人生に恵まれている人間は他にいないだろう。  

 

「そう言えば、幽香さんはどうして僕にこんなに親切にしてくれるのだろう」  

 

ほんのりとわれてきた腹筋を見つめながら、僕は誰もいない小屋の中で、ふと思いついたことを口走っていた。  

 

幸いにも幽香さんは、僕の話を聞いていなかったようで、タンスの中に入っている薬剤と睨めっこしていた。

 

父さんや母さん、お婆ちゃんは僕の家族だ、言ってしまえば血縁の ある人間たちで他人ではない。  

 

だが、幽香さんは違う。  

 

あの人は僕とは何の関わりもない、ほんの一ヶ月前にたまたま知り 合っただけの人だ。 見ず知らずの人間が、僕にいくら戦闘をしたいという迷惑極まりない下心があったとしてもここまでの事をしてくれるのかと考えると、どうにも疑問が残るのだ。    

 

幽香さんは、今はいないある人物と僕を重ねていた。  

 

その人の面影から、僕を別の意味で鍛えたいと思ったのかもしれないが、聴く限りではその人と僕では性格がかけ離れている。  

 

そもそも性別も違うらしく、職業は言ってしまえば無職で、図書館から大切な本を盗んだりと泥棒稼業を営んでいるらしい。

 

その人物とよく一緒にいるもう一人の女性においても、巫女であるのに関わらず金の亡者でいつも必要以上に脇を露出させている変わり者だという。    

 

…僕をそんな変な人達と一緒にしているのもおかしな話だし、幽香さんは乱暴でドSだが頭の切れは良い。    

 

そんな彼女が僕という、能力を使いこなせない人間に何を思ったのか。    

 

何を思って僕を鍛えようと思ったのかは、本人のみぞ知るという話 だった。    

 

結局、悩むだけ無駄な事で、簡単な話で僕と戦いたいから一直線…だけなのかもしれないが。  

 

「さてと、じゃあ直人、私はちょっと畑の様子を見てくるから、トレーニングはさぼらないようにね」    

 

今までぼうっと椅子に腰掛けて僕のトレーニングを眺めていた幽香さんだったが、急に何かを思い出したかのように立ち上がると、タ ンスへ向かい準備をし始めた。  

 

「え、あの」    

 

いつも幽香さんは、畑の世話も僕のトレーニングが終わってから行っている。  

 

僕の筋肉の増強に逐一目を光らせて、1日でも多くの無理のないトレーニングを見つけ出すと言うのが、幽香さんのスタイルだったので、この変化に少々面食らってしまう。  

 

別に幽香さんにトレーニングの全てを依存しているわけではないが、急にその場を離れると言うのは寂しいものがあった。

 

「大丈夫よ、少しだけ入り用が出来ただけだから、畑の害虫掃除をしてくるわね」    

 

そんな僕の気持ちを読まれたのか、幽香さんは、苦笑して僕の頭を指で弾いた。  

 

「いっつ…」  

 

「ほら、こんなもので痛がってちゃいつまで経っても私に勝てないわよ。  

 

馬鹿みたいに寂しがってないで、私を興奮させるような実力を身に つけてみなさい    

 

そうすれば、直人に私も本気で挑んであげられるから…」    

 

そう言って小屋を出た幽香さんの目は嬉々として輝いていて、まるで新しい玩具を見つけた子供のようだった。    

 

掃除…と言っていたが、額面通りの意味ではないだろう。  

 

畑に落ちた枯れ葉や、害虫、雑草の処理でもない…いや、ある意味雑草、害虫の処理なのか。

 

幽香さんの目が語っていた。あの心底うれしそうな、心躍るような笑顔は戦いたくて仕方がないと言っているようなものだ。  

 

恐らく、畑に無謀にも侵入者が現れて、それを幽香さんは動物的な直感もしくは「花を操る程度の」能力で察知したのだ。

 

彼女の能力がどの程度応用が利くのかはまだそれほど聞いてはいないが、恐らく植物と実益を伴った会話をすることも可能なのだろう。

 

こんな田舎も田舎な、この小屋以外、家が一件も立っていない所に来る不幸にも哀れな人間が居たのかと、僕は心の中でまだ会ってもいない可哀想な人に同情した。  

 

いつの日か、ひょっとすると1年後には、僕も同じ運命を辿ること になるのかと思うと、背筋が凍る。  

 

あの理不尽とも言える暴力や傘の刺突力で殴られたなら、僕や普通の人間のか弱い身体がどうなってしまうのかなど、想像に難くない。  

 

一瞬にして、骨が粉々に砕けたと思ったら、もう上半身と下半身が数m離れているのだ。

 

それだけでは終わらない、漫画の戦闘シーンのようにここで即死ではなく、まだ身体を切り離されたと理解できず、頭がそれを知るころには…  

 

「ううっ」    

 

自分で想像して、気分が悪くなってしまっては仕方がない。    

 

身体は頑丈になったが、まだまだ心の方は修行不足だなと、最悪の想像に辿り着こうとしていた思考を素早く振り払った。  

 

こんな当たらないかもしれない未来の妄想で時間をつぶしていたら、幽香さんが帰ってきたときまでに、ノルマが終わらない。

 

トレーニングを今までサボったことはなかった僕も、身体の調子という面からノルマが達成できないという事は今まででもままあることだった。

 

そのたびに幽香さんは、般若の如く恐ろしい顔になり、次の日に付きっ切りで昨日の埋められなかったトレーニングを補う鬼畜なことを始めるのだ。

 

例を上げるなら、腕立て伏せを二倍にされたり、機嫌が悪いときは重りまでも二倍にされたりだ。

 

次の日には肉体疲労は消えているといっても、精神的な疲労まで消えているわけではない、疲れたという記憶はしっかりと残るし、モチベーションもかなり下がるのは仕方がない。

 

まあ、だからと言って彼女のトレーニングをサボったり、逃げようものならそれこそ地獄の果てまで追いかけてきて強引に連れて行かれそうだが。 

 

今日の彼女の第二の犠牲者になることを避けるために、僕はしぶしぶとトレーニングを再開するのだった。




はいスマートです、今回も最後まで読んでいただき有り難う御座います。
お陰様でUAは1100となり、順調にその多さを更新していっております。

第一章もそろそろ起承転結でいえば転の部分にさしかかって参りました。
大妖怪「風見幽香」、そして主人公「直人」はこれからどうなっていくのか…明日をお楽しみに。


友人にルーミアが好きだと言ったら、ロリコンだと言われました…わけがわからない。

いや…ルーミアは実際は、年齢的に20歳は越えているわけで、合法ロリと言いますか…年上というか、なんというか。
ちなみに東方キャラで好きなもの順に、順位を付けるとこうなります。

1位 ルーミア
2位 フランドール・スカーレット
3位 伊吹萃香

あれ…ロリコンの汚名が返上できない。
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