東方闇月城   作:スマート

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No.018「はくれいの噂」

「なあ、直人明日は神社へ参りに行かないか」    

 

11月、冬に入り一生肌寒くなり雪もちらほらと振る事が多くなった。    こんな日になると、僕はこの田舎へ来ることになった切欠になった 日のことを思い出す。  

 

 あれからもう一年が経とうとしているのかと思うと、早いような長いような奇妙な気分になる。    

 

田舎の寒さは都会に比べ都会の空気の暑苦しさが無い所為でより寒く感じたが、身体を動かすトレーニングをしていたので、簡単に風邪を引くことはなかった。    

 

一年も前にはまだ僕はベッドの上で寝込んでいたのかと考え、田舎に来て本当に良かったと思っていた。  

 

地に落ちた赤や黄色に紅葉した綺麗な葉をかき集め焼き芋を作った事は記憶に新しい。

 

冷たく霜焼けになりそうな手で、暖かい芋を持ったときに感じた、 何とも言えない幸福感は忘れられない。  

 

祖母や幽香さんもそれぞれの畑から芋を持ってきてくれ、両親を含めた5人と、どこからともなくやって来た頭に紅葉やぶとうのついた金髪の姉妹で焚き火を囲んだ。  

 

随分と幽香さんは、僕たち家族の行事に参加するようになってきていた。  

 

初めて誘ったときは、どうにも遠慮等があり断られていたが、一回そう言う行事に参加してからは、家族も彼女を受け入れてくれたのだ。  

 

今日も幽香さんの過酷で熾烈を極める、地獄のトレーニングから生還してきた僕に、やたら大きい門が聳える家の玄関で待っていた父が、唐突にそう切り出したのだった。   

 

神社、この草原や木造民家が立ち並ぶ田舎に、そんな神聖さを感じさせる建物と言えば、此処から何キロか歩いた場所、町の方へ行ったところにある小さな神社しか思い付かない。  

 

先月、父と町で物珍しい駄菓子屋や八百屋などが軒を連ねる商店街を探索していた時に、ふと上を向いた時にたまたま見つけた、本当に小さな神社だったが、どことなく仰々しさがあり、威厳が感じられるものだったのだ。

 

  石段を連ねた先に大きめの鳥居があるだけの、道のりの方が印象に残りそうな一軒家にも見えなくもない神社だったが、父と僕は記念にと軽い気持ちでお参りをした。    

 

名前はかすれていて読むことが出来なかったのだが、地域住民の僅かな信仰からか、今まで廃れずに建物が保たれているようだった。    

 

昔は巫女もいたそうだが、少子高齢化になり町に若い娘が居なくなってしまったそうで、数十年前に先代が引退してからは、もう巫女はいなくなってしまったらしい。    

 

そこへ父は参りにいこうというのだろう、普段仕事以外に興味を示さない、無口な父にしては珍しいことだ。  

 

「え、どうして ? 」  

 

「いや、お前も来年学校へ行けるように、改めてお参りした方がいいと思ってな。

 

こういう信心深い事は昔から苦手だが、よくカアが言うんだ。

 

困った時の神頼みってな、やれるだけのことをやったら後は神様にもお願いしてみようという意味らしい。

 

カアや、母さん、幽香さんも一緒に行こうと思うんだが」    

 

また父は僕のために、神社にまでも頼みごとをしようとしてくれているのか。    

 

田舎に引っ越してから、しばらくの間、仕事先を見つけるまで慌ただしくしていた父も、此処最近仕事が見つかって落ち着いてきたのだろう。    

 

余裕の出来た父が考えた事が、自分の事ではなく僕の事だというのが、どうしようもなく申し訳なく、そして嬉しかった。

 

神様が本当にいるとは考えづらいが、ようは気の持ちようの事を言っているのだと思う。

 

「病は気から」

 

「砂糖も煎じれば薬となる」というように、ポジティブにものを考えればそれだけで気分が良くなったり、悪くなったりするのだろう。

 

神様という存在についても、昔の人がそういう気持ちで創ったモノが時代を経て、段々と祀られるようになっていったのかも知れない。

 

「父さん、ありがとう。僕のために」  

 

「ああ、気にするな。お前の為だけじゃない家族のためだ、カアや母さん、そして直人の幸せを俺は願っている」

 

僕の言葉に照れ臭そうに父は、鼻の下を指で擦ったあと、わざとらしく咳をして幽香さんにもこの事を伝えてくれるかと言ったのだ。

 

もう一回幽香さんの家に戻らなければならず、父も僕の今までの身体状態のことを危惧して僕にあえて確認をしたのだろうが、それはいらない心配だ。  

 

「うん、わかった」    

 

僕は幽香さんも一緒に神社へ行けるという事に、余計に嬉しくなってテンションが上がったまま、クルリと後を向くと靴を素早くはき直し、勢いよく駆けだしていった。  

 

「お、おい…そんなに走ると危ないぞ」    

 

後ろから父が心配した声が聞こえてくるが、その心配も全く無用なものだった。  

 

「大丈夫だよ、父さん ! 」    

 

僕の身体はもう自分の家と幽香さんの家の間を、草原を跨いで走って往復したくらいでは、息切れして倒れる程は疲れることはない。

 

興奮したり驚愕したりといった心の変化の所為で、霊力が身体から漏れ出して暴走することも少なくなった。    

 

あの壁を焼き壊してしまった日から、身体に霊力から変化させて溜まった電気を少しずつ適度に、その辺の土に流して発散しているからだ。  

 

体内に籠もった霊力を電気にする事は無意識に出来ていたが、今度はそれを家に付けられた落雷対策アースのように地面へと流すことを思い付いたのは、何故か祖母の家にあった「幻想館 電気の事実」という図鑑で調べたからなのだが、能力によって身体の中に蓄積されていく電気を制御することまでは出来なかったので、苦肉の策としてそれを使ったのだ。    

 

だが、感情を高ぶらせずとも、電気を体外に逃がすことが出来るようになったのは、着実に幽香さんとの特訓のおかげで、能力の制御が進んでいる証拠と言えた。    

 

あの威力を作り出した一撃は、普段めったに褒めたりしない幽香さんも、不本意ながらといった感じだが認めてくれ、嬉しい気持ちで一杯になったが、その先に何が待っているのかを思い出し酷くへこんだ。

 

僕が着実に能力の制御をこなしているという事は、それだけ強くなっているという事を意味し、それはそのままに意味で彼女と本気で戦う日が近づいたというだけの話だったからだ…

 

あの一撃を幽香さんにぶつけることが出来るのなら、僕は自身をもって彼女と戦うと言い張れるだろう。

 

だが、あの一撃は今まで溜め込んでいた電力を放出したものであり、僕自身が能力を使って即時に狙って打てるものではないのだ。

 

今以上に制御出来るようになったとしても、あの技は数日単位での充電が必要になってくるし、なおかつそうして電気を体内に溜め込み過ぎれば、多大な負荷の所為で以前のように身体が虚弱体質へと戻ってしまうという可能性もあったからだ。

 

しかもだ、恐らく幽香さんの実力は、一番初めに経験した実践じみたひたすら避け続けるだけの特訓時のものよりはあると見ていい。

 

傘を巧みに使い襲ってきた幽香さんは、あの時は気が付かなかったことだが、素手で戦う事をしていなかった。

 

木を拳で貫くほどの怪力を持つ彼女は、戦闘において明らかに武器を要するタイプではなく、徒手格闘をするタイプの様に思えた。

 

あの時の幽香さんは、攻撃の全てを傘だけを使って行う事で、得意な戦闘スタイルを使わないというハンデを自らに課していたのかもしれない。

 

恐ろしくもある反面、こんなに途轍もない人が自分を鍛えてくれているのだと思うと、誇らしくもあったが、彼女の向かう矛先が最終的に自分に向くことを考えれば、興奮も覚めてしまう。

 

日本古来の武道などは、免許皆伝の証として師匠を倒すことをその課題とするものもあると聞くが、幽香さんの場合、免許皆伝や師匠としての試練的な意味以前に、ただただ僕を快楽殺人者のごとく本気でつぶしに来るような気がするので笑えない。

 

あと何か月後、何年後になるのかわからない幽香さんとの戦い。

 

しかし、それが刻一刻と迫っていることは確かな事なので、僕は走っている最中に苦笑いを浮かべてしまっていた。

 

「あの人も、そういう所を無くせば綺麗な人なのになぁ」

 

綺麗なバラにはトゲがあるとは言ったものだが、彼女の場合イバラの中に花が咲いているような……

 

きっと彼女は一癖も二癖もある難がありまくる性格さえ、せめて高圧的な態度だけでもしっかりと直せば、きっと道行く人が10人中10人振り返る洗練された美貌がでるだろう。

 

特訓の時以外の彼女は、良くできたお姉さんのような優しい態度をしてくれるので、その緩急の差が一層ストレスになってしまう。

 

まあ、そんな事を言えば戦う日になる前に、首と身体が離れてしまう事は分かり切って居たので、僕はすぐにその考えを脳から消し去ったのだった。  

 

帰ってきた道を巻き返すようなスピードで僕は冬に入り、黄色く染まり始めた土の匂いの強い草原を走り、冬眠でもしているのか魚の姿が見えなくなった小さな小川を越えると、やがて幽香さんの住んでいる、茶色い古く寂れた小屋が見えてくる。

 

半ば滑るように家の前に到着すると、小屋の木の板を張り合わせて作られたような簡素な扉を、壊れてしまわないように軽くノックする。  

 

「直人 ?  どうしたの、何か忘れ物でも…」    

 

小屋から出てきたのは鮮やかな黄緑色に近い緑の髪をした、赤い目が特徴の女性。

 

何時もと同じように赤いチェック模様の服とスカートに、黄色いスカーフを首に巻いた彼女は、僕の顔を見るなり不思議そうに首を傾げ、まだ特訓がし足りなかったのかと怖い笑みを浮かべたのだ。

 

冗談交じりの言葉では合っても、此処で肯定してしまえば今からでもまた特訓が再開されかねないので僕は、首を横に振って否定の意を表現してから、白く細い手を取って父の言葉を伝えたのだった。    

 

命の恩人であり、僕の人生を病弱から田舎の草原を走り回れるように180度変えてくれる転機となってくれた人物に、少なからず僕は好意を抱いていた。    

 

恋愛的な意味合いではなく、もっと大きな存在を見るような、憧れや敬意にも似た感情を持って、僕は幽香さんを捉えていた。    

 

第二の母親が出来た気分だったのだ、とても加虐的で他愛のない失敗を顔から火が出る程話題に出して僕をからかったり、怒ると赤子も黙り鬼も逃げ出すというくらい怖いが、それでも親切で優しい一面があることを僕は知っている。  

 

今日もう一度そんな幽香さんの暖かい顔を見れた所為で自然と笑みがこぼれ、僕はもう一度父に言われたことを繰り返したのだった。

 

「はいはい、一度言えば分かるわ。明日博麗神社へ行くのね、別に私も特に何かをしなければいけない用事は無いから、朝にお花に水をあげたら直ぐ行けるわよ」  

 

「はくれい神社 ? 」    

 

聞き慣れない言葉に僕は思わず聞き返してしまっていた。    

 

幽香さんは、あの文字がかすんで見えなくなった神社の名前を知っているのか…    

 

何故、町の人に聞いても誰も知らず、年配の人たちでも知るものがいない神社の知っているのか、それが無性に気になってしまった。

 

「ふふ、そうね直人達が、町の人間があの神社の事を知らないのは無理はないわ。  

 

でも未だに信仰のような一種の威光は残っているから、ああして偶に手直しする者がいるの…まあ、それにはとても深い事情があるのよ」    

 

その時、一際大きな風が吹いて僕たちの間を駆け抜けていった。    

 

夜が近くなり、日が沈みかけ薄暗くなりつつある、夏とは違い昼と夜の気温に緩急はそこまではないが、ただでさえ寒い空気が日の光が無くなり一層冷えはじめれば、此処まで走った所為で暖かくなっているからと言っていられない。

 

身体は暖かくとも、肌は寒さを感じ取れるし、その火照った身体も寒々しい風が吹く中でじっとしていれば、いずれ冷めてしまう。

 

頬を撫でるように凪いだ風に思わず身震いしてしまうと、幽香さんは僕の頭にそっと手を乗せて寒くないように抱き締めてくれた、甘くそれでいて柑橘系の花のような彼女の匂いが心地良い。

 

だが、彼女の目は僕を見ていなかった。

 

いや、僕の顔を見てはいるのだが、その表所は固く、あの日畑へ行き、帰って来た時にも似た、寂しそうで儚げな失ったものを見る目をしていたのだ。

 

僕の顔を見て何か別の事を考えているような、心ここに非ずといった風だった。

 

赤く大きなルビーの様に綺麗な彼女の眼に一体何が写っているのか、僕には推し量ることも出来ないが、それでも何か彼女の力になりたかった。  

 

恩人へ、優しいお姉さんへ借りた恩を返したかったのだ。

 

鶴の恩返しのような自らを犠牲にする行き過ぎたものではなく、もっと相手に喜ばれるようなもの……それが出来ずともせめて寂しげな彼女に寄り添ってあげたかった。  

 

「幽香さん、大丈夫 ? 」  

 

「やっぱり思い出せないわね、あ…っと心配ないわ、それより寒くなってきたわね風も出てきた事だし、少し家にあがって身体を暖めてから帰りなさい」  

 

気がつけば僕の身体は、空気の冷え込みの所為で、走ってきた時の温もりは消え、手足は冷たくなろうとしていた。

 

冬の寒さというものは恐ろしい、あっという間に身体が凍りに漬け込んだように冷め切ってしまう、もし鍛えていない僕がこの寒さの中にいたのなら、今頃喘息でも誘発して倒れていそうだ。

 

幽香さんの提案に頷いて僕は、立てつけの悪い扉を開け、小屋の中へ入りつつ、未だ心の中に残っていた疑問をどうしても忘れることが出来ずにぶつけてみたのだった。

 

図々しい事だとは分かっていた、でも幽香さんを悲しませる、博麗神社という場所に一体どういう理由が 隠されているのか、彼女の心を僕は埋めてあげたかった…  

 

その選択がこれからどの様に僕の運命をねじ曲げ、本来の道筋から反れ歪めていってしまうのか、この時はまだ、僕も含め誰も気がついていなかった。




はい、どうもスマートです。

今回も主人公の過去話と言うことになっています。
本当に過去編が多い小説ですね、申し訳ないです。

あと、同時に「プリキュア」と「オリジナル作品」とで小説を書いています、良ければ読んでみてください、よろしくお願いします。
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