東方闇月城   作:スマート

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どうもご愛読くださりありがとうございます。
この二次創作も、3話となりました。
やっとじわじわと物語が進み始めたという気がします。
これからも応援よろしくお願いします。


No.003「謳う鳥」

№003「歌う鳥」

 

「いらっしゃいませって、直人さんじゃないですか。どうしたんですかこんな所に」

 

赤いのれんの掛かった、移動式の車が双方に着いている屋台に入ると、そこで長細く一見ウナギに似ているが顔がない独特な魚を焼いていた少女が出迎えてくれた。

 

茶に近い赤色の丸帽子を被り、ふさふさとした茶髪の左右から飛び出したミミズクのような耳、そして何より眼を引くのが背中にあるスズメのような翼だった。

 

パタパタと翼と手に持った赤い「雀」と銘打たれた団扇を振って魚を焼く彼女の姿は、矢張りどこかずれていると誰もが思うだろう。

 

そもそも服装がもう、完全に屋台の店主からまったく別の、ドレスのようなひらひら付きの可愛らしいものなのだ。

 

煙が立つ焼き物屋の屋台でせっせと仕事をこなす少女を見て、直人は服は臭くならないのだろうかと心配になったりしなかったり。

 

「いや、たまたま此処の明かりが眼に入ったから、暖まらせて貰おうと思ってね。 でも君も珍しいじゃないか、人里で屋台を出すなんて、人間嫌いだったんじゃないのか」

 

木で作られた丸い椅子に腰掛けた直人は、さっそく天井からさがるメニューに眼を通す。

 

「あははは、まあそうなんですけどね。ちょっと所用っていうか天敵と言いますか、に追われていてですね?」

 

「天敵?」

 

目の前の少女は確かに可愛らしい、有り体にいえばそれは人から好意の眼で見られることもあるだろう。

 

だが、少女が言うのは天敵。少女も曲がりなりも人間ではない存在なのはもう誰しも気がついてはいると思うが、そんな少女が追われてしまう程の天敵となると、数は限られてくる。

 

もちろんその追っ手は人間ではない、少女が本気で逃げようと思ったら普通の人間は視界を奪われて少女の姿さえ見ることが出来なくなってしまうだろう。

 

ふむ、と思考して直人はおおよそ正解だろう回答を導き出す。

 

「幽々子」

 

「ひいいっ!」

 

勢いよく叫び声をあげ、持っていた団扇を魚を焼いていた網に落としてしまう。

 

慌てて拾い上げるが、団扇には少し焦げ目が付いてしまい、恨めしげに直人を見つめてきた。

 

「あ、なんというか、その、悪かったな」

 

よほど怖かったのだろう、少し周囲を経過してきょろきょろと眼を動かしている少女は、直人の口に出した相手「幽々子」がもしかしたらやって来ているのではないかという疑心に囚われてしまったらしい。

 

別に幽々子がこの少女を殴ったり蹴ったりするという暴漢なら、しかるべき対策と処分が出来るのだが、この手合いは直人にも少女にとっても厄介だったのだ。

 

直人もよく知り、そして偶に遊びに行くことがある相手、幽々子は普段は大人しい猫のような女なのだが「食べ物」の事になると途端に活発、というか暴走する。

 

詳しい説明は省くが某漫画の戦闘民族のような大食いぶりを発揮する彼女は、鳥のような外見をした少女の事をどうやら食糧と認定してしまったようなのだ。

 

悪意や殺意ではなく純粋な食欲で襲われるのは少女としても、何か来るものがあったのだろう。

 

幸い何時も一緒にいる従者の懸命な静止によって幽々子は、少女を食べようとまではしないらしいが、時折「どんな味がするのかな」などと聞かれては堪ったものではない。

 

流石に命の危険を感じたそうで、知り合いの巫女に紹介して貰った人里の入り口に居を構えることになったのだという。

 

直人としても彼女の食欲が常人のそれではないことを知っているので、災難だったなとしか言えない。

 

お互い苦笑いをして、少女が重くなってしまった雰囲気を取り繕うように、今まで焼いていた魚を差し出してきた。

 

「これ、ヤツメウナギっていうんですけどとっても美味しいんですよ?」 ヤツメウナギという魚は、厳密に言えばウナギではない。

 

ウナギが人間と同じように顎を持つのに対して、この魚は顎と呼べる器官が無く何時も口を開けた状態で、イソギンチャクのようにもコイのようにも見える口を持っていた。

 

直人もヤツメウナギの奇妙で一般的に言う不気味な形状の魚に一瞬面食らったが、少女の対面と一応食べ物として提供されていることを踏まえた上で、それを受け取った。

 

グロテスクな外見をしているが食べてみると意外と美味しいということは、昔から言われていることだ。

 

このヤツメウナギと言う深海魚にも見えなくもない魚も、もしかすると美味とはいわないまでも珍味ではあるかもしれない。

 

「ふむ、いただきます」

 

串刺しにされたヤツメウナギ焼きを受け取って口に入れると、直人は顔をあげた。

 

「これはなかなか」

 

「でしょうウチの看板メニューなんですよ」

 

というかメニューの殆どがヤツメウナギなのか、この少女、名をミスティア・ローレライは楽しそうにもう一本目を直人に差し出してきた。

 

その食べてみた感想と言えば、「レバーのような風味を持ち、モツのような弾力がある」である。

 

「これはひょっとすると宣伝次第で人間にも売れるかも知れないな」

 

今はこんな小さな屋台だが、ヤツメウナギの外見の偏見を払拭出来さえすれば売れないと言うことはないと直人は感じたのだ。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

自信ありげにヤツメウナギを手渡してきたミスティアだが、焼き鳥と違い見慣れないモノが売れるのかという不安もあったのだろう。

 

直人の希望とも言える言葉に身を乗り出して顔を近づけるミスティアだが、直人と自分を挟んで焼き網があるのを失念していたようで、危うく彼女が一番嫌う焼き鳥になるところだった。

 

「あう・・・」 団扇と同じくすすけてしまった自分の服を見て泣きそうになるミスティア。

 

だがそこは直人が上手く取りなして、話題を逸らし彼女の機嫌を紛らわせたのだった。

 

ミスティア・ローレライはある特殊な能力を持っている為、もし間違って泣かれでもすると直人はともかく周辺の家々が被害を受けかねない。

 

もちろん彼女自身への慰めの気持ちも直人にあったが、彼女の力はそれほど厄介だった。

 

涙を拭い、落ち着いてきたミスティアを横目に、再度受け取ったヤツメウナギを温かい緑茶と共に食べていると、肌寒かった冬に対抗できるまで身体が内側から暖まっていく。

 

肉体的にはもちろんのこと、精神的にも心から暖まるような気がしたのだった。

 

「阿求に話した所為か、懐かしいな。こんな気分になったのは久しぶりだよ」

 

直人はその暖かさと、両親との思い出を重ね合わせながらほろりと涙をこぼしたのだった。

 

「あ、また来てくださいね、さーびすしますから」

 

帰り際、ミスティアがぎこちなく直人に手を振り、直人もそれを返す。

 

何か言いたそうな顔だったが、直人はあえて見ないふりをして勘定を済ました。

 

「ああ、そうさせてもらうよ。そうだミスティア・・・・・・済まないことをしてしまったな」

 

言ってしまった。

 

面と向かって謝ると言うことが、直人にとってどれほど辛い事なのかはいわずもがな。

 

俯いてミスティアの顔を見ないでいるのは、彼女がいまどんな顔をしているのかが、自分を責めるような眼を、蔑むような眼を向けられるのではないかという恐怖があったから。

 

「大丈夫です」 しかし、直人の不安は彼女の一言で打ち破られる。

 

はっと顔を上げた直人をミスティアは、裏表のない本当の笑顔で迎えた。

 

「私は鳥頭で忘れっぽいですけど、直人さんがこの幻想郷の為に頑張ってくれた事は覚えていますから。

 

あなたは、私に出来ないことを変わりにしてくれた。

 

それに、直人さんなら今起こっている事も解決してくれるって信じています」

 

一瞬彼女が何を言ってるのか分からなかった。言葉を咀嚼して頭で理解するのに暫くかかった。

 

分かった瞬間、意味の重大さが理解できて嗚咽が漏れた。

 

彼女は、直人に全てを託し、そして何より信頼していたのだ。

 

「あはは、これは責任重大だな、うん分かったよミスティア、必ず解決してみせるさ」

 

ばれていた、ミスティアに自分の抱えていた負い目を見透かされ、責めるでもなくなお罪を許そうと、いや直人の抱える重い枷を取り除こうとしてくれた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
シリアスパートが多い作品ですが、この回では少し肩を解してくれればと思い書きました。
それでも最後はしんみりムードでしたが……

明日もまたお楽しみください。
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