これからも一生懸命頑張っていく次第ですので、今後ともご意見ご感想をお待ちしております。
次の日、紫との一件もあり嬉しいような、決心が鈍ってしまったような気分の中、また改めて人里の一角にある小綺麗な家を探して、稗田邸へと向かった直人だったが、そこには阿求以外にも人の姿があった。
「ん、ああ直人さんじゃないか、久しぶりだな」
腰まで届こうかと言うまで長い青のメッシュが入った銀髪。
頭には赤いリボンをつけた、博士帽のようなひし形に近いかぶり物を被っている女性。
衣服は胸元が大きく開き、上下が一体になっている青い服を着た、知的な雰囲気を醸し出している女性のことを直人は知っていた。
部屋の襖を開けて阿求が居るであろう部屋に入った直人は、阿求と楽しそうに談笑していたのは、寺子屋で子供達に先生と慕われている上白沢 慧音だったのだ。
直人に気がつき身体を捻った慧音は、昔懐かしい友人に再会したというようにとても嬉しそうに笑顔になった。
「慧音か、そうか君がいると言うことは、もう大方の準備は済んだと言うことか」
「・・・・・・ああ、私としても稗田殿と会い、最期の確認をしようと思っていた所なんだ。
もう少しで、謎が解けそうなんだ。このモヤさえ無くなれば真実が見えてくる、そんな気がしてな。
直人さんは、どうして此処に?」
白く短い袖から伸びる、シミの一つもない手に持った、幾何学模様が無数に乱立した難しそうな巻物を丁寧に巻き取っていく慧音。
何かの暗号を記した巻物だろうか、それを阿求の知識と照らし合わせて解読していたのか。
いずれにしても、最終的な目的は直人の掲げる目的と一致する。
詳しい追求はせず、話をそこでずらして終わらしてしまう。
直人は慧音の独自のルートによる介入を心の中で期待していた。
彼女には彼女でしか出来ない力がある、それに対して自分が横やりを入れるべきではないと悟ったのだ。
阿求はと言えば、直人の姿を見るなりさっそく、昨日しまった巻物を取り出して物語を書き出す準備を始めていた。
「僕も似たような理由さ、最終じゃあないけど最期の抵抗って奴かも知れない。
ああ、そうだ慧音も聞いていくか、僕の過去をさ。何かの手がかりになるかも知れないよ」
「直人さんの過去か、普段から自分のことを話したがらない貴方のことだ、きっとそう言うからには言わなければならない理由があるんじゃないか?
もしかすると、もう犯人が誰かまで分かっているのか・・・」
「だとしても、だ。僕は、僕に頼りっきりになる人間も妖怪も嫌いだよ。
自分のことは自分で解決してこそ、生き物なんじゃないかな」
疑わしそうに直人を見る慧音だが、直人の真剣な顔を見て溜息をつく。
これ以上の追求は話を聞いてからにしようと断念したようだ。
お互い腹の探り合い、火花は散らないまでも居心地の悪い空気が部屋に張り詰める。
「では、直人さん始めましょうか、駄目ですよ仲間同士で喧嘩しちゃ」
そんな気まずい沈黙を破ったのは阿求だった。阿求が墨汁に筆を浸し、未だ白紙の長い紙へとその矛先を向ける。
慧音も直人もそんな恥ずかしい事を、当然のように言う阿求を見てお互いに顔を見合わせ、やがて堪えきれなくなったのか笑い会った。
「うん、そうだ。私は直人さんを信頼しているし、何より仲間だった、背負うのは皆一緒だ」
直人の脳裏に、昨日の夜紫の口から言われたことが思い出される。
「一人じゃない」
本当にその通りだったのかも知れない。
慧音は阿求に言われた言葉と、直人の顔だけで一瞬で怒りの矛を収めてしまった。
それは諦めとは違う、人を信じるというとても難しくありがたい気持ち。
だが信頼は、重い責任と変わる。
のしかかった信頼は決して失敗が許されないという脅迫へと転じ、プレッシャーとなってその人、本人を苦しめてしまう。
そのための「一人じゃない」なのか。
重い荷物を皆で担げば軽くなるように、信頼をかけたモノも、その友人達も協力すれば・・・・・・
「ははっ、そうだね。君・・・慧音や阿求は僕からしてみれば可愛い娘みたいなものだよ。
絶対に死なせたりしない、だから僕に頼るなとは言わない。
でも、考えることを止める事だけは、止めて欲しいんだ。
知能ある生き物ほど、その能力を使わなくなった時、無力になりやすい・・・僕はそれが怖いんだよ」
「直人さん・・・」
今彼らは重大な事件、大事件の渦中にいる。
その事件は今も進行を続けこの平和だった世界を人の感覚では捉えきれない程ゆっくりと浸食してきているのだ。
慧音は「稗田」の一族の編纂してきた歴史をもう一度見直すことで、億の時の流れを頭で感じることにより浸食された箇所を探ろうと。
直人は億の経験を一度文章に直すことで、自身の失敗が現在及び過去にどう影響を与えてしまったのかを知ろうとしていた。
歴史を保存する者、歴史を改変する者、歴史を辿ってきた者、この三者がこの時、この場で顔を合わせることになったのは、果たして偶然なのか。
はたまた必然なのか。
「何処から話したか、あれはそう、冬から春に移り変わって直ぐのことだったな。
当時僕はまだ、風見の姓ではなく篠山と名乗っていた」
正座した慧音に楽に座るように促した直人は、いつの間にか用意されていた緑茶を口に含んでほっと息を吐き出した。
「篠山 直人それが僕の名前で、両親が頭を捻って考えてくれた宝物だった。
今でこそ「風見」を使っている僕だが、別に昔の名前が嫌いだったわけでも、まして捨てたわけでもない。
僕が姓を変えることになったのは、一つのケジメであり、人間だった自分への決別」
直人以外の2人が静に息を飲んだのが分かる。
当然と言えば当然、暗に直人は自分の事を元人間と言い、その最も深い過去を話そうとしているのだから。
本当ならこんな自分自身の過去の話などするつもりはなかった。
しかし、紫に「一人じゃない」とはっきりと伝えられ抱き締められた夜。
直人の中で何かが確かに変わったのだ。
引き込まれる、聞かなければならないと思わされてしまう。
それほどに目の前で微笑み茶をすする、青い着物を身につけた直人の過去は興味深かったのだ
では、次から過去編へ入ります。
この小説の特性上、過去の話が多くなりますがご了承ください。
過去編は、主人公の語りですので三人称から一人称へ変わります。
これからもご贔屓のほど、よろしくお願いします。