未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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夢に出た地雷野原その三


そのさん

「酸欠と、そう診断されました」

「はぁ、そっすか」

「変な走り方するからですよ」

 

 顔を一色を呆れで染めて、チクチクとした土産(小言)を置いて来る先輩。

 どうせなら言付けなんかよりも、フルーツが欲しかった。

 

「街の紹介はまた今度にしましょう。今日は身体を休めてください」

「うっす」

 

 そう言った先輩は先に帰宅した。

 枕元にはカイトの荷物と帽子が一つ。きっとカイトが起きるまでの間、律儀にも待っていたのだろう。レースから一線を引いた身らしく、今はそれなりに暇なのだとか。賛同しよう。こんな所で時間を潰すなど、全くもって暇なことだ。

 意識を失っていた期間は思いの外短くて、目を覚ませば夕暮れが少し強まった程度の経過。

 あの後の選抜レースは、結局仕切り直された。

 勝ったのはえるなんとかさん。スペシャルうんたらさんは、あえなく二着だったらしい。

 ただ、カイトが担架で運ばれてからの空気は、ほのぼのとしたこの学園では類を見ないほどに凍りついていたようだ。その噂は学園中に広まり尽くして、今じゃ原型をとどめていない可能性もありうる。転校早々に流血伝説を作ってしまった。

 

「変な走り方……ねぇ?」

 

 先輩の残した言葉に、ちょいと頭を捻る。

 何処から何処までが変で、何処から何処までが変では無いのか、まずはその区切りを教えてから帰れ。自分勝手ながらそう思ってしまう。

 まあでも、息を止めたままの全力疾走なんて、そりゃ酸欠にだってなります。でも仕方ない。

 呼吸しながらの走り方なんて、知りもしないのだから。

 息を止めたままの方がより集中できて、より高いパフォーマンスを引き出すことができる。

 吸って、止めて。そのままを維持すれば、世界は今よりずっと鮮明になって。思考は瞬時にクリアになって。行うべき事柄も、今よりずっと手が届きやすくなる。

 重いものを運ぶときに。標準を定めるときに。力を込めるその瞬間に、無意識に息を止めることなんてザラにあるだろう。

 それをカイトは、走りながらその状態だっただけで。

 

「独学のツケ、かな」

 

 なんてカッコつけた言い回しをしても後のお祭り。結局のところカイトは、走り方を間違えて覚えたおマヌケでしか無い訳で。そもそもが息を止めて走り続けるなんて、そんなマヌケの極みを実行したバカでもある訳で。

 だから怪我などに敏感で、尚且つお説教の残弾を持ち合わせた緑の悪魔が保健室へやって来るのも、それはそれで道理な訳でございます。

 扉が空いた瞬間、荷物を背負って真横を過ぎ去らんとする。

 

「おはようございます、エイヴィヒカイトさん」

「おはようございます。さようなぁぅばぁっっ!?」

 

 素知らぬフリ失敗。

 こちとらウマ的霊長なのだが。筋力は人間凌駕してるハズなのだが。人類なんかに無理矢理引き寄せられるなんて、あり得ないハズなんですが――――!?

 抵抗虚しくジャージの襟を掴まれて、保健室内のソファーへ放り投げられる。本当に人間なのだろうか。今度事故を装ってその帽子を剥ぎ取ってやろうかしら。スカートの下は流石に確認できません。

 

「し、死ぬかと思った……」

「生き物はこの程度では死にませんからね」

 

 まるで死のラインを知っているような口ぶりだ。まさか本当に?

 生と死は表裏一体。怪我への対応力を高めるあまり、逆に死への理解度が高いものと見た。指で突けば破裂する領域まで近いのかもしれん。

 

「…………」

「すいませんなんでもないですすいません」

 

 たづな神拳なんてバカなコトを考えていれる暇は無かった。当然のように見透かされ、『ニッゴリ(迫真)』なんてオノマトペが付属する勢いで笑い掛けてくる緑のお方。笑顔に濁点を付けるだなんて芸当、流石はたづなさんだなぁと思いました。

 

「何故私がここに居るのか、理解してますか?」

「遅刻の件ですよねすいませんでした」

 

 ノータイム・ノールックお辞儀。説教を長引かせないコツは、素直に頭を下げ続けるコト。多分これ、社会に出ても大切な要素だと思います。

 ペコペコと頭を上下に振り続けて、五分くらいして気付く。あれ? ちょっと長くね?

 いつもなら「まったくもう……」とか言いながら、すぐに解放してくれるのだ。その度にチョロいなコイツとか、内心思ったりしてた訳だが。

 一言も発さないのは、一体全体何故なのでしょうか。

 

「…………」

 

 普段とは違う状況下に、変な汗が背筋に張り付く。

 直感がこれはマズイ気がするって、最大限の警告を促す。ぶっ倒れる時には鳴らなかった警笛が、何故今になって鳴り響く。カイトの危険信号に破損疑惑が出てきた。

 もしくはそれを超える危機が有ったり無かったり。

 緊張を飲み込むように、たづなさんが口を開く。

 

「誰がチョロいんですか?」

「やだなぁ俺は一言もそんなこと言ってないじゃ無いですかぁ!!」

「そうですね、言って()無いかもですね」

「ですよねまったくそんな失礼なこと俺が言う訳ないじゃ無いですかやだー!!」

「ええ、ですから言って()無いですよね」

 

 ――バレテーラ

 笑顔で詰められると、萎れるような喘ぎ声が出てくるらしい。放たれる禍々しき迫力。やはりこの緑は妖怪に違いない。

 矢継ぎ早に縦横無尽なこの口が、そろそろ酸素を欲している。なんだろうか、今日はやけに呼吸したくなる日だ。本当に不思議だ。別に心中を当てられて全然焦ってなんか無いし。本当だし。

 

「……はぁ」

 

 この密かな溜め息こそが、救いへの路と見た。

 

「ワザとではないんですよね?」

「そりゃもちろん」

 

 こうなると知って、誰が自分から進んで遅刻なんてするものか。何の心配をしているかは知らないが、意図してそうなった訳ではない。誓って偶然だ。普通にシンプルな寝坊である。

 

「気が逸って寝不足だったもので」

「遅刻の件も、そうですけど……」

「んへ?」

 

 当てが外れた気分。てっきり待ちぼうけを喰らわせたこと関して、とびっきりの怒なのかと。

 だとすれば、他に何を言及したいのだろうか。

 

「……傷は痛みますか?」

「いや全然。抉れたのは肌だけですし、明日明後日には治ってるそうです」

 

 チラリと破れたジャージから覗けた、清潔感のある白い包帯。

 ターフの緑を鮮烈に染めたが、出血量は見せかけだったらしい。ド派手にすっ転んだ割には、傷もさして深くない。少量の負傷で衝撃を植え付けることに成功したのだ、個人的には案外手応えを感じる幕開けであった。

 自分の持ちうるポテンシャルも垣間見えた。目指すべき方向性は、これからじっくりと見定めればいい。

 

「故障してリタイアするには早すぎますからね」

「そうですか……それはよかった」

 

 まるで自分のことのように、胸を撫で下ろす。そんな心底からの安堵を目にして、カイトは気まずげに頬を掻いた。

 過去に怪我に関することで、なにかしら良くないことがあったらしいが、カイトはそれを詳しく知らない。

 カイトが知っているのは、たづなさんが善人だという事実だけ。

 

「まだ何かあります?」

「……いえ、もう遅刻はしないようにしてください」

「りょーかいです」

「――それと!」

 

 消毒液の匂いはもう飽きた。だからこの場から立ち去ろうとすれば、食い気味に詰め寄られる。

 とりあえずこの人は、自分が見目麗しいって自覚するべきだと思う。こんなに顔を近づけては、それなりの数の勘違いを生み出しますよ。

 

「もう怪我はしないこと!」

「アスリートには難しいことを言いますね」

「返事は!?」

「なるべく善処します」

 

 やっぱ身体を酷使する道を奔る以上、やっぱりそんな保証は出来ない。なので睨まないでください。

 悪意であれば対して堪えないが、善意からの眼光はエイヴィヒカイトへ効果抜群だ。もしかすればカイトは闇属性なのかもしれない。

 

「それじゃまた明日」

「あっ! まだお話は――――!」

 

 今こそ逃亡の時。脱兎の如くボクは走り出す。

 たずなさんは足が速いと知っているが、窓などのショートカットを用いれば充分撒ける。追手から逃れるコツは、施設内を出たと思わせること。

 背後からは追跡者の足音がする。追いつかれれば、朝までお説法コース間違いなし。気づけばカイトは、学園の玄関口へやってきていた。

 視界内から消えた瞬間に、手頃な木へ飛びつく。

 

「――――!! ――!」

「…………なんつー速度だ」

 

 桜の木の下。カイトの足元を、蛍光色の風が通り抜けていく。頭上のカイトには気づけた様子もなく、猛然とした速度で通り過ぎていく。

 豆粒サイズになったたづなさんを見過ごしながら、桜吹雪に巻かれている。カイトの姿は綺麗さっぱり隠されていた。

 さてこれからどうしようか。

 正面から出るのは、鉢合わせの危険性がある。裏口から出ようにも、やはり遭遇の可能性は否めない。

 

「よっし、寝るか」

 

 そう決めて荷物を枕に楽な体勢を取る。欲を言えばハンモックくらいは欲しかったが、そう我儘は言うまい。

 寝た後だからか眠気はあまり無いが、春の心地よい木漏れ日が、カイトをゆったりと癒していく。

 程よくウトウトしてきた頃、何やらワチャワチャと足元でうるさい。

 

「んだよ…………いやなにあれ」

 

 苛立ち混じりに騒がしい方を見れば、誘拐の現行犯を目撃してしまった。

 下手人は三名。被害者は――スペシャルうんたらな娘。

 まさかやよいちゃんの治めるこの学園で、あんなにもブラックな光景が引き起ころうなどと。

 

「えー……意外と治安悪いのかこの学園」

 

 しかし拐い方がなんとも昭和チックというか、ギャグコミカルめいているというか。幼い頃にあんな悪役をテレビで見た気がする。

 にしてもどうしようか。絵面は凶悪そのまんまだが、どうにもあの三名からは悪意が感じられない。パッと見た限りでは、彼女らはむしろ善の類に思える。

 

「……暇は無くなるか」

 

 ともあれ。

 連れて行かれた様子を見る限り、合意の下って訳ではなさそうだ。

 それに、あの娘には何か縁を感じる。なら決まりだ。

 木から飛び降り、時間を潰すがてら、彼女らの後を追う。

 向かった先は体育倉庫のような、学園の規模と比べれば小さな建物。

 乙女の集う、一等星(チーム・スピカ)

 

 

 扉へ耳を寄せて、中の様子を伺っていた時のことである。

 

『獲物からやってきたぜヒャッホーイ!!』

『――――は?』

 

 ヘッドギアをつけた長髪のナニカが、空から降ってきた。

 足捌き体捌き、共に一級品をこの目に収めたのは、ある意味では幸福なのかもしれない。

 美少女であることを投げ捨てるかのようにふざけ切った変顔を伴って、白銀の葦毛が視界を覆った。

 認識できたのはそこまで。気づいた時には室内へ運び込まれている。この間僅か数秒の出来事であります。

 

「エイヴィヒカイトさん!? 怪我は大丈夫なんですか?! なんでここに!??」

「選抜レースではごめんねー。此処にいる理由は俺も知りたい」

 

 葦毛は論外。まともに教えてくれそうな雰囲気を持つ者に、視線で促す。

 

「ゴルシちゃんのファンなんだろ? でもわりーな、アタシのサインは今受け付けてねーんだわ」

「なんだこのイキモノ」

 

 お前には説明を求めてねーんだわ。

 意味不明な挙動を見せた葦毛を睨みながら、事態の説明を切に求める。

 矛先は唯一の成人男性。多分、トレーナー。

 

「ウチのが手荒で悪かったよ。俺はスピカってチームのトレーナーやっててな、これから仲良くしてくれると助かる」

 

 そう言って差し出される手を握り返すことはなく、返す物は冷めた視線だけ。

 座ったまま周囲を見渡して、カイトへ見せる各々の様子を観察する。

 中には見覚えのある姿も見える。どこかで会ったような、そんな古臭いナンパ師のセリフだって出てきそうだ。

 

「……本当に男なんだ」

「超ヤバイ異端児って噂っすよ!」

「……どこかで……」

「テメーがそう来るなら……! アタシはゴルゴル星のゴルシちゃんだい!!」

 

 チームメンバーはこの四名だろう。四人しか居ないのか、四人もいるのか。その辺りの判断がつかない。

 約一名異次元なコトをほざいている輩もいるが、カイトを見た反応は、さして珍しくも無い反応だ。

 見せ物にされたのだ、そろそろ此処に引き摺り込まれた所以くらいは教えて欲しい。

 

「でないとたづなさん呼んじゃいますよー」

「ちょっ、待て待て落ち着け! 勧誘だよか・ん・ゆ・う!!」

「はぁ……勧誘、っすか」

 

 話の前後を鑑みるに、おそらくはチームスピカへの誘いだろう。

 それはなんとも――豪胆なことだ。自分のような腫れ物を引き入れようだなんて、とんだ物好きなのだろうか。

 エイヴィヒカイトを、男のウマ娘を身の内に引き込むこと。その意味を、大人である彼が微塵も理解していないわけではあるまい。

 

「俺と誰かを間違えてませんか?」

「いーや、お前だ。あの選抜レースを見た限り、お前とスペシャルウィーク以外に選択肢は無かった」

「……俺の走りを見て、それでも敢えて選んだ理由って?」

 

 なんやかんやで気になるところではあった。

 後からビデオで見直そうかと思っていたが、やはり自分の眼で測るには、どうしても限界が生じる。この手の評価は周りから、それもその筋の者から聞くのが一番なのだ。

 意識を寄せて、聞く体勢に入る。

 

「トップスピードはあの中では随一だった。ともすれば現役の連中にだって通用するほどのな」

「……でも保たなかった」

「そうだ」

 

 失速なんてものじゃなく、あれは急静止だ。

 トップスピードのまま、燃料が足りなくなってすっ転んだ。

 そうさせたのは恐らく

 

「スタミナ不足?」

「ちょっと惜しいが、ハズレだ」

「ならなんで」

 

 体力が足りないなら、走る力が尽きるのは明白。

 だから息を止めていられる時間を増せば、あんな不様は晒さないと考えていたのだが、それも所詮は素人考えの範疇でしか無かったらしい。

 

「ペース配分だ」

「……続けて」

「お前、何も考えないで走っただろう?」

 

 それは当たり前だ。なりふりを構うことなく、全力を出し切るのがあの場だったハズだ。

 であれば些細な思考など投げ捨てて然るべき――

 

「――そゆこと」

「レースってのは子供の五十メートル走とは違って、千単位の距離を分単位で走り抜く。当然千メートル以上の距離をハナから全力で走れば、これまたスタミナがどうやったって足りなくなる」

「だから抑える走り方も必要になってくる?」

「その通りだ。……だがな、その走り方さえ覚えちまえばお前の敵はそういない。お前の最高速についていけるやつなんて…………」

 

 そう言い淀んで、チラリと部屋端へ目を向ける。その先には、どこぞで見た気がする人参色な娘。

 なんでか睨まれている。ナニカやらかしたかを探るも、記憶の片隅すら引っ掛かりはしない。意識せず粗相でもやらかしたのでしょうか。

 

「…………」

「……とにかくだ! お前は基礎を学べば確かに光る原石だってことだよ!」

「あ、配分とかって基礎なんすね」

 

 その辺の知識は、走る者たちにとっては常識らしい。カイトの無知さ加減が露呈した瞬間であった。恥ずかしい。

 なんにせよ、目下の目標が一つ決まった。当分はそのペース配分だとやらを学んでいこう。てんやわんやと此処へ連れてこられたが、聞いて損はなかった話だった。

 得たものはあった。もうこの場に用はないだろう。

 

「アドバイスありがとうございます。それじゃ俺はこれで……」

「っとぉ! 話を聞いたからにはタダじゃ返さねぇぜ……!?」

「クッソ……っ!? 流れで逃げたかったのに……っ!!」

 

 クルリと踵を返せば、羽交い締めにされるエイヴィヒカイト。やたら美人でスタイル抜群なのが、逆に果てしなくムカついてくる。なんだってこんな容姿で、こんなギャグみたいな言動しているのだ。

 

「入るチームとか決まってるのか?」

「……いや全然ですけど」

「ウチは他とは自由度が段違いだぞ?」

 

 そのワードには、少しだけ惹かれた心がある。

 チームへ入ることの有用性は言うまでもない。自分一人だけでは、成長度合いはいずれ頭打ちになる。これからを考えるなら、どこかしらのチームへ入るのは不可欠だ。

 自由にできるという点も、それなり以上に気になっている。

 

「放任主義ってことですか?」

「個性を伸ばす、な?」

 

 変にトレーナーから押し付けられることもないのなら、確かにこの場所はやりやすいのだろう。

 だからあともう一つ、というか最低限妥協できないラインがあるかどうかなのだが。

 

「このチームって強いんですか?」

「将来性は抜群だな」

「…………そっすか」

 

 分かりやすい指針はないらしい。

 別に強豪でないと嫌だという訳ではないが、一つくらいの実績はあって欲しい。

 その手のアピールポイントは無いのだろうか。

 

「……スズカさん」

「ん?」

「スズカさん、すっごいんですよ!!」

 

 突然のパッションが、静かだった隣から弾け飛ぶ。その様はまるでファンガール。

 

「スズカサン?」

「……サイレンススズカです」

「あ、これはどうもご丁寧に……」

 

 物腰柔らかく、静かな印象を受ける自己紹介だった。静謐というよりはクール。間違っても葦毛とは比較にならないくらい、お淑やかだろう。この感じではっちゃけガールなら、カイトはもう世界というものが信じられなくなる。

 スペシャルな娘曰く、このサイレン某さんはすっごいらしい。

 そんな熱量で大雑把に説明されても、自分の理解力では測れない。

 するとタイミングを図っていたように、男性トレーナーがDVDプレーヤーを持ち出してくる。

 

「そうだな……入るかどうかは、これを見てからでも遅くはないと思うぞ」

 

 やたらと煽ってくるが、これが満足いかない内容だったらどうしてくれよう。ドロップキックでもプレゼント・フォー・ユー?

 そんなことを考えながら眺めた画面の中で、とあるレースの映像が流れる。

 画面外の人参色が、画面内でゲートに入り――そうしてレースは始まった。

 結果だけを端的に。

 この後エイヴィヒカイトは、一枚の紙に名前を記入する。

 記入した後に、すぐさま帰って、寝て、朝に起きて登校する。

 授業を終えて、向かう先は再びこの小屋。

 映像の内容は、それなりに満足のいく代物だったとだけ。

 

 

 自分とトレーナー以外が帰った、スピカの部室。

 一枚の紙を前に最終通告を行う。

 

「本当に良いんですか? 俺、それなりのトラブルメイカーな自覚有りますよ」

「それはそれで面白そうだってのが、お前を誘った理由の一つだな」

 

 怖いもの見たさみたいな感覚だろうが、その内面倒事が舞い降りてくるだろう。

 その時に知るのだ、エイヴィヒカイトという、例外の特異さを。

 

「後悔しますよ」

「そりゃ楽しみだな」

 

 これ以上はきっと無粋だろう。この人はやらずに後悔より、やって後悔を選ぶ人だ。ならこれ以上の問答は、無用でしかない。

 空白に、自らの意味を刻む。

 エイヴィヒカイト。その名の通りに、その名を刻む。その為にこの場所は、確かな力となる。

 学べるものは学び尽くそう。吸えるのなら吸い尽くそう。喰らえるのなら、喰らってしまおう。

 踏み台にしかならないのなら、踏み潰そう。

 

「これでいいですか?」

「ああ、ようこそスピカへ」

「よろしくトレーナー」

 

 一度は無視した握手を、今度は受け入れる。目を細めた満面の笑みで、契約を交わす。

 これからの展望に胸が弾む。明日からの生活にワクワクしている、などと言ってしまえば――――きっと全部嘘になる。

 

 

『お前の目標はなんだ?』

 

 トレーナーから聞かれたから、答えた。

 

『とりあえず最強になる』

『とりあえずって……そんな軽い気持ちでなれるものじゃないのよ!』

 

 ダイワスカーレットから怒られたから、説明した。

 

『最強程度の称号が無いと叶わない夢だし、仕方ないだろ』

『エイヴィヒカイトさんの夢って、なんですか?』

 

 スペシャルウィークから聞かれたから、誤魔化した。

 

『ナイショだ』

『そう言われると気になりますよ!』

 

 ウオッカからせがまれたから、濁して答えた。

 

『歴史に名を刻む、としか言えない』

『ほぉー? アタシを差し置いてゴルゴル国の教科書に載るだなんてビックバン以前まで――――』

 

 ゴールドシップがうるさいから、無視した。

 

『……貴方にとって、レースはなに?』

 

 サイレンススズカに聞かれたから、正直に答えた。

 

『手段ですね』




アニメ一話終了感

あーあー、ビヨンド地上波でやらねーかなー
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