未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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この地雷を食って後味の悪さで体調悪くなってくれたら柿の種の勝ち

バカが足掻いた怒涛の一年ちょい、レッツダイジェスト


未踏領域で『果てる』

 ――――少しだけ、電話を取るのに躊躇した。

 

「…………」

「カイト……?」

「……いや、出るよ」

 

 正確には名前ではなく、設備の固有名詞。人名等ではなく、もっと無機質な文字列。

 そこから掛かってくる覚えは、二つくらいある。でも頻繁に連絡を取っていた訳でも無い。此処の施設との電話なんてそれこそ数年振りで、そこからくる予感は、途方もなく嫌な予感を強制させた。

 そして、恐る恐るその通話を繋いだ。

 

「……はい、エイヴィヒカイトです」

「――――」

 

 身体が震えるのは、大きく分けて二つの理由。一つは暖房の電源を入れて間もないこの部屋が寒いから。

 もう一つは、足元が崩れるような幻覚を見ているから。

 ひどく落ち着いたその声は、パニックを誘わないような配慮なのだと理性は考えてくれた。彼方もプロだ。そんな現場なんて幾度も目にしている。状況に慣れているからこそ、冷静で的確な行動ができる。だからこそ、カイトを刺激しないように話せる。

 

「――はっ……? そん、……ぁ……っ?」

 

 でも、そんな気遣いをただの冷血だと思い込んだ、そんな醜い自分を自覚する。

 ――――他人行儀でよくもぬけぬけと。お前の人生には関わりがないから、そこまで冷静でいられるのだろう。これがお前の身内だったらと考えたことはあるのか。そんな事柄を事務的に伝えられて、どんな心境になるのかなんて想像もできないのか。

 そんな、罵声の限りを尽くしたくなる衝動。

 その衝動を、抑えることなく解き放とうとして――――

 

「ぅ……そ、だ――――…………――――――――」

「カイト!?」

 

 ――――目の前の世界は掻き消えた。

 きっと、そこが分岐点なのだ。

 耐え難い現実は、押し寄せる災害のように唐突で、そのくせいつだって致命的に抉ってくる。耐え切れずにホワイトアウトしようが、夢として処理させてくれるほど現実が優しかった覚えはない。

 父親がいなくなってから、今年で果たして何回忌になるのだろう。毎年一ずつ追加されるそれを、数える毎年がどれだけ虚無なのだろう。

 そんな作業は、今年から二倍こなさなければならない。

 絶対の最愛を、喪いたくなかった大切を、掛け替えのない最後の砦を、カイトはあっけないくらいに奪われた。

 

 ――――死に目は見なくていい。

 ――――別れの言葉はどうでもいい。

 ――――奮い立たせてくれた感謝は最高に。

 

 世界が燃えていく。エイヴィヒカイトを支えていた世界が、火加減を無視して焼かれていく。

 三日と経たない内に、顔を見ることもなく、一人だけの火葬は滞りなく進む。式が始まってから、エイヴィヒカイトが見ているのは棺桶の木色だけ。中に眠る人を見ようとも思わない。

 さっきまで周りには親戚連中もいたが、気を遣ったのかいつの間にかエイヴィヒカイト一人だけだ。

 今更そんな気遣いはどうでもいいのに、要らない気を回す連中だ。

 

「……」

 

 焼ける棺桶へ向かって、頭に乗せていたモノを投げ入れた。

 アレに縋る必要も無い。思い出も、これからのカイトには不要なのだから。

 

「……はっ」

 

 高級感のある白色が、黒く焼けて崩れていく。その光景に感情が込み上がって、表情は煮詰まった感情をこれでもかと表現する。

 こうすることでしか、自分の表現の仕方が分からない。

 腹に不快感があるような気がするが、気のせいだ。呼吸が回らないのも、喉をせりあがる感覚も、あまりにも大きな感情が笑顔として無理矢理出力されているから。

 

「ははっ」

 

『これっ、とうさんとおれでえらんだ、たんじょうびぷれぜんと!』

『あら~ありが……とう――――!? ぁあ、開けて見てもいい!?!?』

 

 燃えてくれ。

 

「あははは、っはは」

 

『もちろん!』

『なにかしらなにかしら……! ……これって、帽子? でもこれは……』

『……はぅっ!?』

 

 燃えろ。

 

「くはっ、ははは、っ」

 

『ごめんなさい……おれ、うまむすめようとまちがえて……』

『あらあら……確かに耳が隠れちゃうわね~』

 

 燃やせ。

 

「はははははははははははははは!!」

 

『ぁぅ……ごっ、ごめっ、ごめんなさいっ! せっかくの、たんじょうっび、なのに……こんな…………ぅっ、ひぐっ……』

『……ううん、これでいいの。カイトが間違えても、わたしはこれが一番嬉しいのよ。世界で一番大好きな二人からの贈り物だもの。二人で選んでくれた、この帽子が一番嬉しいわ』

 

 思い出も、未練も、形見も。

 愛しかった存在も。

 

「あははははははっ!! あはははっ、!! ひ、ひゃっははははははははははははは!!!! ぎゃははははははははははははははっっっ!!!!」

 

『だから顔を上げて』

 

「くかかかかかかかかかか!!!! あっはは! あははははははははははははははは!!!!  ぎゃはっ、ははははははははは、!!!! ぎゃははははははははっはははははは!! ぐぎゃはははははははははははははは!!」

 

 全部、全部全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部。

 灰になっちまえ。

 

『だから――泣かないで』

「――――泣いてないよ。だから大丈夫」

『カイトが笑ってくれれば、お母さんはすっごく嬉しいんだから』

「こんなに俺は()()()()()。だから安心して」

 

 ポジティブに行こう。考え方を変えよう。

 重荷が減った。エイヴィヒカイトの中心の多くを占める、構成要素が大きく消えた。だからエイヴィヒカイトは目的に、夢へと確かに近づいた。

 そう考えることに()()

 

「俺はしっかりと夢を叶えるから、母さんは父さんと幸せでいてね」

 

 最期のその後があるのなら、あの二人は一緒に居ることだろう。

 最期のその後がやってきたのなら、自分は二人の元へは行かないだろう。

 裏切りを続けた身で、しかも二人を殺した元凶が、二人と幸せにいることなんて許されやしない。

 生者のみが受け取れる苦しみの果てに尽きる。夢に一つの絶対条件が追加された。

 

「手段なんて選ばない」

 

 使えるモノはなんでも使う。

 自分へ向けられる優しさは、今までは煩わしすぎた。

 でも使うと決意すれば、それらがどれほどの利用価値に溢れているのか、やっとながら気づけた。

 

「早く、死ななきゃ」

 

 親の死を笑うことでしか見送れないクズ。文字にすれば単純明快だ。こんなのは死んだ方がいい。それも痛み無く、なんて甘いことは言わずに、痛みに塗れて不快に浸って苦しみながら死ね。

 有象無象の悪意は道具。

 色んな人の善意も、全部道具。

 これまで以上に優しさへ漬け込んで、何もかもをも踏み台として嘲笑おう。

 

 

 それからの日々は忙しいを極めていた。忙殺されるのを望んでいた訳だから、忙しくなければ困る。

 ジャパンカップを制して次の日。

 

『世話になった』

『本気、なのか……』

 

 ここにいれば、レース自体に出れなくなる。意志はある程度汲んでくれるだろうが、絶対ではない。一度の欠場は論外だ。起こり得る可能性を思えば、チームスピカにはもういられない。

 

『ここじゃ俺の夢が叶うかは、割と賭けになる。トレーナーの責任でもなければ、スピカのみんなが悪い訳じゃない。単に目的とそぐわないってだけだ』

『……この後はどうするつもりなんだ』

『独学かな。テキトーなヤツを見繕って、俺は勝ち続けるさ』

 

 次のトレーナーと契約を結んだのは、それから一週間もしない内だった。

 既に前から目についていた、この学園には珍しい俗物。担当の結果を自らの成果とイコールと思い込む、この学園には相応しくない俗物。

 しかし今回はそれがこれ以上なく功を奏す。結果だけに注視するのなら、エイヴィヒカイトはこれでもかと好物件だろう。しかも良い噂を聞かず、スカウトにも失敗続きと聞いていた。重ねた情報から、愚物の疑いがより強まる。だからこそ、こちらとしても都合がよい。

 

『アンタは書類を書いてくれりゃいい。そうしてくれる限り、俺はアンタの評価を高め続けるよ』

『――――!』

 

 何を喋ったか忘れたが、契約が済んだのなら良い返事を貰っていたのだろう。興味が湧かないのは良いことだ。届かせる結末を思えば、スピカのトレーナーよりもこっちの俗物の方がマシ。一応は世話になった相手としての、最後の気遣い。

 

『――――なので、URAへの妨害ってんですかね? 俺の邪魔をしないようにしてくれたら最高です』

 

 次に行ったのは、メジロ本家への挨拶。そして後ろ盾としての懇願。

 正直これに関しては望み薄だと思っていたが、そもそもメジロ家との確執なんてエイヴィヒカイトの一人相撲でしかなく、それはつまり使える。当主本人もエイヴィヒカイトを一人にさせた負い目があると見抜き、昔からの好感度が引き継がれているなら利用難易度は著しく下がる。

 

『お願いします。俺の夢を叶えて――母さんたちへ届けたいんです』

『……分かりました。そのような障害はメジロ家が排します。貴方は存分に夢へ駆けなさい』

 

 母親を亡くしたばかりという立場も使える。同情を引くのに容易い。この免罪符が利く限りは、周りの協力を取り付け尽くそう。

 だってほら、こんなにも簡単に釣れる。

 

『やよいちゃ……いいや、理事長。お願いします』

『傾聴ッ! ……他ならぬキミの頼みであれば聞こう』

『そうか……ありがとう』

 

 子供にならそれも顕著だ。たずなさんがストッパーになっているのは重々承知している。それは翻って、たずなさんがいない時は簡単に陥れることが出来るということ。

 これで授業等の免除が決まった。今まで過ごしていた無駄な七、八時間を、有意義なトレーニングに費やせる。そして住居もアパートは引き払って、学園内で過ごさせてもらうことになった。使われずに埃の溜まった事務室の狭苦しい一室だが、どうせ寝床としてしか使わない。極論寝袋を敷けて雨風を防げるスペースが欲しかっただけだ。

 場は整えた。これで滞りなく自己を高め続けられる。

 喪失の代わりに強力な動機も手にした。『親を喪って、振り払うように夢へ邁進する』、と。そんな姿は身を捨てて走ることへの説得力になる。ゴシップに集られそうだが、そうなればメジロ家を使えばいい。

 有記念では()()()()()()()を撫で切った

 

『ッハ――! っ、! 負け、たっ、!』

『次だ』

 

 休まずトレーニング。走り込んで走り込んで、偏らないように上半身も鍛える。

 適正の合わないフェブラリーステークスでは短距離でも力を示した。

 

『次』

 

 感慨に耽るなどあり得ない。そう断じてトレーニングに没頭していれば、プランCの功績か、息が日常の中でも切れるようになっていた。走った後には四肢の末端が軽く痺れて、力を籠めれば痛みが鋭く突き刺さる。

 構わず没頭した。

 

『負けちゃいましたわ~』

『まだ……勝てない……っ!!』

『次』

 

 天皇賞を大差で済ませれば、痺れの頻度は増してくる。その範囲は手足だけでなく、舌にまで回りだして活舌が悪くなり始めた。でもこの頃には誰かと会話すること自体が減って、問題なんて何処にも無かった。

 切れる呼吸でトレーニングを続ける。デモンストレーションと称してタイキシャトルと並走する機会を手に入れたが、本気の彼女を一蹴する程度の速度をいつの間にか手に入れていた。

 この辺りから、休息時間は睡眠時間とイコールになった。

 

『こんなに遠かったの……っっ!?』

『私じゃ、不足ですか…………どうして、こっちを向いてくれないの……』

『次』

 

 高松宮で雑魚を蹴散らして、安田記念でキングヘイローとグラスワンダーを気づけば負かしていた。二人存在を後になって気づくくらい、世代との実力は乖離していた。

 ふと、ランニング中に頭部の血液がかき回される感覚に襲われる。ふらついた脚は空回って、嫌な挫き方をした脚は、前々から痛めていた靭帯を損傷まで追い込む。しかしこのまま走っても後遺症は薄く、せいぜいが一年後に走れなくなるだけだったから、気にせずプランに従って鍛えていた。

 

『何故、縮まらない……っっっ!!』

『…………私じゃ、勝てないです』

『次』

 

 宝塚でレコードを大きく塗り替えた。これより先で走るレースは、悉くのレコードが過去になっていく。

 昼食の時に匂いを感じず、鼻詰まりかと思えば単純に鼻の利きが悪くなっていた。そういえば味も薄く感じていた。老化には早すぎるが、はたして。

 気づかず引き起こされていた数々の疲労骨折は、勝手に修復されて脚の形を歪にしている。アグネスタキオンへ相談したが、走る事への障害にはなっていないらしい。

 なら問題無いと、トレーニングを続けた。

 

『【これが、極東の魔王か……完敗だ】』

『やっぱり強すぎるよ……カイトさんは…………』

『次』

 

 後から聞かされたが、外国から色々とやってきていたらしい。有象無象と大して変わらなくて少しだけ驚いた。そしてこのタイミングでのインタビューでは、好青年を演じて強者を焚きつけた。

 ジャパンカップを終えてから眼鏡を付け始める。老眼鏡がなければ人の輪郭も危うい。つんざくような耳鳴りは四六時中酷い。匂いは何も分からない。味はギリギリ、激辛か激甘でちょっと分かる程度になった。しかし数カ月前からサプリでの栄養摂取に切り替えていたから、さして問題は無かった。

 脚の爪は砕けて戻ってを繰り返して、捻じれて醜く成り果てた。脚の形は変わりすぎて、靴をオーダーメイドしなくては履けなくなってしまった。

 いつからか酸素吸引を定期的に繰り返さないと、意識を失うようになっていた。心肺の強度は緩やかに低下を続けて、あと数ヶ月で走れなくなると。それどころか普通の生活も不可能だと診断される。個人用酸素吸引機とは、これから一生を共にする仲になるのだとか。

 けれど気にせずトレーニングを続けた。

 ――――そして、有記念。

 

 

「――――、――――!」

「あいよ」

 

 何を言われたっけ。どうせ勝てとかそんな話だろう。

 これでもかと勝利の証を刻むのだから、心配など不要だ。

 ジャパンカップでの発破が効いたのか生徒会の面々や、サイレンススズカや、果てはミスターシービーなど、予想以上の面子が勢揃いしている。この中に紛れるのは、木端程度なら緊張も当然だろう。好戦的であるなら、闘志をたぎらせる者もいる。

 そんな中心で、そよ風のように空を眺める。

 そう言えば父親がいなくなった日も、こんな風に冷たい風がそよいでいた。

 

『お前、もう邪魔だ』

『え?』

『お前のお節介がウザくて気持ち悪いって言ってんだよ』

 

 母親がいなくなった日も、こんな風が吹いていた。

 屋上の中心で、過剰に強く、乱暴なまでに突き放した瞬間。

 

『もう関わらなくていいよ。目障りでうっとおしいから』

『かい、と、、?』

『黙れよ。何もできないくせに、邪魔ばかりして。名前も呼んでくれるな。俺の誇れるものに、お前程度が触れるなよ』

『……――――、』

『二度と喋りかけてくるなよ。目線も合わせるな。金輪際、俺の世界に入ろうとしないでくれ。……お願いしますね――――()()()()()()()()()

 

 あれはナイ。ちょっと酷過ぎると自分でも思う。

 けれどあそこまでやって、初めて関係性を絶てるのだ。あれは間違いなく必要なことだった。斬り捨てたからこそ、障害は存在しなくここまで来た。

 

「やっと、死ねる」

 

 好きだった娘を切り離して、つかみ取ろうとしているのだ。

 最高の未来へ辿り着ける。きっと行ける。

 根拠なんか要るものか。捨てた分軽くなったから、その分前へ進みやすいってだけの話。

 

「俺の最期の晴れ舞台」

 

 派手に散って見せよう。

 未来へ届くように。現在を穢すように。過去を侮辱するように。

 ウマの歴史よ、血の色に染まれ。

 

 

 結果だけを此処に記す。

 エイヴィヒカイトは()()()

 二十を超越した圧倒的なバ身差で、ゴール板を駆け抜けて、その瞬間に湧き上がった歓声を一身に浴びながら、全てを即座に悲鳴へ変換させる。

 勢いを維持したまま、彼は頭を思い切り地へ叩きつけた。笑いながら、口を孤月に曲げながら、目に見える景色を呪いながら、意図をこれでもかと込めて、それでいて外から見ればたまたま躓いたように見せて、その狂気は――――とうとう実行された。

 ターフがいくら柔らかな芝に包まれていても、その奥に隠れた土は積み重なって、壁の如く硬い。

 自動車なんて容易く凌駕した速度で、脳漿はぶち撒けられる。ほぼ同時に首の骨は粉砕される。それでも笑ったまま、世界からの接続は途絶して、プツリと永劫の通信エラーが発生する。

 赤く染まるゴール板。赤く染まる緑だったターフ。歪に折り曲げられて、回転して前転を繰り返して跳ねる、エイヴィヒカイト()()()肉体。

 

『…………――――――――?!!?!?』

 

 パニックの分類だろうが、その光景はもはや暴動だ。

 そうした無残な死体を残して、史上最高と呼ばれた舞台は、いつしか史上最悪と呼ばれるようになった。

 民衆へ遺したのは嫌悪感だけ。有象無象へ刻んだのは未来への不安。

 今際の際に強く願ったのは、どうか誰も、これ以上走らないでくれますように。

 その後の世界を彼は知らない。

 しかし悲しむ者はいた。絶望する者もいた。そしてそれを知っていたから、だからこそ、その遺された者達は自分が消えた後でも使()()()のだと確信していたのだ。

 どうかその鮮血の記憶を語り継いで欲しい。願わくば、レースの意味が死ぬその日まで。

 それだけを強く願った。

 ああ、違いない。俺は確かに――――未踏領域で果てたのだ。




・バカ
 本筋の方では近くにセーブさせる大人(主にトレーナー)がいたけど、こっちじゃむしろ助長させる奴だけだから、肉体の限界はすぐにやってきた。安田記念辺りで一般的には引退して当然のライン。それでも走り続けることを可能とさせたのは、気合云々の他に止めようとする者の少なさ。これを予期してスピカから離れた。
 本格期が来るタイミングは世界線の変更部分というご都合主義。もっと後で来るハズが、その前に残量が尽きた。
 努力の果てにある末路。その究極系を待望の形で見せつけて、目論見通りにその鮮烈さは伝播する。事故(笑)の原因はトレーナーから強要された、激しすぎるトレーニングのせい、って事になるよう細工して、その責任は全て俗物の元へ向かった。そう報道されて、そういった事が起こる世界なのだと、若者へ示す事に成功したのだ。
 本懐を果たしてこと切れる間際は、それどころか死体となっても心底から嬉しそうな顔をしていた。それを見て近しかった者たちはもっと泣いてくれ。てか泣き叫べ。しかし本筋より友達は少ないから泣く人達も少なめ。泣く人少ないのは良いことだと思う(目逸らし
 遺言で、『遺灰は全部海に撒いて、名だけの墓は日本で。くれぐれも両親と同じにしないでねっ♡』みたいなことを書いてたとか。
 とりあえずマッチポンプがいなくなって良かったね、アルダン! 傷をつけた張本人は永劫に姿を表さないね! やったね!
 ほら、笑えよ。

・スペシャルウィーク
 飄々とした態度すら出さず、冷徹と取れる様子で淡々と勝利を積み上げる姿は凄いとは思うが、その背中に勝てるとは考えられなかった。対抗心すら生まれないほど差を隔絶させたのは、半年の入院期間が消えたからでもある。
 心の内を知れればともかく、他者とのコミュニケーションを絶ったバカを知る機会は無くなって、ついに理解者にはなれなかった。知れれば何か変わったのだろうかと、後悔のような影が付き纏う。
 目論見が刺さって欲しいとオリ主が望んでいた、一人目。

・グラスワンダー
 本当に眼中にすら入れてくれなくなって、一時は奮起したが差は離れる一方で、その焦りが本来の才覚を抑制させる結果に終わる。話しかけてもつまらなそうにしている目線が気に食わないけど、そんな心証を覆せない自分が一番気に食わない。
 追いかけた背中は、永劫の憧憬になって終わった。きっといつまでも追いかけ続けて、絶対に届かない確信は絶望だけを積み上げていく。
 目論見が刺さって欲しいとオリ主が望んでいた、二人目。

・トレーナー
 後悔の渦。俗物にキレ散らかすも、チーム脱退を認めたあの瞬間の自分を責めて、更なる後悔が降り積もる。『どうしてあの日に引き留められなかったんだ…………!!』、毎日ハナさんと飲み明かして、吐き出す日々はとめどない。
 これがトラウマになって、チームスピカはこれ以上チームメイトを募集せずに、空中分解していけばオリ主の目論見へ助力することになる。

・サイレンススズカ
 復帰の理由であるオリ主にリベンジを燃えさせてたけど、もう一生リベンジできないねぇ。永劫の勝ち逃げをされて、今までのような自由な走りはどこかぎこちなく、誰かに夢を見せられる姿は、もう何処にもない。逃げウマは目の前に背中があると本領発揮できないからね。一生消えない背中が目の前にあるもんね。仕方ないね。
 目論見が刺さって欲しいとオリ主が望んでいた、三人目。

・マルゼンスキー
 目を掛けていた後輩が、マジで目の前でぶっしゃ〜(控えめ表現)って噴水になって、ひっそりと現役から退いた。
 何故気づいてあげられなかったのかを考えたが、やはり答えは出ず、今後は後輩に目を掛けること自体が少なくなる。彼女に励まされる原石達も減り、業界衰退へ多少なりとも貢献してしまう。
 めっちゃレジェンドだし、目論見が是が非でもブッ刺さって欲しいとオリ主が待望していた、四人目。

・シンボリルドルフ
 バカを糧に、己の夢を成就せんと進める強者。
 でもいかんせん努力の先にあるバカの姿はあまりに強烈に焼き付いて離れず、業界を推進させようとする働きは、以前よりも控えめになった。とはいえ会長として、皇帝として自ら背負った責務は果たそうと頑張る。
 目論見が刺さって欲しいとオリ主は望んでいた五人目だが、多分厳しそうと感じていた。

・理事長
 母親が知り合い繋がりの縁。根が年下の面倒見のいいオリ主は、身の丈に合わぬ責任を背負うやよいを励まして、相談相手になろうと努めていた。半分は打算に満ちていたが、もう半分は純粋な善意。
 自分が遠因だと悟れば、それはもうメンタリティが揺らいで揺らぐ。年上の頼れるお兄さんみたいな存在だったので、初恋相手だったかもしれない。そんな相手を死へ押し出す要因となった、やよいちゃんの精神状態は如何に。

・たずなさん
 母親が学生時代の同期で親友。つまりオリ主は、親友の忘れ形見だったことになる。
 オリ主に対しては、手は掛かるが心底迷惑だとかでなく、『まったくもう……』みたいな感じで、軽く笑って窘めるような、悪くはない関係性だった。かなり気に入っていたし、憐憫の情も相まって、養子縁組の話なんかも提示したりしてなかったり。
 息子が出来たらこんな感じなのかと、弟がいたらこんな感じなのかもと、家族に近い絆を互いに感じていた。が。
 そんな絆よりも、バカは自殺願望を優先しました。自分との絆よりも、死ぬ方が優先順位が高いって、結構メンタルにダメージ高そう。しかも実行したしなおさらかもしれん。

・メジロマックイーン
 泣いた。叫んだ。喉が枯れて裂けて、そして泣き叫んだ。
 十年前の記憶も甦って、追加のトラウマを刻まれて、再起不能となる。
 夜な夜なうなされて、いないこと実感して、日々心は潰れていく。
 救える存在がいない訳だし、救済がずっと成されないまま月日は過ぎていく。てか救われてくれるな。光の消えた瞳で、起こり得ない帰りを待ち続けてくれ。
 冬の季節が大嫌いになった。
 目論見が刺さって欲しいとオリ主が望んでいた、六人目。

・メジロドーベル
 その日は一日中何が起こったのか理解してなかったが、寝てるうちに見た夢の中で、誇張されたリフレインを見せつけられた。それでも認めようとしなかったが、葬式でやっと認めざるを得なかった。もうお肉料理は食べられないねぇ。特に焼いた肉とか見ただけでオカシクなれ。
 毎日毎夜その瞬間を夢に見る。止められたかもしれない側として、後悔と痛みを抱えて生きていく。
 傷は一生涯消えず、永遠に背負わされる。

・メジロブライト
 普段とはかけ離れた姿で取り乱し、意外な一面を衆目へお披露目した。大きな声をあげて泣き叫ぶ。そんなギャップは、きっとファンも増えるぞやったねブライト。
 咄嗟に縋りついた時の温度がトラウマ。似たような温度に触れれば体調は即座に急降下して、顔は真っ青の体温も低下して、貧血も引き起こる。なんなら余裕でリバースもあり得る。過呼吸も追加して幻覚幻聴も足しとこっか。
 他のメジロ家より間近で見たから、黒み掛かった赤色には敏感に反応する。具体的にはその場で蹲って、頭を隠すように抱えて、何も見ないように目線を下にして、何も聞こえないように『あああああああ!!??』みたいな叫びを枯らす。そんな末路であってくれ……たのむ……っ!

・メジロライアン
 ドーベルやブライトを慰めるのに必死で、あまり後悔の念とは縁がない。訳がない。
 他のメジロ家を慰めて、自分と向き合わないように努めている。向き合えば即座に自分も潰される予感があるから、その余裕を無くすような日々を過ごす。
 弟のような存在が飛沫となって消えた。そんな現実からギリギリ目を背けて、そんな間に合わせのような日々が、果たしていつまで保てるのだろうか。芸術作品の完成は近いなこりゃ。

・メジロパーマー
 明るい友達のおかげで割と傷は浅い。他よりも関係性が薄いのも幸いしていたかも。
 けれどオリ主の到達点は誰しもが行き着く結論でもあると気づける余裕もあった。
 自分はアレを目指すのかと恐ろしくなって、ああなるのかと忌避して、そんな自分に嫌悪感発令。割とオリ主の目論見通りな被害者。

・当主のばっちゃん
 父親は不慮の偶然ではあるが、母親は自分達がどれだけ手を尽くしても零れ落ちた。挙句、自分が手を貸した事が遠因となって、最後の彼もいなくなった。彼等が遺したモノは何一つ無くて、守り繋げるモノも無い。自分達には、彼等へ施せる事柄が何も無いと知り、無力感に苛まれる。特に、孫のように思っていたオリ主の喪失は大きいとかなんとか。
 メジロ家の今の世代は軒並み曇り、その背中を見た次世代のメジロ家の者達はレースへ臆する。業界衰退へ手を貸すこととなった。

・エイシンフラッシュ
 一番近くにいた肉親なのに、何も知らなかった。叔母がいなくなった悲しみにくれている間に、オリ主はもう手遅れとなっていた。何もできる事がなかった。
 オリ主を近くに感じる日本から、逃げ出すようにドイツへ帰国する。
 せめて墓は両親と同じ場所にしようと当然のように思っていたが、遺言で『墓は日本』との記述があり、最後の気遣いすらも施させてくれなかった。この頃には憔悴の表情を極めていた。
 日本から遠く離れたドイツの地には、二人の名が刻まれている。でも、二人が愛した名前はそこにない。

・バカの母親
 きっと彼女の抱擁一つで止まる。でもそうはならなかった。
 ある意味最大の戦犯。責めるのも酷だが、突き詰めればそうなってしまう。けどこんな末路に一番嘆いているのも、やっぱりこの人なのかもしれない。
 尚、早く目を覚ませば覚ますほど、オリ主の身体は健康体へと近づいていく。
 学園入って即目を覚ましていれば、キャッキャウフフで平和な学園ラブコメだと!? まあ起こらんやろなぁ。

・バカの父親
 きっと彼のゲンコツ一つで止まる。でもそうはならなかった。










・メジロアルダン
 そっち側に行きたいのに、周囲は私を縛り付ける。
 傷を与えてくれた彼の元へ向かいたいのに、どうしてみんな止めるの?
 ここじゃ私は笑えないのに、元気なんて出る訳ない。
 手段なんて選べない。疾く向かわないと行けない。彼を独りになんかさせない。彼の手をずっと握っていたかったのに、どうしてみんな邪魔をするの? 幸せが待つ方向へ進みたいのに、私と彼が再開するまでには障害が多すぎる。
 辿り着くんだ。諦めずに進んだ彼のように、迷わず進むのだ。
 進んだ果てに、きっと求める存在がある。

「――――うそ、だもの」

 私にはわかる。思っても無いことを言う時、締めに彼は痛そうに笑う。
 だからあの時に突き刺さった言葉の数々は、嘘だ。全部ウソ。心の籠らない、虚言で満ちていた。――――そのハズだから。

「早く、死ななきゃ」

 海になら、彼に包まれているような感覚に陥らせてくれる。
 このまま深く、暗く、彼の元へ沈んで行けるだろうか。
 胸の内の傷を辿って、私はもう一度彼を求める。
 暗くてもいいの。寒くてもいいの。痛くても苦しくても、彼がいないと不快感ですら感じられない。生きている実感が、霞のように溶けて消えてしまう。
 ――――だからどうか、貴方の傍に居続ける権利を私にください。
 ――――だからどうか、あの日の言葉は真実ではないと、私に言って聞かせてください。
 意識が溶け切る刹那まで、私の心はその不安で満ちている。不安に満ちて、私の全部が止まった。
 私の求めた救いには届かず、独りの底が私の果て。
 探すこともできないけれど、とうとう彼には届かずに、孤独に静かに私は終わったのだ。




 最終回の前に、ね?
 これで満足か

バッドエンドIFいるかいらんか

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