未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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伝説よ甦れ(ギュイイイィィィンンンン!!!!)
二次創作へ彼らの力を(ブシュウウウゥゥゥゥ!!!!)
温度差で寝込もう


IF:1 逆行体験其の三 完

「オッシャー! こっちだ見つけたぞー!」

「おやおやこれはこれは、ゴールドシップ君ではないか」

 

 そんな事を言っている間に、チームスピカの連携が光り輝く。

 

「おなわにつけ、ばかまっど!!」

 

 見つけるどころか、あっという間に包囲網は完成する。身動き一つすら逃さず、この輪の中から抜け出すことは叶わぬ。

 人海戦術を用いればこれこの通り、補足まで時間は要らない。持つべきものは友であり、生徒会の手回しである。テイオーが会長と仲が良くて本当に助かった。

 

「居たぞー! カイト君は此処だ! 捕まえろー!!」

「おまえがつかまるんじゃぼけぇ!!」

「あ、やっぱりそうだよねぇ」

 

 突然謎に叫びだすアグネスタキオン。本来追われる立場なのは彼女なのであって、カイトが追われているのはあくまで一時的に過ぎないのだ。

 

「かこめかこめ!! おいすかーれっと、おまえにがすなよ!?」

「分かってるわよ! ……すみませんが先輩、大人しくしていてください」

「ああ、スカーレット君からそんな態度を取られようとは……悲しくなってしまいそうだ」

「…………やっぱり私……」

 

 棒読み過ぎるが、いかんせんあの二人は妙に仲が良い。アグネスタキオンが良く面倒を見ている姿も散見されている。普段世話になっている分、申し訳なさが先立つのだろう。とはいえアグネスタキオンの発言は、あまりにも棒読み過ぎるが。大事なことなので二回反魂しました。

 

「だまされんな! かなしくなって『しまいそうだ』っていってんぞ! けむにまこうとしてんぞ!!」

「チッ、幼い癖して目敏い」

「おさなくさせたてめぇがいうなぁぁ!?」

「お、落ち着いてカイトくん。暴力はダメだよ」

「ハッハッハッ。面白」

「はなせすぺぇ!! ぶんなぐってやるぅ!!!!」

「ちょっとカイトくん!?」

 

 こうして目の前で煽られれば、怒りは有頂天を容易く凌駕する。なんて怒りだ。プッツンしすぎて髪の毛が上に伸びていきそう。スーパーな状態も第二状態へ移行しそうだ。

 

「とにかくタキオン、今すぐカイトくんを戻してあげて」

「フゥン? メリットを感じられないが?」

「なんでてめぇがめりっとうけられるとおもってんだごらぁ!!」

「待ってってばぁ!!」

「……メリットなら有るわ」

「ほう? 言ってみてくれ」

 

 そう聞けばスズカはチラリとカイトの方を向いて、こう言った。

 

「戻してくれないのなら――――今のカイトくんを理科室に突撃させる」

「ハッ、それこそ無駄だね。こんな事もあろうかと、重要な資料は別の場所――」

「……えっ、まじすか!? さすがかふぇせんぱい! なるほどばしょはりかしつからふたへやはなれた……なるほど! そこのへやに――――ひをはなてばいいんですね!?」

「ようし分かった話を聞こうまずはそれからだ」

 

 嬉々としたその表情に、汗水垂らしたタキオンが口を挟む。

 情報戦(先輩頼り)は、見事にスピカが制した。いくら天才だろうと所詮は個人の領域を出ない。当然だろう、こちとらチームの和だぞ。頭数の力を舐めんな。

 そうして一先ず部室へ連行しようとした矢先、不意にタキオンはこう抜かしやがりました。

 

「ああ、そう言えばそうだった。君のその状態は戻るまでに二日を要する」

「だからそのまえにもどるくすりよこせよ。あんたならもってんだろ」

「無いのさ。今回は作ってない」

「…………あ、すずかせんぱい、ちょっとたきびしてきます」

「待ってくれ!?」

 

 この期に及んで無駄な足掻きだ。むしろその発言は、メラメラと揺れる精神への薪でしかない。これ以上怒らせて、タキオンはスーパーな第三状態でも見せたいのだろうか。めっちゃロン毛の金髪にでもなってやろうか。

 しかしちょっと待ってほしい。そんな無駄な事を、果たしてこの天才が行うだろうか。愉悦のために心血は注げど、まったくもって無駄な言動をそうは見せないだろう彼女が、今のカイトの火に油を注いで、得する事など無いだろう。保身も掛かっているなら尚更だ。

 それつまりすなわち。

 

「おいじょうだんだろういやじょうだんだな。てんさいってのはじょーくのさいにもあふれるのか? ほらはやくねたばらししてくれよ。じょうだんっていえ。いえよほら――――いってくれよぉ!!」

「ハッハッハッ、マジなんだなこれが」

「……おわった」

 

 二日間後までに、霊長としての尊厳を保ったまま生きていられる保証を欲します。

 諦めの境地が近づくほどに、知生体は空を仰ぐ回数が増えてくる。だってほら、見てごらん。狭っ苦しい地上と違って、空はあんなにも全てを包み込む。その包容力に際限は無く、無限に万物を受け止める。なんて器が大きいやつだあの広大さに比べれば、世界で引き起る事象の数々の、なんとちっぽけなことか。

 

「――――だから作りあげるまでの時間は我慢してくれよ」

「へ?」

「そうだね……二時間ほどは貰うが、構わないね?」

「あとにじかんでもとどおりだやったー!!」

「あと二時間しか堪能できませんの!?」

 

 シャラップシスター。

 

「それまでどうか貞操を守り抜いてくれたまえよ」

「まもるまもる~!! ……? なんのはなししてんだ」

 

 ちょっとよく分からん発言があったが、これはアレか、カイトのIQの低さ故か。知能指数に差が有り過ぎれば意思疎通が不可能となる説、否めませんね。

 そんな発言は置いておいて、これからやってくる襲撃者の事を考える。

 

「さて、にげるか」

「なんだ、気づいていたのかい」

「あんなわざとらしいさけび、きづくだろ」

「? なんの話っすか?」

「んっとね、さっきたきおんがてきをよんでたってはなし」

 

 まるで雄叫びの如く、聴力も発達していた彼女らへ届けられた。『エイヴィヒカイトは此処に隠れている』と、まんま叫んでいたではないか。

 

「いやぁ、せめてもの抵抗をね?」

「よっし。しょるいすうまいでかんべんしてやる」

 

 事が落ち着けばギャンブル開始だ。重要書類であればあるほど、的当てのヒリつきは上がる。これぐらいの罰で勘弁してやろう。

 

「よっしすぺ、せおってくれ」

「ええ……? また私……?」

「ここまできたらいちにんたくしょうであってくれよ。どうきだろおれたち」

「グラスちゃんにまた追われるのかぁ……」

「よろこべ、ほかのめんつもついてくる」

「……」

 

 ゲンナリ顔は加速する。悪くない反応だ。だからこそこの後の二時間を共にする、唯一無二の相棒に相応しい。

 

「われらうまれたときはちがえどあーだこーだ、だ」

「しょーがないかぁ……」

 

 嫌々な渋面顔を隠すことが無い。取り繕いもしないほどの関係性なのは嬉しいが、もっと気を遣え。出逢ったばかりの優しいスペシャルウィークは何処へ?

 

「スぺさんばかりずるいですわ!」

「まぁまて、まっくいーんにもたのみ…………ごほんっ――――おねがい……ぼくをたすけて、まっくいーん()()()()()()!」

「――――――――ッッッ!?!?!?!?」

 

 声にならない絶叫。感極まった感情の暴走。親から頂いた美貌はこう使うのが一番良い。頭スイーツになったバカには、見事に効果は抜群でございました。この変貌ぶりは一過性の状態だと信じたいが、まさか日頃からこんなんじゃなかろうな。もしそうならメジロの誇りは埃と化しているのかもしれない。

 溶け切って沈殿したマックイーンを尻目に、今は本題へ早々に入る。

 

「そんなわけだが、みんなにはじょうほうしゅうしゅうと、かくらんをたのみたい」

「構わねぇけどよぉ……他のメジロ家も参戦するんだろ? それなら時間稼ぎにしかならないぜ?」

「だったら逃げ回るより隠れた方がいいと思うわよ」

 

 確かにタキオンの近くで隠密にしておくのが良い。それができるのならごもっともだが、そうはいかない理由がある。

 

「わけわからんせんさーでほそくしてくる、めじろあるだんってのがいてな」

「ああ、なるほど……」

「教室でも危なかったけど……なんで気づかれてたの?」

「しるか。おれがしりたいわ」

 

 ともあれ、作戦開始である。

 

「かぎはまっくいーんだ! よろしくたのむぞー!」

「ハイ! お任せくださいカイトくん!!」

 

 いつの間にやら逆転していたヒエラルキーが、呼び方に出てきている。もう兄とは呼んでくれないのだろうか。もしそうならめっちゃ悲しい。

 そうして、自分の中の大切なモノを賭ける逃走劇が始まった。

 

 

「ッ――見つけ――――ましたァ――――!!!!」

 

 碧く綺麗な群青色の瞳が、血走って真っ赤とはこれ如何に。

 上履きで廊下をギャリギャリ鳴らすな。どうすればゴムから金属音が鳴り響くのだ。

 

「それいけ! すぺちゃーん!!」

「なんか変なモヤモヤ背負ってるぅぅ!?」

「へんな、じゃなくて! ああいうのは『おに』ってんだぞ!!」

「一番要らない情報だよぉ!!」

 

 どこが琴線に触れたのじゃかは不明でごじゃる。そんなやり取りを見て、羅刹を凌駕したオーラが迸る。

 

「私を目の前にして――――何を楽しそうに!!!!」

「なんか怒ったァァァ!!」

「たのしくなんかねぇこわいだけだ! このあほぼけ!」

「あ、なんか今の言い方可愛い!!」

「え、うそ……ちょっとひかえるわ」

「どうして!? もっとやってよ!!」

 

 正直に申すれば、こういったバカなやり取りは滅茶苦茶に楽しい。

 まぁ、なんだ。ブっ千切れまくるのは、もはや必然でございました。

 

「バカにして――――私もっ、混ぜなさい――――!!」

「えっ、そっち!?」

「まともにとりあうな! あいつがいまのおれによこしまいだいてるってしってんだろ!!」

 

 屈折して倒錯しきった願望を抱かれている身としては、今の状態でキャッキャウフフと楽しくできるなどと、全くもって一切思えない。

 

「おまえとのけっちゃくはまたこんどつけるってば!!」

「そう言ってその機会を何度もフイにして――――その度に落とされる私の気持ちを知りなさい――ッッ!!!!」

「さいきんはいそがしいんだからしょうがない!」

「勉強くらいなら私が教えるって言ってるでしょう――――!!!!」

「なんでもしょうぶごとにつなげるおまえとべんきょうなんざ、むりに決まってんだろーが!!」

「そうさせたのはカイトくんでしょう!? 男らしく責任くらい取りなさい――――!!」

「カップルの喧嘩でもしてるの!?」

 

 そんなこんなでわちゃわちゃと騒ぎつつも、実は目的地へ近づいている。

 無条件で信頼できる相手が、この先に居るはずなのだ。たとえ姿が違くとも、きっとカイトのことに気付いてくれるはずだ。

 

「まるさーん!! たぁーすけてーぃ!!」

「? あら、スぺちゃん? でも今のは……」

「まるさん! うしろのぐらすをとめてぇー!!」

 

 ドドドドドドドドド!! と、文字にすればそんな勢い。

 怒涛の逃走劇を目撃したマルゼンスキーは、その光景を見て驚きつつも爆速の判断を下した。

 

「ダメよー、グラスちゃん?」

「マルゼンさ、ん!?」

 

 急ブレーキを掛けるグラスを見てから、カイトも同じく判断が速かった。その意を汲んだスぺも、流石の同期である。

 

「今しかない!!」

「まるさーん! あーりがとぅーーぅー…………」

「……えっと…………」

 

 エコーを残して去っていく、魔王エイヴィヒカイト(ショタ形態)。

 目論見通り、グラスはあの人に頭が上がっていない。そもそもグラス、ひいてはカイトの世代全体があの人に頭が上がらないのだが、それはそれ。そのレジェンド力をこれでもかと発揮していただく。

 

「うぅぅぅ……」

「とりあえず、話でも聞きましょうか?」

 

 グラスワンダー、封じ込めたり!!

 

 

 鈍る気配無く、淀みない走りはスタミナ切れを心配させない安心さを含んでいる。それでいて速度も有するのは、流石の一言に尽きる。

 

「だからおいかけてもむだだぞぶらいと! なんたってすぺはな、おれのにばんめかさんばんめくらいに強いんだからな!?」

「その言い方やめて! 次は負けないもん!!」

 

 そんな宣言を受けつつも走る、制止者のいない廊下。

 二度見の視線がひっきりなしの只中で、気にすることなく走り抜ける。気にする者が、この三名の中には一人もいないのもある。

 

「まってくださいまし~」

「だれがまつかぁ!! いっきにつきはなせすぺ!!」

「了解しましたぁ!!」

 

 紫焔のギアを上げれば、ブライトの鹿毛はみるみる内に小さくなる。

 ブライトの武器はスタミナにこそ本領があり、スぺ程に鋭い切れ味のある脚ではない。すなわちこの手の競争ならば、スぺに勝敗は偏る。

 セーフティーリード、獲得の巻。

 

「ここまでくれば……」

「ありがとうすぺ。このあともよろしく「まってくださいまし~」……さっそくよろしく!」

「ああもうっ!!」

 

 再開される逃走劇。こんな繰り返しが、もう五回は繰り返されている。広い学園と言えども、その広さは限られている。今は仲間達による情報操作が火を噴いているが、いつか敵対勢力とバッティングする時も近い。そろそろブライトも封じ込めたくあるが、その粘り強さには少し辟易する。

 白状すれば舐めていた節もある。ブライトに秘められたスタミナを甘く見ていた。

 

「あいつは……すぺつぎひだり!!」

「はいっ!!」

 

 視界からいくら消えようと、独特の勘と無尽蔵のスタミナをフルに使って追いかけてくる。逃げるが勝ちとは言うが、このままでは逃げの一手も消耗し尽くしてしまう。天下の日本総大将たるスペシャルウィークと言えども、その体力には限りがあるのだから。

 

「もうすこしすすんで! そうすればやすめるよ!」

「全部カイトくんのせいだけど!!」

「まじでごめんなさいね」

 

 そうして進んだ先に、頼れるライアンカットの姿を発見。

 

「あねご!!」

「! うわぁ、ほんとうにちっちゃい……」

「そのりあくしょんあきました! てかあれ! あのぽわおじょうをどうにかしてくれ!!」

 

 そう言い切って通り過ぎてゆく。ぞんざいかもしれないが、留まる選択肢は無い。敵対勢力は常に動く。それに合わせて動き続けなければ、ジ・エンドはすぐそこだ。

 

「このうめあわせはこんどおぉぉぉ……ぉ……」

「……必死だ」

 

 何はともあれ、ぽわお嬢もとい、メジロブライト封印!

 

 

「……よしよし。どべーるはまっくいーんがゆうどうしている」

「それで、アルダンさんは……?」

「やつだけゆくえしれずだ……おとざたないのはぎゃくに、な」

 

 ゴールドシップは歩く西〇屋を上手いこと操作しているらしい。アイツはちょっと便利過ぎる。あれでシリアスもこなせるのだから、割と完璧超人な気がしてきた。

 情報を攪乱していたスズカや、スカーレットにウオッカと言い、チームのみんなに大感謝だ。親身になってくれて、ちょっと泣きそうかもわからん。

 もう二時間は過ぎる頃であり、静かに理科室へ向けて移動しているスぺとカイト。

 これで出来上がっているであろう代物を使えば、こんなバカげた騒動へ終止符を打てる。

 

「よしよし……だれもいないな……」

「……行こう!」

 

 そうして生唾を吞み込みながら踏み出した理科室では――思いの外すんなり事が進む。

 

「コレを飲めば、君のその状態は元に戻るだろう。ただ……」

「ただ?」

「……私は君に謝らなければならない」

「は?」

 

 何だろう、こんな殊勝に謝罪が出てくるなんて前例を知らない。なんか変なモノでも食ったのだろうか。もしくはカフェの『お友だち』に呪われたか。

 

「実は……どう計算してもこの薬の効果が出るまで、二十四時間を擁するんだ」

「えー……もうちょいはやくならな「無理だ」……めっちゃくいぎみ……」

「無理だ。どう足掻いても一日必要だ」

「……まぁ、それしかないなら……」

 

 仕方なしに試験管を受け取り、中身の色合いを見てみる。

 ちゃぷちゃぷと音を立てる液体は青く、飲食物としての観点ではこの時点で落第の極みだ。

 しかしその中身は前代未聞のトンデモ薬物なのだから、つくづくこの人のイカレっぷりを実感する。学会とか出せよ。実質的な若返り薬じゃんこれ。

 

「……このままのむんすか?」

「ああ、そうだとも。心配せずとも味はビーフシチューにしている」

「この色でビーフシチュー……?」

「いうなすぺ。このひとはこーゆーひとだ」

 

 意を決して飲めば、口いっぱいに広がる濃厚なシチューの香り。なのに舌触りはサラッサラな液体で、違和感が凄まじい。

 

「……ぅぇ…………おいしくない……」

「味は完璧だっただろう?」

「しょっかんふくめて、たべもののあじなんです。おぼえといてください」

 

 これで後は一日。つまりは家に閉じこもっていれば、稼ぐのに余裕過ぎる時間だ。

 

「あしたいちにち、りもーとでべんきょうおしえてくださいね」

「無論、せめてもの謝罪としてそれくらいはするとも。…………果たしてそれだけの……」

「? どうしたんですかタキオン先輩?」

「いや、別に?」

「うっしかえるか。すまんすぺ、さいごのひとっぱしりだけたのむ」

「いいけど……」

「…………頑張りたまえ、少年」

「……?」

 

 さて帰ろうやれ帰ろう。アルダンが襲来する前に家へ帰れば、内からチェーンだって掛けられる。要塞化して北風を防ぐのだ。

 

「それじゃあせんぱい、またあしたおねがいしますね」

「ああ…………」

 

 憂いたような顔は気にしない。いつもこんなんだろうこの人は。

 

 

 そうして無事に家へ送り届けてもらい、スぺとは快く別れる。こんどビュッフェを奢る約束を押し付けられたが、快くである。遠慮のできる距離感も好きだったよ。

 扉への距離が遠く見えるのは、中々どうして厄介だ。そも力も何もかもが縮んだ今では、何でもかんでもが不便である。扉の鍵を開けるのだって一苦労だ。

 

「んっしょ、んっしょ……んん?」

 

 オカシナ現象が発生した。今日の朝は割と気分よく、眠気に支配されることもなく、意気揚々と鍵を掛けて出かけた筈だが。

 ドアノブを回せばドアが開くなんてこと、あり得るのは次の内にどの場合?

 その一、鍵がオシャカになっていた。あり得ない話ではないが、もしそうなら朝にぶっ壊れているだろう。なので可能性としては薄め。

 その二、空き巣が入っていた。これもあり得ない話ではないが、もしそうならなんて無知な空き巣犯だろう。これでも男であり、それに加えてその辺のウマ以上に脚力に優れている自信がある。しかもこちとらメジロ家がバックだぞ。方々へ頼ることの抵抗感が消え去った今、徹底的に追い詰めるのも吝かではない。

 その三、合い鍵を持っている者が既に中に居る。コレはありえない。だって、そんなのがあったのなら、えっと、その、つまりだ。とにかくあり得ない。だとすればこの状況は詰みの極みです。

 

「はっ……まさかね」

 

 そんなことが起こり得て良いのか。不法侵入だ、と声高々に叫んだところで、此処の住居者はいつの間にやらエイヴィヒカイトだけでは無い。そこの表札を見れば追加されてる名前もある。ソイツが既に先回りしていれば、もう逃げる場所なんてありません。実家に帰らせていただきます。

 

「……くつ、なし」

 

 そろりと忍び足。今更だが、自宅でどうしてこうとビクつかなければならないのだ。自分の家ってもっとこう、安心と安全を兼ね備えた、楽園の如き安住圏内なのではないのか。悪いことなんかしてないのに、怯える必要性は何処でしょーか。

 

「…………だれか〜? いますか〜……?」

 

 返答は無い。

 

「……ふぅ……よかった」

「ええ、無事に帰ってきてくれて安心しました」

「………………たすけてぇ、すぺぇ……」

 

 返答が無いのがイコールには繋がらない。カイトは良き教訓を得た。今後に是が非でも活かしていきたいと思う。活かさないと終末が見え隠れする。

 果たして今後が存在するか否かは、それはそれ、これはこれ。

 

「私と二人っきりなのに………………他の子の名前……」

「ひっ」

 

 玄関へ回られて、鍵はおろかチェーンまで閉められる。窓は施錠がしっかりしていて、安全意識の高い親戚のお姉さんに安心しました。こんなくだりがいつかにあった気がする。デジャヴってる。ついでにブルってる。

 

「でもいいの。帰ってきてくれたから、もう外には出さないから、構いませんよ? ――――だって、他のことなんて、考えられなくなるもの」

「まま、ま、ままっま、まった! おれれっはあれだっぞ! あしたには、こにょからだはもとにもどりゅぞ!!」

「知ってます。ずっとそのままだと不便だものね。だから一日にしてもらいました」

「…………うん?」

 

 なんか、不思議なニュアンスを受け取った。

 

「丸一日堪能できれば、暫くは満足出来そうだから……」

 

 その言い分はおかしい。なんで元に戻るまでの時間を把握している。なんならアルダンの意図で決められたような、そんな物言いをする。てか堪能って何ですか。聞いちゃいけないラインと見たが、逃げ場も無いのでどうしようかなこれ。

 あら不思議ね。足が震えてるわね。手も震えてるわね。鳥肌がノンストップですわね。ボクの唇は青くなってそう。チアノーゼかな?

 

「……あ、せんぱいのようすがおかしかったのは」

「さて……ずっとは流石に無理かもしれないけれど、せめて一日中は、ずっと、ずーーーっと、私と一緒にいましょう」

「そういうことなんですのぉーぅ!?」

 

 あらあらあらあら。なんかジャラジャラ聞こえるよ? 後ろ手に持ってるナニカからジャラジャラって金属音がするよ? てかもう見えたよ。垂れてる鎖が丸見えですよ。隠す努力をしようよ。

 まあまあ、なんて素敵なアクセサリーでしょうか。アルダンの後ろから覗ける無骨に鈍って光る腕輪、これは別名手錠とも言ったり言わなかったりしますね。

 なんか鎖で二つの腕輪が繋がれてますが、その長さはどうにも一人用ではございませぬが、二つの輪を一人に嵌めるから手錠として機能するのですが、何で片方を既にお着けになさっているのですか? もう片側は、一体果たして誰へお着けになられるおつもりなのですか?

 これって答えを聞いていい感じかな。聞いちゃったら藪蛇なのかな。

 

「そんな小さい身体で外に出るなんてダメ。そんな可愛い顔で歩いてたら、怖いことでいっぱいなの……。私が守ってあげるから、一緒に家にいましょう……?」

「あ、ああ……」

「怖がらないで……大丈夫……私は、カイトに痛くしないから」

「ああああ、あああぁぁあああ!?」

「ずっと、離さないから……!」

 

 ヘルプミーと、自宅の中心で救助を叫んでも、防音処置を勝手に施されている我が家からは、何の音も周囲は漏れることがない。

 恐怖に支配される声も、嬌声のような妖しい叫びも、鎖の音も何も聞こえない。

 解放されるまでの間は生き地獄でした。憔悴を極めたエイヴィヒカイトはのちに語った。

 タキオンの資料の束で焼き芋を作った事をオチとして、この話は閉じる事としよう。

 しかしゆめゆめ安心する事なかれ。

 アルダンが用意した鉄の輪は、これからも出番を今か今かとタンスの奥で待ち侘びていること。

 鉄の輪だけでなく、その兄妹達も、その出番を待ち侘びていること。

 そして、拘束されるのは、果たしてエイヴィヒカイトだけなのか。

 拘束するのなら、される覚悟もあるのだろうと、その覚悟を携えてコトに及んだのだと受け取った。そんな復讐心に燃える男がいること。

 この悲劇――喜劇?――の輪廻は、始まったばかりである。




常に鎖で繋がれて御満悦。歩けば引っ張られて、引っ張れば存在を感じて、とても御満悦。そんな一日だったらしい。





 ――アから始まるお嬢様には、秘められた執着心が存在した。

『あーあー……首輪着けたいなぁー……膝立ちにさせて頭撫でたいなぁー……閉じ込めたいなぁ……』

 ――しかしそれを遥かに超える執着心と束縛の心意気が、エから始まるバカには存在していた!!

『グワーッ! そんなのダメだろ俺……鎮まれ俺の中の俺ぇ!!』

 抱えるに重きその衝動に振り回される日々。

『私が、カイトのモノ…………はぅぅ……』
『(おがががああああえううあ?!!? めちゃ可愛い閉じ込めたい手錠とか首輪とか目隠しとかして不安になる顔が見たいいいいいい!!!!)ったく……何言ってんだお前』

 そんな事をつゆ知らず、無自覚(?)に誘惑を続ける例のお嬢様。二人の関係が破滅するまでのカウントダウンは、すぐそこまで迫りつつあった!!

『――――もっとです。もっと縮めなさい。二人で住む家を作りなさい。将来的に家族が増えても増築が容易な設計にしなさい。機能性に長けつつも、距離が離れないような間取りにしなさい。物理的にも精神的にも距離を縮めさせるのです! そのためならば我がメ●ロ家の総意を惜しむ事なく、万事へ十全に備えなさい!!』

 なんなら全力で助長させようとする企ても存在した!!
 苦悩に押し潰されそうになったエイヴィヒカイト。しかし迷いを切り捨て、新たな舞台は、アトランティスのピラミッドに眠るエリア51へ!

『ここが俺の、新天地……』
『ああ、そして貴様の墓場にもなる』
『っ! 誰だ!』

 立ち塞がる秘匿部隊。

『ここじゃぁ騒がし過ぎてゆっくり死ねない、お前さんはそんなヤツだと見抜いたがね!』
『ならアンタはどうだってんだよ!?』
『帰って飲みたい酒がある! 腐れたバーの気の抜けたまっずいエール……だが看板娘は大層美人でね、中々どうして悪くない! ……カイトも一杯どうだい?』
『乗った。奢れよ?』

 超絶な電磁砲や魔術が飛び交う戦場で、手に入れたのは掛け替えの無い絆。

『ここまで来たよ……みんな…………。……アレは……?』

 そして乗り越えた先に待っていたのは、残酷な己の運命。

『そんなっ、どうしてぇ! なんだって、アンタが!!』

 謎が混沌を呼び、混沌が絶望を呼び覚ます! そこに見えた一筋の光とは! そんなエイヴィヒカイトへ手を差し伸べる、ドイツ系ウマ娘の正体とは!?

『私は貴方の――――従姉です』
『無念ッ! ……キミとは、争いたくなかったのだがな』
『私の耳と尻尾を、晒す時が来てしまったようですね』
『勝てるはずです! たとえ育成オールCだとしてもっ! ――――私に、鋼の意志を持つ資格があるのなら……!!』
『この学園を(健康的かつ怪我の起こり得ない尚且つ故障で夢を頓挫させない環境にするために)――――支配します』
『ウマと生まれたからには、誰でも一生の内一度は夢見る「地上最強のウマ」、それが今日この日に、生まれる事になるでしょう……!!』

 学園でも戦火は広がりを見せて。

『私の走りを興味深そうに見てましたよね!? これであなたと縁が結ばれました!!』
『縁……? カ●トと縁、しかも結ばれた、ですか……? へぇ~…………へぇ……』

 修羅場は止まる事なく、勘違いも加速する!!
 ――――それでも人は分かり合えないのか。傷つけあうのが定めなのか。

『だけど私はここにいるッ!!』

 繋ぐその手で思いを貫く少女。交錯する想いの先に、垣間見えてくる果ての結末。
 それでも少年は、痛みへ繋がる決意を選んだ。それが自分が唯一できる、何よりの祝福だと信じて。
 この選択は、この思いには、何一つとして間違いなんかないんだから。

『英雄は、たった一人でいい』

 世界を壊す鍵を掲げて、そう宣言した。
 命の糧は、戦場にある。
 それでもと、言い続ける。

『だから見ていてくださいっ! 俺のっ! ――ぐっぁがぁぁあ!?』
 ――――ヘルライズ!

『お前をっ、倒せるのはァ……っ! ただ一人――――!!』
 ――――Hells energy as destroy the world HELLRISINGHOOPER!
 ――――HEAVENorHELL is doesn't matter.

 次回、未踏領域で果てる 『そのはっぴっゃく』
 来週も永劫の果てまでサービスしちゃうわよぉ!?

深い意味は無いけれど

  • お祭りお助け黒色娘が善哉善哉
  • ジンクス絶破ウーマン良き良き
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