未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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短いなぁ……


後輩がユメヲカケテル最中の幕間

【勘違いのようで勘違いでなくて、実は勘違いかもしれない」

 

「おいっ、彼は……」

「……」

「でも帽子が……」

「……」

 

 引き締まった表情で、ゲートへ向かう二色の背中。それぞれの情念を写したような衣装にある翼の装飾は、二人が向かうこれからへの展望すら予感させる。

 互いに好敵手だと認識しても、これで終わるとも思っていないだろう。この結果として一勝を、もしくは一敗を受け取ったとして、鬩ぎ合うことを止めたりはしない。この先も競い争い、隣よりも先へ駆けようと前進を続けるのだ。

 青春とも称される螺旋を、彼女らは全霊で駆け上がっていく。

 けれどそれは、この一戦で全てを賭さない理由にはならない。

 

「ま、魔王……だと……?」

「……」

「本物だ……本物のオーラだ……」

「……」

 

 大学生くらいの二人組が、魔王サンとやらに慄いている。誰だソイツは。エイヴィヒカイトの名前って実はエイヴィヒカイトと申しまして、そんな痛々しい名前の輩は知りません。マジで言い出したの誰だよ。もしやブロワイエか、広まったのはジャパンカップが契機じゃあるまいなあの女郎。

 口笛でも吹こうかしらと虚空を見上げていれば、先ほどの会話内容から未来の後輩となるらしい小さな娘が二人、後ろを向いてカイトを見上げている。

 後輩たちがぶつかり合う前の、不思議な緊張感を味わっていたかったが、なにやらそうもいかない感じ。帽子を変えれば変装になるんじゃなかったのか。やっぱり眼鏡は必要だったんだと、今更過ぎる後悔。一体どういうことなのか、後でアルダンに聞いておこう。

 

「え、エイヴィヒカイトさん……!?」

「わぁ……! カッコいい……!!」

「ありがとうねー」

 

 もっと言おう。もっと容姿を褒めてくれ。子供からの言葉は純粋で、それ故に飾り無しがとても嬉しかったりするから、もっとお兄さんの容姿を褒めても良いのよ。

 

「ほら、前向こう。キミらの憧れが今から走るんだぞ」

『そうでした!!』

「おっと素直かよ」

 

 素直で元気の良い年下は嫌いではない。疚しいアレでなく、シンプルに元気を分け与えてくれる気がする。

 熱心なファンガールだが、それだけ他者を熱狂させるのも納得の二人だ。

 宿した才覚は、天性の一級品。片や優雅に、片や軽やかに、そして二人共に何処までも熱いモノを、周りへ魅せつける。見惚れない者は少数だとさえ思うのは、身内贔屓もあるのだろうか。

 

「この鋭利な眼差しは……」

「……」

「自らへ挑むに足るか見定める裁定者の瞳、と言ったところか」

「どうした急に」

「…………」

「後輩の壁となるだけでなく、彼女らの走りからも貪欲に技術を盗もうとしている……。確かにトウカイテイオーは今の時代で中距離最強の一角だ。メジロマックイーンも長距離の世界で最高峰のモノを持っている。そんな二人から盗めるものを自らの血肉として、己が覇道をより確かなものにしようと目論んでいるんだ。一線を退いてもその覇気は増す一方だと言われていたのは周知の事実だが、まさか同じチームの、それも後輩すらも糧にしようだなんて……。特にメジロマックイーンとは兄妹のように仲が良いとの話だったが、それすらも厭わない姿勢には恐れ入ったよ」

 

 どうした急に。いや本当に。

 違うんですボクも皆さんと同じファンボーイの一人なんです。目線が鋭いのは最近視力が落ちてきたからなんです。お願いだから深読みやめて、とか今更言いだせないような雰囲気を作り出しやがった。悪意を練り練りした嫌味とかの方がマシだと感じるカイトは、やはり闇属性であった。

 レースはまだなのか。全員チンタラせずに、迅速にゲートへダッシュしやがってください。

 

「不動の王者はこのレースをどう見るのか、面白くなってきたぞ……!」

「世紀の一戦で魔王の解説が聞けるなんて……最高の特等席だな!」

「観戦場所間違えたかな」

 

 解説役がいつのまにか決まっていたらしいが、エキセントリックさを期待されても困るのだ。大人しく解説役のお姉さんの声に耳を傾けよう。

 心底スペ達の元へ向かいたい。出店を楽しんでいた結果がここに行き着いた訳で、完全に自業自得だが今からでも間に合うだろうか。

 ファンファーレが鳴る前のこの時間が、なんでこんなにも苦しいのですか。降って沸いた疑問を誤魔化すように、緑色の炭酸をストローで飲み込んだ。

 

「魔王がメロンソーダを、しかもフロート!?」

「片手にはホットドッグ、マスタードマシマシ!?」

「……もう始まりますよ?」

 

 無論ながら解説なんて一切せずに、声の限りを尽くして応援した。

 帰路の途中で、いつの間にか連絡先が四つ増えてた事に首を捻りつつ、余韻に浸って一日を終えたのだった。

 

 

【眼鏡=着火剤】

 

「おはようございます……あら」

 

 何気ない眼鏡が、とある決意をさせた朝だった

 他の人達よりも一足早く来すぎてしまったかと思っていたが、私よりも先の早起きさんが、教室で参考書と睨めっこをしている。

 でもちょっと、普段とは少し、いやかなり様子が違う。

 

「……………………あら〜」

 

 失礼だと分かっていても、ジロジロと眺めるのを止められない。

 

「んだよ人の顔見るなり訝しんで」

「……ファッションですか?」

「しっかり度入りですが」

 

 慣れない手つきでつるをなぞるカイトくん。鼻筋に置かれた黒縁の眼鏡を重たそうに、けれども仕方なさそうな様子。

 普段よりも知的さが増したように見えて、落ち着いた雰囲気も増した。一見すると、だろうが。

 

「かなり前から視力が足りなくなってきたからな。着けないと諸々の輪郭がボヤけてたまったもんじゃない」

「なるほど。それまではコンタクトだったのですか?」

「いや、裸眼」

「?」

 

 不思議なことを言っている。首を傾げるのは当然だろう。彼の言が確かなら、ワザワザ眼鏡をつけることなく、ボヤけた視界のまま生活していたという事だ。それが本当なら、いったいどうしてそんな危険な酔狂を。

 

「人前で着けると怒られてたんだよ」

「?? ……かなり似合ってますけど」

 

 聞くほどに分からない。絶望的に似合わないとかなら話は理解しやすいが、客観的に見たところ、似合わない訳ではないと思う。むしろ彼がよく自慢する端正な顔立ちを、更に映えさせて魅力を増させている。ファッションとしても文句を付けようがない。彼の隠れファンも、今日の姿を見れば黄色い悲鳴が上がると予想される。

 良く着けこなせていると思うが、それを思えばますます不思議だ。

 

「公衆の面前での着用には適してないってさ」

「いったい誰が?」

「アルダンが」

「…………ああ、そういう」

 

 一日は始まったばかりで、今日の朝食は控えめにしてきたのだが、満腹感が昇ってきてしまってどうしましょう。

 

「そのくせ家の中じゃ着けろってうるさいんだあいつ」

「…………ごちそうさまです」

「あん?」

 

 甘ったるい香りが、一瞬で教室を支配する。口の中がジャリジャリと音が鳴らすのも時間の問題だ。糖分を空気感染で過剰摂取するには、朝一番の時間帯が適していなさすぎる。もう夕食分も食べた気分。

 この手の対処法は、物理的に距離を離して遠ざかるのが一番だ。あとは、あまり近づかれると色々とよろしくないのもある。

 

「ちょっと……しばらく離れてください」

「え? イジメ?」

「意味不明なところで鈍ちんなカイトくんには、妥当な扱いですよ」

「それこそ意味不明……」

 

 高頻度で見る彼のキョトンとした顔も、眼鏡というフィルターを着けるだけでかなり新鮮だ。見慣れた表情一つ一つが、主観でもそれなりに、いやかなり動揺を誘おうとする。

 

「…………」

「……、…………っ」

 

 動悸が、平常より少しだけ揺れている自覚はある。

 参考書と静かに格闘する姿を、気がつけばひっそりと観察していた。ちょっとマズイ。今の目線は友達を見る目であると、胸を張って言えなくなってしまう。

 教室という二人だけでは広すぎる空間に、ポツンと取り残されたように二人っきりなのも、彼へ意識を向けてしまう理由の一つ。

 読み掛けの文庫本を取り出して、文字へ意識を込めようにも、目線は文章からはぐれて勝手に彼の方角を目指す。

 彼の苦戦する顔。四苦八苦して唸る声。悩むような吐息。思考を回すと同時にシャーペンが掌で踊る。逐一委細の全部を拾い上げてしまうほど、私の意識は彼に支配されてしまった。それも彼の無意識の間に。

 

「……? …………? え、なに?」

「ぇ? ……な、んでも、ありませんよ?」

「……そうか?」

 

 私の席は彼の前で、彼は私の後ろにいて、それで目が合う場合とは私が能動的に後ろを向くしかない。何か理由があれば誤魔化せたが、ぽっと出の苦しい言い訳も出てこないくらい、私の無意識は縫い留められていた。お陰で彼は懐疑の視線を寄越してくれて、今の私が普段とかけ離れた様子なのだと教えてくれる。

 蕩けるように茹だった瞳を隠せない。友達でなく、その手の対象に見惚れる感情が、ありありと瞳孔に浮かんでいる事だろう。押し込めていた()()が、今更になって顔を出し始める。

 心からの祝福をしたのだ。彼はようやく自分の幸せを歩めるのだ。そこに割って入るような情欲は、彼を決して幸福にはしない。だから諦めて、他の感情へ――――元々の対抗心へ切り替えて、それで満足できる、ハズだったのに。

 

「……こんなに単純だったかしら」

「んー? なんてー?」

「いいえ? カイトくんは勉学に励んでくださいね」

 

 肝心の彼がもう走らないのなら、行き場を失った衝動情欲は澱み、自分にとって一番望む形での発散を求める。

 今の私がこうなったのは、やはり彼のせいだ。装飾品一つで一時的に決壊するほど、彼は私の価値観を壊して、壊して壊して、悉くを壊しきってくれた。

 知っているのだろうか。女の子を傷モノにする意味と責任。それらを彼は知っているのだろうが、私をそうしたことは知らないのだろう。彼にその事をたっぷりと知らしめたいが、それと同じくらいに土を付けたい欲も確かに存在する。だから私は、()()彼と友達の域で留まっていられる。

 でもそれが済んだのなら、私が彼に敗北を押し付けたのなら。

 

「……いただいてしまっても…………かまいませんよね?」

「ぐ、グラスさーん……?」

「――――ええ、何か?」

「なんでもないです」

 

 魔王打倒の報酬だ、本人を貰うくらい許されるだろう。

 例え奪い取る形になったとしても、逆境ほど燃える事柄もある。

 大事なのは彼に私を選んでもらうのではなく、彼に私を選ばせること。

 どんな手を使っても、手練手管策略謀略権謀術数計略、あらゆる汚い手を使っても、少々はしたない事をしても、その席は私の物とする。

 今その席に居座る先輩と比べれば、私のスタイルは良くないが、彼はそこを気にした様子が一切ない。いっそ悲しくなるほどに、大きいとか小さいとかの拘りが薄すぎる。それはつまりストライクゾーンは広いという事。年上に心砕く事も多いように見受けるが、それらはあくまでも、男女間の関係に踏み込まない事を前提としている。

 それまでは、土を付けるまでの間は巡ってくる好機を淡々と積み重ねて、最後の一口として――――甘美なる時間を喰らうのだ。

 

「おはようグラスちゃん! それと……っぺぇ?! だっ、誰だっぺ!!」

「その反応は酷くね?」

「ケ!? まさかカイト?!!」

「そんな驚くことかよ」

 

 たまに彼は私を鎌倉武士と揶揄するが、存外間違っていないのかもしれない。現在へ伝わる蛮族同然のもののふのように、今の私は我慢強くない。あまりに焦らされれば、強行する可能性も大いにあり、それを望む自分もいる。

 覚悟の暇なく彼をいただくのは、どんな反応をくれるか楽しみではある。

 何気ない眼鏡が、そんな決意をさせた朝だった。

 

 

【全部ヴァレンティウスが悪い】

 

 校舎裏は寒い。夏やら春なら暖かいか涼しいだろうが、今は冬。二月は冬。日本の二月は完膚無き冬季真っ盛り。おまけにコンクリ仕立ての校舎壁が、無機質な冷たさを見る者に与えて、この場所は尚更に寒く感じられる。そも寒いのは大の嫌いだ。手は悴むし、横から吹く風は冷たさの限度を知らない。冬が擬人化でもするのなら、助走をつけてぶん殴りたくなる。

 そんなカイトが寒気吹き荒ぶ校舎裏で、震えながらも待ちぼうけを喰ってた理由。

 

「……いやいや、室内で渡してよ」

 

 小さく梱包された箱からは、空気に乗せて甘い匂いが運ばれる。今日が何日なのかを思い返せば、中身が何なのかと予想するのも簡単だ。

 

「ファレさんも律儀だなぁ……」

 

 グラスに次ぐ頻度で再戦を求められるが、やっぱり応じることは一向に無い。そんなカイトに愛想を尽かすことなく、こうしてプレゼントまでくれる始末。普段も話しかけてくれるし、なんなら仲の良い方ですらあるしで、ボコボコのボコで負かしたことに罪悪感を生み出しかねない。

 とはいえ貰える物は、心が痛まないくらいには貪欲に貰っておく主義。今日みたいな催し物の色が目立つ日なら猶更。

 

「おっ、ビターか……美味っ(うみゃっ)

 

 ほろ苦いブラウニーを口に咥えて、暖房の回った校内へ急ぎ足。しっとりとしたそれを噛めば、ほのかな甘さが舌の上で踊り出す。

 誰彼構わずと甘酸っぱい関係性を築いている訳ではないが、女子の知り合いが多いカイトとしては、やはり期待の一つや二つはする。義理で良いのだ。むしろ義理が良い。受け取れない事情がある身としては、本命なんて貰っても困る。というか本命を貰うなんてこと自体起こり得ないだろう。そう達観したカイトは、究極の義理を望む。

 

「飯代が浮くほど貰えますように」

 

 その願いは、些か過ぎる程に叶う。

 

 

「なにそれ」

「うむ。少し目を離したら下駄箱に供えられてた」

 

 言いながら、サクサクとチョコスナックを齧る。前歯で噛み進むこの感じ、気分はまるでハムスター。へけっ。

 抱えたフェルト製の袋の中には、大量の義理の象徴があれやこれやと。集って持ってきましたみたいなメッセージカードも添えられていたが、内容はまんま小動物に送る餌みたいな、そんな感じのノリで届けられたらしい。悪意は感じないが見世物であるのに変わりなし。そういう星の元に産まれたのかな。

 

「鼻血出そう」

「胃もたれするわよ……見てるこっちが」

「手伝ってリング」

「キング。……私は嫌よ」

 

 何と珍しい。なんやかんやと世話焼きなキングに断られるのは、なんだかんだと初体験。

 ちょっぴりショックだが、乙女の事情を考えればそりゃそうです。チョコって高カロリーの塊だものね。酷なお願いしちゃってむしろごめんなさい。

 

「スぺ、食べる?」

「いいの? 一応は贈り物なんだし……」

「全部同じ商品なんだから問題ねぇよ。それに、分けて食べても構わんって言ってた」

 

 二百に近い数のチョコバーを一人で消化し切るのは、狂気の沙汰が果てしなく深い。血液が真っ黒になるまで食べるとか、どんな拷問でしょうか。

 そう言って一掴み×十回分を、スぺに無理矢理押し付けた。明後日レースとか言ってたような気もするが、本人が気にしてないし大丈夫だろう。トレーナーに怒られるのはスぺちゃんです。その時は手助けでもしてやろうか。

 

「今日で食べきるつもり?」

「頑張る。協力頼む」

「残念ながら、セイちゃんは負担を増やしに来たのでした」

「あん?」

 

 ポイっと、無造作に投げられる白い包装は、袋の中へと吸い込まれた。ホワイト二ングな義理である。

 

「白チョコ! 正直ここでの味変更は助かる」

「そうね、忘れてたけど私もそのつもりだったわ」

 

 続けて二個目の追加物が、再び袋へ吸い込まれた。緑の袋に入ったナイスマドレーヌ。

 

「また飽きてきたらそれでも食べなさい」

「センキュー、ソー、マーッチ」

「ネイティブにはまだまだね」

「伸び代と言いたまえ」

 

 ホワイトデーに同じくらいの返礼を約束した。度肝を抜く代物を用意してやるから覚悟しといてね☆

 

「ところでシュールストレミングってさぁ……」

「なんてこと恐ろしいことを考えているの……?!」

 

 

「クソ寒イングリッシュ!!」

 

 時間経過と共に日は落ちていき、夕焼けが顔を出し始める頃に呼びつけられた。談話を楽しむ強者の余裕は、この極寒の空の下には存在しない。閑古鳥が鳴いているのが、何故か悲壮感を誘います。

 

「ま、まだですかい……!」

 

 呼び出されるのは百歩譲っても良しとして、グラスから呼び出されればすわ決闘かと身構える。カイトは非武装の限りを尽くしているが、もしも薙刀とか持ち出されたらどうしようかしらん。もしくは見晴らしの良い場所へおびき出して、遠くから弓で狙撃準備でもされている可能性。そんな想像をすれば眉間がムズムズしてくる。そうはならんやろ、とは言い切れない凄みを最近噴き出している。警戒しきって損はない。

 練習場の騒がしさは隔離されたように遠のいて、静けさが支配するこの場所では物音が強く響く。

 扉の少し軋んだ音は、この場所では大層響き渡る。

 

「お待たせ――しました」

「い、いやいや、待ってない。ぜぜぜんぜん待ってないから大丈夫だよ」

 

 フラッシュから教わった決まり文句とやらを口に出す。これを言わないと不機嫌になられるが、グラスはどうなのだろう。

 

「それでででっ、どうか、したっのん??」

「……ごめんなさい、寒いのが苦手なのにこんな……」

「いっ、や、いいんだけけどっ、それ、で」

 

 突風が屋上を撫でる。勢いの強いそれは、まるで殴られたような勢いを受けて、思わず目を瞑った。

 次いで胸元を叩いた152センチの衝撃。靡いた風に乗って、手触りの良い糸のような、美しい栗色の絹糸を風が運んで、腕へと乱雑に絡みつく。

 ブレザーの外側に、外気を挟み込む隙間も無いほど密着した、似通ったデザインの女性物の制服。その奥からは温度が確かに感じ取れて、じんわりとした熱が、胸の内に共有される。

 とりあえず起こり得た事象は把握した。でもなんで?

 

「??」

「これで、冷えたカラダも暖まるでしょうか?」

「????」

 

 なんでなんで?

 疑問符の嵐。疑問符の豪雨。疑問符の雪崩。兎にも角にも、頭の中の奥は、不可思議で満たされて不思議がいっぱいでした。

 

「……なら……――移しで…………」

「……? …………???」

 

 風がバサバサとうるさくて、その呟きは聞こえなかった。

 

「…………今日は沢山のチョコレートを食べていたと聞きました。ですので、私からは和菓子を」

「……あー、はい、うん」

「意外性があって記憶に残るよう期待しています」

「そっか、そだね、わるくないね」

「私との再戦を約束してくれますか〜?」

「そうしよう、ありだとおもう、さいこうかよ」

 

 相槌だ。とにかく相槌打ってればどうにかなるってトレーナーが言ってた。

 

「ふっ、ふぅっ、ふうーーーっっっ…………スゥ――――――――……………………っ! はっっ、っ、んぁっ、んんっ!!」

 

 なんか、グラスに良く似た人の呼吸がオカシナことになり始めている。めっちゃ胸元で息を吸われるし、震えるように小刻みに吐き出す呼吸の仕方は、なんか、その、妖しさを含んでいるような。

 

「……それではこれをどうぞ」

「んむぐっ」

 

 細い人差し指で口へ押し込まれれば、緑茶に似た香りが口内に広がる。この味はよもぎ餅だ。甘味を摂れば混濁しかけた思考は正常へ戻り始めて、尚更に現状への不理解を深める。どういうことだってばよ。

 

「言質は取りました」

「…………んんんん?」

 

 気が付けば何故か口元を拭う動作のグラス。

 携帯をこれ見よがしに取り出せば、『ボイスメモ』との名称のアプリが目に入る。吸い寄せられる引力があります。

 寒いのにどうして汗が止まらないのかしらん。失言、やっちまった可能性の獣を感じる。もう走らないという意思がデストロイされそうになってる。

 

「ホワイトデーのお返しとして、楽しみにしていますね〜」

「……」

 

 忽然と胸の重みも消えて、そんな言葉を残して颯爽と去っていった。

 

「…………やられたァ!?」

 

 この為の布石。妖しく艶やかにのぼせた表情。抱きついてきていた間に、背骨を沿うように指でなぞられていたこと。尻尾の先がカイトの膝をくすぐり続けていたこと。その悉くは演技だったということなのだ!!

 全てはカイトから、再戦の言質を引っ張り出すその為に。

 

「お、恐ろしいヤツだ……」

 

 さしものカイトですらビビったぜ。てっきりまさか、そんなことあり得ないと思っているが、一ミクロンにも満たない数値ではあると思っているが、もしかしてだけど、グラスがカイトを愛しんでいるのではないかと、一瞬でも考えてしまった。

 まんまとノせられた午後の屋上だった。

 よもぎ餅はすっごく美味しかったです。

 

 

「たでーまー」

「おかえ――――カイ、と?」

「しばらくチョコバーは見るのも控えたいな……十年分は食った気がする」

「カイト?」

「どうしたアルダン」

「カイト?」

「はあい?」

「なんでそのシャツ………………口紅……?」

「え、ああっ?! これは……っ! アイツしかいねえ!!」

「そんな首元に付くようなコトを――――したのね」

「まってください即座にチェーン閉めるのやめよう待って俺は何にもしてない無実です清いです本当なんですなんでエプロン脱ぐんですまだ料理終わってないじゃ「他の匂いは消さないと」ん待ってにじり寄っ

 

 

「宣戦布告、受け取ってくれたかしら」

「……」

「ふふっ、うふふっ、――――ふふふふふふ」

「グラスが壊れちゃったぁ……デス」




二期はキングクリムゾンだキングクリムゾン。あの完成度高いシナリオに介入させるとかマヂ無理



バカから昇格中のバカ:一日二日食わずとも大丈夫なくらいに満腹だったのに、次の日には何故かゲッソリ。ふしぎだねぇ。コンタクトは怖いから無理。

アルダン:眼鏡は本当は嫌だったけど、自分だけがその姿を知っていたかったけど、渋々許した。身を切り裂くが如き決断だったと後に語ったり。満腹ならご飯抜きでいいですよね。ところで急激に色々と減ってきましたのでいただきます。

グラス:バカは気付いてなかったが、押し付けて塗りたくるようにしてアピール。言質も取ったし、とりあえずそこから先はおいおい詰める。眼鏡で決壊した決意もあったし、眼鏡が背中を押した欲望もあった。メガネスゴイ。

スペ:呑気にチョコバー天国。地味にマカロンを渡していた。後日トレーナーにメタクソキレられる。

エル:ポ〇キーを売店から直送でカイトに渡した。タキオン印の胃痛薬を近い内にカイトから渡される。

スカイ:ホワイトデーのお返しにカルメ焼を貰った。チョイスに首を傾げたが、普通に美味しかった。

キング:ホワイトデーに、シュールストレミングと書かれた缶詰を渡される。でも中身は宇宙食用のマドレーヌだった。普通に美味しかった。

みなみますお:飯友。歳が離れ過ぎない尚且つ同性の数少ない友達となった。

ロリコンビ:なんかいつの間にか連絡先を交換していた。競バ場の熱気がそうさせた……!!

深い意味は無いけれど

  • お祭りお助け黒色娘が善哉善哉
  • ジンクス絶破ウーマン良き良き
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