「よっしゃーー!!!」
教卓へ昇り、ガッツポーズで教室中の視線を独り占め。
自己顕示欲が限界突破している。もっと見ろ。エイヴィヒカイトの姿を、目に焼き付けてくれる。それだけの偉業を成してやったのだ見たかコンチクショー。
「今まではエイヴィヒカイトで……カイットってところかな……さらに……」
「お行儀が悪いわよ」
「促音は何処から来たのでしょう」
「何に影響されたんデスか?」
閑話休題だお喋りガールズ。茶々はそこまでにしておけよ。
「ちゃっ!!!!」
バッ! とか効果音を鳴らしながら、懐から一枚の紙を取り出す。何度も読み直したそれは、たった一日でしわくちゃになっていた。万が一破けても大丈夫。コイツは眺めるためのコピー品。母親から欲しい欲しいと強請られたので、本物は実家に輸送済みである。そこまでするかとの呆れも入るが、若干満更でも無い部分は否定しきれない。
「こいつが――
――――ズァオッ!!
帯電するかの如く、黄金の輝きを放ってるような気がしないでもない幻視が、クラス中を巡った気がした。正直滑ったのは自覚している。けどそうさせるハチャメチャが押し寄せてきているのだから仕方ない。ウィー、ガッタ、パワー、迸るゼットであります。
静まり返る室内で、セイさんは開戦の口火を切る。
「……いやいや、そういう冗談は良くないよ?」
「あん?」
「いくら落ちたのがショックだからって、そんな偽物を作ってまで、夢を現実で見るのはね~?」
「はいカッチーン」
こめかみに点火! 指筋の柔軟良し! 沸点はマイナス領域! 後は勇気だけだ――ッ!!
デコピンくらいは許してください。ぼかぁアヤツの額へ向けて、指向性を集約した一撃を放たなければならない。一撃とは言ったが、決して一発で終わるなどと思うな。この連撃は九十越えの高継続である。史上稀に顕れる大爆連を目に物見ろ。
「スペ! コラ! HA・NA・SE!!!」
「はいはい落ち着こうねー」
窘めるのも慣れた様子で、もはや羽交い絞めすらせず襟元だけで制される。ノリがゴルシに寄って来たカイトに付き合わされるうちに、暴走列車を制する術を身に付けつつある総大将。指で抓まれているだけなのに、足先まで動かないのはもはや恐怖の域なんです。彼女は合気の真髄に手を伸ばしつつあるのかもしれない。
「フシャーッ! ガルルッ、ガルルルル!!」
「どうどう……ま、知ってたけど」
「ガルルッ……る?」
「アタシとグラスはトレーナー経由で知りました」
「スカイさんと私はスペシャルウィークさんから聞いたわ」
ならもう学園中が知るところになっていてもおかしくはない。
なんか一気に冷めてきたカイトは、静々と教壇から降りたのでした。いっそ恥ずかしくなってきたまであります。
「ネタバレ済かよつまんな」
「大事件だもん、教えるよ」
そんなか。そんなにも信用されていなかったのか、カイトの学力やらは。
「三点の答案用紙からの成り上がり……未だに信じられないよね〜」
「まっ、やればできる子ってことよ」
「その腹立たしいドヤ顔も今日ばかりはキングが許すわ、存分になさい」
「フハッ、フゥーハハハハハーーッ、ハッハーー!!」
「案の定調子に乗ってるデス」
逆に今乗らずしてどうする。このビックウェーブに関しては、むしろ乗らずの方が失礼だろう。噂に聞けば、東な大学に匹敵する難関っぷりとも。それを一発合格とは、漫画にも出来そうなエピソードである。
それを知った今では、ウチのトレーナーって案外すごいのだなぁとか、認識を改めたり改めなかったり。
「ともあれ、おめでとうございますカイトくん」
「フ、フフ、フフフのフフフ。賞賛をありがとう、できればもっと言ってくれい」
「ふふっ、はしゃいでますね。……今度お祝いに
「いいね、行こう」
「ええ――約束ですよ?」
『…………(何も言うまい)』
こういった記念は、盛り上がるための格好の餌にもなる。他者からすればそれがメインかもしれない。仲の良い同期全員で騒ぐのは、多分、すごく楽しい。
「聞いたよカイトくん!!」
「!!?? どうしたウララ!!!!」
「合格おめでとう!!」
「――――――――ッッッッ!!!!!!!!!」
光の象徴が突き刺さる。アカン、昇天する。
他の教室から足を運んでくれるなんて、優しすぎないかこの心の光が集まってウマ娘を象った生命体は。突然に扉を開き飛ばしたのなんて知るか。浄化されて属性が裏返りそうだ。
「――俺は、きっと、この言葉をっっ、貰うためだけに…………っっ!」
「カイトくんが消えていくー! どんな手品なの〜!?」
「満足そうだ……なむなむ」
「……助けなくていいの?」
光の笑顔は常時ニフラム。そんな確信を抱いて、カイトの学園生活は再開された。
まさか食堂で向かい合わせになって昼食を摂る日が来るだなんて、思いもよらない事柄が恒常化するだなんてますます予想外だ。
それすらも慣れた頃合いが、丁度最近だったりする。
「次のお休みにお出掛けしませんか?」
似たようなフレーズをどっかで聞いた。今日中に聞いた可能性もあるが、果たしていつだったのかいまいち思い出せない。誤魔化そうとかでなく本気で思い出せないが、多分思い出せないなら些事ですねこれ。想起の努力を投げ捨てて、忘却の彼方へ置き去りにした。
味噌汁を啜り終われば、味噌汁の熱気で曇った眼鏡越しに、期待に満ちた眼差しとバッチリ目が合う。
「いいけど、なんで」
「カイトのお祝いもそうですし、叔母様のお誕生日が近いでしょう?」
「ああ、それか。……いや、大丈夫です」
言われて危うく思い出せたが、その件につきましては毎年恒例で付き添ってくれてた親戚サンがいらっしゃる訳でして、もう既に一緒に選ぶ予定も詰めている訳でもありんした。
「都合が悪かったかしら? なら他の日にでも……」
「いやいやいやいや、その、さ、」
都合なんて一つも悪かぁないのです。だってほら、母親の誕生日プレゼント選びなんて、咎められる要素が一体何処ぞに点在していますかね。むしろ素晴らしく誇らしきイベントであります。なればこそ、胸を這って堂々と言えばいい。『フラッシュと一緒に街へ繰り出して、仲睦まじく買い物してきます(要約)』と、大きな声でハキハキと申せば宜しい。『なのでアルダンとは買い物に行く必要が無い(要約)』と、期待している彼女へと大きな声で伝えれば良い。
けれどそれが出来ずに言葉に詰まった理由に、心当たりがある気がしなくもないと、カイトの心が叫びたがっているんだ――!
「とにかくあれです、その件につきましては無問題です」
「……どうかしました?」
「いえなんにも全部が大丈夫なんです……っっ!!」
「焦る理由は、何?」
わーお、食堂のばっちゃんの料理は相も変わらず美味しいー。アジフライ美味美味。サックサクの衣がフッワフワの白身を包み込んで、口の中でハーモニクスが踊り狂ってますねこれは。
「ねぇ、こっちを見て」
「……」
「隠し事? 疚しいことでもあるの? ……そう、言えないことがあるのね。」
「…………」
アルダンと話していると、たまに疑問符が行方不明事件となることが多々ある。捜索願を出そうにも、なぞのちからでカイトの願は無に帰すのです。ぼかぁ無力だった。
「誰と行くの」
「……………………」
「――――誰と、行くの」
「ふフ、フラッシュなんです」
「…………また……あの人」
「あれれ、今って春だよね……?」
アカン。歯の根が合わない。ズレすぎてカチカチ山かよ。
ぞわぞわが臨界へ達すれば、大人しく白状するしかないです。言わなきゃよかったと思ったりもするが、ダンマリを決め込めばこの後が怖くて恐ろしや。ただの学生と言い切れない立場となったカイトは、朝に寝過ごすなんて体内時計は、もう遠慮したい。
「アルダンの懸念、違う。俺、何にも悪いこと、してない」
「カイトがそうでも、相手はどうでしょうね」
「? ナイナイ。絶対ありえんだろ」
「そう言ってドーベルは……」
「…………それ、頼むから言わないでくれよ」
頭痛の種、なんて抜かすには贅沢な悩みだ。そんな価値も無い存在を、ああも買い被ってくれるのはむず痒いどころじゃない。
諸々の理由で受け入れるのは無い。突っぱねようにも、あれから喋る機会を喪失しているのが、中々どうして辛過ぎの巻。すれ違ってもそそくさと逃げられて、勘違いされたエアグルパイセンに怒られた記憶しかない。後輩想いなの丸出しなのは良いと思うけど、こっちもある意味では被害者みたいなものなのですから、エイヴィヒカイト後輩も労わってくれ。
「ああクソ、ベルちゃんに避けられるなんて……ちょっとだけ死に――」
「カイト」
「……もとい、辛過ぎてどうにかなりそう」
「カイトも同じ仕打ちをしていたこと、忘れないでね」
「うぐっ……い、胃が痛いぃ…………」
決定的な一言を貰ってないから、ギリギリなあなあに出来ているような気がする。そう思うことにする。
「まさか受け入れませんよね?」
「え、ナイナイナイナイ。そんな器量は持ってない」
「押しに弱いし、女の子に弱いし、とっても心配」
押しの限りを尽くした張本人がなんか言ってら。
「え、信用低い……?」
もしかして軟派な野郎に見られているのかしら。悲しみが限凸。四枚ほど重なるくらい悲しみ。
かなり一途な自覚があったが、アルダンからすれば気のせいだったらしい。大号泣でもかまそうかな。
「話しを戻そう。……とりあえずあれだ、母さんの誕プレはフラッシュと行くから、大丈夫かなぁーって……」
「そうですね……毎年の恒例だと聞いていたし、少しくらいは貸しても……」
「……貸す? 貸すって、貸すってこと? 俺を貸し出すってコト??」
あまりに自然と申すものだから、語彙の意味が不明を極めた刹那でした。
不肖ワタクシエイヴィヒカイトはアルダン所有物だった。否定できるほどの立場も無いし、そもそもが否定する気もないが、明け透けに言うなとは言ってやりたい。声量を張ってる訳でも無いのだろうが、如何せん周りが静かすぎると比例して声量が大きく聞こえるファンタジー。
「なら他の……来週のお休みはどうかしら」
「いいけど、何しに行くのさ」
「デートに行きましょう」
インパクトのある会話をするのは辞めましょう。呆気に取られてアホ面を晒させてどうする気だ。
なんて堂々、なんてしたり顔。臆面も無く、よくもまあ言い放つ。耳心地の良い音で、猫を撫でたような声が学食内に響き渡る。カイト達が食べ始めた途端に静かになってましたが、もしやこの為か。出歯亀、断固反対。
同時に『キャーーッ!!』とか、そんな心が確かに聞こえた。人類の革新へと、ひょんなことで一歩進んでしまったカイトなのでした。
それ即ち、公開処刑が進行中の合図。
「最近は一緒に外出できなかったでしょう? 家で一緒もいいけれど、たまには外で一緒に、ね?」
「……そっすね」
寒いのが嫌で室内に籠っていたのもあるが、それ以上に忙しかった日々が続いていた。家であんまりゆっくりできなかったのも、口実としてあったりなかったりか。
応援こそしてくれていたものの、勉強漬けで触れ合ったりの日々が遠ざかっていたのも事実。些かよりも寂しい思いをさせてしまったかもしれない。
とは言えだ、その手の話は、それこそ家ですりゃ良い。表札に名前を追加してまで移り住んできたのだから、その利点は使うべきだ。
「行ってみたいお店があるの。カッ、……二人じゃないと行けないお店でお茶して」
「……そっか」
「アクセサリーなんかを見繕って…………お揃いで」
「……(目を瞑る)」
「家具を新調したいと言っていたでしょう? …………これを機に、ベッドも二人で眠れるような――」
「……(耳を塞ぐ)」
人生の墓場が雪崩と化して、あっち側からやってくる。迫りくる脅威にどう立ち向かえと言うのだ。それか立ち向かわずに、抗うことを止めれば正解ですかそうですか。
生憎この辺の件については、味方など何処にも見当たらない。知ればウキウキで助長させる悪魔しかいないのが、悲しすぎる現実ってやつです。
なら拒絶すればいい話ではあるが、自分自身にその気が全くもってないのが困りもの。
「時間があれば教会の下見にも」
ヒートアップ現象。暴走がオーバーロード。自己ブレーキはリミテッドエディション。放っておけば、どこまで突き進むのか見て見たくもある。こっそり録音でもして、後に揶揄いの種として使うのも悪くはなさそうだ、いやむしろめっちゃ見たい。なにそれおもしろそう、ってやつである。
しかしこれ以上は看過できぬ。生者でありながら処刑なんて勘弁願う。このまま続けば、いたたまれなさで、カイトはこの学園に居れなくなってしまう。
「お、嬢様お嬢様、場所を考えましょう」
「……へ」
呆けた表情で、ようやく何かに気付いたお嬢。時は既に遅し。
おもむろに顔面を向けるような愚者はいないが、ギリギリチラ見と言える範囲でこちらを観察する周囲。しかしああも興奮で血走った視線を貰うのでは、果たしてチラ見の範疇に収まるかどうか。慎ましさを覚えよう淑女予備軍。
「………………ぁぅぅ」
「燃料を注ぐリアクションはやめとこうね」
赤みが増しすぎた顔を俯かせる手伝いに、被っていたピクチャーハットを頭にかぶせてやる。これで少しは顔色を隠せるだろうか。言っておくがこれはただの気遣いであって、羞恥の顔を他者に見せたくないとか、そんな嬉し恥ずかしな理由じゃないのであしからず。だからそこの犬っぽい先輩はこっち向くな。無敵っぽい先輩もチラチラ見んな威嚇すんぞ。
ともあれ、出掛けることが確定したのでありました。
「あ」
「あ」
激動の脳内革命。とかなんとか名曲のフレーズがよぎるくらいの混乱が突き刺さる。
そんな夕方の学園前であった。
「よ、よっす、ベルちゃん」
「……カイトも帰り?」
「だね。ベルちゃんはも?」
「……うん」
焦りが如実に出てきて日本語が絡まっても、微塵も触れてくれない。スルーがすごく悲しい。
「……」
「……」
「じゃあ、さよなら~……!!!!」
エイヴィヒカイトは知っている。これまで培った経験則が、いたたまれない空気から走り出せと語り掛ける。
サムズアップを小さく掲げて、走り出そうと全身はその為の姿勢を象る。それはさながら現役を彷彿とさせるフォームを取って、轟音の一歩目を打ち鳴らす――――!!
「ぁっ」
「うおおおおおおお――――!!!!!」
逃げることなら任せたまえ。物理的にしがみ掴まれないのなら、何人たりとて影すら踏ませないのは依然変わらず。
ものの見事に気まずさから逃げおおせることに成功したのだった。
「――♪♪」
「機嫌良いなぁ……」
鍋がコトコトと煮える音と、まな板を控えめに叩く音。料理中の音は非常にリラックス効果が有るが、何故こんなにも落ち着くのだろう。作ってる人が人だからか。納得のエイヴィヒカイト。
手伝おうとしても楽しそうに断られて、手持無沙汰なカイトはここに。デー――はともかく、二人で出掛ける予定はまだまだ先なのだが、今からこうも喜ばれてはこっちだってそれなりに嬉しくはある。衆人は周りにいないから、気兼ねなくにやけ面を晒すカイトであった。
「とりあえず昼に言ってたのは全部……え、これ回るの?」
アルダンの行きたがっていた店が何処なのかは知らないが、そこら辺は後で改めて聞くことにする。ペアのアクセサリーと言っていたが、ガッチガチのサービスドリンクなどが出てくるような場所へは行き辛いので、カジュアルな店で許されるだろうか。家具がどうのこうのは、ちょっと何を言っているのかよく分かりませんでした。教会あーだこーだは聞かなかったことにしたいが、通じるか否かは定かでない。
これらを含めたプランを、いくつか考えてみる。
考えれば考える程に、ゴールインの幻視が迫力を増してくるのだ。もしかしたら幻視じゃないのかもしれない。
「幸せ者め……む」
浸っていれば、横槍になる震え。着信の報せが手元に届いた。
「……どしたのグラス」
『今大丈夫ですか?』
「んー……」
チラッとキッチンを振り返る。
幸多き鼻唄を響かせて、ワルツでも披露するような上機嫌。時間の余裕はある。主に気づかれずに電話する時間。
「どした」
『確認だけ取りたくて』
「あ、遊びに行く話か」
『来週のお休みで良かったですよね』
「うん、日曜な。……うん?」
はて、何かが引っ掛かる。検索を始めよう。キーワードは、「来週」「お休み」「お祝い」とかか。
『よかった……それでは楽しみにしていますねっ』
「え、あ、うん……あっ」
弾んだ声はかなり楽しみにしているんだなと察するに容易く、反射で了承してしまった。
訂正の声を上げる間もなく、好機嫌の印象を植え付けたままに、電話は途切れてしまった。
「……やっべ」
血の気が、血の気が消えて冷めていく。コレは不味い。顔色を誰かに見られでもすれば、即座に何かあると勘繰られる。カイトの理解度に高い者なら尚更でして、まさか
それも電話の相手は、よりにもよってグラスだ。これは死ぬ。間違いなく死ねる。ヴァレンタインの悲劇のように、このままでは干乾びたゾンビが再び顕現してしまう。案外それで果てるのなら、とか思っちゃったりしなくもないが、怖いのは嫌なんですタスケテ。肉に群がる猟犬などと化して、深窓などのワードを投げ捨てないで欲しいのです。
「どうすればいい……俺はどうすれば……っ!」
トレーナーに相談? ありえないですね。噂を広めたりなんかを疑っている訳でも無いが、修羅場の相談相手に相応しいかどうかでは、かなり怪しすぎる。たづなさん? 起こられて終わりそう。あの人はあの人で解決策を提示できるほど、その手の対応に富んでるとも思えない。おハナさん? 口が緩いとは思わないが、主にたづなさんと同じ理由で無しだ。
頼れる大人がいない。母さんやばあちゃんなどの、頼っちゃダメな大人しかいない。
またまた電話が震えれば、グラスからだと思い込んで飛びつく。早速お断りの連絡を入れる機会が出来たと喜んで――――追い打ちは、こういう時に降り注ぐからこそ追い打ちと言うのだ。カイトは身で確と知りました。
「べ、ベルちゃん……だとぉッ?!」
嫌な予感がめくるめく旅路の止めどころを見つけられずにアンビリバボー。
カイトは数秒後、スーパー奇跡体験を体感することになる。
「もしも、し?」
『……今は、大丈夫?』
「ど、どうしたの」
何を言われるのか、戦々恐々の心持ち。生唾を吞み込む人生の佳境であると構えるべし。
『カイトって……』
「……」
『来週の、日曜』
「その日は予定が詰まって無理かな無理そうだなぁっ!!?」
予め解き放つべき言弾を、曜日が出た瞬間にぶっ放した。あぶねーあぶねーです。
恐らくはこじれ掛けた関係性の、清算をしようとしてくれていたのだろう。しかしながら、マジの本当に日が悪すぎた。
「その日以外なら全然構わないけど」
『……そっか』
ベルちゃんには悪いが、これ以上混沌を煮立たせて塗りたくって敷き詰める凄惨な末路にしないために、断固としたお断りの姿勢は揺るがない。
気落ちした声には負けない。負けたらカイトの生死が行方不明になりかねないから、ここは突っぱねる一択であると――――ッ!!
『……そう、だよね…………っ、無理言ってごめ』
「無理じゃない全然無理じゃない絶対に行こうどこに行きたい?」
無理なのは抗うことでした。泣きそうな声で言うのは辞めよう。それってばカイトの心に突き刺さりますから、イエスマンにだってなっちゃうぞ。罪悪感が踏み荒らされて、抵抗もへったくれもないのだ。
『ほ、ほんとにっ?』
「ベルちゃんの行きたいところ行こう。俺も一緒に遊びたい」
『……!! 言ったからね!?』
ええ、それはもう。言ってしまいましたとも。
「うむうむ。どこへだって付き合いますよ?」
『それじゃあ……行きたいところがあって……』
一度述べてしまったからには、もはや引き返せないし取り返せない。嬉しそうな声が耳に届きながら、遠い目で壁の染みを見つめることしかできない。やっぱりカイトはなんとも無力です。
でも嬉しそうな声を聞けば、後悔なんて何処にもなかったり。
背後で忙しなく動いていた気配が、鈍ってきている。気づかれずに電話できる猶予は、終わりを告げ始めている。
「(やっべ)……とりあえず、予定はまた明日にでも詰め直そう。直接話した方がやりやすいでしょ?」
『うん。……それじゃあ、また明日、ね』
「そんじゃーね………………ゔぁ〜……」
呻き声がどこからか鳴る。自分から出ているだなんて気がつくことなく、これからどうするかに思考を馳せる。
後悔なんてしない、後悔なんてしない、後悔なんてしない、後悔なんてしない、けど。これから迎える日曜の苛烈さ、その激動の日を思うと、心が欠けそうになる。カイトはただ、みんなを幸せにしたいだけのに、何故こうなった。
「うごごごごごご……」
「どうかしたの?」
「……なあー、アルダン」
ダメで元々。聞くだけならタダ。押してダメならなんとやら。行動を起こさなければ、結果という未来はやってこない。例え胃がキリキリ痛もうと、聞かなきゃ何をどうすることもできやしない。
意を決して、されど面には出すことなく、何気なく聞いてみた。
「日曜デートさ、無しには……」
「? ――――ぇ」
確かに潤いが増した瞳孔を見て、だめだこりゃと確信しました。
「嘘嘘めっちゃ嘘つきました本当にゴメンナサイ最高のデートにしよう」
「…………よかった」
未来はその方向に決まった。もはやカイトにはその過程は曲げられない。であれば末路を凄惨なものにしない事を、何よりの最優先事項とする他無いのだ。
ドキドキデート
スーパークズ野郎、爆誕。そのまま爆散しないかな
深い意味は無いけれど
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お祭りお助け黒色娘が善哉善哉
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ジンクス絶破ウーマン良き良き