バカ「飲む飲む……うぇっ、相変わらずまっずいなぁ…………っっ!? グワーッ!!!!???」
マッド「ふむ……学習能力は未だに改善の余地あり、か」
それは、とある日の事。
スズカがトレーニング前に部室へ寄った時の事。
「ええっと……どちらさまでしょうか?」
「――――ああ、驚かせてしまったかな……声清らかなお嬢さん」
誰の事だと周りを見ても周囲には誰もいない。きっと自分の声質の清涼感を自覚していないからこそ、そんな他人事なのだろう。気付け、貴女の声は世界を平和にするぞ。歌が力になるくらいだし、スズカが歌えば月の欠片くらいは押し返せそう。
「は、ひゃいっ」
「? ……緊張でも?」
「……あ、あの……それで、どちら様でしょうか……?」
見覚えがあるような、そんなニュアンスが込められた視線が彼の帽子へ突き刺さる。
次いで掛けられた眼鏡に視線が向かえば、バッチリと視線が絡み合った。
「君のように澄んだ瞳で見詰められれば、つい反応に困ってしまう」
「ぁぅ……ご、ごめんなさい?」
「いや、謝る必要は無いよ……ああでも、君が魅力的なのは、確かに罪かな」
「へ、……そ、そうですか……」
困った様子で縮こまってしまうスズカ。困惑の色が強かれどもストレートな誉め言葉には弱いところは、中々に見応えがある。正直もっと言いたいけれど、これ以上は後々が怖い。
事態が治まった後を見据えれば、遊び過ぎれば地獄を見る。
「私は……そうだね、エイヴィヒカイトの知り合い……かな」
「お知り合い、ですか……」
「ああ、よしなに頼むね」
名前を明かさないのは考えるのが面倒だから。このまま押し通そう。何事も無く事態が収まれば良いのだから、わざわざ素性を露にするつもりはない。
それに――――もう少しこの身体で遊びたいのも事実。
「ところでなんだが」
「は、はいっ」
「アグネスタキオンの行方に、心当たりはあるかな?」
ただその前に、奴の身柄だけは押さえておく必要がある。
そうして初めて、この状況を余すことなく楽しめるのだから。
どうも、ダンディハンサムハードボイルドなエイヴィヒカイトです。
此度はどうしたかと言われれば、プロローグで察した方も多いのかと思われますが、敢えて確と宣言いたしましょう。
「今度はこっちか……」
諸々を前略して、マッドな女郎の作ったクソ不味いコーヒーを飲んでいれば……身体が年齢を重ねていた――――!
「……やっぱり父さんって、イケメンだよな」
黒ハットは元々のデザインがシンプルで、尚且つ高級感の目立つ出来なのもあり、ダンディかつアダルトな雰囲気を不足無く醸させる。
顔立ちは母親と似ていた未成年期とは打って変わって、年齢を重ねた故に感じられる多少の渋さからは、父親の血が色濃く感じられる。歳を取ればカイトは父親に似てくるらしい。髪色も相まって、見る者が見れば生き写しと見做しても遜色ない。
キリリとした精悍な目元。スッキリと通った鼻筋。少し硬い髪質は、父親と同じ癖毛を演出させる。
「……母さんに見せてやりたいな」
携帯を鏡代わりにして己の顔を見渡せば、歳の頃は二十半ばから後半の、若さと渋さの混合したちょうど旨味のある時期か。
「さーてと、あのクソマッドはどーこだ」
カフェへ電話を掛けながら独りごちるが、どうせ繋がらないだろうし、繋がっても芳しくない結果が得られるだけの確信が半分。
なんにせよとりあえず確保だ。それまでの道中は、この身体を楽しみながら情報収集と。
「方針決まり……よっし! ほんじゃ楽しみましょうかー!」
前回は誰かに襲われたのだから、今回も危険が危ないだなんて。ちょっとそんなのは考えたくもないがそれはそれ。身に降りかかる火の粉を見て見ぬふりするのは、些かばかり賢さとはかけ離れている。
とはいえ此度は筋力の低下も見受けられず、抵抗の余地は大いに備わっている。今回ばかりは喰われてお終いなギャグオチなど存在しない。安心安全で娯楽な状況を楽しまないとね。
「目標は、どうしよう………………っ、!! そうだ! たづなさんで遊ぼう!!」
割と最底辺な宣言を残して、カイトは悠々と理科室を後にした。
【その一】
「ちょいと、そこのお嬢さん」
「はい? ッ――――カレンですか?」
クリームの葦毛に黒のイヤーカフ。
カワイイカレンチャン、が合言葉らしく、ウマッターで常に人気急上昇中らしいカレンチャンを見つけた。
ちょくちょく絡まれてはいたが、割と適当にあしらっていた自覚がある。現役時代に走り方の指南もほんの少々と、その程度の関係性だ。
「そうそう、君だ。ちょっとだけ聞きたいことがあってね……あと」
「?」
「ちょっと写真を撮ってもらいたくて……」
写真を取らせれば一級品だとはよく聞く話。情報収集ついでに、現在のいでたちを写真に収めてもらうのだ。転んでもタダでは起きないエイヴィヒカイト、これを母親への手土産として、気分よくこの騒動にケリをつけるのだ。
「アグネスタキオン嬢の行方を知らないかい?」
「んーと……この辺じゃ見かけてませんけど」
「そうか、ありがとうカレンチャン嬢」
「……カレンの事、知ってるんですか?」
「もちろん、カワイイ君のことは存じているとも」
「! 本当にっ!?」
グイグイと詰め寄る勢いのカレン。落ち着かせるように肩を掴めば、借りてきた猫のように落ち着いてくれる。
正味、カイト的にはもっとカワイイ存在がいる訳で、そんな理由であまりカイトには響かなかったが、ちょくちょく耳にも目にもしていた。
こうして見れば、まあ確かにカレンが可愛いのは間違いようが無い。訂正、可愛いではなくカワイイだったか。
特にこう、顔を俯かせたのは、照れているような、そんな感じで悪くない。普段からもう少しは、カワイイと褒めてやっても良いのかもしれない。
「ぁ、ありがとうございます……っ、お兄さんもっ! ……カッコイイですよ!」
「そうか……君みたいな可憐な娘にそう言われたなら……なるほど、男としては冥利に尽きる」
「どことなくカレンの知ってる先輩にも似てて……うん! すっごくカッコイイです!!」
ジェントルを気取った笑みが、一瞬歪み掛けたが耐えたのはえらいと思う。
いいぞもっと言え。父親似の容姿をもっと褒め称えよ。外見を褒められる際は、母親似に対する誉め言葉ばかりだった日々なのに、こうして父親が遠回しに褒められるのは最高に嬉しすぎる。
なんか気分良くなってきたし、ブランドバッグでも買ってあげようかな。
「本心で言ってくれているなら尚更に嬉しいよ……ありがとう、お嬢さん」
「うふふっ! それじゃあ写真、だったっけ? カレンと一緒に取りましょう!」
「ああ、頼むよ……ん? ……い、一緒に?」
首を傾げながらもいつの間にやら腕を組まれて、戸惑いつつもツーショット撮影。
その結果カイトとカレンのスマホには、カレンとカイトとの、傍から見ればバカップルな写真がフォルダを潤わせたのでした。
――――なんか、違う。
「いやちょっと待った、俺はツーショットじゃなくてだね……」
「あれ……このスマホ、カイト先輩の……?」
「――気のせい気のせい。それじゃあまた、縁があればね」
この小娘は実に強かであり、勘も中々に鋭い。事実に感づかれるのも時間の問題だとの判断。
そんな訳で颯爽と、なるべくハードボイルドにとんずらさせてもらうエイヴィヒカイトなのでした。
「先輩が大人になってるって……本当なんだ」
その写真は待ち受けとなり、朗らかと嬉しそうに胸に抱く後ろ姿は、色彩鮮やかな幸せ色。
それをカイトは目撃することなく、次の情報収集へと足は向かっていた。
【その二】
「そこのお嬢さん、少しお話いいかな」
ベンチで座っているスーパーカー発見。これは遊戯の時来たれりである。
「はーい? ……………………あっ」
「? 私の顔に何かついているかい?」
「い、いいえ? それで、どうかしたのかしら」
たっぷり数十秒ガン見されていたのはなんだったのだ。何かを察したような声はなんだったのだ。まさか正体を看破されたわけでもあるまい。なんせカイトの父親の顔を知らないのだから、精々が肉親あたりかと疑うくらいに留まるだろう。ならなんでガン見されていたのかしら何故かしら。
そんな疑問を考察することなく、カイトはマルゼンへと話を聞きに掛かる。
「アグネスタキオン嬢の行方を捜しているのだが、貴女は何か知っているだろうか」
「ぷっ。…………い、いえ……分からない、わ」
「そうか……」
「ち、力に、なれなくてごめんなさいね…………くふっ」
何かを堪えるように、途切れ途切れの謝罪を受け取らそうとしてくる。
「やめてくれ、謝る必要なんかないよ」
「……そう?」
「ああ。……それに、貴女のような可愛い女性と喋れるのなら、私の事情など取るに足らないものさ」
わあすごいぞダンディボディ。歯の浮くようなセリフに困らない。本心からの言葉が色々と脚色されて、まるで口説いているようなセリフが止まらなさすぎる。
つーかキザ具合が過剰でとめどない。しかしこのロールプレイモドキはぶちゃけ楽しい。だからやめ時を見失うのもやむなしなのだった。
「やあね、お世辞が上手なお兄さん」
「本心だとも。貴女は美しい。美しいが、私はそれよりもその美しさの中にある愛らしさが好ましい。走る姿は童心に帰ったようで、それもまた愛らしいと私は思うよ」
「…………ま、またまた……」
「本気だ。真面目に私は、貴女のそういった部分が好きだ」
「……い……言いすぎよ…………ト君」
曖昧な笑みで誤魔化さんとしているのを見逃さず、畳みかけるように誉め言葉で薙ぎ払えば、消え入るような声で頬をリンゴ色に染めていくマルゼンのお姉さん。
勝った。勝敗の基準は不明だが、とにかくカイトの勝ちだ。この人を負かすのがこんなにも心地よいなんて、ちょっとどころか、かなり癖になりそう。身体が戻ってもちょくちょくやってやろうと思った。
「…………ぅぅ……」
「ふっ……さて、私はこれで」
あの飄々として年上の余裕が難攻不落なマルゼンが、こうも容易く落城するだなんて、やはり年上ボディは強かった。
じんわりと感動していれば、マイファーザーもこうやって女性を手玉に取っていた説が、何故か自らの内で浮上しつつある。しかし尊敬し尽くす父親にそんな懐疑の視線など向けはしないのである。それはそれとして、今度母親に会う際は、その辺の事情を聴いてみようと思いました。
「ぅ~~…………やってくれたわね……っ!」
【その三】
校外にはいないのかと、当たりを校内での廊下にて探していた際の事。
犯人は現場へ戻る。そのついでに遊び相手でも見つかれば御の字とまったり歩いていれば、見つけましたは親戚の後ろ姿。再来月のドイツ旅行の予定を、しつこいくらいに聞いて来る几帳面なその人。
声を掛けた瞬間からクライマックスだった。前フリなんかない。最初から全力前回パワーマックスだった。
「そこのお嬢さん、少しお話を――」
「はい? …………――――ぇ、あ……あぁ……っっ!?」
「!?!?!?!?」
ホロリと、零れ堕ちる雫。
何故、何で泣く。何故嗚咽を漏らす。そして何故泣くのかすっごく知りたいカイトだった。
けど冷静に考えれば、この従姉はカイトの父親を知っているのだ。容姿もバッチリ覚えていると、以前に聞いたことがある。
そして他ならぬ実の息子たるカイトが、この姿を生き写しと称せるのだ。ソックリさんだとしてもその完成度たるや、そんじょそこらのクオリティと一線を画す。
ところで、こんな展開に似たようなイベントがあったような無かったような、そんなデジャビュに襲われるエイヴィヒカイト高等部の秋。
「oncle……?」
「違う! ごめんねフラッシュさん俺ですカイトなんです!!」
「――…………カイトくん?」
「ほら! 帽子取れば分かるかなぁ!?」
泣いてくれるほどに父親のことを想っていてくれていたのは嬉しい。息子として、やはり誇れる存在だったのだと胸を張れる。ですが泣かすのは駄目です。身内なら、尚更殊更に絶対ダメです。親父にあの世から助走つけて殴られる事態だこれは。
早急に泣き止ます必要性とエンカウントしたりするこの世の中は、やっぱりクソゲーだった。最近ゴルシから借りた本のタイトル風味な感想が、不意に何故か脳裏をよぎる。黄金船に毒されすぎかも分からん。
ともあれ、この手の場合は背中を優しくさするに限る。幼子にするように優しく撫ぜるのがポイント。これが中々にリラックスに効果的なのだ。
「驚かせてごめん。ほら、落ち着いて?」
「……カイト、くん…………ぅ……ぁぁ」
「泣かないでフラッシュさん」
吸い込まれるように、泣き顔が隠れるよう抱え込むようにすれば、するりと彼女の肢体は胸元へ潜り込んでくる。
うーむ、不思議なデジャヴュゥを感じる。こんなことが以前にもあったような無かったような。
「どう、して……そんなことに」
「マッドでサイコな科学者先輩の仕業」
「……今度は大きくなったと?」
「らしい。父さんに似ていたのは嬉しい誤算だ」
一日前とは打って変わったより野太い低音でも、できるだけ安心できるような声色を心掛けていれば、強張っていた体は徐々にほぐれていく。
離れるには頃合いだと思うがどうか。
「もう落ち着いた?」
「……まだまだ足りません」
「え、でももう泣き止んだし……」
「足りません」
何が不足しているのかしらん。
「もっと……
「な、ナニをご所望で?」
「……sei nett zu mir」
「いやまぁ……全然構いませんけども」
身内に優しくがモットーであるなら、そのくらいの要望はそれはもう聞き入れますとも。
しかしながら場所が場所なだけあって、目撃情報にありふれるこの場では滅多な真似はできない。現在のカイトがエイヴィヒカイトその人であると見抜けるのは少数、どころかいないと言い切ることも出来るだろうが、後々で迷惑を被るのはフラッシュだ。
人目につかないエリアを求めれば、都合が良いのか悪いのか、主人不在の旧理科準備室が近い。
「とりあえず……二人っきりになれるところに行こっか」
「…………いいんですか?」
「最近はフラッシュさんと触れ合えなかったし、こうした機会は大事にしたい」
「……私も、そうです」
選ぶ事なく口を突く。危ない発言がドンドン飛び出る。出てくる言葉の全ては素だ。カイトは素でこんなことを抜かしているのだ。ヤバいなコイツ。
「それにさ、この状況はかなりレアだろ?」
「……確かに、そうですね」
自分が喋っている言霊が、あまりに重大過ぎると気付けていないのは、家族とその手の関係性の優先度が、彼の中では近い位置にあるからか。
「未来の俺の姿なんだし、どうせなら楽しまないとね」
「ええ、私も……いっぱい堪能させてもらいますね」
「?」
話が噛み合っているような、噛み合いが悪いような。
「……Ich liebe dich」
「あん? そりゃ俺もだけど……」
「――――ぁっ、……その」
「どうした急に」
「…………い、ぃぇ……」
家族を愛するなんて、カイトにとっては当然だ。りんごが木から落ちるよりも確実で簡単なこと。
「そうだな……最近新しいマッサージの手法覚えたのよ。その名もチネイザンって言ってな」
「……チネイザン?」
「中華系列から発展した氣功に通ずる代物。……平たく言うなら内臓マッサージ、かな」
マッサージと称するほど力強く押したりはしないが、それはそれ。分かりやすく説明するなら、この語句が一番に都合が良いのだから。
かなりの精度で高クオリティな実力だと、講師の人にも太鼓判を押されてはいたが、いかんせんその手腕を振るう相手が存在しなかったのだ。別段使わなければ腐る様な物でも無いのだが、覚えたからには披露したいのも事実。
「疲れとか溜まってるなら施術しようか?」
「ではお願いしますね」
「マッサージ自体を誰かにやるのは初めてだから……多少拙いのは許してもらうぞ」
「初めて……私が、初めて…………悪くない響きですっ♪」
「……聞いてないなこりゃ」
理科室にて嬌声が響き渡るまで、残り五分。
【その四】
だらしなく半開かれたの唇からは、唾液がみっともなく零れていく。汗で額に張り付いた漆色の前髪から覗けた、意志が溶解したような瞳孔は定まらない。時折跳ねる肢体は、現実味の無い浮遊感に身を委ねている証だろうか。ソファーへ四肢を投げ捨てて、力なくしがみつかれたマットには皺が染みついてしまった。
息も切れて余裕のない寝顔は、どことなく色香を漂わせる。そんな姿は何ともアレだ、何と言うか、とても情欲を誘――――それはそれとして。
意識朦朧とした従姉をそっとして、恐る恐ると室内から引き上げる。
『うーむ……実に末恐ろしきマイゴッドハンド』
波打ち際に打ち上げられた魚みたく小刻みな痙攣した姿が、すっごく見ちゃいけないものを見た気分。
しでかしたのはマイハンドだが、まさかここまでの効力を発揮するなどと思う訳もあるまい。カイトは従姉の疲れを癒したかっただけなのに。もしやカイトは天性の才を得てしまっているのかしら。走るよりも教えるよりも、よっぽどこっちの方が向いているのかもしれん。
『――よし、忘れよう』
忘却とは対処となる防衛ではなく、時間稼ぎの先送りでしかないのだが、ちょろっと今は考えないこととする。そんなんが多い人生だなとか思ったり思わなかったり。
ともあれ次だ。昼食を抜いて探すのにもそろそろ飽きてきた。何なら腹が空いてきた。
『……部室で弁当でも食べるか』
――――そうしてアルダンの弁当をつついていれば、冒頭へ戻る。
「――――ところでなんだが」
「は、はいっ」
「アグネスタキオンの行方に、心当たりはあるかな?」
「いえ……分かりません、けど」
そうしてスズカは弁当箱のクオリティを一瞥して、こう言った。
「今度は大きくなったのね」
「ああ、そうなんだよ……。……うん?」
「半信半疑だったけど、すごいわね」
「? ……?? は、バレた?」
「ええ」
まじまじとカイトの顔つきを眺めるスズカだが何かがおかしい。タジタジだったスズカは何処へやら、今じゃ感心したような顔で観察されている。
今のカイトは目をパチクリと連打させるのに忙しいのだが、何が起こっている。絶対バレない確信は気づかぬうちに放浪中だった――――!?
「お弁当箱」
「? ……これが、なにさ」
「いつも使っている物と同じでしょう?」
「…………え、それだけでっ?」
それだけの判断材料で発覚するなど名探偵等の領域を超越している。真実は一つなのかもしれないが、真実へ行き着くまでの道程はそれなりに困難だったろうに。
その動かぬ答えがスマホに示されている。
「その……これを」
苦笑いで差し出されたのは、LANEのグループチャット。
部屋主はタキオン・ザ・マッドその人であり、部屋に招待されたメンツは軒並みカイトの知り合いだらけであった。
『私の薬でカイト君が成長している訳だが――暖かく見守るように頼むね☆』
『タキオンさん……また彼に何をしたんですか』
『だって私のモルモットだし……』
『私の?? タキオンさんのカイトでは無いですよ????』
『おお、こわいこわい。ちなみにこれは与太話だが、カフェのコーヒーは実に幸せそうに飲んでいたね』
『いきなり何を言って』
『私のを飲 んんでくれないの、、は、カフェさんのせい ? 』
その先を見るのはやめておいた。文脈の乱れが怖いとかそんなんじゃない。バヂバヂと荒れ狂っているのはカイトのせいじゃない。カイト、何も悪くない。
その爆弾が投下されて間もなくお嬢の敵愾心満天なメッセージが目を引く。火花が散っているように見受けるが、上手く受け流すタキオンはきっとメッセージを打ち込みながら笑っているのだろう。その矛先を上手いこと移しているなと思った。
「…………あんの女郎がァ……!!」
「私もこうして見るまでは……カッコいいわよ、カイトくん」
「……ありがとう、ございます」
露見されている前提で褒められるのは、どうにも先までとは違って気恥ずかしくなる。
となればここまでの道中で会っていた人達も演技だったのかもしれない。カイトの大人を気取った態度を知って、微笑ましく観察されていたのかもしれない。羞恥がとめどないよ誰か助けて。
「は、恥ずかしいっす……」
「ふふ……成長しても、カイトくんはカイトくんなのね」
「…………」
羞恥で高まった体温を誤魔化すように、弁当を一心不乱に味わっていく。ベルちゃん謹製である(多分)心の籠ったお弁当は美味しい。特にハンバーグと唐揚げが良い。冷めてもジューシーってどんな腕前なのだ。
「あら、あっ」
「……どうかしたんですか」
「……」
「あっ」
『タキオン、カイトは今どこにいるの?』
『さあ? スピカの部室へ向かったとも耳にしたがね』
騒がしかったグループ内が、ベルちゃんによる質問を皮切りにひっそりと止む。
それを見たと同時に懐の携帯が緩やかに鳴る。ちなみに着メロはメジロ賛歌。親戚一同が仲良く歌った、謎のアレである。謎ではあるが割と気に入っているのだ。
「も、もしもしぃ?」
『……カイト、今どこに?』
「えっ、やっ、その」
『――――誰といるの?』
「へ? スズカ先ぱ――――あ、」
「あ、」
『スズカ……ならやっぱ――』
身の危険を感じて咄嗟に着信をブッチ切ってしまった。
「……」
「……誰から?」
「…………ベルちゃん」
しかし少しばかり冷静になれば、恐れる必要などどこにも無いのだ。
スモールサイズでなく大きくなればこそ、齢による衰えはともかく筋力が幼児レベルになるなんてことは無いのだ。
ベルちゃんから襲われるなんてことないとは思うが、そんなことがあり得ないとは重々承知しておりますが、虫の報せとも言うべき報を察知したのも事実。最近妙に掛かっていらっしゃるのも動かせない事実。掛かりの理由に不肖ながらも、心当たりが有り過ぎるのは不動の事実。
そういえば最近ベルちゃんの両親から食事に誘われていたり誘われていなかったり、そんな話題を母親が持ち込んでいたような気がするなぁ。
「……ま、まあ? どうにでもなるし? 別にいいし?」
「カイトくん……」
「冷静ですよ俺は……いいや私は、頗る冷静さを保てていますとも」
黒ハットに触れれば、ハードボイルドの心意気を思い出せたようなそうでもないような気がする。
「昼食も済ませたことですし、私はこれでお暇させていただきましょうか」
「え、ええ……頑張ってね」
気の毒な顔つきを満面にした尊敬できる先輩に見送られて、憩いだったはずの部室を後にする。
後日聞けば、その大きな背中には隠しようの無い哀愁を背負っていたと。
【その五】
「結局逃げ回るのな……!」
どうも、エアグルーヴ先輩を頼った矢先に裏切られたエイヴィヒカイトです。生徒会室へ駆け込んで暖かく迎えてくれたと思いきや、即座に新人類が如くの超感覚で身内の気配を拾い、窓から即座に脱出した次第でございます。『避難所として使え』と、このメッセージが届いた際は歓喜していたが、平たく言えばこいつは罠だったのだ。
後輩想いなのは本当に良いことだと思いますがね、その思い遣りをどうかわたくしめにも向けてくださいませんか。
「しかしどうする……このままじゃ時間の問題だ」
空き教室に身を潜めて、周囲の気配を探っていく。あ、いま通り過ぎたのはベルちゃんの足音だ。
「アルダンにも追われてるだろうし、どうにか先輩だけを確保したいとこだけど……」
頼れる仲間内からの連絡は芳しくない。手分けして捜索を続けてくれるのはいつぞやを彷彿とさせるが、最悪を想定するならまだまだ掛かると見ても良い。
タキオンから送られてきた(八割煽りの)メッセージ曰く、今日中にでも薬の効力は切れるらしいが――――
「――コケにしやがって……!」
苛立ちが募って仕方ないのだから、とっ捕まえて折檻しなければ怒りが収まりませんこんちくしょうが。
「そのためにも味方を増やせれば……」
「わたくしもお手伝いしましょうか~?」
「マジか、助か…………」
ブライト襲来。その存在に何故気づけなかったのだ。
「みなさまカイトくんを探していました……もちろん、わたくしも」
「そ、そうか」
「こんなところにいたのね……――――ふーっ」
「ひゅっ」
後ろから自然な動きで肩に手を置かれて、すっごいビックリした。ぽわぽわした心地よい音程が耳に届いて、背骨の奥がゾワゾワもした。ついでと言わんばかりに耳へ吹きかけられる、ミルクのように甘い吐息は脊髄を直接なぞられるような、深い衝撃に一瞬だけ全身が麻痺しかける。
気が付けば唖然としていた顔を両手でしがみつかれて、鼻がぶつかるほどに至近距離から、まじまじと顔のつくりを観察されていた。
「本当に、おじ様によく似ていらっしゃいますわね~」
「ち、近っ、い」
「大人になったカイトくん…………カッコいい……」
「……ん、まぁ、ありがと」
「あらら~? 照れ顔……カッコいいし可愛い~!」
息が交わるほどに近すぎる距離で見つめられて、その柔らかい視線とカイトの視線が絡まるのは最早道理。
二人以外に誰もいない教室は本来よりも広いように感じれて、なのに認識できるのは、触れているのは互いの存在だけ。
心臓の鼓動。嫋やかにしなだれかかる身体は優しい温もり。頬をくすぐる親指は華奢なきめ細かさがあって、触れているだけで心安らいでいく。
「……ブライト?」
「……カイトくん……このまま」
「ぇ――――あ」
そんな状態が――――はてさて、どれくらい続いたのか。
見つめ続けられて、心が瞳を通して囚われそうな錯覚を覚え始めた頃。
普段ではらしからぬ色香にクラクラしてきた。このままではあまり良くない結果になりかねない。
防衛として脳内でリフレインさせたのは、アルダンとの思い出――――ではなくアルダンによる
ここまでならまだ怒られるだけで済む。でもこれ以上進むのは、自責の念でポックリ逝きかねない。なんなら死後の魂すらも囚われてそうで怖くもある。
「ぶっ、ブライトっ! 近いからっ、な!?」
「ああっ……むむぅ……!」
欠片と残った理性に従い尽くしてブライトを引き剥がせば、あらやだ頬を膨らませてカワイイ、ではなく。
距離を取れば崩壊を始めていた理性は修復を始めて、椅子へ座り込めば平静さを取り戻していく。――――とはいえ、未だに距離は近いが。
近いと言うか、膝上に座られてしまったが、年上に甘えている親戚の子と考えればまだ許容範囲。
「さて、と……タキオンはどこにいるか、ブライトは知ってるか?」
「んぅぅ……ふふっ♪ ……ほえ?」
「…………可愛いし、知らなくてもいいか」
猫のように頭をこすりつけてくる仕草が、どこまでも愛玩的庇護欲を誘う。男の胸板なんぞ硬いだけだろうが、懲りずに甘えてくれるのはきっとダンディボディ効果。
年上の風靡を振るって、これからに思いを馳せるのだった。
・バカ
踊らされてたバカ。
・カワイイ
最近弊トレセン学園にやってきていた。想像よりも強かな女の子でした(柿の種談
バカの中で一番カワイイ=とある嬢の方程式が固定されている。のでちょくちょく絡まれても、滅多にカワイイとは口にしなかった。多分肉体が歳喰って、誉め言葉が簡単に出てくるほどの余裕を持っていたから。
朝早くのラントレーニングの時などに、よく一緒に走っていたりいなかったり。現役時代に走り方の指南(瞬間的最大バ力の出し方)したり。
有耶無耶の中で貴重な写真ゲッツ。ゆくゆくは本来の姿と共に――――
・ナウいお姉さん
めっちゃ微笑ましい目で面白がっていれば、カウンター気味に羞恥を爆発させられた。中身を知っているだけにその羞恥は倍プッシュ。
絶対なる復讐を誓うが、拗れないようには心掛けられる年上の余裕。
・ドイツ娘
無論ながら事情は把握していたが、想像を超えるほどに似すぎて号泣。叔父が、帰ってきた……!?
ともあれ涙を武器にして目一杯甘える。甘えようとしたが撃墜された。げに恐ろしきはバカの手腕だった。
クセになりそうで恐ろしくもあるが、それもまた悪くない、むしろ良い。もっとして欲しくもあるとかなんとか考えていてくれ。頼む。
・先頭民族
部室に行ったらなんか居た。一瞬誰かと身構えたが、事情を把握してああなるほどと察する。
激化を極めるLANEに戦慄を覚えるが、その渦中に身を置くバカに少しばかりの同情。
・のんびり娘
メジロ家の中で一番乗りの特権として、ここぞとばかりにもみくちゃにする。
明らかに距離感がおかしいのだが、彼女はそれをおかしいとは微塵も考えていない。むしろ心に従えば、一緒に居たい相手と居て、傍に居たい存在と共に居るのは当然では?
今回は珍しく逃げられることなく受け入れてくれるので、これでもかと引っ付く一日となるであろう。
・ベルちゃん
成長した姿? 何それ見たい今すぐ見たい。
・????
誰も 彼も、 ど うして私 の ヒト に手を 出 すの ??
深い意味は無いけれど
-
お祭りお助け黒色娘が善哉善哉
-
ジンクス絶破ウーマン良き良き