未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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地雷注意報
男のウマ娘ってお手本みたいな地雷っすよね


そのご

 後に大きな騒動へ繋がるその始まりを、私は間近で目撃していた。

 生徒会長として、そして同じ(違う)ウマ娘として。私の目指す理想に伴って、彼の動向を見守る。

 先日の選抜レースが、彼にとって初めてのレースと聞いている。そんなあまりに衝撃的な彼の第一走を見た身としては、彼がどのように公式のレースを走るのか、個人的にも興味があった。

 ルーキー達の集うデビューレース。細工を効かせるような器用さは、あまり見かける事のない、真っ向勝負が横行する初めのレース。

 見守っていたのは私だけでなく、エアグルーヴに、彼と同期のグラスワンダーとエルコンドルパサーも彼の様子を観察する。

 

「やはり来場者の数も、例年より多いようです」

「だろうな……さて、どのような走りを見せるのか……」

 

 普段とは違うざわつきの中、出走者がゲート内へ入っていく。

 静まり返るレース場。横一列に並んだ者達はその時を待ち侘びて――一斉に飛び出した。

 そして私達が見たソレは、常軌を逸したほどに真っ向勝負だったと後から知る。

 ゲートが開いた瞬間から長く、大きく間延びして展開されるバ身。千八百の距離を意気揚々と進んでいく先頭集団。追いつく事で必死な後方集団。大きくその二つに分かれる。そして二つの派閥以上に異彩を放つのは。

 ――――ポツンと息を整える、たった一人の最後尾。

 

「あら……?」

「出遅れたデース?」

 

 追い込みか差しか、どちらを狙ったのかと思っていた。ともすれば大きく出遅れたのかとも、そう思うほどに大きく置いていかれて。不調を疑うほどに引き離されたのは、四百メートル経過までの、ほんの少しの間だけ。

 

「どうしたエイヴィヒカイト……お前は、その程――

『――ッッッッッドォンッ!!!!』

「――これは」

 

 大砲でも撃ったような音が上がり、それはまるでエイヴィヒカイトを彩る、確かな祝砲。

 瑞々しい青芝が一歩分めくれ上がる。最後方で大きく跳ねる。

 彼が上体を深く沈み込ませた瞬間から、気づけば彼は、力強く踏み込んでいる。

 跳ねた土が着地する前に、彼は既に最後尾の座を譲っていた。

 距離にして残り千四百。短距離のレースと何ら変わらない距離を、彼はラストスパートと捉えて大外を走った。

 グングンと追い抜き、気持ちの良いくらいに順位を上げていくその様。誰もがこれを狙っていたのかと納得しかける。温存からの急加速で、周りの動揺を誘った心理戦だと。そう言われるのが一番分かりやすい。

 でも違った。策謀がハマったと歓喜する感情は、その整った顔には張り付いていない。目線はただ先だけを見据えて、邪魔を避けるように、多少過多に思えるほど大きく外を回る。

 最終コーナーを回る頃には、先頭は彼のみの特等席となっていた。

 一番と、ソレ以外の隔たりを、更に深く作り出す。

 結局のところ、彼は走っただけ。多少のロスがあると知っても、その程度のロスなど気にすることなく、邪魔の無い走りやすい場所を走っただけ。初めに最後尾にいたのは、何人抜けば良いのかだけの再確認でしかない。

 

「圧倒的、ですね……」

 

 速度は落ちず、絶望的な差は広がるだけ。一番とそれ以下が埋まることを、彼の走りは許さない。それ以下の者達に許されるのは、己の無力に顔を歪めることだけ。

 そしていつぞやのように転倒する事なく、黒色の軌道がゴール板を通り過ぎる。

 結果は大差。十など容易く、後から確認すればそのバ身差は十五をも超えている。類を見ない大記録だ。

 会場中が唖然を押し付けられる。嫌でも注目せざるを得なかった存在が、それ以上の驚愕を容易く押し付けていく。

 

「燃えてきたデース!!」

「ええ、私も……!」

 

 さらにそれ以上に、熱の入った後輩もいたらしい。

 そうして驚きが収まり、静寂は終わる。

 ヒトの感情が、会場中に木霊していく。

 こんなにも大きな囁きは、私達の耳にも当然届いた。

 

「……会長」

「ああ……これが彼の進む道だ」

『――生まれのペナルティーはどうしようもないんで、それ以上の成果で黙らせてやろうかなって』

 

 額縁を見上げながら、彼はそう私に宣言していた。

 気負った様子も見せずに、強固な決心を私へ告げていた。

 

「彼が選んだ道だ」

 

 外野には、その決意を止められない。無責任に激励を送るしかできない。彼の持つ運命は、彼だけにしか理解できず納得もできない。

 初々しいが常道であるデビューレースは、清々しいくらいの真っ向勝負でケリが付いた。

 終わった後は、清々しいとはいかなかったが。

 エイヴィヒカイトのこれから刻みつける伝説。その一ページ目は、誰もが目を奪われた、圧倒的成果だった。

 

「――ウイニングライブ欠場? それも無断だと?? ふざけているのか??? あのたわけはぁ!?!?!?」

「前途多難……彼自身にも問題は多そうだ」

 

 ともあれエアグルーヴのお怒りで、それなりにオチは付いたように思える。

 こんな場面でも有能な右腕に、いつもとは違う感謝を抱いた。

 

 

 各々が良き成績を収めて、チームとしての滑り出しも順調なある日。

 褒められたと思ったら、すかさず鞭を入れてくるこの男。なるほど確かにトレーナーである。

 

「スズカ以外五人、ライブもしっかりしろ!」

 

 朝から説教をされるとたづなっちを思い出す。あの緑、ヒトの頭の中でも説教し始めるから厄介だ。

 突き出される新聞には、悲惨たるライブの跡。ひっくり返ったり棒立ちだったり、散々な瞬間をバッチリ撮られている。

 ブレイクダンスを披露したゴールドシップに関しては、これはこれでアリだと思う。

 

「さーすがマスコミ、煽り文句が上手いな」

「お前は書かれて当然だろうが……!」

 

 デカデカと『不在という大偉業!!』なんて、世間様はもちろんカイトにも大いに煽り尽くしている。殴り込みも少しだけ考えるくらい、効果は覿面だ。

 醜態を晒されたサイレンススズカ以外の三人共、恥ずかしそうに言葉が詰まっている。ゴールドシップはしたり顔で頷き、カイトはそもそも問題視していない。客観的に思えば、カイトが怒られるのはさもありなん。

 

「とにかくっ! ウイニングライブもこなしてこそ、勝利が完璧なものになるんだ!」

「しょーがねーだろー!」

「アンタがなんとかしなさいよ! トレーナーでしょ!?」

「そうだそうだー」

 

 新聞を見て顔を塞ぐスペシャルウィークを眺めながら、ダイワスカーレットの言に同意を示す。

 カイトなんて、振り付けや歌詞の一端すら触れた覚えがない。ここ最近ずっと行っていたのは、一人虚しい座学だけだ。戦術的な事ばかり学ばされて、正直退屈ですらある。

 気分転換がてら、ライブの練習とやらにも触れてみたくはある。ライブに出るとは言ってない。

 

「まあ確かに、レースに集中しすぎた俺の責任でもある……と、言う訳で」

 

 そう言って懐から出てくるのは、大きく『四十%OFF』と主張をする、一枚の紙切れ。それを人は割引券とも言う。

 

「カラオケ?」

「割引券?」

「そ。今日からライブの練習だ」

 

 そんなこんなで、放課後は歌い尽くすらしい。

 

 

『ーー奇遇だな、貴様に話が有ったところだ』

『えっ、俺は別にエアフルーツ先輩と話なんて……!?』

 

 スタートの切っ掛けは名前間違い。

 ゴールドシップは天敵だと、そう定義していた自分を覆そう。前言を破却してやろう。コイツはカイトの戦友である。

 チームの部室から解散して早々に始まった、エアクルールとの鬼ごっこ。流石に速かったが、ヨーイドンで始まる直線勝負でもないなら、撒くことは困難では無い。鬼が単体でなければの話だが。

 そうです。緑の悪魔も追加です。人間かそれ以外かあやふやな、シュレディンガーハットをかぶった、蛍光色たづなも参戦だ。

 カイトを追った理由は、二人ともに同じ。

 

「ライブってそんな大事なのか?」

「ああ、映像込みだと盛り上がりに直結するからな。カラオケじゃ鉄板だろ」

 

 一体誰がカラオケの話題を振ったのだろう。そういやさっきトレーナーが言い出していた。そりゃトレーナーが悪い。

 完璧に聞く相手が悪いのだが、都合の良いカイトの脳細胞は、その程度の些事なのだと認識してしまう。今後も副会長に追われるのが、確定的になった瞬間である。

 ゴールドシップの謎の手引きによって、間一髪難を逃れる。まさか学園内に、こんな隠しダクトなんて存在するとは思わなかった。

 先導するゴールドシップの臀部を見ないように、下を向きながら這って進む。

 

「……なんでこんな手入れされてんの」

 

 カイトとしては、大変助かっているが。帽子が汚れないのは心底重要だ。大きく白いこの帽子は、少しの汚れが大変目立つのだ。

 もし少しでも汚れれば、完全に元通りになるまで学校だって休む所存。

 

「アタシが使うんだぜ? 察しろよ」

「なおさらわかんねーんだわ」

 

 もしやその手のエージェントなのだろうか。映画とかでは上司の心労の要因となるタイプの工作員だろう。潜入任務なのに花火打ち上げるタイプ。

 やはりコイツの会話に付き合うのは疲れるが、恩人と考えれば多少は我慢できる。戦友認定も、怒り滾る二人を撒くまでの辛抱だ。

 

「どこまで続いてるんだ」

「んー? 輝けるムー大陸」

「……そっかぁ……」

 

 思考内容はフリーズ。対話相手をプリーズ。本当にヤベー奴なのか、ヤベー奴を装っているのか、カイトには皆目検討がつかない。助けてくださいたづなさん。

 

「冗談通じねぇ奴だな〜」

「マジトーンで言われりゃそうなるだろ」

 

 すると暗闇だったダクトの中に、光が差し込んでいる。どうやらこの先が出口らしい。やっとこさこの謎空間から解放される。ダクト内を通るのは、非日常感があって中々楽しかったが、それ以上に窮屈と思わせる存在がいる故。

 出口から飛び降りれば、そこは屋上だった。――――完膚なきまで、完全無欠に屋上だった。

 

「…………は? え、と……えぇ???」

「お助けゴルシちゃんはカールに去るぜ……」

 

 カイトはたしかにダクトを這って進んでいたのだ。横這いなって、平行に進んでいたハズ。

 なんで一階から屋上まで来てしまったのかしら。

 

「……………………考えるのやーめた」

 

 これ以上はマズイ気がする。主にカイトのSAN値的に。きっとここで手を引くのが、一番自分にとって平穏を保てるのだ。好奇心だけで猫も死ぬ。余計な散策は、火傷程度では済まないかもしれない。

 

「……ははっ、たづなさんまだ探してら」

 

 屋上から景色を見下ろす。

 デビューから現在まで五連勝と、快挙とも言える成果の途中だが、満足感など毛ほどにも無い。あるのは一つの焦燥感。

 目指すべき頂点への道のりは確かに険しいが、それに関しては思った以上に重荷と感じない自分を自覚していた。では何故焦っているのか。

 順調なハズな今に、何を焦る必要があるのか。

 

「……義務感だけなら話は別、かなー」

 

 これは感情の話。

 徐々に近づいてくる、クラシック三冠の始まり。最強という称号を欲するなら、やはり手に入れるべき冠だ。効率を考えるなら、三冠路線と言われる道を進む。それが一番なのだ。

 だから感情が振り回す。それよりも獲りたいタイトルを、脳内で反魂し続ける。

 男であるエイヴィヒカイトだけど、あの冠はどうにも欲しい。

 

「寝てる間に置いといたら、きっと驚くよなぁ……」

 

 エイヴィヒカイトは皐月賞よりも、とある賞を勝ち取りたい。

 母親の背中を追いかけたい。でもそれは、夢から少しばかりの遠回りを意味する。

 どうするべきか、悩みどころだ。

 

 

 トウカイカイオウなる少女。

 なんでも会長のファンであり、その背中を追い越そうとしているらしい。会話の中で上昇意識が高く、それでいてサッパリした人柄を認識する。エイヴィヒカイトの異端性を、個性として流せる度量の在る者。しかもエリートなのだとか。さらに上流階級の可能性もあるとか。なんだコイツ完璧かよ。

 とはいえカイトの興味はたった一点に絞られる。

 

「もっかいやってくれよ」

「いいよ! ……ゴホンッ……『ウイニングライブを疎かにする者は、学園の恥』」

「おお、やっぱ威圧感似てるな」

「でしょでしょ〜?」

 

 放課後カラオケ中にて、モノマネ鑑賞中。

 ウオッカとダイワスカーレットが点数で競っているのを尻目に、先の印象的なモノマネをねだる少年。マイクを奪われ歌うこともできず、ステップも覚える気がないカイト。そうです暇です。

 しかし本当にソックリだ。腕を組んで眼光ぎらつかせて見下ろす光景が、鮮明に浮かんでくる。

 

「ウイニングライブを無礼るなよ、ってやってみてよ」

「なにそれ? 別にいいけど……オッホン……『ウイニングライブを舐めるなよ』」

「なんか違う。舐めるなじゃなくて無礼るな、なんだよなぁ……」

「何やってんだお前ら」

「「暇つぶし」」

 

 トウカイテイオーによる練習の如何は、今日はおしまい。あとは三十分程度の時間が許す限り、歌って踊って遊ぶだけだ。むしろ退室時間の迫るこの時間こそが、カラオケの本領かもしれない。

 ラストスパートほど、熱の入る瞬間はそうあるまい。

 

「次は俺歌いたい」

「えー!? ボクも歌いたーい!!」

「まずは俺だ。その後にでもお手並み拝見させてもらおうじゃないか」

「おっいいね! 負けた方ははちみー奢りだからね!」

 

 はちみーが何なのかは不明だが、やらいでか、である。

 やはり賭けが存在する勝負とは、中々に燃えてくる。

 

「上等だ、首洗っとけトウカイヘイロー」

「トウカイテイオーだって!!」

 

 同得点で勝負のついていないコンビからマイクを奪い取れば、軽快なメロディーが流れ始める。

 幼い頃に散々聞いた、特撮OPの映像と共に、懐かしき思い出が脳裏を過ぎる。

 この心が熱くなるのを、満たされるモノを感じる。本気を出したカイトなら、負ける気しないハズ――――!!

 

 

「次は無いからなゴウカイテイオー」

「トウカイテイオー、ね! いい加減覚えてよ〜」

 

 生憎名前を覚えるのは苦手なのだ。

 寮へ向かって歩を進めるチームスピカとプラスα。

 

「せ、先輩も上手でしたよ?」

「負けたからなぁ……ちゃっかり奢らされたからなぁ……」

 

 いくら後輩が慰めてくれようと、その手にはちみーを握りしめている限りは、説得力が素粒子レベルで存在しない。奢らせて慰めるなんてやり方がマッチポンプ。ウオッカは悪い女になると見抜いたが、どうでしょうか。

 

「おう。ゴッチ〜ィ」

「そのヘッドギア折っていい?」

 

 舌を出しながら滅茶苦茶にコケにしてくる、この腹立つ葦毛。

 カラオケバトルの行方は、結局というか当然と言えるか。カイトの大負けである。その結果トウカイなんちゃらだけでなく、何故か他の面々にも奢るのが確定していた。恨むべきはキューブを弄ってるそこの葦毛だ。

 まさかの出費に項垂れながら、夕焼けの歩道を歩く。

 

「さて、テイオーのお陰で勝つ準備もできたことだスペシャルウィーク! 三冠ウマ娘、獲るぞ!!」

「……ってえぇ!?」

 

 寝耳に水な驚きよう。しかしそこまで突発な話でも無かったハズだ。

 王道とも言えるクラシック路線には、一生で一度しか走れないレースが存在する。

 中でも一番有名で、一番多くの者たちが求めるのは、皐月賞、ダービー、菊花賞の三つだ。とかなんとか最近学んだ。

 そしてチームスピカの中で、クラシック路線を走れるのはスペシャルウィークとエイヴィヒカイトのみ。折角の機会を逃す手は巧いとは言えない。

 

「ああ、この時期二勝しているのなら当然の流れだ」

「クラシック三冠制覇。その功績は日本一のウマ娘って目標に大きく近つくぞ?」

「カイトの言う通り、最速の最短ルートだ」

「……日本一……でも……」

 

 スペシャルウィークの答えを、静かに待つトレーナー。

 選ぶのはあくまでもスペシャルウィークだ。きっとトレーナーも、強制はしないだろう。でもスペシャルウィークも、きっと出たく無い訳じゃ無い。ただ二の足を踏んでいるだけなのだ。

 そんな背中を身近から押せるのが、チームの良いところ。

 

「スズカさん、私……」

「チャンスがあるなら、挑戦するのもいいんじゃないかしら」

「……挑戦……?」

 

 サイレンススズカに背中を押されて、スペシャルウィークの瞳に見えた迷いの霧が晴れていく。

 夢への最短距離を歩むと、その決断は為されたらしい。

 

「ならまずは皐月賞の前哨戦、弥生賞を獲るぞ!!」

「あっ、ハイッ!!」

 

 スペシャルウィークの路線は決まりだ。これで必然的に、エイヴィヒカイトの進む道も、また決まった。

 

「……あっ、でもそしたら、スぺ先輩とカイト先輩が競うことに……」

「チーム同士の潰し合い……ってこと!?」

 

 そんな後輩達のわちゃわちゃを見て、そう言えば言い忘れていたことを思い出す。トレーナーの顔を見れば、考えていることは同じらしい。

 

「俺も三冠獲るけど、スペシャルウィークとは被らないから大丈夫だよ」

「……? 被らない、ですか?」

 

 目線で示せば、意を汲んだトレーナーが説明してくれる。

 流石に自分で語るのは、些かな照れがある。

 

「カイトが狙うのはもう一つの三冠だ。ティアラ路線を狙いに行く」

「「「「「「……………………っ!」」」」」」

 

 つんざく反響で鼓膜がやられる寸前で、ギザギザな耳を畳む。しかし哀れな抵抗なり。集団による音波兵器は、耳一枚程度では防ぎきれない。塞がなかったトレーナーは死んだ。

 夕暮れの帰り道に、ウマ娘六名の嘶きがこだまする。

 

 

「それでカイトは、本当にトリプルティアラを?」

「母さんの獲った称号だぜ? そりゃ欲しい」

 

 家に帰れば、何食わぬ顔で夕飯の準備を進めていた親戚。カイトが突き刺そうとしている視線を何食わぬ顔で跳ね除け、テキパキと皿の準備まで進めている。

 献立は筍炊き込みご飯に、なめこ赤味噌汁。塩鮭にほうれん草と茄子の煮浸しに、ひじきの佃煮。食欲を優先させるので何も言わないが、次こそは強く言ってやろうと目論むカイトだった。

 そう決意して何度目かは、考えないこととする。

 

「尊敬できる親で、そんなヒトの功績に手が届く。ってなれば目指すのは必然的だろ」

「ですね……叔母さまもきっと喜びます」

「そそ。寝てる間にトロフィーを枕元置いといてさ、どんな反応するのか見たいなって」

 

 まず最初に、自分のトロフィーと勘違いする。そのあとにようやく目が覚めて、きっとふんわりととぼけた反応を見せて、やんわりと喜んでくれるのだろう。

 

「面白そうじゃない?」

「ふふっ……ええ、見てみたいです」

「だから俺は獲るよ」

 

 絶対的に掲げた夢の、その少し前の小さな夢。

 感情だけを目的として、カイトは手始めにこの夢を掴みに行く。

 

「アルダンからすれば、トリプルティアラなんて複雑かもしれないけど……その……」

「――応援、しても良いですか?」

「もちろん。むしろ……その、なんだ、嬉しい、かも」

 

 夢を掴むために、カイトは――――他者の夢を蹴落とすのだ。

 

「姉みたいなアルダンに応援されるのは……うん、嬉しいよ」

「…………姉、ですか」

 

 大きな大きな溜息一つ。

 選択肢ミスっただろうか。セーブポイントプリーズ。最近のはオートセーブに富んでいると聞くが、ありゃ嘘か。

 

「? え、まさか妹ポジをご所望? 年上で妹キャラは属性が矛盾してない?」

「もう応援しません」

「えぇ……? 分からん」




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