未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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なんやこの厨パァ!?


其ノ七

 もう、過去とは違うのだ。

 この扉は、過去の悲しみと訣別した自分こそがくぐれる扉。そんな感じの雰囲気とエアーを感じるのは、イッツ、マイ、第六感。

 勢い任せに蹴り破りたくなる衝動を抑えて、ドアノブをそれなり以上の強さで回し、再び力を込めて開け放ち、すっごい声で叫んでみた。

 

「Guten morgeeeeeeen!!!!!!」

「へ? ……ああ、うん、おはようカイトくん」

「おはようございます。……妙にご機嫌ですね」

 

 戸惑うのは、カイトよりも先にやってきていた三名の女史。遅刻することないのは関心である。

 不思議そうなグラスの言に、そうなのかしらと自分の今を再確認。

 ニッコニコな満面の表情はデフォルト。充足感が漲る五体は、欠けた半身が戻ってきたかのよう。先日まで蜘蛛の巣が貼られ尽くしたような心は晴れ渡って、目に映る色彩をより彩り豊かに輝かせている、気がする。

 そういえば部室へ来る前にスキップとかしてたような、そんな気もしなくもない。あらやだ、カイトくんってばはしゃぎすぎ……?

 

「Sicherlich......gute laune‼︎」

「えっと……ごめん、なんて?」

「いやー! やっぱし生きてるってすんばらし〜!!」

 

 理由は問うな。何故なら問われたところで惚気しか連発できないからである。突発的かつ急性的な糖尿に陥りたいなら別だが、むしろそんな勇気があるなら聞いてみやがってください。てか聞いてくれたら嬉々として喋るよ。言いたい教えたいが暴走しかねないハイテンションですが、流石に時と場合と空気を考える程度の理性はあります。でも聞いてくれたら嬉しいなとか、そんな感じのハイテンションでもあります。

 しかしながら付き合いの長いスペ達だ。好機嫌の秘訣を聞こうとは露とも考えず、素知らぬ立場で在りたがっているようだ。白状此処に、極まれりなのである。

 

「聞きたくない? 気にならない? 興味湧いてこない!?」

「うるさいデスね……」

「ところでスペちゃん、セイちゃんとキングちゃんは?」

「二人よりも俺の事情が気にならない? 知りたくないかな? かなぁ!?」

「二人ならもうすぐ来るって」

 

 スペがそう言った矢先、扉を開く音と共に噂の二人は到着した。オーディエンスの追加は嬉しいことである。

 さあさあ、YESに連なる意味を持った言霊を吐き出せ。さすればカイトの幸せを、これでもかと語彙を尽くしてお裾分けしてやろう。きっと喜ぶに違いない。カイトはそう信じて疑わないのだ。

 

「なんか朝から元気だね……ふぁ〜……」

「そうかそうか、そういうことか! 嫌よ嫌よも好きの内だもんな!! そっかー! お前らがそう望むなら……仕方ないよなっ!!?」

「……どうせメジロアルダン先輩と何かあっただけでしょう?」

「キっ、キングちゃん……!!」

「…………あっ」

 

 あーあ、スペ達の頑張りを無に帰す一言を申しちゃったね。

 

「聞きたいんじゃ〜んっ! ならそう言えっての!」

「ただでさえいつになく鬱陶しいのに……キング〜、なんで余計なこと言っちゃったんデスか〜」

「ご、ごめんなさい……つい」

「ツンデレ……やはりキングはツンデレ……Sehr niedlich‼︎」

「……朝早くからコレは勘弁してちょうだい」

 

 ちなみに時刻は午前の五の時の半。早朝と胸を張っても無問題な時間帯である。

 ところで――――そうかそうか、そんなにも待望していたか。

 では語り尽くそう。昼まで掛かるどころか一日が終わって次の日の昼間まで続く熱量だが、これも全ては幸せの伝道師たるカイトの使命。是非もないよね。

 

「トレーニングは中止だ。これよりエイヴィヒカイトの送るエイヴィヒカイトのための――」

「それでは行きましょうか」

「スぺちゃん何か食べてきたー?」

「にんじんをごほっ……一本だけ!」

「――――おいこら」

 

 気が付く間もなくゾロゾロと体質しようとする皆様方。てかちょっと待て。今日のトレーニングは外じゃないんだ。

 

「プール抑えてあるから時間ギリまで泳いで……いやそうじゃなくてだな?」

「えー? 今日も泳ぐんデスかー?」

「前にも言ったけど小手先の技術はお前ら十二分過ぎだから、柔軟に鍛えて地力を培うのが良い…………ってだからそうじゃなくって」

「あっちで着替えるのも面倒ね」

「じゃあこっちで着替えて行こう」

 

 キャッキャと微笑ましく相談を進めるガールズ。一番聞いて欲しい部分はガン無視かな。

 

「おい、誰か俺の話を」

「時間がもったいないですし、カイトくんは早く出てね。…………それとも、私のを――見たいんですか?」

「は? 全然。お前らの着替えとかこれっぽっちも見たくないけど」

 

 意味不明なしなを作ったグラスへと、一刀両断の一言。どこか誇らしげなのは、昨夜の出来事があった故か。

 まあ悪手ではありましたね。特に複数形にしてたのは一番不味かった。

 

『――――』

「えっ、ちょっっ、なにをっ」

『――――!!!!』

 

 ばきっ、か。ぼこっ、か。どかっ、か。果たしてカイトの体から鳴り響いたのは、一体どんな音なのでしょうか。大穴でべキャッ、に一票。本命はゴキャッ、が一番人気ですよ。

 どうせ見たいと答えてもこうなったのなら、どこへカイトの無事な未来は存在したのか。そんな不条理を想いながら外へと雑に放り投げられる。ちなみに無言だったなら、何事もなく平和そのものだったと思うの。

 やはりこの宇宙はままならないと、そう確信したまま一人寂しくプールサイドへ先に向かう。

 自分もプールに浸かれば、この腫らした打撲跡は癒えるかしら。その背中は静かなる悲壮感で満ちていたに違いない。

 

 

「とりまエルは基本的にダート固定」

「え?」

「芝のレースを頻繁に走れると思うなよ」

「ケ?!」

「クハッ、マジウケる」

 

 自らの発言で一喜一憂する百面相は、中々の見応えである。

 ヘリオスから習った言葉遣いは、案外カイトの気質に合っているようだ。教わった数日後にはするりと定着して、もはや日常の一部と化しているのかもしれない。

 なお、そんな様子を見せていれば、ワケワカメな嫉妬をとあるお嬢様から受け取る羽目になったのだがそこはやはり女の子。やはり十年来付き合ってきた相思の存在とは言えども、女心を理解し切るのにはまだまだ時間が掛かりそうだ。

 ともかく方針を決める際、カイトはいの一番に宣言した。

 

「お前らの中で一番適正あるのがエルなんだからしゃーなし。恨むなら自分の器用さを恨め」

「カイトも走れるのに……」

「とりあえずで入ってるだけのサブに何言ってんだ」

「そう、カイトも一応は控えているのね。……………………?」

 

 あくまでカイトは怪我等の不足に備えているだけであり、基本的には彼女らだけで――あ、やべ。

 

『サブ!?』

「い……、いない者と考えろ」

「では登録はしている、と……」

「カイトくん走るの!?」

「……そうだな、お前らが骨でも折ったら代わりにな」

 

 無論のことながら絶対にそんなことにはさせたくない。が、自分と言う前例があるだけに、怪我を押して出るバカがいらっしゃらないか少し心配だ。

 全治数ヶ月単位の怪我で全力疾走とか、極々控えめに言って正気の沙汰ではない。絶対にやめようね。

 

「……お前ら絶対広めんなよ」

「え~? こんな大事な事実を、どうしよっかな~?」

「――……いえ、セイちゃんここは……」

 

 こそこそと、目の前で堂々と耳打ちを始めるグラス。

 

「ここで恩を売っておけば後々使えますよ……」

「あ、そっか、走らせる材料にも……」

「おいおいおいおい、非道な発想が聞こえてるぞ」

 

 もう走らないではなく、走りたくない、だ。走るのが根本的に嫌いなのである。嫌で仕方ない苦痛を強要しようなどと、きっとこやつらには心が無いのでしょう。シンプルな鬼かよ。

 カイトが言うのもなんだが、こいつらも相当に自分勝手だなぁ。とか思ったり思わなかったり。

 

「話を戻そう」

「……カイトは本当に走らないの?」

「はなしを……戻そう」

 

 それどころじゃないのだキングちゃん。貴女の役割は非常に大切なのだぞキングしゃん。

 

「グラスには短距離を。キングには――全ての距離を平均以上で走れるようになってもらうぞ」

「え」

「会長やらスズカ先輩とかを筆頭にしたバケモン揃いを相手にする中で、やっぱりどうしても誰か一人だけオールマイティーに動ける奴が欲しい」

 

 アオハル杯はシーズンを通して合計で五回。無論の当たり前なことながら目指すは全勝である。しかし勝負事に絶対は無い。無論ながら彼女らの実力を微塵も疑いはしないが、やはり世界とは広く、上には上があるのはどうしても立ち塞がる事実。

 ましてや相手が――心中で考えるだけでも身悶えるが――対エイヴィヒカイトに向けて調整していた。――――あ、やっぱり羞恥がすごい。

 そんな大層な相手と買ってくれているのは嬉しいが、やはり嬉しより恥ずかしの方がとんでもない――――のなら、その強大さの予測は自分と直接ぶつかり合った彼女らこそ、理解するに容易いのではなかろうか。

 

「もちろんお前らはそこらの雑魚…………もとい、木端程度は一蹴も烏滸がましいくらい強い。他の同期の連中と比べても、頭の抜きん出ようは異次元の隔たりがあるよ」

「ベタ褒め……あ、ありがとう…………えへ」

「いやぁそんなそんな、アタシが目指すのは世界デスからそれくらいは…………でへへ」

 

 おいこりゃお可愛い小娘達、お調子になるでないぞまったく可愛いかよ。

 

「つってもやっぱり、同じような超越者達を相手にするなら自力をぶつけるだけじゃ勝ちの目は薄い」

「それは…………どうでしょうか」

「なら想像してみろよスカイ」

「へ、私?」

 

 どうせグラスは認めようとしない。一番クレバーなスカイの意見で、どうやっても納得してもらおう。

 

「スズカ先輩、強いよな」

「うん、そりゃぁね」

 

 相応の才能に相応の努力。これで弱くなる方が、世界を見て回っても難しい。

 

「今のスペ、強いよな」

「そりゃぁね、それだけの努力してんだもん」

「いや〜、それほどでも……えっへへ〜〜」

 

 可愛い。ではなく。

 追いつこうとした背中がスズカで、競い合おうとしていたカイトがその――大きな存在だった、らしい、から。必要とされた努力は相応に膨大だった。結果的に、彼女は学園屈指の総大将として名を大きく挙げたのだ。

 さて、それらを踏まえて改めて聞こう。

 

「スズカ先輩がスペと同じくらいの量で、同質のトレーニングをしたらどうだ」

「え、化け物じゃん」

「会長に副会長コンビ、マルゼンさんやオグリンもそれくらいになってたらどうだ」

「……百鬼夜行?」

 

 つまりはそれが現時点での、中央トレセンの維持している現況なのである。

 魔窟伏魔。悪鬼羅刹。神仏天獣。すなわち常識外れなバケモン共が渦巻く、閉ざされた魔境。色々と限界を投げ捨てた無法地帯。強者はより雄々しき強者へと変貌していく、ある意味地獄と読んでも遜色はない。もちろん全員が全員そうである訳ではないが、めぼしい有名人を適当に指差せば、怪物の二文字が即座に当て嵌まるスペックをお持ちになられています。

 

「全盛期から明らかに実力が落ちていた連中も、こぞって全盛期以上の実力を手にし始めてるんだぞ。なんかもうさ、俺はここが怖い」

「……けど、その辺は全く話題になってないよね」

「日本人は感覚麻痺したんだよ。超越者ばかり魅せられていれば目だって肥える。海外からの注目が集まってるのもそういった話だぞ」

「はえー……?」

「アホみたいなお返事ありがとうスペチャン。……渦中のお前らはもっと実感湧かないだろうがな、過去の重賞獲った時なんかと見比べれば一目瞭然だな。てか成長し過ぎ。やっぱここの連中怖いわ」

 

 どんな分野であれども実力という概念は、世代ごとに煮詰まるものだ。それこそ技術的革新、いわばブレイクスルーとも言える強烈な刺激が無ければ、上の世代である程に成長度合いは打ち止めへと近づいていく、ハズなのだ。肉体の限界はどこだ、まさか行方不明になったのかよ。そう易々と現存生物の枠をぶっ壊さないでくれ。

 ところでそんな刺激を、皆々様一体どこで得たのだろうか。果たしてどこかのバカ野郎が精神的カンフル剤を打ち込んだのだろうか。てか誰だそんな余計な事をしやがったヤツは。そこになおれぶっ飛ばすぞ。やろうぶっころしてやる。

 

「んで、話を戻すとだ。自力で勝ち切るには経験の差が大きい。経験値ってのは得難い体験であり、大きな武器でもある。それはわかってる話だと思うが……」

 

 切羽詰まった場面では、降って湧く不足にどれだけ対応できるかがキモ。

 彼女らが紡いできたこれまでも劣るものではないが、回数の差は顕著に出るとカイトは予想している。

 

「その差で競おうものなら負けの色は強くなる。ならどうするかって話だが……んで、どうする? 再び聞こうかスカイくん」

「まともな勝負をしない?」

「それ、半分正解」

 

 搦め手は確かに使う。けれど頻繁につかなんてそれこそあり得ない。

 実力で迎え撃てない臆病者と、呼ばせるつもりなんざこれっぽっちも無いのだから。

 

「持論だけどな、毒ってのはドバドバ多けりゃ良い訳じゃない。確かなの一滴を、ベストなタイミングで垂らせば崩壊は始まる」

 

 かつて思い描いた反吐以下の夢想から学びを得るとは、人生ってのはよく分からない。

 

「たった一回の策でガタガタになんざならない。けど綻びは入れられる。前の俺もそうしようとしていたんだから」

 

 一度でも罅を作ればいい。ほんの小さな、無視して続行できるような綻び。けれど心に緩く絡まる糸のような、薄くて細い毒。

 拮抗してるのなら、気が逸れるとも言えない程度のひとつまみで、真正面から崩していける。

 

「掻き回すのはキングだ。どう考えてもお前しかいない」

 

 揺らす相手は当然敵の大将。そうなれば自然と超越者達と鎬を削る。

 そしてその全てを、少なくともキングだけでも全勝してもらうつもりである。要するに前言を思い返すなら――――

 

「簡単に言うなら……キング、お前に怪物退治を一任する」

 

 ――――会長やらスズカやらを相手に全勝だって果たしてもらうつもり満々である。

 

「……は?」

「おおっと無理じゃねえぞ。少なくともお前にはそのポテンシャルはある」

「…………」

「怯んだ?」

 

 やっと気づきおったか一流。一流には一流の役回りがあるのだ。

 例えばエル。彼女は走る大地が緑色だろうが土色だろうが、そのポテンシャルは変動することなく走れる器用さがある。その点と比べれば、キングの器用さはまた毛色が違う。

 短距離から長距離までの様々な適正への挑戦を続け、それでいて怪我の影に脅かされることなく、ついにはトゥインクル・シリーズを走り切ったその脚はまさしく天性の一品だ。

 才は文句の付け所なく一流。そして才に奢りは久しく、堂々とした泥化粧にて着飾る努力の人。キングが負ける要素など、どこにあるものかと考え方がいささか頑なになっているのは、多少の身内贔屓でもある事は認めよう。

 しかし此度の催しに求める結果、カイトにとっては其処こそが核へとなる。

 

「……」

「ま、お前がこの祭りの切り札って訳だ。頑張れよ」

「……本気?」

「ありゃ、ご納得いってないか?」

 

 だが本人が納得いってようが納得出来なかろうが、カイトの思い描く結果を鑑みれば、やはりキーマンは彼女以外に適任はいない。

 

「ふむ…………スぺとグラスが一番警戒されてるのは、みんな察してるだろうが」

「カイトとあれほどバチバチに競ってればねー」

「周りの連中から見れば、俺達の優劣は上から俺、その下にスペとグラス、その下にエル、その下にスカイで、少し下にキングだ」

「か、カイトくん……?」

 

 いきなりどうしたと言わんばかりのスペは、怪訝が過剰な匙加減。それもそのはず、みんな例外なく何事かとどよめく雰囲気。中でもキングの頬の引き攣り様は凄まじい。痙攣起こしてないかアレ。

 

「そう。……()()()()()このチームの切り札は、一番()()()()()()()()キングだ」

「……虚を突くってこと?」

 

 自分で言うあたり、ぐうの音も出す気はないらしい。

 しかし誇りが高過ぎるとも、やはり彼女は一流だ。それは分析力も例外でなく、自覚をするための強さとて強靭だった。

 

「や、少し違……あー、やっぱり合ってんのか?」

 

 戦略と申すにはあまりに個人の欲が勝ち、正当化するには御託が過ぎる。

 何時ぞやとも違えど、程度の似た子供のような我儘を捨てきれず、この状況を利用してこの期に叶えてしまおうとしている。

 自分勝手さはちっとも変わらない。物事を多少は緩やかに見れるようになったが、この辺は本来カイトの根にある気質なのだ。無理矢理に変えられるものではないのだろう。

 

「能力差や実力がとかどうでもいい。俺の目的にとって一番大事な役割を渡すのにとっておきなのが、他でもないキングってこと」

 

 みんなで思い出をつくるのとは別の、個人で欲したい目的。

 

「……オブラートにも包まないのね」

「なんだ、気でも遣った方がよかったか?」

「冗談でもよして」

 

 機嫌が悪いように見えて、その実瞳の中には強い対抗心の輝きが灯っている。それもより良い色味へと健全に燃えている。隠れているが確かな喜色も、瞳の中には見受けられている。だったら彼女へ託す甲斐もある。

 負けたくない。前へ行きたい。勝ちたい。キングの言葉要らずの熱情の意志は、他の四人へ均等に向けられて――――最後にカイトへと強く突き当たる。

 嬉しい話だ。思わず自然な笑みが浮かぶのは、決して嘲笑などとは程遠い感情なのだと理解してくれているだろうか。きっと理解してくれていると信じれば、尚更に嬉色は込みあがるってものだ。

 ただ、その手の話は今は置いておこう。

 

「カイトくんの目的って何? ……ちょっと心配なんだけど……」

「信用無いなオイこら。でも言いたくないから黙秘したいです」

「そんな権利無いからね。キリキリ吐きなよ」

「うぇっ? 本当に? 言わないとダメ?」

 

 口を滑らしたかもしれない。心置かない関係も考え物だ。

 

「カイトくん――――早く、吐きなさいね?」

「うっ、うっす…………みょ、妙にき機嫌悪いねねグラスさん」

 

 負けず嫌いなのだからおこなのか。え、そんなにキングを推したこと怒ってるの?

 

「いいえ、まだ全然。本当に気が悪くなるのは…………カイトくん次第、でしょうか」

「い、言いたくねぇ……」

 

 今日も今日とて怖さ揺らがず。ぶっ倒れるまでトレーニングさせていたからだろうか。必要分よりも多めに見積もった休息を取らせているのですが、何かがおかしいなぁ。

 人権の低さは今更である。気にするくらいなら速やかに従うが良し。これも得た人生経験値の一つである。成長の証とも言うと思う。

 

「……俺の、このアオハル杯における目的は――――」

 

 

 翡翠の軌道はこの場に降り立っていた何者よりも王者に相応しき。

 青き春の開幕は、絢爛なる成果で開かれた。

 

『――大きく差し切って! 開かれた大差のまま、今! ゴーールインっ!!』

「すごい……以前よりも速くなってる」

「別に、アイツらならこんくらい当然だろ」

 

 アルダンの感銘混じりの称賛に、落ち着いた表情でそう述べる。

 チームのリーダーでもあるキングが、荒ぶる歓声を一手に引き受けている。誇らしい顔つきで、けれども受け取って当然と言わんばかりの得意げな表情。

 敵の実力は明らかな格下。しかし勢いづくには打ってつけであり、適度に力を抜いたまま程よく引き締められる、そんな一戦だった。

 

「遊べる余裕があるのは今回限りだろうし、深刻になるのはこれからだな」

「……本当に、強い」

 

 観客へ向けて手を振る彼女は、まだまだ満足などしていない。もっと先へ、更なる先へと言わんばかりに睨みつける強い視線は、ビタリとカイトで止まる。

 王座を狙い、挑戦者であることを望み、しかし陰りの気配無くそこに立つ姿はやはり堂々としたもの。そうでなくてはむしろ困る。

 ――――遊んだ、と。その言葉に偽りはない。グラスを短距離で走らせて、スぺをダートで走らせて、スカイをマイルで走らせる。マトモな適正で走れたのは、中距離を走ったエルくらいだ。それも今回限りで仕舞いとなる訳だが。

 そうして未だぎこちなさの消えない長距離を走り抜いた、我らが世代のキング。

 

『チームソル! 噂に違わないその力を遺憾なく発揮し、見事全勝を飾りました!!』

『予想されていた適性を大きく外す奇策は確かに機能していましたね。このような変幻自在な策を今後も通すのか、気になるところです』

「策。そうか、策かぁ……うん」

「すごい期待。大丈夫?」

「いいよ、言わせとけ」

 

 勝手に盛り上がって勘違いが加速するのは、勝者と強者に定められし業である。遊んだだけでもそう言われるのなら、勝手に思い違いをさせておけばいい。認識の測り間違えは大いに使える。なら十二分に状況へと組み込めるだろう。

 しかしながら色眼鏡で見られる宿命を捻じ曲げようとしているのだから、やはりカイトが、カイト達が目指す地点にはまだ遠い。

 具体的には残り四戦。理事長代理のチームを含んだ、残り四チーム。

 怪物とぶつかるのは、その内いくつの試合になるのやら。

 

「俺が一番信頼できる。その前提の上で選んだメンツだ」

「……」

「心配なんてこれっぽっちもない」

「…………むぅ」

 

 むくれた気配がするが、膨らんだ頬内の空気をつついて排出させれば無問題。

 

「納得してくれた話だろ」

「……そうだけど……でも」

「じゃあ――――俺は明日休みだけど、アルダンは?」

 

 そう聞いた途端に萎れた表情から一転して、みるみるうちに顔つきは光り輝いていく。

 従姉家へ向かうための荷造りに、色々と買い出しに行かねばならないかもしれない。外出の理由には十分だし、デートの口実にだってもってこいだ。

 好い手応えを感じていれば、慌てたようにアルダンは取り繕う。

 

「こほんっ……わっ私もお休みです……けど、それが――」

「映画でも見に「行くっ!」行……うん、じゃあそれで」

 

 非常にお気に召した提案のようで何よりです。この手の誘いは男からって相場が決まっているらしい。トレーナーからの曰く付きである。やっぱおハナさんで練習してんのかな。

 

「んじゃ、アイツらのとこ行って来るわ」

 

 ライブは無いが会見は控えている。彼女らだけでも捌けるだろうが、彼女らは自分達の仕事を既にこなし終わっている。走るのはキング達、矢面に立つのはカイトの仕事。

 カイトの特異性を思えば心無い野次も想定に入る。多少は疲労しているであろう者に、そんな対応をさせてはならない。ようはお仕事をしに行くだけ。至極事務的に、淡々と向かうだけだ。

 別に――――勝った姿に感動して、今すぐにでも彼女らの顔を見に行きたいとか、別にそんなんではないのだ。別にそんな訳ではないからね。本当なんだからねっ。

 

「ええ、いってらっしゃい」

「そのまま飯食いに行ってくるけど……」

「前々から言っていたものね。楽しんできてね」

「うい」

 

 短い返答だけを残して、至極冷静なカイトはちょこーっとだけ足早にその場を後にした。

 

「ふふっ、とっても嬉しそうな顔…………子供みたいにはしゃいじゃって……うらやましいなぁ」

 

 飄々とした背中を見守る呟きに気付かず、カイトは人混みへと紛れていく。

 

 お――――――――っっっっっしゃあああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!

 

 ふと、誰かの叫びが一際強く響いた。

 他の誰よりもその勝利を祝福する、出所不明な歓喜の声が会場を支配したのだった。

 

 

 ――世間で扱われている俺らの評価を横並びにする。

 ――その上で、俺らが頂点であると知らしめる。

 

「噂ではアオハル杯が無事開催されたのは、エイヴィヒカイトさんの影響が大きいとの話を耳に挟みましたが、その辺りはどう感じていられますか?」

「ハイそれ気の所為です。遅かれ早かれ誰かしらが声をあげてましたよ」

 

 一番早くに平静を保てなかったのが、たまたまカイトだっただけの話。この手の開幕は早ければそれで偉い訳じゃ無い。なんだかんだで分かりやすい結果が選ばれやすい世の中、結局は終わりの結末でその成否は判される。

 ――老若男女構うことはない。ただ実力を遺憾なく示せば、自ずと果たされる最終目標。それだけの力が彼女らにはある。絶対絶対絶対にこの六人こそが、これまでの世代において最強最高最大の頂点なのだと証明できたのなら、カイトはどれ程までに誇り高く胸を張れるのか。

 最強の世代は六人並んで仲良く頂点でした、なんて。最終的にこうなれば最高。

 それ以外なら目的は不達成もいいところ。

 

 ――つーかムカつく。無関係な有象無象共が口勝手に俺らの優劣を決めてもな。

 

「今回最も注目を集めるチームソル……意気込みの程はどうでしょうか?」

「客寄せパンダ以上の結果は叩き出します。無論ながらその道中に傷一つ負うことなく、テッペンに君臨するのは全員の総意でもあります」

「つまり……?」

「ただ一つの敗北も見据えません。完全無血にして全戦全勝目指してま……いや、それ以外は彼女らに相応しくないかなと。……じゃ次の方」

 

 ――俺らの中で誰が上なのかなんて、俺らの間だけで決めればいい。

 ――てかそうしたい。水を差すような口は挟まれたくない。

 思い返すほどに、独占欲増し増しな発言だなぁと。

 でもやっぱり、大好きな人達に関する事なのだから、これっぽっちも譲りたくはない。

 

「――走ることしか能の無かった異端児に、誰かへ教授することなど可能だとは思いますか?」

「……どこにでもいるもんだ」

「ん? 今なんと?」

「関係ない話なんで答えませんって言いました」

 

 厭らしくひん曲がって、口角は捻くれた三日月を描いている。見覚えがあるように思ったが、やはり不本意な顔見知りだったようだ。即刻忘却したい分類の人種。

 

「ああやはり……貴方は自分の出生を恥じている訳ですか」

「なんの話か分かりかねます」

「そうですよね、男のウマ、そのように意味不明な生き物として産み落とされたんだ。無かったことにしたくなるのも頷けます」

「は――――は、はは――――さあ? 分からないですけど」

「実際どうなんですか? 人でないウマ娘でもない中途半端な貴方は、何処でも嫌悪をされることが多いのでは?」

「さあ? 分からないですけど」

「出ようと決心された理由は? 貴方を未だに訝しむ者も多い中で、何故そのような反感を買うことを?」

 

 なんか今日はやけにしつこいかと思えば、的確な逆鱗ポイントをいくらか贈呈してあげましょう。特にアレだ、出生云々で攻めるのは効き目がある。お陰様でこめかみがはち切れそう。

 でも大丈夫。まだ落ち着いている。だって矛先は自分だもの。自分を揺さぶるためだもの。間接的ならともかく、これがあの人達を直接的に罵るようなら危なかったが、まだ大丈夫。でも次にあの人達を絡めた発言をするなら覚悟の用意をしておけ。喉仏潰して眼孔を開通させて爪ごと皮膚を剥がして耳たぶを五つに割って増やして膝の皿を粉々粉々粉々にして肋骨を一本づつ潰して、一時間後には貧相な棺(豪勢なベッド)に詰め込んでやる。絶対に実行するし必ず為す。メジロ家の力を使ってでも――――それはともかく。

 苦笑いを隠すような動作で、血走っているであろう目元を隠す。落ち着くまでは見せてはならない。ああやって彼が望む反応を引き出させるのも仕事なのだから。しかし嫌な仕事してますね。

 言ってやったりとした表情へ、いの一番に嫌悪を示してくれたのは後ろの親友達。

 

「ちょっと貴方っ」

「ステイだよキング」

 

 一番クレバーなスカイが、口走りそうになったキングを止めてくれた。カイトが止めるよりも聞いてくれるだろうから助かる。

 キングを皮切りに詰め寄ろうとしてくれていたスペとエルも、スカイの声で止まってくれた。

 

「スカイさん……!」

「乗っちゃダメだって前もってカイトが言ってたでしょ」

「でもっ、セイちゃん!」

「……グラスちゃんも抑えてるんだしさ」

「え…………ケェッ?!」

 

 ああそうか、どうりで今日は寒くて暑いと思ったら。

 

「……………………――――ふ  ふ 、ふふ  」

「つっ、次に質問のある方ー」

 

 背後の迫力は気にしないしない。兎にも角にも場の空気を回そう。そうすれば蒼焔をメラつかせる彼女の火照りも、徐々に収まるのだ。

 確かにグラスは一旦収まった。グラスは。

 

「……でも貴方だけでなく――――黄金世代の落ちこぼれがリーダーになっているんだ、見世物程度には確かに目を惹くのでしょうね」

「ああはいはいソウデスネー……そんじゃ次の―――――――――――― ―――― は? 、 ?」

 

 誰のことを言った? カイト? 両親? 違うな? 黄金世代? それもちょっと違うな? 落ちこぼれ? 誰が? リーダー? 誰のことを指しているんだっけ? キングの事か? 言うに事欠いて見世物程度? 誰が? キングが? は? ?? ??、 ?っ? 俺の親友に、一体ナニをほざきやがったコイツ?

 何を言われたかはよく分からんが、とりあえず思いっきり蹴ってから考えることにした。

 右脚で、踏み込みは全盛の如き力強さで、首の上にちょこんと乗った六キロ前後のタンパク質製の()()()へ目掛けて――――

 

「待った待ったカイトくんステーイ!!」

「どうしてカイトがそうなるのよ! 私は気にしていないんだから止まりなさい!!」

「Ich werde dich töten――――」

「そうゆうのはダメって言ったのカイトでしょうがー!?」

 

 ガヤガヤと羽交い締めにされたカイトであった。解せないです。

 

「…………脱線しましたが、次の方?」

「そ、それではよろしいでしょうか」

「はい、どうぞ」

 

 冷静でないカイトを見て平静が帰宅したのか、グラスの清涼な声で、つつがなく会見は進行していく。

 

「皆さんの世代――俗に黄金世代の六名は仲が良いとは有名な話ですが、同時にライバルであることも有名です。対立するのでなく、袂を同じものとした理由をお聞かせ願えますでしょうか」

「そうですね……私は元々エルと共に出るつもりではありましたが……」

 

 チラリと、押さえ込むを通り越してタコ殴りにされて伏せているカイトへ、五人の視線が集まる。おうなんだよこら。

 

「彼の一言を切っ掛けとして、私達は好敵手でなく盟友として集まったのでしょう」

「ほほう。……ちなみにどのような誘い文句で?」

「それはもう情熱的で、それでいて独善的……そう、まるでプロポーズのように…………『お前が好きだ』と。……ああっ、今思い出すだけでも羞恥でどうにかなってしまいそうです……」

 

 ざわ……ざわ、ざわ……。

 ちょろっとスクープの気配が香ばしい事を悟ったのか、次々と目を光らせる記者メンもしくは記者ウーメン。もしくはこれ、ゴシップとも言うのかもしれん。

 

「待った、え? 俺、え? ……そんなこと、言ってない……よね?」

 

 きっとグラスの妄言だ。たまにあるやつ。現役終わってから、たまに良くある現象である。

 そう信じて他四人を見れば、誰も彼もが苦笑い。味方はいないらしい。

 

「いやぁ〜、あれは……うん、聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらい口説かれてたね」

「むしろあんな事を堂々と言ってのけられるのは問題だと思うよ」

「シチュエーションを変えれば告白紛い……いや、告白デスね」

「いっそ殺し文句? ……ウマ娘ならあんなの、誰だって口説かれてるのかと勘違いするわよ」

「Oh gott…………頼む……アイツがこの会見をどうか見ていませんように……」

 

 ――お前らをよく知らない奴に、お前らの評価を上下されるなんて嫌だ。

 ――だから、頂点に立とう。

 ――他の奴等は押し除けて、俺らだけでその座を独占しよう。

 

「え、? ……や、いやいやいやいや、あんなんただのスカウトじゃん! ウチのトレーナーもあんなんやってるって!」

「やってねーよ!!」

 

 一面に広がる記者畑から、聞き覚えのある男性の叫び。抗議の声とも判別されるかもしれませんね。

 

「うわっ、いたの」

「見守ってりゃ何テキトー言いだしてやがる!」

「ウルセーバーカ! アンタはおハナさんとの関係に決着付けやがれ!!」

「はぁ!? おハナさんとはそんなんじゃねぇだろ!!」

 

 途中から掴み合いになって、不穏な空気は見事に流れた。よかった。このままでは非常に都合の悪い誤解が出回ってしまうところであった。でももう手遅れだなんて、この時は思いもしなかったのだった。南無。

 

 ――俺が必ず、お前らの価値を証明するための影になる。

 ――だから、お前らが誰よりも輝く姿を見たい。

 

 何を言ったかなんて忘れた。その場の感情任せな叫びなんて、記憶に逐一残る方がおかしいのだ。

 

 ――お前らが誰よりも綺麗に輝く景色を……いや今でも充分可愛いけどさ。

 

 歯の浮く言葉の一つや二つ、弾みで出てもしょうがないと思う。

 

 ――そんな姿を、誰もを魅了する綺麗な姿を、今度は俺だけの特等席で見たい。

 

 大好きなんだから、しょうがない。




仲の良いクラスメイトで組んだら厨パチームになっちゃった。すごいねぇ。尚、その他のチームも負けじと厨パ使いだった。諸行無常。
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