未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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寝むゲタンXXウィザードデュアルセブン(クソ眠い)


其ノ十二

 ――たったかつったかぴょいっと駆けちゃお、フッフー!

 とは、誇れる親友たちの言だ。

 誇り高くて、心底から自慢の友人達が言っていたのである。

 対象年齢五が精々な出来のすべり台を、満面の笑みで滑落して行く勇姿で以って、不特定多数以上の者達へたんと示したのだ。そんな勇者御一行を見て、狂ったように笑い転げるバカもいたらしい。

 それはともかく――――ぱっぱらぱっぱーせーのでスタート、レッツゴッ!

 ライブ中に爆笑声で合いの手を入れて、後々しばかれたバカである。ちなみに反省はしていない。次も多分同じ過ちを冒す。バカがどれだけ足掻こうと、結末は変わらない。悲しいね、●ナージ。

 つまり、そういうことである――どういうことである?

 

「……やべ、なんの話してたっけ」

 

 謎の余韻に身を委ねていれば、海の香りが鼻をつく。浜へと寄る潮の音は、さざなみを醸して魂を涼やかに癒す。揺れるヤシの葉は擦れて、風の音がこれまた夏らしい涼しさを運んできた。

 ゆっくりと目を開けば、誰しもが抱くイメージ通りの蒼色は雲一つない蒼穹を映し出し、蒼い水面に煌めく反射光は太陽が翳りなく頭上に在る証拠。二つの蒼の水平線は何処までも綺麗で、未だ見ぬ未来を暗示していると信じれば、きっと明日への展望が楽しく思えてくるだろう。

 さて、そろそろ思い出せ。

 Myは何しにこの海へ?

 

「『海を目の前にしたらやる事があるだろうが……!』って言って固まってたよ」

「え、なんで?」

 

 前言はまだ分かるが、固まる理由は計り知れない。意味不明である。

 

「私たちが知りたいんだけど……」

「カイトくんが分からなきゃ誰も分かりませんよ?」

「……そりゃそうだ」

 

 多分、精神が参っているのだ。疲弊具合が態度へモロに出ている。

 アルダニウムの不足による極度のストレス。先日の勝利による、キング大評価の流れ。プラスとマイナスの感情値がぶつかり合って、最近はとにかく喜びと悲しみで体力を使う日々が請け合いだ。

 だからメンタルリフレッシュ及び、集中強化月間である。故にメジロ家所有の無人島へ、チームソルはやって来ているのだ。

 

「疲れてんのな、俺」

「あれだけ叫び回って、疲れない方がおかしいデス」

「カイトの喉、今もガラガラだよ?」

「……そっかぁ」

 

 合宿である。その一日目である。けど初日は遊び疲れようと、説得されてしまったのである。

 そして騒ぎ立てるなら、バカであることが一番に良い効率だ。

 故に知能度指数を一時的に墜落させていたのだ。いたのだが、目も当てられないレベルにまで落とした弊害か、愛嬌全振りの智慧の欠片も見受けられない記憶が全身を金縛っていたらしい。ぴょいっとはれるやつ=知能がお低い、な件については流石に口に出す愚行は犯すまい。代わりの愚行が日々で多めなのは、本人が割と愚物なのでさもありなん。

 個人的嗜好で言うなら、すまし顔がデフォなグラスのはっちゃける姿は嫌いではないと、心の中でちなんでみるカイトだ。

 

「ほいじゃ大々金星飾ったキングちゃん。略してキンちゃん、例のアレをどうぞ」

「誰なのかしらキンちゃんって」

「お前だろうがへっぽこがよぉ」

 

 ギュッと。小さく嫋やかな手が、カイトの腕を掴む。

 あらやだこれってそういう事なのかしら。けれどもカイトには心に決めたお人ががががッ。

 そんなどうでもいいことを考えられなくなる握撃が、プライスレスなお買い得で炸裂する。指が骨諸共裂いて輪切りにせんとする力強さ、なるほどスズカを下した要因の一端がここから伝わってきますわね。パワーこそ加速へと繋がるファクター。

 

「誰なのかしらへっぽこのキンちゃんって」

「アイタタタタタタタタ。へっぽこキンちゃんー? 千切れるよー?」

「相変わらず懲りないわね……っ!!」

「ぁっ――――ひぎゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?」

 

 気色悪めな断末魔は淑女達の御耳を汚し、いつものことだと仕方なさそうに周りは肩をすくめる。

 普段と違うのは、開放感に溢れる常夏感満載な島だということ。

 さあ、今日は遊び尽くそう。

 

「う、海……だぁー……っ……!」

「一応言うんだ」

「言わなきゃ……始ま、らないっだろう……が……!!」

 

 やっぱりすっごいでっかーい伝説を、ぜったいぜったいいっぱい作っちゃうために。

 ビバ、夏合宿である。

 

 

 陽光遮るパラソルは、上から見ればメジロ印のスプライト色がよく目立つ。

 

「天気の良い海です。透いた青に染まった海です。雲の一つない蒼穹です」

「だなぁ」

「風も心地良く髪を撫でて、雅な気分でありながらも、内から湧き上がる昂揚を隠しきれません」

「だなぁ」

 

 概ね同意だ。言い回しが若干と詩人めいているが、諸手を振ってその通りだとカイトは意を示そう。

 

「私も……とっても楽しみにしていたんですよ?」

「だなぁ」

「去年は遊べる余裕も無かったから、今度こそはカイトくんと海で遊べるって……」

「だなぁ」

「……もうっ」

「まあまあ落ち着けよ」

 

 言わずもがなである。

 皆々様まで言うないと、そこから先をグラスに煩わせないよう手で制した。

 カイトはその先を代弁して、皆へとこの意志を強く伝えなくてはならない。

 

「俺らにとって以心伝心なんざ息をするよりも簡単な児戯。だろ?」

「そうで在れるなら、何よりも嬉しいですけど……」

「我が盟友、我が不俱戴天、我が宿命。そんなグラスの言う通りだ」

「カっ、カイトくん……!」

 

 期待感の詰まったあついまなざしが、太陽よりもやや下方面からやってきている。そうさグラスちゃんよ、君の想いを汲み取れない親友ではないのだよカイトはね。

 そうなのだグラスの言う通りなのだ。グラスが申さんとしていた通り――――

 

「――最高の昼寝日和だよなぁ」

「……もうっ!」

「どうせ言っても無駄デスよー」

 

 慣れ親しんだやれやれ顔のエルは、ビーチボールで騒ぎはしゃぐスぺ達の元へと歩いていく。これでカイトを説得しようと頑張るのはグラスだけだ。

 

「折角の海なのに」

「その苦言はスぺから貰い済」

 

 溜め息と共にではあるが、スピカに身を置いていた際にも同じような態度を崩すことは無かったのだ。スぺからすれば慣れっこなのだろう。諦められているとも称せる。

 

「……デスクワークばかりでは身体が」

「ついこないだの健康診断はオールA」

 

 そも伝えていないだけで、適度かつ微負荷のトレーニングは続けている。『脚力関連は兎も角』なんて前置きは付けども、別段ウマだから脚以外は鍛えてはダメだなんて話も無いのだ。肥満へ向かう未来とは、生憎ながら今後も縁がないだろう。

 

「気を休める機会は今。つまりこれ即ち寝ろってことだろ」

「…………惰眠を貪るだけでしょう」

「だまらっしゃい。……そんなに言うならグラスも一緒に寝るかー?」

「え」

「ほら来なさいよ。惰眠の快楽を髄まで教え込んでやる」

 

 レジャーシートの中央から身体をややずらして、これ見よがしにその空間を叩いて誘う。女子一人なら余裕で入り込めるスペースであり、小柄なグラスなら余裕も余裕だ。

 ところで女性と男性が寝具を共にすることは、俗に同衾なる行為と一緒くたにされてしまうらしい。でも大丈夫。だって寝具じゃないもん。レジャーシート=スヤスヤお布団とはならない常識を持ち合わせているのなら、バカが作り出さんとしている状況は、単に仲の良い友達同士がグースカしてしまっただけのことである。少なくともただ一人、脳の体積が足りてないバカはそう信じて疑わない。

 

「……」

「やー、一度寝てみりゃわかるって。ぬるま湯みたいな陽気と……風鈴みたいな風が気持ちよくて……ハマったら、抜け出せないぞ」

 

 うとうと、と。瞳の中の眠気の色は、少しの量には留まらない。

 

「……み、みんなの目もあるのに……そんな、こと……は」

「もののふみてぇな思考回路の癖して、今更常識人ぶられて、も…………む」

 

 ただでさえ川のせせらぎのような癒声は、常日頃からカイトの睡眠欲を囃し立てるのだ。そこへのんびりとした言い争いが加わって、加速度的な睡魔に掻っ攫われていく自意識。抗う気が無いのは、このまましっかりとした睡眠へ辿り着ければ、普段とは段違いな快眠へ到達できる自信があるから。

 此処で一つ問題が。

 

「グラス」

「どうしました」

「グラス、」

「……カイトくん?」

 

 本人には自覚がないことだ。同居していた御方から聞いて、初めてその事実を知った。

 

 ――……一緒に眠ると、その、力強くて……。

 ――?? 何の話さ。

 ――っ、抱き枕にしてくれるから、起きるときはいつもとっても近くて……嬉しいのよ?

 

 なんでもエイヴィヒカイトは、走ることを辞めた日頃から、人肌を抱いて眠らないと気が済まないらしい。

 

「グラス、来い」

「は、い?」

「いいから来い。俺と寝ろ」

「!?」

 

 眠気のピークが差し迫ったなら、秒毎にどんどん不機嫌へと真っ逆さまになるのだと。

 目付きも悪く、声色も普段以上に鋭く、他者への気遣いなど投げ捨てた我儘をみせつけるのだとか。そんなことを、アルなんちゃらさんはうれしはずかしそうに語っていましたとさ。

 

「あ、あのっ、あのあのっっっ、、?!」

 

 どうやらこのドアホは業を煮やしたらしい。

 手なんかを無理矢理握って、隣へ引き寄せようと指向性の意志表示。

 

「……嫌ならいい」

「ぇ……っ嫌じゃ! ない、です……けど」

「なら早く」

「…………は、はい……」

 

 俯き切った顔色は、早くも日焼けをしたかのように真っ赤。林檎だってこんなに鮮やかな赤色を灯すまい。熱した鉄球よりも火照った表情を強ばらせて、律儀に姿勢良くしゃがんで横になる。

 それすらもはや目に入ることなく、満足げな様子でバカは本格的な睡眠へと移行し始める。

 

「ひゃいっっ!???」

「……あったか」

 

 不思議なことに、此度の抱き枕は一際小さい。いつもなら顎がおでこに当たるくらいだが、今回は完全に抱え込めてしまえる。肩を腕の内へと引き込んで、顎はつむじへすっぽりと。口元がわななくように震えているのに気づけども、「息がしづらいかな」なんて気遣いをする余裕もなく、ただ自分の睡眠欲を優先させた。

 つまり、もっと引き寄せた。

 

「…………グラス」

「ぴゃっっ、」

「おやすみ」

「〜〜〜っっ!! ――――ぁぅ」

 

 お昼寝は健康に良い。これは化学的に証明されている。それを共に身をもって実践するだなんて、コイツもしやトレーナーの鑑なのかもしれない。

 遠目に苦笑いで観ている四人は、そんな関心を抱いたり抱かなかったりした。

 

 

 この日のために用意された新品のレジャーシートの上には、体を痛めないようにこれまたこのために用意したフワフワシート。ふわふわ好きなアヤベェ先輩から選んでいただいたコチラ、触り心地は勿論のこと、通気性だって当然のように抜群と、ストレスフリー真っ盛りでの使用を可能とする逸品。

 潮風の香りを感じながら、その只中で昼寝をする。人肌くらいの抱き枕は、普段とは様子の違う温度と柔らかさだが、それも普段とはかけ離れた環境と合わさったなら良い塩梅。そうだここはいわば楽園に等しい。何者の介在を善しとしない、誰にも囚われることのない、最大幸福値を得られる自由空間なのである。絶対的なサンクチュアリだったのだ。

 

「、  」

 

 だったのだ。

 だったのだ、とは過去形。過去の思い出だったのだ。

 

「い、生きてる?」

「    」

「ヒッ」

 

 テイオーから掛けられる戦友を慮った声。しかし返事が無いなら屍と同義。これは日本では義務教育と同列に扱うべきくらい常識的な法則だ。

 事実、彼女の前にはそれだけの衝撃が在る。

 

「オーイ? ヘイヘーイ? マックチャーン??」

「――――少し 黙りなさい ゴールドシップ」

「おっふ……ぉ、おいっす」

 

 真夏の太陽? たかが千六百万ぽっちの熱量が何するものぞ。生命の許容を通り越した氷点下の視線だけで、様子を伺う者達は骨が震える。そんな彼女の胸中たるや、さぞ絶対の息吹く零怒が荒れ狂うことだ。夏ど真ん中の陽射し程度は鼻であざ笑えるだろう。

 怒ると体が熱くなる。でもとある一線を越えれば、冷たく覚めていく。そこから更に怒りが沸けば、どうしたことか冷静を極めていくのだ。レースの最中にゾーンへ入った時以上、今の彼女には周りがこれでもかと観察できていた。やっぱり新種には、他者の底を引き上げる力があるのかもしれない。

 

「―――― さ  ま     ?」

 

 想い人と結ばれていたハズの兄が、他の女性を抱き締めて眠るサマを。

 手の置かれた位置。離すまいと絡まる足も。弄ぶように指先にくすぐられている栗色の尻尾も。若干規則の悪い寝息が耳に掛かる瞬間多数も。兄の起こす一挙手一投足へ、過敏なくらい艶やかに反応をして寝たフリを堪能する雌ポニーも。

 麗しく凛としていたけど、今では余すことなく何処かしこも闇色に曇り切ったその目は、確かに不貞の進行形を目撃していた。

 

「んぅ……ぐぅ……」

「っ……、っっ…………ぁっ……」

「すぴぃー……すややぁ……」

「……、っ……はぁ……はぁ……すぅぅぅぅっっっ、、ふぅぅぅぅ……………はぁ……ん」

「くかぁー…………Zzz………」

 

 お天道様はガン見している。悪い事も良い事も全部まるっとお見通し。

 だからこそ天は、この妹君を遣わしたに違いない。謂れの在る罰であり、道化となるよう仕向けるべく、引き合わせる運命を創り上げたのだ。

 バカの天命を担当する、愉悦を娯楽とするタチの悪い女神様が、そうなるように運命付けたのだから――――!

 

「――――っっっ、、、、…………お兄様っ……! の……      っ」

「…………んぁ? ぁれぇ……? ……ぁ、マックイ「バカァァーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!」――ん?」

 

 ――あれ? 水着可愛いじゃん。おさげに纏めた髪も似合ってるよ。

 言葉を出す暇は無かったが、確かに口へと形作ろうとした努力は、確かな信念と共に、此処には在ったのだ。

 疑問符よりも本能と反応が前のめりになるとは、それ程までに強烈な気配を察知したのだろう。敏捷へと全神経を全振りにした結果、見事に眼鏡だけは外して横へと置けた。眼鏡だけはね。

 しかし下が砂浜でよかった。いやはや本当に良かった。

 もし仮に硬い土やコンクリートだったなら、埋まるなどと言う生温い結果にはならず、無情にも首から上だけがシミとなっていただろうから。

 名優と称された彼女の脚なら、きっと造作も無いのだ。

 

 

 他のメジロが使うだなんて聞いてない。そのような旨を本家へ伝えれば、仲直りの一助となればだなんて気を遣ってくれた結果だと。

 申し訳なさそうにシュンとした声の婆にそう言われれば、孫っぽいポジションのカイトはダンマリするしかない。今度の休みにまでも、食事に誘って慰めよう。

 

「前が見えねぇ」

 

 赤くなった顔面には、夕陽がヒリヒリと沁みいる。

 顔の輪郭は崩れていないかしら。親譲りの御尊顔は繊細だ。けれどめり込むように引き攣る感覚も、妹分から与えられた施しと思い込めたのなら、実は福音だったりするのだ。うむ、例えドメスティックでバイオレンスだろうが、スキンシップを取れるだけでも僥倖ですよ。

 

「毎度のことだけど自業自得だよ」

「うーむ、寝てただけなのにな」

『だけ?』

「………………まぁ、知っていましたけどね。ええ。別に期待などしていませんでしたから。はい」

 

 拗ねた顔のグラスは目に入らず、カイトの意識は十割を全霊にてマックイーンへと向け続ける。

 だけです。だけなんですと、串に刺さったベーコンを横合いから口いっぱいに頬張り――あらやだジューシーな味わい――スペ達へ心此処に在らずの弁明を試みる。しかし弁明の悉くを失敗した模様であり、冷徹なジト目がバカを突き刺すのだった。同期だけでは飽き足らず、スピカの面々からもとっても痛い棘が容赦ない。特にスズカからの睥睨は、やらためったら良く効いてくるので速やかに控えてくださいお願いします。

 二、三の咀嚼を終えれば逃げるように顔を背けて、チラリと少し離れた位置のマックイーンへとカイトは目を向けた。

 

「まっくいーんちゃん……」

「……」

 

 見えるのはこちら側へ尖り切ったウマ耳と、圧の込められた背中。下を見やれば可愛らしいビーチサンダルが、可愛らしくないくらいに砂浜を抉るのが一瞥の恐怖。尻尾だって定期的に高く上がっては振られている。これらを纏めれば不機嫌だとの推理が成り立つ。成り立っては欲しくなかったなちくせう。

 

「……」

「こ、この肉美味いよ。本家からワザワザ持って来てくれたって、婆さんから聞かされて……」

「…………」

「あのあのっ、聞こえておりまするかお嬢様ぁ……?」

「………………」

 

 時に知っているだろうか。いや誰も知らないかもしれないが、実の実は、カイトってば大の寂しがりやなのだ。ウサギも斯くやなくらいに、寂しさだけで命がマズイ部類の生物なのです。誰にも知られてはいないカイトの内だけに隠された秘密だ。

 アルダンから無視されていた頃は、それはもう、自殺半歩手前が如きの酷い憔悴の仕方だった。ベルちゃんに話しかけようとそっぽを向かれれば、胃やら心臓やらが握り潰される心持ちだった。

 幼い頃からチョコチョコと後ろを付いて来てくれた、そんな可愛くて可愛くて仕方のないマックイーンから、存在しないかのように振舞われれば、喉奥から熱いモノがこみ上げてきそうになってしまう。

 ただ、自分が寂しさを嫌う以上に、大切な存在が不快を被る方がカイトには耐え切れない。

 

「……ごめん」

「……」

「っ゛…………本当にごめん。もう、話しかけないから……視界にはっ、入らないよう、どりょく、するから……」

「――――え」

 

 泣けてきそうで参った。涙目なのは違いない。でも決壊する前に海へ飛び込めば、実質涙は零れないから泣きはしない事にならないだろうか。

 兎にも角にも野郎が泣いたところで需要のジュの字も無い。早いところおさらばしないと。

 

「んっ? カイトくんどこ行くの」

「さきに――――ペンション戻って、ねる」

 

 まともな受け答えは出来ただろうか。自信は、少しだけない。

 

「カイトくん……どうかしました?」

「どうもしてない。んじゃ、また明日な」

 

 小走りでもしてしまえば不信感は増す。足取りはゆったりと、眠気がピークに達した風情を演じるのだ。大丈夫、演じるのはそこそこ得意だった。これもまた過去形だが、その名残でも残っていてくれれば、誰の心へしこりを与えずに収まる程度のことだ。

 自分の心が泣き出しそうだからって、その所為でこの場の誰かへ戸惑いを与えたくない。

 

「逃げてばっかりだ」

 

 だって何も解決はしていない。マックイーンはカイトへの姿勢を閉ざしたままなのは依然としていて、怒らせた心は静まってすらいない。自己を傷つけることへ盲目だったあの頃よりも、本当に成長しているのだろうかと疑問が満ちていってしまう。

 ふと、唇の端へ指先で触れて、歪んでいない事を確かめる。今の自分は、悲観だけが内を支配している今は、笑えていなかった。笑わずにいれていた。

 ならきっと、一歩か二歩分くらいは進めているのではないか。

 

「さて……どうしよっかなぁ」

 

 ところで霊長とは、一度眠れば眠気が失せてしまう生き物だ。

 たっぷりと昼寝をしたカイトが眠るまで、果たしてどれほどの時間を要する。

 時間を潰すには、無人と銘打たれたこの島は、本土に比べれば娯楽に欠けていた。

 

 

「…………カイっ、、…………っ……」

 

 口に出せば、圧し留めていた堰が壊れる。

 そのような意図を、噛み結ばれた唇からは感じる。

 

「アルダン?」

「………………はぅ……ぅぅ…………っ」

 

 ティーカップを置きっぱなしにして、中身はすっかり冷めてしまっている。それも気に留めず、人の目も憚ることなく、手のひらの中心へと胸元のリングを喰い込ませては、安心と不安の混ざった呻きを続けている。

 最初こそ微笑ましく見守ってはいれたが、こうまで露骨では言わざるを得まい。

 

「これ見よがしなため息の理由は、やはり彼ですか」

「へ? …………いえ、そんなつもりは、ありませんけれど…………」

 

 否定をしつつも、リングの喰い込む力は弱まりそうもなく、むしろ強まる一方にしか見えない。

 というかその否定は無理があるだろう。『カイ』まで言って、握り締められたリングは誰から贈られたのかを考えれば、想いを馳せるのが果たして何ヴィヒカイトなのかは割とわかりやすい。メジロ家なら誰でも知っている。

 

「接触禁止とのお触れも私有地内、それも本土から離れた離島では届きようもないでしょうに」

「それは……そう、ですけども」

 

 もう認めたような返答だと、普段なら敏いハズのこの娘は気づく様子が無い。恋とは、愛とは、それほどまでに目の前を狭窄させる代物なのである。

 

「なら、何故共に行かなかったのですか?」

「……今の時期は、カイトにとって大切な時期ですもの」

「では当分の間はカイトと接触することは難しそうですね」

「……」

 

 ほんの意地悪をしたくなったのは、焚きつけんとする野次ウマ心が僅かでもあったのだろう。

 

「最速で……年末のドイツでしょうか」

「っ……」

「夏を逃せば、人の目の届かないタイミングなど他にありませんものね」

「……っ…………ぅぅっ……!」

 

 何なら肝心のドイツ帰郷でさえも、二人っきりになれることは恐らくない。彼の母君はともかく、彼の従姉はそれを積極的に阻もうとしてくるに違いない。

 秘密裏に手回しの途中だが、此方としては丸ごと囲ってしまえば良い、故に幾人娶ろうと問題はない。しかし彼女らの中でも序列付けは必要なのだろうし、個人的にも昔から見ていた身内で、それも幼い頃から想い合っていた二人が最大の相互となれるのなら、老婆としては何よりも喜ばしいことだ。

 やはりこの娘には、もっと頑張ってもらいたい。

 

「…………でも、いいんです」

「ふむ」

「今だけ……。カイっ、……彼は約束してくれましたから」

「と言うと?」

「……夢を叶えた後に、大切なことを伝えてくれるって」

 

 より濃く、優良な血族が続く。そんな喜びは、確かにある。メジロの血は絶えず、より先へと栄光は続いて征き、誇り高き格はより高みへと昇り詰めるのだと。

 それよりも、なによりも、波乱を寄り添って歩んだ二人が、めでたく人生のゴールを迎えられるのなら。

 

「だから彼の夢を……カイトの()()()()を、邪魔することだけは出来ないんです」

 

 メジロ家おばあさまは、孫的存在の華燭が見たいのだから。

 

 

 ――――イイハナシダナー、な空気の流れる本家はさておき。

 場所はメジロ所有の無人島。

 満天の星が天上と海面へ飾られる、美しく厳かな時間帯。

 寝付けなかったカイトは寝袋を持ち出して――――やりやがったのだ。

 

「おやすみ、マックイーン」

「……はい……おにい、さまぁ…………」

 

 少し大きいとはいえ、()()()()()()に二人が入ろうというのだ。密着の二文字をこれでもかと表すに適した状況は無いだろう。

 ここだけの話、菩薩聖者のように、優しさだけを前面へと出したカイトに劣情は無かった。

 本当に、少しも、微塵も、これっぽちたりとて、色欲に類する情は存在しなかったのである。




星を見上げながら寝ようとしてたバカ「……一緒に眠るか?(寝付けないのかなこいつ)」

バカを探しに来ていたメジロの誇り「……いいんですの?(ほわぁっ!?!?)」

白無垢かドレスかの幸せな想像が止まらないおばあ「…………ふぅっ(幸せか?)」

とんでもなく嬉しかったけど抱き枕扱いが日常茶飯な存在に嫉妬したり抱き締めた張の本人は何とも思っていないことに不貞腐れたりでも大事な存在の一人で居れていることに背筋が逆立つほど嬉しくて、情緒がぐちゃぐちゃな人「…………はぁ……(二人きりなら思うがままに……)」














手のひらに指輪にカタチの痣が出来た人「…………はぁ……(会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい逢いたい逢いたい逢いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい逢いたい逢いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい会いたい会いたい逢いたい逢いたい)」
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