そんなことをこのご時世で言ってればBĄNされそう
桜花賞の前哨戦となるチューリップ賞。
トライアル競走ともされるこの一走は、謂わば桜花賞への切符を勝ち取る予選とも。
「調子はどうだ?」
「……腹減った」
「飯ぐらいちゃんと食っとけよ」
「うるへー」
思えばらしくない緊張で、昨夜は何も食べていなかった。それでいて朝食も軽くシリアルを一口分。こんなの冷静に考えれば正気ではない。力だって入るわけも無い。口を通らないではなく、食事を忘れていたなど、一体どれだけ緊張していたのだ。
「……先輩に甘えすぎたな」
「なんの話だ?」
「ナイショの話だ」
デビューしてからひっきりなしにやってくる、あの親戚お嬢のせいで、夕飯を自分で作るのが億劫になっている。これはマズイ。自炊を心がけねば、独り立ちできているとは到底言えない。今日から早速実践に移すべし。
そんな逃避を、一先ずは打ち切る。
結局夢からは遠ざかる道を行くわけだが、それでも辿り着く到達点に貴賤はない。この一戦だって落とせば、その時点でおしまい。極々個人的な、憧れによる私情が働かなければ、このような緊張に振り回されることもないのに――――なんて堂々巡りが、ずっと続いている。
「……大丈夫か?」
「ぶっちゃけヤバイです。でも吐きそうです。だから腹減りました。ゆくゆくは死ぬかもです」
国語力が壊滅なのは、つまりはそういうこと。
四割冗談めかして、六割の本気が表情に出てくる。
「……飴食うか?」
「飴食べる。くれ」
「お、おう」
差し出される棒付きキャンディーを奪い取り、噛み砕いて即座に胃へ流し込む。舐めるなんて悠長している暇があるなら、噛み砕いて溶かしやすくする。それぐらいの効率は考えられるようで、しかし何の気休めにもならない。
プッと吐き出した棒は、綺麗にゴミ箱の中へ吸い込まれた。トレーナーへ突き出された右手は、ワンモアプリーズと無言で催促している。
「飴。食う。くれ」
「……あいよ」
段々と喋れるレパートリーが、時代を逆行して乏しくなってくる。ブドウ糖の不足に極度の緊張とは、こんな症状を生み出すらしい。自分がこんなにもメンタル弱者だったことに、ほんのりと情けなさを覚えた。
「あー……マスカット味が沁みる……」
「頼むから転んでくれたりするなよ……っ!?」
「どうだろ……ワンチャン、『ターフに広がる血の海!?』みたいな見出しで朝刊載るかも」
「やめてくれ……マジでやめろよ」
「あー、クッソ、震えが止まらん」
酸素が上手く全身へ行き届かず、末端の痺れが増す一方。
四肢は凍えたように静止を拒み、けれど身体は尋常を超えて熱い。気を抜けば正常な呼吸を忘れかけて、意識しなければ息を止めっぱなしにしてしまう。
「……今日のレース相手は、正直お前の相手にならないだろうよ」
「本来ならって、付けんの忘れてるよ」
「理解してるなら良い。緊張すんな、つっても無駄だろうしな」
「特賞クラスの大当たりだ。伊達に俺の二倍生きてないな」
「俺はまだ二十代だ!」
そんな、男同士の中身スカスカな会話を続けていれば、幾分か全身の自由を取り戻しつつある。足は多分走れる。手は握り拳くらいなら作れる。
「ありがとうトレーナー。もう大丈夫だよ」
「そうか? ……その割にはまだ」
「みんなのとこ戻って伝えてきてよ。「カイトはピンピンしてらぁ」って」
「……わーったよ。……ったく、無理すんなよ?」
「ああ、そこは間違いなく」
そういってトレーナーは控室を後にして、ここはカイト一人の空間になる。
大丈夫。エイヴィヒカイトは大丈夫だ。だって道を進むと決まったその日から、敗北の未来はあり得ない。ほんの僅かな敗北の可能性も、見咎め失う。
絶対を歪めて曲げるのだ。だから大丈夫。多少の緊張も、飲み込んでいられる。
嗚呼でも、自分は今――――母さんと同じタイトルを目指している。
その意味を、自覚してしまった。
「あ、やば――」
喉元までせり上がる液状の熱。瀬戸際で押し留めたが、次も止められるかは定かではない。念のため、トイレの近くへ移動した方がいいのだろうか。
トレーナーの厚意で貰った飴も、ぶちまけてしまいそうだ。
「……パ、ドック……行かなきゃ……」
レースの前にも行うべき事は多々ある。それがどうにも面倒で、今日ばかりは底無しに苦痛に感じる。
早く終われと願いつつ、早く成したいと想う二律背反が、エイヴィヒカイトを磨耗させていく。
大丈夫だと言った手前、多少は気丈に振る舞った方が良いだろうか。
どうせ見破られると知りながら、カイトは姿勢を無理矢理正す。
控室から直通のルートは、常に壁がある。もたれ掛かりながら歩くなら持ってこいだと、そんなことを考えていた。
パドックで今のコンディションをお披露目してから、どこか記憶が曖昧だ。
実況の人からやたらと言われた気もしたし、解説の人からも色々労われた気もする。
スピカの面々はメチャクチャに心配してくれたし、見に来てくれてたアルダンも血相を変える勢いで、口があわあわ言っていた。生憎声は全然聞こえなかったけど。あのアルダンがあんなにもふためくなんて、どこかに屍人でも居たのだろうか。
囁かれる悪意は、デフォルトで聞き流すからそもそもが無問題。
「――――、――」
「あい、あい、あい、あい、あい」
ウマよりもサルな気分。
今もこうして、ゼッケンをつけたウマ娘に話しかけられているけど、自分の発言も相手の発言も、何を言っているのか全く分からん。てか誰だっけ、コイツ。ゼッケンを付けているのだから、今日のレースで走る予定なのだろうけど。
そもそもなんで今自分は、ターフの上を歩いているのだろう。ふらふらと何かに誘われるようにして、酷く頼りない足つきで、自分は一体何処は向かっていたのだっけ。
「――――!! ――! ――――!!!」
「…………」
七名くらいの集団が、一斉に手を横へ振っている。それが矢印のようなものだと判断して、トコトコとそちらへ歩き出す。
途中知らない人に誘導されて、狭い鉄の箱へ入れられた。
ボケッっと立たされていれば窮屈に感じて、下に隙間を見つけたから潜ろうとした。潜ろうとしゃがみこんだ時、突然目の前が開く。進めって事なのだろうか。不思議に思いながら、ゆるりと歩き出した。
「…………んぇ?」
ぼちぼちと歩き出して。自ら作り出した重圧から逃避するため、そのための茫然自失が、緊張をいつの間にか遠ざけて。霞んだ思考を、喧騒と歓声が拭って。
ようやく今が、レースの始まった瞬間なのだと思い出した。
「…………ヤッベエェェェェエエ!!!!!!」
レース状況を逐一把握している時間は無い。だから一歩目から、全霊尽くして振り絞る。
ターフの芝を一歩分掘り抉って、全速は集団へ向けて追い縋った。
千六百程度のマイル。カイトが息継ぎ無しでスパートをかませるのは、千五百前後の距離。それ以上を越えようとすれば、急制動が働く。多分此処からでは、僅かに足りない。
だから届かせるために無茶をしよう。これは自分のミスだ。ケア出来たハズの、自分の失態だ。自分のケツは自分で拭こう。
だから千六百の距離を、全力全開全霊で走り切ろう。
「――――フゥ、」
視界の端が黒い染色を始めて、視界の中心は白く鮮明に輝く。
この世界の色彩は、極端な二色だけになった。
エイヴィヒカイトがスパートを掛ける際に、毎度のように見える景色。
世界を染め上げる闇から逃げるように、眩い白が真ん中に座す。自分はそこ目掛けて走る。それだけだ。
今日まで五戦、それを行うだけで勝ってきた。
端からジワリと闇の侵食が始まり、闇と白の狭間がパチリパチリと弾け始める。これも今まで通り。大体これが始まってからは、残り時間が半分であることを示している。
――酸欠特有の、電撃のようなスパーク。
――意識消失を示唆する、ブラックアウトの深海。
――極限の集中を見せたときに輝く、ゾーンの白光。
その三つの釣り合いが重なり、負荷の処理を放り投げた身体は、急速な順応を堪能し始めた。
身体が苦痛として発するハズの危険信号は、アドレナリンがその仕事をさせない。一際全身が軽く、一挙手一投足の動きに快楽を充足させていく。
それが端を発して、息継ぎ休息という選択肢は早々に潰えた。
「――――いない」
もう、目の前には誰も居ない。整備された真新しい青芝を、先頭だけの権利でもって踏み荒らしていく。
孤独な黒白の世界を過ぎ去って、彼は独り、規定された距離を駆け抜けていた。
「――――ハァッ、……ぁ、……か、ってる」
気づけば一人、電光掲示板を見上げている。
あんなにも緊張していたのは何だったのか。アッサリとした結末に、カイトは気を削がれた気がした。
――チューリップ賞一着、エイヴィヒカイト。
「まずは、一勝……だ、」
桜花賞への出場が決まった瞬間。それだけを確認して、エイヴィヒカイトはターフへ倒れ込む。青く晴れた空を見上げるように、仰向けで静かに倒れ込む。
気絶しているのだと判明するまで、五分ほど放置されていた。カイト本人がそれを、今後も知る由は無い。
今回ばかりは体調不良と、しっかりかっちりと連絡済みである。こんな一報で説教を回避できるのなら、初めからしとけばよかった。歌って踊るのはやっぱりごめんだし、今後もこの手は頻繁に使おう。
今日はカイトの祝勝会である。病院へ行くべきだとみんなは言ってくれたが、カイトの勝利を疑わずに、既に部室で用意済みである事はスペシャルウィークからコッソリと聞き及んでいる。口を漏らした、が正確な表現だがそれはそれ。
折角の準備を腐らせる方が身体に悪い。よって救急車には、臨時タクシーとして学園まで運んでもらった次第である。
「いやーしっかしマジ焦ったわー、ハハハー」
「ぶははは!! あんな出遅れ見たことねーっつーの!!」
「なんでだろう、お前には笑われたくねぇなぁ……!?」
骨付きチキンを片手に、ゲラゲラ笑う葦毛に荒ぶるカイト。コイツにも同じことが起こる呪いをかけてやろうかしら。
肝が冷えたとはトレーナーの言でもあり、エイヴィヒカイトの言でもある。緊張がピークに達したからエイヴィヒカイトの挑戦はこれまで、なんて諸行無常が過ぎるのだ。
「でも今回の失敗は逆に良かったかも」
「え……次もするんですか!?」
「じゃなくてね。大きなヘタこいたからさ、緊張も相当にほぐれたよ」
勇者を見るような目をするウオッカを手で制しつつ、心境を説明する。
危うくカイトの冒険の書が消えるとこだったが、喉元過ぎればってやつだろうか。乗り越えてしまえば、案外こんなものかといった感想が出てくる。
過度過剰過多な緊張は裏返り、心地良い決意へと変換された。
「醜態晒して申し訳ないです。でももうあんな姿は見せないんで」
「えー? ボクもう一回くらいあの死にかけた顔見たいかも!」
なにか、ヨウカイケイオーが意味不明かつ余計なことを口走っている。その発言はシリアルキラーなサイコパス判定なのだが。
答えは当然NOだ。
「は? 嫌だけど? もう二度と見せないけど?」
「……恥ずかしかったのね」
「ちょっと何言ってるのかワカンナイです」
サイレンススズカの呟きが全てを語っているが、カイトは敢えて気にしない。空きっ腹を埋めるように、トレーナーの給料を原材料にした品々へ飛びついていく。
「む、このローストビーフは……」
「おっ、良いのに目をつけたな。ソイツはいい味するぞー?」
「ぶっちゃけそんな美味しくない」
「俺の半月分をテメェコノヤロウ!!!!」
「食べてみなよスペシャルウィーク」
「あ! これすっごく美味しいです!!」
無邪気に味わうスペシャルウィークに、さめざめと泣き始めるトレーナー。
ごく最近に最高峰の代物を口にしたので、多少の辛口評価は許して欲しい。だって野郎の奢りとガールの手作りなら、断然後者の方が美味しいから。これにはトレーナーも同意してくれるハズだ。言わないけど。
「さて、カイト先輩は一段落したし、次はスペ先輩ね」
「弥生賞かー……意気込みはどうですか先輩!?」
「むぐっ、!? ……!! !」
「食い終わってからで良いと思うよ」
食べながら喋るのは行儀が悪いから、身振り手振りで伝えようとする後輩思いなスペシャルウィーク。でも全く伝わらないので、やっぱり喋ってください。
水を差し出して、喉を詰まらせないよう落ち着いてもらう。
「……ぷはぁ……お水ありがとうございます」
「んで? 俺も聞きたいね、スペシャルウィークの心境」
「……えっと、そうですね」
弥生賞にはスペシャルウィークの他、ゴッドヘイローさんと、セイウンスパイさんが出走する。彼女らもそれなり以上の実力の持ち主らしく、激戦は必至らしい。
初めての重賞、それも皐月賞への切符を掛けた一戦。期間は短くとも、今までカイトの見てきたスペシャルウィークならば、緊張の一つや二つしてそうなものだが。
「……んーっと……」
「一言で表すなら?」
助け舟になるかどうかの助言をひとつまみ。
「…………! 挑戦者根性です!!」
「おおう、昔のスポ根らしくなってきたなぁ……トレーナーの年代が移ってない?」
「だから! 俺はまだ二十代だっての!!」
ともあれ気合は十分らしい。カイトのようにも気負い過ぎていない。
これなら明日の弥生賞は、心配要らずかもしれない。
「挑戦者根性で頑張ります!!」
「その意気だぜスペぇ!! よっしゃー! 明日に向けて今日は食うぞぉー!!」
「はいっ!!」
そうして大食らいの本領を発揮し始めるスペシャルウィーク。
ちょっと負けてられない。そもそもが本日の主役はカイトなのだ、今この瞬間に食い意地張らずして、一体いつ張るのだ。
であるなら卓上の品数では足りない。その結論に至れば、迷わず携帯へ手が伸びる。
「もしもしー? はいそうです、モッツァレラを……」
「……カイトくん?」
「あの、先輩……もしかして出前っすか?」
推眼である。その洞察力、きっとレースに役立つだろう。
「…………はい。所属は中央トレセン学園で、名前のとこは――トレーナーって……」
「……なんで俺の名前が出てくる?」
「さあ? これが俺にもさっぱり不思議でね」
「お前が電話したのに……!?」
門限までは時間もまだある。宴はこれからだと思い知る時だ。
追加の料理が運び込まれた祝勝会or前勝会。散々に騒ぎ尽くしたそれは、たづなさんに怒られるまで続いたのだった。
かくして翌日。
祝、弥生賞一着。
「えー本日もお日柄良く以下略スペシャルウィークおめでとう乾杯ー!!」
「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」
僭越ながら乾杯の音頭をとりました、エイヴィヒカイトでございまする。
とはいえ、場の雰囲気は昨日の延長である。昨日のように、みんな口々に勝者を称えている。
「ウイニングライブ可愛かったわ」
「ふぁいっ!? うれひいでひゅっ!!」
「ああ、だいぶマシになったな」
「走った後に歌って踊るなんて流石だなぁ」
「それが当然なんだがお前はなぁ……」
「三十路うるさい」
今はスペシャルウィークを褒めちぎる時間であり、エイヴィヒカイトを説教する時間ではない。趣旨を理解していないトレーナーには、心根へ突き刺さる右ストレートをぶちかます。
「テイオーさんのおかげです! またダンス教えてください!」
「いいよー!」
「本当ですかぁ!?」
「うん。だってボク、スピカに入る事にしたから」
らしいです。
なんだろう。サラリとしたお酒のような、そんな透明感ある流れでなんか言ってた気がする。
スピカに入る。スピカ、に、入る。
「「「「えーーーっ!!??」」」」
「ブフッ「あっぶねぇ!?」ーーー!?!!? っえーーーー!??」
「お前も驚くのかよ!!」
「…………ギリギリセーフ」
体を盾にして帽子だけは死守できたからセーフ。ぶっちゃけ本体よりも、帽子が本体なまである。
トレーナーの口からぶち撒かれたジュースが、運悪く隣の人物を塗りたくった。なんて不幸だ。なんて哀れだ。そんな不幸を背負う者は、きっとこれまでの行いが返ってきたに違いない。まあカイトなんですけどね。
生理的に忌避される濡れ鼠となっても、話題はやはりソウカイレイホウだ。
「……リギルじゃないのか?」
顔をタオルでに拭いながら、疑問点を問いかける。
彼女の憧れた人物を鑑みるに、リギルへ入るのが自然だと思っていた。事実スペシャルウィークは、似たような経緯でスピカへ加入している。
生徒会長のような存在を目指すのなら、その背中を間近で見られるリギルが一番だ。彼女の才能は本物らしく、それならばリギルへ入るのも難しくは無いだろう。
「うん。ボク、会長に追いつきたいんだ」
だからこそ、違う道を辿って背中を並べんとしている。
天空のように澄んだ瞳は、あの大きな背中を見ているのだろう。目は離すことなく、だからこそ自分の好きなように、辿り着かんとしているのだと。
「みんな、よろしく!」
ともあれ、才能溢れるチームメイトの加入だ。エイヴィヒカイトは当然の如く諸手を振る。他の者たちも意を唱えない。カラオケの頃からほとんどチームメイトのようなものだ。反対意見などある訳も無く。
「トウカイテイオートウカイテイオートウカイテイオー……うっし覚えた」
「えぇ……今の今まで覚えてなかったの?」
「気にすんな。これからよろしくトウカイテイオー」
小さな仲間が一人増えたので、ホワイトボードにお題目を書き足す。
トウカイテイオー、加入記念。
「新たな仲間にぃ〜〜〜っっ乾杯!!!!」
描き終わった瞬間を見計らって、最初にゴールドシップ声が、次いでスピカ全員の声が響き渡る。
また騒ぐ口実が増えてしまった。この熱を覚ますには、やはり夜が耽るまで必要そうだ。
「先輩先輩っ、これとかどうっすか?」
「それ、採用。…………はい、あと特上を……トレーナー、クレカ番号」
「いや教えないぞ!?」
「ねえカイト」
「なにさ」
「カイトってマックイーンと知り合いなの?」
トウカイテイオーとカイト以外が、固まって話しているタイミング。
藪から青天の霹靂を投げつけられたような、そんなジャブ。
本人はそんなつもりも無いだろうが、唐突な予想外とはそれくらいの衝撃を発する。もしくは二人で話し込めるタイミングを狙っていたのか。
「……なんで?」
「スピカと一緒にいるようになってからさ、マックイーンがちょくちょくカイトのこと聞いてくるんだよねー」
なるほど。トウカイテイオーの質問の意図は分かった。しかし答えようが無い。正確には、トウカイテイオーの満足できるような答えを知らない、だ。
「知り合いよりかは親戚みたいな関係だ。だからだろ」
「え〜? 本当にそれだけなの?」
そらきた。
予測可能回避不可避というやつだ。マックイーンとは幼い頃から顔を合わせたりしたが、逆にいえばそれだけ。親戚なだけの他人、この響きが一番しっくりくる。
冷たく振る舞おうとしているわけではなく、シンプルに関わりが薄いのだ。あまり話したこともなければ、話しかけられた記憶もあまり無い。
「メジロ家のデカさはお前も知ってるだろ。喋ったことのない親戚だっていっぱい居るんだ。マックイーンと俺はその類いだよ」
「ふーん? そっか、ならマックイーンにもそう伝えとくね」
「……参考までに、なんて伝えるつもりで?」
「カイトにとってマックイーンは、面識も無いしその辺の他人と変わらない路傍の存在だって」
「アカン」
悪意です。なにかとてつもない悪意を感じました。しかもこれ、無邪気に言ってるからタチ悪いです。純粋悪です。善を切り取った魔神みたいな小娘です。『これで邪気ゼロ%ってマ?』ってなるくらい、コイツは無邪気な脚色をやらかそうとしていました。
積極的に関わりは持たないようにしていたが、こうなれば致し方ない。まさかこれが狙いではあるまいな。
「……伝言頼めるか?」
「オッケー!」
楽しそうではなく、愉しそうに笑うその笑顔は確かに美少女で。
そんな笑顔に、カイトはやっぱりサイコパス味を感じました。
『ねえねえ聞いて聞いて!!』
『はいはい、どうされました藪から棒に』
『こないだボクさ、スピカ入ったんだよね〜』
『そうですか、それは………………いま、なんと?』
『だから〜、今話題の〜、エイヴィヒカイトの所属する〜、チームスピカに入部したんだよね〜』
『――――……………………それは、良かったですわね』
『うん! とっっっっっても楽しそうなチームだったよ!』
『…………そうですか』
『それでカイトからさ、とある娘に伝言預かってるんだよね』
『……ッ! 彼は、なんと言ってっ……!』
『あれれ? ボク、マックイーン宛なんて一言も言って無いけど?』
『え……あっ………………別に、私は……』
『そうそう。マックイーンが勘違いする理由は分かんないけど、早とちりはやめときなよ?』
『……………………ええ、分かっています。彼は、私を……』
『マックイーン宛なんだけどね』
『テイオー!!!!!!!!』
テイオーはこーゆーことしそうだけどどうだろうか