未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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地雷作成楽しい

そんなことをこのご時世で言ってればBĄNされそう


そのろく

 桜花賞の前哨戦となるチューリップ賞。

 トライアル競走ともされるこの一走は、謂わば桜花賞への切符を勝ち取る予選とも。

 

「調子はどうだ?」

「……腹減った」

「飯ぐらいちゃんと食っとけよ」

「うるへー」

 

 思えばらしくない緊張で、昨夜は何も食べていなかった。それでいて朝食も軽くシリアルを一口分。こんなの冷静に考えれば正気ではない。力だって入るわけも無い。口を通らないではなく、食事を忘れていたなど、一体どれだけ緊張していたのだ。

 

「……先輩に甘えすぎたな」

「なんの話だ?」

「ナイショの話だ」

 

 デビューしてからひっきりなしにやってくる、あの親戚お嬢のせいで、夕飯を自分で作るのが億劫になっている。これはマズイ。自炊を心がけねば、独り立ちできているとは到底言えない。今日から早速実践に移すべし。

 そんな逃避を、一先ずは打ち切る。

 結局夢からは遠ざかる道を行くわけだが、それでも辿り着く到達点に貴賤はない。この一戦だって落とせば、その時点でおしまい。極々個人的な、憧れによる私情が働かなければ、このような緊張に振り回されることもないのに――――なんて堂々巡りが、ずっと続いている。

 

「……大丈夫か?」

「ぶっちゃけヤバイです。でも吐きそうです。だから腹減りました。ゆくゆくは死ぬかもです」

 

 国語力が壊滅なのは、つまりはそういうこと。

 四割冗談めかして、六割の本気が表情に出てくる。

 

「……飴食うか?」

「飴食べる。くれ」

「お、おう」

 

 差し出される棒付きキャンディーを奪い取り、噛み砕いて即座に胃へ流し込む。舐めるなんて悠長している暇があるなら、噛み砕いて溶かしやすくする。それぐらいの効率は考えられるようで、しかし何の気休めにもならない。

 プッと吐き出した棒は、綺麗にゴミ箱の中へ吸い込まれた。トレーナーへ突き出された右手は、ワンモアプリーズと無言で催促している。

 

「飴。食う。くれ」

「……あいよ」

 

 段々と喋れるレパートリーが、時代を逆行して乏しくなってくる。ブドウ糖の不足に極度の緊張とは、こんな症状を生み出すらしい。自分がこんなにもメンタル弱者だったことに、ほんのりと情けなさを覚えた。

 

「あー……マスカット味が沁みる……」

「頼むから転んでくれたりするなよ……っ!?」

「どうだろ……ワンチャン、『ターフに広がる血の海!?』みたいな見出しで朝刊載るかも」

「やめてくれ……マジでやめろよ」

「あー、クッソ、震えが止まらん」

 

 酸素が上手く全身へ行き届かず、末端の痺れが増す一方。

 四肢は凍えたように静止を拒み、けれど身体は尋常を超えて熱い。気を抜けば正常な呼吸を忘れかけて、意識しなければ息を止めっぱなしにしてしまう。

 

「……今日のレース相手は、正直お前の相手にならないだろうよ」

「本来ならって、付けんの忘れてるよ」

「理解してるなら良い。緊張すんな、つっても無駄だろうしな」

「特賞クラスの大当たりだ。伊達に俺の二倍生きてないな」

「俺はまだ二十代だ!」

 

 そんな、男同士の中身スカスカな会話を続けていれば、幾分か全身の自由を取り戻しつつある。足は多分走れる。手は握り拳くらいなら作れる。

 

「ありがとうトレーナー。もう大丈夫だよ」

「そうか? ……その割にはまだ」

「みんなのとこ戻って伝えてきてよ。「カイトはピンピンしてらぁ」って」

「……わーったよ。……ったく、無理すんなよ?」

「ああ、そこは間違いなく」

 

 そういってトレーナーは控室を後にして、ここはカイト一人の空間になる。

 大丈夫。エイヴィヒカイトは大丈夫だ。だって道を進むと決まったその日から、敗北の未来はあり得ない。ほんの僅かな敗北の可能性も、見咎め失う。

 絶対を歪めて曲げるのだ。だから大丈夫。多少の緊張も、飲み込んでいられる。

 嗚呼でも、自分は今――――母さんと同じタイトルを目指している。

 その意味を、自覚してしまった。

 

「あ、やば――」

 

 喉元までせり上がる液状の熱。瀬戸際で押し留めたが、次も止められるかは定かではない。念のため、トイレの近くへ移動した方がいいのだろうか。

 トレーナーの厚意で貰った飴も、ぶちまけてしまいそうだ。

 

「……パ、ドック……行かなきゃ……」

 

 レースの前にも行うべき事は多々ある。それがどうにも面倒で、今日ばかりは底無しに苦痛に感じる。

 早く終われと願いつつ、早く成したいと想う二律背反が、エイヴィヒカイトを磨耗させていく。

 大丈夫だと言った手前、多少は気丈に振る舞った方が良いだろうか。

 どうせ見破られると知りながら、カイトは姿勢を無理矢理正す。

 控室から直通のルートは、常に壁がある。もたれ掛かりながら歩くなら持ってこいだと、そんなことを考えていた。

 

 

 パドックで今のコンディションをお披露目してから、どこか記憶が曖昧だ。

 実況の人からやたらと言われた気もしたし、解説の人からも色々労われた気もする。

 スピカの面々はメチャクチャに心配してくれたし、見に来てくれてたアルダンも血相を変える勢いで、口があわあわ言っていた。生憎声は全然聞こえなかったけど。あのアルダンがあんなにもふためくなんて、どこかに屍人でも居たのだろうか。

 囁かれる悪意は、デフォルトで聞き流すからそもそもが無問題。

 

「――――、――」

「あい、あい、あい、あい、あい」

 

 ウマよりもサルな気分。

 今もこうして、ゼッケンをつけたウマ娘に話しかけられているけど、自分の発言も相手の発言も、何を言っているのか全く分からん。てか誰だっけ、コイツ。ゼッケンを付けているのだから、今日のレースで走る予定なのだろうけど。

 そもそもなんで今自分は、ターフの上を歩いているのだろう。ふらふらと何かに誘われるようにして、酷く頼りない足つきで、自分は一体何処は向かっていたのだっけ。

 

「――――!! ――! ――――!!!」

「…………」

 

 七名くらいの集団が、一斉に手を横へ振っている。それが矢印のようなものだと判断して、トコトコとそちらへ歩き出す。

 途中知らない人に誘導されて、狭い鉄の箱へ入れられた。

 ボケッっと立たされていれば窮屈に感じて、下に隙間を見つけたから潜ろうとした。潜ろうとしゃがみこんだ時、突然目の前が開く。進めって事なのだろうか。不思議に思いながら、ゆるりと歩き出した。

 

「…………んぇ?」

 

 ぼちぼちと歩き出して。自ら作り出した重圧から逃避するため、そのための茫然自失が、緊張をいつの間にか遠ざけて。霞んだ思考を、喧騒と歓声が拭って。

 ようやく今が、レースの始まった瞬間なのだと思い出した。

 

「…………ヤッベエェェェェエエ!!!!!!」

 

 レース状況を逐一把握している時間は無い。だから一歩目から、全霊尽くして振り絞る。

 ターフの芝を一歩分掘り抉って、全速は集団へ向けて追い縋った。

 千六百程度のマイル。カイトが息継ぎ無しでスパートをかませるのは、千五百前後の距離。それ以上を越えようとすれば、急制動が働く。多分此処からでは、僅かに足りない。

 だから届かせるために無茶をしよう。これは自分のミスだ。ケア出来たハズの、自分の失態だ。自分のケツは自分で拭こう。

 だから千六百の距離を、全力全開全霊で走り切ろう。

 

「――――フゥ、」

 

 視界の端が黒い染色を始めて、視界の中心は白く鮮明に輝く。

 この世界の色彩は、極端な二色だけになった。

 エイヴィヒカイトがスパートを掛ける際に、毎度のように見える景色。

 世界を染め上げる闇から逃げるように、眩い白が真ん中に座す。自分はそこ目掛けて走る。それだけだ。

 今日まで五戦、それを行うだけで勝ってきた。

 端からジワリと闇の侵食が始まり、闇と白の狭間がパチリパチリと弾け始める。これも今まで通り。大体これが始まってからは、残り時間が半分であることを示している。

 ――酸欠特有の、電撃のようなスパーク。

 ――意識消失を示唆する、ブラックアウトの深海。

 ――極限の集中を見せたときに輝く、ゾーンの白光。

 その三つの釣り合いが重なり、負荷の処理を放り投げた身体は、急速な順応を堪能し始めた。

 身体が苦痛として発するハズの危険信号は、アドレナリンがその仕事をさせない。一際全身が軽く、一挙手一投足の動きに快楽を充足させていく。

 それが端を発して、息継ぎ休息という選択肢は早々に潰えた。

 

「――――いない」

 

 もう、目の前には誰も居ない。整備された真新しい青芝を、先頭だけの権利でもって踏み荒らしていく。

 エイヴィヒカイト(永劫)の刹那には、ただ一人以外の存在を許さない。

 孤独な黒白の世界を過ぎ去って、彼は独り、規定された距離を駆け抜けていた。

 

「――――ハァッ、……ぁ、……か、ってる」

 

 気づけば一人、電光掲示板を見上げている。

 あんなにも緊張していたのは何だったのか。アッサリとした結末に、カイトは気を削がれた気がした。

 ――チューリップ賞一着、エイヴィヒカイト。

 

「まずは、一勝……だ、」

 

 桜花賞への出場が決まった瞬間。それだけを確認して、エイヴィヒカイトはターフへ倒れ込む。青く晴れた空を見上げるように、仰向けで静かに倒れ込む。

 気絶しているのだと判明するまで、五分ほど放置されていた。カイト本人がそれを、今後も知る由は無い。

 

 

 今回ばかりは体調不良と、しっかりかっちりと連絡済みである。こんな一報で説教を回避できるのなら、初めからしとけばよかった。歌って踊るのはやっぱりごめんだし、今後もこの手は頻繁に使おう。

 今日はカイトの祝勝会である。病院へ行くべきだとみんなは言ってくれたが、カイトの勝利を疑わずに、既に部室で用意済みである事はスペシャルウィークからコッソリと聞き及んでいる。口を漏らした、が正確な表現だがそれはそれ。

 折角の準備を腐らせる方が身体に悪い。よって救急車には、臨時タクシーとして学園まで運んでもらった次第である。

 

「いやーしっかしマジ焦ったわー、ハハハー」

「ぶははは!! あんな出遅れ見たことねーっつーの!!」

「なんでだろう、お前には笑われたくねぇなぁ……!?」

 

 骨付きチキンを片手に、ゲラゲラ笑う葦毛に荒ぶるカイト。コイツにも同じことが起こる呪いをかけてやろうかしら。

 肝が冷えたとはトレーナーの言でもあり、エイヴィヒカイトの言でもある。緊張がピークに達したからエイヴィヒカイトの挑戦はこれまで、なんて諸行無常が過ぎるのだ。

 

「でも今回の失敗は逆に良かったかも」

「え……次もするんですか!?」

「じゃなくてね。大きなヘタこいたからさ、緊張も相当にほぐれたよ」

 

 勇者を見るような目をするウオッカを手で制しつつ、心境を説明する。

 危うくカイトの冒険の書が消えるとこだったが、喉元過ぎればってやつだろうか。乗り越えてしまえば、案外こんなものかといった感想が出てくる。

 過度過剰過多な緊張は裏返り、心地良い決意へと変換された。

 

「醜態晒して申し訳ないです。でももうあんな姿は見せないんで」

「えー? ボクもう一回くらいあの死にかけた顔見たいかも!」

 

 なにか、ヨウカイケイオーが意味不明かつ余計なことを口走っている。その発言はシリアルキラーなサイコパス判定なのだが。

 答えは当然NOだ。

 

「は? 嫌だけど? もう二度と見せないけど?」

「……恥ずかしかったのね」

「ちょっと何言ってるのかワカンナイです」

 

 サイレンススズカの呟きが全てを語っているが、カイトは敢えて気にしない。空きっ腹を埋めるように、トレーナーの給料を原材料にした品々へ飛びついていく。

 

「む、このローストビーフは……」

「おっ、良いのに目をつけたな。ソイツはいい味するぞー?」

「ぶっちゃけそんな美味しくない」

「俺の半月分をテメェコノヤロウ!!!!」

「食べてみなよスペシャルウィーク」

「あ! これすっごく美味しいです!!」

 

 無邪気に味わうスペシャルウィークに、さめざめと泣き始めるトレーナー。

 ごく最近に最高峰の代物を口にしたので、多少の辛口評価は許して欲しい。だって野郎の奢りとガールの手作りなら、断然後者の方が美味しいから。これにはトレーナーも同意してくれるハズだ。言わないけど。

 

「さて、カイト先輩は一段落したし、次はスペ先輩ね」

「弥生賞かー……意気込みはどうですか先輩!?」

「むぐっ、!? ……!! !」

「食い終わってからで良いと思うよ」

 

 食べながら喋るのは行儀が悪いから、身振り手振りで伝えようとする後輩思いなスペシャルウィーク。でも全く伝わらないので、やっぱり喋ってください。

 水を差し出して、喉を詰まらせないよう落ち着いてもらう。

 

「……ぷはぁ……お水ありがとうございます」

「んで? 俺も聞きたいね、スペシャルウィークの心境」

「……えっと、そうですね」

 

 弥生賞にはスペシャルウィークの他、ゴッドヘイローさんと、セイウンスパイさんが出走する。彼女らもそれなり以上の実力の持ち主らしく、激戦は必至らしい。

 初めての重賞、それも皐月賞への切符を掛けた一戦。期間は短くとも、今までカイトの見てきたスペシャルウィークならば、緊張の一つや二つしてそうなものだが。

 

「……んーっと……」

「一言で表すなら?」

 

 助け舟になるかどうかの助言をひとつまみ。

 

「…………! 挑戦者根性です!!」

「おおう、昔のスポ根らしくなってきたなぁ……トレーナーの年代が移ってない?」

「だから! 俺はまだ二十代だっての!!」

 

 ともあれ気合は十分らしい。カイトのようにも気負い過ぎていない。

 これなら明日の弥生賞は、心配要らずかもしれない。

 

「挑戦者根性で頑張ります!!」

「その意気だぜスペぇ!! よっしゃー! 明日に向けて今日は食うぞぉー!!」

「はいっ!!」

 

 そうして大食らいの本領を発揮し始めるスペシャルウィーク。

 ちょっと負けてられない。そもそもが本日の主役はカイトなのだ、今この瞬間に食い意地張らずして、一体いつ張るのだ。

 であるなら卓上の品数では足りない。その結論に至れば、迷わず携帯へ手が伸びる。

 

「もしもしー? はいそうです、モッツァレラを……」

「……カイトくん?」

「あの、先輩……もしかして出前っすか?」

 

 推眼である。その洞察力、きっとレースに役立つだろう。

 

「…………はい。所属は中央トレセン学園で、名前のとこは――トレーナーって……」

「……なんで俺の名前が出てくる?」

「さあ? これが俺にもさっぱり不思議でね」

「お前が電話したのに……!?」

 

 門限までは時間もまだある。宴はこれからだと思い知る時だ。

 追加の料理が運び込まれた祝勝会or前勝会。散々に騒ぎ尽くしたそれは、たづなさんに怒られるまで続いたのだった。

 

 

 かくして翌日。

 祝、弥生賞一着。

 

「えー本日もお日柄良く以下略スペシャルウィークおめでとう乾杯ー!!」

「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」

 

 僭越ながら乾杯の音頭をとりました、エイヴィヒカイトでございまする。

 とはいえ、場の雰囲気は昨日の延長である。昨日のように、みんな口々に勝者を称えている。

 

「ウイニングライブ可愛かったわ」

「ふぁいっ!? うれひいでひゅっ!!」

「ああ、だいぶマシになったな」

「走った後に歌って踊るなんて流石だなぁ」

「それが当然なんだがお前はなぁ……」

「三十路うるさい」

 

 今はスペシャルウィークを褒めちぎる時間であり、エイヴィヒカイトを説教する時間ではない。趣旨を理解していないトレーナーには、心根へ突き刺さる右ストレートをぶちかます。

 

「テイオーさんのおかげです! またダンス教えてください!」

「いいよー!」

「本当ですかぁ!?」

「うん。だってボク、スピカに入る事にしたから」

 

 らしいです。

 なんだろう。サラリとしたお酒のような、そんな透明感ある流れでなんか言ってた気がする。

 スピカに入る。スピカ、に、入る。

 

「「「「えーーーっ!!??」」」」

「ブフッ「あっぶねぇ!?」ーーー!?!!? っえーーーー!??」

「お前も驚くのかよ!!」

「…………ギリギリセーフ」

 

 体を盾にして帽子だけは死守できたからセーフ。ぶっちゃけ本体よりも、帽子が本体なまである。

 トレーナーの口からぶち撒かれたジュースが、運悪く隣の人物を塗りたくった。なんて不幸だ。なんて哀れだ。そんな不幸を背負う者は、きっとこれまでの行いが返ってきたに違いない。まあカイトなんですけどね。

 生理的に忌避される濡れ鼠となっても、話題はやはりソウカイレイホウだ。

 

「……リギルじゃないのか?」

 

 顔をタオルでに拭いながら、疑問点を問いかける。

 彼女の憧れた人物を鑑みるに、リギルへ入るのが自然だと思っていた。事実スペシャルウィークは、似たような経緯でスピカへ加入している。

 生徒会長のような存在を目指すのなら、その背中を間近で見られるリギルが一番だ。彼女の才能は本物らしく、それならばリギルへ入るのも難しくは無いだろう。

 

「うん。ボク、会長に追いつきたいんだ」

 

 だからこそ、違う道を辿って背中を並べんとしている。

 天空のように澄んだ瞳は、あの大きな背中を見ているのだろう。目は離すことなく、だからこそ自分の好きなように、辿り着かんとしているのだと。

 

「みんな、よろしく!」

 

 ともあれ、才能溢れるチームメイトの加入だ。エイヴィヒカイトは当然の如く諸手を振る。他の者たちも意を唱えない。カラオケの頃からほとんどチームメイトのようなものだ。反対意見などある訳も無く。

 

「トウカイテイオートウカイテイオートウカイテイオー……うっし覚えた」

「えぇ……今の今まで覚えてなかったの?」

「気にすんな。これからよろしくトウカイテイオー」

 

 小さな仲間が一人増えたので、ホワイトボードにお題目を書き足す。

 トウカイテイオー、加入記念。

 

「新たな仲間にぃ〜〜〜っっ乾杯!!!!」

 

 描き終わった瞬間を見計らって、最初にゴールドシップ声が、次いでスピカ全員の声が響き渡る。

 また騒ぐ口実が増えてしまった。この熱を覚ますには、やはり夜が耽るまで必要そうだ。

 

「先輩先輩っ、これとかどうっすか?」

「それ、採用。…………はい、あと特上を……トレーナー、クレカ番号」

「いや教えないぞ!?」

 

 

「ねえカイト」

「なにさ」

「カイトってマックイーンと知り合いなの?」

 

 トウカイテイオーとカイト以外が、固まって話しているタイミング。

 藪から青天の霹靂を投げつけられたような、そんなジャブ。

 本人はそんなつもりも無いだろうが、唐突な予想外とはそれくらいの衝撃を発する。もしくは二人で話し込めるタイミングを狙っていたのか。

 

「……なんで?」

「スピカと一緒にいるようになってからさ、マックイーンがちょくちょくカイトのこと聞いてくるんだよねー」

 

 なるほど。トウカイテイオーの質問の意図は分かった。しかし答えようが無い。正確には、トウカイテイオーの満足できるような答えを知らない、だ。

 

「知り合いよりかは親戚みたいな関係だ。だからだろ」

「え〜? 本当にそれだけなの?」

 

 そらきた。

 予測可能回避不可避というやつだ。マックイーンとは幼い頃から顔を合わせたりしたが、逆にいえばそれだけ。親戚なだけの他人、この響きが一番しっくりくる。

 冷たく振る舞おうとしているわけではなく、シンプルに関わりが薄いのだ。あまり話したこともなければ、話しかけられた記憶もあまり無い。

 

「メジロ家のデカさはお前も知ってるだろ。喋ったことのない親戚だっていっぱい居るんだ。マックイーンと俺はその類いだよ」

「ふーん? そっか、ならマックイーンにもそう伝えとくね」

「……参考までに、なんて伝えるつもりで?」

「カイトにとってマックイーンは、面識も無いしその辺の他人と変わらない路傍の存在だって」

「アカン」

 

 悪意です。なにかとてつもない悪意を感じました。しかもこれ、無邪気に言ってるからタチ悪いです。純粋悪です。善を切り取った魔神みたいな小娘です。『これで邪気ゼロ%ってマ?』ってなるくらい、コイツは無邪気な脚色をやらかそうとしていました。

 積極的に関わりは持たないようにしていたが、こうなれば致し方ない。まさかこれが狙いではあるまいな。

 

「……伝言頼めるか?」

「オッケー!」

 

 楽しそうではなく、愉しそうに笑うその笑顔は確かに美少女で。

 そんな笑顔に、カイトはやっぱりサイコパス味を感じました。

 

 

『ねえねえ聞いて聞いて!!』

『はいはい、どうされました藪から棒に』

『こないだボクさ、スピカ入ったんだよね〜』

『そうですか、それは………………いま、なんと?』

『だから〜、今話題の〜、エイヴィヒカイトの所属する〜、チームスピカに入部したんだよね〜』

『――――……………………それは、良かったですわね』

『うん! とっっっっっても楽しそうなチームだったよ!』

『…………そうですか』

『それでカイトからさ、とある娘に伝言預かってるんだよね』

『……ッ! 彼は、なんと言ってっ……!』

『あれれ? ボク、マックイーン宛なんて一言も言って無いけど?』

『え……あっ………………別に、私は……』

『そうそう。マックイーンが勘違いする理由は分かんないけど、早とちりはやめときなよ?』

『……………………ええ、分かっています。彼は、私を……』

『マックイーン宛なんだけどね』

『テイオー!!!!!!!!』




テイオーはこーゆーことしそうだけどどうだろうか
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