「どう足掻いても足りない」
「理由は分かるか?」
「……実践形式じゃないと掴めない感覚だったりして」
「自己分析も良く出来ているようで」
その結論が出たのなら、次に思案するのはその相手だ。
相手が満足するまで走り切るつもりもない。ただの試金石として扱わせてもらう。得るものを得たならポイだ、何だそりゃ、失礼にも程があるだろう。でも目的の為なので致し方無しである。
問題とするべきは、そんな相手はかなり限定されてしまうということ。
一方的に終わらせても罪悪感を覚えない相手は誰だ。
「身内しかいねえ。身内しかいねぇけど……誰だ」
スペ達は当然だがNG。スピカは態度で露見する可能性が高いのでNG。ゴルシは案外口が硬そうだが、逆に言いふらしたとしても不思議ではない感じがある。生徒会の面々は黙っていてくれるだろうが。
「トレーニングの範疇で済むか?」
「……本番の前に潰されそう」
との事で、確かに納得出来る理由ではある。熱が入れば犬歯を剥き出しにし始める連中の集いだ、生半可な覚悟で声を掛けないほうがいいだろう。
では、メジロ家などはどうか。
「あれっ、選択肢少なくね……?」
アルダンが付き合ってくれるかどうかが怪しく、決して良い顔はされない。ベルちゃんは案外アリかもしれないが、夜間に呼び出して密会する相手としては外聞が良くない。この理由は他の面子にも当てはまり、アルダンに怒られてしまう事必須だろうことは想像に難くない。それくらいは学んでいるのである。
尚且つ夜間に付き合わせるという事は、寮から抜け出して来いという事だ。決して褒められた話ではないだろう。或いは抜け出しても素知らぬ顔を出来る存在。
ウンウンと唸る思考の中で、パッと思い浮かんだのは、頼れる僕らの大先輩。
「……スーパーカーしかいねぇ」
「えっ」
「あの優しさに溢れた先輩ならば、きっと……!」
交友関係の中でも、かなり仲良くさせてもらっている自覚もある。
きっと彼女ならほど良い塩梅のトレーニング相手になってくれるだろうし、一方的にコチラの都合で終了させても許してくれるに違いない。
熱が上がりすぎて潰されるなど、そんな事もあるまいて。
「マルさんならちょっとくらいの消化不良感があっても許してくれるよな」
「……そうであることを祈れ」
アオハル杯でバチボコにした数時間後ではあるが関係ない。ボクらの絆はそんなものでは罅割れないことをカイトは信じている。この信頼は揺らがない。何度かご飯を馳走になったバカは、彼女への尊敬の念が果てしないのである。
思い立った勢いのまま、バカはワクテカしながらメッセージを送ったのであった。
『どうも、エイヴィヒカイトって言います』
掴み所がないような、距離が近いようで、その実遠くて。意図して掴ませないようにしていたのだろう。今ではトラブルメーカーで考えなしの愛嬌がある人物という、そんな印象へ完全に変わったが、かつては率先して愛想が良いとは言い切れなかったのは確かだ。
或いは憑き物が落ちて、人柄自体に変化が生じたのか。
『人参欲しがり娘だ』
『ふぇ? えっ、と……?』
『いや、気にしないでください』
一日目からの遅刻。
新たな世界へ踏み入れる一歩目からして、豪胆と言うか、マイペースなひとだというのは何となく分かっていた。
『まずは最強になることです』
『夢を実現させるために、最強程度の称号くらいは欲しいので』
曖昧で現実味のない願いの癖に、あまりにも当たり前のように言ってのける。
自信とも違った断言。それ以外の道などあり得ないと言うかのような。
それ以外の道が閉ざされているような、宣言。
『しかしだ、学園にやってきて即デビュー戦とはね。お互いに忙しいな』
望みは正直に曝け出し、されど根底の澱みは誰にも悟らさず。
近しい友を作ることなく、自棄の仮面を強く被り。
『俺だ。『俺』が『絶対』だ』
『いいのいいの。どうせ――俺が勝つから』
時を重ねるほど、日を過ごすほど、急ぐように仮面は不敵を叫び。
相応の実力を育み、栄光の道を駆け上がり。
それに、一つの感動も覚える事もできず。
『勝って進むか、負けて終わるか。そんでもって、俺はずっと前に勝つ方を選択した』
その選択をした過去を裏切る事が出来ず、見据えた果てが暗闇に満ちた落とし穴だとしても――――一寸先の闇を求めて彷徨の歩みを続ける。
道を踏み外せば、その瞬間に消え去る覚悟を胸に灯して。
『そのレースを最期にして、俺が――――』
穏やかな顔で、喪失の願望を語らい。
暖かな想いで、大切な人との思い出を心に抱え続ける。
『走れば走るだけ、キツくて辛い』
ここへ至るまでの全てに、何一つの喜びも得られなかったと。
走っても、競っても、成果を上げようと、何も感慨を得られず、虚無感が積み重なり、ただ、苦しみを積み上げ続けるだけ。
『勝って、貴方に伝えたい』
『俺が勝つから、伝わらないよ』
決して彼は、止めて欲しかった訳じゃない。
絶望の心を、その色を、香りを、世界へと感染させたかった。
そうして己の存在を余すところなく使い、世界を変えたがっていた。それか世界が変わらずとも構わなかった。八つ当たりのように傷を刻めれば、それでよかったのだ。
『ああ――――今日はこんなにも、いい天気だ』
生を手放す実感に、己が生きている実感を得る。
そんな顔を止めてやると決心した。実現させようだなんて甚だしい考えも、必ず私がやめさせる。追いかけている夢が間違いだと伝えたくて、暗雲へ突き進むような道は間違いだと教えたくて。
それ以上に、勝ちたかった。
『本気だったんだね』
『そうっ、だ』
『加減もしてなかったんだよね』
『そうだ』
その機会を、ずっと待っていたのだけれど。
その機会は、もう永遠に失われてしまったから。
『残念だけど、しかたないよね』
だから、もう自分は。
『しかた、ないから』
その昂揚は、二度と得る事はない。グラスちゃんでも、エルちゃんでも、セイちゃんでも、キングちゃんでもない。ただ一人から捥ぎ取る勝利が欲しかった。
代替品など存在しない。代わりになる存在は無い。慰めとなる勝利などあり得ない。
けれど、その勝利は、既に幻そのものだから。
私は、その渇望を満たせるなんて期待を、二度としない。
軽やかに跳ねる脚には期待しかない。ウキウキの足運びであった。
これから始まる夏合宿、これ自体には新鮮さなどは存在しない。恒例にもなっている催しだ、開催地はメジロ家所有の無人島という事もあって、非常に有意義な機会となること間違いなしだ。だがそれではない。
自分が喜びはしゃぐ理由は、参加するメンバーである。
スぺ達の五人、スピカの面々、キタサトコンビ、そして今回はそこに追加されて――アルダンも参戦ときた。
「……ふっふっふっ」
会えるのだ。久しく会えたのは年末だ。会いたかった人と、その手で触れたかった人と、触れ合えるのはこう、幸せに満ちている。
どうしようかと考える。どんな服を着ようか、どんな話をしようか、髪型も変えていこうか。色々と悩める楽しさがあるのだ。どちらかが我慢の限界になって押しかけてくるのとも、定期的に会える機会が有るのとも、少し違った趣だ、これは。
こうも焦がれることが出来るのは、しばらく距離を離したからこそだろうか。だとすれば案外、理事代理のマニフェストも悪くないのでは――――?
「……まあ、ないか」
それはそれとして、校門を一歩出て、元気よく背を伸ばした。
はてさて、今日はこれからどうしようか。無人島への出発は来週だ、その為の準備に時間を割くのも悪くは無い。
何を準備しようかと考えて、いくつかの候補やらは浮かぶ。雑に括ったポニーテールを何かしらの形に整えようか。流行りには疎いが、頑張ってお洒落な一張羅を買ってみるか。いやむしろ、オモシロイロモノ旅行グッズでも漁りに行くのも楽しそうだ。楽しい予定があると未来が明るいのである。
「アイツらはもう帰ってるし……いや、スぺがいた」
スピカの部室へ引き返して、スぺを誘って共に買い物へ繰り出そうか。
晴れ渡る天のように、清々しい心だった。
その背に、声が掛かる。
「あれっ、エイヴィヒカイトじゃねぇの?」
「あ? ……は?」
夏の時期らしく、嫌な汗を掻かせる重苦しい声だった。
聞き覚えの一切無い声。そうだ、そんな声に覚えなどない。逐一覚えようとは思わない。興味など少し足りとて持つ意欲も持てない、下らない声。
「久しぶりだな、覚えてる?」
「…………」
振り向いても、その顔に興味は浮かばなかった。もちろん、身に覚えなども、微塵もなかった。というか絶句してしまう。
だって、どうしろと言うのか。
首から上に付いている顔が、
そんな風貌を覚えているかと問われて、どうしろってのだ。
「どちら、さま……でしたっけ」
「はー!? 覚えてないのかよ! ■■■だよ■■■!」
ますます知らない人だった。そも人なのか、これは。
金を切る音、ガラスの砕ける音、歪んだ鐘の音、黒板が引き攣る音、不快を生み出す全てをミックスしたような悍ましい音に遮られて、その部分だけが何も聞こえなくなる。
刺々しい熱が、腹から勢い良く喉元まで昇ってきたのを感じた。
「よく、聞こえねぇ」
「だから■■■だってば! 中学までずっと同じクラスだったさぁ!」
「……あ、ああ、そうか、■■■か、懐かしい、な」
■■■ってなんだ、誰の事だ、名前を言ってるのか、姓字を語っているのか。
耳にはその音が聞こえないのに、どうしてか自分も発音できている齟齬の軋みが気持ち悪い。今、自分は何と言ったのか。誰の名を呼んだのか。分からない、分からないのがこう、言いようの無い歯切れの悪さを植え付けて。
顔が認識できない。声も捉えられない。だというのに意思疎通が辛うじて繋がる違和感への嫌悪。もしや、自分はとうとう、頭がおかしくなってしまったのか。
首に手を当てれば、肌の上を指がよく滑る。夏らしい外気温に当てられたのだ、そうに違いない。
「何だよ、幽霊にでも会ったみたいな顔してよー」
「全然、思い出せないから……悪い」
「いいよそんな水臭い事言うなって、俺たち友達だろ?」
「…………」
顔も見えない。名も聞こえない。それで友達か。
きっと彼にはそれが友達の定義なのだろう。カイトとは決して相容れないふざけた価値観には違いない。
何より、それ以前の前提として。
例えば仮に、目の前の黒モザイクが本当に友達を自称してきても、コイツがエイヴィヒカイトの友だなんて話はあり得ない。
「じゃあ、俺はこれで」
「おいおい待ってくれよ! 今帰りだろ? この後用事とかあるのか?」
「……無い、けど」
「ならちょっと頼みがあるんだけどさ!」
咄嗟に失敗を悟り、嘘でも忙しいと言っておけばよかったと後悔した。
「テレビとか見ててお前の姿をよく見るけど、調子良さそうでよかった」
「それが、どうした」
「いやー、すごいよなー! うちの中学を飛び出したと思ったらメキメキと重賞を獲ってってさ!」
「……そうか」
頼みと言っておきながら、話の中身がやや見えづらい。前置きが長ったらしいだけなのか、そもそも会話自体が苦手な性格なのか。
おだてようという魂胆が垣間見える。これは、あまり気持ちの良い話ではないのかもしれない。
肺が、引き攣る。
「ホントに、あのネクラのコミュ障がよくもまあこんなになったもんだよ!」
「……」
「
「……はぁ、そうか」
春に訪れた学園の門、それ以前の記憶が脳裏に過ぎる。
楽しそうに語るが、生憎と自分とコイツには感性の乖離があるのだろう。少なくともエイヴィヒカイトにとって、その日々は何一つも笑える要素が見つけられない。価値観の変わった今でさえ、何もかも、黒モザイクだらけの記憶ばかりだ。
単語一つが過去を思い出させて、嫌悪感の全てが一気に冷め切った。もうカイトには、感情を隠す仮面は無い。だからこの氷点下の表情も、隠す気もなく表に出ているのだろう。
能天気な様子で、カイトの変化に気づく様子もない。
呼吸が小刻みに停止する。
「頼み事ってのはさ、お前って色んなウマ娘と仲良いんだろ?」
「まあ……友達は、増えたかな」
「そんな自慢の友人に頼みたいっ! 俺に誰かしら紹介してくれ!!」
さて――今日はこれからどうしようか。
腹は減ってないが、甘い物を食べたい気分はある。母さんへの土産に東京の有名菓子でも持って行こうか。自分はそういった情報に詳しくは無いが、幸いな事にその手の流行りに敏感な知り合いは多いのだ、よし頼ろう。なんなら奢りで釣って同伴してもらおう。イマドキスイーツってのは、いつの世も男一人では食しに行きづらいのである。
気軽に声を掛けられる相手は誰かと思い、そうだ、テイオーでも掻っ攫おう。どうせ暇しているだろうし、暇していなかったとしても暇ってことにして連れ出してやるのだ。
現実逃避の思考力は、中学の時よりも格段にレベルが上がっていそうだった。
「おい、聞いてるかー? やっぱりその耳って使い物にならないのか?」
「…………あ?」
黒ハットに触れようとする手を、反射で強く払う。
相変わらず、触れては欲しくない部分へ無作法に触れてくる輩であるのに変わりないらしい。名前も知らないけれど。
これに触れていいのは、触れて欲しい人だけだ。
奥歯が擦れていく。
「俺の傷に触るな」
「うわっ、怒った! 相変わらず冗談通じねぇヤツだな」
「……そうか、冗談か」
「そうそう、冗談だよ! 昔みたいなジョーク!」
自分だけが笑えるジョークに意味などない、それを知らずにここまでを過ごして暮らしていたらしい。
もう無理矢理に切り上げよう。誰かしら知り合いにこの場を見られるのも気分が良くない。何より、暖かな微笑みが生まれやすいこの学園に、この場の空気は相応しくないような気がした。
吐く息が浅い。
「帰る」
「お、おい、待てよ!」
腕を強く掴まれて、それだけが頭にくる。
「なんだよ」
「だから、紹介を頼みたいんだって!」
「……紹介って、何の」
「そりゃあ、こう、上手くいく感じに?」
要領を得ないなんてものじゃない。話にならない、取り合っても仕方ない。
会話に益を感じられない。
「なっ? 頼むよ! 俺ら親友だろ?」
自称友達が自称親友にランクアップだ、ふざけんな。
中学時代の自称友達など、所詮は自称でしかない。エイヴィヒカイトの友は誰もが素晴らしいひとたちだ。彼女達と同列かのように語られるだけで反吐は止まらない。
胸のムカつきが、膨らんでいく。
「無理だよ」
「えー? いいじゃん! お前ばっかり良い目を見るのは狡いぞ!」
「良い目って……そんなんじゃねぇ」
限界は、かなり近い。
それでも耐えられているのは、昔の癖だ。過去がこうして姿を現したからこそ、過去の対処法を用いている。
堪え続ける事が、幼い頃に縋るしかなかった防衛本能だった。
何を言われようと、何をされようと、耐え続ければ飽きる。次の日になればまた始まるが、半日耐えればその後は解放される。それと同じだ。怒りも同じく耐えるものだから。
冬のような冷たさが、全身を覆う。
「なぁ、頼むよー! 俺とお前の仲じゃんかー!」
「……」
何をどう言えば大人しく諦めてくれるのかを考えていれば、イケると勘違いしたのか、言葉を更に積み重ねる。
「少しくらい分けてくれたっていいだろー」
あ――――無理だ、これ。
「っ!!」
「うわぁ!?」
襟元へ力任せに掴み掛かる。
驚き、たたらを踏む足を浮かせる力で、壁に叩きつけた。
「テメェ……!!」
「なっ、なんだよ!?」
その顔はやはり黒塗りのモザイクで、何一つ伺えない。
だが声色は、確かな怯えを含んでいた。
「っ……ゃねぇ」
「は、はぁっ!?」
「俺の友達を物みたいに――――言ってんじゃねぇ!!!!」
振り上げた腕を、振り下ろし切る、その前に。
「カイトくん!!」
「――――」
その腕を止めるため、張り上げられる声があった。
「何してるの!?」
「――……スぺ」
「ス、スペシャルウィーク……!?」
助かったとでも言いたげな声で、親友の名を呼ぶどこぞのダレカ。
スぺのお陰で感情値は臨界から遠ざかってくれた。彼女の目の前で青痣を作らせる訳にもいかない事ぐらいはカイトにも分かる。静かに、振り上げた腕をゆっくりと降ろした。
「げほっ、げほっ……いきなりっ、こんな、何すんだよ!」
首を抑えて、抗議の声がカイトへとぶちまけられた。
男の大声を近くで聞いて、スぺの身体が少しだけ怯えを見せる。それすら、だ。
「テメェの存在性格言葉行動、逐一全部が癪に障る」
「カイトくん!」
これ以上ヒートアップしないように、スぺが肩を揺らして止めようとしてくれた。そんな姿にどう邪推したのか、自称友達が肩をいからせて詰め寄ろうとしてくる。
スぺを隠すように前に出れば、唾を飛ばしながら喚き出した。
「あんなに
「――――……」
黒いモザイクが、わめきたてる。
遊び、確かに、遊んでいたのだ。目の前のヤツも、他の奴も、遊んでいた。エイヴィヒカイトというウマで、楽しそうに遊んでいた。
ああ、やはり、そんなものは友達ではない。
「テメェみたいな自称友達なんざ知るか」
「このっ……!」
「――――何の騒ぎですか、エイヴィヒカイト」
冷静に徹する声が、ぴしゃりと浴びせられる。
注目を集めるように強い語気を宿した声は、静かでも効力を放つ。威厳ともとれる威圧感は、ある種のプレッシャー慣れた者でなければ言葉も詰まるだろう。
「理事代理……さん」
「っ! えっと、俺ら昔の友達で! 話が盛り上がっちゃったんすよ! な?」
「察しの通り、揉めてる」
「お、おい!」
カイトとて騒ぎにしたくない、或いは役職の高い彼女に目を付けられることは避けるとでも考えたのか。残念ながらカイトはそういう生き物ではない。頭に血が上れば、権威などどうでも良くなる質の生き物だ。
だから焦ろうと、知ったことではない。
「それで、貴方は?」
「ぁ、え、あの、エイヴィヒカイトとは小学校から一緒の友達で……」
「! ……それって……」
スぺが、怯えるように肩を震わせて、カイトを見てくる。
だがそんな目で見られても、彼と自分との関係性なんてたった一言で切って捨てられるのだ。
「そんな奴は知らない」
これに尽きる。
「とのことですが」
理事代理に問われて、返す言葉はすぐに口元へと浮かび上がる。
何かが足りていなくて、脳が頭痛を発信している。
「何度でも言う、テメェなんざ知らねぇ」
「っ! いい加減にしろよお前!!」
「……やるってんなら」
「カイトくん!!」
スぺの制止は聞こえづらくなっていた。
今度はカイトへ掴みかかろうと詰め寄ってくる男から逃げることなく、むしろ近づいていく。荒事へ発展するまで、そう時間はかからない。その展開をカイトは拒みはしない上に、むしろ率先して。
とはいえ、理事長の代理なんて役職に就く者が、学園の目の前でそんな事が起こるのを看過しない。
「やめなさいエイヴィヒカイト」
物理的に割って入った理事代理の背中が、二人を無理矢理に分ける。自分へ向けられた声は冷たく、冷静で、沈着で、厳か。
その中に隠された暖かさが、気遣いだと気が付けたからカイトは止まった。
「貴方も、我が学園の生徒と問題を起こされるのは困ります」
「はあ!? いきなり掴みかかってきたのはそっちですよ!?」
「テメぇゔぁっ」
「いいから黙ってて……!」
言い返そうとした矢先、口をスぺの手で物理的に塞がれた。力強く抑えつけられすぎて、脊髄がこう、グイっとグネっと押し込まれて痛かったです。
「大きな問題へと発展する前に、一度頭を冷やされてはいかがでしょうか」
「っ……わかりました……」
持ち合わせの迫力もあり、淡々とした説得は見事に黒モザイクを黙らせきり、悔し気な背を見せつけながら歩いて行った。
理事代理の手腕か威圧感のゴリ押しか、何にせよ理事代理に助けられたのだろうか。
助けられたのは事実だ、事実だろうか、事実だから、礼を言わなくてはならない。
「行ったね……カイトくん、大丈夫?」
「……っ……はっ」
礼、だ。お礼を、言わなければダメだ。
「……っ、っは……っ……」
「どうしてこうなったのか、教えてくれるなら助かりますが」
せめて一言くらい、伝えてから。
いけ好かないのは確かだけど、考え方は決して同意できるものではないけど。
世話になったのなら、恩を受けた相手なら、
「ッ――ッ――……ぅっ、ぅ――――ぁ、あ……」
だっていうのに。
悴み、冷たく、視界が暗くなっていって、胸が痛くて、寒くて。
まるで冬みたい。
「カイトくん……?」
「エイヴィヒカイト……?」
喉に蓋がある。塞ごうという意志はどこにも無いのに、生きようと喘いで苦しんでいるのに、何故か、どうしてか。
呼吸が、規則悪く小刻みに止まっている。
「大丈夫!? ……胸? 胸が苦しいの!?」
「……っ……、、……はっ、ぁっ、づっ……!」
微かに開いた道に縋っても、その道はすぐに閉ざされて、呼吸という生理行動がとんだ贅沢へと格を下げられる。肺を動かす筋肉はこれでもかと動いているのに、どこかで流れが堰き止められたみたいで。
息がまともに、吸いこめなくなってしまって。
「……彼を保健室に」
「はいっ……カイトくん、歩ける?」
「っ、っく、っ、はっ、っ……」
乱暴に頭を振った。
全身の血相が色を変える感触が気持ち悪い。自分の手の色とスぺの肌が、残酷なくらいに掛け離れた色彩をしている。
顔色は、平常を保てている道理が見つからない。
「私に掴まってくれていいから、休もう……!」
「がっ……ひゅっ、ぁ、っ……」
寒い、汗がべたつく、血の気が引いていっそ痛い、指先が悴む。
夏なのに、寒い。暖かい気候など知ったことの無いように、エイヴィヒカイトの身体は芯から冷たくて、寒くて、まるで、昔みたいに寒くて、肌に刺さる生温い空気が寒く感じて。
堪えていた苦痛は懐かしく、過去から思い出した数々は未だに感じられる
身体中が痛くて寒くて、暗くて冷たい、あの日々みたいに。
「過呼吸ですね……一度この場で落ち着けましょう」
「カイトくん……! 深呼吸、できる……!?」
スぺの声が何も聞こえない。頼れる友達の存在が何も感じられなくなっていく。
「落ち着いて、ゆっくり息を整えて!」
何も聞こえない何も聞きたくない何も聞いてはならない。外からの声なんて遠い方がいい。これは過去に生きた自分に染み付いた、自分が生きる為に必須だった術だ。聞き入れない方が楽に生きられる。聞かなければ安寧でいられる。外で聞こえる声はどれもこれも冷たくて、恐いから。真っすぐに受け止めてはダメだ。マトモに受け取る意味なんかない。傷つけるために用意された言の葉など、聞き入れてはならない。
何も、何も、聞こえない。
何も、聞きたくない。
声など届かない。
「カイトくん! っカイトくん!!」
「父さ……母……ん……」
仮面がどこにもない。心を圧し潰せて、表情を縫い留めることができて、自分を守ってくれるあのペルソナがどこにも無い。
それに途方もない不安を覚えながら、酸素の不足した脳は、意識を希薄へ誘っていく。
暗転に満ちる世界の中で、間際に自分が、誰かを呼んだ気がした。
彼の過去の、その澱みに、初めて触れた気がした。
決して彼は触れさせたくなかったモノだ、こんな形で触れてよかったモノとも思えない。
「……昔を思い出したのかな」
涙の痕が赤く目元で腫れて、感情を吐き出した証が誰にも見えやすく主張している。
「泣いているの、久しぶりに見た」
保健室のベッドの上で、規則正しい寝息を立てるカイトくん。出来る限りの慈しみを込めた手つきで、目元を優しく撫でれば、その表情から強張りが少しだけ緩んだ気がした。
じゃれ合いの一環で泣いてるような、笑い泣きのような表情なら私もよく見たことがある。本気の涙も、現役最後の舞台で母親に再会した時に見た。
でもこれは違った。苦痛を分かりやすい形へと変換して、心の平穏を守るための防衛本能だ。
「小学校からの同級生、か……」
エイヴィヒカイトという存在の遍歴の中で、一番暗がりに閉ざされていた時期が、その時期だと聞く。孤独の道を選び、進み始める前から始まっていた迫害の波。それは彼にとって一番大きな味方を失ってからより大きくなり、彼を襲ったとか。
庇護を受けず、ただ耐える選択をした彼をより執拗に責め立て、幼い少年を無慈悲に、無邪気に、無作為に、透明な悪意で殴りつける。時には咎める立場の人間も、更なる悪辣な色を加えて。
それは、十四の齢を越えるまで続いたという。
「……辛い記憶ばっかりだったんだよね」
それを、想像もできない。
想像できるような環境に身を置かなかった自分は、恵まれているのだろうか。
「もう今のカイトくんには、耐えられない記憶になったんだろうな……」
でも、だからこそ、傷跡を掘り返される痛みが今までよりも苦痛に感じてしまったのではないか。
「ぁ……だ…………」
「……先輩は呼んだから、きっともうすぐ来るよ」
眠りへ落ちる間際、彼女の名を呼んだ。眠りの中でさえ、朧げに彼女の名を呼んでいる。
心の底からの安寧を預けられる人物であることである事は、普段の振る舞いからも想像に難くない。己の存在を預けるような、全幅の信頼を置いて。身内とそれ以外の境界線が際立つ彼が、無条件で救いを乞える、唯一無二の存在。
エイヴィヒカイトの両親と並んで、彼が何よりも、誰よりも大切にする、彼の味方。
逆に言えば、縋らなければ耐え切れないから、求めた。
息をしたがる意識に反するくらい、反射的に身体は呼吸を止めようと躍起になっていた。それくらいに追い詰められていたという事なのではないだろうか。
「どこもかしこも……傷だらけ」
ボタンを外して緩めたシャツから覗く、心臓よりやや上に位置する痕。
他の肌とは違う色をした、切開の証左。
険しく表情を深めて、夢の中でも悪意の残滓からは逃げ切れず魘されている。いつまでも染み付いてきて、今日、時限式の爆雷として破裂した。
「ずっと安らかでいたいよね」
そう居れたなら、友として何よりも嬉しく思う。
友達が笑顔なら嬉しい。幸せでいられるのなら、それに越した事は無い。不幸に堕ちて欲しいなんて思う訳が無い。絶望とは掛け離れて生きていて欲しい。
「先輩と、お母さんと、家族と……ずっと優しい世界で暮らしていたいよね……」
だけど、一つだけ思う――――――――想って、しまう。
こんな時に何をと自分で自分を叱責する。バカな考えは捨て去ってしまえと、私は私へ向けて
「――――――もう、走りたくないよね――――――」
エイヴィヒカイトの強さは、絶望を源泉としていた。深海よりも暗く、痛いくらい寒い、そんな絶望へと立ち向かうために身に着けた心の頑強さ。それが彼の限界を容易く超えさせるように作用させて、それを何度も繰り返し、限界を擦り減らすことを受け入れながら、着実に高みを駆け上がっていった。
そんな彼の果ては、実の所、誰一人も知らない。
最期と決めた瞬間を走り抜く前に、舞台から降りた。その瞬間に絶望を耐えるために必要だった仮面は、エイヴィヒカイトを強者たらしめていた拠り所は、彼にはもういらなくなった。
だからもう二度と、彼は走る事は無い。
走ったところで、あの時のような無類の強さはもうどこにも存在しない。
痛みを燃料に走り、走りは痛みを生み、その痛みが更なる燃料となる。
走る力が永遠に廻り続ける――――そんな永劫の強者は、もう存在してはならない。
「…………それは、怪我をしやすいカイトくんにとって、すっごくいいこと! ……だもん、ねっ」
カイトくんは何も言わない。私もそれ以上は何も言わない。
思考を断つように息を吐き出せば、全力疾走の脚の音が遠くから届き始めた。急かされた心が伝わってくるような、激しさに満ちた音だった。
普段見かける淑やかさからは掛け離れて、らしくない走りだ。
「カイトっ!!!!」
扉を乱暴に開いて、汗だらけのアルダン先輩が保健室へなだれ込んでくる。
良くない思考はそこで閉じた。カイトくんの顔を見るなり飛び込むように抱き着いて、カイトくんは眠りながらもビックリしていた。そんな些細な一幕があるだけで、先程よりも彼の顔色は暖かくなっているような気もした。
だから私はもう、それを考えもしないだろう。
私はもう、それを期待しない。
私はもう二度と。
この燻りを消す唯一を求めはしない。
『は……?』
闇色が、突然降ってきた。
『髪のいろとおそろい! すごいにあってるぜ!』
『えー? やっぱりピンクのほうがよかったってば~』
階段を歩いていれば、突如として黒い滝が頭上から降り注ぐ。
服を、肌を、
鼻をつく墨汁の匂い。髪から垂れる液が目に入って痛い。口に入る墨の味はとても不味かった。
怒りすら湧けず、ただただ唖然として、涙がこぼれそうになってしまう。
――とっても可愛らしいプレゼントをありがとう、カイト!――
『こんどは絵の具でやろう! にじいろにしたらぜったいきれいだぜ!?』
『おもしろそう! にじいろってどうやって作るの?』
校舎の一部を黒々と染めておきながら、これからを楽しそうに話して、次の算段を立て始めて去っていく。
それよりも少年は、黒い水溜まりに立ち尽くして、どうすればいいかもわからなくて。
救いだったのは、洗えば落ちるタイプだったこと。水で溶けてすぐに洗い流せるのは不幸中の幸いで、少しづつ本来の色を取り戻す毎に、母親との思い出も取り戻せているような気がしていた。結局元通りになったのは、数カ月後だったが。
そんなのが、そんな、それっぽっちが、エイヴィヒカイトの救いだった。
また、ある時は。
『返せよ……っ!!』
『またばけものがエサをもってきてるぞー!』
『! やめッ――』
悪し様に言われるのはもうどうでも良くなってきた頃か。
いつも通りなら捨てられてしまうから、今日は肌身離さず鞄に入れて持ち歩いていた。捨てられても『またか』と思うだけになれてきたけど、今日のは特別なものだったから、奪われないよう気を付けていたのに。
『ばけものなんだから、食べなくてもだいじょうぶなんだろっ!!』
『ぁ――――――――』
――ちょっと作り過ぎちゃった……た、食べられますか?――
アルダンが作ってくれたのに。
慣れた手つきを装って、少しだけ火傷した指を隠しながら作ってくれた。家族のように振舞ってくれて、中身は明日のお楽しみと、淑やかな笑顔で渡してくれたその手は暖かくて。
それが、窓からぶちまけられていくのを眺めることしかできない自分が、憎くなる。
自分はやはりその温もりを得る権利が無いのかと、久しく絶望に触れた気がした。
後日にアルダンと会い、味の感想にまで嘘を吐いて、それでも胸が痛まなくなった自分が分からなくなっていく。
また、あくる日には。
『……どうせ、断っても持っていくんだろ』
『分かってるじゃん。まあまあ、そんな怖い顔しなくても借りるだけ、借りるだけだから』
『おっ? 何だ、財布変えたんだな……この財布、テレビで見たことあるな』
中学生に上がり、好奇心よりも色気への関心が勝り始める頃。
悪意を与えるよりも、剥奪の方が己の利益になると知って、小賢しさと狡猾さをも身に着け始めていた。
『ちょうどいいや、これも借りるぞ』
『何……言ってんだ』
『それって海外のブランドじゃね?』
『そうそう、俺欲しかったんだよねー』
『待て、無理だ、それは貰い物で……ッッ』
親戚から貰った贈り物は、取ってつけたような搾取の対象でしかない。
使い始めて一月だが、手入れを欠かさずまだ新品同様に輝くそれを、目敏く見逃さない。
大切なモノを汚していく。大切なモノを奪っていく。大切なモノを、何の容赦もなく、何が楽しいのか笑いながら。
『あ、何その目? ウマ娘でもない成り損ないが、人間様に逆らおうっての?』
『おー、いいね! ほらほら、殴りたいときは殴ってみろって! 勇気、出してみようぜ?』
『化け物の力で殴られれば、とんでもない怪我するだろうけど……そうなったらお前の将来は丸潰れになっちまうよな!』
曰く、バケモノが生まれた日の祝福など、足蹴とするのに相応しいらしい。
悪意が、存在の全てを否定していく。
生まれるべきではなかったと、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も指を刺して。
『大体借りるって言ってんだろうが、耳悪いの? あ! そっか! そのきったねぇ耳じゃ何も聞こえないんだっけ?』
『そのだせぇ帽子のせいだろ。女物を好き好んでかぶる辺り、やっぱ感性もオカシイよな』
オマケに、弄ぶ愉悦も未だに持ち続けている。
彼等はあの時嘘は言っていなかった。中身はともかく、財布は確かに返却されたのだ。
――生まれてきてくれてありがとうって伝えたくて……これはその証なんですよ――
機能は刃物で裂かれて美を失い、触れ心地の良い皮はライターで焦がされ、高貴な黒色はスプレーで汚らしくカラフルに変えられて、泥の付いた靴で踏み付けたような、跡も。
様々な有難迷惑のオプションを添えられて、優しい贈り物がゴミへと一変させられた。それをして、彼等はケラケラと笑いながら言うのだ、『ほら、ちゃんと返した』と。無惨なソレを持ち続ける苦しみも、贈り主に悟られぬように処分へ踏み切る痛みも知らず、或いは知っていたからこそ、そんな非情を簡単に行えた。
色々とあった。
憎しみは、意外と薄い。悲しみは、存外少ない。悔しさは、かなり多かった。
後悔は、たった一つが深く残った。
何故自分は、何もかもを振り払ってでも全員へ報復しなかったのか。大切なモノを踏み躙られる毎日を守ろうとせず、何故自分は目的への邁進を目指したのか。
今の自分が過去へと何かを想うのなら、どうして自分は、嬲られるのを良しとしたのか――――
「――とか……まあ、そんな感じ」
「……」
保健室で目覚めた後、アルダンに連れ添われて家へ帰っていた。こうして泊りに来るのもかなり久しい気もする。
回想をこつこつと語っていれば、空気は一気にお通夜状態。いつぞやかこんな日もあったような、そう、あれはスぺとグラスに寒色の夢を語ったような空気感だ。
かれこれ、こうしてアルダンへ過去を事細かに語るのは初めてだろうか。あくまで伝えていたのは、中学まで辛かったという事実だ。。詳細は意図してぼかし、フワフワとした風に伝えていたが。
ベッドの上で二人並びに座り、肩へ感じる重みを甘受しながら心を吐露していく。
「以前は強く在れてた……けど今は……かなり、弱くなった、俺」
「……っ」
何も言わずに、緩く、けれどしっかりとした力で、カイトの身体を抱き寄せてくれた。
その温度が、カイトから冬の記憶を薄れさせる。
「こわい」
全部が怖かった。
口に出来ないくらい、何もかもがごちゃ混ぜになって、頭の中が混沌になって。
全部を発散するために、自分が何もかも壊そうとしかねないのも分かって、それすら。
「アル、ダン」
「大丈夫……私はここにいるから、安心して……」
名を呼べば、彼女はその安らぎを少しづつ分け与えてくれる。
手放す事など考えたくもない。穢される可能性なんて許容出来たもんじゃない。ましてや壊されるなど。
掛け替えのない代わりの利かない、大切なモノ。
「生まれてこなければいいって、そればかり考えてた……」
とても、暖かかった。
一番欲しかった優しさは手の届く距離にあって、離れないでいてくれる。
何度も救われた、ガラス色の宝石。
「そんな自分なんか……思い出したくないのに……!!」
「カイト」
だってほら。
「生まれてくれて、ありがとう」
こうやって、何度も、一番欲しかった
彼女の隣でなら、自分はいつまでも笑っていられる。
弱くなった自分のままでも、きっと、大丈夫だから。
・バカ
シンプルにトラウマ。過去の記憶を漁っても、オカシナなことにどいつもこいつも顔部分だけが黒モザイクに包まれていた。身内以外は大体そんな感じ。
帽子の件は茫然自失だった。弁当の件は脚が出る五秒前だった。財布の件は手が出る二秒前だった。似たり寄ったりが日ごとにどんどん降りかかる。例の夢が無かったら普通にプッチンして、おまわりさんのお世話になっていたであろう大賞受賞。
・お嬢
頑張って慰める。しかし慰めきれるかは、はてさて。
「味は、その……どうでした……?」
「ぁ……ぅ、ぁ、の……」
「…………」
「……ぅま、かった……よ……っ」
という会話がいつぞやにあったりなかったり。お嬢は飛び上がりかねないほどに喜び過ぎて、死にそうな顔で嘘を吐いた少年には気が付かなかった。
・ドイツの従姉
「お財布……変えたんですね」
「っ……あー……うん」
「……気に入りません、でしたか?」
「違っ! ……その、えっと……っ」
「……」
「……」
そんな一幕もありました。言うに言えず地獄の空気になって、頑張って失くしたと伝えて事なきを得た。(得てない)事情を察した従姉は、人目に付く物を贈るのは避け始めた。
・スぺ
小学校の知り合いと聞いた瞬間察した。カイトのキレ方からして逆鱗を踏んでいるとは分かり切っていたので、とにかく手だけは出させないように頑張った。
燻るのは、ちゃんと燃えたからだ。