夢に出た地雷
つまりそゆこと
会見とか、そう言った場ならまだ良かった。
でも街角は論外だ。無法地帯を作り出せるこいつ等は本当に嫌いだ。
「うわっ出たよ……」
朝から嫌なモノを見てしまった。アレと黒Gのどちらを愛せと言われれば、迷いなく黒Gへキスをする。躊躇などない。アレだけはマジで嫌だ。
寮から流れてくる生徒達を眺めながら、とある待ちビトが来るまで待機しているその集団。
校門前のガードレールに、我が物顔でもたれ掛かるその人達。
一人はデカめのカメラを担いで、一人はマイクを手元で弄って。そんな感じのコンビが数セット。その他周りでガチャガチャ音を立てるヤツラ。
見たところ一局だけではなく、複数同時に来たらしい。ますます迷惑過ぎる。
エイヴィヒカイトが、この世で二番目に大嫌いな存在。というか行動。
インタビュアーほど、エイヴィヒカイトが遠ざけたくなる事柄はそう無い。
「! おい来たぞ!!」
「やっぱ俺かー……」
いたく憂鬱だ。何がそんなに憂鬱か。
だってコイツらは凄いのだ。これまでこの手の人種に、嫌と言うほど押し掛けられたが、なんと言っても不快にならなかった事が、一度として存在しない。必ずカイトの苛立ちを刺激して、その癖勝手に満足して帰りやがるのだ。
しかもコイツらの強いところは、周囲への迷惑も全てカイトにおっ被せるところ。情報詐称はお手の物が仕事なだけあって、印象操作がとにかく巧妙だ。そのせいで幼小中と、イジメや嫌がらせが鳴り止まなかった。コイツらの手口を理解できる年齢になった頃は、一周回って尊敬すらしたものだ。
「ほんと、したたかだよな……」
「エイヴィヒカイトさんですよね!? お時間よろしいでしょうか!」
よろしくねーよ、と。喉まで出かけた意思を飲み込む。
イエスでもノーでも、対応すればその時点で思う壺。大事なのは無視する事。それが一番コイツらにとってのダメージ。記事にし辛いような対応をすればよろしい。
ただ面倒なところとして、粘着質かつ手腕がウザったい。
どうせカイトがこのまま校内へ入ったとしても、ここで出待ちされて同じ事。挙げ句の果てには家までついて来られるかもしれない。そうなれば一人暮らしのエイヴィヒカイトは終わりです。
しかし日本の朝の時間に、お時間よろしいでしょうか、はもはやギャグのつもりではあるまいな。日本人の朝は基本忙しいって知らないのだろうか。
「…………」
「トリプルティアラを狙っているとの噂がありましたが、真偽のほどははどうなんですか!!」
「男である貴方がティアラを奪おうと言うことらしいですが、その辺りどのようにお考えですか!!?」
「ご自分の異常性を理解して――」
耳に入ったのはそこまで。他は帽子の中で、耳を丸めてブロッキング。
受け応えするかは別として、少しだけ考えを纏める。
立ち止まったカイトを見て、イケると勘違いしたのか、矢継ぎ早に質問を投げかける数人の記者達。しかし無視である。まだ学園のすぐそばである以上は、無許可で写真を撮られることは無い。
奴等の辞書にはプライベートと侵害なんて文字列は存在しない。法律のギリギリには敏感だから、学園敷地や寮敷地侵入なんて勇気ある行動は取らない。でも学園の目が届かない外なら、コイツらのレッツ・パーティータイムである。
ストーキング盗撮盗難不法侵入なんでもござれ。コイツら検挙すれば、当分出てこれないんじゃないかと思うくらい。そんな悪辣な連中と言うのが、カイトのマスコミへの認識だ。
そんな連中に住居を掴まれでもすれば、もうカイトは実家に帰るしか無くなる。寝床が無くなるのは困る。
「…………」
とりあえずはすぐそこで目を光らせてくれていた、たづなさんと相談しよう。
「おはようございますたづなさん」
「……おはようございます」
「まあとりあえず、ね」
指のジェスチャーも無く、目線だけで敷地内へ入っていく。指で示唆することさえも、奴等にとってはゴシップへのマジカルチェンジが容易なのだ。ピースサインの人差し指を消されて、中指立てた写真が新聞に出たときには、もはや笑いしか出てこなかったものだ。
とにかく行動仕草ですら見せることは危ういのだ。マジで面倒すぎる。
カメラマン共と塀を一枚隔てた場所で、コソコソ相談する。
「すみませんカイトさん……何度も言ったんですけど帰ってくれなくて……」
「いやいやそんなそんな、たづなさんのせいじゃ無いですよ」
たづなさんが謝る必要は、これっぽっちも無いのに。
悪いのは百割でマスゴミだ。たづなさんに要らぬ罪悪感を植え付けるあたり、奴等の人間性は本気で終わっている。
「適当に応えりゃ多分すぐに退くと思うんで、アイツら引き連れてこの場離れます」
「でも、それだとカイトさんが」
「あーゆーやつの対応は慣れてるんで」
最適解を提示したつもりだ。
やよいちゃんや生徒会長などへのインタビューと、エイヴィヒカイトへのインタビューは、あまりにも質が違い過ぎる。
アイツらも痺れを切らせば、関係無い生徒にだって声をかけ始めるだろう。基本善良の多い学園の生徒達を、不用意に怖がらせるのはよろしくない。たづなさんが睨みを効かせている間は大人しいかもしれない。けれどたづなさんが、学園側が四六時中目を光らせるのは難しいだろう。
「ほどほどの満足感だけ渡しときゃいいんですよ。アイツらバカなんで、適当言ってりゃ勝手に満足するんですから」
「…………ですけど!」
「んじゃ行ってきますねー。授業サボるんでその辺お願いします」
荷物を無理矢理受け取らせて、二の句を告げさせる前に、勝手にインタビューの前へ姿を表す。
カイトよりも聡い人だ、どうすればいいかなんて、カイト以上に理解しているだろうに。
本当に今のエイヴィヒカイトは、周りの人たちに恵まれている。
「とりあえず、皆さん場所移動しません?」
その提案にごねる阿保がいなくて本当に良かった。
実力行使に出る可能性を潰してくれて、カイトは珍しく感謝した。
『すぐに退くと思うんで』
本心からそう思っていたのだ。決してその場凌ぎの発言でなく、経験則でそう述べたのだ。
「あ〜〜〜〜…………疲れた」
公園のベンチに座り込んで、くたびれた声を吐き出す。そうすれば疲労も吐き出せかもしれないと思ったが、科学的根拠皆無の気の所為は、カイトの期待を裏切る。未だカイトの精神はクタクタなままだ。
昔と違って今はコネがあり、それなりに抵抗できるのがなまじ面倒を引き起こしたのだ。
昔は写真数枚を無断で撮って、適当な発言を繋げばフェイクニュースの出来上がりだった。代理を立てて訴えるなんてことも出来ない、ただの子供だったのも、暴走を助長させた。でも今は違う。カイトの親戚筋であるメジロのネームバリューがデカ過ぎた。
「メジロ怒らせたらヤバいんだな……気をつけよ」
メジロ家親戚のフェイクなど流そうものなら、メジロに喧嘩を売るのと意味が似てくる。エイヴィヒカイトが面倒がって、メジロと親戚である事を隠していなかったおかげである。母方の記録を調べれば、すぐに分かる程度の親戚。
そのおかげで奴等にしては珍しく、分かりやすい決定的証拠を撮ろうとそれはもう必死でして。そんな姿を見て内心面白がったカイトが、遠回しにおちょくりまくって。それでいて決して弱味となる言動はしなくて。
そんなことしてれば長丁場は当然だった。
「うん。調子乗り過ぎた」
結局日が暮れるまで、奴等は離してくれなかった。
会見に出ると約束しなければ、夜までコースが入ったと思う。それぐらいしつこい。
「たづなさん怒ってませんように……どうか……!」
背を伸ばして、肩甲骨をほぐし、肩を思いっきり持ち上げる。
ストンと落とした勢いのまま、ベンチから勢い良く飛び上がった。
荷物を取りに戻って、そのままでもスピカへ合流しよう。その旨をトレーナーに知らせれば、了承の返信がすぐに帰ってくる。
「桜花賞近いってのに……勘弁してくれ……」
空腹を無視しながら、急ぎ足で学園へ向かう。
こういったロスを作り出すから、カイトはマスコミが嫌いだ。
エイヴィヒカイトのもっとも適正とする距離は、千六百から千八百までのマイルだ。
カイトの備える一番の武器はなにか。
短距離スプリンターのような、瞬間最大速度ではない。言ってしまえばエイヴィヒカイトの出す速度は、日々のトレーニングとタガを外した火事場が合わされば誰だって発揮出来る。言い換えるならそれは、他の誰にもに劣ることのない持ち味とは、少し違う。
エイヴィヒカイト最大の武器。それは最高速到達への早さと、最高速を維持したスパート距離の長さである。約千五百強の距離を、常に全霊注ぎ込めるその精神タフネスは、マイル距離でこそ無類の力を発揮する。
「だからこそお前はスタミナを鍛えろ。大外回りの遠回り分を含めた、ゴールへ残り千五百メートルの瞬間まで、決して揺らぐ事のない、絶対的な体力を作るんだ」
「んむ。大体分かった」
その方針は、性根が面倒臭がりなカイトとも噛み合っていた。
基本的な常道は学んだが、そもそもが頭を回して走るのは性に合っていない。何も考えずに、ただ全員ブチ抜く事だけを考える方が、よっぽどやり易い。
そんな圧倒的な姿は、周りの動揺も誘える。期せずして心理戦をも強要する絶対的な走り。それがエイヴィヒカイトの完成させるカタチ。
「そう言った意味ではお前とスズカは似ているな」
「先輩と俺が?」
「似てるのかしら?」
二人ともに顔を見合わせる。
最初から先頭を目指すか、後ろから追い抜いていくか。過程は違えど両名のスタイルは、持ち前の速度を維持し続けるスタミナあってこそだ。走っている最中に細かい事を考えなくなるのも、似ている点である。
「相似点をもう一個増やすなら、走り方のフォームもだな」
「ああ、それ前まで意識してやってたよ」
「そうだったの?」
「はい、先輩真似ればパパッと早くなれそうだったんで、三戦目くらいで試しに」
腕の形、肘の曲げ方、膝の曲げ方、足首のスナップ、上体の位置、腿の上げ方。取り入れられる要素は可能な限り、全て取り入れてみたそのレース。結果は想像以上だった。
彼女のフォームはより効率的なラストスパートを可能として、ギリギリ千五百が限界だったのが、千五百強までのスパートが可能となった。
「今じゃすっかり馴染みました」
「だからあん時ぎこちなかったのか……って何勝手に綱渡りなことしてんだ!」
「や、一応レース前に慣らし運転はしてたし、身体の違和感も無かったし、いけっかなーって」
「そういうのは少しづつ矯正していくものだ、今度からは俺に一声かけろ」
「うっす」
結果的にサイレンススズカのフォームは、エイヴィヒカイトとの適正が高かったから結果オーライ。強くもなれたし、カイト的にはそれでよし。
「でも、それにしては踏み込みとかはスズカさんっぽくなかったですよね?」
「あんな激しく走ったことあったかしら……」
「流石に全部を取り入れるのは無理あったから、要所要所は他の先輩方のを勝手に参考にした」
サイレンススズカからは、上下の動きが少ない、なだらかなフォームをメインに取り入れさせてもらった。
他は例えばあのトクリキャップの、怪物の足跡、は流石に完全に取り入れるのは無理です。しかし参考程度にならできる。彼女程でなくとも、カイトとて柔軟な筋肉を作り上げている途中だ。地を這うような踏み込みも、実戦で十二分に振るえるくらいに使いこなせている。
「先達から勝手に学ぶのは後輩の特権だからな、これからもどんどん色んなヒト達から盗みまくるよ」
「カイトは盗むのが好きなんだね」
「ハングリー精神と言い換えろ」
トウカイテイオーは、カイトを犯罪者に仕立て上げたいらしい。こないだのマックイーンの件と言い、カイトは揶揄いの標的にされているようだ。
それはそれとして、ゆくゆくは低空スレスレを走る、なんて地点を目指したい。絵面的にカッコいいかは別として、男の子としてはそういったシチュには憧れるものだ。
「さあ、休憩は終わりだ。もう一本行くぞ!!」
トレーナーの声を合図に、立ち上がる各々。
ほどよく身中へ染みる疲労感が心地良く、そんな身体へ更に鞭を打つ。
一つ目の冠まで、残り――――
勝負服が届かないらしい。
「ふーん」
「お前の話だからな」
トレーナーが言うには。エイヴィヒカイトの勝負服のデザイナーが、どういうわけか土壇場になって職人魂を発揮したらしく、製作が予定より大幅に遅れているらしい。
そこまで力を入れてくれるのは名誉なのだろうが、カイトからすれば同じ反応しか出てこないわけで。
「ふーん……よかったじゃん?」
「カイト先輩、なんだか他人事みたいですよ」
などとダイワスカーレットから言われても、だからどうしたのだろう。言い換えるなら現実味が無いのだ。
元より勝負服など、最初から最後まで体操服で通す気満々だったのだ。それを今更晴れ着を用意したと聞かされても、曖昧な相槌しかカイトには出せない。
「スペシャルウィークのは大丈夫なの?」
「そっちはもう出来上がっているから、来週には届く筈だ」
「だとさ、安心だね」
「え? あ、はい」
「だからお前の話なんだがな?」
個人的に思うのだが、運動するなら動き易い服装が一番だと思うのだ。着慣れて違和感の起こらない、そんな服装が理想的だと思うのだ。
それをまあ、いざ本番になって無駄にヒラヒラさせた服へ着替えて、しかもデザインが気に入らないとなってしまえば、それはもうモチベーションのストップ安だ。
本当にその勝負服には、納入の予定を遅らせてまでの価値があるのか。
「つまり先輩はなんて言いたいんです?」
「それなりのデザインじゃないとキレそう」
「あ、なんだかんだで貰うんだ……」
ウオッカクンの指摘にはスルー。今はそんなことどうでも良いのだ。
「俺さ、下がシュッとして上がたなびかないと嫌なんだけど」
「大雑把なクセに妙な拘り持ってるんだねー」
「途中経過とか見れないのか」
トウカイテイオークンもスルー。
写真の一枚でも見れないものか。そうでなくとも、デザイナーの連絡先とか知っておきたい。
「聞いてどうするつもり?」
「意見反映してもらいます。家に行って。」
「……カイトくん、そんなに嬉しいの?」
「……いやまあ、それなりには」
「ふふっ……可愛いわ」
天然先頭民族の、生温かい目線が居心地を悪くする。
自分の努力が評価されるのは、まあまあ、それなりに、少しくらいは嬉しい。カイトだって承認欲求の一つや二つはある。それに、勝負服とはそれだけでないだろう。
その者が評価されて作られるソレは、周りへ示す己の結晶でもある。周りがその者を認めなければ、作られることは無いだろうその一着。
自らの力を示せている確かな実感だ、心だって浮き足立つ。だってそれは、最大の夢へ近づけている証拠であるのだから。
「……それでトレーナー? 届くのはいつだよ」
「それなんだが……六月まで食い込むらしい」
「オークスも体操服確定、ね……トレーナーは悪くないから、な?」
こうなったらやけっぱちもいいかもしれない。全レース体操服で出てやろうかしら。袖もギザギザに切り取った自作勝負服で、うまぴょい伝説でも踊り明かそうか。
とはいえ、それでトレーナーが申し訳なさそうにするのも、話は別だ。一番悪いのは締め切りを守らなかった職人なのだから、彼には気にしないでほしい。
こっちはこっちで、日々を楽しもうとしているだけなのだから。
「……カ、カイトさん……?」
不穏を感じたスペシャルウィーク。勘が鋭い。その直勘は、きっと彼女の人生を豊かにすることだろう。
「ウオッカ、ゴールドシップ、手を貸してくれ」
「? 何するんですか?」
「俺の体操服には、ちびっとばかりの色彩が足りないと思わないか?」
「おっ? いいね〜、ノッた!!」
カッコいい好きな後輩と、未知数なセンスを持った謎娘に声を掛ける。選出に不安など存在しない。同じチームメイトだ、頼りにしなくてどうする。
まず用意するべきは絵の具かしら。
「どこで買うのがコスパ良いかな」
「レースごとにグラデーション増やしてこうぜ。勝った日のラッキカラーで徐々にカラフルにしてくんだよ」
「はいそれ採用。……今までの戦歴日は、と」
「ギザギザに傷つけるのとかカッコよく無いっすか!?」
「やっぱウオッカとは気が合うわ。こないだ破れたジャージは……家にあったハズ」
急速に組み上がる計画内容に、トレーナーの顔が青褪めていく。
歳を経てこういったバカをやると、昔は出てこなかった案が出るからメチャクチャに楽しい。
「ねえ、アレ大丈夫なの?」
「いやー、ダメでしょ」
ダイワスカーレットとトウカイテイオーの声なんて聞こえない。今この瞬間の三名は、この場における平均精神年齢を大きく下げている。やっぱ童心に帰るのは、すごくたのしいことでした、まる。
多分たづなさんとか副会長とかに怒られるのだろうが、それを承知で楽しんでこそだ。一度きりの生だ、存分に謳歌しようではないか。
「六月まで体操服の原型は残っているのかしら……」
「……トレーナーさん、なるべく急いで貰った方が」
「ああ、そうだな……クッ……!!」
胃に違和感を感じ始めたトレーナーは、突然薬局へ向かいたくなったそうだ。
突発的な流行病だろうか。花粉も横行しているこの季節だ、合併症には是が非でも気をつけてほしい。
「そんな感じなんで、お披露目は当分先なんですと」
「残念ではありますが、楽しみは後にとっておけますね」
「過剰な期待されてもな。ガッカリするぞ」
「しません」
「……そっすか」
やたらと強く断言をするものだ。その勢いに押されつつあるのを誤魔化すように、キャベツの千切りをもしゃもしゃと咀嚼する。
「どんな勝負服なのかしら……」
「知らね」
「色とかも聞いてらっしゃらないの?」
「全然。誠意製作中としか聞かされてない」
一応トレーナーから好きな色などを聞かれたりもしたが、どこまで反映されているかを把握出来ていない。せめて好デザインであることを祈ろう。
本人以上に目を輝かせるアルダンだったが、突然スンっと輝きが失せた。
身も蓋も前フリもない不意打ちに、カイトは口を塞ぐ動作を忘れている。
「――そういえばこないだ、マックイーンとお話したんです」
「……っ……へぇー、そうなんだー」
メジロ家の者同士だ、日常的に会話くらいするだろう。二人の仲も悪い訳じゃなく、むしろ良好だったハズだ。それを食卓で話すのも、これまたおかしなところなど何処にもない。ええ、ホントですとも。
では何故アルダンの顔色が無色透明なのか、この謎だけがどうしても分からない。なんだったら分かろうとする事を、不思議と放棄したくある。
「とても……ええとっても嬉しそうに、それはもう尻尾を揺らして近況をお話ししてくれました」
「…………へ、へへ、へぇぇぇ、、ぇ…………」
マックイーンの尻尾は揺れてたらしいが、カイトの声は揺れてない。もしブレて聞こえるようなら中耳炎の疑いあります。すぐに耳鼻科へ行きましょう。大丈夫、カイトも中耳炎のようなのでこの後向かいます。
落ち着こう。だってただの言付け一つでそんなに機嫌が上がるなど、そんなことあってたまるか。いやあったとしても、それはそれで良い事なのだが。別にカイトは何一つ悪いことはして無いのですが。なので寒気を感じる必要性が、行方不明になっておりますが。
「ここ数年疎遠だった殿方から、アプローチをかけて貰った、と――」
「…………へ、へぇー、そうなんだー」
「――甘い表情で、それはそれは嬉しそうに語ってくれました」
「…………へ、へぇー、そうなんだー」
殆ど定型文と化したが、辛うじてな相槌可能なラインまでは回復してきた。
こーの殿方とやらは、カイトではない可能性出てきました。だってアプローチとかしてない。ハッピー&スイーツな雰囲気出すような伝言頼んでない。てかマックイーンとはそんな関係性ではない。なのでエイヴィヒカイトはこの件とは無関係。以上。閉廷。
と終われるなら、アルダンお嬢の世話焼きはとうの昔に突っぱねている訳でして。
「云く――『いつでもどんな時でも、お前を想い、焦がれ続けている』……と」
「…………へ、へぇー、そうなん……だぁ……?」
おかしなことが、おこっているようです。まるで告白みたいな感じですねおかしいなぁー。
カイトがトウカイテイオーに頼んだ伝言は、『俺はそれなりに元気でやってる。マックイーンも健康で』みたいな感じでした。上京した子が実家の両親へ送る手紙みたいな、そんなハートフルな内容を頼んだつもりでした。伝言ゲームみたく内容が捻じ曲がる余地も、あまり無いハズです。
だから改めて確信する。これはカイトの話題では無い。この話題には、カイトの介在する余地は何処にもない。そう確信した。
これは勝った。謎な勝利の余韻が、目頭を熱くする。
後はアルダンへ殿方違いだと伝えて、ようやくハッピーエンドだ。この窮屈を極めた空気を、一刻も早く解放するなのです。
「なぁアルダン、それ俺じゃな――」
「トウカイテイオーさんがマックイーンへ伝えた、カイトからの伝言だそうです」
「……俺、じゃん」
「――――自白、ですか」
カイトわかっちゃった。これ、トウカイテイオーがやらかしたやつだ。
二度三度と念押ししたにも関わらず、ヤツはやりやがった。
「あ、――んのサイコパス予備軍がぁ……!!」
「いつからそんなにも、ふたりのなかは、ちかくなったのでしょう」
「まあまてこれは誤解だ俺は悪くねえ全てはトウカイテイオーというクソガキのせいですほんとうにごめんなさいたすけて」
「二人ともに長い付き合いでしたが、ちっとも気付けませんでした」
話を聞いているようで聞いていない。顔は無表情のままで『うふふ』なんて言っている。即ちコレ、絶対絶滅絶命の危機なりて。
赦しを乞うのは何故だろう。ホント冷静になればなるほど、カイトの落ち度が何処彼処にも所在不明。なのにどうしてカイトが詰められているのだ。
「俺のせいじゃねぇ……っ! 俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ!! ……いやホント俺悪くないでしょ!?」
この場の非は、明らかにカイトにはない。でもそんな真実無辜な叫びは、今の激おこぷんぷん丸なアルダンには届かない。
乙女って怖い。遠目でこれまでの人生を振り返りながら、執行者の判決をただ待つ。
「少し、電話してきますね」
「ど、どちらへ……?」
「寮長へ少し」
そうして――――五分程度の電話越しに説き伏せて、かなり無理矢理もぎ取っていた、外泊権利。
それが意味するところはつまり、明日への持ち越しは不可。
最悪飯食って切り上げれば逃げられるなどと、そんな甘い幻想は木っ端微塵に吹き飛んでゆく。
「私が納得できるまで、ゆ――――――っっっくりとお話ししましょうね」
「こんなの絶対おかしいや!!?!」
何はともあれトウカイテイオーだけはシメなければならぬ。あの無邪智謀略の徒だけは許しておけぬ。そう心に決めたのだ。
だからどうにかして、この夜は切り抜けなければならない。
三女神とやらよ。まことに存在するのなら、どうか哀れなカイトに祝福を。
そして、四月十二日。
始まりの一冠目。
『鮮やかな走りでエイヴィヒカイト!! エイヴィヒカイトだ!! 追随を許さない走りで今一着!!!!』
競う相手の存在しない、孤独なレース。
直近の夢へ、遠き夢へ、エイヴィヒカイトはまた一歩近づいた。
ティアラをまず一つ握りしめて、つまらなそうに曇天を眺めていた。
マスゴミってほんとゴミだからみんな気を付けて
ボクテイオー好きだよ
特にキタちゃんからお守り受け取れなかったところとかぞくぞくしました