未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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 エイヴィヒカイト
 誕生日…………春のどっか
 身長……………173㎝
 体重……………少し(かなり)痩せた
 スリーサイズ…需要無し

 心境は新たに、そして装いを一新にして、緑の地へと舞い戻った。
 歳上にはやや素直に、歳下には優しく、友達には気安く、家族には無限大の愛情を。
 仮面を捨て、同時に自滅へ向かう夢を捨てた、元魔王。
 どこまでやれるのか、どこまでいけるのか、どこにもいけないのか、何も分からない。鮮明に、崖の先に広がる暗闇だけを見ていられた頃とは違い、光の頂上へ進むのは、想像よりも不安でいっぱいだ。
 それでも――――勝ちたい。
 ()()()()、いつからか、それだけが彼の胸を埋め尽くす。
 捨てた王冠を再び戴くには、充分な理由だ。

()()を抱えて、マトモに生きていける道理が無い――――だから、俺は――――】


其ノ二十三

 ――崖を、登っていた。

 遮る不粋を排した美しき地平線、そんなものは存在しない。天へ飛び立つ、活力と浪漫に満ちた世界など感じられない。流星群のように、仲良く並び、我先に前へ進まんとする無邪気さなど、どうにも理解が難しかった。

 ただ、自分は、崖を登っていた。

 鋭く尖った足場。安全地帯なんて労りが見えない地帯。手を掛ければ剥がれ、一息に崩れ、墜落へと軽やかに進んでしまう、地獄のような感覚。素手で登り、爪は剥がれる。素足で上がり、皮膚が破れる。雨に打たれ、岩盤が滑る。風に吹かれ、全身が揺さぶられる。

 苦痛を背負い、危機を受け入れ、削られていく精神と共に頂上へ向かおうと意味がない。自分の望みは、その頂上から転がり落ちる事にこそ意味が生まれる。だから自分は、痛みを当然の過程とし、苦しみを甘んじて受け取り、歪む表情を噛み殺して進む。

 ――自分は、賽の河原にも似た崖を登り詰めていた。

 それが、エイヴィヒカイトのレース。今も昔も、その形は変わらない。変わった自分が居ようとも、変えられない部分はやはり存在している。レースで走るという行い、これはどこまでいっても、エイヴィヒカイトというウマにとっては、苦痛と磨耗で満たされた行いでしかないのだ。

 ――崖を、登る。

 その前提は、残念な事に変わらなかった。変えることができなかったのか、変えようとすらしなかったのかは不明だが、とにかく、自意識の改革には至らなかったのは確かだ。他者の走りになら、大なり小なりの感銘は受けよう。それがエイヴィヒカイトなら、どこまでも、徹頭徹尾までもが、刺々しい苦痛に囲まれてしまっている。そんな考えを断ち切る事は難しいようだ。

 でも今は頂上に登り立つ、それだけを目的として、崖を登っていた。

 ――夢中で、崖を登る。

 その後に何があるのか、何を果たすのかなど、今ではどうでも良くなっていた。

 転がり落ちたい訳じゃない、けれど、崖の中腹で力尽きても諦められる熱量ではない。

 せめてその景色が見たいだけなのか、景色を見て、それへ基づいて何かをしたいのか、その言い訳として掲げるに相応しい友の顔を思い浮かべて、かつてよりも険しさを増した霊峰を見据えて、自分は懲りる事なく崖を登る。

 険しくとも、痛くとも、踏み外してもみっともなくても、しがみついて、風に吹かれても剥がされないよう必死に縋りついて。

 未踏の領域へ、自分は、再び登るのだ。

 

 

 夢なのだと、とりあえずで己の正気を疑ってかかる。

 正しきは己の中で絡まった疑心である、偽りは耳が目が自分の全てが認識している全てなのである、雑に片づけそうになってしまう。

 いやいやだって、()()()()()だったではないか。再戦など頭の片隅にも置いていないかのように振る舞って、冗談じみた態度で、反吐にも劣る価値の無い敗北を当然のように受け止めて。走る行為が苦痛と=に成り変わる方程式に変わりがない事くらいは分かる、それだけの付き合いでもある。だからもう、その姿は、その背中は、金輪際、二度として追い掛けることが出来ないのだ――――本当の意味で追い越す事が不可能であることを、私は知っているのに。

 

『――――()()()()()()()()――――!!』

 

 いつだって彼は、私の大切な部分を突然に叩き壊す――――身構える暇もくれない、情緒なんて一息に砕かれる。面影も見つからないくらい、丹念に、私を構成する部分を破壊していくのだ。

 控室にいても、その名はよく聞こえる。最後の走者の名が、会場中のスピーカーから言紡がれるのを、私の魂は逃さない。

 その事実が現実なのだと確かめるすべがない。同名の何某か、その方がまだ、自分の中での信憑性は高い。何かの間違いで自分の聞き間違い、これが一番に可能性が高い。悲しいことに、嘆かわしいことに、彼が走らない可能性が、他の何よりもおいて高いのだ。

 

『長い間――第一線から――――今日はどんな――――』

「…………うそ…………」

 

 全身を駆け抜けていく、稲妻の痺れ――――快感にもよく似た、この震えが、非現実とは思いたくない。

 この痺れが苦痛? ふざけるな、そんな訳があるものか。この痺れが不快? バカみたいなことを考えるな、それこそあり得ないと己は確と知っているだろうに。ともすれば、苦しかろうと痛かろうと不愉快だとしても、彼から受け取るのならその全ては甘美な祝福だというのに。

 甘い、そう、とても甘かった。ピリピリと甘辛く、舌が痺れ始めた。武者震いの極地がこれか。震えどころではない、これではいっそ痙攣だ。チリチリと千切れる視界の酩酊など、些細な始まりに過ぎない。内から突如として溢れ出した火花が、それを証明するように激しく、動悸を異次元なほどに加速させる。

 夢虚の中ですら思い通りにならない傷。

 魘されるだけの悪夢が染み込んだ傷の跡。

 心臓へ爪を立てる、そんな猟奇的な比喩以外では表現を許されない私の大切な、抉られた痕。

 

「っ、……夢じゃ、ない……?」

 

 瘡蓋も治り切らないその傷跡を、彼が、()()()()()()()()()()()()

 脊髄がぶるりとわななき、喜びを表現しようとしている。

 信じ難い、信じ切れない、このまま悦び勇んでターフへ向かえば霞のように、魔王など最初から存在しなかったことになってしまうんじゃないのか。

 親愛を超えて、友愛を貫いて、狂愛では足らず、飢餓のように獰猛な感情の尖り方。発散に相応しい相手が見つからず、実力如何でなく、()()()()()()()()()()()()が他にいるとも思いたくなかった。代替が利いてしまえる宿縁となるのが怖かった。彼以外にはあり得ないのだと、私はそう定義していたかった。彼へ比肩し得る強者は確かに存在している――その事実には敢えて蓋をして、頑固に目を閉じていた。

 惨めったらしく、未練がましく、明活に割り切る勇気も持てずにいた臆病な日々。

 それが、報われる時間が、来た――――?

 

「えいゔぃひ、かい、と……えい、ゔィヒカいト……エイヴィヒ、カイト……ッ」

 

 エイヴィヒカイト、エイヴィヒカイトという名。その名は聞き間違いじゃないのか、エイヴィヒカイトなど、本当に、つまり()()()()()()()()()。エイヴィヒカイトがここにいる意味は、つまり、それしかないと願いたい。エイヴィヒカイトが、本当に、再び走らんとしている? エイヴィヒカイトはもう玉座を放棄した筈ではないのか。エイヴィヒカイトが、どうして? ああでも嬉しい、エイヴィヒカイトが来てくれた、エイヴィヒカイトだ、嬉しい、エイヴィヒカイトだエイヴィヒカイトだ嬉しいすごい、ことだこれはエイヴィヒカイトエイヴィヒカイトエイヴィヒカイトエイヴィヒカイトエイヴィヒカイトエイヴィヒカイトエイヴィヒカイトエイヴィヒカイトエイヴィヒカイト――――永劫の魔王(エイヴィヒカイト)へ、私はもう一度挑めるということなの――――?

 あの背中を、今度こそ私は、真の意味で蹂躙を為せるのか。

 私の中を焦がすだけだった焔を、ようやく、溜め込んだ情欲をようやく、ようやっと、あのひとへ浴びせかけることが出来るのか――――ゆめみたい。

 

「エイヴィヒカイト――――ッ!!!!!!!!!!」

 

 失意へ突き落したのは、まぎれもなく彼だった。「これでおしまい」と、あっけらかんに言い放ち、へらへらと笑みを浮かべて、なんてことの無いように繕った痛々しい姿を晒す。それを見れば、ああ、もう無理なのかと諦めを受け取らされるのも仕方ない。これ以上は望めない、願えない、叶わない未来を乞うことを、私はあの夜に諦めた。

 では、そんな私を引き上げるのは、果たして誰? 一体誰が、彼から受けた鮮烈な傷跡を癒してくれるの? ――或いは、更に焦がれる火傷の痕を、誰なら付けてくれるの?

 答えは、今日だ。期待も止めた、希望は捨てた、ただ己を見つめて邁進すればいいと、強烈な渇きを無視して走っていれば――――今日、だ、ったぁ。

 

「――――――――――――………………いか、なきゃ、いま、行き す、から…………」

 

 もう時間だ、ターフへ向かい、出走の準備をして彼と話して思いを交わして情念をぶつけて滾りを受け止めてもらい互いに吐き出せる全ての底を余すことなく出し切り後悔も後に悔いも何一つ塵一つ滓一つのなごりも今度は残させないと誓うその時間くらいはある筈だそれくらいの時間は有してもいい筈だ何より私達の間柄なら目で見れば何を言わずともその戦意の全てを理解し合えるのだからああ我が怨敵我が不倶戴天我が運命我が我が我が我が私私私の好敵手私の敵私の私の敵敵敵、敵てきてきてき――――――――控室の扉を、蹴破る力強さを秘めた足取りで、されど落ち着き払ったような体裁を整えて、静かに部屋を出る。

 ――――()()が待望していた、最後の時間が目の前に在る――――

 

「……ね――――――――まってて、かいとくん」

 

 ぽわぽわとした恋愛沙汰など、要らない。今は、だって、日常ではない。命を擲ち、魂を賭けて、全霊を懸ける場、私からすればそんなモノ、『戦場』以外に適した表現が見つからない。生死の境界が近づく領域で、惚れただの腫れただのと、どうすれば、ほざけるような失礼を働けるのだろうか。

 あの夜の続きができる、それでいい、それがいい、それだけでいい。私達だけの時間だ、私達だけが堪能していたあの情事の続きだ。満たされなかったのだ、足りなかったのだ、飢えて渇いて、グラスワンダーというウマは生きている実感に欠けていたのだ。どうしても、魔王の肉を喰らいたくて、だというのにあと一歩でおあずけなんか喰らって、それはもう、苦しかった。――――耐え忍んだ褒美か、さりとて彼自身の仕組んだマッチポンプか、ああ、どうでもよかった。なんでもよかった。もう一度、共に決死を尽くして走れるのなら、引き換えに命すら惜しむ事は無いだろう。

 よろこび、うちふるえながら、わらいながら、ずっとまえからつづく()で、いまもなお、むねをこがしながら。

 玉座を真っ向から打ち崩すべく、蒼の怪物(わたしは)は、ゆったりと歩いていく。

 

 

「グラスちゃんなんか、誰よりも()()()()()だよね~……」

 

 ターフへ向かう通路を一人、歩いていく。先輩でも、キングでも、エルちゃんでも、グラスちゃんでも、スぺちゃんでも、誰でも話しながらターフへ向かっても良かったが、生憎今は今ばかりはそんな気分ではいられない。きっとこのレースへ参加する全員が、私と似たり寄ったりな心境を抱いている事だろう。

 怪物と冠される存在は、一見すればそんな物々しい称号とは似通わないように見えるのが殆どだ。彼女も普段なら――勝負事が絡まなければ、たおやかな笑みで、周囲を浄化させるせせらぎのような存在だ。

 だが事がレースであれば、その変容ぶりは誰しもが目を見開くだろう。自分のような同期であれば、その光景も何度も目にしている。想像など、容易いなんて物じゃない。

 特に、今回は次元が違うだろうが――――――――ああ、無理だ、他の人に意識を逸らそうとしても、どうしてもその存在へと思考は目移りしてしまう。己を落ち着かせようと努力している訳だが、その全部を壊滅的にぶち壊す圧倒的な存在の下へ意識は向いてしまう。自然と、昂ぶり、昂ぶり、昂ぶり、火照る自分を持て余して、どうすればいいのか戸惑いすら覚えている。

 

「私はみんなほど本気なつもりもないんだけど……まったく――――困っちゃうなぁ~」

 

 自分らしくない、犬歯が主張をする笑みなど、慣れていないがどうしてか、自然な笑みが、自然と鋭さを増していく。観衆へお披露目される前に直しておくべきか、しかし、ああ、だが、この表情を見せてあげるのは、彼にとって嬉しい事なのかもしれない。()()()()()()()()()()と、分かりやすく見せつけられるのなら、獰猛な顔を張り付けたままでいるのも悪くはない。

 瞳孔を灼く。肌を引き裂く。鼓膜を破る。敗色臭が鼻につく。土を舐める味がする。背中は、どこまでも大きく、威圧的で、真っ白な外套が逸脱した存在であることを際立たせて、それを眺める事しかできない己が、ちっぽけなように感じさせる威光、或いは覇気。空を見上げ、流れる雲を眺めているときに感じる世界の広大さ――アレと似ているようで、されど決定的に違っている破滅的な衝撃。手など届くまい、届く者なら常識から外れて、怪物などを超越した領域へ踏み込まねば辿り着けない。

 ああ、まさしく――――あの少年は、魔王だった。

 青雲のような、私とてそう称されることもあったが、それがどうした。

 空すら踏み潰す、いっそ意味不明なまでの異質さ。生まれの異端など霞む、()()

 

 ――――俺だ。『俺』が『絶対』だ――――

「まさか、本当に有言実行できちゃえる超大物とは……いや、最初から割とあんなんだったっけ」

 

 手が届かせようなどと、現実的な発想とは思えなかった。それだけ絶対的な覇者として、界隈の頂点へ君臨しているのだ。本人は知らないし知ろうともしないが、依然として、二つとない存在としてもっぱら有名だ。歴代のトップクラス選手たちと比べても、見劣りせず、いっそ凌駕せんとする、太陽のような魅力と実力を持つ、偉大なる魔王。

 手を届かせたいなどと、そんな烏滸がましい想いなど――――――――抱いたのは、いつだったのか。

 萌芽の大元となる情熱は、我ながら恥ずかしい話だが、単なる嫉妬だ。

『青春してますな~』なんて、一歩引いたような言葉で揶揄って、その裏で、虚空のような嫉妬に焼かれていく。

 天命を削り、紅の惨劇へ向かって、孤独に走る魔王。紫焔の流星は、魔王の域まで怒涛の速度で迫る。蒼焔の怪物は、顎をいからせ魔王をつけ狙う。並び立たんとする? それだけでは足りないと、不足で渇くと言い捨て、それ以上に魔王を踏み砕きたいのだと、紫と蒼の二人は猛っていた。追われる恐怖を感じ取り、そして魔王はその分だけ、己の限界値を捻じ曲げながら引き伸ばす。片やが伸びれば、負けじともう片方も伸びていく、理想的な相互関係。あの三人だけに共通する空気の味は、六人で感じる世界の感覚とはまた違った隔たりがある。

 ……なんだ、それ。

 三人だけでぶつかりあって、三人だけのつもりか。世界には三人しかいないとでも言いたいのか。そんな、そんなもの――――羨ましいに決まっているだろう。

 

「……私も、立派にウマ娘ってことなのかな~」

 

 眼中に無い、それはまあ、そうだろうなとは分かり切っていた。見る目がそう語っていた。ただただ、己の走った痕に残る意味、それだけに注視していたのだ。

 だからといって、私達はその過程で砂利の如く蹴り飛ばす雑魚でしかない、など、そんな話を鵜吞みにしてはいそうですかと納得できるものか。

 置いて行かれる恐怖は()()()()()()()()()、それを上回る、先に行かれる事への負けん気が、嫉み妬みへと成り代わるのもある種自然な流れじゃないのか。

 ずっと、期待していた。あの夜なんか目じゃない、最高の舞台で、最高の結果を――――私が受け取る物が、金色の証でなくとも、銅色でも、銀色でも、輝かなかったとしても、それでも今生における最高級の納得が得られる日がいつか来るのだと待ち侘びた。消化不良で終わらせたくないのは、あの場にいる全員に共通している、共通してなくては自称親友でしかない、バカみたいだ。

 奇跡を待っていた。奇跡のような連覇を成し遂げた魔王だから、奇跡のような復活も簡単なのだろうと信じていた。というか『魔王』だ、魔王なら第二形態くらいは用意しておいてほしいのだが。

 正直な話、()()()()()()()()()とは考えていたのだ。らしくもなく勿体ぶって、アオハル杯を全勝でサプライズだのなんだの言って、それきり話題にも出さなくなって――――――――それでこれか、このサプライズか、これがサプライズか、とんでもなくふざけきったサプライズだった。

 

「全部、ぶつけられるんだ…………今度は、あんな、つまらない夜にはならない」

 

 不安は――――――――一切ない。

 彼が、それだけの用意を揃えてきたのだというのは分かる。()()()()をこの舞台へ導いたのは彼で、その他は副次的にくっついてきた()()()()、気に掛ける必要があるのか、だって、一番に気をやらなければならない相手がいるのだから、その他が疎かになるのはいっそ必然だ。その誘いを出したのも、彼。けれどこの状況を望んでいたのは、全員。手回しは周到、伏線も充分。彼からすれば、アオハル杯とは、今日この日の為に重ねてきたモラトリアムでしかないのだろう。前哨戦、或いは準備運動の一環のような、肩慣らし気分で。

 なら、大丈夫だ。

 あの夜とは違う。苦しそうに笑って、走ることを無理に許諾させたあの夜とは、大いに違う。だから大丈夫、不安など不要、愉しもう、楽しもう、楽しく、笑って、叫んで、走って――――血を吐き出す力強さで、誰よりも前へ、我先にと仲良く高らかに進んでいこう。

 私達六人は、全員がこんなにも両想い。

 恋人同士のように、逢瀬の時を待ち侘びていた。

 

 

 届かぬ想いとばかり、諦めていたのかもしれない。

 私だけじゃない。全盛を目の前で見てきた者からすれば、悪夢のような失速だった。ただ速度が落ちただけでなく、もはやゴールまで脚を届かせることもままならなかった。白く、鮮烈な背中は、いつの間にか蹲って小さく見えた。悪夢、悪夢? あんなものは、地獄のような仕打ちだ。己の全てを注ぎ込む走りはおろか、慰め程度に駆けることすら許されない負債。

 それが自業自得と言い切るのはとても簡単。望むべきじゃない最悪を欲した末路と考えれば、然るべき無様さなのかもしれない。

 無理をさせて、あのバツが悪い始末。それ以上無理をさせれば、彼の身がどうなるのかなど、思考へ取り入れるだけで苛まれる。そして、仮に、頼み込んだとすれば、彼はきっと私達の声に応えてくれるだけの信頼があるから――――尚更、諦めるしかなかった。

 あの結果で、諦めるしかなかった。

 あの結末を、胸に刻んで終わりにするしか、それしか落としどころを見つけられなかった。

 あの末路で、あの終着点で、あの果てで、満足するしかない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――それが、私達の運命だと認めるしかなかった。

 

「……」

 

 芝の状態を、脚裏で踏み、確認していく。状態は良好、荒れもせず、湿りも少ない。これでなら、各々が持ちあわせた全力を、翳りなく奮うことが出来るだろう――――だとか、冷静を醸す行動へ努めなければ、レースの前に、アクセルをベタ踏みして走り出してしまいそうだった。

 ――煮え滾る想いは、あの場の誰もが例外なく、一様に抱えていた事だろう。でも燻っていた火種が輝くことなく無為に湿気った、そんな絶望を背負った者も、私のように間違いなく存在している。沸点へ振り切れそうになって、けれどすぐさま降り注いだ冷たい雨が、無慈悲に無情に心亡く放散していく()()()とて、みんな感じていた筈だ。卵を地面に落とした時のような、元には戻れない決壊の瞬間を、私達は確かに聞き届けた。

 二度とない。一度しかなかった。だから、その場で全てを吐き出したかった。吐き出しかけて、その最中に負けを確信していたのに。

 ()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()

 苦い、苦しい、痛くて切ない、それが彼から剥がれ落ちた勝利の味。投げ出したくなる、泣きたくなる、胸ぐらを掴んで、頬を引っ叩いて、軽口を叩く口へその()()()()()()を詰め込んでやりたくなる。

 吐き気がするどころか、吐き気を飲み込まざるを得ない勝利。

 

「…………っ」

 

 下唇から、鉄の味が香った。無意識下で噛み千切った唇は、自覚すればどんどん不味さを増していく。その不快感が、己の冷静さを高めてくれるかと言えばそうでもない。

 嬉しい、喜ばしい、二つが強く主張をやめてくれない。今度こそはと、意気込む自分は嘘じゃない。用意された状況へ訝しむ心も多少は在るが、しかしそれだけじゃない。

 

「走れるの――――?」

 

 言葉になった不安は、おそらくは、凡その人達が心配するものではない。

 言い訳のしようもないが、酷い話でもあるけれど、彼の身体の事は、()()()()()()()()()()()()()

 怪訝が向いている矛先は、ひとえに、本当に今度こそは走り切れるのかという心配だけ。彼の安否など、どうしたことか、倫理観ごとどこぞへ捨ててきてしまったらしい。恐らく――――いいや確実に昂ぶりが最高潮へ達しているであろう同期達だが、その例に漏れず、自分も同じように興奮が止まっていない。命の危険性など、どうでも良かった。今度こそ、彼が過去に目指した末路へ至ってしまう可能性も、芸術的なほどに頭には存在していなかった。

 どうせ自らの身など顧みないだろう、その上で本当に、『今度こそは』を実現できるのか。期待させるだけさせておいて、実は無理でしたなんて絶望はもう二度と味わいたくない。生半可な希望を抱かせるくらいなら、いっそ、その身を滅ぼしきってでも走り抜いてもらわなくては――――普段の自分なら考え付かない、どこまでも自分本位な不安を抱いていた自分に絶句した。

 その非道な考えを拭おうとして、どうしても拭えない。

 その考えを大きく手を広げて受け入れる自分が、どうしても、消えてくれないのか。

 

 ――――私も、あてられてるのかしら――――

「…………ふぅ」

 

 自己嫌悪がこみ上がる。形だけの嘆息は、私を形作る何一つをも慰めてはくれない。友を侮辱しているのは勿論のこと、それ以前の問題。身の破滅を願う、ああ、これはどうしようもない最低な女だ。

 私は彼に――――()()()()()()()()()()と、願ったのだ。

 

「しかたないじゃない……」

 

 言い訳じみた言葉に意味はない。誰も聞かない後悔など、客観的な悲壮を付け足してくれる何者かが存在しない。そも、後悔しているのかすらが怪しいのだ。

 胸が弾む。一歩一歩、ターフの上を歩く実感を得ながら、全身の末端が震えている。芯が震えているから、端っこが振動してしまうのもしかたない。胸がこう、とくとくんと、血液のトルクを静かに際限なく上げていくものだから、しかたないことだこれは。怪我をしないで欲しいという心配より、怪我を深めてでも満足できる結果を叩き出してくれるのかが気になってしまって、しかたないのだ。

 憧れていた背中がやってくる。私が感じる場の火照った空気を、再びこうして共有できる。辿り着けない未来の色は濃く、けれど必ずや追い越して、その顔を前から眺めてやると決心できた時のような情熱が沸かされる。

 熱い、心臓が破れて、中身がこぼれて、全身の内側を浸しているような気がした。それなら納得だ、この全身へ満ちて跳ねる灼熱が、活力を宿す命の雫なのだとすれば、痛いくらいの熱が生きている実感となって私を揺さぶるのも当たり前だ。

 

「……私だって、……っ」

 

 届かないのが悔しかった。悔しくて、奥歯が欠けそうなほど悔しくて、泥中で掴んだ努力の結晶すら彼には価値として映らないのが尚更に悔しい。

 でもそれが、どこか嬉しかった。私が想定できる物差しでは測れない、それほど大きな存在なのだと分かっていた。私が想像できる現実では影も踏めない、つまりそれは、私にも想像がつかない領域がこの先でワタシを待っているのだと夢想できた。私が叫ぼうと足掻こうと喚こうと、私の栄光は、魔王の威光で磨り潰される――――それに抗う芽が出てきたような自覚を感じた瞬間、己の世界の底が、無限に広がっていくような気がした。

 少年の意図しない祝福。呪いと呼ばれるような、けれど授かった者達はみな一様に、その傷の痕を大事に微笑んで慈しみ――――渇望を満たす未来を、貪欲に求める。

 

 ――――これが、正真正銘の最後なら――――

「…………」

 

 果てしない領域の先で、誰も待つことなく歩いていくモノ。黒の軍服を隠した白き外套の背は、誰にも、優しいナニカを届ける事は無い。

 情など吐き捨てたがっていた。無垢に進みたがっていた。誰からの意見も、その『魔王の鳴動(うたごえ)』が遮る。そうして彼の定めた、彼だけが進む、唯一の未来へ走り去る背中。薄々と、その背をゴール地点に定めていたのは、否めない。届く余地を見いだせない不可能と酷似しているから、だからこそ、それを乗り越えれば私は、一区切りつける。それだけ大きな存在だった。それだけ私のレース観を左右させた威光があった。王者(キング)を自称する己が恥ずかしくなるほど、その進みは、堂々たる頂点だった。

 追いつきたい追いすがりたい置いて行かれたくない、必ず、泥水など喜んで啜ろう、雨になどはしゃいで打たれよう、雪の中でも勇んで掻き分けよう、向かい風如きなら引き裂いて進まなくてはどうにもならない、その領域に私も立ちたい、立てる見込みはある筈だ、素養が無いなんて認めてなるものか、無かったとしても知ったことではない、存在しない虚無をまさぐってでも掴み取ってやる、追いつけるじゃない追い越せる、私は絶対にその背中へ――――――――なのに追いつきたくないと、贅沢を嘆く自分は、確かにいた。

 本当に、無様な醜態。

 

「――――――――はぁ……私、バカみたい」

 

 一際強く、歩く踏み出しを鳴らし、青芝を少し抉った。その瞬間、()()()発散された。きっと誰かのバカさ加減が移ったから、こんなうじうじと自己に没頭してしまうのだ。

 今の今まで存在し続けていた、甘ったれな自分。過去の敗北に縋り、手のひらで『悍ましい勝利』を弄ぶ自分。

 今この瞬間を待望していた自分が――――全部を放り投げる。

 抵抗出来ずに潰されていた過去を恥じろ。眼中にもくれていなかった時期を恨め。努力を重ねようと歯牙に掛けないあの男を憎め。上から目線で褒めてきた事実を怒れ。ふざけるなと、何度弄べば気が済むのかと叫んでやればいい。いい加減に怒鳴り散らしても許されるのだ、もう二度と走れない未来が訪れようとしているのは分かり切った話、だからもう()()()()()()()()()()

 走れる、戦える、こうして一堂に介せる機会を損失することは許されない。最初で最後のこの時間、その全てを、私の栄光を見せつける事だけに注力しないでどうする。

 ――簡単なことを、一番大切な単純を、私は忘れていた。

 

「……思い出させてくれた」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから自分は、自分達は――――私は、エイヴィヒカイトから勝利を奪い去る。進呈されるだなんて非礼は赦さん。ちょっと敗北者として、選択の余地なく、()()敗者のレッテルをその顔へ殴りつけるように受け渡してやる。

 頂点を目指す本能は、誰にだって備わっている。私はその本能へ跳びこむように身を委ねた。

 私は、今のこの瞬間で得られる最上の喜びを奪い去る。

 その称号は、渡さない。

 

「魔王も超えた王に、私は――――ッ!!」

 

 挑戦者の心意気を、誰よりも求めた相手で卒業する。

 

 

 ガヤの声など、いくら大きくても良いものだ。大きければ大きいほど、それだけ場が盛り上がっているということだ。それは、主役である者達の熱が反響し、その熱は巡り廻って、自分達へ帰り、更なる段階へ踏み込ませるための奮起材となる。だから、オーディエンスは騒げばいい、喧しいほど、うるさすぎるほど、大きな声で応援を叫んでくれればそれだけいい。

 その喧騒が、不自然に遠かった。

 理由など、明白で。

 

「……長かった」

 

 その方角を、誰しもが注目していた。

 期待だけを載せた眼差しの雨あられ、これはいっそ暴力にも等しい。精神力が生半可であれば、重圧に負けてレース前に勝負は決まるような、暴力と同義の視線の圧が籠っている。

 潰される心配は――――けれど、誰一人、持ち合わせていないと言わずも知れる。

 

「……ってた……」

 

 偶然、ほんの偶然で、彼の隠し事を知った。

 自分達が臨んでいるイベント、それを誘った者、そして、なぜ期限が迫っているかのように彼は焦っていたのか。――そこには、アタシ自身の期待も沢山こもっていたがそれはそれ、予想はこうして大当たり。

 喧騒が、全く聞こえなくなった。不思議に思い、周りを見渡しても、口々に喋る様子は見て取れるのに、音だけが不自然に止んでいた。

 まさか――自分は何か、この土壇場で何かしらを患ったのか? こんなとんでもない一大イベントを目の前にして? それってどんな不幸? ――――嫌だ万全で臨みたい、悔いの欠片破片一粒も残したくない、負けた時の言い訳なんか欲しくない、その為に体調管理なんかも普段の十倍は気を遣ったのにコンディションは今日この日の為に整えてきたはずなのに――――!!

 焦りの渦中へ勝手に転落したが、だが、次第に大きくなっていく別の音で、己の状態を概ね理解した。

 ――歓びの歌声(心臓の鼓動)が、他の音を塗り潰すくらいにうるさいのだ。

 

「ずっと……ずっとっ! ずーっっっっと!!」

 

 ――――その瞳には、諦観が映されていた。

 偶然に彼の秘密を垣間見た夜、その横顔には、剥がし切れない諦めの色があった。取り戻せないモノはある、永遠に喪失した才能(モノ)がある、快復しようの無い罅割れ(モノ)は否めず、再びその身へ、過去のそのままを宿そうという我儘は――――アタシ達が灼かれ焦がれた全てへ、完全に成ることができないと、骨の髄まで理解していた。あの諦めは、そういう諦めだ。

 その諦観を、何度も紅の瞳に浮かばせる。転び、倒れ、転び、転び、倒れ、膝を付き、膝を付き、そしてまた転んだ。その度に己の脚を睨みつけて、その度に諦観の色彩で、紅の瞳を穢す。走る最中に浮かぶ希望も、一度転べば諦観の彩に埋もれていく。自傷行為のような、救われようの無い痛々しさが、そこにはあった。

 擦り剥いた跡などよく分かる。後日に響くような傷も、アタシは何度も見たことがある。そうなれば周りへ「転んだ」と、嘘のようで嘘じゃない偽りを話していたこともあった。誤魔化せたのは本人が持つ、そそっかしさのお陰だろう。

 でも、何度転んでも、瞳に浮かぶ希望が何度砕けても、胸に秘めた『もしかしたら』が何度壊れても――――それでも、ただ、彼は、そこに立っていた。

 よく知っている無機質な決意を、紅の双眸に宿して。

 

「…………――――ずっと、待ってた」

 

 ――勝利が当然、勝利は過程、勝利とは普遍。勝つのが大前提、絶対にそれは崩れない。そう物語る無機質な瞳。楽しいなんて醸し出さない、喜びなんて浮かび上がらない、見ているだけで正体不明の不安に襲われる感情の色彩。悲哀虚無憎悪嫌悪、それらを混ぜ込み――目的へ近づく喜びを一つだけ加えた、ぐちゃぐちゃな心模様。確固たる、堅固たる、崩壊の余地もない、強張りすぎた決意の瞳。

 その目をして目的へ挑んだならば、絶対に達するとアタシは――アタシ達は知っている。

 その目をして、『治らない故障』を受け止めた上で、それを加味し、()()()()絶対の意志があった。

 だから、その一日以外は、絶対に見ないようにした。大丈夫だと分かった。その目をしたのなら、彼は確かに戻ってくる。その気があるだの、そのつもりだの、そんな程度の低い次元の話じゃない。()()だ。絶対の瞳だ。絶対に、どんな道を辿ろうと、過去と違う姿へ成り果てようと、絶対に成し遂げると決めた瞳だった。

 

「待ってて、あげたんだから……っ!」

 

 ――熱い雫を、マスクごと払って拭う。視界を歪ませるなど、とんでもない。感傷に足を取られては負ける。全盛とは違う、実力は堕ちた、魔王の看板は錆びが入っている――――? ――――そう安く見れば、間違いなく喰われる。その確信がある。ターフへ舞い戻った魔王は、これまでとは違う。何が違うのか――――心意気一つが、決定的に違う。

 最後の一人が――――ターフへと脚を踏み出そうとしていた。しかめっ面で、眼光が鋭く、世界そのものを睨みつけるような険しさが――――――――でも笑みを堪えるような、喜びを抑えるような、楽しさが溢れてしまっている顔に見える。そんな顔が出来るようになって、初めて彼はこの戦場へ、その傷だらけの脚を踏み入れる。

 あの頃とは違う、少年とは言い難い成長を遂げた新生なる魔王が、その心を隠すことなく、通路から顔を覗かせていた。

 柄にもなく、緊張をして、その感覚を心地良さげに、けれど仏頂面で愉しむ様子を見守り――――その彼と、眼が合ったと、信じた。

 

「――――おかえりなさい!!」

 

 距離は遠い。間違いなく、声など聴こえている筈が無い。歓声も相当なモノだろう、圧倒的な音の波に阻まれて、感極まったアタシの出迎えの祝福など届く道理が無い。

 ただ、やっぱり、魔王とは、過去と違くとも魔王で。魔王は道理をぶち壊す存在であるのは依然として健在なようで。

 ひそやかに口を動かして――――――――『ただいま』と、確かにアタシ達はその声を受け取った。

 

 

 視界が白く、くらんでいく。陽光に近しい色が、支配をどんどん強めていく。空を見上げれば晴天が、ギラギラと私の見る世界を焦がしていく。朧な残光が瞳孔に焼き付く。剥がれない眩しさが、私へ直視を強制させる。目を塞ごうと、()()()()はいつまでも、私に付き纏って離れてくれない――――いつまでも、その幻影が追い越せない。

 はためく外套など、暇さえあれば視界の端を掠めてたまったものではない。振り向くことの無い脚の推力は、常に私から離れようと遠退いていく。もう追いつけない、その現実へ直面し、理解もした。追いつく手立ては永劫に喪われているのだと達観しても、それでも私の奥で燻る私が、困ったことに、ぜんっぜん諦めてはくれない。己へ向けて、諦めろと窘める、その都度、紫の色彩が私の心へ熱をまぶして、断念という選択肢が灰と消えていく。

 白を纏う黒いひと。双極の色彩を擁し、その反発で自壊へ突っ走るバカなひと。走る喜びを見出さないウマ――――絶対の君臨者。

 私へ火傷のような呪いを授けておいて、癒すような慈悲をくれない、酷い()()()()

 仲良くなればなるほど、親友と呼べるくらい近いほどに、疼痛を引き起こす無慈悲を無自覚で振り撒く、おそろしいひと。

 

「……」

 

 装いの一切が変わっていた。色彩から受ける印象、細かな意匠の雰囲気、長い髪を低い位置で一つに纏めている銀のティアラのデザインをしたバレッタ、過去を脱ぎ捨てたとでも言うように、受けとる全てが新鮮だった。

 隠さなくてはならない本心などもう捨てた、そう語るように、全身を隠していた白の外套はもう背負っていない。色を変え、隠す面積を狭め、真っ黒な外套が左肩にかかり、腕を隠す。生徒会長やテイオーさんのような片方だけに備えられたマント――ペリースと呼ぶらしい――が、横から吹く風にあおられて、裏地のミントグリーンが露わになる。魔王なんて厳めしい二つ名には似つかわしくない爽やかな感触を、見る者へと届けた。

 赤い刺繍で紡がれていた漆黒の軍服は、一転した純白へと反転していた。――――本人もよく誇らしげにする、整った顔立ち、ゾッとするような輝きの紅眼も相まって、御伽噺の王子様のようだ。

 ボタン、袖、その他の刺繍もミントグリーン。かつて胸元に縫われていた黒百合の意匠も、沈丁花を模した形に変わっている。

 遠目に見える立ち姿は、彼のそのものだ。見間違えない。色彩が裏返ったように感じても、威風堂々としたその立ち振る舞いは依然として、超越者然とした風格を放っていた。

 

「……ぁ……」

 ――――メジロアルダン先輩に、似ているような――――

 

 もしくは、そのイメージを多く取り入れたのか。今の彼と、勝負服へ着替えたメジロアルダン先輩が並べば、互いの色彩(存在)を補完し合う相互と感じ取るのではないか。彼がそういった、大衆へ向けて惚気るような要望を出すとも思えないが――今の彼なら、もしかして、或いは、なんて。

 ――彼が歩き、その姿が近づいてくる。ターフを歩いているだけ、かけ脚ですらないのに、なのに、ターフの上でその姿を再び目にすることが出来たのが、とんでもない行幸のようだ。でも、奇跡にも等しい()()()()()

 

 ――()()()()()があんなくだらない終わりって、そんなの認めたくない!!!!

 

 私は願っていた。もう一度、叶えと願い続けていた。彼が痛みへ――それ以上の苦痛に苛まれようとも、()()()()()()()()()()と、ずっと。もう二度と走れなくなっても、まともに歩くことが難しくなっても、影の張り付く日常へ成り果てでも、()()()()私は願い続けていた。

 私だけじゃない、私達は願っていた。

 友達だから、もう彼には走って欲しくはない、彼自身がレースそのものへ喜びを見出せないのなら尚更に。怪我をしてしまったのだから、じゃあもうしょうがないから、そう言い聞かせて諦めるのが横行する世界に、私達は生きているのだから。諦めるだけの理由があるのだから、感情が置いてけぼりになっても、認め難くても、腑に落ちる納得が得られなくとも、折り合いをつけて時間を進めていくしかない――――――――そんな言い訳をうだうだと並べても、どうしても、私は、私の胸の裡で渦巻くこの絶望を拭いたかった。

 最後がこんな、()()()()()()()()()一つで終わりたくなかった。

 

 ――魔王になって、帰って来てよ――――!!!!!!

 

 とても、最低な要望を突き付けていたと自覚している。彼が捨てたがっていた過去を、どうか取りに戻れと言っていたのだ、あの時の私は。人間的成長を投げ捨て、ここまで歩んだ道のりへ指を差して、今すぐ踵を返して戻れと言い放ったのだ。自滅へと加速を続ける最悪な時間を、もう一度披露して欲しいと――――ひとえに、()()()、私は言っていた。

 己の自損を悦び、己の自壊を受け入れ、己の自滅をつまびらかに世界へと見せつける、最悪の王さま。

 感受する痛みの全てを、まがい物の笑顔で圧し殺す。そうするしか彼の心を保てなかったから、幼き日に、涙を枯らす為のソレを欲していた。絶対の存在を成り立たせるための――普通の心を以て生きるには、絶対に抱いてはいけない、猛毒の仮面。これからを過ごしたがる彼には、絶対に無用なその仮面。

 ()()をもう一度取り戻せと、私は、そう叫んだ。

 それが良くなかったのか/それが功を奏したのか。

 

「きちゃったんだ」

 ――――そうさせたのは、私なのに、何を他人事のような――――

 

 その強さを受け止めたかった。受け止めて、「バカなことはもうやめよう」と、言ってあげたかった――――善意からきた反発心は、いつから、悍ましいほどの欲望へ反転していたのだろう。

 悍ましい――――ああ、そうだ、悍ましいのだ。言い訳も出来ない程、私の身の内で巣食うこの心は、抱えていられる自分が不思議になるほど、悍ましい。吐き気を促すドス黒さに満ちて、友達の安否を軽視する願望が詰まっていた。私の納得一つの為だけに、友の未来を使い潰しても良いと、()()()()()友の破滅を促す自分が、いつまでもその日を待ち侘びる。

 ()()()()()()()()()()へ至ったところで、いっときの涙を流すだろうけど、後々へ悔いる自分はきっと存在しない。

 私は涙を流しながら――――ああ、でも、やっぱり――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 最悪、それ以外にどう表せばいい? 褒められない、心のある生き物としてどうしようもない、友達として失格どころじゃない。最悪で、最低で、悍ましい。

 並び立たんとする決意、それを確固たるものとさせた時の私とは、圧倒的に違っている。

 

「でも、一番変わったのは……」

 

 彼が歩く姿が、見える。ターフの上を、噛み締めるように歩いて、私の方へと進んできているのが見える。

 それだけで、もう、極まる感情が数え切れなかった――――――――ダメなのに、喜びが、抑えきれない――――――――彼が、魔王が、カイトくんが、戻ってきて来てくれた。永劫の魔王(エイヴィヒカイト)が、私達の為に。堕ちたなんて思わない、けど、もう立ち上がりはしないと思いこんで諦めかけて諦めきれずいつまでも焦がれてその傷を抱え込んでいただけの私の前に、その姿を顕したのだ。誰一人も涙を流していないのが奇跡だ。涙は終わってから流したいという話ならごもっとも、この場、この舞台、この絶好の瞬間を逃すことなどできようもない、感傷に脚を取られるなどバカなのかと。――正直、狂っていると思う。オカシクなってしまったのだと分かる。先ほどから頭蓋の奥底が熱い。首筋が熱い。背骨が細かに、深く震えて止まらない。でも――でも?――でも彼がこの場に来た理由は絶対に私達だ、()()()()という正しい表明は、たった五人へ向けられたモノだと私達は信じている――――私達以外に向けられたモノじゃない、私達以外に向けて欲しくない、私達だけに寄こさないなんて許さない、他の誰それに向けようものならふざけるな、()()()()()()()、こんなにも待たせて、こうなるまで壊しておいて、私達に独占させないなんて、それはどんな極悪な悪夢か。――汚い言葉が次々と浮かんでくる。綺麗じゃない想いが次々と浮かんでくる。こんな乱暴なこころ、私は彼に初めて教えられた。

 スペシャルウィークは、壊されてしまった。乱暴に、ぐしゃぐしゃに、滅茶苦茶に、望んでいなかった方向へ捻じ曲げられたのだ。エイヴィヒカイトに適したスペシャルウィークへ、無理矢理に歪まされたのだ。強い威光が眩しく、強引に、私の価値観の悉くを打ちのめし、侵していく。

 傷物にされたと、以前、どこかで彼へ言った気もするが、アレは間違いだ。

 傷どころではない。スペシャルウィークだけではない。

 ()()()()()()()()()()()()

 

「――――でも――――もう、いいんだよね」

 

 もしもをいつだって夢想して、結局手に入るのは、満たされない渇きだけ。

 

「でも――――もう、潤してくれるんだよね」

 

 走ればいつだって、白い外套の残影が、網膜の真ん中を占領していた。

 

「でも、もう、これで終わりだもんね」

 

 白黒の失速していく悪夢も、もう見ずに済む。

 ――――()()

 グラスワンダーには、渡さない。

 エルコンドルパサーには、渡さない。

 セイウンスカイには、渡さない。

 キングヘイローには、渡さない。

 エイヴィヒカイトだけには、渡さない。

 私は、絶対の存在ではない。あの頃の魔王のような、絶対性は持ち得ない。この想いには、絶対的な効力などない。

 でも――でも、でも、でも、でも、でも、でも、でも、譲らない。

 勝ちたい、勝ちたい――勝ちたい――――

 

()()()()()

 

 ――――――――キミに勝ちたい――――――――

 

 

 

 ――門出の春。出会いの春。季語として扱うなら、春とは中々に縁起が良さそうな趣がある。

 でも、目の前に広がる景色を見れば、思い浮かぶのは『始まりの春』だ。

 最近では中々どうしてお目にかからなかった、満開三昧な桜花の舞。ターフへ踏み出して間も無いのに、淡い桃色吹雪は自分の全身をあちこち叩く。

 ふと、鼻頭へ一枚の花弁が羽を休めて、指ではじけば風に流されて、どこかへ飛んでいく。

 

「うっすうっす、ども、みなさん」

「本当に、カイトくんなの……?」

「はい、エイヴィヒカイトです」

「……本物?」

「何を疑うか」

 

 ――この期に及んで真偽を疑われるのは、スズカの持つ天然さの現れか、はたまたカイト自身の積み重ねか。

 そんな様子を観察する視線が、ひとつふたつみっつ――何百よりも多い視線の数々。立ち往生していればそれも当然か。ましてやここは、実質的な男子禁制の大舞台であったことを思い出す。

 けれど根が図太い自分は、そんな飽き飽きとした視線をものともしない。どうでもいい。眺めたければ眺めればいい。バカにしたければ口々に言えばいい。好きなだけ喋れ、好きなだけ目にしろ、好きなように、自分の好きなままに、自由にしていればいい。――――他ならぬ自分も、好きに勝手をしようとして、此処まで来ているのだから。

 煩い筈の歓声の只中で、一人静かに、感慨へ耽る。

 自らの我欲に従い、少年のような心の色彩を纏い、その()()へと歩みを進める。

 

「調子はどう?」

「気分だけならどうとでも。……その節はどうも、世話になりました」

「ううん、カイトくんの努力を特等席で見れたんだもの、むしろ得した気分ね」

「そうすか」

 

 ――きっぱりと、いっそ冷たく、大きな恩を受けていた先輩との挨拶を打ち切った。失礼だったろうか。でもいいじゃないか。だってしょうがないじゃないか。いかに尊敬する先輩だろうと、恩をいくら受け取っていても、彼女の援けが無くてはこの場に立てなかったとしても――――優先させるべき存在は、彼女じゃない。

 目指すべき極致は定まっている――――彼女たちのいる場所こそが、そうなのだ。

 到達点へは程遠き道でも、それでもきっと大丈夫――――俺は、もう、大丈夫。

 熱く滾る、俺だけの夢がある限り――――俺は、最初で最後の夢を追いかける。

 

「ぉに……お兄さ、まぁ……!!」

「はい、そうです、貴方のお兄さんです」

「もどっ、戻って来た……! 本当にっ、戻ってきた……!!」

「ボクもマックイーンも、人のこと言えないけどさー……カイトも、大概だね」

「そうだ、俺も、大概なバカに仲間入りしてた――――それだけだな」

「並んで走れるなんて……っっ、夢みたい!!」

 

 乱雑に、どうでもよさげな態度を隠す努力もしないで、妹分の頭を撫でまわし。生意気な後輩と、やや雑に言葉を交わし。

 その方向へ、歩く。

 

「……っ……ちょ、ちょっと、アンタ」

「? ……なんだよ……えっと、リトルココン」

「――――!? ……えっ、あっ、あの、えっ??」

「ビターグラッセも、今日はよろしく」

「……おっと、私の名前も覚えてくれてたか」

「そりゃ、理子さんの教え子達なんだから」

 

 その二人も、どうでもよかった。

 関係性が薄いが故ではない。関係性があろうとなかろうと、あの五人以外は、今は、皆、平等にどうでもいい。

 

「なるほど……マルゼンが浮ついていたのは、君が理由だったのだな」

「――――へ? え、ぁ、ああ、はい、そうっすね」

「……眼中には無し、か。相変わらず君は、一つの方向ばかりを見たがる」

「はい、そうっすね。……? 何か言いました?」

「ふふっ……そういうところだよ」

 

 嬉しそうな顔を見せる会長にも、その言葉が一つも耳には届かない。意味を汲み取れない。ロクな挨拶も交わさなくなった。

 もう、すぐそこにいる。

 

「その勝負服……誰かに……むむ……」

「……」

「! ……そうだ、アルダンと、こう、雰囲気が被る気がする」

「…………え? ……なんか、言いました?」

「――――すまない、気を散らさせるつもりは無かったんだ」

 

 芦毛の先輩が、いたような、何かを喋っていたような、そうでもないような。

 ――――目線が、克ち合う――――

 

「戻ってきたのか」

「あ、はい、そっすね、その枝が美味そうで何よりっすね」

「……コイツ、大丈夫か?」

 

 自分が何を言っているのか、何を伝えたいのか、ナニと話しているのか、不明瞭だらけなそれらを一切無視していられる。

 ――――心臓が、過剰に弾む――――

 

「カイト……大丈夫、なのか……?」

「……」

「……カイト?」

「…………」

「貴様ッ……、はぁ……いつまで経っても、そんなか」

「…………へぁっ? ……何か、言ってました?」

「何でもない。……本当に、そういうところは変わらないな」

 

 知り合いが、いたような、いなかったような。

 ――――見える、感じる、もうすぐそこにいる――――

 

「……………………」

 

 いざ、()()()へ立つと、気の利いた言葉など、一片も生まれようとはしていない。言葉は大切だ、語らう行為は相互を理解するために、不可欠な繋がりだ。これが不足していたから、自分の過去は散々だったのだ。だから、いざという場面では、積極的に言葉を尽くすのは間違いじゃない。

 ああ、クソ――――無理だ。

 

 ――――その五人の前に、立つ――――

 

 だって、もう、抑える必要がない。

 この鼓動を、聞かれないように隠す必要はどこにも無い。復帰できるか否かの判別がつかない時期ではない、もう、両手を広げて、己の底までを吐き出しても良いのだ。

 自分は此処にいると、声を高々に。

 憎しみに似た心が在る。悪意に似た心が在る。雑念だらけの心が在る。欲望と同義の心が在る。敵愾を示す心が在る。運命を喜ぶ心が在る。悦に浸る心が在る。愉しみを感じたがる心が在る。

 ああ、ああ――――クソが、無理だ、もう、ダメだ。

 ()()()()()()()が、瞳へ灯る――――告げる言葉は、多くなくていい。

 尽くすのは、口先ではない。そんな下らない前口上の為に、これまでを積み重ねていた訳じゃない。

 ただ一言、それだけで、この心の一端でも伝わればそれでいい。

 

「――――ため」

 

 口が、震えて上手く動かせなかった。

 緊張、武者震い、麻痺痙攣、なんだっていい。どうでもいい。言語中枢など、ぶっ壊れたってかまわない。会話に必要とされる要素など、これから始まる刹那には要らないのだ。脚が動けばそれでいい。脚を動かせるだけで大した成果だ。脚を動かして、勝利へ向かって走るのだから、口など必要ない。

 

「勝つために、俺は、ここにいる」

 

 友達へ向ける視線じゃない。――これが、狂人の集まりなのかと言われても、強い否定は難しい。もしくは、実はそこまで仲が良くないのだと指摘されても、否定しきれるだけの材料よりも、肯定できる材料の方が大きい。

 死んでも勝つ――――命を捨てても、俺は勝つ。

 だけじゃない。

 

「勝ちたい」

 

 殺してでも勝つ――――お前らに殺されてでも、俺は勝つ。

 

「俺は、お前らに、勝ちたい」

 

 嗚呼――――なんて、独善的な相互関係。

 誰一人、互いを想った心境など持ち合わせていない。嬉しいことに、エイヴィヒカイトの身体を気遣った視線を、誰一人からも感じ取れない、それが、踊りたくなるくらいに嬉しかった。それどころか、脚を壊し切っても、脚を腐らせても、命を取りこぼしてでも走って欲しいと、五つの双眸は、爛々と、悍ましい色の欲望を映し出していた。

 笑顔は、一つもない。薄ら笑いを浮かべそうなスカイですら、鋭く、その目が刺してくる。

 でも、確信できる。

 

『各メンバー、ゲートへ向かっています』

『しかし……こうして並ぶと、そうそうたる顔ぶれですね』

『それもその筈、いつぞやの有馬記念を思い返させるメンバー!』

 

 自分達は今、最高に、心が喜んでいる。

 

()の帰還に、各々思うところはあるのか……是非とも聞いてみたいところです』

『きっとターフの上で、存分に語ってくれることでしょう』

 

 銀色の柵が、視界を遮る。

 これが開いた瞬間だ。

 その瞬間に、始まる。

 最初で最後の、()()()()()()()が――――渇望していた、その領域が、とうとう。

 ――見逃すな。音は要らない。目の前だけを見続けろ。眼前の世界が広かれた瞬間だけを捉えろ。横の存在は気にするな、どうせレースが始まれば否が応にも意識せざるを得ないのだからああでもああクソが、グラスと走れるのかスカイと走れるのかキングと走れるのかエルと走れるのかスぺと走れるのか、あの夜の続きを楽しめるのか、あの失望をこの手で雪げるのか、感極まるなんて話じゃない、涙などもう何度流してもおかしくない、感動で頭なんて爆発しそうで、心なんて灼け付いて熱くて痛くて、胸がどくどくとばくばくとぎゅるぎゅるとうるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ、邪魔をしないでくれ、うるさいのだ、聞こえないんだよ、あいつ等の息遣いが聞こえないんだよ、あいつ等の呼吸のリズムを量れないんだよ、なんでも使わなくちゃ勝てない相手なんだ、測れるものは図って、計り尽くさなきゃ負けの見込みが大きい相手なんだ、判断材料を己自身で遮ってどうする、バカが、はしゃぎ過ぎだ、少しは冷静になれ、楽しむのも大いに結構だが、それ以上に勝ちたいのだろうが俺は。そうだ、勝ちたい、勝ちたいんだ! 勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい!!!! ――――その為にも、少しくらいは、冷たさを取り戻しても――――

 

『――――スタートしました!』

 

 ――――本当に、俺はバカだ。どうでも、いいじゃないか。

 走れるなら、なんだっていい!

 スペシャルウィークと走れるなら、なんでもいい!!

 グラスワンダーと走れるなら、なんでもいい!!

 エルコンドルパサーと走れるなら、なんでもいい!!

 セイウンスカイと走れるなら、なんでもいい!!

 キングヘイローと走れるなら、なんでもいい!!

 勝ちたいのは、それはそう! 認める! 否定しない! 否定できない! エイヴィヒカイトは勝ちたい! 絶対に勝ちたいと望んでいる! 悪夢に見るくらい、その結果を渇望しっぱなしだった! 胸を掻き毟っても、ソレを求める疼痛は収まらない! どうかしているほどに、俺は勝ちたい! 勝ちたい!! 勝ちたい!!!!

でも、それはあくまでも結果だ。仮にこれが敗北だとしても、意味のある敗北ならそれでいいと、自分はきっと、その結末にもまんぞくできるだろう。――当然、そりゃ勝ちたいけど、でも。

 だって、ああ、ほら、だってほら、ほらっ、ずっと待ってた、今日の日の為に俺はここまで来たんだろうエイヴィヒカイト!!!! ――――この一歩目が、こんなにも、心臓を熱くさせるのがその証拠。

 ――春の木漏れ日が俺を歓迎していた。

 桜の吹雪が囲み、蒼穹の天空が視界に澄み渡る。

 冬の気配は遠い。重きに渡る時を過ぎ去り、少年は此処の刹那まで成長した(辿り着けた)

 黄金の友と並び立ち、永劫の魔王は此処に在り。

 寂しさの介さない顔で、強く、前へ。勝利へ向かい、遥か先までを走り競う。それはなんて、希望に似た何かを信じたくなる、夢のような想い。

 そして、意気揚々と、鳴動の始まりを踏み出し――――――――。




 一気に書き上げてるので、誤字脱字があればゆるしたまえ。
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