未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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番外編的なやーつ 短いっす

過去捏造タグ追加デース……これもまた、一つの地雷さ


世話焼きの理由

 バヅンと、意を決した一度目は大丈夫。

 持ちやすくて高価そうな銀の鋏。その感触が気持ち悪くて、でもそれをまだ上手く語彙には出来ない。そんなもどかしさも混ざった不快の感情。

 不快は全て呑み込んだ。いつも通りに、くるしいことは胸の奥にしまい込んだ。

 

「……ッ、ぁ、!」

 

 バヅンと、二度目はちょっと声が出た。

 大きな声を出さないように、握った鋏を痛いくらい握りしめる。息を潜めるように、口を両手で塞ぐ。

 声を荒げれば他のヒト達に気付かれてしまう。気付かれたら、もう二度とこんなチャンスは巡ってこない。

 だから唇を噛み潰して、くるしいこと全部を吞み込んだ。

 

「…………へたっぴめ」

 

 黒髪な少年の背丈を軽々と追い越す鏡は、少年の全身を余すことなく映し出す。

 頭頂部の黒色はボロボロ。腕がうまく届かないから、上手く切れない。

 しょうがないから、手頃な部分から切ろうと思った。

 ぬるぬると汚れた鉄鋏は、握力の乏しい少年には握り辛い。だから子供ながらに知恵を使った。

 

「……ふふん、これならだいじょうぶ」

 

 テレビで大工さんを見たことがある。

 ノコギリという、この鋏と似た色をした道具で、色んな物を切っていた。それに倣って、鋏を広げ切って、刃を左手に掴んだふさふさに押し付ける。

 持ち方が甘かったのか、人差し指を少し切ってしまった。

 

「いてて」

 

 このやり方は失敗。だから次のやり方を模索する。

 ここでもう一つ、子供ながらに知恵を働かせる。

 こないだアニメで、ぎろちん、という刃物が出てきていた。

 モノを固定して、上からの刃物を落として切る。それに似た形を作れば、できるかもしれない。

 部屋中を探し回って、固定できるものを探す。

 今はあるだんや、まっくいーんとのかくれんぼの最中。まっくいーんはスイーツ脳だから、少年を見つけるのは困難だろう。けどあるだんはお姉さんだから、きっとすぐに此処を見つけてしまう。

 そうなる前に、急ぐのだ少年。

 

「……あった」

 

 見つけたガムテープで、片刃を椅子の上に固定する。

 その上にふさふさを置く。でもここからだ。少年の力では、ふさふさの中にある硬い部分は切れない。未成熟の少年のそれはまだ柔くとも、少年にとっては難攻不落も同然だった。

 だからぎろちんだ。あれは降ってくる刃の重さも利用しているのだと、こないだ調べたことがある。

 少年の握力よりも、少年の体重の方が強い。それを彼は理解していた。

 もう片方の刃は、軽くふさふさの上に乗っている。

 だから少年は迷うことなく椅子へ飛び込み――――

 

 

 もうマックイーンは見つけていて、今度は一緒に彼を探す側に回っていた。

 この広い御屋敷の中でかくれんぼなど、私は最初本気かと思った。

 人数が多いのならそれも分かる。でもたった三人で、レース場にも匹敵するこの屋敷でかくれんぼとなれば、顔も少しは引き攣る。

 己の身体の弱さからくる一種の悟りのような心境が、同学年の娘達よりも私を大人びせる。それに比べて無邪気に目を輝かせる二人の、なんとも元気が良いことか。

 鬼ごっこなどではなくかくれんぼなのは、過度な運動を避けたがる私への配慮らしいが、この広い御屋敷を歩き回るのなら大差はない。でもとても楽しそうな二人に釣られて、私はつい了承してしまった。

 そうしてゆっくりと、二人を探して回っていた。

 

「あるだん! おにいさまはどこへかくれたのでしょうか?!」

「……意外とスタート地点で隠れているかもしれませんね?」

「!! なるほどですわ! いきますわよあるだん! めじろのなにかけて!」

 

 キラキラと輝かせた瞳で、でもゆっくりと私の腕を引くマックイーン。今にも走り出そうとしているが、私と一緒に探そうとしてくれているのだろう。歩幅を合わせて先導してくれる姿は、とても愛らしくて、思わず抱き締めてしまいそう。

 そうして歩いて、彼を見つけた後はおやつの時間が頃合いだろう。少しお腹を満たせば、お眠の時間にもなるかもしれない。私も少し歩き疲れて、微かな眠気が誘惑しているのを感じる。三人でお昼寝するのも、それはとっても楽しそうだ。

 そうやって呑気に歩いている。私はその先で、一生分の後悔を背負うことを自覚していない。

 ――――心身を引き裂く甲高い声が、屋敷中に木霊した。

 

「っ!! ……? 今の、声って……」

「…………おにい、さま?」

「――――ッッ!!!!」

 

 走った。ガラスの足だと、散々言われ尽くしたことを今だけ忘れ切って、ただ走った。

 痛みを無視して違和感をそのままにして、叫びの方へと走り出した。

 想定される事態は浮かばない。予測可能な可能性は思い当たらない。でもその叫びに途方もなくあやふやな『最悪』を予感して、ただその方へと走り出した。

 そうして辿り着いた叫びの根元。

 扉を上品に開ける手間を省こうと、荒々しく開けようとすればドアノブが仕事をしている。押しても引いても施錠は微動だにしない。

 

「カイト!? そこにいるの!!?」

「――――」

 

 扉を殴りつけながら、室内の状況を伺おうとする。

 誰かしらの返事は無かったけど、ドア一枚隔てた向こうからは、幼くも噛み殺そうとした嗚咽が聞こえて――――それが誰のモノなのかなんて、すぐに答えが出た。

 

「なにがあったの!?! お願い開けてカイト!! ねえ!!」

「――お嬢様」

 

 すぐさま駆けつけてくれたじいやが、マスターキーで開錠してくれる。

 不審者だとか、そういった事件性を思い至らなかったのは、相当に慌てていたんだと分析できる。

 ただ心配だった。そんな混沌が脳裏を支配して、扉を開け放った瞬間――――思考は赤に支配された。

 ――――黒っぽい赤色がまぶされた、茶色だったはずの椅子。

 ――――照明をチカチカと反射させる、紅銀の鋏。

 ――――震えた両手で断面(尻尾)を抑える、真っ赤になった私の弟。

 止まって一秒。叩きつけられる情報に眩暈がするまで一秒。苦しそうに呻くカイトへ駆け寄るまで、一秒。

 これが私の後悔。これが私の失敗。これがその経過。

 

「ぁ、かい、と?」

 

 カイトが秘める心の闇を、私は軽く見ていた。カイトに押し付けられた悪意の重たさを、私は知ったかぶっていた。

 周りはずっと、言ってくれる。あの時のアルダンは子供だったのだから、と。だから何もできなくてもしょうがないって、そう言ってくれてしまう。

 でもそれが、カイトに何の関係があるのだろう。

 ――――私の責任だ。

 弟として受け入れて、その背景には、幼い子供が背負うには、重たすぎる事情があることに気付いていた。それなのに私は、その傷を癒すことができなかった。彼の拠り所にはなれなかった。どちらかでも達成できていたのなら、カイトはカイト(自分)を否定しなかった。自分の個性でもある尻尾と耳を、人生から断ち切ろうとはしなかった。

 あるがままの自分を愛せないなら、愛せない部分は切り離す。少なくともカイトはそうしようと踏み切った。

 愛する母との繋がりを断ってでも、許せない自分を捨て去りたかったのだ。

 

「――、」

 

 歯を食い縛りながら、訣別のための鋏を再び求める。

 カイトにとっての希望へ、痛みを圧して手を伸ばした。

 空洞の奥で光を輝かせながら、自らの救済へ手を伸ばす。

 この屋敷へやってきて一年間。私には見ることのできなかった、喜色に溢れた満面の笑みで。

 その姿を見て、そんな恐ろしさを感じる姿を見て、私は。

 

「! ダメッ!!」

 

 反射的に手を繋ぐ。救いを邪魔するように、伸ばした手を強く握る。

 

「ある、だん……じゃま」

「――っ、ダメ、もうやめて、――――カイト」

「どいて、じゃま、しないで」

 

 生体が切り離された激痛の中、それでも更なる痛みを求めるその身体を、私は強く抱きしめる。

 多分、私が目を離したからこうなったんだ。ずっと見守らないと、他者に無理矢理残留させられた悪意を、誰かがほどき続けないと。でないと今度は、きっとエイヴィヒカイトの根底(イノチ)を断ち切ろうとする。

 

「ごめんなさい」

「? どうでもいいから、どいて」

「っぁ、――――ごめん、なさい。ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい」

 

 邪気は無い。悪意も無い。ただ彼にとっては、私よりもあの忌々しい紅銀の方が大切なだけ。

 でも、それでもこの手は離さない。絶対にもう離れない。

 一生分の後悔はここだけでいい。この先何が在ろうと、もう貴方からは目を離さない。

 だから、お願いだから。そんなモノに救いを見出さないで。無機質な希望を抱かないで。見せかけの救いの方へ走っていかないで。そんな事をしても貴方は救われない。

 いくらだって謝ります。何年間でも傍にいます。貴方が喜んでくれるように、だれにでも笑顔を向けられるように頑張ります。

 だからどうか、私を貴方の救いにしてください。




アルダンはうちのトレセンにはいませんが、なんか感情移入して泣きそうになってきた
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