未踏領域で果てる   作:真の柿の種(偽)

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そういう一環なのでした、まる


そういう一環なのでした

 テレビ番組、或いは昨今では動画配信サイト等で取り組まれる企画というものがある。企画と一口に言っても種類種別は多岐にわたり、多様性の時代という表現もかくやと言わんばかりにバリエーションも多い。しかしそう身構えるような大事である場合は少なく、用いられるその殆どは、あくまでも日常での遊びの一環でしかない。

 そして、そういった遊びで大事なのは、遊びのルールではない。その内で遊びまわるメンツが一番に大切なのだ。テレビの中の人物は、そういった企画に対する反応を喜ばれている、或いは喋りが面白い人の違った一面を見てみたいと望まれたからこそのキャスティングだったりする。例えば見知った友達同士で鬼ごっこをするのと、顔も知らなかった連中と走り回るのは、どちらの方が心から楽しめるかという話だ。望まれていない素人が芸能人の真似事をしても、土台、空気を冷ますのが得意な道化としての失笑が関の山であろう。頼まれても見世物として視線を浴びせられ尽くすのは御免だし、そもそもとして、自分へと声を掛けるようなモノ好きがいてたまるか。

 だが、上記の例えで出したように、それが身内間で行うレクリエーションの一環であるのなら話は別である。

 青春の季節とは短い。一つの一生で80年弱の齢を重ねるとして、いわゆるアオハルの時期とは12~20までの、たったの八年間しかない。そしてその希少な季節を使い潰そうとしていた過去はさておき、今ではこう、立派に生を謳歌するべく、手放した青春を楽しみ切ろうとはしゃいでばかりの毎日だ。山へ向かうわ海へと走るわ、それが如何に過酷極まるアクティビティだろうと、遊びに誘われたのなら、内容も聞かずに率先して飛び込んでいく。

 故に、笑っちゃいけない感じのお泊り会だったり、クイズ大会だったり、トレセン学園主催の催しへ参加するメンバーの中には、エイヴィヒカイトの姿が良く目撃される自覚だってある。

 故に――――そう、故に。そんな毎日を過ごせる今が、心の底から楽しいのだ。嵐のような幸せでなくとも、そよ風のような幸せを得られれば満足なのだ。

 故に、故に――――そう故に、味利きクイズは楽しいという話なのであった。

 ゴルシ企画、やよいちゃん主催となれば、乗らない話はあり得ない。理事長室でやよいちゃんと遊んでいれば、そんな話を持ち出してきたのだ。内容を拝聴してみれば、参加メンツは自分を含めて他五名でどうだろうかという話で、そして自分には、声を掛けやすく、仮にこれが悲惨で滑稽な内容となる代物だとしても、遠慮なく巻き添えに出来る仲間がいるじゃないかと。

 つーかこんな楽しげなビッグウェーブ、乗らざるを得ませんから。

 

「ばっきゃろい、俺の舌はとある娘によって大変肥えているんですぜ」

『メジロアルダンさんとは家族ぐるみで仲が良い彼は、今回はかなり有利かもしれませんね』

「なんたってこちとら十年来の付き合いよ、迷いもなく即座に断言してやらぁ!」

『豪語ッ!! 大した自信を持っているようだぞ』

 

 だからこうして、エイヴィヒカイトは一世一代の決意をホイホイと引き出し、全身全霊で遊びを尽くしているッッ。

 二つの皿から、それぞれのを一口ずつ、スプーンで口へ運んでいく。

 目を瞑り――――Bは、あまりにも美味すぎる、というか好みへガッチリ当て嵌まり過ぎている……? コレを作ったのは一流のシェフとアルダンって話だったか……器量良し人柄良し育ち良し、の美少女三点セットが揃ったさしものアルダンと言えども、その道の一流を凌駕する味を出せるとは思えん。そりゃ、その辺の二流くらいなら余裕で完封でもするだろうが、流石に三つ星の味を凌駕するとまでは身内贔屓に出来ない。初めて食べる味に感じられないくらい、いっそ食べ続けた味のような馴染みの深さ、これが一流たるゆ由縁か、すげぇんだな一流シェフって。であるのなら、Bこそが『一流シェフの作ったビーフシチュー』に違いない、コレは確信だ。一流であるからこそ、絶賛できる味であるという理論は、どうしたって揺るがせない。そして消去法によって、Aのあまりに濃すぎる味付けの方こそ『メジロアルダンの作ったビーフシチュー』であると――――結論は出た。

 

『目を瞑って、よく考えこんでいますね』

『期待ッ!! 視覚を閉じることによって、味覚と嗅覚の精度を上げているのか。感覚派である彼らしい、本能に身を任せた最適解と言えるだろう!』

『現役時代を屠沸とさせる気合の入れようですね。見合った結果であることを祈りたいです』

 

 実況及び解説席に座る、たづなさんとやよいちゃんが好き勝手に喋くり、会場は徐々に静まっているようだ。特設ステージ上の部屋へ隔離された自分には分からないが、ざわめきのような、空気の流れはなんとなく分かる。

 咀嚼を進めるたびに、周囲の熱は少しづつ高まっているように感じられる。この視線の中には、このビーフシチューをお作りになられた方もいらっしゃることでしょう。つまり、間違えられないのだ。間違えたら申し訳ないのだ。自分的には間違えたらマズイ事情があるのだ。説教は喰らわないだろうが、不機嫌にさせてしまう可能性というか危険性が存在しているのだ。

 そんな、高まる期待へ、高らかに、自慢げに、自身を誇って宣言した。

 

「これは――――Bだッッッ!! Bが『一流シェフの作ったビーフシチュー』だ!!!!」

『さっきまでの時間は何だったのでしょうか』

『無念ッ!! 意気込んでいた時の宣言が大きい物だっただけに、あまりにも惨い結果である!』

『彼の場合だと、他の方とは違って後が()()()……まあ、いつもの事でしたか』

 

 なってこったい、間違いなく正解だ、完全解答に違いない。外の声はちっとも聞こえてこない防音仕様だが、きっとスタンディングオベーションと共に、盛大な歓声が上がっている事でしょう。

 

「ボーナスクイズにも程がある。つーか出す相手を間違えてますよ~っ」

『不正解者が何かを言っていますね』

『滑稽ッ!! 答えを知った時の姿が楽しみだ!』

 

 我が愛しの御方も、涙を流して喜んでくれている事でしょう。ことアルダンが絡んでいるのなら間違える道理が無いのである。こんな簡単が過ぎるバカを思いついた出題者を嘲笑いながら、隣接した部屋へと歩いていく。凱旋とはこんな気分か、大名行列の主役にでもなったような気分だった。

 選択肢を確定させる、AとB部屋への扉は二つある。赤い方はA、青い方はBだ。そして自分が選ぶのは、当然決まり切っている。

 御馳走様の意を伝えんとするため、感謝を叫びながら扉を開けたのだった。

 

「美味しい料理、御馳走様でしたァ!!」

「よかった、カイトくんがこっちに来てくれた……!」

「カイトがあの二択を間違える訳無いのは知ってましたけど……何にせよ、これで安心デス!!」

「あ? ……んっ? お、おやぁ? …………き、キングとグっ、ラスは?」

 

 一番マトモなトップツー、一番イロモノとは遠い二人、その姿がおかしいな、どこにも見えないのですがこれ如何に。

 

「あの二人はAの方にいるよ」

「えっ、……えっ、ぅぇっ? ……………………い、いやだ!!」

「うわっ、すっごい失礼なこと言いますね」

「私たちも心配だったんだけど……カイトくんがこっちを選んだなら安心だね!」

「こっちには不安しかねぇんだけどねっ!!」

 

 アカン、心臓がバクバクしてきた。だってどうするよ、食べる前に一言お嬢から、コッショリと言われていたのですよ。お日様な笑顔で、天使すら魅了する声で、息を止める甘い痺れを引き起こす流し目で、彼女はこう言っていたのです。

 

『外したら()()()()――――ですよ?』

 

 ナニをされるのか、たまったものではない。「わーいおしおきだー」とかほざきながら、喜んで勇んでその坩堝へ飛び込める勇気は無い。堕落と背徳の蜜に、どろどろと溶ろかされる気は毛頭ないのだ。まだまだ社会的日常を過ごしていたいのです。お天道様を見上げられる世界を手放したくないのです。汚れの無いコンクリートに囲まれて、鉄臭いブレスレットを着けっぱなしにされて、屋敷の地下から上へ浮上できる余地の生まれない生活など、そんなのは霊長類として生きていると呼べるのでしょうか?

 

旨さ=赤さ(デスソース)に万歳を掲げる味覚破綻者と暴食総大将なんか不安材料以外になりゃしねぇよぉ!!!!」

「なんて言い草をしやがりますか、心外デス。ね、スぺちゃん」

「ねー。そういうカイトくんだって、私たちと同じ選択したんだから」

 

 ああ、太陽が遠退いて、地球のマントルへと一フロア分近づいていく未来が見えそうだった。抵抗を許されざる身なのだ、ヒエラルキーの低さに関しましては、これまでもきょうもこれからも、少なくとも今生では見通し不明瞭です。

 

「いやだぁー!! Aに行かせてくれーーー!!!! グラァーーース!! キィーーーング!! 頼むコッチ来て俺に安心を与えやがれェーーーーー!!!!」

 

 嘆きも、叫びも、絶望も、どうしようもない選択を一つした後の祭りでは、ただただ空しい木魂に過ぎないのだ。

 

「カイトがいますように~っと……おお、私、正解っぽいね」

「セイちゃん、いらっしゃい」

「勝利者の部屋へようこそデス!」

「スカイ、だと……? 数の上ではこっちが上……? スカイの洞察力……人数差……キングのよく出るへっぽこ加減……グラスのたまに出る天然具合……これもしや、ワンチャンスあるのか……! きっとこの部屋を出ればアルダンの喜びの抱擁が待っている……!?!?」

「……カイト、どうしちゃったの?」

「きっと遊び過ぎで疲れてるんだよ」

 

 

『これは――――Bだッッッ!!!!』

「え」

「これは……私達、やってしまったのでしょうか」

 

 その高らかな宣言を見にモニター越しに聞かされて、敗色の気配が室内へと漂い始める。これがエルの叫びであるのなら、勝ちの気配を濃くしていただろうが、ことその人物は、今回のお題に対してあまりにも有利な存在だ。参加した六人の中で、一番育ちの良いキングちゃんすら、彼の判断と比べれば不足するだろう。それは隣に座るキングちゃん本人も自覚しているようで、カイトくんの叫びを聞いた途端、あんぐりと口を開けて驚いていた。気持ちは分かるのだ、私とて、同じように驚愕を表に出したい心持だ。

 せめてお茶であるのなら、私にも充分な分があったのだが。百歩譲って味利きとしても、自信と言うほどの舌ではないが、今回よりかは胸を張っていれただろう。とはいえエルがAの部屋へ、意気揚々と飛び込む姿を見てからは、キングちゃんと二人で、一安心と胸を撫で下ろしたのだが。

 

「Bは、ちょっと、味が薄すぎたように感じました」

「素材の味を活かそうという意識が強くて、優しすぎる味わいで……そうね、キツく言えば薄かったわ」

 

 話に聞く()()の手料理、彼から伝え聞く話では、誉め言葉の桜吹雪のように咲き乱れてばかりだった。だからこそ、実食した際に感じたのは、驚愕混じりの納得と、疑問混じりの見込み違いの二種だ。

 こんな味をカイトくんは毎日のように味わっているのかという納得。このくらいの味でカイトくんは満足してしまうのかという衝撃。

 

「でもカイトくんは……」

『ボーナスクイズにも程がある。つーか出す相手を間違えてますよ~っ』

「……こう言ってますよ?」

「カイトの感覚を信じるに値する題材だけれど……むぅ……」

 

 前者であれば、重ための敗北感。後者であれば、侮蔑にも近い苛立ち。

 好いた者へ心より尽くしたくなるのは当然だろう。己の精進を繰り返す想いは上書きされて、苛立ちは、やはりどうしても。

 その程度の腕前で、彼から受ける唯一無二の絶賛を得ているのかと。

 

「アッチの部屋ね……」

 

 ミニモニターでは、意気揚々と歩くカイトくんが、元気の良い声を共にして扉を開けていた。

 その色は、青色で。

 

「……まだ、勝負は最後まで……」

「レースならともかくだけれど、今回に限っては……」

「…………ま、まだまだ」

 

 と言いつつも、敗北の未来は目前まで迫りつつあるように思える。

 エルとスぺちゃんの笑顔が彼を出迎えて、それを最後に扉は閉まった。二人の姿を一瞥した瞬間、彼は全身を硬直させていたように見えたが、さて。

 

『グラァーーース!! キィーーーング!! 頼むコッチ来て俺に安心を与えやがれェーーーーー!!!!』

「……ですって」

「是非とも馳せ参じたいところですが」

「まったく……呼びたいのはコッチなのよ」

 

 セイちゃんがダメ押しにBの部屋へ入る事で、こちらの部屋内は更に敗色を濃くした。

 けれど結局、勝利の女神は、正解を一番選ばなければならない方へは微笑まなかったのだった。

 

 

「違うんだ! その、あの、アレだよあれ、っと……………………ちがうんですよ」

「違う、とは」

「……!」

 

 正座の痺れが脳へと響く渦中、閃光が思考の中で弾けた。これこそ天啓と、者どもは言うのだろう。その感覚をカイトは、苦痛に耐える最中で見事に掴み取ったのだ。

 

「ぃ、一流の腕前と見分けがつかないって、それって誉め言葉なのでは?」

「――う、ふふっ――」

「……」

 

 サァー、っと、血液が退いていく音がした。苦痛の中で手にするモノなど、どこまでも中身の無い伽藍洞でしかないのでした。それどころか、怒り心頭から怒怒怒怒(怒り心頭)って感じである。

 表情は伺えない。顔を自発的に見上げられないこの心、どうか分かってはもらえないか。言わずとも態度で汲み取れる心意気だってあると信じたい。問題なのは、助けを求める相手もおらず、孤独な戦いへ臨まねばならないという無情であるのですが。私見ではあるが、この私見が彼女にとってどこまで意味のある嘆願になるかは分からないが、情状酌量の余地はあるとエイヴィヒカイトは信じたいのでした。

 

「ぃっ、ったん、聞いて、くれ」

「……、……」

「ヒュッェ……ま、待って……! 御咎めを受ける前にっ……! これだけは聞いてくれ……!!」

「……勝手にどうぞ?」

 

 見えた、これが、噂に聞いた隙の糸――――!

 

「お前の作った方が美味しかった!」

「……っ」

「シェフの方は、なんかこう、味がめっちゃ濃くて、俺的にはアルダンの方がよっぽど絶対遥かに好みでした!!」

「……ふーん」

「アルダンの作った料理じゃないと舌が丁度良くないというか、『ああ、やっぱり俺ってアルダンの作るご飯が一番好きなんだな』って再認識も出来ましたので! 此度のイベントはそう捨てたものではないのではありませんかね!?」

「……っ……そう」

 

 必死さを全面に出して、言い繕いの如くを主張するカイトに、愛しきひとは小さな相槌を返すだけだ。

 ひとしきり言い尽くした後、アルダンは少しだけ黙ってしまって、突然に後ろを向いて、言った。

 

「……今日の……」

 

 か細い声を、このギザ耳は確かに拾っている。上擦ったような声で、こちらからは顔が見えないが、その声のトーンには聞き覚えがある。というより、記憶しているアルダンの声色の中で、一や二を争うほど好きな表情をする際には、よくその声を聴かせてくれていた。そんな声に似ていたが、けれど背中はまだ『怒っていますよ』と主張するオーラを纏っている。きっと気のせいで、カイトがそう思いこみたいだけだろう。

 

「今日の晩御飯は、カイトがつくって」

「……?」

「そうしたら、ゆるします」

 

 顔を見上げて見れば、機嫌は案外悪条件ではなかった。提案の意図は不明、いや単純にカイトに作って欲しいという話であれば吝かではない。それが贖罪となるのであれば、尚の事張り切ってでもだ。『おしおき』とやらが無に帰すのであれば、是が非でもその提案を手に取るのに躊躇はしない。

 

「作ります! 滅茶苦茶手の込んだの作るよ!! 何食べたい!?」

「……何でも……手作りなら……っ……うんと美味しくないと、ゆるしませんから」

「任せろ! 俺の持てる全てを費やして作りますよ!!」

 

 不貞腐れたような口調を聞き届けた後、カイトは出せるだけの全力で、近場のスーパーへと走ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイトが間違えた時、本当に、ショックだったのよ……?」

「うんうん、ごめんな」

 

 すべすべともちもちが共存する頬を、優しくつついて、子供じみた膨れっ面を萎ませていく。そんな細々とした変化も、それを見せてくれているという信頼も、膝へと無防備に寝そべって来ると言う無遠慮さも、抱き締めたくなるほどに愛おしい。

 

「んぅ……もっとっ、ちゃんと撫でないと、ダメ……っ」

「はいはい、お嬢様」

 

 ご要望に従い、割れ物を扱う手付きから、指で掴むような力加減へと移行させる。

 撫でるたび、触れ難いような錯覚に襲われる。こうして触れ合う機会を得るたび、手櫛に感じられる艶は増している気すらしていた。日が経つごとに魅力的になっているのだろう、彼女なら納得の話だが、しかしカイトがそれ以上に、好きだという色眼鏡を全開にしているからこそ、より過剰にメジロアルダンという娘を愛おしく思うのだ。

 愛おしい、いとおしいのだ。恋しくて、愛らしくて、愛している自分が誇らしく、相互共に同様の想いを抱いているというのが理解できる。

 そんな心が、手つきへと出力されていく。

 

「アルダンは、可愛い、綺麗、どっちを言われる方が嬉しい?」

「……どっちも、カイトからなら、嬉しい」

「割と多い頻度で言ってる気がするけど」

「それでもっ……カイトから言ってもらえると、心が飛び跳ねて、くすぐったくて……どんなときでも、私に幸せの一刻(ひととき)を運んでくれるから……」

 

 歯止めが効かず、止めるタイミングも不可解な話で、止める必要性、あるのでしょうか?

 

「でも、一番、嬉しいのは……、……ぁ、ぅ……」

「言うだけならタダだぞ」

「…………っ……その、()()、とか……ぁ、あぃ、っ……あいしてる、とか」

「ちくしょうが――――」

 

 ――――かわいい。

 

 情とは、甘苦しい蜜へ例えられるように、荒れ狂う波と表されるように、しんしんと降り積もる雪と呼ばれるように、液状のような流体だ。底が無ければ深淵へとどこまでも深みへ堕ちていき、熱で以って昂れば蒸発せんと汗のように散っていく。ふまえて、カイトが今抱くのは、波である。それもただの波ではない、情けなくもへばりつき、未練がましくしがみつく、粘り気の強い蜜の波。

 甘く香り、モノ好きだけを誘い込み、粘り付いて剥がすことを赦さない感情。忌まわしい色、疎ましい色、厭らしい色、独りに善がり、望みを欲し、熱を保ちやすく――――冷めれば意味を成さない産業廃棄物、ですらない虚無。

 これを、これこそ、己の心に在る鼓動の根源こそ、愛であるとでも?

 バカな事をぬかすな。間の抜けた話は捨てろ。理の非ざる論は不義理だ。煩わしいあれこれは踏み潰せ。余分な皮肉は投げておけ。要らないのさ、要らないんだ、要らぬ、要らない、要らない、要らない、要らないのだ。この心を語らう事など無用、何故なら、この心を誰それへ懇切丁寧に語って聞かせたところで、ああ、得られた理解も得られた不理解も、どうせ唾棄にも劣る価値しか灯らない。

 煌びやかな飾りをどう扱う? 冷徹に基づいた理性など何に勝る? 言葉に出来る程度の熱など、説明ができる程度でしかないのだろう?

 であれば、やはり余計なモノは必要ではないのだ。

 

「アルダン」

「……?」

「あいしてる」

「ぇ、えへぇ、……へ?」

 

 言葉で伝えることは、相互で考えれば必要なことだ。だが、己を見つめ直すことに至っては、言葉など、判断材料を無駄に増やす手間でしかない。

 説明不要、証明不能、正体不明、そういった人智では語り尽くせぬ、恒星すら切って捨てる熱量で。

 

「アルダン」

「……」

「すき。……やっぱこれも、どっちのほうが嬉しいのかな」

「…………」

「いつでも、お前が一番嬉しい言葉を伝えたいから、教えて欲しい」

 

 エイヴィヒカイトは、メジロアルダンを、心から想っている。

 自覚も自認も、据えておくべき事実はそれだけでいい。

 今日の発端が、如何にくだらない遊戯だとしても構う事は無い。口実になりさえすれば、カイトとしてはそれだけで、くだらないことに全力で向かい合えるのだ。

 

「~~~~っっっ!!!!」

「ぉうわぁっ!?」

 

 押し倒されるのも抵抗しない。

 だって嬉しいから、それに尽きますのです。




・バカ
 バカ は 素人満漢全席 を 繰り出した !!  メジロアルダン は 食べきれなかった !!
 バカ は 膝枕 を 提案してみた !!  メジロアルダン は むしろ 飢餓を 煽られた !!
 メジロアルダン は 無理矢理 バカ を 膝枕した !!  バカ は じゅるじゅるじゅるりん と 貪られてしまった !!  どうやら満足してくれた ようだった !!
 薄味大好き! ……というよりは、素材を活かすための薄味が好きだが、水っぽいカレーが好きとかそういった話ではない。かといって病院食は薄味すぎて嫌い、しかしメジロ家から配膳された食事は、何故か好みに合致していた。
 味の好みには無意識にうるさくなる質だが、結局は、ただ一人の作る味でなければ理想と合致しませんという話。三つ星一流より、慣れ親しんだ親身な味の方が好きなのです。
 健康であれと願う心と、美味しいと思ってもらいたい心。知らずに受け取っていたとしても、心は勝手なことに、ほころんでしまうものだ。
 カップラーメンやハンバーガーといったジャンク食は、それはそれ、これはこれ。あんな雑な味なら、濃ければ濃いほど良い。

・お嬢
 どんな風に()()()()あげようかと暗黒微笑で待ち構えていたが、なんかもう、褒めちぎってくるわ、精一杯の手料理も振舞ってくれたし、食後もかまってくれたしで、怒りなどどこぞへと吹き飛んだのでありました。
 健康面重視のコンセプトをどう取り入れるのか、行き着いたのは病院食というファクターであった。しかしながら、健康だけを突き詰めるのも可哀想かと考えながらも、――――美味しいと言ってもらいたい欲は言わずもがな――――そういったあれこれを加味した試行錯誤を十年弱、ものの見事に胃袋鷲掴みを達成した。
 ジャンクフードを嬉しそうに食べる姿には、見かけるたびに苦言を呈する。その横顔は、確かに健康面を心配したものではあったが、されど嫉妬に似た感情もしばしば。
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