獄炎爺がシバいてくる   作:矢マン元

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 僅か二週間。たったそれだけの期間で、いったい何処まで行けるだろうか。

 

「基礎も大事っすけど、俺としては只管戦い方を整える方が良いと思いますけど」

「小猫や祐斗はそれでも良いかもしれないけど、一誠は素人よ?体が出来上がってないわ」

「まあ、そうなんすけど。ここにはうってつけの人材がいるじゃないっすか」

 

 寛治が親指で指し示したのは、頭に?を浮かべるアーシア。

 

「筋繊維がぶっちぶちに切れるのは、損傷。怪我の一種って事で、兵藤先輩が筋肉痛で倒れる毎にアルジェント先輩の神器で治療します」

「あ、あの!私の神器は、体力の回復までは……」

「んなの知らねぇっすよ。スタミナ切れだからって、攻撃の手を敵が緩めてくれるわけないじゃないっすか」

 

 あっけらかんと言い切る彼だが、周りは若干引いている。

 そも、彼の鍛錬自体が普通ではない。それは、夢の中の事が現実にフィードバックしているとかそういう事ではなく、単純にその内容が。

 

 得たのは、高純度の戦闘能力。失ったのは、慈悲の心とブレーキ。

 

「無謀じゃない?」

「無茶でも無謀でも、やってかねぇと。二週間程度しかないなら、基礎固めても発揮できるとは思えねぇっすよ。正直なところ、基礎と発展の同時進行でも足りないっす」

「……」

「気乗りしねぇのは、分かりますよ。貴方は、優しい先輩だ。でも、状況は待っちゃくれねぇ。俺が一から十まで蹂躙しちゃ意味が無い。手を貸すとは言いましたけど、その辺りは自覚してほしいっすね」

 

 厳しい物言いだが、これは当然の事。

 今回のレーティングゲームは、あくまでもリアスの婚約破棄の為に行われるもの。寛治は彼女が部長を務める部活の部員ではあるが、しかし眷属ではない。

 身内ではあるが、この件に関しては同時に第三者でもあるのだ。

 力は貸す、鍛錬は手伝う、しかしだからといっておんぶにだっこは許さない。

 

 かくして始まる鍛錬。後に、一誠は語る。あれほどの地獄の日々は早々無い、と。彼自身も暫く後に元竜王の一人に鍛えられるのだが、その時すらも超えるシゴキを受けた、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慢心は、しておらぬようじゃな」

「できる訳、ねぇだろ……!」

 

 炎を吹き出す刀を杖にどうにか立っている寛治は、息を切らせて睨み上げる。

 合宿だろうと、夢の中の鍛錬には一切の手心は存在しない。それどころか、いつもよりも苛烈な雰囲気すらもある。

 

 伸びる鼻っ柱など、伸びる前に叩き折られてきた。増長する心など、その前に叩き潰されてきた。

 どれだけ強くなろうとも、山本寛治には、慢心も増長も無い。抱くのは油断ではなく、余裕。

 

「ふぅー……集焔(しゅうえん)

 

 震える膝を叩いて立ち上がり、巻き起こる火炎を刀身含めた右腕に渦を巻いて集めていく。

 この技能。すなわち、炎の操作能力に関してだけならば彼の牙は、老人にも届きうるのだ。

 

 炎の集束。それは、ある種のゴールでもある。

 自身の右腕すらも薪として業火を更に滾らせるその姿を見ながら、老人はその目を細めていた。

 決して口に出すことは無いが、向かってくる少年は随分と強くなった。それを声に出して褒めた事は、殆ど無いが。あったとしても褒めたの?と褒められた側が首を傾げるようなもの。

 

 それでも確かに認めていた。歳など関係ない。強い者は、強い。それだけが事実だ。

 

「――――焔刃(えんじん)ッ!!」

 

 まあ、負けるつもりはさらさら無いのだが。

 寛治の斬撃は、斬ると同時に集めた炎が大きく炸裂する。更に、炎に指向性を一部持たせる事で疑似的なブースターとして斬撃としての破壊力の上昇も可能。こと、攻める事に関してはかなり凶悪な特性を有する技となっていた。

 

 そんないつも通り、地獄のような夢の時間を抜け、いつものように焼かれて目を覚ました寛治。

 いつもと違うのは、寝慣れないベッドである点。肩を回せばバキバキと良い音が鳴ったが、これを無視して、ベッドから立ち上がった。

 まず最初にやる事は、両腕の処置だ。今回は、特に右腕が酷い。

 

「さあて、集中集中。じゃねぇと痛いまんまだからな」

 

 神経が麻痺している訳でも、ましてや痛覚が無い訳でもないのだから腕や体に刻まれた火傷は、当然痛い。顔の右側も酷い日焼けをしてしまった時のように風に当たるだけでも痛い時もある。

 それでも弱音を吐かないのは、それだけ心が強いのか。

 

 或いは()()()()()()()()()と知っているからか。

 

 ある程度の火傷が癒えて、素手で触れても()()()()傷まない程度になった所でカバンから軟膏と、それから包帯を取り出して指先から簡単な手当てをしてから巻いていく。

 この動作も既に慣れたものだ。

 本当ならば、完全に治してしまう方が良いのかもしれない。寛治の回道の腕前は、お世辞にも良いとは言えないが、それでも時間さえかければ治しきる事は理論上不可能ではない。

 それでもしないのは、時間の無駄であるという事と、それから彼自身が痛みを忘れない為でもある。

 自分がどれだけ()()()()を持ち合わせているのか。言うなれば、その戒めの為にこの火傷の痛みを常に抱え続けていた。

 

 一切合切を背負っていつも通りだ。おくびにも出すことは無い。

 そうして、軽い朝食をとり、鍛錬(地獄)が始まる。

 

「ごえっ!?」

「兵藤先輩、踏み込みを躊躇ってる時点でダメっすよ。もっと勢いよく突っ込まねぇと」

 

 呆れた様な後輩の言葉を聞きながら、一誠は殴られた腹を押さえて地面を転がるしかない。

 その左腕にはごてごてとした紅蓮のガントレット、神滅具『赤龍帝の籠手』があるのだが、如何せん今の一誠の実力は下の下。如何に神すらも滅ぼす力を得ていようとも、現状宝の持ち腐れでしかなかった。

 慌てて一誠に駆け寄るアーシアから視線を外して、寛治は向かってくる二人を捌いていく。

 

「木場先輩も塔城も、一発が()()()()。手数勝負の先輩は兎も角、塔城はもう少し震脚意識しろ」

 

 迫りくる拳を受け止め、魔剣を霊力を纏わせた手刀で折り砕きながら、寛治は気付いた事を指摘していく。

 祐斗も小猫も、年の割には強いだろう。転生に用いた悪魔の駒の特性に加えて、祐斗は神器『魔剣創造』を有しており、小猫にしても我流ながらも体術を扱う。

 しかし足りない。同格、ないしは若干上程度までならば対応できても、格上やもしくは相性の悪い相手には手が届かない。

 

 この事実を、二人は今この瞬間も痛烈に感じていた。

 

 ものの一分とかからずに伸された二人。そして、一誠は歯噛みする。

 もう少し、何か出来るつもりだった。悪魔へと転生し、神器を発現させ、そして中級堕天使にも勝った。

 事実だ。宿した赤龍帝の籠手にしても、十秒ごとに所有者の力を倍加し続けるという破格な物。理論上時間はかかるが、時間が経てば経つほどに強くなる。

 現状の一誠は体が出来上がっていない為、数倍程度に収まっているが、それでも悪魔としての元々の地力も合わされば人間程度は歯牙にもかけることは無いだろう。

 

 だが、現実はコレだ。倍加させて寛治に挑み、十秒とかからずに殴り飛ばされて地面を転がる。その繰り返し。

 

 経験の差。コレも確かにあるだろう。

 何せ寛治は、十年以上格上と毎日戦ってきたようなものなのだから。この辺りは仕方がない部分もある。

 次いでいうならば、一誠には才能は無い。

 陣を使った転移も出来ない程度の魔力しかなく、格闘技に秀でている訳でもない。悪魔と言えども、その体は鍛えられたものでもなく、神器の倍化を殆ど受け止める事が出来ない。

 

 弱者。その事実が、一誠に重く伸し掛かる。

 

「く、っそ……!」

 

 それでも、彼は立ち上がった。

 唯一の取り柄。前に進もうと苦境からも立ち上がれる根性は、目を見張るものがある。

 確かに兵藤一誠は、天才ではない。しかし、一歩一歩前に進もうとする気概は確かにあった。

 不撓不屈は、強者に通ずる。

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