獄炎爺がシバいてくる   作:矢マン元

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 近接組が地獄を見ていた頃。遠距離が専門の二人が地獄を見ていないかと問われれば、否であったりする。

 

「俺は、魔力じゃなくて霊力っすけど、良いんですかね?」

「ええ。高威力の術は、それだけお手本として有能だもの」

 

 肯定してきたリアスに、寛治は頭を掻いて、そして頷いた。

 

「……んじゃ、見せましょう。ただし、俺は指導みたいなことはできないっすからね」

 

 一応の断りを入れて、寛治は斜め上の空へと向けて右手の平を向けた。

 

「――――『破道の三十一 赤火砲』」

 

 唱えると同時に、彼の空へと向けられた掌に人の頭ほどもある大きさの火の玉が現れ、ソレは空へと放たれる。

 暫く進み、周囲の森からも十分に離れた所で、一気に膨張。

 その光景は、いつぞやの夕方のよう。

 空にもう一つの太陽が現れたかのような光景をバックに、寛治はリアスたちへと向き直る。

 

「こいつが、俺が使う術の鬼道っす。その中でも破道と縛道に分かれるんすけど、コレは前者っすね」

「……コレ、あの時のものと同じ術かしら?」

「そっすよ。俺は、炎系の術が得意なんでこの威力っすけど、これでも抑えてる方っす」

「アレで!?」

 

 リアスと、そして朱乃が驚くのも無理はない。

 彼の放った術は、遠くともその熱気が伝わりそうなレベルのものだった。

 しかし、寛治としても自分の力をひけらかしたいからそんな事を言った訳では無い。寧ろ、事実であるから伝えなければならないと思ったまでの事。

 

「鬼道は詠唱破棄っていう技術があるんすよ。まあ、他にもあるんですが、詠唱破棄は文字通り、詠唱を破棄するもの。威力は元の三分の一程度に落ちるんすけど、その分素早く撃てます」

「三分の一!?あの破壊力でですか!?」

「まあ、基本はって奴です。さっきも言ったように、俺は炎系の術が得意なんでガッツリ落ち過ぎる、なんて事は無いはずですよ」

 

 多分、と内心で寛治はつづけた。

 彼の鬼道の腕前は、威力重視で細かな調整を苦手としているタイプ。暴発などはしないが、威力を落とせない。だからこそ、鍛錬の手合わせなどではおいそれと相手に打つことが出来なかった。下手したら鍛える相手が消し飛びかねないから。

 

「……因みに、その詠唱、破棄?をしなかったらどうなのかしら」

「もうちょい強いのが撃てますね」

「……見せてもらえるかしら?」

 

 神妙なリアスに、寛治は右の眉を上げるが、別段断る理由も無い。

 先程と同じように右手を斜め空へと向けた。

 

「“君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ”」

 

 詠唱が連ねられると同時に、先程以上の霊力が渦を巻き、寄り集まって、火球となる。

 

「――――『破道の三十一 赤火砲』」

 

 放たれる一発。それは、初弾よりも更に速かった。具体的には、風を切る音が聞こえる程。

 そして、

 

「「ッ……!」」

 

 離れていても感じる熱。

 広がった火球自体の大きさは、一発目よりも一回り大きい程度だろう。しかし、今回はその中に込められた力の密度が違う。

 

「……っと、まあこんな感じっすね。そもそも、どれだけ攻撃範囲が広くても、中身スカスカの見掛け倒しじゃ意味が無いんスわ。特に、俺の霊力を使う術だとか、魔力の攻撃は、範囲以上にこの密度が大切だと思います」

「密度、ですか……」

「広範囲攻撃ってのは、派手っすからね。視界を封じる点もあって威圧感もある。ただ、その分威力がお粗末。壁にしても突破されれば、その範囲の広さから撃った側は息切れ必至。だからこそ、密度っす」

 

 因みに、したり顔で語っている感じだが、件の老人は攻撃範囲と威力、密度の全てを満たした攻撃で包囲して焼き尽くしてくる。

 

 若干遠い目をする寛治の一方で、リアスと朱乃の二人は新たな視点を真剣に考えていた。

 彼女らもまた、年若くとも才能に溢れるタイプだろう。伸びしろもあり、潜在能力も比較的高い。

 だからこそ、先程の光景は驚き、そして脳裏に刻まれてもいた。

 

 もしも仮に、寛治が敵対し、術勝負になった場合、十中八九二人は押し切られて、先程の火球の塵へと変えられることになるだろう。

 

 指導は出来ない、と言いながらも図らずも道を示した寛治。

 その成果を発揮できるかどうかは、彼女ら次第だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地獄は続くよ、何処までも。

 そんな替え歌が聞こえてきそうな日々の中。

 人というものは、疲労が酷すぎると、逆に眠りにくくなることがある。

 その日、一誠は妙な眠りの浅さから目を覚ました。

 

「だりぃ……」

 

 今までの人生の中でも感じた事が無いほどの、圧倒的な疲労感。それでもこうして身を起こして、尚且つ歩き回る余裕があるのは、自分が強くなっているからなのか、或いは師匠役の見極めが優れているからか。

 肩を回せば、関節が鳴る。大きな欠伸が零れ、キッチンで何か飲もうとリビングの扉を開ければ、思わぬ相手がそこに居た。

 

「あれ?早いっすね、兵藤先輩。おはようございます」

「おう、おはよう……いつもこんな時間に起きてるのか、山本」

「こんな時間って……もう六時過ぎっすよ?」

 

 ヘラリと笑った後輩。しかしその表情以上に、一誠の注意を引いたのはその両手。

 いつも確りと巻かれていた包帯が緩んでいるのだ。

 

「なあ、山本のその両手って、怪我でもしているのか?」

「怪我……まあ、そっすね。一応、自前の包帯は持ってきてたんすけど、ちょっと足りなそうなんで」

「ほーん」

 

 気の抜ける返事をしながら、冷蔵庫の方から水の入ったペットボトルを一本取った一誠は、そのまま後輩の近くに腰を下ろした。

 思えば、彼はこの後輩の事をほとんど何も知らない。

 学園のアイドルでもある、塔城小猫のクラスメイトで、自分よりも少し前にオカルト研究部に入った人間。

 さらに言えば、鬼強い。それはもう、もしも戦えと言われたら土下座でお断りさせてもらいたいレベルで闘争心をへし折られてきた。

 後は、存外フランク。一応の上下関係の為か、体育会系のような敬語擬きと先輩の敬称を付けるが、その実態はどちらかというと友達寄り。

 

 心のどこかでこの後輩は、傷つかない存在だと思っていた。天才なのだと思っていた。

 だから、その光景に驚く。

 

「そ、の腕……」

 

 外された包帯の下には、まだまだ真新しい火傷痕が残っていた。

 痛々しい、なんて言葉では足りない。ズタズタだ。よく見れば、外された包帯にも血か或いは染み出た体液が染み込んでいる。

 

「ま、他言無用で頼みますよ、先輩」

「なっ……そ、そうだ!アーシアに治してもらえば」

「それじゃ、意味が無いんすよ」

 

 血の気が引いたように顔を青くする一誠に、静かに寛治は語る。

 

「痛みは、教訓なんですよ。この火傷は、俺自身への戒め」

「戒め?」

「自分はまだまだ発展途上。道半ばで、言っちゃあ何ですが今回の指導だって出来る立場だとは一度も思っちゃいない。まあ、それを差し引いても調子に乗らねぇようにって事っすね」

 

 若干冗談めかしながら、軟膏を塗って手際よく寛治は包帯を巻いていく。

 

「まあ、気に病むような事じゃねぇんで。日常生活にも問題ないですし、今日シバき回すのも問題なしですから」

「待ってっ!?明らかにそんな雰囲気じゃなかっただろ!?というか、似たようなやり取り前にもやったな!?」

「先輩って弄りやすいっすからねぇ」

 

 ケラケラと笑う寛治に、一誠は噛み付いてみせながらも、同時に先程までのシリアスな雰囲気が払しょくされた事に若干肩の力を抜く事が出来た。

 同時に、改めて気合も入った。

 はるか先を行く後輩が、自分の事を発展途上だと称するのだ。そんな彼にボコボコにされ続ける自分などまだまだヘボのヘボ。

 自身の夢実現のためにも、こんな所で止まっていられない。

 そう決意を新たに、一誠は水を一気に飲み干した。

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