獄炎爺がシバいてくる 作:矢マン元
ようやく終わった。その事実を認識する前に、一誠は泥濘となった地面にうつ伏せに倒れ込んでいた。
彼だけではない、祐斗も小猫も同じように、ぬかるみで汚れる事など知った事かと言わんばかりに、地面に転がっている。
そして、三人を見下ろすのは腕を組んだ寛治だ。
「お疲れ様でした、お三方。後は体力回復の余暇を挟んで、それから決戦っすね」
息も切らすことなく言い切る寛治に、しかし三人は言葉を返す余裕も無い。
泥のように眠りたい。彼らの欲求はそれに尽きる。
特訓後半戦の期間。寛治は、日を追うごとにその力を強めて、常に三人の強大な壁として立ちふさがり続けてきたのだ。
一番のショックは、
彼曰く、密度が足りない。その苦言は、リアスたちに送ったアドバイスと同じもの。
それからも更に続いた手合わせは、より苛烈な物へと変化し続け、今こうして三人は限界を超えてぶっ倒れた。
「そっちは終わりかしら?」
「ええ、まあ。十全、とまではいかないっすけど、二週間前と比べれば少しはマシになってると思いますよ」
「少し、ね……」
「当たり前じゃないっすか。人間だろうと悪魔だろうと、地力は早々変わらない。短期間で変わるとするなら
肩を竦めて、改めてくたばっている三人へと目を向ける寛治の瞳から、リアスはその感情を読み取る事は出来なかった。
スパルタ、と称するには余りにも激烈で苛烈だった彼の特訓という名の、一方的な虐殺のような手合わせ。
眷属を大切にする彼女としても、思う所が無かったわけではない。が、しかし
当人たちには、もしかすると自覚は無いかもしれない。それでも、確かに強くなった。
「まあ、そもそも俺は人に教えるとか向いてねぇんですよ」
ヘラリと肩を竦めて手を振って、寛治は一誠と祐斗を重ねるように左肩に担ぎ上げ、そして右の小脇に小猫を抱えた。
「とりあえず、戻りましょう。治療とそれから、疲労抜き。本番で、疲れて力が出ませんでした、じゃ話にならないですし」
「そう、ね……それにしても、三人も抱えて、貴方は大丈夫なの?小猫を運ぶなら私が変わるわよ?」
「疲労抜きは、先輩も含まれてるんで大丈夫です」
それは貴方も、とはリアスは言えなかった。
事実として、寛治に手合わせの疲労は殆ど無い。そも、肉体的にもほぼ疲れていないが、同時に精神的な余裕の差もその疲労の度合いの差を作っていた。
寛治にしてみれば、現状の一誠、祐斗、小猫の三人の攻撃は、相手が殺す気で向かってきても大した脅威にならない。脅威にならないという事は、つまり精神的な圧迫感も無く、追い詰められる事が無い為常に一定の余裕を持てるという事。
一方で、三人はといえば、相手の打撃は掠めるだけでも骨に亀裂が走りかねないものばかり。肉体的な負荷もさることながら、精神的な負荷も洒落にならない。
余談ではあるが、この後小猫はお姉さま方に丁重に風呂に入れられるのだが、野郎二人は適当に泥を落とした後に湯船に放り込まれて溺死しかけた事をここに記す。
*
時は流れて、決戦の日は訪れる。
「~~~~っ!」
「先輩、少しは落ち着いたらどうっすかね」
部室の中をあっちこっちに歩き回る一誠に、寛治はそんな呆れた言葉を掛けた。
レーティングゲーム開始は、真夜中の十二時。新校舎側にライザー、旧校舎側をリアスとそれぞれ陣地としてゲームを始める。フィールドは異空間に作られた駒王学園のレプリカを用いる事になっている。
観客は、審判を兼ねるグレイフィア。そして、リアスの兄。
「だって、魔王様が見に来るとは思わねぇだろ!?」
「どっちかの家から代表で発言力のある人間が、見に来るのは当然じゃねぇですか。大丈夫っすよ、先輩。戦い始めたら、そんな緊張忘れると思うんで」
「そう、か……?」
「だって先輩アホですし。猪突猛進のイノシシが並列思考なんて出来るはずないでしょう」
「それは……っておい!誰がアホだよ!」
「まあ、余計な事考えない方が良いって事っすよ」
ヘラヘラと一誠をからかう寛治だが、彼は彼である事を予めリアスに通していたりする。
「第一、今回俺が出るかどうかは先輩たちの頑張り次第なんすからね」
ソファに背を預ける彼は、そんな事を言う。
そう、今回寛治は初っ端から全開で大立ち回りをする――――事は絶対ない。これに関しては、仕方がないという事情があった。
そもそも、今回のレーティングゲームは非公式であるとはいえ、その本題はグレモリー家並びにフェニックス家間の婚約破棄。要は悪魔の問題だ。
この問題を、一応の身内認定を受けているとはいえ、人間が解消する。これは、少々問題があった。
であるならば最初から彼の参加を認めるな、という話ではあるがそこをつつき始めるときりが無い為割愛。
とにかく、寛治が一から十まで蹂躙するのは意味が無いのだ。
そしてもう一つ。これは彼の内情。
要は、夢の中の老人が許可を出さなかった。
またかよ、と白けた目を向けた寛治だったが、今回は力を抑えるという事と、それから場所の問題があった。
結界で隔離すると言っても、どの程度まで隔離するのかが分からない。
仮に、結界そのものを燃やしてしまい、尚且つ異空間にまで影響を与えてしまった場合、取り返しがつかないのは明らか。
諸々の理由から、寛治はゲーム序盤は出て行かない。彼としても、出番が無いのならそれで良い。
そして、時は訪れる。
*
それは、怠慢と油断の産物だったのかもしれない。いやしかし、明確なまでの差があったのならば、先述のそれらも仕方がない、のかもしれない。
ライザー・フェニックスは、フェニックス家の三男だ。既に成人し、公式のレーティングゲームも経験済み。更に、それらの戦績はほぼ全勝。負けたゲームも相手が得意先などで、接待を兼ねていたのだとか。
今回の非公式なゲームは、公式戦とは違い特殊ルールなどは設けられていない。
相手の王を落とす、ないしはギブアップさせればいい。実にシンプルな物。
実力差はどうあれ、経験の差はそう簡単には埋まらない。更に、間を開けたとはいえ、たった二週間ほどだ。二ヶ月もあればもっと違ったのかもしれないが、たったそれだけの期間でどうこう出来るはずもない。
普通なら。
「見誤っていた、か」
今まさにリタイアしていく、茶髪の彼を見下ろしながら、ライザーは苦みの走った顔をする。
眷属の質の差は、殆ど五分だったはず。数に関してはフルメンバーであるライザーの側に分があった。
しかし、蓋を開けてみればどうだろうか。
眷属の大半が、敗れた。信を置く女王も、相手の女王と相打ち。それ以上の被害を相手に与える事無くリタイアしてしまった。
王であるリアスと回復要員のアーシアを除けば、真面に戦ったのは三人のみ。
にもかかわらず、追い込まれた。ライザー側の戦略が甘く、相性が悪かったというのもあるだろう。
それにしたって、回復用のフェニックスの涙まで使う羽目になったのは完全に予想外。
「いったい、どんな手品を使ったんだ、リアス」
「手品?何の事かしら」
「惚けるなよ。ミラにも劣っていた小僧が、殺気を放って向かってきた。加えて、あの魔剣使いと戦車の小娘。明らかに、二週間前とは別物だろう」
鬼気迫る、とは正にあの表情を言うのだろう。
何より、相手からの攻撃に対する恐怖心とも称すべきものが、ほとんど感じられなかった。ライザーの炎の翼には確かに苦心しているようにも見えたが、それでも二の足を踏むようなことは無かったのだ。
とはいえ、
「降伏しろ、リアス。お前には、もう戦える駒は居ないだろう?」
リアスもライザーも持ち駒ゼロ。非戦闘員ともいえるアーシアは、先にリタイアしたメンバーの看護に回してしまった。
どちらも上級悪魔で五分のようだが、その実再生が可能なライザーに分がある。
攻撃力が並ぼうとも、防御力がお粗末であるのなら、押し切られるのは当然の事だった。
「そうでもないわよ。ライザー、貴方忘れてるんじゃないの?」
「なに?」
「――――今回限りのイレギュラーよ」
リアスが言うなり、この場にもう一人現れる。
「貴様か、小僧」
「どうも」
片手をあげた寛治に、ライザーは眉を顰める。
初対面の折には警戒をして、その上で傷ついたプライドから参加を認めた人間。
「今の今まで隠れていたのなら、最後までそうしていれば良かったんじゃないのか?」
「まあ、そうかもしんないですね。でも、こうして“出る”って予め言ったんだ。少しは働かないと」
「……ふんっ、ただの人間に何が出来る」
「さあて、ね」
ライザーから発せられる威圧感が増してくるが、しかし寛治は意に介する事無く、リアスの前まで歩き、そして改めて彼女とライザーの間で壁になる様に向き合った。
その背に、リアスの言葉が掛けられる。
「後は、任せて良いのね?」
「まあ、そのつもりで出てきましたし。というか、あっちに回復手段が無ければ、俺も出番は無かったんですけどね」
「……それは、想定していなかった私のミスよ」
「さいで」
振り返る事無く、しかし落ち着いた背中。だが、何と評するべきか妙な雰囲気がある。
ライザーを前にして、寛治は落ち着いていた。そもそも、彼が焦るような事態など早々起きる事も、訪れる事も無いのだから。
良く言えば、落ち着いている。悪く言うなら、無味乾燥。
そんな凪いだ感情で戦えるのかと問われれば、寛治は戦える。何故なら、彼の中で感情と戦場は切り離されているのだから。
「……チッ」
舌打ちを一つ吐き捨てて、ライザーは魔力を昂らせる。
得体のしれない雰囲気はある、がしかしだからといって恐れるほども無い。少なくとも、彼はそう判断した。
「火加減はしてやろう。だが、その体に消えない傷を刻んでやる!!」
「……」
猛る炎は、ある程度の距離があるというのに頬を撫でる風を熱く感じさせるほどの熱気を放つ。
自然と、足が一歩下がってしまいそうな光景。
だが、彼の、山本寛治の足は、その逆。敢えて前へと踏み出される。
相手の攻撃を潰すようなダッシュではない。恐怖を押し殺した弱弱しい足取りではない。
ただ只管に淡々と、それこそ恐怖はおろかその目に何の感情を映すことなく彼はゆったりと距離を詰めていく。
舐めているのか、ライザーはそう判断し。脳がその判断を認識した瞬間、その蟀谷に青筋が浮かぶ。
「ッ、消えろォッ!!!」
さっきの火加減発言は何だったのかと言わんばかりの、怒り混じりの炎が寛治を襲う。
瞬く間に、その姿は炎の壁に飲まれて消えた。
「ふんっ、他愛もないな」
警戒していた自分が馬鹿らしい、とライザーは目を細める。
呆気ない。所詮は人間であり、上級悪魔である自分の敵ではなかった。そう考えれば、自然と納得の感情も浮かび、次の標的へと視線を合わせるのも当然の事。
それが、
「――――よお」
気付けば、声が聞こえた。気付けば、眼前に手が迫っていた。
混乱による意識の空白。ライザーの脳内は、一瞬ではあるが完全に真っ白となり、その体は思考が切れたせいで完全に動きを止めてしまう。
焼き尽したはずの生意気な人間、山本寛治がライザーの目の前まで迫っていた。
炎に飲み込まれたはずのその体は、しかし驚くほどに損傷なく、熱気によって若干頬が赤くなって、熱によって発生した熱い上昇気流で髪が逆立っている位で特にダメージ無し。
そして、前に突き出されたのは手に平を空へと向けた右手。その中指が内に折られて親指で押さえられた、所謂ところのデコピンの構え。
「俺は、もっと熱い炎を知ってる」
「何を――――」
「アンタの炎は、まだまだ温いって事、さッ!」
最後の一文字と同時に、押さえられた中指が弾かれ、無防備なライザーの眉間へと打ち込まれる。
たかがデコピン。子供遊びの罰になる程度でしかない。ある程度練習すればかなり痛いものにもなるが、それでもやはり所詮はデコピン。
だが、
「ガッ――――!?」
まるで弾丸。ライザーの眉間が割れて血が噴き出し、その体は後方へと二度ほど回転しながら吹っ飛んで最後の戦場となっていた屋上の外へと飛び出していく。
その後を寛治も追い、屋上から空へと飛びあがった。
とるのは、ライザーの真上。構えるのは、左手。
「――――『縛道の六十二 百歩欄干』」
やり投げの要領で投げつけられるのは六角形の霊力で編まれた光の棒。
一気に分裂し、先端が尖っていないにもかかわらずライザーの体にめり込むと、そのままその体をグラウンドへと勢いよく叩き付け、縫い止めた。
一方的。しかし、まだまだ寛治は手を緩めない。
両手を組んで息を吸う。
「“鉄砂の壁 僧形の塔 灼鉄熒熒 湛然として終に音無し”」
詠唱が紡がれ、組まれた両手の指の隙間より編まれた霊力が形を成す。
振り上げられる手。
「――――『縛道の七十五 五柱鉄貫』ッ!!」
手が振り下ろされると同時に、編まれた霊力が形を成した。
五角形の形をして先端を鎖で繋がれた五つの鉄の柱。それら一本ずつが、それぞれライザーの両手足と、それから頭部へと叩き込まれる。
容赦の無い光景だ。粉塵の舞い上がるその様子は、両陣営もまたモニターで見ているのだが、フェニックスは別として、グレモリー眷属側は顔を青くしているものも居たり。
グラウンドへと危なげなく着地した寛治。同時に、鉄の柱の隙間から炎が覗く。
「う、ぐ、オォオオオオオオオオッッッ!!!」
咆哮と共に鉄柱が僅かに揺らぎ、地面が炎によって大きく爆ぜた。
倒れる鉄柱。そして、眉間より流れた血の跡もそのままに、全身から僅かに炎を揺らめかせたライザーが僅かに膝を揺らしながら立ち上がる。
「ハァ……!ハァ……!まだ、終わっていないぞ、人間ッ!!」
「御託は要らねぇ。さっさと来いよ」
「舐めるなッ!!」
全身の炎を更に燃え上がらせるライザー。心なしか、その火力は上がっているらしく、周囲の地面が僅かに炭化しているようにも見えた。
その勢いで突っ込んでくるライザーに対して、寛治は拳を握って待つ構え。
知った事かと突っ込むライザーの右拳が炎を上げて振り抜かれ、
「――――『縛道の八 斥』」
合わせられた寛治の左手の甲に発生した霊圧の盾によって大きく弾き飛ばされる。
効果はそのまま。名の通り、相手の物理攻撃を弾くというもの。だが、こと至近距離の戦闘に於いてこの術はかなり有用だった。
振り抜いた右腕を大きく弾かれたライザーは、自然と体の前が開くような格好となる。上級悪魔というのは鍛錬を基本しない為に、彼もまたこのように大きく姿勢を崩されるとそう簡単に立て直す事が出来ない。
そのがら空きの胴体に寛治の右手の指五本全てが押し付けられる。
「――――“
術の内容としては、指先から衝撃波を放つというもの。威力に関しても、言っては何だが大したことは無い。
だがそれは、あくまでも既存の場合。
寛治の術の場合、五本の指先それぞれから衝撃波が出る。もっとも、ただそれだけならばやはりそこまでの脅威ではないだろう。
この術が脅威足りえる理由、それは
「ごふっ……!」
胃液が逆流し、ライザーは膝をつく。
要は、内臓を直接ぶん殴られたようなもの。衝撃が伝播するという特性を利用した技だ。
四つ足着いて、肩で息をするライザー。そして、そんな彼を、寛治は一切の感情が読み取れない目で見降ろしていた。
「ここで退くのなら、止めない。俺も、誰かを甚振るような趣味は無いからな」
「もう、勝ったつもりか、人間……!ッ、ハァ……!この程度で!フェニックスたるこの俺を打倒したつもりか!」
「勝ったつもり?違うな。分かるだろう、ライザー・フェニックス。俺は既に
「ほざけッ!!俺は、ライザー・フェニックス!アイツらの王であり!フェニックス家の悪魔だ!」
「……」
「――――王として!主として!おめおめと尻尾を巻いて逃げる事など赦されん!!」
凄まじい気迫。膝をつき、一方的に叩きのめされながらも、それでも彼は立つことを選択した。
その目を正面から見返し、寛治は一つ息を吐き出す。
「……ハァ……王の矜持、か」
彼には分からない覚悟だ。ただ、その重さだけは何となく察して余りある。
徐に、寛治は踵を返すと、無防備にもライザーに背を向けて数メートルその場から離れ、そして改めて向き直った。
「ライザー・フェニックス。燃え盛る炎の王、貴殿に敬意を表する」
雰囲気が変わった。
先程までの、力で優位に立っていた時の雰囲気から、もっと重く、そして深く、まるで底の無い深海を覗き込んだ時のような心許なさ。
周囲が息を呑む中、寛治は大きく息を吸い込んだ。
「ルキフグスさん!並びに、魔王閣下!この声が届いているのなら、結界の強化を願いたい!そして、グレモリー先輩!見るのは構いませんが、距離をとって自分の身を守る事を優先してください!」
叫び、そして開いた左手を腰の左側へと添える。
(爺、使うぞ。覚悟のある男に応える為にな)
一度開かれた左手が、虚空を掴むように動けばその手に現れるのは、一振りの日本刀。
左親指が鍔へと掛けられ鯉口が切られる。柄へと、右手が伸びその刃が外界へと晒され、
「“万象一切 灰燼と為せ”――――『流刃若火』」
業火が景色を塗りつぶす。
その光景を前に、ライザーはその目を大きく見開いた。
フェニックス家は、炎と共に在る家だ。不死鳥、或いは朱雀とも称される。ライザーの二つ上の兄などもレーティングゲームに於いて上位の成績を修める高い実力を有している。
特筆すべきは、その不死の再生能力とあらゆるものを焼き尽すとも言われる強力な炎。
悪魔の貴族としても、生まれながらの勝者と評されても間違いではない、そんなスペックを有している。
だが、そんな家に生まれたライザーは、今この瞬間、その火を見た瞬間に心がへし折られてしまう様な、そんな感覚を味わっていた。
火を、炎を、恐ろしいなど感じたのは生まれてこの方初めてだったのだから。
そしてそれは、この一方的な戦いともいえない状況を見つめる者たちにも同じ事がいえた。
「彼は、いったい……」
椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がった紅蓮の魔王、サーゼクス・ルシファーはその炎を見ながら呆然ともとれる言葉を漏らしていた。その斜め後ろに控えていたグレイフィアもまた驚愕と言っても良いほどに目を見開き、その炎を見つめていた。
悪魔の突然変異とも称され、その実力は世界的に見ても上位に位置するサーゼクス。
そんな彼をして、その炎は無視できない。
焼き尽される。画面越しに見てもそう感じるのだから、相対するライザーに伸し掛かるプレッシャーなど計り知れない。
「怖いか、ライザー・フェニックス」
日輪を背負い、寛治は静かに問う。
燃え盛る爆炎を吐き出す刀身に反して、彼自身は実に静か。凪いでいるようにも見えるほどに己の武器とは対照的な様子を晒していた。
問われ、ライザーの喉が震える。
初めて抱いた、炎に対する恐怖。自身が燃やされるかもしれない、という恐怖。
恐ろしい、逃げ出したい。不死身であるがゆえに早々には働かない生存本能が最大限の警鐘を鳴らしてこの場からの離脱を勧めてくる。
果たして、その引き攣った喉から出るのは、
「……ッ、舐めるなよ、人間ッ……!」
プライドに支えられたなけなしの虚勢。
胸を張って立ち上がり、震える言葉尻を無理矢理に飲み込んで炎の翼を翻す。
「さっきも言っただろう……!俺は、王として退かないとッ!!」
「……そうか」
ライザーの言葉が虚勢である事は、相対する寛治がよく分かっている。
だが、彼は敬意を表すると言った。であるのならば、今この場でやっぱり止めた、何て選択肢を採る筈も無く。
「――――なら、火加減は無しだ」
右手に握られた刀が掲げられる。
刀は、流刃若火は、ただその場にあるだけでも兵器と化す。吹き上がる炎を防ぐ手段など、早々無く。そもそも守りを許さない。
「オオォォオオオオオオオッッッ!!!!」
自ら退路を断ったライザーに出来る事など、もはや特攻しかない。
炎の翼だけではない。全身を炎に巻いて、その姿は宛ら家名の通り、
そして、寛治はただただ無造作にその右手を振り下ろした。
指向性を与えられた炎が、グラウンドを焦がし、空気を焼いて、破壊の奔流となって突き進む。
(ただ、振るうだけで、これか……!)
自分とは比べるべくもない。圧縮された時間の中で、ライザーは何度目かの己の無力をかみしめる。
上級悪魔として生まれ。ハーレムを築き、公式のゲームだって実質無敗だ。その力は、確かな物なのだろう。
だが、悪魔にありがちな、
格上の相手には当然ながら己の力は決して通じず、鍛えていないのだから状況を打破するための術も持ち合わせることは無い。
(まずは、鍛えてみるか。ああ、そうだな。アイツらとも――――)
思考はそこまで。ライザーの視界は朱に染まる。
決着。