獄炎爺がシバいてくる 作:矢マン元
駒王学園は、悪魔の拠点。領地の問題もあり、裏ではリアスが取り仕切っているのだが、表は表で影響力がある者が居た。
それが、学園の生徒会長。
「支取会長だっけか?」
「はい、そうです」
「その会長との顔合わせ……一応の理由とかって聞いてるのか?」
「山本さんと、それから先輩方の顔合わせみたいです」
「間が空いたな」
「どうしても、時間をとるのが難しいからでしょうね」
昼休み、昼食を挟みながら寛治と小猫は放課後の予定について話し合っていた。
生徒会長、支取蒼那。そして彼女を長とした生徒会は彼女を主とした眷属の拠点でもあった。
その彼女と、本格的な顔合わせ。期間が空いたのは、両陣営共に色々とごたごたしていたせい。後の理由としては、悪魔としての長大な寿命故、と言うのもあるだろう。
丁度会話が切れて、二人の口が食べ物で塞がる。
もぐもぐと咀嚼する中、そういえば、と小猫の頭に話題、もとい質問が浮かんだ。
「んぐ……そういえば、山本さんは朝に兵藤先輩と組手してるんですよね?」
「ん?まあ、な」
「……どうですか?その……強く……」
「んー……」
おずおずと尋ねる小猫だが、しかし師匠役となっている寛治は渋い表情でパンを齧ると窓の外へと視線を向ける。
暫く咀嚼して口を噤んでいた彼だが、小猫は視線を外さない。
真っすぐに向けられる目に居心地が悪くなった所で口の中身を飲み込み、寛治は渋々口を開いた。
「微妙」
「微妙?」
「兵藤先輩には、才能が無い。元々一般人だから、当然戦闘勘なんか持ち合わせていないし、何かの格闘技をしてた訳でもない。根性と折れない精神面は及第点でも、圧倒的に肉体が付いてきてない。文字通り無い無い尽くしでな」
「……でも、先輩は神滅具の持ち主ですよね?」
「現状の先輩が何回倍加しても俺なら瞬殺だ。これから先、俺より強い相手なんて簡単に出てくるだろうし、そうなれば先輩も死ぬ事になるし」
(山本さんより強いのなら、私たちも恐らく勝てませんよ……)
小猫は喉元まで上がってきたそんな言葉を飲み込む。
彼女が思い出すのは、目の前の彼の戦闘能力。
体術、魔法のような術、そして業火を吐き出す刀。現状の知っているスペックだけでも、グレモリー眷属は何れも勝てない。
そんな彼が敵わない相手など、もはや悪夢そのもの。
彼女の脳裏で火を吐く化物が雄叫びを上げているが、寛治の話はまだ終わっていない。
「で、先輩には選択肢を持たない事を勧めた」
「選択肢を、持たない?」
「要は自分で手札を制限するって事だな。利点としては、迷わなくて済む。デメリットは、相手に対策をとられやすい」
「成程」
「まあ、神器の特性的にも色んな手札をもって器用貧乏以下になるのも無理じゃねぇと思うがね」
「そうなんですか?」
「やり方は簡単だ。その道の三流程度、或いはそれ以下の実力だろうと、どれだけロスが発生していても、倍加しまくって出力を只管に高めればいい。アホなやり方だが、多分神器の使い方としては正攻法だろ」
俺は好きじゃないが、と寛治はパックのコーヒー牛乳を啜りながら、背凭れへと体重を預けた。
神器としては正攻法かもしれない。しかし、この戦法は体への負荷が酷すぎる。下手をしなくとも、
「教えないんですか?」
「教えない。少なくとも、俺はそんな自分を鑢にかけるようなやり方はしてほしくない」
鍛えるのは得意じゃない、と言いながらも寛治が鍛えるのは強くなりたいと言われたから。そして、そんな彼を死なせない為でもある。
死なせないために鍛えているのに、その結果の戦闘手段が自分の命を削る物など笑い話にもならない。
「つっても、手詰まり感はあるけどな」
「山本さんのあの技を、教えたりはしないんですか?」
「一骨、な。うーん……いや、擬きは出来るかもしれねぇけど。あの人、センスねぇし。寧ろ、その辺りは塔城の方が可能性あると思う」
「私が、あの技を?」
「おう。基礎の基礎はあの合宿で教えたし。まあ、他を極めるならそれでもいいさ」
一誠に比べれば、小猫の体術は光るものがある、と寛治は思っている。
比較対象が悪いかもしれないが、とにかく小猫はまだマシ。
「なら、教えてください」
「体術か?」
「はい」
「得手じゃねぇんだが……まあ、可能な範囲、な」
寛治が存外面倒見が良い事を小猫は学んでいたりする。
そんな昼休みの一幕。
*
放課後。グレモリー眷属とそして、支取蒼那をトップとするシトリー眷属の顔合わせが行われる事になった今日この日。
一応身内という事で隅っこの方に居た寛治ではあるが、彼の目から見て彼ら彼女らは五十歩百歩。強いて挙げれば、グレモリー眷属の方が、数は少ないが質は勝る感じか。
今も、蒼那の新人兵士が一誠に絡んでいる。
というか、
(悪魔の兵士は、何かしらの瑕疵が無いと成れないのか?)
壁に背を預けながら、そんな事を考える。
全員が全員ではないのだろうが、一誠に負けず劣らず、件の彼も魔力が少ない。それでも転生に兵士の駒を四つ使ったというのだから、神器というものは凄いな、と他人事のように思ったり。因みに、一誠は八つで転生した。
比較的和やかに場は進んでいる。女性が多い為か、祐斗へと一定の視線を送る女生徒が居るのはイケメンの有名税のような物だろうか。
「そういえば、そちらの彼の紹介をしてもらっても良いでしょうか、リアス?」
「ええ、勿論。と言っても、彼は私の眷属じゃないわ。カンジ、自己紹介してくれるかしら?」
「山本寛治っす。まあ、オカルト研究部に所属するただの人間なんで、その辺は悪しからず」
ひらひらと手を振る寛治だが、グレモリー眷属の面々からはどの口が、と思われていたり。
そして蒼那もまた、彼の名前には覚えがあるらしい。
「貴方が……リアスから話は聞いていますよ。少し前に、堕天使を倒した、と」
「え?…………ああ、まあ、アレって兵藤先輩が倒した堕天使の部下だったって話ですし。大したことはねぇっすよ」
「それに、リアスの婚約でも活躍したらしいじゃないですか」
「先輩?」
思わぬ言葉に顔を向ければ、逸らされた。
少しの間、端正なその横顔を眺めていた寛治だったが、壁から背を離すとため息を吐きながら頭を掻く。
「はぁ……まあ、別に口止めはしてないっすから良いんですけどね。折角非公式だったんだから、そう話すもんでもないと思いますけど?」
「ご、ごめんなさい。で、でも!ソーナは、誰彼構わず話すような性格じゃないもの!大丈夫よ!」
「今この場で、不特定多数に広がりましたが?」
「……ごめんなさい」
「だから、怒ってないですって。支取生徒会長も、あんまり触れ回らないでください。生徒会の方々も。俺は別に、絡まれようがどうしようがどうでも良いっすけど、それが理由でグレモリー先輩方に迷惑かけるのは嫌なんで」
「ふふっ、リアスのそこまで殊勝な態度は珍しいですね。眷属への勧誘はしなかったんですか?」
「断られたのよ。それに、今の私じゃ駒全てを使っても寛治を眷属には出来ないかもしれないし」
「そこまでのモノを……?」
「ないないないっすよ。単純に、俺が悪魔として長々生きていくのが嫌だって断っただけっす」
ひらひらと手を振る寛治だが、しかし蒼那の目は眼鏡の奥で薄く細められていた。
彼女はどちらかと言うとテクニカルなタイプだ。神算鬼謀、とまでは言わないがそれでも戦略を練り上げて、戦術を敷き、搦手をもって相手を封殺する。出力、攻撃力に劣る分、それが彼女の戦い方でもある。
そんな彼女だからこそ、目の前の相手を測りかねる。
グレモリー眷属の面々の様子から、強いのだろう、と当たりを付ける事は出来た。だが、その強さの度合いがどれほどのモノなのかが分からない。
とはいえ、今回は顔合わせ。出会った傍から互いを深く知る事など早々できはしない。
因みに、この顔合わせのお陰で、後々一同揃って場を好転させる切り札を得る事になるのだが、そんな事は、誰も知る由も無いのだった。