獄炎爺がシバいてくる   作:矢マン元

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 休日、寛治は一人町をぶらついていた。

 一応の目的地はある。駒王町に幾つかあるドラッグストアの一つと、それから大手スーパー。

 一人暮らしをする手前、仕送りを一から十まで全てつぎ込み続ける訳にはいかない。という訳で、彼はこうして週末に一週間分の食料や日用品その他を買うようにしていた。

 

「ええっと、包帯に軟膏……いい加減、完治させるか?……いや、ダメだな。下手に完治させすぎると、爺のしごきが増す可能性もあるし。まあ、絆創膏その他も買い足しとくか。それから――――」

 

 必要な物をリストアップしたメモを片手に、寛治は頭の中で算盤を弾いていく。

 一週間の予算一万円前後。一日の予算凡そ千五百円弱としてやりくりしていけば、月の食費は四万程度。寛治自身は大食漢でもなければ、食後には絶対デザートが欲しいタイプでもない為、大抵の場合はここから更に一万五千ほど引いた額が月の食費となる。

 もう少し安く抑えても良いと、彼としては考えているのだが、あまりにも食費などを使わない場合は親から心配のメッセージが送られてくるのだ。という訳で、仕方なしに少しばかり凝った料理を作って、多くの食材を消費できるようにしている、という裏話があったり。

 

 そんなこんなでドラッグストア。包帯を幾つかと、それから愛用している漢方由来の軟膏。ティッシュに絆創膏に、食器用洗剤の詰め替え等々を購入。エコバッグ代わりの登山用リュックに中身を詰め込んだ。

 やる気のない店員の挨拶を背中に、店を出た寛治。

 

「どうするか……」

 

 頭を掻く彼は、左手に付けた腕時計に視線を落として、一つため息を吐き出した。

 食材の買い出しに関しては、夕方に行われるタイムセールを狙う。日付の問題などもあるが、その辺りは冷凍保存すれば少しは誤魔化せる。

 問題は、時間だ。タイムセールまで、まだ暫くかかる。その辺りも逆算して家を出たつもりであったのだが、予想以上に信号に引っかからなかった事と、それから思った以上に自分の歩くスピードが速くなっていた為に、計算が狂ってしまっていた。

 早めに店へと向かって時間を潰す事も考えたが、寛治は予め買うものを決めた上で来店するタイプ。その滞在時間は最長でも三十分未満で、長々と居座れないタイプでもある。

 

 どうしたものかと頭を捻り、不意に背後の気配にその足が止まる。

 別段油断しているとか、そういう事ではない。というか、どれだけ気が抜けているように見えても寛治に油断はあり得ない。そんなものしてしまえば、その日はおろか、翌日も起きられない。

 

 そして振り返り、寛治は速攻で振り返った事に後悔する事になる。

 

「……俺に何か用事か?」

 

 顔が引き攣るのが自分でも分かる。それほどに、寛治の左頬が引き攣った。

 彼が相対したのは、かなりオブラートに包んで尚且つ遠回しに表現して、不審者だ。

 フード付きの白い外套を纏った二人組。白昼堂々と過ごすには、明らかに異質。話しかけるどころか、同じ空間に居る事すらも居心地の悪さを覚えるような、そんな姿だ。

 現に、足を止めた寛治と、その不審者二人組に周囲からの視線が集まり始めていた。

 

「む、いや、少し道に迷ってな。道を聞きたかったんだ」

「(女……?)道、ねぇ。そこの角曲がって暫く進めば、交番があるぞ?」

「交番……それはダメだ。日本の警察は、何故か私たちを見ると、詰め寄って来るからな」

「(日本の……外国人か。その割には、日本語上手いな)ハァ……で?どこに行くんだ?」

「この町には、教会があるだろう?そこまでの道を教えてほしい」

 

 呆れたように後頭部を掻きながら、寛治は目の前の二人の立場をある程度割り出していた。

 外国人、もとい裏関係で、その上教会関係者。腕前に関しては、現状のグレモリー眷属の面々と五十歩百歩ではあるが、人間である分不利。少なくとも、寛治はそう見た。

 同時に、この二人が来たという事は、相応の何かがこの町にある、という事も自然と理解してしまい、寛治は遠い目をする。

 

 一誠が眷属に加入し、寛治がオカルト研究部に籍を置く事になった堕天使の件。それから暫くしての、リアスの婚約騒動。

 そして今回、教会陣営がお忍び()でやって来ている。

 寛治自身、勢力間のごたごたには興味が無い。勝手にやってろ、というスタンスである。

 だが、この立場も知り合いが巻き込まれるとなれば話は別だ。

 

(まあ、いざとなったら――――()()()

 

 内心でそう結論を付けて、不審者へと左の人差し指をたてて招く。

 

「まあ、案内ぐらいはしてやるよ」

 

 暇つぶしについでに。そんな言葉が後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 週末明け。駒王学園ではイベントの一つ、球技大会が近づいてくる。

 クラス代表で出るパターンと、部活並びに組織ごとに集まるパターン。

 

「よいしょっと」

 

 軽い声と共に、寛治がバットを一振りすれば白いボールは空を飛ぶ。

 その行方を目で追いながらリアスが叫ぶ。

 

「イッセー!そっちに飛んだわ!」

「オーライッ!!」

 

 声を上げた一誠が落下地点に入って手を上げた。

 その姿を遠目に、寛治はバットを肩に乗せるとその目を細める。

 

 彼が参加するのは部活の方だ。正直な話、寛治にとってはスポーツは等しく手緩い。その道のプロなどからすればふざけるなと激怒されそうなものだが。

 例えば、プロ野球選手の投球だろうと、寛治は何を投げられてもバットの芯でとらえてスタンドまで軽々運べる。

 例えば、プロサッカー選手のシュート。どこに蹴ったのか見た後にキャッチできる。

 例えば、プロの格闘家。等しくワンパン。

 

 水泳やスキーなど、技能の中でも更に特殊な部類ならまだ分からないが、少なくとも動体視力、反射神経を必要とするスポーツは等しく彼にとって障害足りえない。

 

 そんなスポーツ自慢はここまでとして、寛治が気になるのが祐斗の事。

 今もそうだが、妙に気が散っている。いや、何か別の事に気が割かれている、と言うべきだろうか。

 しかし、寛治は何もしない。彼はカウンセラーではないし、何より、踏み込んでほしくない領域というものは誰でも持っていると思うから。 

 

 何より、別の問題もある。

 それは、家に帰った後の事。

 夕飯の準備も終わり、さあ食べようとしたところで玄関のチャイムが鳴る。

 時計を見て、夕飯を見て、炊飯器の中身残量を思い浮かべて寛治は一つため息とともに席を立つ。

 

「…………家は、食堂じゃないんだが?」

「すまない……」

「ごめんなさい……」

 

 げんなりとしたジト目で引き戸の玄関を開けた先に居た客人二人は、しょんぼりと謝りながら腹を撫でつつ視線を落とす。

 教会の戦士、ゼノヴィア並びに、紫藤イリナ。とある任務で駒王町へとやって来た二人なのだが、どうにも彼女らへのバックアップ関連が途切れがち。

 具体的には、資金面。この町の教会自体が機能不全を起こしている現状、有体に言って彼女らは金欠だった。

 

 最初は、ちょっとした気紛れ。その日にタイムセールを勝ち切って、色々と買い込めたからか機嫌が良かった為に、軽い気持ちで家に上げたのが始まり。

 半ば集られている、のだが実のところ寛治にも小さいながらのメリットもあったり。

 

「はぁ……まあ、上がれよ」

「!ありがたい!」

「ありがと!」

 

 後頭部を掻きながら玄関に引っ込んだ寛治を追って、二人も家の中へと足を踏み入れる。

 洗面所で手を洗い、通された居間には、湯気の立つ片手鍋がちゃぶ台の中心に置かれていた。

 

「わあ、肉じゃが!寛治君って、料理上手よね」

「まあ、一人暮らししてればこれ位は、な」

 

 目を輝かせて喜ぶイリナに対して、馴染みのない料理に興味津々のゼノヴィア。

 そして、そんな二人を見ながら寛治は頭を掻く。

 

 食べる人間が増えたお陰で、こうして煮物などを作る口実が出来た。

 カレーなどもそうなのだが、やはり煮込む系の料理はたっぷり作って煮込んだ方が美味しく仕上がる。しかし、一人暮らしではそうもいかない。たっぷり作れば暫く同じものばかりを食べなければならず、単純に飽きる。

 その点、こうして二人が食べにくると、色んな料理を作る事が出来て、尚且つ余って料理や食材を捨てる可能性を減らす事が出来る。

 なにより、

 

「む、ニクジャガ、だったか。甘い味付けだが、ご飯が進むな」

「ご飯のお代わりは、二杯までな。お前、食いすぎ」

「やっぱり、寛治君の作るお味噌汁って美味しいわよね。出汁がよく利いてるもの」

 

 こうして誰かと囲む夕飯というのは存外楽しいものであるのだから。美味しいと言ってくれるのなら、猶の事。

 

 かくして夜は更けていく。

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