獄炎爺がシバいてくる   作:矢マン元

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「ほれ、次じゃ。早う向かって来んか」

「ぜぇ……ぜぇ……こんの、クソ爺が……!」

 

 荒れる息と疲労に震える足に鞭打って、刀を杖にどうにか立ち上がる。

 今日も今日とて夢の中。今回は、斬魄刀の解放、白打、鬼道の何れも禁止した上での斬術オンリーでの鍛錬。

 というのも、ここ最近の寛治の現実での戦いは、素手縛り、斬魄刀の解放後一振りのみ、術縛りと刀を抜く事はおろか、そもそも最初から持って事に臨むことが少なかった。

 

 要するに、鈍ってないだろうなテメェ、という確認作業。

 

「口ではなく、手を動かせ」

「言われなくても、分かってんよッ!!!」

 

 立つと同時に上体を軽く仰け反らせてから放つ、右手一本での突き。威力は、両手に劣るが、不意打ちと速度に関してはモーションの少なさから両手に勝る。

 瞬歩も交えた突きは、相手によっては貫かれるまで気付かれないかもしれない。が、老人は突きを切り上げて、返しの振り下ろしによる迎撃。

 体勢は崩れた。普通はここで、回避と姿勢を整える為に退避するところなのだろう。

 

「ッ!!!」

 

 跳ね上げられた右腕が、傍から見ても分かるほどに力が籠められ柄が軋む。

 食いしばられた歯と見開かれた目。上体が前へと倒れながらも、圧縮された時間を使って振り下ろしをダメージ最小限で躱せるであろう場所へと導いていく。

 技もへったくれも無い力任せの振り下ろし。だが、上へと跳ね上げれた刀を腕の筋肉のみならず、肩、胸、そして腰と全身をもって振り下ろしへと軌道を変えた為か、恐ろしい破壊力になっていた。

 だが、

 

「なっ……!?」

 

 ズレた。振り下ろした寛治の一撃は、老人より僅かにそれてその左側を通って床を思いっきり叩き割る事になる。

 一応、老人の振り下ろしも、服から薄皮一枚斬る程度でわずかに血が流れるがそれだけに収まった。

 何が起きたのか。右わき腹を貫かれる刹那、寛治は理解する。

 

「ごふっ……ぐっ、爺……振り下ろしに刀合わせて、逸らしやがったな……!」

 

 無理矢理刺された刀を後ろに下がって引き抜き、距離を取った寛治は血を流しながら睨む。

 僅かにだが、振り下ろしの際に刀が横に押されるような感覚があった。無論、気のせいと言われればそれまでなほどに僅かな感触だ。

 だが、目の前の老人がそれが可能な相手であると寛治は知っている。

 右わき腹を抑える左手で回道を施して血だけを止めて、両手で刀を構えなおす。

 

 夢の中で傷を癒す必要があるのかという話だが、ここは特殊な場所だ。火傷も現実に影響しているし、そもそもこちらで鍛えれば鍛えるほどに現実の肉体にもフィードバックされている。

 

 何より、()()()()()のだから治してある程度の憂いを断つのは当然の事。

 

 鍛錬は続く。目が覚めるその時まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏が近づくこの季節。

 

「暑い……そして、イテェ……」

 

 猫背になりながら、汗を気にしながら、寛治は右の脇腹を擦りつつ道を行く。

 刺された傷はやはり深かったらしく、現実では出血こそしていないが、しかしその刺された部分には鬱血したような痕が現れてしまっていた。

 押すと痛いが、しかし擦る程度ならそこまで問題はない。一応、回道で痛みの緩和はしており、動く事にも支障はない、のだが内臓まで貫かれてトンネルぶち抜かれたせいか、違和感が拭えていなかった。

 

 本当の所、家でのんびりした方が良いのだ。今日は休日でもあるので。

 それでもこの夏日の元、左肩に荷物を提げて道を行くのは相応の理由がある訳で。

 軽い足音と共に、白い髪が隣に並ぶ。

 

「おはようございます、山本さん」

「おはよう、塔城」

「……脇腹が痛いんですか?」

「あ?ああ、まあ、な。大した事ねぇよ」

 

 歯切れ悪く言葉を濁す寛治に、小猫はその目を細めた。

 直近の戦闘といえば、戦闘ともいえないコカビエル戦。

 

(何も、出来なかった……)

 

 小猫の脳裏に過るのは、その思い。

 強くなったつもりだった。事実、コカビエルが嗾けてきたケルベロス等も倒せたのだから。

 だが、それだけだ。

 どうしても、悪魔の駒としての特性と格闘技だけでは劇的に強くなることは無い。というか、小猫自身小柄である事も相まって下手をすると頭打ちが見えてきた気がしてしまう。

 神器を持つ祐斗や一誠がうらやましく思えるのも仕方がない。

 どちらも十全に神器を扱えているとは言えない状態であるし、ソレは裏を返せばまだまだ強くなるための余地が有り余っているという事でもある。

 

 チラリ、と隣を見る。

 

「……」

 

 少し不機嫌そうに再び右わき腹を撫でる彼は、ハッキリ言って強すぎた。

 体術も、独自の術も、そして己の体に宿した得体のしれない炎を吐き出す刀も。

 祐斗の宿した魔剣創造はおろか、一誠の神滅具である赤龍帝の籠手すらも凌駕するかもしれない圧倒的なまでの力。

 

 憧れ――――

 

「ッ!」

 

 そこまで考えた所で、小猫は首を振った。

 強さに思う所があるのは、事実だ。だがしかし、忌まわしい記憶にある()()と同じ道を辿る事だけは絶対に嫌だった。

 

 振った頭を戻して、改めて前を見れば今度は逆に不思議そうに寛治が覗き込んできていた。

 

「俺の心配も良いけどよ。塔城は大丈夫か?急に首振ったりして。虫でも居たか?」

「い、いえ、大丈夫です……」

「そうか?」

「…………私は、強くなりますか?」

 

 本当は言うつもりの無かった言葉が口を吐く。悩んでいたからか、それとも心が弱っていたからか。

 ポロリと零れた言葉に、寛治は眉を動かすと、覗き込んでいた上体を起こして前を見直した。

 即答しない、というよりも何かを考えている様子だ。

 

 彼も、小猫が伸び悩んでいる事は知っている。朝であれ放課後であれ、グレモリー眷属の鍛錬を監督しているのだから。特に近接戦闘ならば、猶の事。

 その上で評価を下すなら、小猫にはもう一押し欲しいところ。

 体格や筋力量などは、時間がある程度解決してくれる。しかし、潜在能力などに関しては別だ。個人差はあれどもある程度初期値で決まってしまう。因みに、彼の知る中で才能その他の最低値は一誠だ。それでもある程度の強敵と戦える辺り、神滅具という存在のチートっぷりがよく分かる。

 その上で、寛治は紡ぐ。

 

「さあ、な。それは、塔城の心持次第だろう。強くなりたいと思うのは、戦う場に居る奴なら自然と持ってるもんだ。ただ、な。どれだけ強くなりたいと願っても、祈っても、()()()()()()()()()()()()()。鍛えて、鍛えて、鍛えて、鍛えつくして。それでも自分の思う強さにまで手が届かないことだって珍しくないだろうしな。努力は裏切らない、何てのは綺麗事だ。周りに褒め称えれても、尊敬されても、結局のところ自分の思い浮かべる領域に手が届かないのなら空しくなるからな」

 

 まあ、俺は別に戦い大好きじゃねぇけど、と寛治は内心で自分の言葉をひっくり返す。

 ここが小猫と寛治の違いだろう。

 

 自発的に強くなりたい少女と、必要に駆られて結果強くなった少年。

 

 どうしても、その立ち位置には、そして“強さ”という不定形で曖昧な物に対する憧れには、差が出てしまっていた。

 この差が、後々にちょっとした騒動の火種となってしまうのだが、この時は寛治もそして小猫も知る由も無い。

 

 そうこうしている間に、二人が辿り着くのは駒王学園。

 休日であるこの日に態々来たのにも相応の理由がある。

 

「あっ、来たわね小猫、カンジ」

「おはようございます、部長」

「どうもっす、先輩」

 

 出迎えたリアス。二人が辿り着いたのは、部室、ではなく駒王学園のプールである。

 

「にしても、オカ研だけでプール掃除はどうなんですかね?使用可能とはいえ」

「一応、建前としては合宿の時の補填よ。申請したとはいっても、二週間も空けたんだもの……まあ、私が原因の手前、強くは言えないのだけど」

「あ……ああ、いや、それは気にしてないっす。本当に」

 

 藪蛇だった、と寛治は頭を掻き、そんな彼の脇腹を小猫は小突いた。

 実際問題、リアスの婚約者問題に対して文句のあるオカ研メンバーは居ない。眷属たちは当然として、寛治自身もソレは同じく。

 だからといって、リアスが気にしていない訳では無い。彼女は優しい少女であるので。

 若干沈んだ空気に、参ったと頭を掻く寛治。何か流れを変えようと話題を探すが、元来会話大好きなタイプでもない彼に話題などすぐさま浮かびはしない。

 しびれを切らした小猫が口を開く――――といった所で、不意に背後に気配が。

 

「楽しそうだな、カンジ」

「うおっ……ゼノヴィア?」

 

 後ろから首元に抱き着くようにして細い腕が回される。固い背中で、柔らかな双丘が形を変えるものの、押し付けられた彼の表情に変化はない。

 その事に若干の不満を覚えながらも、ゼノヴィアは離れない。

 

 彼女は、悪魔となった。その経緯は、殆ど事故の様なものだが。

 発端はコカビエルの一件。寛治に敗れた、彼の発言を断片的にだが、彼女は聞いてしまい、居ても立っても居られずに上層部への疑問として聞いてしまい、そして破門となった。

 彼女自身には、瑕疵はない。猪突猛進な嫌いがあろうとも、敬虔な信徒だったのだから。だからこそ、“神の不在”を質さねば納得できなかった。

 この折に、イリナと半ば喧嘩別れの様な形になってしまったのだが、今日にいたるまで話し合いの目途はたっていない。

 

 そんな彼女は今、駒王学園の二年生として籍を置いている。年齢的なものもあっての転入なのだが、その折の拠点は、何と寛治の家、の直ぐ近く。流石に、同棲とはいかなかった。彼女は、厄介になる気だったようだが。

 

「もう少し動揺しても良いのではないか?」

「何だ?襲えってか?」

「それも、良いな。私は、強い者の子が欲しい」

「オープンにし過ぎだろ……」

 

 今までの禁欲生活から一転、悪魔に成ったせいか彼女は実に欲望をオープンに曝け出すようになった。その矛先は、彼女の目の前で強大な力を行使した寛治に向く。

 寛治としては、そんな彼女を邪険に扱うことは無い。が、だからといって実際に手を出すような事もしない。これに関しては彼自身の興味の問題。

 

 しかし、当人が気にしていないと言っても、周りがそういう訳では無い。

 

「……ん?」

 

 不意に、服の裾が引かれる。

 視線を動かせば、そっぽ向いた小猫が服の裾を摘まんでいた。

 彼女から見て、ゼノヴィアと寛治はかなり気安い関係に見える。事実、顔見知りの年上の内、ため口で彼が話すのはゼノヴィアとイリナ位のもの。敵対関係の相手に関しては、割愛。

 更に、ゼノヴィアは悪魔に成ってからも、何かと寛治の家にお世話になっている。具体的には、夕飯など。

 その他にも、一誠の鍛錬に彼女も付いて行って、鍛錬もしている。

 要するに、嫉妬。

 

「塔城?」

「……何ですか?」

「いや……まあ、良いか」

 

 寛治は、人の機微に鈍い。そもそも、色恋沙汰に関して興味が無いのだから、相手からの矢印に関しても、気付かない。

 気付かないが、今回は何となく必要以上に言葉を連ねるのは止めた方が良いのだろう、とその口を閉じていた。

 

 暑さの増す、そんな日。

 波乱は着々と迫っている。

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