獄炎爺がシバいてくる   作:矢マン元

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 深夜の駒王学園。

 本来ならば立ち入りは禁止されているのだが、この日はまた別の理由で立ち入りが禁止されていた。

 

「……暇だ」

 

 手で表面を払った階段に腰掛けて、寛治はため息を吐く。

 今回行われる三大勢力による和平会談。その発端、もとい契機となったコカビエルの一件を終息させたとして彼は参加を余儀なくされたのだが、その立ち位置はゲストと言って良い。

 自然、ゲストが運営側の手伝いをするというのは、後者の外聞が悪くなってしまう。ただでさえ、今回の会談は強行であるのだから、猶更。

 結果的に、リアスたちからもそれとなく外れておくよう伝えられ、寛治はこうして暇を持て余している所。

 時間帯からの眠気は特にない。というか、起きていようと寝ていようと、体は休まっても精神的に休まる事は無いのだからこの辺りはあまり関係ない。

 頬杖をついて、考えるのはこれからの事。

 

(先輩たちの手助けなら、良い。でもな……)

 

 再三再四とはなるが、寛治がリアスたちに手を貸すのは彼女らの事を気に入っているからだ。そこに種族としての垣根は存在せず、彼女らが彼女らであるからこそ、手を貸している。

 裏を返せば、どれだけ悪魔が、天界が、堕天使が危機に陥ろうとも知った事ではない、という事でもある。

 そも、義理立ても何もない。勿論、リアスたちに頼まれたならば、動くだろうが。

 

 面倒な事になったと階下を見下ろしていると、不意に彼の無意識の探知範囲の中に圧が割り込んでくる。

 

()()()()()()()。誰だ?)

 

 寛治の感知は、そこまで優れていない。が、それでも一定以上の実力者であるのなら判別できる程度の精度は持ち合わせていた。

 直近だと、アザゼルや曹操がこれに該当する。脅威になるかどうかは別として。

 果たして、階下より上がってきたのは、銀髪の青年。

 

「ここに居たか、山本寛治」

「アンタは……………ああ、あの時の白い鎧の奴か」

「俺は、ヴァーリ。今代の白龍皇だ」

「白龍……?兵藤先輩の関係者か?」

「彼は一応俺のライバルという事になるんだが……今の興味対象は君だ」

 

 言うなり、ヴァーリの全身から威圧感が溢れる。

 殺気ではない。彼が求めるのは、あくまでも血沸き肉躍る闘争の時間であるのだから。それが結果的に殺し合いへと発展する事はあれども、最初から殺傷目的に暴れることは無い。

 壁に亀裂が走るほどの圧。だが、その圧を向けられる寛治はと言うと、気の抜けた表情のまま頬杖をついて、階段から立ち上がる様子もない。

 

 ヴァーリと、寛治は、互いに強大な力をその身に宿している。しかし、持ち合わせた気質に関しては全くの別物だった。

 

「そうか。俺は、アンタに興味は湧かねぇけどな」

 

 元々戦闘狂の嫌いも無く、戦わずに済むならばそれに越した事がない寛治は空いた方の手を振る。

 

「そうか……なら、君は理由があれば戦うのか?」

「そりゃ、必要に駆られれば火の粉を払うぐらいするだろ」

 

 互いの視線がかち合う。

 この場でどれだけ挑発しようとも、寛治は乗ってこない。ヴァーリはその事を理解する。

 

 理解した上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()、とも。

 

 その時を思い、知らずの内にヴァーリの口角が僅かに上がる。

 この世界に於いて、力有る者は自動的に闘争へと巻き込まれていく。

 当人が、望む望まないに関わらず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駒王学園会議室。

 和平会談の場として設けられたここでは、各陣営の有力者が顔を合わせていた。

 悪魔側からは、魔王サーゼクス・ルシファー、セラフォルー・レヴィアタン。

 堕天使側からは、総督アザゼル。

 天界側からは、天使長ミカエル。

 錚々たるメンツであるし、サーゼクスに至っては本気を出せば世界でも一桁に割り込める実力者だ。

 

「……」

「?どうかしたんですか?」

「……いや?」

 

 壁に背を預けて腕を組んだ寛治は、問いかけてくる小猫にぞんざいに返しながらその眉間に皺を寄せていた。

 視線。それを向けてくるのは、堕天使側。アザゼルではない、ヴァーリの方だ。

 階段の一幕で、適当にあしらったつもりだった。ヴァーリの方も、ある程度の立場をもってこの場に臨んでいるのだから向かってはこない。

 そう分かっていても、寛治はどうにも嫌な予感というものが拭えなかった。

 

(どこが纏まってんだよ……)

 

 内心で、いつぞやのアザゼルの言葉に、寛治は毒づく。

 実際に見て、よく分かる。彼は戦闘狂というものを理解していない、と。

 

 戦闘狂のみならず、何処か狂っている者を一般的な価値観を持つ者が理解する事は非常に難しい。

 狂人には狂人の理がある。それは、一般的な善悪の範疇を超え、規範やルールの守るべき一線などが介在する余地もない。

 

 だからこそ、アザゼルはコカビエルを御しきれなかった。彼は戦闘狂で戦争狂であったから。平和はおろか、周囲の闘争からの足抜けすらも理解できない。

 ヴァーリも、これに近い。彼自身は決して根っからの悪という訳では無く、虐殺などを望んでいる訳でもないが。

 彼の闘争欲求は、自己形成の根幹にも根差したもの。

 先に、ヴァーリと寛治は同じく強大な力を有していると述べたが、その実その始まりは全く違う。

 だからこそ、寛治は彼を、ヴァーリという存在を理解する事は出来ない。戦闘など起きてほしくないと思ってしまう時点で相容れない。

 

 会談は、()()調()()()()()()()()

 悪魔も天使も堕天使も、既に限界であるのだ。もう意地を張り通して突き抜けるような時間は過ぎているのだ。

 それこそ、このまま進めば後数百年と持たずに、陣営そのものが瓦解しかねないほどに。

 だからこその予定調和だ。この場の代表者たちは、これ以上の闘争を望まない。

 

 ()()()()()()()()()、は。

 

「……あ?」

 

 コカビエルの件で少し意見を求められ、後は石ころとなっていた寛治は、突然の事態に眉根を上げた。

 世界が止まる。チラチラと盗み見てきた小猫含めて止まっていた。

 周囲を見渡せば、この場で動けるのは相応の実力者のみ。

 

「お前は動けるか」

「アザゼル……何が起きてる?」

「さっきも言ったろ。禍の団の襲撃だ」

「対応は?」

「この時間停止は、そこのリアス・グレモリーの眷属が持ってる神器によるものらしい。そっちに、リアスたちを行かせて、残りは防衛と攻勢に分かれる事になった。防衛は、サーゼクス、ミカエル、セラフォルーが校舎に防御の結界を張って保護する。攻勢には俺とヴァーリ、それからお前に出来れば出てほしい」

「……はぁぁぁ……」

 

 重苦しいため息を吐く寛治。

 やる義理は無い、がしかしその分け方には分かるものもある。

 問題は、銀髪の美丈夫。

 彼はこの状況で欠片も焦っていなかった。それどころか、先程まで向けてきていた視線がより強まった様に思える。

 

(明らかに、やらかす気だろ……でもなぁ)

 

 リアスたちが動く中で、自分一人動かないというのは寝覚めが悪い。かといって、彼女らの方について行っても無駄に戦力を増やすだけで、寧ろ寛治としては動きにくいというのが正直なところ。ついでに、結界関係も得意でない為、防衛側に残っても役立たず(ニート)まったなしである。

 再度ため息を吐いて、寛治は頭を掻く。

 彼に選択の余地は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍の団による会談襲撃。

 主犯は、現状禍の団内における最大派閥である、旧魔王派。そこに属する三首領の一人、カテレア・レヴィアタン。

 こちらはアザゼルが抑え込み、残りの学園に結界を張って包囲し乗り込んでくるはぐれの魔術師やら、悪魔、その他諸々禍の団構成員をヴァーリ、そして嫌々ながらも寛治が相手取る。

 

「派手だな」

 

 空を見上げて、寛治は眉をひそめていた。その右手には薄く血の汚れが付いた未開放の斬魄刀。腰の左側に鞘を差して左手は目元の庇としていた。

 彼の周囲では切り裂かれて絶命した構成員たちの亡骸が幾つも転がっている。

 本来ならば鬼道などで広範囲を焼き払う方が手軽なのだろう。

 しかし、()()()()()()共闘だ。無駄に広い範囲を焼けば、自然と空で構成員を相手取っているヴァーリにも被害が及ぶ場合がある。

 そして、仮に彼が被害を被れば、ソレを口実として嬉々として襲い掛かって来るだろう。

 寛治としては、態々相手に大義名分を与える気も無い。

 

 相当にやる気のない寛治だが、その一方で禍の団構成員から見れば絶望そのものともいえる相手だったりする。

 妙な気配のする刀を携え、周囲からの魔法の攻撃も切り裂き、不意打ち気味の後方からの攻撃も見もせずに回避した上で、カウンターとして切り裂いてくる。

 腕自慢が何度か挑んだが、その都度一合と持たずに切り捨てられてきた。

 

 正しく、化物。或いは、厄災。或いは、絶望。

 

 構成員たちは、若干の後悔を滲ませる。

 白龍皇に挑むよりはマシだと考えていたのだ。相手は、ただの人間であると。その油断が、今回の命取りに繋がった。

 

「ば、化けも――――ッ!?」

「いや、人外がそれを言うか?」

 

 刀身に着いた血を払い、寛治は周りを睨む。

 彼に戦闘の美学などは特にないが、テロリストとして戦いの場を作った以上、怖気づくなよ、とは思ってしまう。

 この辺りは、ドライだ。例え、どんな思想があろうとも、過去があろうとも、敵対した時点で寛治の手心はまず期待できない。

 

 一方的すぎる戦況。いや、これは最早戦いではない。

 

「終わったか」

 

 見上げた寛治の視線の先では、アザゼルが左腕と引き換えにカテレアを粉砕した所だ。

 

 そして、同時にソレも飛来する。

 

「――――時を改めたぞ、山本寛治。さあ、始めようか」

「……戦闘狂が」

 

 上空からの白銀の鎧による強襲を刀で捌き、距離を取って吐き捨てる。

 厳しい表情を浮かべる寛治と相対するのは、白銀に蒼の宝玉が輝く鎧。

 ヴァーリの宿した神滅具【白龍皇の光翼】。その禁手化である、【白龍皇の鎧】を纏った姿。

 

 世界的に見てもそうはいない実力者が、今ここに相対する。

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