獄炎爺がシバいてくる   作:矢マン元

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 チリチリと空気が鋭く研がれていく。まるで、刃の様に。

 

「ヴァーリ……その闘争の道は、茨なんてもんじゃねぇんだぞ?」

 

 失った左腕の処置もそのままに、アザゼルは呟く。

 口ではこう言いながらも、心のどこかではこうなるのではないかと彼は何となく分かっていたのかもしれない。

 なら止めろよ、と言う話だが、そもそもヴァーリは言葉で止まるようなものではなく、かといって実力行使に出ようものなら、逆に嬉々として戦闘に臨む事だろう。

 そして、堕天使勢力で一気に挑んでも、確実に勝てるとは言えないのが、歴代最強の白龍皇という存在だった。

 

「アザゼル、何故山本君と彼が向かい合っているんだい?」

「見りゃ分かるだろ、サーゼクス。うちからのもう一人の裏切者って事だ」

 

 合流したサーゼクスに御座なりに返すアザゼル。だが、彼を糾弾する声は他にもある。

 

「あの鎧は……アザゼル!彼は貴方の部下じゃないの!?」

「部下……そうだな。今回は大人しくするってんで連れてきたんだが……」

「だったら止めなさいよ!」

「言葉で止まるような奴なら、俺だってここで静観なんざしてねぇさ。何より、奥の手を切っちまった後の俺じゃあ、アイツには敵わねぇ。それこそ、サーゼクス位だろう。真面に戦える奴なんざ」

「それほどなのかい?確かに、神滅具を禁手化にまで至らせていることは分かるが……」

「ヴァーリの立ち位置は、サーゼクスお前に似てんだよ」

 

 ガリガリと右手で頭を掻いて、アザゼルはため息を一つ吐き出した。

 

「アイツは、ヴァーリ。本名を、ヴァーリ・()()()()()。先代魔王の血を引く男だ。加えて、見りゃ分かるが人間の血が混じってる。その状態で神滅具である白龍皇の光翼を引き当てた。過去現在未来に於いて最強の白龍皇だ」

「それは……」

 

 さしものサーゼクスも絶句する。

 彼は元々グレモリー家の悪魔であり、襲名と言う形でルシファーの名を継いだにすぎないのだ。だからこそ、ファミリーネームとして名乗る魔王の名は、それだけ重い。

 

 ギャラリーが騒めく一方で、寛治とヴァーリは未だに睨み合っている。

 

「なんだって、裏切ったんだ。俺と戦うためか?」

「アースガルズとの戦争を提案されてな。かの北欧の神々と矛を交えるのなら、と勧誘を了承した。勿論、君と戦える可能性を高める、と言う理由もあったが」

「……何でこうも、戦い(こんなもん)が好きな奴が多いんだか」

 

 頭を掻いて、寛治は肩に入っていた力を抜くと、霞に構えていた刀を下して無形となる。

 

「死んでも良いってか?」

「勿論、死ぬ気は毛頭ないさ……が、闘争の果ての結果なら、甘んじて受け止めよう。無論、死ぬその瞬間にまで俺は戦いを止めるつもりはないが」

「そうかよ……ハァ、階段でも話したけども、兵藤先輩は良いのか?終生のライバルなんだろ?」

「彼か……あまりにも弱すぎるからな。ライバル、と言っても所詮は下級悪魔。コカビエルにも勝てず、禁手化にも至れていない。俺は、一方的な虐殺は趣味ではないんだ」

 

 ヴァーリのいう事も、分かると寛治は内心ではあるが頷けてしまう。

 今の一誠では、逆立ちしてもヴァーリには勝てない。いや、神器の特性上見込みはあるかもしれないが、ソレはある程度先の話。少なくとも、今この瞬間ではない。

 寛治は頭を掻いた。

 一誠が仮に戦った場合、この場でならサーゼクスが居る為、助けてもらえるかもしれない。腕の一本や二本犠牲にする可能性はあるが。

 尊敬などはしていないが、それでも顔馴染みの先輩がそんな目に遭う事を許容できるほど、寛治は人でなしではない。

 改めて息を吐き、両手で刀の柄を握る。

 

「手足の一本や二本、切り落とされても文句言うなよ」

「気にすることは無い。本気で―――」

 

 来い、と言おうとした瞬間、ヴァーリの眼前に鋭い切っ先が迫っていた。

 鉄仮面の下で目を見開き、同時に能力が発動する。

 

「『Divide』」

「ッ!」

 

 高速歩法、瞬歩による接敵からの突きを放っていた寛治は、突然の脱力感に目を見開く。

 普通はそのまま膝砕けになっている所なのだが、そこは文字通り死ぬ気で鍛えてきた男。無理矢理にでも踏み込んだ右足を強く踏み締めて、突きを継続。

 だが、脱力の瞬間に僅かなラグが生まれており、これによってヴァーリの体は空へと逃れていた。

 その後を、間髪を容れずに寛治は追う。

 地面を蹴って切り上げを放ちながらの追撃だ。

 本当ならば、警戒して攻め手を一度緩めるべきなのだが、寛治はその定石を無視していた。

 

「シッ!」

「凄まじい力だな……!」『Divide』

 

 再び力が抜ける感覚を覚えながら振り抜かれる切り上げと、振り下ろされた右足。

 甲高い金属音と共に、大きな火花が散り二人は擦れ違う。

 場所が入れ替わり、振り上げた刀を持ち換えて大上段に構えた寛治はそのまま()()()()()、蹴りの勢いそのままで下降するヴァーリへと襲い掛かっていく。

 

 迫る寛治を仮面越しに、ヴァーリは歓喜していた。

 まず間違いなく、今までで最強の敵。

 白龍皇の光翼の特性は、半減と吸収。赤龍帝の籠手と対を成すような能力だ。そして、禁手化する事によって半減の力で相手を急速に弱体化させ、その上で半減した力を吸収、自分の力として余剰分を光の翼より排出する。

 ヴァーリ自身のポテンシャルも相まって実に破格の能力だろう。

 

 既に、寛治は二度の半減を受けている。にも拘らず、二度交差した鎧には決して小さくも浅くもない裂傷が刻まれていた。

 修復は終えている。だが、半減を受けた上で神滅具の禁手化による鎧を切り裂くのだ。仮に、半減が間に合っていなければ、まず間違いなく鎧ごとその中の肉体諸共両断されかねない。

 

「面白いッ!!」

 

 突き出す左腕に魔力が走り、雷霆が空へと向けて撃ち放たれた。

 迫る青白い光に一瞬の内に寛治の姿は掻き消える。雷霆は目標を飲み込むだけに留まらず蛇行しながら、結界の天井へとぶつかり大きく弾けて消えた。

 だが、

 

(……ッ!?下だと!?)

 

 ヴァーリが気付いた時には、既に寛治は溜を終えていた。

 左手で刀身の峰を摘まみ、腰だめに構えた状態から放たれる、デコピンの要領による高速の横一閃。

 

(ッ!)『Divide』

 

 ギリギリで半減が間に合う。

 だが、

 

「ッ!?な、に……?!」

 

 防御とした右腕。そこに振るわれた刃は、その鎧の防御を完全には抜けない筈だった。

 だが、今。白刃は白銀の装甲を割り、その中身である腕の中ほどまでその刃を食い込ませていた。

 

「チッ……刃筋がブレたな」

 

 舌打ちをし吐き捨てる寛治は、すぐさま体の後方にあった左手を掌底の形にして突き出してくる。

 狙うのは、ヴァーリの右前腕の中ほどにまで食い込んだ刀身。

 腕を切断される。気付いた瞬間、ヴァーリは全身から魔力を放出していた。

 咄嗟に下がって躱す寛治。刀に付いた血を払う。

 

「ッ、鎧を抜けるか……!」

「あ?お前の神器は、相手の力を奪うか何かしてるんだろ?二回も受ければ一回に抜ける力の量も感覚で分かる。なら、力が抜ける前提で動けばいい」

 

 いやその理屈はおかしい、と神器に造詣の深いアザゼルならば言うだろう。

 白龍皇の光翼は、神滅具だ。神をも滅ぼせるというのは伊達ではない。それだけ破格の性能を有しており、禁手化ともなれば並大抵のものでは耐えられる筈もない。

 とはいえ、膠着状態だ。先ほどの鎧を断った一撃も、若干の溜が必要。要するに攻撃に移るまでの助走が要る。

 チラリと周りに視線を走らせれば、少なくとも観戦者たちの距離は遠い。

 

 巻きこむ事も無いだろう。何より、()()()()()嫌でも気づいて警戒してくれるだろう。

 

 そして、その雰囲気の変化をヴァーリは感じ取っていた。

 鎧を斬られるなど思いもしない。それどころかその下の腕を切り落とされかけるなんて、思案の外だ。

 だからこそ、その心は熱く猛っている。

 果たして、

 

「“万象一切 灰燼と為せ”――――『流刃若火』」

 

 業火は解放される。

 その光景を目の当たりにして、無意識の内にヴァーリは息を呑む。

 炎が質量を持って荒れ狂っている。しかも、ある程度の距離があるというのに鎧越しですら汗がにじむほどの熱気が周囲を揺らめかせていた。

 

 熱波が揺らしたのは、何もヴァーリだけではない。

 

「ッ!」

 

 反射的にサーゼクスは、最硬硬度の結界を張っていた。

 その結界越しに、アザゼルは目を見開く。

 

「おいおいおいおい、何だありゃ。白龍皇の鎧を斬る刀かと思えば、この熱量……太陽をこの場にもう一つ持ってきたレベルじゃねーか」

「やはり、君の持つ知識にも該当しないかい、アザゼル」

「出力的に見ても、神滅具を超えてやがる。サーゼクス、お前は知ってたのか?」

「見たのは、これで二度目だよ。もっとも、見た所で私にもその底は測れず、どれだけの力を有しているのかも分からなかったけれどね」

 

 超越者であるサーゼクスをしてそこまで言わせる。アザゼルは、頬を冷たい汗が流れる感覚を覚えていた。

 彼は、ヴァーリを最強の白龍皇だと称した。

 その一方で、山本寛治と言う男に関しては調査不足であり、認識が甘すぎたとも理解させられる。

 強い、何て言葉が陳腐に感じられる。それほどまでの隔絶した存在がその場にあった。

 

 アザゼルが戦慄する中、寛治は両手で刀の柄を握っていた。

 上段に掲げ、一歩踏み込む。

 

「ッ!?」

 

 振りに呼応するように放たれた炎。轟音と陽炎を伴って迫る暴力の塊に、ヴァーリは目を見開く。

 本来、炎を吐くドラゴンというものは、火に対して耐性を有している。自身の炎に焼かれるなど本末転倒であるからだ。

 例に漏れず、白龍皇の鎧をまとうヴァーリもまた、本来ならば大抵の火に関しては、一考する必要が無いほどに脅威足りえない。

 

 だがしかし、

 

『Divide』「っなにッ!?ぐぁああああああああああああっ!?!?!?」

 

 半減が発動しその上で防御した筈のヴァーリは、地獄を見ることになる。

 まず、大型のタンクローリーでも突っ込んできたかのような衝撃。次いで、鎧の上からでも分かる高温。

 美しいともいえる装甲は、まるで熱せられたチーズの様に泡立ち、あまりの高温に宝玉は原形を留める事無く溶けていく。

 地面を転がるヴァーリに、ゆったりとした足取りで近付いていく寛治。

 この間に、どうにか魔力で燃え移った炎を払ったヴァーリだったが、その姿は実に無惨なものだ。

 

「ハッ……!ハッ……!ッ、何故だ、半減が……」

「お前、迫ってくる太陽を半減にしたからって、被害と威力が半分になる訳じゃねぇだろう?」

 

 うずくまるヴァーリを見下ろす寛治の目には、一切の感情が読み取れない。

 

「さあ、チェックだ。言っとくが、もう()()()はしない。次は、本当に焼死、いや灰も残さずに消し飛ばす」

「……ふっ……君は随分と、慈悲深いな……ぐっ!」

 

 呻きながら、ヴァーリは立ち上がる。

 半壊した鎧。その下の本体もまた火傷による酷いダメージが見て取れる。

 しかし、その目だけは爛々と輝き闘争心には一切の陰りが無い事を表していた。

 折れない心に呼応するように、その鎧も元の姿へと修復される。

 

 目を見返し、寛治はため息を吐く。コレだから戦闘狂は、と。

 ここから何度も打ち据えたとしても、目の前の男は折れないだろう。言われずとも、寛治はその事を察していた。

 であるならば、どうするか。選べる選択肢などそう多くはなく、そして山本寛治と言う少年は決して()()()()()()

 

「――――死んでも、化けて出るなよ?」

 

 ため息を吐いて前髪を掻き上げた寛治は、温度を乗せずに言い放つ。

 そして、答えは聞かない。

 寛治の姿は、唐突にヴァーリの前から消えたのだ。

 

 次に現れるのは、空中。右手に握られた刀が掲げられ、その刀身より溢れていた炎が渦を巻いて集束していく。

 熱風が吹き荒れ、周囲の空気が急速に乾燥していく。

 

 仮面の下、乾燥によって切れた唇から血が流れた事にも気付かずに、ヴァーリはその光景にこの日何度目かの驚きをもって相対していた。

 

「凄まじいな、山本寛治……!」

 

 彼の見上げる先。そこにあるのは、言うなればもう一つの太陽。

 寛治の掲げた刀の燃え盛る切っ先の先に、直径凡そ十メートルに迫ろうかという火球が浮かんでいた。

 恐ろしいのは、未だに刀身から炎がラインの様に伸びて、火球へとそのエネルギーを供給し続けているにもかかわらず、火球がブクブクと膨らんでいかない点だろう。

 火加減をして、神滅具の禁手化による鎧を焼き溶かす業火が、圧縮されてそこにある。それがどれほど恐ろしい事なのか。

 

「……ふっ……ははは……はっはっは…………はーっはっはっは!!!!」

 

 ヴァーリは笑う。仮面の下で歯を剥いて、笑う。

 気でも違えたのか。否、この男の精神性は己の死()()では揺らぎようもない。

 ならば、何故笑うのか。

 ソレは偏に、楽しいからだ。この命の危機が、ピリピリとその身を焦がす緊張感が。じくじくと全身を蝕み、今この瞬間を生きているのだと実感させる痛みが。

 味わう事の無かった本当の死線が今、目の前にある。その事実が、どうしようもなくヴァーリの心を昂らせて仕方がなかった。

 故に、手札が切られる。

 

「“我、目覚めるは 覇の理に全てを奪われし二天龍なり 無限を妬み、夢幻を想う 我、白き龍の覇道を極め 汝を無垢の極限へと誘おう――――覇龍(ジャガーノート・ドライブ)”」

 

 一気に溢れる(ドラゴン)のオーラ。同時に、その体は蒼白の光に包まれ、人の形から逸脱したモノへと変化する。

 

「…………」

 

 対象の変化を見下ろしながら、寛治は目を細めた。

 今のヴァーリは、言うなれば人の形を辛うじて留めたかのようなドラゴンへとその姿を変えているのだ。それも、ただの見掛け倒しではなく、威圧感、溢れるオーラ、昂る魔力等々。禁手化を超えた存在とでも言うべきか。

 覇龍。封印系の神器の中でも、ドラゴンを封じた神器の禁じ手。その力は、神にすらも届くとされるが、その一方で発動には大きなリスクが伴う。

 命を落とす可能性、そしてその命を落とすまでの僅かな時間での暴走。

 理論上は、制御不可能とされており、そもそも発動した時点で自身と周囲を破滅させる、言うなれば自爆技同然。

 だがヴァーリは、この内の命を落とすリスクを短時間であるのなら無視できる。その恵まれた生まれによって獲得した膨大な魔力を生命力の肩代わりとする事によって。

 

 とはいえ、暴走のリスクは当然ある。神器に宿る白龍皇アルビオンとの対話を続けたヴァーリであったとしても、この面は排除できていない。

 何より、今の彼は消耗しすぎている。覇龍によるデメリットを無視できるのは、通常時以下だろう。

 それでも、ヴァーリは強行した。知った事か、と。

 

 白銀の龍が地を蹴る。太陽を破壊せんと。

 そして、

 

「――――焔星(えんせい)

 

 刀が振り下ろされ、それに続いて火球もまた落ちてくる。

 この火球に、真正面から突っ込むヴァーリ。

 その鼻先が触れた瞬間に神器は起動し――――

 

『Div――――

 

 瞬間、熱波と衝撃、そして極光が結界内を染め上げる。

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