獄炎爺がシバいてくる   作:矢マン元

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 一時のテンションに身を任せると、人と言うのは黒歴史を量産しやすい。

 

「ぬぁああああああああ~~~っ!」

 

 ゴロゴロと誰も居ない居間で一人頭を抱えて、山本寛治は転がりまくっていた。

 思い出すのは、数時間前の事。実戦の空気に中てられたとはいえ、何というか思い返すと恥ずかしいというか、首筋が痒くなってしまう。

 ここが、彼の歪さだ。戦闘に対するシビアさと、そして()()()()()への抵抗感の低さ。

 コート越しに肉を打つ感触を忘れた訳ではない。放った術に関しても、()()()()()()()()()を込めて撃った。

 

 偏に、幼少期からの()()の賜物。当人は気付いていないが。

 

 暫くの間転がっていた寛治だが、やがて仰向けになるとその動きをぴたりと止めた。

 考えるのは、これからの事だ。

 

(十中八九、()()()()()だろ。いや、泳がされてた、のか?まあ、どっちでも良いや。問題は、俺が介入して良いのか、悪いのか)

 

 寛治は、フリーだ。無所属で、自由ではあるが、裏を返せば後ろ盾がない。

 個人で組織を相手取れるものは、何かしらの圧倒的な力と言うものを有している。それは権力であったり、財力であったり、知力であったり、統率力であったり、そして戦闘能力であったり。

 現状の彼は、特別極まってはいない。強いて挙げれば戦闘能力だが、()()()()()()()()()為に極めるには至らない。

 だからこそ、実戦の場が必要だった。

 

「――――何を迷うておる」

「爺……」

 

 悶々としていれば、気付けば周囲は灰色に。そして、彼の枕元には老人が立っていた。

 

「力を持つ者は、戦う事こそが宿命。お主もその一人。何を悩む」

「爺と一緒にするんじゃねぇよ。俺は別に、戦うのが大好きだとか言う戦闘狂の気はねぇんだから……戦わなくて済むのなら、そっちが良いだろ」

「じゃが、世界はお主を放ってはおかん。“今日”という時間が先になるか、後になるか。その違いでしかない」

「そりゃ……そうかもしれねぇけどさ」

 

 老人の言い分が分からない訳ではない。鍛錬の夢を見るようになってから、現実でも寛治は夢の中の刀を、体術を、術をそれぞれ扱えるようになった。

 同時に、世界には()()()()()()が居る事も知った。

 例えば、クラスメイトの白い少女。

 例えば、入学式で挨拶をしていた生徒会長。

 例えば、学園で二大お姉さまと呼ばれている先輩たち。

 それらは一例。街を出歩けば、その手の輩とすれ違う事など珍しくなかった。

 

 敵対するのならば、容赦しない。だが、そうでないのならば関わりたくない。それが寛治として保ちたかったスタンス。

 もっとも、それは元より土台無理な話だったのだが。

 

「――――強く在れ、小童。弱ければ、何も選ぶことは出来ぬ」

 

 しわがれた、そして今までも何度となく言われてきた言葉が、寛治の鼓膜を揺らす。

 弱者に選択肢は無い。何時だって、彼らの生殺与奪の権利は強者が握っているのだから。

 何も言い返せず、寛治は黙り、老人の姿は掻き消え世界には色と時間が返ってくる。

 

「……腹減った」

 

 悶々としていてもしょうがない。寛治は、泣きわめく腹の虫に従って身を起こすと、夜食の当てを求めて、台所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針は進み、草木も眠る丑三つ時。

 人間たちは床に就き、その一方で人外たちは夜陰に蠢く。

 

「朱乃。夕方の件は、どうなってるのかしら?」

「一応、資料は纏めていますわ。しかし……」

 

 歯切れの悪い腹心に、紅髪の悪魔はその端正な顔立ちに僅かに皺を寄せる。

 ()()()が話すのは、今日の夕方に起きたとある出来事について。

 

 駒王学園、ひいては学園が存在する駒王町は、悪魔が管理している土地だ。因みに政府公認とか、その辺りは別。ただ、ある意味では政治的な側面が大きく在り、この辺りは正直複雑。

 そして、この土地の管理を任されたのが、若き上級悪魔、リアス・グレモリーだった。

 

 リアスの頭を悩ませる問題。それは、今日の夕方に起きた事。

 まるで、太陽がもう一つ現れたかのような火球が空に突然出現したのだから。

 時間にすれば、一分も無い。しかし、その光景は人、人外問わずに多くの人々に目撃された。

 問題なのは、このレベルの現象を起こせるであろう人物をリアスが把握していなかった点。

 

「神器の持ち主の暴走、って訳でもないでしょうし。それなら、今頃もっと大きな被害が出ているはずだわ」

「現場から少し離れた場所に、争った形跡もありましたわ。ちょうど、二人分、といった所でしょうか」

「そこよね……仲間割れか、それとも敵対してからのいざこざか」

 

 楽観は、出来ない。夕方の火の玉が、全力であれ何であれ、街中でポンポン撃たれれば、まず間違いなく壊滅的被害を被る事になる。

 とにかく、地道に調べる他ない。

 そう決めて、腹心である姫島朱乃へと指示を出そう――――といったところで、横合いから別な情報が飛び込んでくる。

 

「あの……」

「どうかしたの?小猫」

「いえ……もしかすると、私の知っている人かもしれないです」

 

 おずおずとそう言うのは小柄な少女、塔城小猫。

 実を言うと、小猫もまた空に火の玉が上がった瞬間を見ていた。同時に、その火の玉より()()()()()()霊力を感じ取ってもいた。

 ただ、同時に彼女の知る彼は、自ら率先して力をひけらかすような人間でもない。

 

「部長。この件、私に任せてもらえませんか?」

「……大丈夫なの?」

「私が考えてる相手で間違いないのなら」

 

 事が荒立つことは、ほぼ無いだろう。それが小猫の見解だった。

 だが、それは目を丸くしているリアスには伝わらない。

 彼女としては、普段物静かな方の小猫がこうして積極的に動いている事に驚くと同時に、成長も感じられる庇護者の感情が浮かぶというもの。

 しかし、ソレはソレ。

 

「……分かったわ。ただし、監視だけはつけさせて頂戴。もしもの時には、こちらも直ぐに動くから。そのつもりでいて」

「分かりました」

 

 頷く小猫に、リアスは一つ息を吐き出した。

 思わぬ解決の糸口だが、同時に新たな問題も浮上してきてしまった。

 とにかく、監視用の使い魔を選ぶことから準備を始める。そう意識を切り替える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月が沈んで日が昇る。

 

「くぁ……」

 

 堪えきれなかった欠伸のついでに、涙がにじむ。

 良くないと分かっていながらも目を擦った寛治は、カバンを掛けたのとは逆の腕を空に挙げて大きく伸びをする。

 例に漏れず、厳しい夢の中の訓練。夕方の体術に関して粗を見咎められたのか、百本組手のようなありさまとなって、延々と老人との拳闘し続けていたのだ。

 焼き尽されたり斬殺されたりするよりも血腥くは無いが、その分内臓に響くような衝撃が何度となく襲い掛かってくる。特に“骨”を冠した一撃は、打撃詐欺。砲撃にも勝る破壊力を有している。

 まあ、どれだけ嘆いたとしてもどうしようもない。なる様になる、と内心で折り合いをつけるしか寛治には取れる選択肢が無かった。

 何度目かの欠伸が口から零れた頃、背後から足音がした。

 

「……おはようございます」

「おう、おはよう塔城」

 

 いつものやり取りだ。追いついてきた小猫に合わせるようにして、その歩調は若干緩む。

 

「いつも通りの寝不足ですか」

「いや、寝てない訳じゃないんだが……まあ……」

「では、睡眠の質が悪いんですね」

「…………かもな」

 

 小猫の言葉に、自分の睡眠の質は極悪も良いところだろうと内心で、寛治は嘯いてみたり。ついでに、枕とか生活習慣とかで改善できるようなものではないのだから、質が悪いと付け足した。

 それから、幾つか他愛の無い会話を挟んで、学園への通学路が三分の二は過ぎた頃。

 

「――――ところで、山本さん」

「あん?」

「昨日の夕方の火の玉について何か知ってますか」

「んごふっ!?」

 

 変な声が出た。というか、咽た。

 

「……知ってるんですね」

「んんっ!……仮に、知ってたとして、どうするんだ?」

「特に、どうとも……ただ、あまり派手に動き過ぎると目を付けられますからね」

「警告、か」

 

 足を止めずに、空を見上げる。

 遅かれ早かれ、こうなる事は明らかだった。寛治は戦闘技能こそ多く身に付けているが、結界などの補助系統は総じて苦手、或いは未収得。その癖、一度戦えば、その規模は数十メートルに収まらない事も珍しくない。

 少しの間を置いて、寛治は視線を空から前へと戻した。

 

「……まあ、渡りに舟か。別に、事を構えよう、なんて話じゃないんだろ?」

「そうですね……警戒はされてましたけど、山本さんが()()()()()()を示さないのなら、話し合い位は出来るはずです」

「そう、か……腹芸は苦手だしな。ここはいっちょ、腹を割って話し合ってみようか」

「会うのなら、今日の放課後に私が案内します……本当に、良いんですか?」

「ん?おう。変にバチバチするのは好きじゃねぇし。顔合わせして、相手がどういう奴なのか最低限知ってたらぶつかる事も減るだろ?」

 

 寛治としては、これに尽きる。

 性格上、彼は謀略を巡らせて掌で相手を転がす、何て事が出来ないタイプだ。寧ろ、そんな策を練るぐらいなら、真正面から叩き潰す方が性に合っているまである。

 

 かくして、本格的な接触は放課後にセッティングされる事になる。この出会いが何を齎すのかは、まだまだ誰にも分からない。

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