あの日から   作:tuzimoto

6 / 12
第六章「似島」

恵「勝くん、居りゃええんじゃけど…あのすんません」

 

衛生兵「なんじゃ」

 

恵「この男の子見とりません?藤井勝っちゅうんですけど…」

 

衛生兵「……いや……知らんのう

こがいに人が多いと分からんよ」

 

恵「ほうですか」

 

衛生兵「…この校舎の二階 左奥の子供ばかりの部屋があるけえ、そこを見てきたらええ」

 

恵「兵隊さん… ありがとうございます!」

 

 

看護婦「……お願いします」

 

衛生兵「よし しっかり持ったか」

 

衛生兵「はい」

 

恵「…ん?…えっ…あの荷札…」

 

運ばれる担架には 顔半分・身体全体に包帯に巻かれた

恵の姉 恵子の姿があった

腕には荷札が付けられており、そこには「安藤恵子」と書かれていた…。

 

恵「……オンニ オンニ!」

 

看護婦「知り合い?お嬢ちゃんの知り合いなん?」

 

恵「オン…お姉ちゃんです!」

 

衛生兵「…ほうか」

 

衛生兵「えかった 無縁仏にならんで……」

 

恵「お姉ちゃん!お姉ちゃん!…あああっ…お姉ちゃん…」

 

恵子は既に息はなかった

 

恵「……お姉ちゃん…うぅぅ…」

 

 

看護婦「…もう1人の方が連れてきたんよ」

 

恵「…ぐすっ…ぐすっ…もう1人の方?」

 

看護婦「ほうなんよ、髪の短い女性がね……左手が無うなっとったんじゃけど、担いで来ちゃってね…アンタのお姉ちゃん、看護婦じゃったんね…」

 

恵「…お姉ちゃん…」

 

ヒロ子「……恵ちゃん」

 

 

校庭

 

恵は恵子の骨箱を持ち座り込んでた

 

恵「…… 姉ちゃんこんなにこまく(小さく)なちゃって…うぅぅ……」

 

ヒロ子「恵ちゃん…」

 

恵「……あっ…ヒロ子ちゃん」

 

ヒロ子「…お姉ちゃん見つかったんだね」

 

恵「…うん、ピカの日…出勤最中にピカに遭うて…一緒に居た同僚の吉川さんが似島まで連れてきてくれたんと…お姉ちゃん…丸焦げで…荷札が無かったら誰とも分からんかった…その吉川さんも、爆風で左手を無くしたんじゃけど…お姉ちゃんを頑張って引っ張ってくれんさって…うう…」

 

 

数十分前

 

 

看護婦「あん人(にい)よ」

 

吉川「………恵さん?」

 

吉川は虚ろな目だったが

恵が来た途端 恵の方に目線を向け起き上がろうとした

 

恵「あっ~寝とってええですよ!

えっ? ウチの事 知っとるんですか?」

 

吉川「ええ…けいちゃんからよう聞かされてねえ…けいちゃんに似てべっぴんさんじゃ…ゴメンネ、けいちゃんを助けることが出来んで…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

恵「…そんな…こがいな姿で…吉川さんはお姉ちゃんをここまで連れて来てくれんさったのに…ウチは…それだけでも嬉しいんです…お姉ちゃん…うぅ……」

 

吉川「…ありがとうね…恵さん…

…あ…あの日はね…」

 

 

8月6日 8時10分

 

恵子「今日はブチ暑いね~」

 

吉川「おはよう~けいちゃん」

 

恵子「あっおはよう よーちゃん(洋子)

今日は朝から賑やかじゃったね~」

 

恵子「ほうじゃね~」

 

吉川「全く B公は嫌ね~」

 

恵子「ほうじゃね

早う 電車来んかねえ?」

 

吉川「あっけいちゃん 早うあの将校さんに逢いたいんじゃねぇ?‪w」

 

恵子「ほうじゃないよ~/////」

 

吉川「またまた~お似合いじゃあ思うよっ!

白衣の天使 看護婦さんと陸軍の若手将校さん ん~浪漫じゃね~/////」

 

恵子「もう~/////よーちゃん/////

……ほいでも…ウチ 朝鮮人じゃし…こがいな恋、叶わんのよ……」

 

吉川「朝鮮人がなんねぇ 気にしたらいけん!朝鮮人じゃからってそんとなこと関係ないんよ」

 

恵子「……よーちゃん」

 

吉川「あの将校さんじゃって朝鮮人でも気にしとらん言うとったじゃろ?」

 

恵子「…ほうじゃね…ありがとうよーちゃん/////」

 

吉川「ほいじゃけえ、早う好きって伝えんね!」

 

恵子「えっそれは////恥ずかしいけえ…まだ心の準備が…/」

 

チン!ガタン……ガタン…

 

吉川「も〜じれったいねえ!誰かに取られても知らんよ?あっ電車来た!」

 

恵子「/////……あれ?飛行機雲?ありゃ…B公?警戒・空襲警報も鳴らんのに…」

 

吉川「…ほんま…ありゃいけん!お金落としてしもうた」

 

吉川はしゃがみ 小銭を拾うとした

 

恵子は空を見上げてた

その時 物凄い閃光が光り爆風が2人を襲った

 

 

 

 

吉川「……んっ ……痛…な…何が起きたん?

痛っ!!…えっ……左手が…うちの左手……どこ行ったん?!…」

 

吉川の左手は爆風で吹き飛ばされたガラスにより切断され 身体にも何枚かガラス片が突き刺さってた

 

 

吉川「…あっ…ウチの左手………痛

けいちゃんは……けいちゃん!…あっ」

 

恵子は全身真っ黒になり服は皮膚にこびりつき 皮膚がベロベロに剥がれ 右目眼球が垂れて 辺りを行ったり来たりさまよってた

 

恵子「あっ…あっ…あっ…ああ…」

 

吉川「いやあああ!!おばけぇぇぇぇぇ!!!…えっ…」

 

吉川は腰元に辛うじて掛かってる手提げ鞄に注目した そこには安藤恵子 と書かれてた名札があった

 

吉川「…けいちゃん?…けいちゃんなん?……嘘……」

 

恵子「あっ……あっ…よ……よ……ちゃ……」

 

吉川「……けいちゃん…嘘じゃ……はっ…!」

 

周りには何体も黒焦げになった遺体が散乱してた 微かに呻き声も聞こえる

 

恵子「あ……あっ……ああ よ……ちゃ……ん……はぁ ああ……」

 

吉川「けいちゃん!」

 

辺りは次第に焦げ臭いのが強くなり 煙が立ち込めてきた

 

 

警防団「大変じゃ~!火が来たぞぉ!早う逃げぇ!!退避じゃぁぁぁ!」

 

吉川「火事…」

 

恵子「あ…あ……あっ……」

 

 

吉川「どうしよう…安全な場所へ行かんと…けいちゃん!」

 

吉川は恵子の肩を持ち 一緒に逃げようとした

 

恵子「…あっ…あっ……あっ」

 

恵子に触れると火傷で皮膚がパンパンに膨れ上がってるのがわかった

 

吉川「ひっ!…酷い………けいちゃん行くよ!」

 

 

左手ないしの身体中にガラス片がある吉川

重傷者の恵子を担ぐ事は容易な事ではなかった

 

そうこしてるうちに周りは黒煙が充満し暑く息苦しくなりはじめた

 

吉川「はぁ…はぁ…ゴホッゴホッ…(駄目……目が霞んできた…)」

 

恵子「あっ……あっ……あ……あ…あ…」

 

 

吉川「…はぁ…はぁ…(これじゃウチも死んでしまう…けいちゃんを置いていけば…)」

 

恵子「…あっ…あっ…よ……ちゃ…う…ち…をお…い……てぇ…に……げぇ……て」

 

吉川「……けいちゃん…(ほうよ…見捨てたらどうなるん?ウチはこのまま…けいちゃんを置いて逃げて行ったら…けいちゃんの妹の恵さんはどうなるん?…いけん!行かにゃあ!けいちゃんを担いで安全なところへ…!)……大丈夫!けいちゃん絶対助けるじゃけぇ!」

 

恵子「………あっ……あっ……り……が……と……ね」

 

 

吉川「……けいちゃん…ごめんね…

よし!」

 

吉川は手提げカバンから手ぬぐいをだし自分の左手の切断目に巻き始め止血処置をした

また、周りを見渡し火を凌げそうな場所を探し始めた

 

吉川「……どっか 火から逃げられそうな場所を……あっ!」

 

吉川は近くにあったコンクリート製の建物に注目した

急いで恵子を担ぎその建物に避難した

 

吉川「はぁ……はぁ…ここなら大丈夫じゃろ……けいちゃん しっかりするんよ」

 

恵子「あっ……あっ……あっ……」

 

吉川「……手当せんと …左手が吹っ飛ばされてしもうたけえ、ちいと不便じゃけど…けいちゃん、待っとってね!今…包帯を持ってくるけえ…」

 

吉川は近くの防火水槽に自ら顔を入れ

濡らした

 

そして再び火の海になった街へ飛び込んで行った

 

 

吉川「はぁ……はぁ……痛い…暑い 服ももう乾いてしもうた……ゴホッ...ヴ...ゲホッコ……確かこの辺りに診療所が……あったはず

燃えとらにゃあええけど………あっ!」

 

 

診療所は半壊していたが 火の手はまだまわってなかった

 

 

吉川「……はぁ ええかった……ひっ?!」

 

玄関前に焼死体が倒れてた

 

吉川「……」

 

吉川は手を合わせ 診療所に入り診察室へ向かった

 

診察室の棚には少数だが薬品 包帯などあった

 

吉川「えかった……スイマセン先生、けいちゃんを助ける為じゃ…勘弁してつかあさいね…」

 

吉川は片手で手提げカバンに薬品 包帯を詰め込んだ

 

 

吉川「っ…けいちゃんのところに行くまでは…ウチも死んだらいけん…けいちゃん、生きとって!死んだらいけんけえね!」

 

吉川は診療所を出ると黒い雨が降り始めた

 

 

吉川「… 雨じゃ……?……なんじゃろこの雨黒い……これがウワサの空襲の後に降る雨じゃろか?

 

吉川は黒い雨を浴びながら恵子の場所へと戻った

 

吉川「はぁ…はぁ…けいちゃんゴメンネ、持ってきたけえ、包帯。ちいと待っとってね…」

 

恵子「あっ……あっ……」

 

吉川「まず包帯を……ひっ!…惨い」

 

恵子の腕の骨が見えるほど皮膚は溶け垂れ下がってた

 

恵子「あっ……あっ……」

 

吉川「…今、巻くけえね」

 

吉川は包帯を巻き始めた

 

吉川「大丈夫だよ…けいちゃん…ひっく…たぁ…た…助かるけえねぇ…ひっく」

 

恵子は片手を吉川の片腕にゆっくり添えた

 

吉川「…え? 」

 

恵子「…あ…あ…あり…がと…」

 

吉川「けいちゃん…!」

 

手当を終えた頃 雨は止んでた

 

2人は歩き始める

 

吉川「けいちゃん しっかりするんよ…」

 

恵子「……あっ……あっ………

(…恵…あんちゃん…お母ちゃん…お父ちゃん…ウチは…ウチはみんなよりも先に逝って…しまうかも…ゴメン…ネ…)」

 

しばらくすると 陸軍のトラックに人だかりが出来ていた

 

兵士「負傷者はトラックに」

 

兵士「しっかりするんじゃ爺さん」

 

爺さん「あぁ……痛い……足にガラスがぁ…」

 

女学生「うぅ…よっちゃん…ほれ、トラックじゃ…」

 

女学生「いけん…チエコちゃん…ウチ…もう…歩けんのよ…」

 

女学生「何言いよるんね…ほれ、は…早う…」

 

女学生「いけんのよ…痛い…暑い…うっ」

 

女学生はえづき、嘔吐した。

 

女学生「ヒッ、よっちゃん!」

 

吉川「……女学生…?勤労奉仕作業のとときにやられたんじゃろか…」

 

恵子「あっ……あっ……(…呉は大丈夫…なんじゃろうか……)」

 

吉川「…こりゃ…市全体が燃えとる…いうこと…?」

 

 

 

吉川「(この身体じゃけえ、かなり時間がかかってしもうたぁ…っ…ウチもそろそろ限界かも…はぁっ…くっ…ほいでも…なんとか…)

兵隊さん…ウ、ウチらも乗せてつかあさい!お願いします!」

 

兵士「わかった… 大丈夫か しっかりするんじゃぞ」

 

 

その後、ウチらは救護所に運ばれた

 

吉川「……惨い」

 

救護所は凄惨な光景が広がってた

 

布団もないので、ウチらは粗末な筵の上に寝かされ一晩も二晩もここで過ごすことになった

 

「う〜う〜」

 

「暑い〜…」

 

「あ…あぁ…ウチのガラス…は…早う取って……」

 

「痛いよ〜!」

 

「ハハハハ、ワシは陸軍大将じゃ〜!

突撃だ!突撃~!」

 

 

中には、気が狂ってしまった人も居た

 

 

吉川「…っ!…痛い」

 

 

吉川「……(早う…早う…誰か迎えに来てくれんね…一人で死ぬんは嫌じゃけえ…)」

 

恵子「…う……ぅ……」

 

吉川「……(けい…ちゃん……)」

 

恵子「………」

 

吉川「…けいちゃん、死によったら許さんけえね!絶対死なんでね!」

 

ウチはけいちゃんの隣で、寝ながらそう言った

 

恵子「…う…う…ん…」

 

しかしけいちゃんは火傷で顔がパンパンに膨れて、腕の火傷は骨が見える程侵食しており…見るも無惨な姿だった

 

恵子「……あっ……あっ…

(ウチも…死にとうないよ…せめて…死ぬる前に…お母ちゃんや恵の顔が見たい……)」

 

ウチはけいちゃんが死ぬ前、一体何を考えていたのかは分からないが、多分きっと家族のことを考えていたのだろう……とウチは思っている…

 

8月7日ー

 

「…うぅ〜」

 

翌日になっても治療は続けられる。

しかしウチらのような重傷者は包帯や少しの赤チン等を塗られて終わり。

昨日落とされたピカによって、なんも無うなってしもうた…

 

「霧島里美〜!!霧島里美は居らんかねー!!」

 

自分の肉親を探して市内へやって来た人も居た

 

軍医「まるで野戦病院じゃのう……」

 

衛生兵「……野戦病院の方がまだマシですよ」

 

看護婦「頑張ってつかあさい…こ…こらえて……」

 

「ヒィィィ!!!!嫌じゃァァァァ!!!!!」

 

看護婦「仕方ないんです、火傷で皮膚が壊死しとるんですけえ!」

 

軍医「何しろ麻酔が無いんじゃけえのう…スマンが……」

 

「アァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

 

救護所中に男の断末魔が響いた。

麻酔もないので、麻酔無しで腕を切るしか無かったのだ…

 

吉川「ああっ…」

 

「こ……怖いのぅ…」

 

「お願いじゃ!ワシらもうえっと待っとる!早う娘を手当してくれ!」

 

軍医「スマンが……アンタの娘さんはもう…いけん」

 

「なっ!ど、どうしてですか!?」

 

軍医「こがいな大火傷じゃ…もう助からんと言うとるんじゃ」

 

「そ…そんなっ…」

 

軍医「もう…長うないけえ…心ゆくまで水を飲ませてあげんさい…」

 

「…お父ちゃん………み…水……」

 

「……………わかった、ほれ、ちゃんと飲みぃ、富美子…」

 

「うん…」

 

「うぅ…あん時……ワシが…ワシが…建物疎開作業に行かせんかったら……」

 

予期せぬ別れに涙を流す人も居た

 

「ハイッ!先生!」

 

「し…しっかりせんねえ…」

 

「うう…先生がウチを当ててくれんよ…」

 

「ここは学校じゃないんよ、救護所なんよ」

 

「先生、答えは……」

 

 

気が動転してしまったのか、学校で授業を受けているつもりの女学生…も居た

 

 

衛生兵「なんて惨いんじゃ……ほんま、酷うてかなわんわい…」

 

看護婦「先生っ!また!」

 

軍医「全く……キリがないのう、一体何人やられたんか…」

 

「先生!ウ、ウチの子を…ウチの子を助けてつかあさい!」

 

そう言いやってきた若い女性は、背中に脚を怪我した赤ちゃんを背負っていた

 

衛生兵「お、奥さん落ち着いて…」

 

「昨日、三人の子供は家の下敷きになって…ほいで…うぅ……今背負っとるこの子だけ生き残って…なんとか手当してつかあさい!お願いです!」

 

軍医「……(…この子…)」

 

この奥さんは知らなかった。子供がもう息絶えているということを

 

衛生兵「のう奥さん、もう、この子は…」

 

軍医「…いや、治療をする」

 

衛生兵「え!?」

 

軍医さんは子供の脚に包帯を巻いてあげた。

 

軍医「…これでもう大丈夫じゃ、しばらくは安静にしとりんさい」

 

「ありがとうございます!」

 

衛生兵「……先生」

 

軍医「…ええんじゃ」

 

 

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!返せ!!!!私の子を返せ!!!!」

 

「よっと……この子供、もう死んどるのう…」

 

「片付けても片付けてもキリがないのう…」

 

「天皇陛下バンザーイ!」

 

「大日本帝國バンザーイ……」

 

「気をしっかり持つんよ!スズ子!」

 

救護所はまさに地獄のような光景であった…

 

 

看護婦「先生…少し休まれた方がよろしいのでは…」

 

軍医「イヤ…今は治療をするほうが優先じゃ、なんとかして一人でも多くの命を繋ぎ止めにゃあいけん…」

 

看護婦「せ…先生…」

 

 

軍医「…それがワシらの仕事なんじゃけえのう…」

 

吉川「………

(……廣島が爆撃を受けんかったのは……こういうこと…なんかいね……全く、恐ろしいよアメ公は……こがいに人をようけ殺しんさって…)」

 

恵子「……あぁ……あっ…(…恵…お母ちゃん…お父ちゃん………痛い…早う来て…お…ねが…い……)」

 

 

それからウチらは似島に移動になった

 

そこでも患者さんのごった返しだゃった

 

吉川「今…何日じゃろ…?」

 

 

 

「勝ってくるぞと勇ましく〜誓って故郷を出たから〜手柄立てずに死なりょうか……」

 

吉川「……あん人…」

 

 

「東洋平和の為ならば…何の命が……」

 

 

「うう…お母ちゃん…ウジ虫がウチの体を食いよる…」

 

「今、取ってあげるけえね…」

 

「ウジ虫が這っとって気持ち悪い……」

 

「我慢してね…ゴメンネ…」

 

「のう、どの辺りまで焼けとるんじゃ?」

 

「おお、産業奨励館も丸焼けで……御幸橋辺りまではもう、一面焼け野原じゃ

なんも残っとらんよ」

 

「あ〜えらいこっちゃ…市全体が燃えとったんかいのう…」

 

「敵さんは一体どがいな爆弾を落としていきよったんか…」

 

「ペロリ弾とかマッチ箱弾とか言われとるが…」

 

「新型兵器…ちゅうヤツかいのう…」

 

「仇を討ってくれんかのう、兵隊さんが…」

 

「まあ一人家が焼け残ってしもうたら肩身が狭いけえのう、綺麗さっぱり焼けて良かったわい……」

 

「しかし、廣島の街が、のう…」

 

 

 

恵子「あぁ……あぁ……」

 

吉川「…けいちゃん……」

 

吉川はそっと恵子に近づき寄り添う

 

吉川「……けいちゃん…けいちゃんが何をしたちゅう言うんじゃ……こがいな姿に…なってしもうて……」

 

恵子「……あっ……あぁ…あぁ」

 

ピシュ

 

吉川「……?! けいちゃん」

 

恵子の火傷部分から膿が吹き出た

 

吉川「……今、吹いたるね」

 

恵子「……あぁ……あぁ……あっ」

 

恵子は左手をゆっくり 吉川の手に添えた

 

恵子の目からは涙か溢れてた

 

吉川「……けいちゃん…大丈夫…ウチはここにおるけぇ 大丈夫……一緒じゃ」

 

恵子は微かに頷いた

 

ウチはけいちゃんの手を握りながら寝た

 

 

 

8月9日

 

 

吉川「……んっ…んん……朝?………けいちゃん?」

 

恵子「…………」

 

吉川「けいちゃん?! けいちゃん?!」

 

けいちゃんは死んだ

ウチが朝起きた時にはもう死んでいた

 

 

吉川「…………け……けいちゃん……ごめんね……ごめんね…」

 

 

……

 

吉川「……ごめんね……ごめんね 恵さん

…もう少し…もう少し…早う来とったら…けいちゃんに会えたかもしれん…」

 

恵「……いいえ……お姉ちゃんを見られただけでも…良かったです………」

 

吉川「恵さん けいちゃんの分までしっかり生きんさいよ、けいちゃんもそれを望んどる思うけえ」

 

恵「…吉川さん」

 

吉川「そして…このピカの恐ろしさを伝えていって欲しいんよ…ウチらの代わりに…」

 

恵「…ほいでもウチは…ピカの日にゃあ…廣島には居らんかったのに…」

 

吉川「……見たもの失ったもの、

それは千差万別じゃ…ピカは色んな人の心に傷を残していきよる…ほいじゃけえ、ね……ウチはもう、多分長うないけえ……」

 

恵「……」

 

吉川「ウチらの分までしっかり生きて、このことを伝えていきんさい…ええね?」

 

恵「…はい」

 

 

 

 

ヒロ子「……吉川さん」

 

恵「…吉川さんが ……お姉ちゃんを最期まで看取ってくれんさって ほんまにええかった…お姉ちゃんも嬉しかった思うよ……」

 

ヒロ子「うん、そうだね…」

 

 

恵「……さぁ!お姉ちゃん見つかった事じゃし 勝くん探しに行こヒロ子ちゃん!」

 

ヒロ子「…恵ちゃん…うん!」

 

 

 

第七章に続く

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。