ヒロ子と恵は似島を後にした
市内
ヒロ子「…勝…どこ行ちゃったの……」
恵「……」
ヒロ子「やっぱり…もう…」
恵「……ヒロ子ちゃん……ん?……ヒロ子ちゃんあれじゃ…」
ヒロ子「?」
ヒロ子が視線を向けると
2人の男女が木版を建ててた
夫「…これでええじゃろ……お前、元気出しんさいや… 」
妻「うん…」
夫「大丈夫じゃ……ハナは生きとるけえ
大丈夫じゃ…のぅ」
木版には「小川ハナ 草津ニテマツ」
書かれてた
恵「ウチらも看板立てるんよ!」
ヒロ子「…看板…そっか!」
恵「スンマセン~」
2人は夫婦から墨と筆をもらい
木版に書き始めた
ヒロ子「藤井勝 ヒロ子ハ中央國民學校ニイマス。 」
恵「ヒロ子ちゃん 達筆じゃね~」
ヒロ子「えっ そうかな/////」
恵「ほうじゃよ~達筆じゃ」
ヒロ子「えへへ……/////」
恵「よいしょ……と」
恵は木版を立てた
ヒロ子「……いいかな?」
恵「うん、ええ思うよ!
これで勝くんに会えるけえね」
ヒロ子「勝……」
ヒロ子は手を合わせ祈った
恵「……あっウチも…勝くんが見つかりますように……」
ヒロ子「……よし 恵ちゃん行こっ……あっ」
恵「…ん?どうしたんね?」
ヒロ子「恵ちゃんてお家帰らなくて大丈夫?」
恵「あっ……ほうじゃね…
ほいでも 鉄道直らんし
切符じゃって…買えんしね…
じゃけど、連絡くらいはせんといけん
お母ちゃんが心配しとるじゃろうし
また、陸軍さんのトラック乗せてもらうかねぇ…」
ヒロ子「…連絡……あっ!そうだ
驛に電話があったはず!」
國鉄 己斐驛
國鉄職員(女学生)「はい ええよ」
ヒロ子「ありがとうございます
恵ちゃん」
恵「うん」
ヒロ子「恵ちゃんの家て電話あるんだね」
恵「ううん ウチの知り合いが電話持っとるんよ……あっ! もしもし、呉の151番にお願いします」
《はい、しばらくお待ちください》
恵「あっもしもし おばさん?安藤の恵
です
お母ちゃんを呼んでもらってもええですか? はい、スンマセン」
「《恵 アンタ、無事なん?!…恵子は分かったん?!》」
恵「《…お姉ちゃんは…………駄目じゃった》」
「《………ほう…》」
恵「《…………》」
「《………恵子には会えたん?》」
恵「《……うん…死んでしもうてたけど…会えたよ…全身に包帯巻いとったよ…》」
「《……ほう……ほう……恵子ぉ…恵子……》」
恵「…………」
恵は恵子の骨箱に手を添えた
ヒロ子「……」
「《恵はお父ちゃんの事知っとる?》」
恵「《うん……知っとるよ…ヨンホから聞いた》」
「《ほう…お父ちゃん……幸男 恵子と同じになってしもうたけど 家におるけぇ…》」
恵「《……うん》」
「《……恵は無事なん? 帰って来れるん?》」
恵「《うん 無事じゃ ほいでも帰るのはまだ先になるかねえ
今日はまた学校に泊まるけぇ
あっほうじゃ!今、ヒロ子ちゃんて言う友達の弟さん 探しとるんよ
ほいじゃけぇ しばらくは帰れんかも
……大事な友達なんじゃ…見つかるまで探したいんよ》」
ヒロ子「……恵ちゃん……」
「《……恵……頑張るんよ》」
恵「《…ありがとう お母ちゃん
…絶対 見つけ出すけえ!…ほいじゃあね
お母ちゃん…》」
ガチャン
恵「…ありがとうございました」
國鉄職員「はい… 探すの頑張るんよ」
恵「あっ…/////はい!……ヒロ子ちゃんおまたせ~」
ヒロ子「……ありがとうね 恵ちゃん」
恵「ヒロ子ちゃん…ありゃ……泣いとる? 」
ヒロ子「……えっ…やだ あたしったら/////……嬉しくて」
恵「……/////……ヒロ子ちゃん 手ぬぐいじゃけど」
ヒロ子「……ありがとう 恵ちゃん/////
……じゃあ、恵ちゃん 行こっ」
恵「…うん!…あっ/////」
ヒロ子は恵の手を取り手を繋いぎ
微笑んだ
ヒロ子「また 廣電乗ってこ」
廣島電鐵 己斐驛
恵「ネ、ヒロ子ちゃん
ヒロ子ちゃんのお母さんの方は連絡とかせんでええの?」
ヒロ子「…うん……最近、電話入れたんだけど出なくて」
恵「ヒロ子ちゃん家には電話あるんじゃね 」
ヒロ子「まぁね…今度は電報出そうかなと思うんだけど……勝の事はどうしようかな
知らせたいけど…変な心配かけたくなしい…」
恵「ほうよね……」
厚木 病院
看護婦「藤井さん まだダメですよ!」
藤井キクノ「行かないと…娘と息子が…」
妹・篠崎ユリノ「あっお姉ちゃん!」
キクノ「ユリノ…」
ユリノ「どこ行くの?!」
キクノ「廣島よ…ヒロ子と勝に会いに行くのよ…」
看護婦「藤井さん!」
ユリノ「気持ちは分かるけど お姉ちゃんは撃たれてるんだから動いちゃ駄目だって!」
キクノ「……!」
8月5日 厚木ー
祖母・篠崎カズコ「あ~今日も暑いね」
キクノ「ほんとね…暑い」
Vooo……!!!
キクノ「?」
Vooo…!!!
カズコ「……あぁっ」
ギラギラと機体を光らさせ
2人に旋回し近づく 2機のアメリカ陸軍の戦闘機 P-51
Vooo!!!
カズコ「キクノ!!」
BARRRRRRRRR!!!
Zip Zip Zip!!!…Zip!
カズコはキクノに庇おとしたが
そこに銃弾が命中
キクノの上に倒れた
Vooo……!!!
キクノ「……?!…母さん?!母さん?!」
カズコは動かなかった
キクノ「母さん?!……母さん!!…痛っ……あぁ……私も……撃たれてる…」
Vooo……
ユリノ「お姉ちゃん?お姉ちゃん…」
キクノ「……あぁ…母さん……母さん……」
ユリノ「お姉ちゃん…大丈夫 私が居るから 大丈夫…
ヒロ子ちゃんと勝ちゃんは私が近いうちに廣島行って確認してくるから
今は安静にして ね」
キクノ「お母さん……お母さん……」
チン! ガッタ ガタンガタン…
恵「あっ来たよ!」
キィィィィ……
車掌・古谷享子
「己斐 己斐 ありがとうございました」
客「ありがとうね 頑張りんさいよ」
享子「はい!」
ヒロ子「お願いしますー」
享子「はい 本日は運賃 頂かないのでその…えっ…カヨちゃん?!」
ヒロ子「…え?」
恵「?」
享子「カヨちゃん!生きとったん?!」
ヒロ子「え?カヨちゃん?」
運転士・マツノ「…フーちゃん?」
享子「まっちゃん!カヨちゃん生きとったよ!」
ヒロ子「え…えっ」
恵「ちょっと!この子はヒロ子ちゃんじゃ!カヨちゃんじゃないんよ!」
享子「…えっ………あっ…ごめんなさい
……どうぞ」
ヒロ子「あっいえ」
恵「朝よりは空いとるね~」
享子「………」
マツノ「フーちゃん大丈夫? 出発するよ」
享子「あっ…うん…出発します!」
《…出発進行!》
キィィ…ガタンッ ガタン ガタン
享子「……」
ヒロ子「……あっ あの そのカヨちゃんてそんなにあたしに似てるんですか?」
享子「えっ……あっ……うん
…カヨちゃん……」
8月6日
カヨ「おはよう~…フーちゃん!」
享子「きゃっ!…もうカヨちゃん!
驚かすんやめてえや〜~」
カヨ「え~肩に触っただけじゃろ〜」
享子「はぁ…もう、心臓止まるか思ったわ…」
カヨ「ふふっ~さてと今日も頑張りますかね」
享子「今日はブチ天気ええね」
カヨ「朝からBも来たしねぇ
」
享子「ほうね」
カヨ「 …~ 浮かび来る来る ほほえむ顔が~♪我等はみんな 力の限り♬︎
勝利の日まで 勝利の日まで~♪」
…Vooo……
カヨ「出発進行ー」
ギィィ……ガン!…ガタン……ガタン
カヨ父「おはよう 享子ちゃん
カヨは頑張っとるかな?」
享子「はい」
カヨの父は運転席に近い席に移動した
カヨ父「よいしょ…カヨ今日も安全運転で頼むな」
カヨ「任せてー」
カヨは前を向きながら返事をした
ガタン ガタン ガタン……
享子「……ん?…なんね…あれは」
享子はの窓から空高くにキラキラと光るモノに注目した
しばらくすると 視界が真っ白になり
一瞬に真っ暗になった
享子「……ん?…痛っ……な……何が?」
享子が起き上がると 車内は真っ黒だった
享子「………え?」
車内には黒焦げの物体が何体もあり
微かに呻き声なども聞こえた
享子「何が…起きたんよ……
これって……人かね…」
「あぁ…あぁ……」
「たれか…………」
享子「わからん…わからんよ…何が起きたんか……あっ……カヨちゃん……カヨちゃん」
享子は運転席に近づく
享子「カヨちゃん…?」
カヨは真っ黒けになり
さっきまで人だったとい言うのは信じられない程の姿に成り果ていた
享子「………え…」
手は運転台のハンドルに溶け込むほど溶けていた
享子「カヨちゃん………」
享子は呆然と車内を後にした
外に出るとさっきまで車窓から眺めてた景色はどこにもなかった
享子「……ほんま……何が起きたんよ
……え?…なんね…ありゃ……」
黒煙の中
黒ずんだ物体が享子の方に近づいてきた
享子「…?……あぁ…あぁ!」
近づいてきたのは身体全体が赤黒く 髪の毛は無く眼球が飛び出て手をぶら下げてヨタヨタと歩いてきた数人の人達だった
その中に居た親子は母の方はガラス片まみれで血だらけで子供の方は首がなかったが母は気づかず引きずりながら歩いてた
また隣の男性は腹部に木片が突き刺さりながら歩いていた
享子はその光景に耐えられずその場に嘔吐した
享子「……はぁ…はぁ…」
チエ「フーちゃん?……フーちゃん!」
享子が四つん這いの状態から振り返ると
衣服は破け 髪の毛は盛り上がり 全身が赤黒く 右目の眼球が垂れ下がり人の手を握ってた 同僚チエの姿があった
チエは身許票がなければ誰か分からない姿であった
享子「(…この身許票…チエちゃん?ほうじゃ…声もチエちゃんの声…嘘じゃ、オバケみたい…)ち…チエちゃん……なん?」
チエ「…ほうよ……えかった…フーちゃん…」
享子「…チエちゃん……手が……」
チエ「あぁ…これね……なんか取れんのよ…おばあさんの手……取れんのよ
フーちゃん取ってくれん?」
享子はチエの右手に付いた手を
離そうとしたがこびりついて
離そうとするチエの手の皮膚まで取れ骨まで見えた
享子「……!!…ごめん…ウチには無理じゃ…」
チエ「ほう……」
享子「…ごめんね…
…一体……何が起きたんじゃ………ウチらの近くに爆弾が落ちたんじゃろか…ん?…雨?」
享子の額に黒い油っぽい雨が降り注いだ
「……雨じゃ…水じゃ……」
「水…水…」
その雨を見た人達は飲もうと雨に向かって大口を開けた飲み始めたが次々と倒れて行った
「水……あぁ……………」
「う……ぁ……」
享子「?!……人が…(この雨 毒が入っとる?!)……チエちゃん!…こっちじゃ!」
享子はチエを引っ張り コンクリート製の建物内に入り雨宿りをした
チエ「……」
チエは無言になり口を開けたまま外を呆然と見つめていた
享子「……」
しばらくすると雨は止んだ
チエ「……フーちゃん…何が起きたんじゃろうね…」
享子「…ほうじゃね……チエちゃん……學校へ戻ろっか…」
チエ「…うん」
チエはヨタヨタと歩き始めた
享子はチエの後を追うよに歩き始めるとチエの足から血が出てるのが分かった
享子「チエちゃん! 待ってぇ 足から血が出とるよ!」
チエ「……え?」
チエの足にはガラス片が突き刺さってた
享子「……チエちゃん…おんぶしてあげる」
チエ「…………ありがとうね」
享子「はい…チエちゃん…」
チエ「…ありがとう」
享子はチエをおぶりながら學校へ向かって歩き始めた
享子「……あっ…なんかガスっとる(雲の間に太陽がチラチラ見えている)けど…晴れてきた?…」
チエ「あっ…ネ、ウチ…重うない?/////」
享子「大丈夫……ほいでも手が気になるかねぇ……後で取って貰おうね」
チエ「…うん……おばあさん……気づいたら手だけになってしもうてたけぇ…」
享子「…………手だけ…」
チエ「…爆弾でも落とされたんかね…」
享子「……爆弾……どうりで廣島は空襲を受けんかったんじゃね…お隣の呉はやられとったのに」
チエ「…ほうじゃね………廣島…変わってしもうたね……」
享子「…なんものうなってしもうた…」
廣島電鐡 家政女學校
享子「え……學校が…」
チエ「…嘘…」
學校は焼失していた
先生「おっ…!お前ら無事じゃったか!」
享子「先生!」
先生「無事な生徒は実践女學校の方に行くんじゃ…あぁ…小林?……小林なのか…?」
チエ「先生…」
先生「小林……こがな姿に…実践女學校の方で手当て受けるとええ…」
チエ「……はい
ね、フーちゃん ウチ…今、どがいな姿なん?顔は大丈夫?」
享子「……えっ……あぁ……大丈夫
ちぃと火傷しとる程度じゃけえ……救護所行ったらすぐ治してもらえるけえ、大丈夫よ、うん…(ほんまは……大火傷してるなんか言えんよ…)」
享子達は姉妹校の
実践高等學校に向かった
廣島実践高等女學校
衛生兵「君たち 大丈夫か?」
享子「兵隊さん…チエちゃんの手当をお願いします!」
衛生兵「……わかった…中尉殿!」
軍医「状態は?」
衛生兵「重度の火傷に…手が…」
軍医「手…これは誰の手じゃ」
チエ「おばあさんの手です……電車に乗る時に手を掴んだら……」
軍医「ほうか…」
衛生兵「……ちぃっと見るね……あっ……」
軍医「……こびりついてるのぅ……この子の皮膚までしっかり付いとる……厄介じゃ」
看護婦「…軍医さん!こっちに!」
軍医「…彼女を衛生室に」
衛生兵「はい!……衛生室の方に」
享子「はい…チエちゃん衛生室へ行こうね」
チエ「…もう…大丈夫よ…うっ…ごめんね、おぶってもろうて…」
享子「ほんまに大丈夫?」
チエ「大丈夫…んっ……」
しばらくするとチエは看護婦と看護の女學生に抱きかかえて衛生室に入って行った
享子「…チエちゃん」
享子は手を後ろにまわし壁に寄りかかりって待ってると
チエの絶叫が聞こえてきた
チエ「あああああぁぁぁ!!……あぁ!!…あぁ!!」
享子「…チエちゃん?!」
チエ「あぁ!!あああああぁぁぁ!! …痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!……あぁ!!」
ドン!ドン! ガタン!ガタッ!
軍医「我慢するんじゃ!! おい!脚を押さえろ!!」
ガタッ! ドン!ドン!
看護婦「はい!」
チエ「ああああ……あぁぁぁ!!……あああああぁ…ぁぁ!!」
ガン!ガン!!
衛生室からチエの絶叫と寝台に身体を打ち付ける鈍い音が聞こえる
享子「……チ…チエちゃん」
軍医「麻酔無いんか?!もういっぺん見てこい!!」
衛生兵「はい!」
陸軍の衛生兵が勢いよく衛生室から出てきた
ドアの隙間から悶え苦しむチエの姿が見えた
寝台は失禁で水浸しだった
チエ「あぁ…!!…いやぁぁぁぁ!! あぁ!!」
享子はその姿を見て絶句した
享子「……」
軍医「我慢するんじゃ!!」
享子「……チエちゃん」
マツノ「…あっ享子さん!無事じゃったんじゃね」
享子「え…?…あぁ…マツノさん
マツノさんも無事じゃったんじゃね」
享子が横に振り向くと手は血で真っ赤で
灰と血で黒ずんでる家政女學校の制服を着きた級友の
マツノの姿があった
マツノ「寮に居ってね…ほいでも…
食堂に居ったトモちゃんは……」
享子「……トモちゃん」
マツノ「…享子さんはどうしたん?
手当に?」
享子「……チエちゃんが…」
マツノ「えっ?…………あっ……チエさん…享子さん ちぃとこっち手伝ってくれる?」
享子「……えっ」
マツノ「ここにおらん方がええよ チエさんのあげな姿見たら気が参ってしまうよ」
享子「…あっ……」
マツノ「身体が無事なら、怪我人の看護を手伝ってくれんね?負傷者がごった返して大変なんよ…
享子「…はい」
マツノ「あ、あと水をあげたらいけんよ、安心してすぐ死ぬるけえ…」
享子「…え?……毒が入っとるんかね?黒い雨が降っとったけど…アメ公がガソリンをばら撒いたんじゃろか…」
マツノ「さあね…皆実のガスタンクが爆発したとか、色々言われとるけど…御幸橋より向こうは火災で行けんけえ、市一面燃えとるっちゅうことじゃろうかね…」
享子「もう…何がなんだか…」
マツノ「…あっ こんとなところでお話しとる場合じゃないわ…あとね、口が聞ける者が居ったら名前と住所を聞きんさい、それで荷札に書くんよ」
享子「うん」
マツノ「…ウチらのお姉様方もやられとるんじゃ、廣島が大変なことになっとる…」
享子「……」
女性「ネ、そこのお嬢さん…第一縣女の加賀波子はここに居らんのかね?ウチの娘なんよ…」
享子「え…あっ…すいません、学校が違うので分かりません…」
女性「ほうね…ごめんね」
享子「いいえ…」
マツノ「こうしちゃ居られん、戻るよ」
享子「うん…」
教室
女性「すんません 女學生さん」
享子「はい?」
女性「娘のガラス片取ってくれませんか?…私の手こんとなんで……」
女性の両手は重度の火傷を負っていた
皮膚は赤黒く焼けて両手の指先は火傷により溶け付着して
顔も火傷を負っていた
享子「…えっ…はい……」
マツノ「ウチ、鑷子(ピンセット)と器持って来るわ」
女の子「痛い痛い痛い!!あぁぁぁん!!お姉ちゃん痛いよぉぉ!」
享子「我慢して…!マツノさん
血を拭いて!」
マツノ「はい!」
享子「…あとちぃとじゃけぇ 頑張るんよ」
女の子「痛いよぉぉ!」
マツノ「お姉ちゃんが手握っとるけぇ
大丈夫よ」
女の子「…うん……あぁ……ああああぁぁぁ」
女性「ハル頑張るんよ…」
マツノ「今のうちに!」
享子「…うん………よし」
享子は女の子の頭部から手のひらサイズのガラス片を抜いた
マツノ「……我慢したね 」
女の子「あぁ……お姉ちゃん……あぁ」
マツノ「享子さん 包帯を」
享子「はい」
マツノ「…享子さん この子お願い
ウチ、お医者さん呼んでお母さんの方治してもらうけぇ」
享子「えっ …はい!」
マツノ「すみません!あん人の火傷の手当をお願いします」
医師「…してやりたいんじゃが…もう、薬も包帯もないんじゃ…それにあがいな火傷じゃ…手当のしようが…」
マツノ「…えっ」
看護婦「先生!軍医さんが呼んどります! 」
享子「…マツノさん」
マツノ「……駄目じゃった……薬も包帯も無いみたいで……手当が出来んて……」
享子「…そんな」
女性「私はええんです …娘の方が大事です」
マツノ「…すいません」
衛生兵「この部屋じゃ」
衛生兵が担架で運んで来たのは右手に荷札に小林 チエと書かれ包帯を全身に巻いた
チエの姿だった
享子「…チエちゃん……?!」
享子はチエに駆け寄った
衛生兵「今は気を失っとる」
享子「…チエちゃん
こがいな姿に……」
衛生兵「あの窓際に…」
衛生兵「はい」
享子「……チエちゃん」
享子はその日は學校に寝泊まりをした。
負傷者と一緒に床で雑魚寝である。
「う〜…う〜…」
「痛いよ…お母ちゃん……」
「目が見えん…うぅ…」
享子「……(…うるそーて…寝れん…カヨちゃん………あの黒焦げの死体がカヨちゃんなわけない…絶対…誰かも分からんのじゃけえ…ほうよ…絶対に…絶対に生きとるんよ…)…ん」
享子は窓の外を見上げた。
享子「……うわあ…綺麗な夜空…(朝のことが嘘みたいじゃ…綺麗じゃねえ……)」
翌日
享子「……んっ…あっ…朝」
享子はチエの場所へ向かった
享子「……チエちゃん……おはよう」
チエ「……お…おはよう…」
享子「……痛みは大丈夫?」
チエ「……なんか……感覚ないんよ……
ウチの手……戻るんかね……」
享子「……」
チエ「ネ…お水ええ?」
享子「…うん、 今持って来るけぇ」
チエ「……ありがとうね フーちゃん」
享子は水を一杯にした湯のみ片手に
チエへ所に向かってる最中 女學校の先生に出くわした
教師「おっ…古谷か 無事じゃったんか
……えかった」
享子「山本先生…」
教師「…他のみんなは無事か?」
享子「マツノさんは無事です
チエさんは大火傷を…
他は分かりません…」
教師「ほうか…あっほうじゃ
今、校庭でカンパ配っとるけぇ
貰って来るとええ」
享子「はい」
女性「はい、どうぞ」
享子「ありがとうございます……ん?」
享子はカンパ袋を抱えた時に制服の胸ポケットに何が当たる感覚がした
享子「…なんじゃろ?」
享子は不思議ながら歩き出すと 目の前に1人現れた
豊子「……享子ちゃん?!」
享子「…豊子ちゃん?!」
豊子「無事じゃったじゃね!」
享子「豊子ちゃんも!」
豊子「うん!……ほいでも…さっちゃんが……怪我しとる
ヤエちゃんは無事じゃ」
享子「……幸子ちゃん
チエちゃんも大火傷じゃ…」
豊子「何が起きたんじゃろうね……ガスタンクが爆発したんじゃろうかね……火薬庫が爆発したとも言われとるし…」
享子「……あれは爆弾じゃ……ウチ見とったんよ
電車の窓からキラキラ落ちて来たもん」
豊子「…爆弾じゃったか」
享子「あっ ほうじゃ……ちぃと持っててくれん」
豊子「ええよ」
享子「……なんか胸ポケットに当たるんよ…」
胸ポケットの中を見てみると小包が出てきた
享子「……なんね…あっ……金平糖
豊子ちゃん 金平糖が出てきた!」
豊子「金平糖…?!」
享子「……ほうか…カヨちゃんがくれた金平糖じゃ……カヨちゃん…
豊子ちゃん 金平糖あげるね」
豊子「ありがとう 享子ちゃん!」
享子「ほうじゃ…!この金平糖を…」
豊子「…なにするんね?享子ちゃん」
享子「この金平糖を砕いて水の中に入れるんよ…そしたら甘くなるじゃろ
…チエちゃん喜ぶわ」
豊子「頭ええねー 享子ちゃん」
享子「ほいじゃ ウチ戻るね」
豊子「うん」
享子は手に湯のみとカンパ袋片手にチエの所へ戻って来た
享子「チエちゃん おまたせ………」
マツノがチエの手を添え泣いていた
マツノ「……ちぃと……前じゃった」
享子「……チエちゃん…チエちゃん……
ごめんね…ごめんね……お水飲ませること出来んで…早う来ればえかった…チエちゃん……」
學校 裏山
學校の裏山には死体が山積みだった
男性「ええど 燃やせ」
死体に火が放たれ
死体はものの数秒でバチバチと燃え始めた
享子は呆然と燃えるチエを眺めてた
享子「……」
マツノ「…チエさん……」
享子「…チエちゃんが…燃えとる…さっきまで話しとったのに ……」
火葬後享子は校庭の隅でチエの木箱を見つめしゃがみこんでた
マツノ「フーちゃん大丈夫?」
享子「……チエちゃん……軽くなってしもうた…」
マツノ「……」
享子「ウチがチエちゃんをおんぶした時より軽くなってしもうた……」
マツノ「………フーちゃん…ウチはフーちゃんの傍におるけぇね……」
享子「マツノさん……ありがとう…マツノさん…マツノさん」
享子はマツノに抱きついて泣いた
マツノ「フーちゃん…」
享子「……もう、大丈夫じゃ
ありがとうね…マツノさん」
マツノ「マツノでええよ まっちゃんでもね」
享子「…じゃあ…まっちゃん」
マツノ「…なんか照れるねぇ」
享子「ふふっ……ほうじゃ」
マツノ「フーちゃん?」
享子「…ウチ……カヨちゃんの所へ行ってくるよ」
マツノ「カヨちゃんの所へ…?」
享子「…うん」
マツノ「……あっ…フーちゃん」
享子はカヨの所へ向かった
享子「……」
享子が慣れ親しんたんだ廣島の街は既に無かった
道には死体と蝿 蛆 蟻ばかりが溢れていた
享子「…惨い…あっ…」
しばらく歩くと 享子とカヨが乗車していた路面電車が現れた
享子「ウチの電車……あっ!」
足元を見ると電車の出入口は蛆や蝿だらけだった
中に入ろうとしたが物凄い腐敗臭がし
入れなく享子を耐えきれず嘔吐をしてしまった
享子「……ウッ …オェェェ………ウェェ…
……あっ……はぁ……はぁ……カヨちゃん…」
享子は中に入らず前から確認した
確認すると蛆や蝿に食い尽くされる黒ずんだカヨの姿があった
その姿に享子は言葉が出なかった
享子「…………」
享子・ほいでも……あれがカヨちゃんとは思わんかった……じゃって一瞬で丸焦げになって人間じゃない姿にされてしもうたんよ
ほいじゃけえ……認めとうない……あれがカヨちゃんじゃって………
絶対にカヨちゃんは生きとるんじゃけえ…絶対…きっと…今もどこかで生きてるんじゃないかって…ウチは思うんよ…
ヒロ子「……享子さん」
享子「ほいじゃけぇ…ごめんなさいね……ヒロ子さん
ヒロ子さんはカヨちゃんじゃあないのにね…」
恵「ピカの雲の下でそがいな地獄があったんじゃね……」
享子「雲?」
恵「ほうじゃ、ブチ大きいかなとこ雲みたいなもんじゃった…ウチはそん時は呉に居ったけぇ……ほいじゃけぇ…ヒロ子ちゃんや吉川さんや享子さんみたいな地獄があったとは知らんかった…」
ヒロ子「翌日に来たもんね
あっ享子さん……あたしも…弟を探してるのでその気持ち…分かります」
享子「…えっ弟を?」
ヒロ子「……これが弟です」
ヒロ子はシャツの胸ポケットから
写真を取り出し享子に見せた
享子「………あっ……この子」
ヒロ子「知ってるんですか?!」
享子「えっええ…窓からよく見たねぇ」
ヒロ子「今、どこに居るか分かりますか?!」
享子「ごめん……それはちょっと……
わからんねぇ…」
ヒロ子「そ……そうですか」
恵「ヒロ子ちゃん…」
享子「…ウチも車内や車窓から見てみるけぇ…ヒロ子さん」
ヒロ子「…ありがとうございます 享子さん」
享子「ええんよ…今はみんな助け合う時じゃけぇ…この電車乗りに来る人もみんな
誰かを探しに来とるけぇ…」
ヒロ子「享子さん…」
享子「享子でええよ ヒロ子さん」
ヒロ子「ヒロ子でいいですよ」
享子「ほいじゃあヒロ子ちゃん…よろしゅうね」
ヒロ子「こちらこそ よろしくね享子ちゃん」
享子「よろしゅうね……えっと」
恵「あっ ウチは安藤恵です」
享子「よろしゅうね 恵ちゃん」
恵「はい!」
享子「…ほう ヒロ子ちゃんがあの子のお姉ちゃんじゃったんじゃね…」
ヒロ子「勝て言います」
享子「勝くん……前にウチが転んだ時に駆け寄って助けてくれたんよ」
ヒロ子「勝……」
享子「優しい子じゃったんじゃね…
勝くん 見つかるとええね」
ヒロ子「…うん……勝」
享子「…あっ 西天満町 西天満町~」
廣島電鐵 西天満町驛
享子「ご乗車ありがとうございました」
男性「廣電復活ホンマありがたいのぅ」
ヒロ子「…お仕事頑張ってね 享子ちゃん」
恵「頑張ってつかあさい」
享子「ヒロ子ちゃんも勝くんに会えるとええね…」
ヒロ子「……うん…」
享子「じゃあ 気おつけるんよ」
享子は2人を手を振り見送った
マツノ「フーちゃん 新しい友達出来たんじゃね 」
享子「あっ まっちゃん」
マツノ「さぁ、あと少しじゃけぇ
頑張るんよ」
享子「うん」
恵「えかったね 享子さん 勝くん一緒に探してくれるって」
ヒロ子「う…うん……はぁ」
恵「…ヒロ子ちゃん?」
ヒロ子「…はぁ……あっちょっと疲れちゃったみたい……」
恵「ほいじゃけぇ 今日は…」
ヒロ子「……はぁ…」
ヒロ子は突然倒れ込んだ
恵「……えっ?……ひ……ヒロ子ちゃん?!…ヒロ子ちゃん ヒロ子ちゃん?!」
ヒロ子「あっ……あぁ……っ……あっ…はぁ…」
恵「ヒロ子ちゃん?!しっかり!しっかりするんよ!(…)」
回想
コロリコロリと死んでいくけえ、「コロリ病」なんて言われとるらしいが
あれじゃあ長くないねえ…
恵「…あぁ……嫌じゃ!嫌じゃ!
ヒロ子ちゃん!しっかりするんよ!
勝くん探すんじゃろ!ヒロ子ちゃん!!…っ!」
第八章へ