アビス・プレデター 〜深淵に凄む終末の獣、無自覚な異世界転生者につき〜   作:春風駘蕩

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8.Abduction

「はぁ…はぁ……こ、今夜も素晴らしかったですわ、レイアン様……」

「ああ…君の身体も最高だった。私は本当に幸せ者だな…」

 

 荒い息をつき、赤い顔で甘えた声を上げるルイゼの隣に、脱力したレイアンも倒れ込む。

 長時間、適度な速さで走り続けた後のような疲労感で、青年達は何度も熱い息を吐く。しかし、体の中にあっただまを吐き出したように爽快な気分で、二人とも随分と満足気な様子である。

 

 心地よさそうに、すりすりと胸元に頬ずりをしてくるルイゼ。

 すると、彼女を見下ろしていたレイアンが、重いため息を発してから口を開いた。

 

「けど、今夜はもう終わりにしなければ。最近、父上の目が厳しくなってきてね……これまでのように好きに会えなくなるかもしれない」

 

 レイアンがそう告げると、ルイゼは不満げに唇を尖らせる。彼女が抱く欲求は、まだレイアンほどに解消され切っていないのだ。

 自分だけ満足していくのかと、ルイゼがレイアンに厳しい視線を向ける。それに対し、レイアンは苦笑をこぼし、内心では舌打ちをこぼした。

 

「ひどいですわ、私はまだこんなに火照っていますのに……」

「許しておくれ、ルイゼ。私達の関係を邪推する者もいるんだ……君を守るためなんだ。わかっておくれ」

「レイアン様…」

 

 我慢を強いられるのは自分だけではない。彼もまた、課題を片付けるために仕方なく一時の別れを切り出しているのだと気付き、ルイゼは抱いた怒りを引っ込める。

 

 しかしそれでも不満は残り、愛する秘密の恋人を詰るように、彼の肌を指先でつつく。

 いじらしい仕草を見せるルイゼに、レイアンは微笑ましい視線を向ける……事はなく、冷めた表情で、鬱陶しそうな視線を向けていた。

 

(この女もだんだん飽きて来たな…締まりも緩くなってきたし、今後は適当な理由をつけて回数を減らすか。また新しい奴を相手にしたいが…どうしたものかな)

 

 ほかにも数人いる相手と、どう折り合いをつけて相手どろうかと考え、レイアンはすり寄ってくるルイゼの頭を撫でる。幼子にやるような行為だが、ルイゼは気に入っているらしく笑みが浮かんでいる。

 

 

 いつの頃からだったか、人より早く、強く発揮され始めたレイアンの下半身の欲望。

 そういった欲望が他の種族より低いエルフには珍しく、レイアンは人より強くその行為に興味を持つようになっていた。

 

 それをどう処理すべきか、割と早い段階でわかっていた彼は、自分の立場を利用し、村の女に内密に頼むようになった。

 最初は夫を亡くして久しい村の未亡人、そこから徐々に若い相手にと、言葉巧みに説き伏せ、表情を偽り、拒絶できないようにしながら頷かせ、股を開かせてきた。

 

 そう言った話題に対し、厳格な父に見つからないよう細心の注意を払いながら、レイアンは多くの女性、少女達と関係を築いてきた。

 相手が居る居ないに限らず、時に自分の立場を利用しながら、密かに遊び続けてきたのだ。

 

 

(まったく…最近は爺の監視もきつくなってきたし、溜まりまくって散々だ。相手の年齢を下げ過ぎると、今度は向こうの親がうるさくなるだろうし、あまり数を増やすのもな……)

 

 しかし、比較的大きな村でも、閉ざされた森の中。

 人数にも限りがあり、手を出せない女性もいるため、遊ぶ相手も少なくなってきていた。

 

 最近では、性格を理由に自分に対する扱いを粗雑にしている父。

 人目があろうとなかろうと関係なく、自分の行いに対し難癖をつけ、大勢の前で恥をかかせることも多々あるため、レイアンは日頃から鬱憤を募らせていた。

 

 ルイゼとの行為が明らかとなれば、レヴィオは烈火のごとく怒るに違いない。

 

(まったく……せっかく生まれ持った遊び道具を使わずに、恵まれて持った時間ばかり浪費するなんて、年寄り達は情けないな)

 

 エルフの民は出生率が低い。それは長寿であり、多くの子孫を残す必要がないため、体質的に比較的子ができにくいためである事もあるが、大半の理由は本人達の欲求にある。

 エルフの発情期はごく短く、そういった行為に対する興味も低いため、子を作る機会というものが極端に少ないのだ。

 

 だが、レイアンは違った。いや、特殊だった。

 子ができにくいのなら丁度いいと、言葉巧みに女子達を唆し、そういった行為に興味を抱かせ、相手をさせまくったのだ。

 

 変わった形で改革的だった彼のやり方は、他の同年代、そして年下の男のエルフ達の意識にも影響を及ぼしていて、彼に付き従う者達が増えつつある。

 里にいる中年から高齢の者達を除き、里のエルフ達は彼を次なる長にと望み始めていた。

 

「そろそろ戻ろう……大丈夫。早く君を妻として迎えられるように、私は頑張るから」

「…そうね、その時を待っているわ」

 

 ルイゼと唇を重ね、レイアンは立ち上がって脱ぎ捨てた衣服を身に纏っていく。

 名残惜しそうに背中を見つめるルイゼを置き去りにし、レイアンは一足先に里に戻っていく。一緒の時間に帰り、疑われないようにという理由で、ルイゼが身を清める手伝いを避けているのだ。

 

 そんな理由があるとはつゆ知らず、ルイゼはレイアンが去っていく姿を見送り、しばらくしてから自分の衣服に手を伸ばす。

 秘密の恋人が語る輝かしい未来を夢見、いそいそと楽しそうに袖に手を通していく。

 いつか本当に彼の妻になれたら、いつか本当に彼の子を身籠れたら。そんな未来を、早く来てほしいと待ち遠しく思い続けていた。

 

 

「―――リアジュウハッケン」

 

 

 だがその時、ルイゼの動きがピタリと止まる。

 豊かな胸を押し込み、腰に紐を巻こうとしていた彼女の手が、耳に届いた謎の声で硬直する。

 

「……だ、誰?」

 

 露出しそうになる胸元を隠そうと衣服の襟を掴み、ルイゼは辺りを見渡す。

 まさか、先ほどの秘め事を誰か里の者に見られていたのか。レイアンの恐れていたことが起きてしまったのかと、ルイゼは顔から血の気を引かせる。

 

 きょろきょろと辺りを見渡すが、どこにも人影は見えず音も聞こえない。

 思わず漏れてしまった声ではなく、態とこちらに聞かせるような声であったため、それ以上隠れる必要はないはず。なのに、一向に声の主を見つける事ができない。

 

「誰なの…? か、隠れてないで出て来なさい。私を脅す気なら受けて立つわよ、私はそんなものに屈したりはしないから…!」

 

 レイアンに付き従う者ならば、いくらでも誤魔化せる。だがもしレイアンの父の派閥、エルフが積極的に交合することに忌避感を抱く者だった場合、何らかの手で口封じをしなければならない。

 もしそうなら、自分こそが愛する男を守らなければと、ルイゼは片手で体を隠したまま身構える。

 

 すると突如、鋭い眼差しで周囲を探っていた彼女の視界が、がくんと真下に下がった。

 

「え……きゃー――!?」

 

 真下から強い力で引きずり落とされる感覚に、ルイゼは悲鳴をあげる。

 しかし、彼女の身体は瞬く間に地面の下にもぐり、空いた穴も即座に閉じられてしまったため、その声が誰かに届くことはなかった。

 

 彼女にうわべだけの愛を囁いたレイアンも無論、何も知らずに自邸の方へ戻る。身体を重ねた相手が、突如何処かへ消えた事など、微塵も気づかずにいた。

 

 

 

「いやっ……いやぁぁ! 離して……離しなさいよ!!」

 

 自分の腹を締めあげる、毛むくじゃらの腕のような何かを叩き、ルイゼは甲高い声で叫ぶ。

 深い深い穴を引きずられ、美しかった彼女の髪は土で汚れ、ぼさぼさになっていく。辛うじて纏っていた衣服も、引きずられて所々ボロボロになり、あられもない格好になっていく。

 

 何が起こっているのか全く見当がつかない彼女は、自分を何処かに連れて行こうとしている何かを、バシバシと叩く以外に抵抗する術がなかった。

 

「ふざけないで! 私はっ…私はレイアン様の恋人なのよ!? こんな事をしてただで済むと―――あぐっ!」

 

 美しい顔を、見る影がないほどに歪め、叫び続けていたルイゼは、固い土の上に叩きつけられ、呻く。

 痛む背中を摩り、体を起こそうとした彼女は、視界に映ったその光景に一瞬思考を忘れ、次いでザザッと後退った。

 

 深い深い土の下に幌がる広大な空間。

 その天井からぶら下がる、数人の少女や女性達―――一糸まとわぬ格好で、全身を異様に膨らませた、ルイゼと同じエルフの娘達がそこにいたのだ。

 

「ひっ……いやぁぁ!?」

 

 ルイゼは目を剥き、喉が裂けんばかりの絶叫を上げる。

 

 白い糸に手足を絡められ、吊り下げられる同胞達だが、誰一人としてルイゼのような嫌悪を表した顔をしていない。

 むしろ恍惚とした顔で頬を赤らめ、だらりと舌を垂らしただらしのない顔をしており、びくびくと全身を震わせている。一目で、彼女達が一人も正気を保っていないことがわかった。

 

「う、ウソ…レイン? ルカ? ライア? あ、貴女達……どうしてこんなことに…!?」

 

 ルイゼは彼女達が、全員自分の知っている行方不明者であることに気付く。

 さして関わりがあったわけではないが、最近いきなり姿を消し、両親や兄弟が探し回っていたことで記憶に残っており、時折顔を思い出すようになっていた者達なのだ。

 

 里の者が懸命に捜索しても、手掛かりも何一つ見つけられずにいた彼女達が、よもやこんな場所にいたのか、とルイゼが息を呑む。

 

「……ぁ、ぁあ…」

「ぅふ、うふふふふふ…」

 

 吊り下げられた彼女らは、光を失った目で虚空を見つめ、だらだらと涎を垂らしながら声ならぬ声をこぼしている。現時点では何もされていないように見えるが、身体に何かを施されたのだろうか、常に痙攣し体を揺らしている。

 よく見れば、彼女達の膨らんだ体は、中で何かが動いてボコボコと波打っている。姿は見えずとも、悍ましい何かがいることがわかり、ルイゼの背筋に震えが走る。

 

「ま、まさか……最近噂になっている行方不明になった子達は、全員ここに……!?」

「ゴメイサツダヨ、オジョウサン」

 

 ガタガタと震えていたルイゼは、背後から聞こえてきた声にひゅっと息を呑み、ガバッと身体をひっくり返す。

 

 目を見開いた彼女の目の前に、八つの赤く輝く瞳が、己を一口で呑み込めそうなほどに巨大な蜘蛛の貌が、ずいっと近づけられる。

 至近距離から見つめてくる、巨大な蜘蛛の目の全てに自分の顔が映り込み、如何に自分が恐怖で引き攣っているのかが見える。

 

 ぱくぱくと口を開閉し、硬直する彼女の前で、蜘蛛の口がグパッと開かれた。

 

「ココハオレノイエ……オレガシハイスルオレノクニ、オレノオウコク。ココニハイッタイジョウ、オマエハモウオレノモノ。オマエハオレノオンナニナルンダ」

 

 異形の口から聞こえてくるのは、奇妙な響きを持った確かな言葉。普通の獣ではまずありえない、明確な意味を持った言語であった。

 

 姿形は間違いなく正体不明の異形で、意思疎通ができる存在には見えない。

 しかしなぜかルイゼの目には、気持ちの悪い蜘蛛の貌が、脂ぎった肥満体の男がニタニタと不気味に笑いかけてくる顔に見えていた。

 

「この…! 化け物! 近づかないでよ!」

 

 だらだらと垂れ落ちてくる、蜘蛛の口から洩れた液体がルイゼの身体にかかり、べとべとに汚していく。それを嫌がるルイゼが押し退けようとするが、蜘蛛は重く微塵も動かない。

 

 すると突如、ルイゼの両手両足がぐんっと引っ張られ、大きく体を広げられる。さらには垂れ落ちた液体によって彼女の衣服は溶けだし、残った衣服の一部も無くなっていく。

 慌てて隠そうとするも、手足を引っ張る何かの力は強力で、全く身動きが取れなくなってしまっていた。

 

「離しなさい! 離しなさいっての! 私は……私はレイアン様の…! 里の次期長の妻になる女で―――」

「ツヨキデキョニュウナエルフ……イヤ、コノデカサハモハヤバクニュウダナ」「シカモイケメンノオンナダゾ」「ソレハイイ、タマニハヒトヅマモワルクナイ」「オマエノモノハオレノモノ、オレノモノハオレノモノダ」

 

 必死に拘束から逃れようと暴れ、叫ぶ彼女の元に、次から次へと声が集まってくる。

 自分を抑え込む個体と全く同じ見た目の、少しずつ大きさの異なる蜘蛛の化け物達が、ぎちぎちと音を鳴らして向かってくる。

 生理的な嫌悪で、ルイゼはもう叫ぶ気力も奪われ出していた。

 

「い、いや…嘘、やめて……!」

 

 本能的な恐怖で、ボロボロと涙を流し懇願するルイゼ。

 しかし、蜘蛛の怪物はそんな声に反応するそぶりも見せず、ゆっくりと自分の体ごと管を押し込んでいき、そして―――

 

「いやあああああああ!!」

 

 痛々しい美女の悲鳴が、土の下の空間にこだました。

 

「オイ、ズルイゾ!」「サキドリハユルサン!」「ジャアベツノアナヲツカエバイイダロ」「ソレモソウカ」「オンナノアナハイクラデモアル」「ナイナラツクッチマエバイイ」

 

 悲鳴をあげるルイゼに、他の蜘蛛の怪物達が集り、凌辱を繰り返す。

 

 エルフの美女は苦痛で翻弄され、涙が途切れる事はない。

 しかし、痛みと苦しみはいつまでも続くことはなく、次第にルイゼを快楽で狂わせていく。そしてやがて、彼女の挙げる声にも、次第に艶が混じり始めていく。

 

 全身を蜘蛛の化け物達に穢されながら、ルイゼという女の自我は、色欲に穢され壊されていくのだった。

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