青春を謳う少年。
青春を
見ているだけで幸せになります。
その実、青春に飼われる少年。
その実、青春に
見ているだけで心が満たされます。
この素晴らしい世界があと2年も続くことを喜ばずにいられましょうか。
私の高校生活は順風満帆です。
平塚教諭も白秋を迎える前に良き縁に巡り会えますよう。
「何か言い残すことはあるか?」
「ありませんよ。語ることなど」
平塚教諭はマリッジデキナイブルーの影響か、青筋を浮き立たせて僕を睨んできた。宝塚でも男役を張れるような凛々しい美人だけど、少し男成分が強すぎるのとここが宝塚ではないせいで婚期を逃している女性だ。
「この手の課題を課せば、こういった自慰文章を送りつける手合いは数人いる。分かってはいた。いたんだ....かなり重病なやつが二匹も釣れるとは思わなかったがな」
「もう一匹を知りたいですね」
高校生活を振り返って、というテーマで出された作文課題だ。
僕は事情があってここ数日登校できていなかったので、二週間遅れで提出したことになる。小論文みたいに文字数指定はなかったから、文量は少ない。
ここ文章を提出するにあたり、迷いがなかったと言えば嘘になる。
自慰文章の表現は妙齢の女性教諭の口から飛び出すには怪しいものではあるけど、的確だ。僕は自慰の文字列に塗れた用紙を先生に手渡したと言うことになる。なにそれ凄くフェティチック。
まあでも、有難いことに僕には
「比企谷の犯行声明文もなかなかだったが、貴様のは最早サイコパスの日記ではないか」
「嫌ですね、僕は人を刺してもビルの階数を数えたりしませんよ」
「人を刺す前提を躊躇なく立てている時点で貴様の人格が不安で仕方がない」
本当に引いていらっしゃる。
平塚教諭は深いため息をついて、哀れみの目線を向けてきた。
「貴様、友達はいるのか?」
「いますよ」
「いるのか……貴様は、腹に一物あるタイプか」
「何ですかその異形生命体は」
「イチモツではない」
日本語の妙を噛みしめていると、平塚教諭は更に聞いてきた。
「私が聞いているのは、本当に心が許せる人間がいるのかということだ」
「心許せる、ねえ。答えはまあ、これです」
僕は作文用紙を指さした。
「少なくともこうして本音の作文を書いて渡したのは先生を信頼しているからなんですけどね」
「そ、そうか……」
少したじろいだ。不意を突くと見せる案外可愛い表情はなかなか魅力的なので結婚をあきらめるには早いだろう。
何はともあれ、先生は作文を書きなおせと言いたいのだろう。書き直すのはやぶさかでない。
「まあ、ほんの出来心ですから、勘弁してくださいな。書き直せばいいんですよね?」
「当たり前だ。それから、貴様には奉仕活動をしてもらう」
奉仕とはまた、珍妙な単語が飛び出たものだ。
「そういえば駅前に新しいメイド喫茶がオープンしたらしいですね。そこの募集ですか?」
「なわけないだろう!いや、そもそも貴様には頼まん」
「ええ……でも平塚先生には似合いそうですよね」
「そうか?ま、まあ私はまだ若いからな!メイド姿も見栄えするだろう、うんうん」
急にはしゃぎだす。元気づけられたのなら何よりだ。ちなみに店員は黒の破れ衣に大鎌の携帯が義務付けられている。冥土喫茶だもの。平塚教諭はさしずめペルセポネ。良く似合う事だろう。先生に奉死されてみたいと思うお客さんは多いんじゃないか。
「いや、そうではなくてだな」
脱線していく会話を軌道修正する。僕が何か奉仕しなくちゃいけないらしい。
「で、どこのお寺に行けばいいんですか」
「寺?」
「僕に体で払えってことでしょう」
「だからなぜ私が陰間の斡旋をしている体なんだ!これでも聖職者だぞ」
「僕を辱めようとするお坊さんだって聖職者ですよ」
「ああ、もう貴様と話すと埒が明かん。とにかくついてきたまえ。……疲れた」
そう言って僕の手首を掴んで連行した。いやいや、握力が強いのなんの。振りほどこうとしても鉄の枷みたいにびくともしない。
そのまま特別棟へ続く渡り廊下へ。
中庭を見下ろせば、青春真っただ中の少年少女が汗を流し、命を燃やしている。
命短し恋せよ乙女、と名文句をなぞるように愛を語らうカップル。爆殺したいという怨念が知らず知らず寿命を蝕むのだろうか。
ああして恋に生きる者も、男女混交で遊ぶ集団も、それを怨嗟をもって見つめる者も、それらすべての青春が、僕は好きだ。
だから、僕はそれを見つめて歌うことにした。僕はいわば青春の語り部だ。恋愛も友情も苛めも虐待も、全ての物語を見て語りたい。
「着いたぞ」
平塚教諭が無機質な扉の前で止まる。
奥からは男一人と女二人の声がかすかに聞こえる。
ノックもせずに、やけに荒々しく扉をあけ放つ。
開け放たれた扉の奥の間違った青春譚もまた、僕が語る物語の一つだ。
そして、僕自身の物語でもある。