ウマ娘を曇らせたい。あわよくば心配されたい   作:らっきー(16代目)

6 / 8
トレーナーの回想シーンで虐待描写があります。苦手な方はブラウザバックを

シリアスが苦手な方へ。今話は読まない方がいいと思います。トレーナーパートまで暗いので。今回は勘違い要素はほぼ無いです


【閲覧注意】ダメお姉ちゃん持ちのカレンチャン

『歩けそうにないから迎えに来て』

 

 可愛らしいスタンプと共に唐突に届いたメッセージに思わずため息がこぼれる。いくら休日だからといって、学生を夜中に呼びつけるのはどうなの? そもそもこちらに用事があったらどうする気なのか。

 

 放っておけないダメ人間というのはなんともたちが悪い。カレンも可愛く思われているのだろうと理解して色々することはあるけれど、お姉ちゃんのあれは天然なのかも。

 

 なるべく地味な、尻尾を隠せる服を見繕って、耳を隠すための帽子をかぶって出発する。流石に夜中に繁華街に居るというのはカワイく無いから。

 支度を済ませ、送られてきた位置情報の所へと向かう。いつものところだ。これで何度目だっけ? 

 

 一度痛い目を見れば反省してやらなくなるのではないかと思って、無視してみたことは既にある。

 その時は、ちょっと口にするのは憚られるような方法をとってきたから。結局問題を起こさないためにもカレンが行くのが一番いいのだ。……どうにも、貧乏くじを引いている気がするけど。

 

 せめてお酒を控えてくれれば、もっと胸を張って、好きな人に迷惑をかけられるのも楽しいよ、って言えるのに。今はどうにもカレンが悪化させている気がしている。でもカレンが見放したらもっとダメになっちゃう気がするしなぁ……

 

 どう対応したものかと考えながら、最早見慣れてしまったお店へと向かう。店員さんには顔を覚えられているから、呆れた顔をされつつもすぐに場所を教えてもらえた。

 

 空いたジョッキに囲まれて突っ伏しているお姉ちゃんを一先ず起こす。

 

「飲み過ぎだって……ほら、帰るよ」

 

「まだ大してのんでないもーん。カレンものもーよー」

 

「お姉ちゃん……未成年の飲酒は炎上じゃすまないよ……立てる?」

 

「むーりー、おぶってほしいな」

 

 にへら、と笑いながら甘えてくる。甘やかしちゃダメだと分かってはいるのだけど、声も仕草も可愛すぎて、ついつい怒る気を無くしてしまう。

 

「肩貸すから我慢して。お姉ちゃんデカいんだから」

 

 鞄を勝手に探って財布を取り出し、会計を済ませる。レシートを見る感じかなりの量を飲んでいる……のは、まぁいつものこと。

 

 ご迷惑をおかけしましたと店に頭を下げれば、その分注文してくれるし、あの人がいると客が増える、とのこと。

 ま、妹ちゃんは大変かもしれんがな! と笑っている店長。そう思うなら止めてくれてもいいと思う。

 

「ほら、服ちゃんとして! 谷間見えてるから!」

 

「いいじゃん、減るもんじゃないし」

 

 減るから。女性としての尊厳とかそういうものが。どうせ周りの客に見られてたことも気にしてないんだろうけど。いまいちその辺が緩いところも直して……直らないんだろうなぁ……

 

 色々と諦めつつ、肩を貸して帰路につく。

 

「ありがとねーカレン。愛してるよ」

 

 そういう言葉は素面の時に言って欲しい。……それでも嬉しいと思っちゃうのがダメなんだろうな。

 

「はいはい、カレンもお姉ちゃんが好きだよ」

 

「心がこもってなーい。胸揉むぞ? ……厚着でわかりにくいなぁ」

 

 一度投げ捨てたほうが良いんじゃないと、少しだけ思った。

 

 

 

「カレン。前も言ったけど、今晩飲み会行ってくるから、明日オフで大丈夫?」

 

「カレンは良いけど、お姉ちゃん飲み会なんか行って大丈夫? 迷惑かけない?」

 

「え? そんな信用ない?」

 

「むしろどうしたらあると思えるのか、カレンは聞きたいな」

 

 トレーナーの同期会、とかなら最悪無理矢理ついていくのだけど。今回のは中学だか高校だかの同窓会らしい。

 行かないで、とも言いにくいし。泥酔を止めてくれる人が居るのかも分からない。色々と心配な飲み会だ。

 

「流石にカレンが迎えに来れない時にあんな飲み方はしないって。あ! いや! 別にカレンになら迷惑かけていいと思ってるわけじゃないよ!? ただ、その……カレンに面倒見てもらえるのが嬉しくて……ああ、何言ってんだろ」

 

 なんとも微妙に怒り辛い事を言うのか。けど、これはやっぱり面倒見るの止めたほうが良いんじゃない? とも思う。甘やかしてるせいでダメになっちゃってるのか、ダメだから甘やかしたくなっちゃうのか。

 

「カレン今回は頼まれても行かないからね? お酒は程々にして、他人に迷惑をかけないこと! いい?」

 

「それはもう、気をつけます……」

 

 不安だなぁ、とても。

 

「今回なんかやらかしたら、ほんとに嫌いになるからね?」

 

「それはやだ! ……余所行きの顔で行くよ」

 

 それなら少しは安心? 仕事中は百匹ぐらい猫かぶってるし。

 飲み会の最初と最後には連絡を入れることと、酔いを自覚したらそこで止めることを約束させて送り出す。これだけ言えば守って……守る、かなぁ……

 

 

 

 これは担当ウマ娘として、問題を起こされでもしたらたまらないから。すぐに止められるように用心しているだけであって、決してお姉ちゃんの面倒を見ているわけではない。

 

 行き先は教えてもらえなかったから。こっそりと後をつけて追いかけてきた。お姉ちゃんもこの辺りには慣れていないのか、辺りを見回しつつ歩いていたせいで見つかりそうにもなったけど、なんとかバレずに済んでる。

 

 人が集まっているところに合流していくのを見守って。その店が見えるファストフード店に陣取る。携帯に『始まりました。終わったらまた連絡入れるね』とメッセージが飛んできたのを確認して、とりあえず覚えていたみたいと一安心。

 

 ドリンク一つで粘りに粘って。新規メッセージを知らせる音。『二次会に行ってきます。終わったら連絡するけど寝てていいからね?』だそう。

『酔い潰れてない?』とメッセージを送れば、『最初の一杯だけにしたよ』と返ってきた。まあ、酔い潰れてたらこんなメッセージもしてこれないよね。

 

 店から出てきた集団は三々五々色んな方向へと向かっていく。二次会と言っていたし、仲のいいグループで固まってるのだろう。

 他の人はどうでもいいから、お姉ちゃんを探す。背が高いのは目印にもなりやすいみたいで、そんなに苦労することもなく見つけた。

 

 しっかりとした足取りで楽しそうに歩いていたから、これは大丈夫かなとも思ったけど。

 人を見た目で判断するのは良くない、なんて頭では分かってる。でもいかにも遊んでます、といった風貌の人たちに囲まれていたら、心配になるのもしょうがない……と、思う。

 

 あまり治安の良くない──というのは言い過ぎだけど──裏路地の方に行くから、こっそり追いかけるのがちょっと大変だった。

 

 こじんまりとしたお店に入っていくところまで確認して。さてどうしたものかと一思案。

 今度はさっきみたいに都合のいいお店も無くて、自然に見張るのは難しそう。

 

 諦めて帰ればいいと思わなくもなかったけど、どうにも胸騒ぎがしたから。結局コソコソと隠れつつ様子を伺うことにしちゃった。

 なんでこんなカワイく無いことをしてるんだろうって気持ちと、どんどん強くなる胸騒ぎを感じながらお姉ちゃんを待つ。

 

 さっきから送っているメッセージに返事が返ってこない。話が盛り上がって携帯を見ていないとか、そんな理由だと自分に言い聞かせる。……早く、安心したいな。

 

 思ったよりもずっと早く、お姉ちゃんを含めて入店したグループが出てきた。

 一瞬お姉ちゃんが見つからなくて、何処かと思えばグループの一人に背負われていた。

 ここだけ見たら、ただ今回はあの人に甘えたのだなとも思えるんだけど。

 

 その人達の後をつけたのはただの直感だ。ただの杞憂なら、或いは野暮な事をしていただけなら。分かった時点でその場を去ればいいから。

 

 ……ウマ娘の聴力は、ヒトのそれと比べるとかなり高い。だから、その人達が話していた。下衆な会話も聞こえてくる。

 

「昔から顔と身体は良かった」「警戒心の足りないバカ女」「薬を混ぜた」

 

 初めての感情が湧いてくる。

 

「誰が最初にヤる?」「途中で起きるんじゃねぇの?」「写真でも撮っとけば脅せるだろ」

 

 今すぐあの口を閉じさせたい。

 

「じゃあ俺から」「中はあんま汚すな」「そんぐらい我慢して使え」

 

「ねえ、そこのお兄さん達。ちょっとだけ『おはなし』しよっか?」

 

 これ以上。大切な人を愚弄されるのは我慢できなかった。

 

 

 

 流石に人を一人背負って帰るには距離があり過ぎ、公共交通機関を使うには時間が遅すぎた。

 そういう事目当てで声をかけられるのが嫌だったから、近くにあったカラオケに入る。泥酔客は困るんだよね。と最初は渋られたけど、事情を話せば受け入れてくれた。

 

 人の気も知らずにスヤスヤと膝の上で眠っている。黙ってれば本当に美人なんだけどな。

 なんとなしに髪を触って、身じろぎする様に起こしてしまったかとちょっぴりの罪悪感。

 

「……あれ、カレン? ……え、あれ?」

 

「……おはようお姉ちゃん。具合、悪くない? 身体に違和感とか」

 

「ん……なんか、頭痺れてる……身体ダルいし……あぁ……薬、かな。久々の感じ……ごめん、迷惑かけてるね。最悪……消えたい……」

 

「これは、お姉ちゃんのせいじゃないから。……せめて、カレンが居る時で本当に良かったなって」

 

 来てなかったら。多分、酔い潰れたのだと思って、何も知らずに怒っていたと思う。そんな最低な事をしなくて済んだのは、不幸中の幸い。

 

「カレンに、あんなところ見られるぐらいなら、どうなっても良かったのに。……嫌なもの、汚いもの、見せちゃったよね」

 

「ど……どうしたの、お姉ちゃん。……いつもみたいに笑って済ませてよ。今日に比べたら、普段の方が大変かなって、カレンは思うな」

 

 ただ、どうにも様子がおかしい。それは、襲われかけたのだから。動揺するのも無理はない……のだけど。それが理由というには態度に違和感がある。

 

「ごめん、ごめんなさい……違うの。誘ってなんかない、誑かしてなんかない」

 

 ふと、どこかで聞いた、睡眠薬の副作用を思い出した。薬で悪夢なんて起きるんだと、印象に残ったから。

 

「……大丈夫。カレンは分かってるから。お姉ちゃんは、何も悪くないって」

 

「お父さんは私が悪いって言うの。お前の身体が悪いって。お前が誘ってくるのが悪いんだって」

 

 涙と嗚咽に彩られたそれは。聞いたことの無い、お姉ちゃんの昔の話で。

 

「お母さんには殴られた。親を誑かす淫売だって。お前なんて産まなきゃ良かったって」

 

 知識としては知っていても、どこか別の世界の事のように思っていた話だった。

 ごめんなさい、ごめんなさいと泣いている彼女に。どうしたらいいのか分からなくて、何を言ってあげればいいのか分からなくて。結局出来たのは、膝を貸してあげることと、根拠の無い大丈夫という言葉だけ。

 

 泣き疲れたのと、多分薬がまだ残っているのだろう。嗚咽が止んで、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

 慕われる、人に好かれるというのが良いことだけじゃないっていうのは、カレンも知っている。

 良いことと悪いことは切り離せないもので、都合のいい片方だけを手に入れる、なんてことは出来ない。

 

 お姉ちゃんの過去は知らないから、推測することしか出来ないけど。さっきの飲み会で周りに同性が居なかったのもそういう事なのだろうか。

 

 恋心は、簡単に人をおかしくさせるから。

 誰かの好きな人に告白されて、周りから誑かしたとか身体で誘ったとか言われる、なんていうのはいかにもありそうな話だ。

 

 それに、あのうわ言。

 

 誰もが一番安心出来るはずの、家族という狭い世界が地獄だったとしたら。子供に何が出来るというのだろう。

 想像することすらおこがましい。多分、カレンには本当の意味で理解はできない。

 

 なんとなく。お姉ちゃんの刹那的な生き方の理由が分かった気がする。

 きっと。過去に、何一つ価値なんて感じてない。未来に、何一つ期待なんてしてはいない。

 

 現在を作るのは、過去の積み重ねと未来への希望だ。ならその二つが無かったら? 場当たり的に楽しいことに飛びつくのは、そんな虚無感からでは? 

 単なる推測だけど、大ハズレでは無いと思う。

 

 わざと困らせて、甘えてくるのは。きっと本心では誰も信じてないから。

 どうせあなたも離れるんでしょう? 今は違うとしても、次は? その次は? 

 そうやって試して、離れていく相手を見送って。ほらやっぱりと悲しく笑う。

 

 ならカレンは、ずっと。何があってもお姉ちゃんを支えよう。

 

 きっと、正しくはないのだと思う。こんなやり方は、たとえ上手くいっても依存されるだけだろう。

 人との距離感を学ばせて、自分で生きる理由を探させて。自立を促すのが賢い、正しいやり方だ。

 

 でも、正しさが人を救うとは限らない。ずっと傷つけられてきて、誰にも手を差し伸べて貰えなかった人を。自分で立てと突き放すのが正しさなら。そんなものは必要無い。

 

 世界が優しくないのなら、カレンだけは優しくありたい。

 この想いは、愛と呼ぶにはあまりに身勝手だ。

 

 

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 

 

 人を信じられなくなったのはいつからだろう。視界に入る全ての人間が何をしているのか把握出来無いと不安になるようになったのは? アルコールで紛らわせる事でしか現実に耐えられなくなったのは? 

 

 人格というのは結局のところ過去の積み重ねで出来上がるのだから、きっとその問いに答えはない。無理矢理答えるのなら、全て共通で『いつの間にか』だ。

 

 だから今日も。まともに脳内物質も出せない、役立たずの脳をアルコールで黙らせて、甘えという迷惑をかけている。

 

 今の担当ウマ娘との出会いは、ゴミのような人生の中でようやく一つあったマシなことだ。

 優秀で、割と懐いてくれて、迷惑を許容してくれている。

 

 普通に付き合っていけば。それなりの人間関係が築けて、まともに生きる一歩目になるのかもしれない。

 

 ただ悲しいかな。私には普通が分からない。相手が腹の中で何を考えているのかを理解する事は出来ないから。どうやって人を信じたらいいのか分からない。

 

 故にこうして、試すようなことをする。これは許容してくれる。なら次は? これは見捨てられる? 

 結局何をしても私には信頼なんて出来ない以上、いつか破綻するのは目に見えている。

 

 ……ここまで理解した上で、それでも試すのを止められないあたり、私は本当にどうしようも無い。そんな自分への失望を、未来への恐怖を、世界への諦観を。アルコールを流し込んで誤魔化す。

 

 意識が大分曖昧になってきた所で、身体の振動と聞き慣れた声に気づいた。

 今日も迎えに来てくれたらしい。今日も見捨てないでいてくれたらしい。

 

 今のところ、十数勝一敗だ。来てくれなかった一回は、コイントスを十連続で当てるギャンブルに勝って店に泊めてもらった。カレン──担当ウマ娘──には、身体で寝床を買ったと伝えた。その時は、凄まじい顔をされて暫くお説教を聞いたっけ。

 

 怒られるのではなく叱られる、というのは初めての経験だった。

 

 肩を借りて帰り道を歩く。体格差の関係で、肩に回った手が丁度胸に当たる。身長の割に胸がデカいよなぁ……なんて回らない頭で思う。軽く手に力を込めると抗議の視線を向けられたが、投げ捨てられはしなかった。これは何勝何敗だったかな。

 

 

 

 同窓会というものがある。昔を懐かしむ、というのは私には理解のできない感覚だけど、世間一般的には歓迎させるべき会合らしい。

 

 私が行って楽しめるとは思わない。学生時代なんて不快なことばかりだったし、交流の残っている友人も居ない。ただまあ、それなりに懐かしい人とかも居たから、行くだけ行ってみようと参加希望を出した。気まずければ、最悪流れを無視して帰ればいい。どうせ、二度と会わない人達なのだから。

 

 カレンに同窓会の事を伝えてみると、心配されつつも反対はされなかった。いっそ付いてくるとでも言われれば面白かったのだけど、流石にそれは無いようだ。

 

 幾つか約束を交わして、話を終える。ほんとに嫌いになる、という脅しは中々に心に響いた。

 どうせそのうち嫌われる、と試すような事を普段からしている私だけど、別に進んで嫌われたくはない。

 

 地図アプリを頼りに知らない街を歩いていると、ふと視界の端に見慣れた芦毛があった。

 変装していようと、カレンの芦毛は間違えない。他に覚える人間がいない分、脳の記憶領域をカレンに割いている。

 

 心配して付いてきてくれた、というのは素直に嬉しい。やはり、優しい子だ。それだけに、こうして私のようなクズに依存先として狙われるのは可哀想ではあるけれど。

 

 それはさておいて。集合場所として指定された場所に着く。大分遅い方だったようで、かなりの人数が既に集まっていた。

 やはり見渡しても誰が誰だか分からなくて。名乗ってもらってようやく、ああそういえばクラスにそんな名前の人が居た、と気がついた。

 

 店に入って、割とすぐに同窓会に来た事を後悔した。女性陣はあの頃と変わらず敵視してくるし、男性陣は相も変わらず胸ばかり見てくる。どちらも、バレてないとでも思っているのだろうか。

 

 何人か、それこそクラスの中心だったような人と、僅かばかりの会話をして。最低限の義理は果たしただろうと一次会で帰ることにした。

 

 そこに、大して仲も良くなかった男のグループから誘いがかかったから。どうせそういう目的なのだろうと断ろうとして、ふと閃きがあった。

 

 誘いに乗って、移動中にこっそりと辺りを見る。店に連れ込まれるギリギリで、芦毛の彼女が付いてきている事を確認して、閃きに従う事を決めた。

 

 付いてきておいてこんな事を言うのもどうかと思うが、実につまらない集団に誘われたものだ。行為の事しか考えていません、と全身に表れている。

 

 僅かな水音と、視界の端で捉えた動作から。薬を混ぜたなと察する。

 理解した以上、さっさと警察でも呼ぶのが正しいのだろうが、それではなんの意味も無い。

 せっかく、カレンが助けに来てくれるのだ。ならば囚われのお姫様にでもならなくては。……あまりに似合わなくて、自分で少し笑ってしまった。

 

 混ぜ物入りの酒を一息に飲み干す。二杯目で意識が曖昧になってきて、三杯目は飲み干したかどうか、よく分からない。

 

 

 

 夢を見た。実の両親の所で暮らしていた頃の夢だ。

 

 夫婦仲が良好だったのか、それともとっくに冷めていたのか。それは最後まで知らないままだった。

 

 中学……一年か、二年の頃。夜中に目を覚ますと、父親が私の上に覆い被さっていた。

 声を出したら殺す、と言った父の声は、どう考えても実の娘に向けるべきでは無くて。暫く、されるがままになっていた。

 

 その間ずっとお前が悪い、お前が悪いと言われ続けて。何故かそうなのだろうと納得していた。──子供にとって、親の言うことは絶対だ。

 

 私の身体を覆う最後の布が取られる寸前で、部屋の外から聞こえた物音に救われた。母が起きていなければ、きっと最後までされていたのだろう。

 

 何か勘でも働いたのか、物音で察したのか、はたまた他の理由か。

 部屋に入ってきた母が見たのは、裸で娘の上に乗る夫の姿。

 

 助けてくれる、そう思った。この状況を解決してくれると。

 その期待への答えは、顔面への殴打だった。殴られて、罵声を浴びた。

 

 ああ、世の中ってこんなもんなんだなと、その時に理解した。

 

 

 

 夢と現実が混ざっている。思ったよりも強い薬を使われたのかもしれない。

 カレンが心配そうに顔を覗いている/誰かの罵声が脳に響く。

 カレンが体調を心配してくれている/誰かが私を嗤っている。

 カレンが優しく撫でてくれる/誰かが私の尊厳を奪おうとしている。

 

 私を罵っているのは、誰? 

 

 もう何も分からなくて、気づけば泣きながら謝っていた。

 大丈夫、大丈夫と。優しい声と暖かな体温だけが頼りで。それだけが私の救いだった。

 

 お願い、カレン。どうか、私を見捨てないで。

 

 

 

 

 




お気に入りが目標を越えたのと後書きを活動報告でやりたいので匿名を解除したいのですが、今話の悪評が他の作品に波及したら困るので、今話の反応を見て考えます

そもそも各話のその後の話って需要あるの?

  • 見たい
  • あれば読む
  • プロットだけ見たい
  • 見たくない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。