厨二病の男が勘違いされる話   作:D.D.D_Official

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ローゼス帝国第三皇子"漆黒"グレン・ヴァン・インフェルノ

 

 

「………何だ、これは」

 

俺の目の前で鮮血が舞う。悲鳴が俺に「お前は悪魔だ」と囁く。死んだ夫を嘆く女の慟哭が俺が人でなしだと突きつけてくる。

 

地獄だ。ここは地獄だ。現世に顕現した地獄に違いない。宛ら俺たちは地獄の獄卒だ。なぜ、こんな事に…。

 

 

 

 

 

遂に亜人たちとの戦いが目前になり、アーサー王は物資の調達を行うと言った。どこか倉庫に行くのかと思ったが、違った。俺たちがやって来たのはフィルチ村という寒村だった。村長であるという老人は俺たちの姿を見て驚いていた。

 

「き、騎士様…よくぞ、お越しくださいました…。どのような、ご用件で?」

 

怯えながら村長が騎士王に問う。

 

「物資の調達だ。この村にある食糧を全て頂こう」

 

「そんな!ワシらだけでも食うのがやっとなんです!どうか、どうかご慈悲を!」

 

村長は泣きながら騎士王に懇願する。俺の見る限り、この村は軍役に使えるほどの物資は無いだろう。何より村に活気が無い上に住民も痩せ細っている。

 

「お前たちの村にはこれまで税を課して来なかっただろう。年貢の納め時だ。進んで出さぬというのなら勝手に受け取るだけだ」

 

冷酷にそう告げる騎士王。

 

「お、お待ち下さい!そんな事をされたら、この村が滅んでしまいます!村人たちだって飢え死んでしまいます!どうか、どうかご再考を!何卒、何卒…!」

 

騎士王の馬に縋りつき引き留めようとする村長。俺は見ていることしか出来なかった。ここで止めたら、俺は王の決定に反いた叛逆者だ。俺がそんな事をしてはいけない。聖杯を探し終えるまでは死ねないのだ。

 

「誰ぞ、この無礼者を引き剥がせ……どうした?早くせよ」

 

どこまでも無機質な王の言葉に慌てて騎士が村長を引き剥がす。村長は必死にもがき、王に再考を訴えるが王は聞く耳を持たない。

 

「騎士達よ、この村にある食糧を全て広間にかき集めよ。その後次なる村へ行く。急ぎなさい」

 

王の号令が出て、俺たちは動き始める。王の声には試験の時での柔らかい印象は消え失せ、硬く、無感情のものがあった。

 

「すまない、我らに物資を明け渡してくれないだろうか?」

 

「なっ、う、家に騎士様にお渡しするような食糧はありません!どうかお帰りください!」

 

「しかし、これも命令なのだ。出さないというなら此方にも考えがある」

 

きっと俺は酷い顔をしているだろう。村民達に食糧を無心している時、俺は騎士としての矜持は無かった。ひとえに、王に背いてはならないという心で一杯だった。王と俺とは生物としての格が違ったのだ。

 

突然、遠くで悲鳴が聞こえた。

慌てて駆け寄ると、一人の若い騎士と村人が争っていた。

 

「出て行けっ!お前らに渡すメシはねぇぞ!」

 

「何だと!?王に歯向かうと言うのか!」

 

「兄さんやめて!」

 

「王が、騎士が何だってんだ!お前らみたいなクソッタレは、こうだ!」

 

 

まずい、男がナイフを取り出した。騎士はそれに気づいていない。戦争前に騎士を失うのはダメだ。

 

「気をつけろアーリア卿!そいつはナイフを隠し持っているぞ!」

 

気づけば俺は声を荒げ騎士に警告していた。

 

「むっ、グレン卿か!かたじけない!貴様、王の騎士に歯向かうかァ!良いか、これは見せしめだ!」

 

騎士は男の顔面を殴ると広場まで引きずり衆人環視の中、男の心臓を突いた。そこから、地獄が広がった。

 

恐慌状態に陥った村人達はせめてもの抵抗をすべく逃亡。当然それを騎士達が逃すはずもなく、すぐさま弓で射られ皆殺しになる。生き残った村人達は命乞いを始める。

 

「王よ!この村に謀反の疑いあり!如何なされますか!?」

 

「残念ですが、滅ぼしましょう。グレン卿、片付けは任せましたよ」

 

俺に白羽の矢が立った。俺が村人達に視線を向けると、酷く怯えた目で見られる。違う、違うんだ。俺はお前達にそんな顔をして欲しかったんじゃないんだ。

 

「……………………!」

 

俺が村人を殺すか、王命に背くか逡巡していた時、凄い形相をしたランスロットにぶん殴られた。なぜだ。

 

「グレン卿…!我々は"騎士"だ!履き違えるな!我々は英雄でも、勇者でもない、王の剣たる騎士だ!」

 

「…ッ!」

 

ランスロットは王の心象が悪くならないようにしてくれている。そうか、お前は俺を守ってくれているのか。

 

 

昔どこかで、聞いたことがある。

「誰かを守ると言う事は、誰かを守らないという事だ」と。今が決断の時か。人の心を守り大勢が死ぬか、王の命令を守り大勢を救い少数を殺すか。決めろと言うのか。

 

俺は、長く、長く考えた。時間にしては僅か数秒だったろう。だが、俺は決意した。必ず、このブリテンを救ってみせると。

 

「…………すまない。ブリテンの為に死んでくれ」

 

俺の態度に若干の希望を見ていた村人達の表情が絶望に染まる。周りは騎士に囲まれ、最早逃げられない。

 

目の前の死から俺は逃げてはいけない。俺はバンシーを使い、一人一人、丁寧に殺していった。

 

「嫌っ、嫌だぁぁぁぁ!!!死にガッ!?」

「誰か助けて!神さマ"ッ!?」

「おのれ騎士ィいいい!!!!」

「この外道が!地獄に堕ちろ!ぐはっ!」

「王に呪いあれ!いつか地獄に堕ちながら、我らの怒りを思い出せ!」

「お母さぁぁぁぁん!!!!」

「お願い、娘だけは!娘だけはぁっ!」

「う、うわぁぁぁぁっ!しね、死ねよぉ!がふっ!?」

 

 

ここは、地獄だ。だが、俺は地獄を越え、全てを救わねばならない。目を逸らすな。これは必要な犠牲だ。心なしかバンシーが喜んでいる。そうか、お前も俺と共に覇道を進んでくれるか。

 

とうとう最後の一人だ。最後の一人は復讐心を目に宿し、眼力で人を殺せそうなほど俺を睨んでいる少年だった。

 

「君が最後だが…この村の最後の住民として言いたい事はあるか?せめてもの手向けだ。聞いてやろう」

 

「騎士どもォッ!お前たちさえ居なければァ!僕たちは幸せに暮らせていたんだ!お前たちさえ居なければァァァァ!!!絶対に許さないぞ、お前ら絶対に許さないからっ…!」

 

そういうと少年は俺に向かって丸腰で突っ込んできた。剣を振り、上半身と下半身に別れを告げさせる。

 

「痛いっ!?」

 

全てが終わった。もはやこの村の住民は誰一人としていない。生き残りは俺が殺した。

 

 

もう、俺は止まれない。止まってはいけない。俺が殺した命の為に。必ず、聖杯を獲得しなければ。

 

 

○○○○○○○

 

 

私が初めてグレン卿を見た時、とても正義感の強いし御仁だと感じた。自信と希望に満ち溢れ、全てを救ってしまうかのような覇気を感じた。

 

だが、今はどうだ?彼は心を殺し、泣き叫ぶ民を虐殺している。本当に泣き叫びたいのは彼自身だというのに、無表情で殺している。

 

そして王はそれを無感動で眺めている。激情を表情に漏らしているランスロット卿は王に表情が見えないように俯いている。他の騎士たちも直視出来ていないようだ。

 

しかしグレン卿は直視している。悲痛な表情をする事も無く、ただただ無表情だ。きっと、心の中で泣き叫んでいるのだろう。「自分はこんな事したくはなかった」と。

 

私は悲しい。グレン卿にこのような事をさせている現状が。そしてそれ以上に、王が人間の心を持ち合わせてはいない事が。

 

「王は人の心がわからない」

 

そう言い残し私は去る。

私を追う者はいなかった。

 

 

○○○○○○○

 

 

「………何?トリスタン卿が行方不明だと?」

 

間も無く開戦と言うところで、伝令が入った。本陣にいた円卓の騎士達に衝撃が入る。

 

「な、何故だ。忠誠心に厚い彼の騎士がそんな…」

 

ランスロットがひどく動揺したように呟く。

 

「トリスタン卿は最後に書き置きを残しておりまして…『王は人の心がわからない』だそうです。全く、失礼なお方です。捜索隊を組まれますか?」

 

再び円卓の騎士達に衝撃が走る。その文言ではまるで、謀反のしたかのようではないか。

 

「はァ?トリスタンの野郎が謀叛するわけねぇだろ!アイツはそんなタマじゃねえ。大方悲しすぎて引き篭もっちまったんだろうよ!」

 

「…トリスタン卿の不在は痛手ですが、こちらにはまだグレン卿が居ます。再びエディンバラの奇跡を起こしてもらう他ないでしょう」

 

注目が一人の騎士に集まる。燃える炎のような血塗れのマントを羽織った騎士、グレンは半身である精霊に問いかける。

 

「あの時のような奇跡、また起こせるものか?」

 

『うーん、それには私との再契約が必要ね。でもそれしたらグレンも私も即死するわよ?だって契約解除したら私の核が崩壊してグレンの心臓も潰れるもの。あ、言っとくけど私はグレン以外のお願いは聞きたくないからね』

 

「王が俺に死ねと言うなら、俺は喜んで死のう。だが、聖杯探索は必ず行ってほしい」

 

意を決したようなグレンの声に焦るのはランスロットだ。トリスタンの離脱でただでさえ動揺しているランスロットは、これ以上友を失いたくないという思いで一杯だった。

 

「待ちたまえグレン卿!君には聖杯探索を成し遂げてもらわねばならん!勝手に死ぬ事は許さんぞ!それに、グランツ卿やエレインも悲しむだろう!それだけは許さんぞ!」

 

グレンに詰め寄り、叱咤するランスロット。グレンはハッとしたような顔をし、謝罪する。

 

「すまない……少し心労が溜まっていてな。一時の気の迷いだ。忘れてくれ」

 

「しかし、だとすればこの状況、どう打破する?敵軍は以前より多い100万だとマーリン殿から聞いた。加えて、今は夕方。我がガラティーンにも時間制限がある」

 

「殲滅力であればトリスタン卿だが…今はいない。ここは犠牲を覚悟で我ら騎士全員の力を結集する他あるまいよ」

 

「…………一つ、案がある」

 

そんな中グレンが呟いた。

 

「その、案とは?」

 

「俺は"炎の剣"と"血の剣"を持っている。その内の"炎の剣"は広範囲殲滅が可能だ。加えて、俺の魔力はヴィヴィアンと同化している故無限に近い。ここは俺とガウェイン卿で上空から爆撃するのはどうだろうか?」

 

 

 

そしてその作戦は受理され、戦闘が始まる。

騎士達が前線を維持し、その隙に敵後方に向かって爆撃。結果は、大成功。

 

あまりにも呆気なく戦争は終わった。痺れを切らし前線に突っ込んだランスロットが敵将を討ち取り、指揮系統を失いバラバラになった敵軍を焼き払う劫火。これで負けろと言う方が難しかった。

 

 

 

○○○○○○

 

 

「……………はぁ、辛い…」

 

『大丈夫?』

 

俺がボヤいていると、ヴィヴィアンが心配そうに声をかけてくれる。今、俺の精神は擦り切れる直前と言ってもいい程摩耗していた。

 

虐殺の光景が目から離れないのだ。

 

「洗っても洗っても落ちないんだよ。血の汚れがな」

 

『グレン………』

 

「ははっ、俺らしくないな。こんな風にセンチになるなんてさ。俺は、ローゼス帝国第三皇子、"漆黒"のグレン様だぞ…」

 

俺が考えた闇の預言書。俺の原点。ローゼス帝国第三皇子はどう言う人物だった?傲岸不遜で、強くて、圧倒的なカリスマを持つ天才皇子。それと比べて今の俺は?人を殺して、その事に凹んで、自室で項垂れている。

 

そんな男がインフェルノの名を名乗ってはいけない。だから俺が変わらなきゃだめだ。佐藤紅蓮としての俺は、既に擦り切れた。ならば。

 

『グレン、貴方は…何者?』

 

「クク……フハ、フハハハハハハハ!!!!俺の名はグレン!グレン・ヴァン・インフェルノ様であるぞ!クハハハハハハ!!!!闇を支配し、炎によって愚民どもに導きを与える存在だ!」

 

これからは、佐藤紅蓮ではない。

この俺、グレン・ヴァン・インフェルノとしての俺の人生を全うしてみせる。未来で世界が滅ぶと言うのなら、俺が救おう。聖杯がなければブリテンが滅ぶと言うのなら、俺が聖杯を齎そう。

 

何故ならば俺は、ローゼス帝国の希望の象徴。グレン・ヴァン・インフェルノだからだ!

 

『グレン……大丈夫?おっぱい揉む?』

 

的外れな事を言ってきたヴィヴィアンの唇を奪い、俺は高らかに宣言する。

 

「フッ、見てろよ世界!俺の生き様を!」

 

『!?!?!?!?!?!?!?』

 

ヴィヴィアンを横抱きにし、俺は自室から出る。

何やら腕の中で細やかな抵抗があったが、今の俺には気にも留めない事だった。




俺☆覚醒!フハハ、俺だ!グレンだ!!
やっと俺に追いついたな、過去の俺よ。
あぁ、俺ならやれるさ。何故なら、俺は俺だからな!

さぁ!希望の次回予告だ!
遂に始まる聖杯探索。頼もしい仲間と、頼もしい自分さえいれば、どんな困難だって少年は乗り越えられるだろう。
「目指せグレン!希望の明日へLet's Go!」

グレンの初登場時の特異点/異聞帯

  • 特異点F(冬木)
  • 特異点4(ロンドン)
  • 特異点5(ケルトアメリカ)
  • 特異点6(キャメロット)
  • イベント特異点(影の国)
  • 第六異聞帯(妖精國ブリテン)
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