OKムーンセル! 聖杯大戦に勝てるサーヴァントを教えて! 作:ムーンセルくんは最強なんだ!
その日の緊張は、一度目の生と合わせてなお、経験したことがないと言い切れるほどのものだった。
その一族の一番の特徴はといえば、魔術師の通常である門閥社会から弾かれてしまった、魔術師社会の中心から弾き出されようとなお魔術師の悲願を諦めきれない、『代を重ねるごとに優秀になる』という魔術師の常識からすれば『これ以上先はない』と判断されたと言ってもいい有象無象の、血の繋がりによらない共同体という点。
かつては「ユグドミレニア」という一つの
当然、魔術師社会の中心から外されてしまった面々の集合体である以上、魔術師の総本山である時計塔の面々と比較すれば平均して二流の魔術師ばかり。
異常な増殖速度を持ちながら力はなく、さらには何があろうと「ユグドミレニア」という家門への賞賛には決して繋がらない、そんな集団。
要するに、純粋な実力では取るに足らない雑魚の集合体。俺が二度目の生を受けたのは、そんな一族の末席だった。
だから当然、俺自身の魔術師としての実力も大したことはない。ユグドミレニアの中では平均的な魔術師だが、それはつまり外では二流の誹りを免れない程度、ということだ。
「あー、死にたくねえなぁ……」
豪奢な廊下を歩きながら掲げる右手には、胎動する巨大な魔力の塊が三つ。
見ようによっては刺青にも見える赤い三画の紋様こそは、今の俺の緊張の源泉だった。
先ほど述べたユグドミレニアの特徴。それは、この世界の人間では知ることができる者は限られるがもう一つある。
──大聖杯を確保した世界でしかユグドミレニアという
大聖杯。運命の名を冠する物語において、常に中心にあると言ってもいい”聖杯戦争”と言われる魔術儀式を起こす超大規模魔術礼装。
それを確保しなければユグドミレニアの目標、
この辺りたいていの世界では生まれることになる、俺が時計塔時代に何度か授業を受けたことのあるロード・エルメロイⅡ世とは全くの逆になるわけだが、今はそれはいい。
「ったく、聖杯もどうして俺のことを選んだのやら……」
ぽつ、と漏れたのは心の底からの疑問だった。
魔術回路の量は、生まれたばかりに計測した時に両親がこの先数代は見込めまいと喜ぶ程度にはあったらしい。
魔術回路の属性も、我が家の魔術を受け継ぐに足る属性だったらしい。
魔術回路の質に至っては、外でも一流と賞賛される程だったのだという。
だけど、生成される魔力量は魔術回路の状態と比較すれば異常なほどに少なかった。
両親も、ユグドミレニアの誰にも理由はわからず、ただただ惜しまれるばかりの毎日。根本的な原因は解除できないまま、ロード・エルメロイⅡ世の教育によってようやく多少の魔術が使えるようになった程度の人間では、聖杯に選ばれるには相応しくないだろう。
特に、聖杯戦争に関しては強い願いを持つ者が選ばれやすいというのであれば、俺以上に相応しい人間はきっといたはずだ。それこそ、原作と言われる物語には出なかったであろうユグドミレニアにも。
なのに実際は右手の紋様、令呪という名の聖杯戦争への参加権は俺の手の中にあり。現ユグドミレニア当主、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアによって呼び出されたユグドミレニアの本拠地、ミレニア城塞の中に俺はいる。
「ようやく来たか」
召喚の儀式場、王の間と言われる場所へとたどり着くと、そこにいたのは他のユグドミレニアの、マスターに選ばれた者たち。
普通の聖杯戦争では敵対するしかない他のマスターだが、此度の聖杯戦争では話は別。”聖杯大戦”と特別に名前を与えられているこの聖杯戦争は、七騎によるバトルロワイヤルではなく七騎と七騎の陣営によるぶつかり合い。
つまり、彼らこそは仲間になる人物なわけだが、憐憫と嘲りに満ちた視線の数々はどうあがいても対等のマスターに向けるものではない。
魔術師然とした人間であればまともに魔術を扱えない者への嘲笑、良識が表に滲み出ているような人間であれば魔術を扱えないことへの憐憫。
俺のユグドミレニアでの立場をはっきりと示すような視線は、前者は代表的な者がダーニック、後者はフォルヴェッジ姉弟であり、王の間に入ると同時ダーニックにかけられた声は、無機質な冷たいものだった。
「すまないダーニック。今日届く予定だったラーマの触媒が移送途中に破壊されてしまったらしくてね。恐らくは時計塔だろう。さすがにそのレベルの英霊の触媒となると早々変わりはなくて、少々途方に暮れてしまったのさ」
「ラーマの触媒を、か。さすがにそれは痛手だな」
目を見開き、ほんのわずかに険が取れるダーニックの言葉。インドの大英雄の一騎と言ってもいいラーマの触媒の喪失ともなれば、動揺によって多少は空気が緩む。
普通であれば運用も難しいであろう大英雄も、ユグドミレニアの用意があれば運用は不可能ではない。無論、本人の意思はわからないが。
切り札になり得るレベルの大英雄の召喚が不可能になったという事実。それは、多少の遅参も仕方がないという雰囲気がわずかに出来上がった。
「では、お前の召喚は次の機会に?」
「いいや。魔術協会の対応を考えれば、もう直にサーヴァントが攻め込んでくる可能性も捨てきれない。どうしても資金力などでこちらが劣る以上、触媒の質は
「大英雄七騎で襲われれば、我らマスターが先に殺される可能性も十分あり得る、か。仕方あるまい」
──それでは、各自が集めた触媒を祭壇に配置せよ。
儀式場にあるのは、金と銀によって描かれた複雑精緻に描かれた緻密な魔法陣。
亜種聖杯と言われる劣化聖杯の蔓延る世界だからこその、英霊召喚という術式を実行することへの敷居が下がったことによる、一つの魔法陣による同時召喚を成功させる代物だった。
別の世界では英霊召喚術式の根幹に携わる大元であったり、あるいは二十代という若さでありながら時計塔において
(魔術回路がまともなら、俺も魔法陣の改造とかできたのかね)
他の面々が触媒を配置する中、ぼんやりとそんなことを思う。
英霊召喚の術式が起動すればそんなことを思う暇はなくなり、終結すれば所詮は液体でしかない魔法陣は千々となって消え去るだろう。
今しか見ることのできないであろう魔法陣をしかと目に焼き付け、ダーニックの演説を聞き流し、ただ魔術を紡ぐ時を待つ。
「──告げる」
そうして、その始まりの
”死にたくねえなぁ”
それは、ただの独り言だった。
聞き届ける者なんて誰もいないはずの、ただの諦観。
けれど同時に、どうしようもなく願いだった。
『所有権保持者の願いを受諾』
だから彼と繋がった、本来ならばこの世界にはないはずの”それ”は魔術回路と連動するように稼働する。
『聖杯大戦を
それは、別の世界ではムーンセルと言われるものだった。
『死なない、を達成するための条件を選定。必要条件は三つ』
未来においてすら解析が不可能とされるそれは、現代の言葉で言えばスーパーコンピュータ。
ありとあらゆる未来の可能性を内包する、神の頭脳、あるいは神のキャンパスとも言われる人類のデータベース。
別の世界において”聖杯”と称される物質。
それが、自らを所持する人間の願いを叶えるために全能力を用いて算出する。
『一つ、契約サーヴァントに殺されない。
二つ、聖杯大戦における”黒”の陣営の勝利、あるいは”赤”の陣営の敗北。
三つ、”黒”における有用性を示すこと』
一つ目は、死なないという願いにおいては当然のことだった。
二つ目は、同じようで全く違う。最善は”黒”の勝利だが、”黒”がサーヴァントを失おうとも”赤”が何某かの要因で瓦解すればユグドミレニアには手を出せなくなるだろう。
三つ目は、マスターの座をすげ替えるために殺される、なんて未来もあったから。彼自身の有用性がなければならない。
『それらを満たすことが可能なサーヴァントを検索……検索完了、件数0件』
よって、必要なサーヴァントはある程度条件が形になってくる。
現在の、魔術師としての貧弱さを打破することができる、魔術への造詣深い、キャスターの枠を与えられるような英霊であり。
二騎の大英雄を含めた”赤”の陣営のサーヴァントの誰からでも、マスターとなる少年を守り抜くことができる実力がある英霊であり。
少年の願いに同調することが可能で、かつ少年を死なせないために動いてくれる英霊。
そんな都合のいい存在。当然いるわけがない。
『並行世界観測により
ならば、作るしかない。ムーンセルは、そうした可能性があることを知った。
『勝利に繋がる要素を持つ三柱の神性を用いた、ハイ・サーヴァントの製造に入ります』
ラーマの触媒を失った少年が、英霊召喚の呪文を唱える寸前のことである。
Q.つまりどういう話?
A.我らがすなるオリ鯖作りなるもの、忠犬ムーンセルもしてみむとするなり
(訳:俺たちがよく作るようなオリ鯖を、忠犬ムーンセルくんが作って投入した話)
オリジナルのアルターエゴを作ろうと思うとムーンセルくんの力を借りるしかなかったんや……