私の名前はエスラ。母親がハンター、父親がそのオトモアイルーと、混血種して生まれた転生者だ。いやまあ、最初は軽蔑したよね。そういう愛の形もあるって今は納得してるけどにゃ。「特別な才能」の特典をもらったがこんな形になるとは聞いてないんだけどにゃあ。いやまあ確かにアイルーの等身大みたいな身体能力はあるけど耳とか尻尾とか語尾とかが邪魔過ぎるにゃ。
「にゃあ、ここですにゃ」
「…初めてきたな、共同墓地」
オトモアイルーのナガグツに案内されてやってきたのは、巨大な石の前。憎み血塗られしマガイマガド改め禍依之淵源、淵虎竜マガイマガドを皆と協力し討伐して数日。私はギルド本部の共同墓地に訪れていた。死体も残っていないことが当たり前なハンターたちの共同墓地だ。その墓碑に一番新しく刻まれているキョウジ、ケイマ、レエムの名前。淵虎竜の犠牲者である私達の仲間。これ以上犠牲者が出なかったのが奇跡と言っていい強大なモンスターだった。特にケイマは本当のお爺ちゃんみたいな、レエムはお姉ちゃんみたいな存在だった。悔しさに拳を握り、歯ぎしりする。油断はにゃかった、それは確かだ。だけど私達転生者が生み出した怪物は予想の上を行った。
「大丈夫ですにゃ、ご主人…?」
「うん、大丈夫…大丈夫にゃから」
心配の声をかけてくるナガグツに応えながら考える。なにが特別な才能だ。家族にも等しい人たちを救えなかったじゃにゃいか。結局G級でもなんでもにゃいバレットとヒビキ、そして外天種の加勢のおかげで勝てたようなものだ。私は、なにかできただろうか。
「…勝てたよ、爺ちゃん。レエム姐さん。キョウジくん。…私は何もできにゃかった」
「そんなことはないだろう」
聞きなれた声に顔を上げると、そこにはスキンヘッドでサングラスをかけた色黒の男性がいた。元チーム「バトルクライ」のリーダーにして新生チーム「ラストホープ」リーダーでもあるアンテムだった。側にはオトモアイルーの「タンサン」が控えている。
「リーダー、にゃんでここに?」
「おいおい。ケイマとレエムは俺のチームメイトでもあるんだぞ?墓参りに来るのがおかしいことか?」
「おかしくはないけどにゃ…」
「お前はよくやったよ。外天種のモンスターたちと意思疎通していたんだろ?」
「あれは…私の力じゃないにゃ…」
掲示板のことは言えないので押し黙る。いくらリーダーでも私が転生者で、あのマガイマガドもその転生者の愚行のせいで生まれたことは言えない。後ろめたさから下を向いていると、頭をポンポンと撫でられた。
「マガイマガドに関してはお前は力不足でもなんでもない。立派に戦い、カムラの里をヌシモンスターの群れから守り抜いた。誇るべきことだ」
「でも…!」
「奴との戦いは終わったんだ。今は泣け。ケイマもレエムもそんな顔は見たくないだろうが…今は特別だ」
言われて気付く。いつの間にか泣いていたらしい。いくら切っても鋭い爪が目立つ指で涙をぬぐうと、リーダーがまたポンポンと頭を撫でてきたので毛恥ずかしくなって振り払う。
「もういいにゃ!親ですかにゃリーダーは!」
「…お前は、ケイマやレエム…俺達にとって大事な娘っ子だよ」
「っ…」
駄目だった。涙腺が決壊して、リーダーの胸にすがりついてわんわんと泣いた。文句も言わずに泣き終るのを待ってくれたリーダーの胸板はなんだか心地よかった。
エスラが泣き終わるのを待って、ひたすら撫でてやっていると、我に返ったエスラにフシャーッと威嚇される。ようやくいつものお前に戻ったな。生暖かい目で見守っているオトモアイルー二匹の視線もこそばゆいのだろうか。
「い、今のは忘れるにゃ!」
「忘れられたらな」
「忘れる気がないにゃ!?」
「あっはっは」
ポコポコと背中を殴られながらギルド本部の集会所への道を進む。新たにエスラ命名「ラストホープ」を組んだ俺達だったが、エルヴァスとマキアナはミクマリの療養を待つことにしたらしく、俺達は憎み血塗られしマガイマガド改め禍依之淵源、淵虎竜マガイマガドを討伐したことで、二人でギルド本部に戻って来ていた。バレットも誘ったがあいつはカムラの里に残ることにしたらしい。その気持ちもわかるいい里だった。
「気晴らしになにかクエストやるか?」
「そうするにゃ…」
G級推奨のクエストが貼られた壁を眺める。特殊個体が多いな。外天種の生態観察…これとかよさそうだな、と手に取りエスラに見せようとすると。
「にゃー……」
エスラがジーッと一つのクエストの書かれた張り紙を見て唸ってる。何事かとその視線の先を見てみれば、「
「なになに…山間村一帯を猛毒の蝋で飲み込み全滅させ我がもの顔で支配しているオロミドロを討伐してほしい…?なお泥ではなく蝋を操る特殊個体なためG級推奨……俺達がカムラの里に行っている間にこんなモンスターが現れていたのか。これがどうかしたか?」
「…山間村一帯を全滅させたって、淵虎竜には負けるけど凶悪だと思ってにゃ…レエム姐さんなら見過ごせないだろうなって」
「ああ…なるほどな」
レエムは元は船乗りで仲間をモンスターに殺されてハンターになった経歴の持ち主だった。そのため人を襲うモンスターを積極的に討伐し、俺達もそれに付き合った。あいつなら即決で選ぶだろうな。
「じゃあこれをやるか」
「にゃ!?で、でも特殊個体にゃよ…?」
「どうした?受けたかったんだろう?それとも俺が死ぬとでも?」
「うぐっ…」
図星か。尻尾と耳の反応で分かりやすい。ケイマやレエムと同じように俺が死ぬかも、と思ったから受けるかどうか迷っていたのか。
「いいかエスラ。俺は死なない。約束する、お前の前からも居なくならない」
「本当かにゃ…?」
「本当だ。お前を置いて死んでも死にきれないからな」
「…うん、リーダーは死んでも生き返りそうにゃ」
「それ人間か?」
そう笑い合いながら俺たちは張り紙を剥ぎ取り、受付嬢に受注に向かい、ネコタクに乗って件の山間村があったエリアに向かうのだった。
「へー、お客さんもアイルーの血を引いてるのかにゃー」
「そうなんにゃよ。珍しいよね」
「気にすることはないと思うがな」
「そうにゃそうにゃ、ご主人は凄いハンターにゃ!」
「…そうにゃ。身のこなしはうちのご主人より上にゃ」
「タンサン、言っていいことと悪いことがあるぞ」
ネコタクを運転しているアイルーと会話を楽しみながらネコタクで揺られること二時間。山道を乗り越えて、私達は山間村があったらしい場所までやってきた。ハンター二人とオトモアイルー二匹で警戒しながら白い大地を歩いて探索する。アイルーの血筋由来の鼻が独特な臭いを感じて鼻を押さえた。
「なんだろう、嫌な臭いがする」
「たしかに、独特な臭いにゃ…でもどこかで嗅いだことあるようにゃ?」
「しかし白い大地だな。村があったとは思えん。ここはカルデラってわけでもないよな?」
「…ご主人。エスラ殿、あれを見るにゃ」
タンサンが何かを見つけたようで指を差した方向には、地面から突き出た三角形の何かがあった。瓦が付いていて、窓の様な物が見えるような…?
「これってまさか、家屋にゃ!?」
「ってことはこの白い地面の下に村ひとつ埋まってるってことかにゃ!?」
「…毒蝋ってこういうことか。タンサン!」
「承知。来るにゃ…!」
べリオ装備を身に着けたナガグツと、ナルガ装備を身に着けたタンサンと共に私はレイジネイルーを、リーダーは……えっと、とらまる?とかいうハンマーを手にして構えると、白い地面が波打ってそれは現れた。
「グリュアァアアアアッ!」
「オロミドロ…でも、なんか青い…!?」
現れたのは全身が青く変色したオロミドロ。全身から滴り落ちる白い液体が地面に落ちて固まって行く。これは蝋…!
「酸の代わりに自分の体から流れる体液と地面を混ぜた蝋を泥の代わりに操るらしい、気を付けろ!」
「先手必勝にゃ!」
「にゃにゃにゃっ!」
オトモアイルー二体が駆け出してその立派な髭目掛けて斬りかかる。しかしオロミドロはその場でとぐろを巻いて高速回転して蝋の渦を形成。渦はオトモアイルーたちを飲み込むと渦のまま固まって拘束してしまう。
「う、動けにゃい…」
「不覚にゃ…」
「ナガグツ!」
「タンサン…くっ、ハンマーでも壊せん…!」
「グリュアァアアッ!」
今度は尻尾を筆の様に使って白い地面をかき混ぜると巨大な蝋の塊を尻尾にくっ付けて振り下ろしてきて、咄嗟に後退してその蝋塊にレイジネイル―を突き刺しくっついた。
「うにゃああああああ!?」
「エスラ!」
ぐるんぐるんと尻尾ごと振り回される。すると視界の端でハンマーを手にしたリーダーが突貫、顎目掛けてアッパーを叩き込んで殴り飛ばし、蝋塊は地面に叩きつけられて砕け散り私も地面に転がる。
「助かったにゃ、リーダー」
「気を抜くな、次が来るぞ」
するとオロミドロは私達の周りの白い大地を溶かしながら蝋の海を泳いで取り囲み、蝋の波が四肢にまとわりついて固まって行く。これじゃ私の機動力でも抜け出せない…どうしよう、と思っていたら。
「恨むなよエスラ!うおらぁああああっ!」
「にゃあぁあああああっ!?」
すると同じく蝋の波に拘束されていたリーダーが叫ぶと私のお尻をハンマーで殴り飛ばして蝋の波を突破させて外に脱出させた。白い地面を転がり、「ぎにゃっ」と短い悲鳴を上げて激痛の走るお尻を突き上げて顔から地面に叩きつけられる。
「なにするにゃ!リー…ダー…?」
文句を言いながら振り向くと見えたのは、巨大な蝋の塔が聳え立ちそれに巻き付いて私を見下ろすオロミドロの光景で。……リーダーの姿は、どこにもなかった。オロミドロが勝ち誇った咆哮を上げて塔の周りを回転し、私の目の前に落ちてきて蝋の飛沫を上げて小さな私を見下ろす。その背後で聳え立つ蝋の塔を見て、私の何かが切れた。
「…鬼猫化【獣】」
…私の全身は蝋でべたべたで固まってしまっているが、関係ない。全身の筋力を増強させ、蝋の拘束を崩壊させて突進する。私の耳と尻尾の毛が炎の様に逆立ち、目がネコの様に瞳孔が細くなり「シャー」と小さな鳴き声を絞り出す。私専用の鬼人化。ただでさえスペックが等身大のアイルーな私のスペックは飛躍的に跳ね上がる。
「グリュアァアアアアッ!」
「鬼猫乱舞【豹】」
私の履いているブーツから鋭い爪が飛び出し、私はオロミドロの顔にしがみ付き、四足歩行でその長い体を駆け巡り斬撃を浴びせて切り刻んでいく。全身から蝋を噴き出し私を吹き飛ばそうとするが、そのたびに蝋の波を引っ掻いて必死になって戻り、尻尾には重点的に斬撃を浴びせて破壊する。
「逝ねにゃあぁああああっ!!」
私の身体への忌避感からなのか、ブチギレないと本気を出せないのが私の欠点だった。やっぱり私が悪いにゃ。何時も手遅れで大事な物を取りこぼす。そんな私への怒りも込めて、下から蝋の塊で打ち上げられたのを利用して、奴の脳天にレイジネイルーを二つとも叩き込んだ。
「グリュアアアアアアッ……」
「フーッ、フーッ…!」
四つん這いで地面に着地すると、全身から蝋の様な液体を垂れ流して崩れ落ちるオロミドロ。なんとか落ち着かせて爪も逆立った毛も引っ込め二本足で立ち上がる。倒しても達成感などなかった。
「…うあっ、あああああっ!」
膝から崩れ落ち、恥も外聞もなく泣き喚く。また、私のせいで仲間が死んだ。死なないって約束したじゃにゃいか。嘘つき!ウソつきにゃ!
「リーダーの嘘つきィ!」
「…誰が嘘つきだって?」
そんな声が聞こえてきたのと同時に、何かを叩くような音が聞こえる。振り返ると、何かを叩くような音が連続して響くと共に蝋の塔が罅割れて崩れ落ちて行く。そして。
「どっせい!」
蝋の塔の壁がぶち抜かれて、ハンマーを手にした蝋まみれのリーダーが顔を出して。漢方薬を口に含むリーダーのお腹に私は飛び付いていた。
「リーダー!?死んだんじゃ…」
「いや確かに全身拘束されたがな?硝酸剤で柔らかくなったんだ。あとはハンマーで脱出よ」
そう言って取り出した硝酸剤をオトモアイルーたちが拘束されている蝋にも振りかけてハンマーの一撃で粉砕するリーダーに、涙が出てくる。
「よかったにゃあ、よかったにゃああああ!」
「言っただろ。俺は死なないって。…いやまあさっきのは本当に死ぬかもしれなかったが」
「もう二度とやるなにゃ!お尻もすごく痛かったにゃ!」
「わかったわかった、もうやらない」
リーダーと一緒なら私はどこまでもやれる、心底そう思った。
実はチート級だったエスラさん。アンテムも馬鹿力がヒビキに匹敵します。
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全身から地面と混ぜて蝋にする液体を垂れ流した青い体色の特殊個体。蝋をかき混ぜて好きな形で固めることで拘束したり武装したりすることが得意技。固まった蝋の硬度は鉄と同じであり、そう簡単には壊せない。山間村を襲い、まるまる蝋で飲み込んで自分のテリトリーにしてしまったが人間への悪意はない。また、蝋は毒性であり飲み込まれたら毒に蝕まれることになる。その致死性は「
次回はエルヴァスとマキアナを纏めることになるかも?
次回も楽しみにしていただければ幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。ここすき機能などで気に入った部分を教えていただけたら参考にします。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
G級生き残り組の話いる?
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ミクマリ回が見たい
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エスラ回が見たい
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エルヴァス回が見たい
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マキアナ回が見たい
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アンテム回が見たい
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全部見たい
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いらないからサンブレイク編はよ