今回はバハリの大地母蜘蛛考察。そして新たな脅威。
「よーっす、フィオレーネ。提督。喜んでくれ、成果があったぜ」
護衛しながら連れ帰ったバハリはエルガドに到着するなりそう笑顔で手を振った。すると提督とフィオレーネは溜め息を吐く。
「…バハリ。てっきり猛き炎の皆を無視して研究を続行すると思っていたのだが、珍しいな」
「あ、フィオレーネさん。この人アンジャナフと私達が戦ってる横で研究続行してました」
「おいおいマシロちゃん?そいつは黙っていてくれてもよかったんだぜ?」
「散々無視した仕返しです」
頬を膨らませてちくったマシロの言い分にうんうんと頷く俺達。焦るバハリ。こめかみをピクピクさせるフィオレーネ。溜め息を吐く提督。
「…無謀だな、バハリ。それで、成果とは?お前が帰ってくるということは相当なものを見つけたのだろう?」
「ああ、成果は上々だ。恐らく王域三公の凶暴化には大地母蜘蛛が一枚噛んでいる。なにせガランゴルムに直接なにかしていたのを見たからな」
「なんと、ガランゴルムが水没林に…!?」
「俺達も確認しました。恐らく大地母蜘蛛に縄張りを荒されてそれに怒り追いかけて来たんだと思います」
あの様子から推察できることを言ってみるとバハリが大きく頷いた。
「大地母蜘蛛の生態は見ていた限り大きく分けて二種類ある。直接出向いて殺したモンスターを捕縛する「餌集め」と、ガランゴルムに対して行った「モンスターの凶暴化」だ」
「凶暴化、だと…?」
あの謎の行動か。何かを流し込まれてから凶暴化し、それまで拘束されていた糸を引きちぎるぐらいにパワーアップしていたな。
「悶え苦しんでいたことから恐らく強力な猛毒…神経毒の類だと推察できる。王域三公が獰猛になっていた原因は恐らくこの毒だ」
「大地母蜘蛛はなんのためにそんなことを?」
「これは推察だが……大地母蜘蛛の第一の生態「餌集め」これはモンスターの死骸もしくは弱っている必要がある。理由は多分、自分に巣食っている配下のヤツカダキ達が簡単に餌を摂取できるようにだろう。恐らく本質はハンターに近い。多数でモンスターを追いたてて弱らせ、仕留める。だがそのためにはモンスターを弱らせる必要がある…そのために使っているのがあの「モンスターの凶暴化」だ」
「他のモンスターを凶暴化させて暴れさせ、疲弊したところを襲う。そういうことか?」
フィオレーネの問いかけに頷いたバハリは掌を広げて握り込む動作をした。
「まるで蜘蛛の巣の上に絡め取られたモンスターたちを掌の上で操り、己の網に引っ掻けて確実に貶める。姿を消せることといい、中々に悪辣な性格をしているな。人間並みの知能があると見ていい。戦い方もかなり理性的だった。間近で観察して気付けたことだ、これだからフィールドワークはやめられないねえ!」
そう聞いて思い出したのはこの世界にはない彼の有名な推理小説に出てくる悪の権化である教授だ。脳裏に浮かんだのはFGOのアラフィフだが、確かにイメージは近い。ヤツカダキ達にガランゴルムを追い詰めさせてそれを後方で見てたのはまさにそうだ。
「それとこいつ。思わぬ収穫だ」
「それは?」
「大地母蜘蛛の糸?」
大地母蜘蛛の糸の欠片が入ったケースを取り出したバハリは得意げに見せつけ叩くとコンコンと鉄を叩いたような音が鳴った。
「そう、大地母蜘蛛の吐き出した糸さ。ガランゴルムが凶暴化して拘束を引きちぎった時に運よく残ってくれた。で、帰還する時に軽く調べたんだけどこいつはやばい。今の音から想像つくと思うけど、下手な鋼鉄より硬い。マカライト鉱石を始めとした鉱石類の欠片が繊維として編み込まれて、心眼でも斬るのは難しい。糸を通して胴体に蓄えていた毒を流すこともできる繊細な造りになっている。これに捕まったらハンターじゃ逃げることは不可能だろうな。ガランゴルムは破ることで脱出したため、恐らく引っ張られる力には弱いと考えられる」
「うわっ」
この世界に置けるダイヤモンドであるマカライト鉱石より硬いは洒落にならん。それを引きちぎったガランゴルムもやばいが。
「で、だ。ガランゴルムみたいな例は恐らく今回だけじゃない筈だ。提督、フィオレーネ。猛き炎の彼等を使わせてくれ」
「…お前の護衛にか?」
「バハリ、彼らはあくまで協力してくれているだけであってお前のわがままには…」
「いや、協力させてくれ」
反論しようとするフィオレーネを手で制す。提督とフィオレーネとバハリを一瞥し、俺はチームメイトに確認すると頷いてきたので続けた。
「奴を倒す足がかりになるなら俺達はなんでもするさ。雑用でもな」
「そいつは助かる。そう、雑用なんだ。俺は今からこの糸の分析に取り掛かる。水没林と砂原の奴がいた痕跡は調査済みなんだが、大量に餌を集めている関係上、大地母蜘蛛は他の狩場にも赴いているはずだ。大社跡、寒冷群島、溶岩洞、密林。その四つの狩場で奴の痕跡…糸とか足跡、焦げ跡とかを探してほしい、というわけさ。それで活動域をある程度把握してどこを起点としているのかわかるかもしれない」
なるほど、納得だ。奴の生息地域を知ることができたらある程度こちらも活動しやすくなるしな。
「…四つか。調査だけなら一人ずつでも何とかなるな」
「急ぎの様だし分かれるか。…大人びているナギはともかくマシロ、大丈夫か?」
「失礼な!一人前だって認めてくれたじゃん!」
「マシロを一人にするのは心配だよね…」
四人で顔を見合わせ、頷くとフィオレーネが提督と何やら話しあってこの場を離れて行く。
「わかった。チッチェ姫にクエストとして手配してもらう」
「頼んだ」
「引き受けてくれるか!さすがは猛き炎だ!頼れるねえ!」
バンバンと背中を叩いてくるバハリ。ちょっとうざい。
「普通のマガイマガドがいるかもしれないから大社跡は俺が行く」
「俺は密林だ」
「私は寒冷群島!」
「溶岩洞は私が行くね!」
話し合い、それぞれが行くべき地域を決める。ヒビキが大社跡、俺が密林、ナギが寒冷群島、マシロが溶岩洞だ。密林は念のために地理に明るい(ゲーム画面でだけど)俺が行くことにした。何かやばいのがいてもすぐ逃げられるはずだ。決めるなり準備を整えてから出発する。ただの採取クエストだと安心しきっていた。この時はまさかあんなことになるとは思わなかったのだ。
数時間後。翔蟲を駆使して密林を駆け回っていると気になるものを見つけた。
「にゃー、ご主人様こっちにゃ!」
「…これは…?」
オトモガルクのダンガンに乗ったオトモアイルーのタマの呼びかけでやってきた密林の結構な高さの高台。そこに奴の足跡を見つけた。すぐ傍の押された様に曲がっている木から見てもここを歩いたのだろう。ここにも来るのか。反対側の高台にも移動するとそこにも足跡が。高台を経由しているな。高台の上から見下ろしてモンスターを攫っていたってことなのだろうか。
「足跡の深さから見てここで踏ん張ったらしいな」
となると…この崖の下辺りに痕跡がありそうだ、と躊躇なく飛び降りて受け身を取る。あの高さから落下してもビクともしない我が体にもさすがに慣れた。と、飛竜の巣か?端に銀の糸がこびりついているな…ここで眠っていた飛竜も捕縛された、ということだろうか。
「引っかかってちぎれてるのを見るにバハリの考察は正しいみたいだな。引っ張る力には弱い」
ナイフを手に取り、カリカリカリと時間をかけて削り取って行く。地図で大型モンスターがどこにいるか把握できる俺だからできる悠長な作業。だがなるべく丁寧に綺麗に削り、剥がしていく。これはいくつもの土地を巡って様々なクエストを行ってきたからわかるが、研究者にとって正確なサンプルと言うのはとにかく価値があるのだ。できるだけ綺麗に持ち帰ってバハリに恩を売ろうという魂胆である。
「ふふふっ…恩を売って専用の装備を作ってもらうんだ…」
「ご主人、みみっちいにゃあ」
「ワオン」
うるさいぞそこ。
「マシロ!マシロ!しっかりして!」
完璧なサンプルを手にエルガドに帰還するとなにやら慌ただしい。ナギの声?マシロがどうしたって?なんだなんだと人ごみをかき分けて声の下に来ると、担架に乗せられたマシロがナギに付き添われて運ばれているところだった。マシロは全身が切り傷だらけで血塗れで、頭から血を流し胸元に巻かれた包帯が紅く染まり荒い息を吐いている。
「マシロ!?どうしたんだ!?」
「バレット!私も、私もわからなくて…帰ってきたらちょうど運ばれてきたところでなにがなんだかわからなくて…」
混乱している様子のナギが縋りついてきたので落ち着かせるために頭を撫でる。するとやってきたのは血塗れ…恐らくマシロの返り血…ながらも元は真っ白だったと分かるアイルーだった。
「バレット様、ナギ様、申し訳ありませんにゃ…」
「お前は確かマシロのアイルーの…」
「ユキと申しますにゃ。マシロ様を護れなかったどころか守られて…一生の不覚。なんとか応急処置してここまで帰ってくることしかできず…」
「いや、よくやった。おかげでマシロは今も生きている。…一体何があった?」
「…見た目を報告したら提督からは特定の住処を持たない外天種、
ユキによれば、通常より数倍大きい体格で触れる者すべてを斬り裂きそうなほど鋭角的な甲殻で背中に鉱石を大量に積み上げた甲羅を背負った、逆刃の太刀の様な鎌を持つショウグンギザミがマシロをあんな風にしたのだと言う。外天種、まだいたというのか。あの五体と淵虎竜以外にもいたとは…油断していた、ちゃんとギルドで調べておくべきだった。
「
採取クエスト中にボス級に出くわした様な物である。マシロの戦いは次回にて。
・
この小説作成に協力してくれている人考案の外天種。鉱石を食べて独自の甲羅を形成しているやべーやつ。マシロに遭遇して瀕死にした。詳しくは次回以降。
大地母蜘蛛についてバハリがかなり考察しました。大きく分けて二つの生態を持ち、ガランゴルムに流し込んでいたのは毒。その効果から正体もわかるかと。糸もかなり硬いという厄介揃い。
次回も楽しみにしていただければ幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。ここすき機能などで気に入った部分を教えていただけたら参考にします。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。