今回は深淵の悪魔の事情。楽しんでいただければ幸いです。
エルガドに戻った俺達。提督、バハリ、フィオレーネ、猛き炎の四人に加えてG級組も揃っている。
「…6人とも、無事で何よりだ。特にバレット、ヒビキ。よくやった」
「提督、あの船が王都で建造してたという決戦型狩猟船なのか?もう少しかかるはずだったんじゃ」
「…うむ、カムラの里の方々が協力してくれたおかげでどうにかあの場に間に合った。どうしても使う気がしたのだが……まさか本当に出るとはな」
そうか、カムラの里のみんなが……そりゃあんなすごい撃龍槍を作れるわけだ。兵器制作は専売特許だからな。
「お力添え感謝します。しかしわからないことだらけです。大地母蜘蛛を捕食し、メル・ゼクスからキュリアや力を奪い取ったあの巨大モンスター……いったい、どういう……」
「あれが『深淵の悪魔』さ。バレット辺りは気付いていたかな?」
「ああ。前に話していた奴だな、王国のおとぎ話に登場する、地中から現れて国を喰らうバケモノ。それがアレなんだろ」
「おとぎ話では…なかったのか?」
「……実は実在している可能性は前々から示唆されていた。「地中から唸り声が聞こえる」大昔、王国でそういう現象が相次ぎ、それを元にできたのが件のおとぎ話さ」
「そういうことか……」
おとぎ話は実話をもとにするのは珍しいことじゃない。すぐに納得もいった。
「提督は幼い頃、今は城塞高地と呼ばれている旧城塞都市という故郷で、メル・ゼナの襲撃を受けた。実は地中の唸り声はその時も確認されている。…そうですよね、提督?」
「…うむ。そして、唸り声が響いている間、メル・ゼナは空中で「何か」を待っている様に見えた。十中八九奴だろう。結局その関係は証明されなかったが私が深淵の悪魔は実在する、という事実と、悪魔とメル・ゼナの因縁を確信するには十分だった。故に、提督となってから女王陛下とバハリにそのことを伝え、大型船を用意して備えていたという訳だ。まさかそれでも不十分とは思わなかったが、まさかかつての淵虎竜と同じように大地母蜘蛛やメル・ゼクスの力まで吸収しているとは」
「深淵の悪魔がキュリアの真の主と見て間違いない。今回の一件で全ての疑問が解けたよ。そもそも大地母蜘蛛にキュリアが捕食されたのは、力を蓄えて深淵の悪魔のもとに還ろうとしていた個体が偶然巣に引っかかったのが原因だ、つまり大地母蜘蛛が深淵の悪魔が得るはずだったエネルギーを横取りしていたわけだ」
「それが今回、俺達が追い詰めた隙を狙って奪い返したわけか」
「また、メル・ゼナが現れた大穴“サン”もメル・ゼナが開けたと思われていたがそうじゃない、あれも深淵の悪魔が開けたものだ。メル・ゼナは王域を総べる龍だった。深淵の悪魔が出現するとそれを嗅ぎ付け、王域から排除すべくすっ飛んできて縄張り争いを始めた。君達も経験しただろう、強力な個体同士の縄張り争いは決着がつかない」
言われて思い出すのは星雲龍ネグレマガラと極断刀ショウグンギザミと剛纏獣ガランゴルム、結晶皇ライゼクスと千刃の追跡者セルレギオスと極断刀ショウグンギザミと棘竜エスピナスの、大規模だった縄張り争い。拮抗して決着がついていなかった、あの状態と同じだろう。
「ハタ迷惑な縄張り争いは決着がつかず、深淵の悪魔は地底に、メル・ゼナは空に還った。深淵の悪魔が地上に現れないものだから、大穴はメル・ゼナによるものだと思われていた…。まあ無理もない話だよね」
「理解した。つまりキュリアは、深淵の悪魔が地底に還る間際にメル・ゼナに放ったものということだな」
「メル・ゼナだけじゃない、王国に蔓延したという病からしても人間や大型モンスターも含めた付近の生物すべてに、だろうな。50年という長い時間をかけてたっぷり養分を吸い取って、キュリアは目覚めようとしていた真の宿主の元に還った。それが今回の一件か」
「それでわかった。淵虎竜マガイマガドが干からびていた現象も、付近で見かけられたメル・ゼナとキュリアが養分を奪い取った状態だったということだな。しかもあいつは大地を抉る隕石攻撃を多用していた、地底に眠っていたガイアデルムを目覚めさせる土壌はできていたわけだ」
転生者が原因の淵虎竜という災厄が、さらに別の災厄を目覚めさせる…か。最悪だな。
「そういうことだね。軽く見積もっても淵虎竜マガイマガド、大地母蜘蛛ヤツカダキ、爵銀龍メル・ゼナ及び爵電龍メル・ゼクス、さらにガランゴルム、ルナガロン、雪夜叉etc.それだけの数のモンスターの養分を大量に得た今の深淵の悪魔は無敵状態だね」
「…さらに厄介なことに、深淵の悪魔の付近には母親の仇討ちのつもりなのかヤツカダキが群がっていて、またもや要塞の如き有様だ」
「それに最悪なことに、メル・ゼナも既に死してその力を受け継いだメル・ゼクスも力を軒並み奪われてしまったっぽいから深淵の悪魔を止めることができる奴が存在しない。決戦型狩猟船の攻撃も、時間稼ぎにしかならなかった。…どころか耐えられちゃってたね。じきに地上に出てくる……そうなれば、王国は今度こそおしまいだ。何度目だって話だけど。メル・ゼクスは「個」としての脅威、大地母蜘蛛は「数」としての脅威だったけど、キュリアを従える深淵の悪魔は「個」であり「数」の脅威だ。もうお手上げさ」
そう言って頭を抱えるバハリに、淵虎竜やメル・ゼクス、大地母蜘蛛の恐ろしさを知っている俺達ハンターも押し黙ってしまう。無理ゲーとはこのことだろう。まだ大地母蜘蛛の方がマシだったかもしれないレベルだ。すると口を開いたのはフィオレーネだった。
「……悪魔ごとき、何を恐れることがある。我等はどんな困難でも猛き炎の
そう言って何も疑わない目でこちらを見てくるフィオレーネ。少し勇気が出てきた。ああそうだ、もうスレ民の助けを借りることはできない。俺達しかいない、だけど俺達は力を合わせて淵虎竜を倒した、それは事実だ。
「猛き炎。バレット、マシロ、ナギ、ヒビキ。その炎を業火に変えて、共に深淵の悪魔から王国を救ってほしい」
「……言われなくても、だな」
俺が振り向くと、マシロもナギも、ヒビキも、ミクマリもエスラもアンテムもエルヴァスもマキアナも頷き、フィオレーネに向き直って頷く。やってるさ、これまでもそうしてきたんだ!
「…深淵の悪魔は【空亡くす暴君大地帝】
そうして俺達はガイアデルムを討伐するために、決戦型狩猟船で海に出るのだった。
大穴“サン”の地上付近の沈んだ部分…ガイアデルムが乗っていた部分に、群がっていたヤツカダキの群れを蹴散らして仮のベースキャンプを作ったそこで作戦会議。猛き炎である四人と、フィオレーネとミクマリ、エスラとアンテムの四人が交代で降りて戦い、エルヴァスとマキアナは念のためにここで待機してヤツカダキを退治しつつ最後の砦になる事となった。誰か一人でもダウンしたらもう一つのチームと交代、回復に努めると言う流れだ。最初は俺達猛き炎が乗り込むこととなった。
「覚悟しろガイアデルム…!」
「何度でも地底に叩き落して……あれ?」
「なに…あれ?」
「翼、だと?」
ガイアデルムの登ってきた中腹の広場……大地母蜘蛛の巣の残骸までやってきた俺達が目にしたのは、予想外の光景だった。ナルハタタヒメとイブシマキヒコに似ているゴア骨格と言っても、翼脚が退化して完全に地上しか動けない形態、というのが大前提だった。しかし今のガイアデルムは、糸の鎧の両端に大地母蜘蛛の残骸と思われる巨大な脚をくっつけ、それを軸に糸とキュリアの結晶で巨大な翼を形作っていたのだ。
「まさか飛ぶつもりか…!?」
次の瞬間、翼の付け根の結晶部分を変形させて飛翔、浮かび上がるガイアデルム。明らかに不味い光景がそこにあった。
大地母蜘蛛の残骸で翼を作ったガイアデルム君、空を飛ぶ。さあ無理ゲーの始まりだあ。
今作では淵虎竜の隕石攻撃が原因で目覚めたガイアデルム君。何から何まで転生者って奴の仕業なんだ。
次回も楽しみにしていただければ幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。ここすき機能などで気に入った部分を教えていただけたら参考にします。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
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