『俺』と『私』が創る希望の未来   作:逢魔時王

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1話 当たり前になった日常

 Side雫

 

 

 ──誰かが泣いてる

 

 それが誰かは言うまでもない…

 

 

 

 この子は──私だ

 

 

 

 昔私は、よく泣いていた

 誰にも見つからないところで、ヒッソリと…

 

 でもある時から、私は泣かなくなった

 手の掛かる幼馴染みや、奥手な親友の為に色々と試行錯誤したっけ

 何年もずっとそうしてきて、いつしかそれが私にとって『普通』になっていた

 

 それをおかしく思わなかったわけじゃない

 

 でもそうすれば皆納得して貰えると、心の何処かで図々しくも思っていたのかもしれない…

 

 そして『彼』には、それが見透かされていたのかも…

 

 ……そう、『彼』

 

 ずっと泣いてこなかった私を…泣くのを堪えていた私を泣かせた『彼』

 といっても別に怒ってるわけじゃない、むしろ落ち度があったのは私だし…

 

『彼』の言った言葉が、今でも私の頭から離れない…こうして夢を見るほどに…

 

 

 

 

八重樫雫(おまえ)は、いったい何処にいるんだよ』

 

 ◇

 

 月曜日の朝

 朝練を終えて教室に入ると、私のもとに笑顔で近づいてくる3人の人物

 

「雫ちゃん!おはよう!」

 

 白崎香織、100人見れば100人が美人だと答えるであろう容姿もさることながら人当たりの良い性格でクラスや学年どころか学校中で人気な…私の親友

 ただ最近はとある男子生徒に無自覚な好意を寄せるようになり、その度に暴走しては私に相談してくる

 

 …まあかくいう私も恋愛面で相談に乗れることなんてこれっぽっちもないんだけど

 それでも親友の恋を応援したい一心で密かに呼んでる少女漫画から得た知識でなんとか取り繕ってる状況

 

 ──でも最近その暴走度合いが酷くなってるのは気のせい、よね?

 

「おっす雫、今日はいつもより遅かったな」

 

 次に挨拶してきたのは坂上龍太郎

 190センチを超える程の長身で筋骨隆々、熱血漢で曲がったことは嫌いな総じていい人ではあるんだけど…

 考えるより先に手が出るタイプで、物事を捻ってみるのは少々苦手で成績はお世辞にも良いとは言えず、よく私を含めて勉強を見ている

 

「雫おはよう、朝練おつかれさま」

 

 そして最後が、天之河光輝

 私の実家である剣術道場に通う門下生であり、小学校からの幼馴染み

 龍太郎には及ばないものの180センチの長身で、運動神経も抜群で成績優秀、おまけに容姿端麗と幼馴染みという贔屓を除いてもこれだけ完璧な人がいるのかという程隙が無い

 

 だから当然と言うべきか、昔からずっとモテモテ、バレンタインなんかはいつも大量のチョコを貰っていた

 それこそ漫画の中のイケメンがそのまま飛び出したかのように

 

「香織、龍太郎、光輝、おはよう。ちょっと朝練が長引いちゃってね」

 

 私たちは大体この4人でいることが多く、だから朝教室に来れば自然とこうして集まるようになっている

 別に誰かが言い出したわけでもないし、他のクラスメイトとだって普通に会話はするし友人と呼べる人も存在するけど、この4人でいることが日常であり当たり前

 今日もまた朝のホームルームが始まるまで、他の友人を交えつつ他愛のない話をするのだけれど、最近の私はそれ以外にもやること…というか気になることがある

 

 教室のとある一席を見る、そこに人はいないけれどその席の持ち主の物であろう鞄が置かれている

 

(トイレにでも行ったのかしら?)

 

 そんなことを考えてると…不意に香織に話しかけられる

 

「雫ちゃん?どうしたの?」

 

「え!?あ、ううん何でもないわ」

 

「?そう?」

 

 突然聞かれたものだから少し動揺した口調になった私を訝しげにみながらもそれ以上の詮索はしてこない香織…それからは特に何もなく談笑していた

 

 その数分後、教室の扉が静かに開く

 立っていたのは一人の男子生徒、身長は高くもなく低くもない、容姿は(失礼かもしれないけど)普通で一件これといった印象を持たれない人物

 

 けれど彼の場合は少し状況が特殊だった…それも悪い意味で

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

 

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

 一体何が面白いのかゲラゲラと笑い悪口を連発する男子生徒達

 檜山大介、斉藤良樹、近藤礼一、中野信治、見ての通りのいじめっ子で、檜山を筆頭によく件の男子生徒、南雲ハジメに絡んでおり、他のクラスメイトもそんな檜山達の行動には呆れながらも助け船を出す様子はない

 それどころか南雲君に対して檜山ほどではないけれど侮蔑の視線を送る人が大半を占めている

 

 私としては

 

(はぁ…またか)

 

 と心の中でぼやきたくなるような心境で自然と溜息が出る

 それは今の状況だけでなく、これから起こるであろう事態含めてのものだった

 

 別に私から見て南雲君が不衛生な見た目をしているわけではなく、少々の会話はしたことあるけれど人見知りの気があるようにも見受けられない

 強いて言うなら今日含めて大体いつも遅刻ギリギリの登校だったり、授業中には頻繁に居眠りしていることくらいで、確かに注意されてしかるべき所業ではあるもののそれだけでクラスの殆どから顰蹙を買うような行いとは思えない

 

 じゃあ何故南雲君がここまで嫌われているのか、その原因は他でもない

 

「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

「あ、ああ、おはよう白崎さん」

 

 香織(我が親友)である

 笑顔で駆け寄る香織、そう…先ほど言った香織の想い人は彼、南雲ハジメ君

 とある一件から本人に自覚はないものの好意を持っており、何かと彼との距離を縮めようと話しかける香織だけど、それを面白く思わないクラスメイトからの反応が先のそれ

 

 男子は単純に嫉妬の感情を向け、女子は香織が世話を焼いても頑なに居眠り等をやめない不真面目な部分に焦点を当てて各々理由は違うけれど、あまり良い印象を持たれていない

 私自身親友の恋路は勿論応援したいけれど、彼の一件不真面目な部分に関して思うところがないわけじゃない

 とは言っても彼にも家の事情があるかもしれないし一方的に嫌悪の感情を向けるのは違うと思ってるので、私からこれといって何か言うこともないし普通に挨拶もする

 

「南雲君。おはよう。毎日大変ね」

 

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

 

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

 私に続いて光輝達も口を開く、けれど南雲君への挨拶はないし、龍太郎に至っては興味なさげに鼻を鳴らしてる

 

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

 そんな明らかに失礼な態度にも気にしてないと言うように返す南雲君、若干苦笑い気味だけど…

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

 そんな南雲君に光輝が苦言を呈するけれど、ここで少し勘違いが発生してる

 光輝は香織が『クラスで孤立している南雲君を親切心で構っている』と認識してるけど、実際は南雲君とお近づきになりたいが為に話しかけているだけに過ぎないので、敢えてキツい言い方をすれば香織のワガママであり、南雲君自身はどちらかというと困惑、というか若干迷惑気味

 

 光輝は昔から思い込みが激しく、自分が正しいと信じて疑っていない

 昔から「悪いものは悪い」とハッキリ口にするタイプで、それ故に慕われることもあったけどそれと同じくらい反感を買うことも多かった

 その度に私が相手に謝罪して場を収めるており、私の悩みの一つだ

 

「いや~、あはは……」

 

 それでも南雲君はこの場で揉めるのを避けるためか苦笑し話を終わらせようとする…けれど天然を地で行く私の親友様は更に爆弾を投下する

 

「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

 その言葉にざわつく教室

 当然だ、校内でも【二大女神】と評されるほどの存在が、一人の…しかも一件不真面目な男子生徒と「話したいから話す」などと言えば何事かと思うのは自明の理だと思う

 

 あ、因みに部活の後輩によれば不本意だけど二大女神のもう一方は私だそうです…

 

「え? ……ああ、ホント、香織は優しいよな」

 

 そんな香織の天然爆弾発言に、一瞬面食らった様子の光輝だったけど、すぐにお得意の間違った解釈をしたであろう思い込みで納得したのか口を閉じる

 

「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……」

 

 その様子を半ば諦めモードで見ている南雲君に、私が謝罪の言葉を口にしながら話しかけると、気にしないでと言わんばかりに手を振ってくる

 その顔には多少同情の色が出ており、恐らく私の苦労を感じ取ったのだろう

 

 これが最近の…いやずっと前からの私の日常

 

 光輝を筆頭に周囲へ被らせた迷惑を代わりに謝罪する…そんな毎日

 

 そんな毎日に、私は流されるままに身を投じていた…

 

 ズブズブと底なし沼にでも嵌まったかのように、そんな歪だけどどこか充実感のある日常から抜け出せなくなっている…

 

 まるでそれが当然と言わんばかりに、自然と謝罪の言葉を口にするようになっていた…

 

 

 

 そんな時だった

 

 一人の男の子が、私に言った

 

八重樫雫(おまえ)は、いったい何処にいるんだよ』

 

 その言葉に…私は──

 

 

 

 

「ドアの前で溜まるな、通れん」

 

「!あ…」

 

 背後から南雲君とは別の声が聞こえ、そちらに向き直りながら短く声を出す

 

 予想通りトイレでも言っていたのか、半乾きの手をハンカチで拭きながら呆れ気味に苦言を呈する、私が教室に来て最初に確認した席の主である、少々背の低めの男子生徒

 

「神山君…」

 

 

 神山創司(かみやまそうじ)

 

 

 かつて件の言葉を投げかけ、その結果私が泣いてしまった原因ともいえる人物である




主人公、まさかの台詞一言で出番ほぼ無し!

今回は雫が語り部になりましたが、他のキャラの視点や三人称視点でも展開しますのでお待ち下さい

ではまた次回、チャオ~
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