Side創司
眩い光が晴れ目を開けると、恐らくあの時教室にいた全員がこの場にいた
(光は…いないな)
どうやら教室外にいた光は巻き込まれずに済んだようで、ひとまずは安堵する
だがここが何処かわからない以上、余談を許せる状況ではない…
「創司!」
「!ハジメ」
血相を変えたハジメが駆け寄ってくる
「ここ…いったいどこなんだろう」
「わからん、少なくとも日本ではないだろうな」
「うん、さっきの魔方陣からしても…」
「異世界…だろうな」
普段なら夢だ何だと流す考察だが、この状況ではそうも言ってられない
教室に魔方陣が出現し、突然何処とも知らぬ場所に移動している以上、ドッキリとはとても考えられない…他の生徒達も突然のことに軽くパニック状態になってる
「…みんな動揺してるね」
「こんな状況なら無理はない、俺達だってそういう作品読んでなけりゃ同じ反応だった可能性が高いだろ」
「うん、それにあの絵」
ハジメが視線で示すのは巨大な壁画
縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれており、背景には草原や湖、山々を包み込むかのように、その人物は両手を広げている
一見すると神々しい美しい絵ではあるが、どこか薄ら寒いモノを感じる
「所在不明の場所といい壁画といい…気味が悪いな」
返答はないがハジメも同じことを考えているだろう…すると
「ねえ神山…ここ何処なの?」
話しかけてきたのは園部優花
俺のアルバイト先であるレストランのオーナーの娘であり、クラスの中では比較的交流のある生徒だ
普段は勝気な彼女の顔にも不安の色が浮かんでいる
「わからない…それで、怪我は?」
「それは大丈夫…ほかの皆も特に怪我はないみたい」
「そうか、ならとにかく固まってその場から動かない方が……っ!?」
“動かない方が良い”
そう続けようとしたがある事に気づく
光が晴れてすぐはよくわからなかったが、目が慣れてくると自分達の立っている場所がなにかの台座だとわかった
そしてそれ以上に異様なのはそんな自分達の乗る台座を、白地に金の刺繍の施された法衣を纏い錫杖を傍らに置いた連中が、まるでなにかの儀式を行ったかのように等間隔に配置されているという光景だ
「恐らく…こいつらが俺たちを召喚した連中だな」
「だろうね…でも“あの人”だけは何か違う」
ハジメの指し示すあの人とは、その連中の中でも特に煌びやかな装いで長い烏帽子のようなものをかぶった老人だった
ただ“なにか違う”というハジメの言葉は、装いに対して発せられたモノではないだろう、まだ一言も口を開いていないのに目の前の老人の纏う異様な雰囲気に嫌な汗が滲み出る
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
不安に駆られる俺たちを尻目に、ようやっと口を開いた老人──イシュタルは、微笑を称えてそう言った
だがそんな笑みも、俺にはどこか気味の悪い不気味な印象を与えさせた…
Side out
◇
Sideハジメ
その後僕たちは場所を移し、現在は長机が並ぶどこかの広間に通された
豪華絢爛…そんな言葉が相応しいと思うような品々が並んでおり、一般庶民の出としては正直息が詰まる
上座に近い席には僕たちと共に転移させられた社会科担当の畑山愛子先生が座り、それに続くように天之河君達いつもの四人組とその友人達、あとは友達同士が固まって座り僕と創司は後ろの方の席へ(園部さんは友達の下へ向かった)
因みに転移直後はざわついていた生徒達も、イシュタルさんが説明すると告げたことや天之河君が落ち着かせたこと、もっと言えばまだ現実への理解が追いついていないこともあってだいぶ静かになっている
ほぼ立場奪われた愛子先生は若干涙目だった
全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた
そう、生メイドである! 地球産の某聖地にいるようなエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない…正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである!
こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさん達を凝視している
もっとも、それを見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していたのだが……
かくいう僕も傍に来て飲み物を給仕してくれたメイドさんを思わず凝視……しそうになってなぜか背筋に悪寒を感じ咄嗟に正面に視線を固定した
チラリと悪寒を感じる方へ視線を向けると、なぜか満面の笑みを浮かべた白崎さんがジッと僕を見つめており、恐ろしくなったのでソッと目をそらした
なお園部さんは創司に対して同様の視線を送っていた(あと一瞬だけ八重樫さんがこっちの方を見たけど、すぐに目をそらした)けど、当の本人は出された飲み物を凝視しておりメイドさんには見向きもしてなかった
多分毒でも入っているのではと警戒してるんだろうけど、この視線に気づかないのはある意味強いのかそれとも鈍感なのか…
全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルさんが話し始めた
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった
要約するとこうだ。
まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。
人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい
この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。
魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという
それが、魔人族による魔物の使役だ
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのこと
今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという、その常識が覆されたのである
これの意味するところは、人間族側の“数”というアドバンテージが崩れたということ……つまり人間族は滅びの危機を迎えているらしい
「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
長々と喋りながらイシュタルさんは恍惚とした表情を浮かべている…恐らく神託を聞いたときの事を思い返しているんだろう
曰く人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい
「創司、どう思う?」
「不確かすぎる…少なくともあの様子からして確実にエヒトに心酔しているだろうし神託云々を偽るとは思えないが…だからこそ無条件にそれを信じ切っているだろうからな」
──狂信者
僕と創司の脳内に同じ言葉が浮かぶ…
イシュタルさんのあの様子は、エヒト神から“命を捧げよ”という神託を受け取ろうとも迷うこと無く実行するレベルだ…発言の全てを鵜呑みにするのは危険かもしれない…
何より先ほどの発言通りなら、僕たちがこれからさせられるだあろうことは──
思考の海に浸っていると、突然机を思い切り叩く音が響いた
音の主は、愛子先生だ
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
毅然とした態度で猛講義する愛子先生
ただ悲しいかな…童顔で150センチ程の低身長から、普段から生徒間でも“愛ちゃん”という愛称で呼ばれるほど親しまれていることが仇となり、本人の怒りほど迫力が伝わらないのが実情である
その証拠に周りの生徒達も「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と何処かほっこりとした様子で先生を眺めていた
──でもその一瞬の安らぎも、つづくイシュタルさんの言葉で終わりを迎える
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
そう発せられた瞬間、場に静寂が満ちる、みな一様に何を言われたのかわからないといった面持ちだった
僕や創司はなんとなくそうなんだろう…と予想していたので皆ほど驚きは無かったモノの、いざその言葉を突きつけられると少なからず心に来るモノがあった
ある程度そういう文献に触れている僕たちですらそうなのだから、馴染みのない生徒達の動揺は推して知るべしだろう
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
反論する愛子先生ににべもなく告げるイシュタルさん…
その言葉にさしもの愛子先生も脱力し座り込んでしまい、クラスの皆も騒ぎ始めた
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
一瞬にして絶望の色にそまる各々の表情…当然だ、いきなり帰れない状況に立たされた上に戦場に赴かなければいけないのだから
ただ少なくとも、召喚された僕たちのことはある程度丁重に扱う意思はあるのは安心した…最悪奴隷のように扱われる可能性もあった以上まだマシかもしれない
すると再び机を叩き立ち上がる人がいた、ただしその人物は愛子先生ではなく…天之河君だ
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
いつものように圧倒的なカリスマを放って宣言する天之河君に、隣の席からギリッと鈍い音が聞こえた…見ると創司が苦々しそうに天之河君を睨み付けていた
そんな創司とは裏腹に、天之河君のカリスマに当てられた他の人たちは活気を取り戻していった
その表情はまさしく勇者を見つめるモノであり、希望に満ちあふれている
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
同調するように天之河君以外の3人も戦争参加を宣言すると、もはや参加するのは当然とばかりに他の皆もそれに続いた
愛子先生はそんな皆を「ダメですよ~!」っと止めようとするが、天之河君の作った流れをせき止めるには余りに無力だった
「チッ…最悪だ…」
僕にしか聞こえないであろう声で呟いた創司
恐らく創司としては今すぐに猛講義したい気持ちだろう、それでもしないのは怒りを覚えながらも冷静な部分で最悪な事態を想定しているからかもしれない
──ここで猛講義すれば、場所も名前もわからない場所に身一つで放り出されるかもしれない
そんな考えが過ぎっているのだと思う
だからこそここで発言するのは得策ではない、不本意だけど今はこの流れに身を任せるしかないのだ
例えこの場にいる大半の人間が“戦争をする”ことの意味を理解していなかったとしても…だ
そして僕と、恐らく創司も見逃していなかった
皆がざわめく中イシュタルさんが怪訝な表情を浮かべていたことを…まるでエヒト神の勅命を受けて絶望することが理解出来ないというように
そして天之河君が僕らの中でも発言力をもった人であると見抜き、天之河君の心を掌握するような言葉を並べ、戦争参加に誘導していたであろうことも──
いずれにしても油断ならない人物だと要注意人物に入れると同時に、これからのこと考えて気分が重くなった……
原作や二次小説を見慣れた人にとってここら辺はほぼチュートリアルのようなもんだと思う今日この頃
ところで私は給料が入り次第オーズのVシネとトリガーのエピソードZを見に行く予定です