転生ウマ娘が夢に向かって頑張る話 作:トレセン学園生徒会書記
私にダジャレのセンスはございません
その日、トレセン学園の生徒会室で生徒会長であるシンボリルドルフはいつものように書類を目の前に仕事をしていた。
カリカリとペンの書き込む音が一人きりの部屋に響き、しばらくして止まるとカタとペンの置かれた音。
「ふう…ひと段落着いたな。これでしばらくはゆっくりできそうだ」
ルドルフは息をつき、豪華な執務椅子の背もたれに肩を預ける。
つい先日にサマードリームトロフィーも終え、合宿も終わった。夏の大きな事が終わって、今手持ちの生徒会としての仕事も一先ず急を要する物は終わったのだ。
今度は秋に向けての行事等、色々とあるが、それに向けて動き出すまでのつかの間の休息というものだ。
いくら皇帝といえる傑物でも、日々の激務に追われた後の休息は必要不可欠だ。
「さて、少し時間ができた。ここは……っふ、新しい冗句の創作に尽力するのもいいかもしれんな!」
休息の取り方も人それぞれ。ナリタブライアンも口うるさいエアグルーヴもここにいない今、彼女は早速といわんばかりに引き出しからマル秘と書かれたノートを取り出し、意気揚々と置いたペンを握る。
いざ、開いたノートにペンを走らせようとしたところに
コンコンコンと、ドアがノックされ。ルドルフの手はピタと止まる。
そして、素早くノートを閉じ、引き出しの中に戻すと、両ひじを机の上に置き、手を組んで顎を載せていつもの来客対応のための待機状態に移行する。その速さは見事と言うほかない。
彼のシンボリルドルフであっても自分の趣味ノートを見られるのは恥ずかしいのだ。これはルドルフに限らず他のウマ娘も人間であっても共通のことだ。
誰もが同じような状況の場合、今のルドルフのように迅速な変わり身能力を発揮できるものだ。
「……どうぞ
「ハイハーイ、お邪魔するわね。って、どうしたの? 少しサゲサゲなようだけど?」
入ってきたのはマルゼンスキーだった。彼女は生徒会室に入って表情こそいつものように泰然自若としているが、ルドルフから漂う少し不満そうな雰囲気に気が付いた。
ルドルフは入ってきた彼女を確認して、組んだ手をほどき楽な体制になり、その指摘された不満の理由をざっくり述べた。
「ちょっと自分の時間をとろうと思っていたところなんだ」
「あら、本当にお邪魔しちゃったようね。ごめんなさい」
「いや、気にしなくていい。こちらこそ謝らせてしまってすまない。何か用があってきたんだろう? 私のことよりもそちらの方が優先だ」
ルドルフは少し不満を垂らすもすぐに切り替えマルゼンに要件を促す。一人で趣味にふけるのは僅かでも時間があればできることだ。それよりも今はマルゼンスキーの用を聞く方が大事なのだろう。
「用っていうより、お誘いなのだけれどね」
「お誘い? 一体どんな? もしかして、ドライブのお供かな?」
マルゼンの趣味を知っているルドルフはそのお誘いの内容を予想して言ってみた。
マルゼンからのお誘いなんて滅入ったにないことだがルドルフと同じく多忙な身でもある。
同じチームでの合宿にサマードリームトロフィーとルドルフと同じく終えたマルゼンスキーのことだからと、リフレッシュもかねてドライブにと彼女なりの気遣いをしてくれるのかなと、ルドルフは予想した。
それに長年の友人でもある彼女とのドライブは嫌いではない。その予想は間違ってはいなかったようで、彼女は「ええ」とうなずいた。
「そうよ。たまには一緒にドライブに行きたいのよね。それで、そのついでに神社にでも寄ろうかなって!」
「神社ということはお参りかな? 君にしては珍しい提案だ。何か理由でもあるのかい?」
マルゼンスキーは怪物と呼ばれるほどの強者だ。圧勝に次ぐ圧勝で、1度も負けていない本物の傑物。神に頼らずとも自身の実力で勝利を勝ち取る彼女が、神社でお参りというイメージがルドルフには全くつかなかった。
「さっき、マチカネフクキタルちゃんにドライブ先を相談して占ってもらってね。走ることに関してご利益のある神様を祀ってる神社をおススメしてもらったの。それで調べてみたら、なんと結構ドライブしがいのある所にあるみたいなのよ! いわゆる、林道、山道ってところで、たまにはこういった自然豊かなところを走るっていうのもチョベリグじゃない!」
「自然豊かなところか、一丘一壑、偶には都会を離れ山の自然を楽しむのはさぞ癒されそうだ。そして、その奥の神社へ赴く。実に風流でいいじゃないか。いつもは三女神さまに祈っているが、偶には別の神様のご利益も授かるのも悪くない」
「フフ、気に入ってくれたようね」
ルドルフはその理由が気に入ったようで、嬉しそうだ。
マルゼンスキーもルドルフの様子に笑みがこぼれる。
「それで? ドライブはいつにするんだい。ちょうどひと段落着いたところだから予定は開けられるはずだ」
「今からよ!」
「ん? 今からか? 思い立ったが吉日というが、流石にそれは性急すぎやしないか? 一応、この後の予定は特にないが。そもそも、外出届も出していないし、山道を走るような場所となれば結構な距離のところになるんじゃないか? 日を改めてもっと早い時間から出る方がいいと思うが」
「そのことならモウマンタイ! 外出は東条トレーナーが話を通してくれるし、距離もここから門限までに帰ってこれるところよ」
「門限に間に合う距離なのは良いが、よく急な外出の許可が下りたな」
普通のトレセン学生なら直近での外出届の提出でも特に問題ないが、シンボリルドルフは知っての通りにこの学園の生徒会長。彼女の予定は重い案件軽い案件かかわらずびっしりと埋まっているのが常だ。
マルゼンスキーに関しても、ルドルフほどの多忙さではないが、彼女は彼女で世話焼きな性格も相まって学園内の様々な生徒のメンタルケアを行っており、気になる生徒へ世話をよく焼いたりしており、時折昔やっていたようにルドルフの補佐も務めることもあったりと彼女だけの時間というのもそうそうないのだ。
今こそ、たまたま隙間を縫ったように空いた時間だが。彼女たちの外出ともなれば前もって数日前には申請しておかなければなかなか受理されない。
彼女たちの外出は予定として組み込まれていなければ、急な案件や来客などの対応に支障をきたしてしまうからだ。
本来なら、このマルゼンスキーの突発的な外出も緊急の案件でない限り難しいはず。
そのことを踏まえてルドルフは驚いたように言った。
「でしょでしょ。 私明日ちょっと用事があるから、無理言っちゃった。それで、東条トレーナーに条件付けられちゃったんだけどね」
「なるほど。で、その条件は?」
「うん、それはね」
ルドルフの質問にマルゼンが答えようとしたところに、ドアがノックされた。
「おっと、来客のようだ」
「それなら、私が出るわ。多分、来たと思うから」
「来た?」
彼女の「来た」という言葉にルドルフは少し首を傾げた。
彼女がドアに向かうのを見送り、開けられるドアの先に目を向ける。
「今開けるわね」と彼女に開けられたドアからは彼女たちの耳よりも高い身長で艶のある黒髪をサイドテールに。そして、何より左目の眼帯がとても目立つスーツの女性だった。
「失礼するわね」
「桐生院サブトレーナー」
ルドルフは何故ここに? と言わんばかりに彼女の名前を口にし。名前を呼ばれた彼女は柔らかい笑みで会釈した。
東条トレーナーの出した条件というのは同伴者を連れて行けとのことだった。
それがこのチームリギルのサブトレーナの一人である桐生院茜。
代々優秀なトレーナーを排出する名門、桐生院家の出身であり。この学園にいるG1勝利経験を持つハッピーミークの担当トレーナー桐生院葵の姉でもある。
東条トレーナーが外出に彼女という同伴者を付けたのは普通の外出としてではなく、トレーナーが同伴することで野外トレーニングという名目で学園外に出れるようにしたのだ。
「――ということでいいのかな、桐生院サブトレーナー」
マルゼンスキーの運転で車道を走行中の車内で助手席のルドルフが、後部座席の桐生院に自分たちの外出許可が下りた理由の確認をとっていた。
「ええ、そうよ。わざわざ許可されなさそうな外出届を出すよりも手っ取り早いでしょ?」
「そうだが、少しばかし強引すぎやしないか?」
「それは百も承知よ。東条さんもあなたたちが揃って休息とれるタイミングを無下にしたくなかったようだから、ちょっとした荒業使ったのよ。流石にそう何回も使える手段じゃないから、まあ恐らく今回限りだと思うけど」
桐生院は突然駆り出されたことに少しばかり不満を混ぜながら経緯を話した。
「ははは、それはマルゼンスキーが迷惑をかけてしまったようですまない」
「ごめんなさいね。でも、助かったわあ。ルドルフとのお出かけなんていつぶりかしらん?」
「そうだな、レースや視察以外で私的に遠出するのは生徒会長になってから滅多にできなくなったからね。私もどれくらい前だったか思い出せないくらいだ。私も突然連れ出された身だが、今回のことに関しては連れ出してくれたマルゼンスキー、急な外出に対応してくれた東条トレーナー、同伴に名乗り出てくれた桐生院サブトレーナー、3人には感謝しているよ」
ルドルフはレースの遠征先、視察で地方に赴いたときに、名物や観光地などを下調べして現地で楽しんではいるが、このような私情のみでどこかへ出かけることは長らくしていなかった。
友人との2人きりとはいかなくとも、桐生院も長い付き合いをすでにしていてトレセン内のトレーナーの中では軽口をたたきあえる仲でもあるため、一緒にいることに特に思うところもなく、3人のこの外出をルドルフはとても感謝していた。
「私が同伴したのは、手の空いてるトレーナーの中であなた達に付き添えるのが私だけだったからよ。他のトレーナーじゃあなたの威圧に委縮しすぎてまともに休息なんてさせられやしないわね。……それに無視できることでもないし」
「ははは、無視できないなんてありがたいことを言ってくれる。それに、私が別のトレーナーだったら
「どんなふうによ」
「む? 今のは無理に入れすぎたか? まだまだ
「四字熟語はわからないけど、今のはわかったわ」
「なに? っは、なるほど。確かに今のはそうだな! メモしておかなければ」
「フフ」
2人のやり取りを聞いて運転しているマルゼンスキーは微笑んでおり、その理由はもうこの時点で彼女のこの外出での思惑の半分は達成しているようなものだったからだ。
(よかったわ、楽しそうにしてくれて。最近まで業務にかかりっきりだったし、合宿にドリームトロフィーもあって結構負担を強いちゃってたけど。これなら、多少のリフレッシュにはなってくれそうね。
……できれば、スランプの方も何とかなってくれると嬉しいんだけど。そこに関しては本当に神頼みになりそうね。何かきっかけでもできれば御の字なのだけれども。
それにしても、あのフクキタルちゃんの言ってたことっていったい何のことなのかしら?)
マルゼンスキーはマチカネフクキタルの言っていたことを思い出していた。
『ありがとね、フクキタルちゃん。いい場所教えてもらちゃったわ』
『いえいえ、実は占いに出てたことですからお気になさらず。ちなみにですが、そこには生徒会長もご一緒に?』
『あらそんなことまで占いで分かったの?』
『占いでに出てたのは実は会長さんでしてマルゼンスキーさんも一緒に映ってたのですよ。そこにちょうど尋ねてこられたので、そう思ったわけですね。因みにその占いではあの場所で会長さんに何かしら心境の変化があるかも、とありますね。
……うん? 何でしょうビビット来ましたよ!? ちょっと失礼しますね……ふんにゃあ、はれにゃあ、ちんげんさい! ふむふむ? なんでも、小鳥さんがそこにいるようです。うーむ、それに関係しているのかわかりませんが、どうやら会長に再会の兆しですかね、出てるようです。小鳥? いったいどういうことかわかりませんが。シラオキ様のお導きですので間違いないと思いますが』
巷でのフクキタルの占いはほとんどは当たらないそうだが。偶に恐ろしいくらいに正確に当てるということでも有名だ。それが普段の学園内に設置されてる占いの館や校内の廊下など、場所を問わず突然閃いたように占い始めて出たものに関してはその割合が高いとか噂もある。
もし、あのフクキタルの占いが当たっているならと、淡い期待を胸に、マルゼンスキーは友人であるシンボリルドルフの幸運を祈って急遽この外出を強行した。
マルゼンスキーが言っていた翌日の予定はルドルフを動かすためのでまかせで、嘘をついたことに少し罪悪感を抱きつつも、彼女のために会話の弾みやすいよういつもよりも安全運転を心がけ目的地を目指しアクセルを踏み込んだ。
▼
【マルゼンスキーによりシンボリルドルフの特殊イベント『復活の兆し』が発生しました。
……イベント開始時刻が一定時刻を経過しているため条件が追加されます。
追加条件:中央トレーニングセンター所属のトレーナーの同伴。
追加条件によって一定時間内にトレーナーを参加メンバーに1名追加しなければなりません。
条件が満たせない場合、当イベントは消滅します。
……イベント同伴ウマ娘マルゼンスキーより桐生院茜が招待されました。
承諾されたため、イベント『復活の兆し』に参加しました。
イベント『復活の兆し』の現在の参加者は1人です。
なお、このイベントはランダムイベント『マチカネフクキタルの占い』により分岐ルートが発生しています。
分岐条件:シンボリルドルフに対して一定条件を満たした人物との接触】