転生ウマ娘が夢に向かって頑張る話   作:トレセン学園生徒会書記

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6 葛藤

 マイノスワローが涙を流しながら感情そのままに言った夢にシンボリルドルフは固まった。

 目を見開き驚愕を隠し切れなかった。

 

 いろいろと衝撃が重なったことが理由だった。

 

 まさか彼女の夢のきっかけが自分のことだとは。しかも、先ほどからの既視感の正体に気が付いた。あの自分が3冠を達成した菊花賞でのウイニングライブ。

その場で観客席の最前列で私だけをひたすら見つめていたウマ娘の少女。

手に持ったサイリウムを振りもせずに食い入るように一時も離れない視線を送っていた少女を思い出した。

 

 記者会見に突撃してきたトウカイテイオーの時は鮮烈だったが、印象深いという意味で記憶に残っているのはウイニングライブの時の今、目の前にいるウマ娘だった。

 そうだったのか

 声にならないつぶやきを漏らす。シンボリルドルフの記憶でのウイニングライブの時のウマ娘と目の前にいるマイノスワローがイコールで結ばれた。

 

 しかし、葛藤が生まれる。

 

(私はこの子を押しとどめてしまっていいのだろか。こんな強い意志を持ったこの目は私がトレセン学園で見てきた名だたる戴冠ウマ娘達を連想させる。

 今すぐにでも私はこの子の手を放してこの子の行く末を見届けたいと思ってしまう。それこそがこの子にとっての幸せなら、ウマ娘の幸せを願う私が遮ってはいけない。

 しかし、そうしてしまえばこの子は確実に体を壊してしまうだろう。

 

 どうすればいい。

 

 私にはこの子を留めても、行かせても、どちらとも夢どころではない、この子の決定的な何かが壊れてしまうようなそんな感じがしてならない……私はどうすればっ!)

 

 シンボリルドルフはどうしでも不安がぬぐえなかった。自分の取れる行動がどれも目の前のマイノスワローにとってよからぬ結果に繋がるのではないかと確信めいた予感がよぎる。

 故にシンボリルドルフは手を握ったままジレンマに陥り苦しい顔で声すら出せずにいた。

 

 その顔をマイノスワローは涙の流れ続ける目でじっと見る。

 

「ああ、心配してくれるんですね。見ず知らずのウマ娘相手でも。私なんて自分のことしか考えていないのに。ほんと、自分の全てを他のウマ娘のためになんていう人らしい。流石皇帝ですね。

 知ってます、私のしていることが危ないなんて。明らかなオバーワークだって。このまま続けたら本当に体を壊してしまうかもしれない。わかってます……けれど、こうでもしないと、数日でも立ち止まってしまうと一生叶わないかもしれない。あなたの見せてくれた夢は。走る才能が乏しい私にとってがむしゃらに突き進まないと到底届かない高嶺なんです」

 

 そう宣言した後、何か逡巡したのちマイノスワローは再び口を開く。

 

「でも、もし。もし、他でもないあなたがやめろというのなら。私は、潔く夢を諦めます」

 

 夢を諦める、たった数日の休みを強要しただけでこんな回答が出てきたことにシンボリルドルフ、含め後ろの2人も目を見張る。

 思わず、そんな極端な回答にルドルフはとっさに言う。

 

「夢を諦めるなんてなんでそんな結論に繋がるんだ、私は数日休めと言っているだけで」

 

「同じなんです。トレーナーがいない以前にトレセンに入学できていない私には、効率のいいトレーニングのノウハウなんてない。長く走る、坂を駆け上るくらいしかまともな練習なんて知らない私がトレセンにいる上澄みのウマ娘たちに追いつくためには1日も無駄に。そうしないと、才能で、練習の質で、トレーナーの有無でどんどん差を付けられる。だから、トレーニングをするなというのは、今の私にとって、夢をあきらめろと言っているようなものなんですよ。

 

 シンボリルドルフさん、どちらですか? 私を行かせてくれるのか、行かせないのか」

 

 シンボリルドルフの言葉に返ってきたのはマイノスワローの暴論とも言える理由だった。

 その理由を彼女はしっかりと決めつけたうえで言い切っている。

 

 シンボリルドルフはそんなことないと言いかけそうになる。

 しかし、その言葉は出てこない。

 なぜなら、彼女にとってその理由は否定できない。

 

 マイノスワローを知る者達が漏らした中央、地方トレセンに落ちたという情報を加味したうえで、彼女が言った夢。そして、一人で遠出をしてまでトレーニングをしている現状を鑑みるに、彼女が言った理由はその通りであると言いきれてしまう。

 

 現在の実力不足にトレーニング環境の乏しさと比べ、トレセンに入学できる実力を有している者がトレセンで行う充実したトレーニング環境に施設、カリキュラム。

なるほど、一日でも決して無駄にしたくない。むしろ、一日も無駄にせず自主練したところで追いつくどころか引き離されるのが目に見えてしまうのが誰の目から見てもわかってしまう。

 

私を行かせてください

 

 シンボリルドルフにマイノスワローからたたきつけられた理由。最後にマイノスワローは、涙の止まった目でシンボリルドルフをまっすぐ見て言った言葉をきっかけに、彼女は眉間にしわを寄せて苦しそうな表情で、徐々に力を抜き始めた。

 

 選んだのだ、行かせることを。彼女の覚悟に根負けして。

 

 その姿は決して皇帝らしくない。トレセン学園の生徒会長としても違う。

 

 しいて言うなら、夢に向かって突き進む同志として。一介のウマ娘の立場から下した決断だった。

 

「ありがとうございます」

 

 マイノスワローは上から退いたシンボリルドルフにお礼を告げて置いてあった自分の荷物を視認すると手に取って病室を後にしようとする。

 

「待ちなさい」

 

 その時だ。彼女に声がかけられたのは。

 視線を向ける先は桐生院が腕を組んで出口の前に陣取っていた。後ろには騒ぎを聞き付けたのかナースが何名かいる。

 

「……なんですか。私は今から走るんです。そこを退いてください」

 

「だめよ。私は安静と言った。もう今日のトレーニングはあきらめなさい」

 

「シンボリルドルフさんは退いてくれました」

 

「あれは反則よ。あんなことをされてはルドルフは頷くしかない。だから私が止めるしかないでしょ」

 

 ルドルフは少し放心しており、マルゼンスキーはルドルフを心配してそばに寄っている。そもそも、ルドルフに止められなかった時点で、同じウマ娘のマルゼンスキーが止めることは期待できなかった。

 

 残った桐生院しかマイノスワローを止められない。

 

「ウマ娘相手に止められると思いますか?」

 

「物理的にだろそれは」

 

「言葉で止めるとでも? それで止められなかったのさっき見ていませんでしたか?」

 

 マイノスワローは桐生院の目の前に立ち見上げる。

 私の行く先を塞ぐなとただ見つめる。その目で普通の人、ウマ娘ではたじろいてしまいそうな威圧感。現に後ろのナースは耐え切れず後ろに下がる。

 しかし、桐生院はトレーナー。そんなものは今までいくらでも受けてきた経験を持つ彼女は顔色一つ変えない。

 

「退いてください」

 

「断る」

 

「何故です」

 

「破滅に突き進む蛮行を認めるわけにはいかない。トレーナーがそんなこと見逃すと思うか」

 

「思いません。でも、走ります」

 

 さらに増す凄み。桐生院はこれをトレセンにも入れていないウマ娘の出せるものじゃないと思えた。

 そんなことを考え、今までマイノスワローの行動、言動、そして『視た』情報を頭の中で整理する。

 目の前の見下ろす彼女をじっくり値踏みする。

 

「私のトレーナーでもないのに私の行く先を遮らない下さい……仕方ないです、押し通らせていただきます」

 

 いつまでもどかない桐生院に、最終手段として押しのけることを選択したマイノスワローは彼女に向けて手を伸ばす。

 彼女の肩に手をかけようとしたところでマイノスワロー真上から見下ろす桐生院から声がかかった。

 

「なるほど、私がお前のトレーナーになったら遮っていいんだな。だったらこうしよう、マイノスワロー私は――

 

 

 

 

――お前をスカウトしたい

 

 

 

【桐生院茜がマイノスワローをスカウトをします。

 

 確認します、マイノスワローは転生者です。本当にスカウトしますか?

 ……承諾されました。

 

 確認します、マイノスワローはトレセン学園生ではありません。本当にスカウトしますか?

 ……承諾されました。

 

 桐生院茜からマイノスワローへスカウトを要請。

 ……応答ありません。

 

 原因を究明中……解明しました、マイノスワローは自身のステータスボードを閲覧、操作できません。

 よって、システムによるスカウト機能を実行できません。

 

 現実世界よりマイノスワローから口頭もしくは書面による直接の許諾が必要となります。

 

 只今、マイノスワローの返答待機中です……】

 




主人公が困難なのは追い詰められて、ギリギリの瀬戸際だからって感じでこんなセリフ言うかなって勢いで書いてます

因みにルドルフが最後まで彼女を行かせないと言ったら、主人公は夢を諦めます。だって、夢を見つけさせてくれた張本人が言うんですから。
ですが、この状態のルドルフはどうあっても最終的に主人公を行かせてしまうでしょうね
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