少年には、何もなかった。
頭も悪く、運動神経も皆無。
要領も悪く、親や、教師、周囲の大人や、友達からも、ずっと叱られていた。
その上、マイペースで、消極的で、暗い。そんな少年から、自然と友達は離れていく。
独りになったことに焦ることもなく、ただただ静かに、少年は全てを失っていく。
「なんだろう、これ」
最近手に入れたスマートフォンが受信したのは、とあるサイトのURLとどこかの住所。
差出人も件名も空欄。
「まぁ、いっか」
特にすることもなく、少年はそのURLを開く。
最初に表示されたのは、単純な二文字。
――『死神』
下にスクロールする。そこには、『死神』とやらの情報が大量に載せられていた。
「『十歳で老若男女無差別に百人を殺し、何故かその日の内に自首。その十日後に死刑が執行された。それ以降、『死神』の情報は全て削除されており、情報は今も尚、規制されている』」
表示されている文章を、少年は忠実に読み上げる。
ある程度読み終えてから、呟く。
「そんな人、いるのかな」
考えてみる。
一人で百人を殺した十歳の『死神』。
そんな大事件をわずか十日で、収束させる。遺族全員、事件が起きた周辺の都市、マスメディアなどを黙らせ、情報が蔓延るインターネットから『死神』に関する情報を完全に削除する。
国や、それ以上の機関ならば、その程度は可能だ。
だが、十日もあれば『死神』の名前や、家族構成、生い立ち、性格、――その全てが様々な情報媒体から暴露されるはずだ。
――それに、全国民に植え付けられた『死神』の記憶。
多少の記憶力がいい人間ならば、今も覚えているはずだ。誰かが覚えていれば、それは噂となり、やがて都市伝説となる。
少年が知っている限り、そんな都市伝説や噂は聞いたことがない。
念の為に調べるも結果は言うまでもない。様々な検索ワードを入力してみたが、全てが零件と表示された。
「……零件?」
違和感を感じた。少年に送られてきたのは、ごく普通のURLだった。
つまり、たった今開いていたサイトは、検索結果に表示されなければいけない。――最低でも、検索結果には一件は存在しないといけない。
少年が思い付く可能性は二つ。
――このサイトはただの与太話。もしくは何かしらのサイバーウイルスを隠しており、その為、検索結果から除外された。
つまり、『死神』は存在しない、という可能性。
そしてもう一つ。
――このサイトには何かしらの細工を施されており、『死神』からの情報規制から逃れている。
つまり、『死神』が存在している、という可能性。
「……この住所、見覚えがあるような」
メール画面に戻り、住所を確認する。
そこまで思考して、少年はようやく気付く。
「……思考に、抵抗がかかって、ない」
少年は五年間、思考と同時に何かの抵抗を感じ続けていた。強制的に思考を制限するような、そんな抵抗を。――それが、今はない。
そう認識すればするほど、思考はますます軽くなる。
そして、思い出す。
「この住所、飛行場だ」
家から少し離れた場所にある飛行場。戦闘機に乗ることが出来る場所として、この辺ではかなり有名な場所だ。
少年が呟くと同時に、再びスマートフォンがメールを受信する。
一件目との相違点は一つ。差出人が、空欄ではないこと。
――差出人『死神』。
それを見ただけで、背中に『何か』冷たいモノが通った。誰かに――『死神』の標的に選ばれてしまったかのような、絶望的で、運命的な『何か』が。
選ばれたのでしょうか。
最初から決まっていたのでしょうか。