「前回までで、ある点における傾きを求める方法を手に入れたわけだ。これをもう少し拡張して他の点での傾きを求める方法は……もうやられてたね」
頷く3人。まあ、私の説明前に予習しているのはいいことだ。説明が少なくてすむ。
点 $(x, \lg x)$ とちょっとずらした点 $(x + \delta, \lg(x + \delta))$ を結んだ直線の傾きを考えればいい。
$$\begin{eqnarray}\frac{\lg(x + \delta) - \lg x}{(x + \delta) - x} &=& \frac{\lg \left( \dfrac{x + \delta}{x} \right) }{\delta}\\ &=& \frac{1}{\delta} \lg \left(1 + \dfrac{\delta}{x} \right)\\ &=& \frac{1}{x} \cdot \frac{x}{\delta} \lg \left(1 + \dfrac{\delta}{x} \right)\\ &=& \frac{1}{x} \lg \left( 1 + \frac{\delta}{x} \right)^{\frac{x}{\delta}}\\ &=& \frac{1}{x} \lg \left( 1 + \frac{\delta}{x} \right)^{\dfrac{1}{\frac{\delta}{x}}}\end{eqnarray}$$
で、ここで $\dfrac{\delta}{x}$ というのは好きだけ小さくできる数なので、 $\dfrac{1}{x}$ 以降の部分は今までやってきた $e$ と同じとなる。つまり
$$\begin{eqnarray} \lim_{\delta \to 0} \frac{\lg(x + \delta) - \lg x}{(x + \delta) - x} = \frac{1}{x} \lg e \end{eqnarray}$$
だ。さて、左辺部分のような「グラフ上のある点と、そこから少しだけずらした別の点を考えて、その二つを結ぶ直線の勾配を考えて、さらに2つの点を近づけた時に収束する勾配の値」などと何度も言うのは面倒だ。数式を使っても楽ではない。なので略記記号を作ろう。この略記記号には私のいた世界では色々な流儀があった。アイザック・ニュートンが時間微分を前提として作った記法、あるいはレオンハルト・オイラーやウィリアム・ローワン・ハミルトンにように記号として微分作用素を使うもの。ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツのように分数っぽく書くこともできるし、ジョゼフ=ルイ・ラグランジュのようにダッシュをつけてもいい。え、あの記号はプライムと読むべきだって?うるせえ二つ並んだプライムをセコンドと言わずにダプルプライムと言っているやつらに言われたくはないよ。
少し議論した結果、勾配らしく「⊿」のような右下が直角の直角二等辺三角形で表すことになった。まあ、類似の記号は使われていないらしいからいいか。*1
「はいでは次の目標。この対数を具体的な値として知りたいので、変数に対して明示的な形に変える」
よくわからないよね。はい。というか他にいい言い方がないんだよ。
例えば $x$ がわかっているとき、$x^2$ は簡単に計算できる。$x^5$ もそうだ。
つまりですよ。もし
$$\begin{eqnarray} \lg x &=& a_0 + a_1 x^1 + a_2 x^2 + \cdots + a_n x^n \\ &=& \sum_{k=0}^{n} a_k x^k \end{eqnarray}$$
と書くことができれば嬉しいですよね。
「それができないのは図を見れば明らかだろう?」
局員が言う。
「その通り。例えばこのような多項式で表せるようなグラフで $x = 0$ のことを考えれば $a_0$ を非常に小さい負の値にする必要があるし、負の値を代入してもきちんとした値が出るので、指数関数の特徴をうまく表せていない。では少しだけ、式の形を変えよう」
$$ \lg (x+1) = a_0 + a_1 x^1 + a_2 x^2 + \cdots + a_n x^n $$
「こう変えたら?そして、あくまでグラフ全体ではなく $(1,0)$ 近傍でだけの値を知りたいとしたら?」
「……少しは、可能性が出てきたように思います」
ケトが言う。
「しかし、どうやって係数を決定するのですか?」
「まあ、そこは色々あってね」
私は黒板に向かう。
式の左右が同じようなグラフを $(1,0)$ 近傍で示すのであれば、$(1,0)$ での近傍、つまりは微分した時の $x = 1$ における値は同じになるわけだ。左辺は $\lg e$であることはわかっている。では右辺はどうなるだろうか?これを示すために、準備として2つのことを考える。
1. $f(x) + g(x)$ を微分するとどうなるか?
2. $x^n$ を微分するとどうなるか?
あ、一応 $f(x)$ とか $g(x)$ は $x$ の関数で、$n$ は正の整数であるとする。あと微分は $x$ に対して行っている。まずは1。これは普通に定義の式に代入していくだけだ。
$$\begin{eqnarray}( f(x)+g(x) )' &=& \lim_{\delta \to 0} \frac{( f(x + \delta)+g(x + \delta) ) - ( f(x)+g(x) )}{(x + \delta) - x}\\ &=& \lim_{\delta \to 0} \frac{ f(x + \delta) + g(x + \delta) - f(x) - g(x)}{(x + \delta) - x}\\ &=& \lim_{\delta \to 0} \frac{ f(x + \delta) - f(x) + g(x + \delta) - g(x)}{(x + \delta) - x}\\ &=& \lim_{\delta \to 0} \frac{ f(x + \delta) - f(x)}{(x + \delta) - x} + \frac{g(x + \delta) - g(x)}{(x + \delta) - x}\\ &=& (f(x))' + (g(x))'\end{eqnarray}$$
はい。これで微分操作が線形性を持つことが示せた。次……は二項定理を使わなくちゃいけないので、今度にしよう。