足踏み式のふいごで火力を調節しながら、片側を柔らかい木栓で閉じた
「ここでうまい具合に炎を集中させ、柔らかくなった所に息を吹き込む」
何人かの視線が私の手元に向く。ちょっと緊張するな。肺に力を入れると、熱しておいた部分が餅を焼いたときのように膨らんでいく。よしよし。膨らみの付け根の大きさも狙ったとおりだ。
「ここで息を吸うと当然だけど肺腑に熱気が入って焼けるので注意。で、薄くなった部分を割る」
作業用のトレイの上で、木槌を振るうと縁が少しギザギザした状態の穴が開く。もう少し大きいなら事前に
「あとは炙って穴の縁を多少滑らかにしておいて、別の熱した管と合わせる。ちょっとふいごお願い」
圧力調整弁とかがあればいいのだがと思いながら私は脇を締めて、柔らかくとろけている部分を近づけていく。息を一瞬止めて、腕の震えを止める。
ゆっくり、手から力を抜いていく。二つの
「これで分岐管ができたわけ」
「簡単そう、ですね」
職人の一人が言う。
「お、ならやってみてよ」
私は席を立ち、
「なんで私より上手いんだよ……」
滑らかな継ぎ目を見て私は唸る。あれを見て一発で再現できるものなのか?私は失敗を繰り返して先生に手取り足取りやってもらってやっとできたというのに。
「むしろ、本職じゃないんですよね?キイ先生は」
職人が返す。
「……まあね」
確かに、私がいた時代でこんな細工ができるのは大きな大学か研究所の技師さんか、あるいは科学史の実証実験を試みる私みたいな人間しかいなかった。それに比べれば日頃から
「まあ、こういうふうに薬学で使う道具を
本当は
「というわけでこういうものを作って下さい」
私は紙を広げながら言う。滴定用のビュレット、液体移動用のホールピペット、内側に溝の入った分留用のビグリューカラム、コックの付いた分液漏斗、そしてくぼみを持つ内管と分岐のある外管の間に水を流すアリーン冷却器。私の知る基本的な化学実験器具のごく一部だ。
「薬学師の先生が使うもんはたいてい奇妙ですけど、こいつらは特に変な形ですね……」
「基本的にはこれなんかは炎酒を作るやつと同じだろ」
そんな会話をしながら職人たちは製造の算段を始めていく。よしよし。まあ私が数月がかりでぎりぎりできる範囲に抑えてあるつもりだからな。たぶんここの人たちならもう少し短くできるだろう。
「ところでキイさん、なんでいきなり
「説明は長くなるよ?」
「構いません」
「ええと、今の通信では火花を使って電磁誘導を起こしているよね」
電磁波の概念が怪しいので、「ある種の電磁誘導」ということで一応理論を作っている。
「そうですね」
「断続的な火花からもっと滑らかな電気の動きを作りたいんだけれども、それには薄い空気の環境が必要になる」
「……ええと、まだいけます。先を塞いだふいごを潰すと空気が濃くするようなことを逆にして、薄い空気を作るんですよね」
「だいたいそう。で、そのために革と木でつくるふいごではなくて水銀と
石油があれば油拡散ポンプも検討するのだが、まあ無いものをねだるべきではない。いやでもあれは単純に高沸点の油だから、樹液とかから生成できないか?第二次世界大戦下で試みられてなんかうやむやに終わった松根油生産を記憶から引っ張り出す。うーん。まあ試して見る価値はあるかもしれない。
「それはふいごなんですか?」
「今はそうとでも呼ぶしかないもの。それとその薄い空気の部分にいろいろなものを入れるから、細工技術を高めておく必要があるわけで」
「……わかりました。他に、図書庫の城邦を留守にする前にやることはありますか?」
「色々あるけど、どうして?」
「キイさんが言葉を学ぶことから逃げているように見えて」
私は曖昧な笑みを浮かべる。図星だ。いやだって東方通商語とも聖典語とも語派レベルで違うらしいので辛いのだ。一応古帝国語と文法や基礎単語が似ているらしいが私は古帝国語を知らないんだよ。